安藤物語   作:てんぞー

36 / 57
The Garnet Sky - 4

「―――俺はずっと思ってた。ただダーカーをぶっ殺すだけじゃダメだってな。それだけじゃあ俺の復讐は完遂されねェ。だけどな、いるじゃねぇかよ……ダーカー共にも親玉って奴がなァ!」

 

「それでダークファルスを倒すって考え付いたのか。それはいいけどお前馬鹿だよな、ダークファルスってアレ、何十年も前に倒されてるじゃんかよ」

 

「馬鹿はテメェだよゼノ。ダークファルスは倒されてなんかいねぇ。当時の三英雄じゃ封印するのが限界だったらしいぜ。そしてそれを封じた場所がここ、ナベリウスだ。お前ら違和感を感じたことはないのかよ。無駄に軽視されるクセに見回りの多いナベリウスという惑星、いきなり凍土へと突入する環境、そして出所不明のダーカーの存在。それは全部コイツがここで眠ってるからなんだよ」

 

 本能的にコレはヤバイ流れだと察知する。ゼノとゲッテムハルトが言い争っている間に静かにセイメイキカミを抜き、こっそりと前へと進んだゲッテムハルトへとロックをかけようとする。だがそれよりも早くゲッテムハルトの横に出現し、そして白亜のロッドを此方へと向ける存在がいた。メルフォンシーナだ。

 

「動かないでください」

 

 そう言って彼女が此方を狙っている事よりも、その手に握られているロッドの方がショックだった。何せ、その手に握られているロッドは自分が宇宙を時間を捻じ曲げながら走り回って集め、そして修復を頼んだものなのだから。

 

「おい、それ俺のクラリッサァ!!」

 

「すみません……ですがダークファルスの復活にはこれが必要なんです」

 

 そう言ってメルフォンシーナはクラリッサを引き寄せ、ゲッテムハルトの背後へと周り、それを浮かべた。

 

()()()()()()()? だったか? あのいけすかねぇ野郎はそう呼んでいたな……まぁ、こいつがあればダークファルスを呼び出す事も封印する事も、戦う事も出来るって話らしいしな。悪いが借りるぜ」

 

「おい、馬鹿、止めろ。マジ止めろ。ダークファルスってのは次元が違う生物だ。()()()()()()()()()()()()()()()、生物としてのステージが違いすぎる。マジで戦うとかそういう段階を超える生き物だから止めろ」

 

 セイメイキカミを構えれば、同じようにゲッテムハルトが拳を構えた。それを見ていたゼノが、言葉を放つ。

 

「……マジなのか?」

 

 探る様に、だけどゲッテムハルトの良心を信じたがるように、ゼノが放った言葉はあっさりと砕かれた。短い笑い声と共にゲッテムハルトの返答は返ってきた。

 

「あァ? 冗談でやる訳がねえだろゼノよォ……オラ、お前も喜べよ。ダークファルスをぶっ殺す事の出来る機会が巡ってきたんだぜ? お前だって大事な奴を亡くしてるんだろ? ダーカーの襲撃でよォ! いい機会じゃねぇか、復讐したいとは思わねぇのか?」

 

 駄目だ、と思った。少しだけゼノは困惑するが、即座に此方と同じ結論に至ったようで、ソードを抜いて構えた。もはやゲッテムハルトは主張を切り替えるつもりがないように見えるし、実際それを曲げるような事はしないだろう―――つまり、どうあがいてもぶつかるより他はない。この場で、唯一ダークファルスと相対し、そして戦った事があるから理解している。ダークファルスは生物として定義するのは間違っている。

 

 アレはもはや災害とか天災とか、そういう類の現象の様なものだ。人類で打倒する事が想定されていない。

 

 ―――それに、ゲッテムハルトが漏らした()()()()()()()()というのも気になる。明らかに入れ知恵したクソ野郎がいるように思える。それを踏まえ、

 

「ゲッテムハルトをはったおして連れ戻すぞ!」

 

「あぁ、まだちっと混乱してるけどヤベェって事だけは良く理解出来たわ。本気でいかせて貰うわ」

 

「くっくっくっく―――いい戦意じゃねぇか。オラ、シーナァ! さっさと儀式を進めろ! ……終わる前に止められればいいなぁ?」

 

 ゲッテムハルトがそう言葉を吐き、狂笑を浮かべながらナックルを構えるのを見て、一瞬で脳内を戦闘用に切り替え、迷う事無くセイメイキカミを投げる事無く、そのまま振るった。チャージして待機させておいたテクニックが発動し、空間座標を指定して発動されるテクニック―――ラ・フォイエが発動する。目標はゲッテムハルトではない、

 

 クラリッサだ。復活の儀式の為に棒立ちになっているクラリッサ、そしてメルフォンシーナを狙う様に放たれたラ・フォイエはしかし座標にて発動する前にゲッテムハルトが間に割り込み、そしてフォトンによって座標に干渉し、乱した。結果、クラリッサを破壊するはずだった一撃は見事に逸れて横の空間を爆破するに留まった。

 

「チ―――」

 

「発想は悪くねぇが賢しいテメエならそうやると思ったぜ!」

 

「意外と評価されているらしいな、良かったじゃねぇか」

 

「嬉しくなぁ―――い!」

 

 クラリッサの破壊に失敗するのと同時にソードの突進フォトンアーツ、ギルティブレイクでゼノが一気にゲッテムハルトに接近した。素早く振るわれるソードの攻撃にゲッテムハルトは片手で弾くように斜めに殴りながら踏み込み、ゼノを押し出す様に拳を叩き込んでくる。その動きに合わせ横へと此方がステップを取り、再びクラリッサを目標に捉える。一番早く、そして正確に破壊を行えるテクニックはラ・フォイエだ。故に今度はチャージする事もなく放とうとするが、

 

「おいおい、無視するのは悲しいじゃねぇかよォ、オイ」

 

 ゼノを押し出した状態から射線を重ね、テクニックを真っ直ぐ放てない様にカバーリングに入る。

 

 ―――ヤベェ、普通に強い。

 

 道中での戦いでもそうだったが、ゲッテムハルトの戦いの基本はすべてのアークスが共通して行う共通規格の戦闘スタイルを堅実に固めたものだ。その為、隙が少なく、生存性の高いスタイルとなっている。簡単に言えば崩し辛いとも表現できる。特にファイターというクラスは他のクラスと比べて足回りが強い。細かいステップが得意な為、ハンターの様な大雑把で範囲の広いガードは出来なくても、

 

 一人に集中するならば、とても堅牢な壁として立ちはだかれる。

 

「テッメ―――」

 

「おいおい、あの雑魚を守りすぎたせいで殴り方を忘れちまったか?」

 

 ゲッテムハルトがゼノを挑発する―――だがその言葉は間違ってはいない。ゼノは守りに特化しすぎている。本来の適性がハンターではない以上、特化させない限りはハンターの運用は難しかったのかもしれない。それでエコーを守る為に防御特化にして……その結果、攻撃力をロストしている。しかし、

 

 あんまり状況は良くないな、と判断する。それを理解してか、ゼノを押し出す様に拳を繰り出してから笑い声を響かせる。

 

「解るぜェ、解るぜお前の考えてる事がよォ……。光と闇はチャージが重いから使えねえ、風は軽すぎて話にならねぇ、雷はこの状況じゃ使いにくい。となると氷でこちらの動きを固めるか、炎でガード出来ないぐらいに焼き払うかの二択になってくるよなァ? ―――シーナを攻撃できるってならそれでもいいんだけどなァ!」

 

「賢いキチガイとかほんと反則」

 

 メルフォンシーナを纏めて攻撃できる程振り切れていれば―――まだ楽だったのだろうなぁ、と思う。だがゲッテムハルトの言葉は事実だ。これだから対人戦にテクニックは向かないと思う。どうあがいても接近されて詰むのだ。そう考えながらラ・フォイエを苦し紛れに放つが、ゲッテムハルトに即座にガードされる。その隙を狙ってゼノが抜けようとするが、やはりそれもゲッテムハルトが即座にカバーリングに入り、即座にゼノを押し出す。

 

 鉄壁とは言えないが、それでもゲッテムハルトの庇う動きは練度が高かった。それは()()()()()()()()()()とでも表現するべき動きだった。いや、実際そうなのだろう。そうでなければメルフォンシーナが無事じゃない。厄介だと思いながらも、頭の中で容赦のスイッチを一段階切らす。今まではしまっていたマグ・テルクゥを呼び出し、火力を増強する。

 

「ケートス―――」

 

「させるかよォ!」

 

 フォトンブラストを発動させようとすれば素早くゲッテムハルトがハートレスインパクトで接近してくる。ゼノよりも此方の方が脅威度が高いとの判断だろう。素早く此方へと殴り掛かってくるゲッテムハルトの動きに対して即座に発動をキャンセル、ミラージュエスケープで姿を一瞬だけ消失させて回避動作に入る。その姿は透過されて目視出来ない筈だが、闘争の嗅覚か、ゲッテムハルトはしっかりと逃げる此方の姿を追いかけていた。

 

 ナックルが迫る。ロッドを回転させ、パルチザンの様に振るってガードする。だがそう言う風に使う事を想定されていないロッドが衝撃を通し、体が後ろへと押し出される。舌打ちしながら衝撃を逃そうと体をズラすが、狂笑を浮かべたゲッテムハルトはそれを逃がさない様に隙の大きいフォトンアーツを使わず、そのままステップで踏み込みながら的確にテクニックを使わせまいと素殴りしてくる。非常に厄介な話だが、

 

 コイツ、かなり対人戦に慣れている。

 

「チィ!!」

 

「クハハハハ、甘ちゃんのお前なら見捨てる事は出来ねェよなァ……?」

 

 舌打ちしながらゼノがカバーに入る為に接近し、ソードを割り込ませて来る。ありがたい話ではあるが、クラリッサの破壊に走って貰った方が遥かに助かった。だがゼノの性格上、それは仕方がないと諦めるしかなかった。だがゼノが来たおかげで一発、テクニックを差し込むだけの余裕が出来た。ゲッテムハルトは片腕でソードを殴り払いつつ、片目を常に此方へと向けている。どんなテクニックでも対処してみせる、という意識の現れだ。だったら、

 

「こいつでどうだ―――!」

 

 後ろへとバックステップ、跳躍する様に距離を取りながら真正面、メルフォンシーナを射線から外すように、クラリッサだけを狙う様に斜めにテクニックをぶち込めるように移動し、片手に炎を、もう片手に闇を集める。最短でチャージ作業を完了させ、そのまま、持っているフォトンを注ぎ込んで一気にそれを融合させて叩きだす。

 

「フォメル、ギオンッ―――!」

 

「隠し玉を持ってたかテメェッ!」

 

 素早くゼノを殴り飛ばしたゲッテムハルトが体をクラリッサとフォメルギオンの間へと投げ出し、両腕を交差させる様にナックルでフォメルギオンを止める為のガードに入った。それを見た瞬間、

 

全力全壊(フォトンフレア)ってなぁ!」

 

「ガッ―――」

 

「ゲッテムハルト様!」

 

 瞬間的に強化されたフォメルギオンの波動がゲッテムハルトを殴り飛ばし、クラリッサに直撃する。闇と炎の属性が白いその姿を穢そうとして―――その体に触れる前に、まるで分解される様にフォトンへと変換され、そして消え去った。呆然としながら着地し、止めようのないクラリッサの姿へと視線を向けた。

 

「嘘……だろ……?」

 

「……どうやら俺の勝ちの様だなァ?」

 

「クソ、ゲッテムハルトお前!」

 

 勝ち誇るゲッテムハルトの横で、フォメルギオンを傷一つ負う事無く乗り切ったクラリッサは回転を始める。それに合わせる様に一気にダークフォトン、ダーカー因子が加速的に上がり始めて行く。もはや流れは止められない。

 

 未だかつて感じたことがないレベルでのダークフォトンの高まり、そしてその奔流がクラリッサを通してメルフォンシーナへと注ぎ込まれて行く。その姿を見て狂喜するゲッテムハルトが笑い声を響かせる。

 

「復活だ! 復活しやがるぞ、ダークファルスがなァ! ぶっ殺す! ぶっ殺してやる! この時をずっと待ってたんだからよォ!」

 

「ゲッテムハルト……お前、本当に救えないな……」

 

「憐れんでる場合じゃねぇぞゼノ! オイ! クソ、ネタでも挟みたいのに余裕がねぇなぁ!」

 

 クラリッサを妨害できないかと再びラ・フォイエを放つ―――が、クラリッサが再びそれを無効化し、ダークファルスの復活へと向けたダークフォトンの高まりは加速する。それはメルフォンシーナへと注ぎ込まれ―――一気に急転する。

 

 メルフォンシーナを器に注ぎ込まれるはずだったダークフォトン、ダーカー因子は一気にその矛先を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてそのままゲッテムハルトを飲み込み、凄まじい奔流でその姿を包んだ。

 

「がッ!? テメェ、ふざけるな! 俺を依代にするつもりかァ!? ぶっ殺す! ぶっ殺してやるぞ! ダァァ―――カァァ―――!!」

 

 メルフォンシーナが倒れる。だがダークフォトンの集中は止まらない。転送妨害に通信妨害が発生し、もはや自分にも、ゼノにも、出来る事は何一つとして存在しなかった。




 最初の絶望がそうやって出現する。仮にも創世器、簡単にぶっ壊せるわけないだろ? という事で。

 次回、クソゲー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。