安藤物語   作:てんぞー

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The Garnet Sky - 6

 短く意識を失っていたのだと気づかされる。目を開きながら世界を認識し始めれば、見えて来るの鋼の天井だった。多少のだるさは感じるが、それでもそこまで痛みはない。上半身を持ち上げれば、自分がマイシップ内の壁に寄りかかる様に座っていた事を認識し、その正面、反対側、連絡を取る様にホロウィンドウを広げる黒いハートブレイカー姿のポニーテールの少女を見た。えーと、なんだっけか、と微妙に混濁する意識で考え、血が足りねぇ、と結論し、そしてあぁ、と呟く。

 

「サラちゃんか……」

 

「あ、起きた? ボロボロだったから無理矢理マイシップまで引きずってきたけど大丈夫?」

 

 どうだろうなぁ、と呟きながら体を起き上がらせる。関節がベキボキ、と音を鳴らしながら体が持ち上がる。そうやって確認する自分の姿はありていに言って酷いありさまだった。服はぼろぼろで、乾いた血が顔や服に張り付いており、戦場帰りだと言われても信じられるような姿になっている。だが倒れる前、意識を失う前に感じていた死にそうな感覚はなかった。見れば簡易的にではあるが、包帯が巻かれていた。

 

「出来る範囲で応急処置は施したんだけど大丈夫だったかしら?」

 

「いや、超助かる。ぶっちゃけ一回死んだ感覚はあったからな、だけどそれよりも―――」

 

「あぁ、うん。なんとなく言いたいことは解るから後ろ、見るといいわよ」

 

 サラが背後へと指差してくるので、其方へと視線を向ける。その先にあるのはマイシップの窓であり、宇宙空間が見える。その先に広がっているのは惑星ナベリウスの姿で、そして竜巻がナベリウスの地表を喰らい、纏めあがりながら一つの巨大な姿を生み出してゆく姿だった。宇宙へと近づけば近づく程紫色に染まって行く甲殻の様な姿は見方を変えれば鱗の様にも、そしてダーカーの姿の様にさえ見える。

 

「アークスシップからアークス全体に緊急連絡が入ったわ―――ダークファルス【巨躯】の封印が解除された、蘇った、ってね」

 

「夢でしたー! ……って訳にもいかない、か……サラちゃん、俺以外には―――」

 

「私が見つけられたのはすまないけど貴女だけよ、ごめんなさい」

 

「いや、いいんだ。俺が生き残ったって事はあの二人もきっと生き残ってる可能性があるさ―――」

 

 そうじゃなければシオンを殴ってでもマターボードを生成させて、殺してでも救いに行けばいいのだ。ハッピーエンドである事を絶対に諦めない、それが安藤である証明なのだから。だからふぅ、と息を吐いて、まだ痛む体を安らげる為にも床に座り込み、そして新しくトリメイトを取り出してそれを飲む。傷ついた体に回復薬が染み込み、細胞を再生させて行くのが解る。果たしてこんな生活を続けてたら寿命はどれぐらいになるのだろうか。

 

 そう思った直後、マイシップがワープに突入し、ナベリウスから離れて一気にアークスシップの停泊している宙域へと離脱した。どうやらダークファルスの妨害範囲から脱出したらしい。これで一応はダークファルスから離れる事は出来たが―――これで終わりという訳ではあるまい。

 

 あのダークファルスの事だ、まず、間違いなくアークスシップを狙ってくる。

 

「……大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫―――うん、大丈夫。ただアレはぶち殺す」

 

「大丈夫じゃなさそう……」

 

 それだけは心に誓っていた事だった。絶対にぶち殺す。許さない、お前の存在その物を否定しやる。まさかここまで殺意をたった一つの対象に対して向けることが出来るなんて、いままでは思いもしなかった。ある意味新しい世界観を開いたような感覚だった。そんな此方の様子を心配してサラは視線を向けて来るが、サムズアップを向けて力瘤を見せている間にマイシップはあっさりとアークスシップへと帰還を果たす。ふぅ、と息を吐きながら先に出口を目指す。

 

「ありがと、そんじゃ」

 

「あ……うん……」

 

 サラに振り返る事無く手を振りながらそのままマイシップのテレポーターに入り込み、転送光と共にアークスシップへと帰還する。そうやって帰還したアークスシップは慌ただしくアークスや職員たちが走り回る姿が見えていた。

 

『―――ウスにてダークファルス【巨躯】の存在を確認、現在巨大化しながらゆっくりと此方へと向かっ―――』

 

 最後まで鳴り響くアナウンスに耳を傾ける事無く、さて、と呟く。口の中が若干ムカムカする。軽く唾を口の中で纏めて吐き出してみればまだ血が出てた。それを見てまず、最初にやる事を決めた。ゆっくりと、アークスロビー横の転送装置に入り込んで移動先を指定する。一瞬の転送を終わらせて到着するのは既に何度も訪れたことのある場所、

 

 フードコートだ。ダークファルスの出現を受けてか、閑古鳥が鳴きそうな勢いで閑散としており、店主達やバイトの姿以外には誰の姿も見えなくなっていた。軽く辺りを見渡せば、懐かしいラーメン屋の様な屋台を発見する。軽く匂いを嗅げば、やはりそこからはラーメンの匂いがする。こういう文化はどこから来ているのだろうかなぁ、と思いつつ、

 

 暖簾を潜り、木のベンチに座る。

 

「いらっしゃ―――おいおい、姉ちゃん、ボロボロだぞ。メシ食う前に一旦部屋に戻った方がいいぞ……?」

 

 店主の心配する様な言葉を無視し、壁に飾ってあるメニューを確認し、口を開く。

 

「ラーメン大盛りで。あとギョーザ二皿。チャーハン大盛りで」

 

「お、おう……大丈夫か……? 色んな意味で」

 

 いいからはよメシを寄越せ、と視線で訴えれば、店主とバイトの子が不承不承ながらオーダー通りの物を用意し始める。進んだオラクルの科学技術の恩恵もあって、ラーメンの前にギョーザの方が出来上がり、二皿一気に目の前に並ぶ。それに軽く醤油をぶっかけ、箸で三個纏めて掴んで口の中へと放り込み、ほとんど飲み込むような形で食べ、そのペースのまま二皿を空にする。

 

「ギョーザ三皿追加で。あともうちょい血が付きそうな感じでよろしく頼むわ」

 

 その言葉にギョっとした表情を店主が浮かべた。そして空になった皿へと視線を向け、そして小さく、呟いた。

 

「へへへ……―――魔物がきやがったな……! おい、本腰を入れろ。俺達じゃ手が足りないかもしれないぞ!」

 

「は、はいオヤジ! が、頑張ります! という訳でチャーハンお待ちしました!」

 

 目の前に大盛りのチャーハンが置かれる。そこにレンゲを二つ持ち出し、それをブルドーザーの様に口の中へと流し込んで行けば、直ぐにラーメンがやってくる。チャーハンを口の中に流し込んでから食べ終わったらその皿を横に放置し、ラーメンを口の中に注ぎ込む。はふはふ、とスープと麺の熱さに格闘しつつ、片方のレンゲを箸へと持ち替え、ギョーザにやったように一気に掴んでそれを口の中へと流し込む。普段は全く食べない量、ギャグとしか表現のしようのない量なのだが、今日に限っては過剰どころか足りないと断言するレベルだった。

 

 新しくやってきたギョーザを口の中に叩き込みながら、肉体が血液を求めているのを感じた。だがそれ以上に肉体がダークファルスの一撃によって急速に失い、そしてトリメイトなどによって一時的に補填したフォトンを完全に補充する為に、食事を求めていた。所詮はレスタもトリメイトも応急処置、その場での回復でしかない。時間が経過すれば一時的に補給したフォトンは薄れる。その場をしのぐ事は出来る。だが今、あの時補充した分と、自然回復だけではどうにもフォトンが足りず、血液が足りない。

 

 だから体が肉を求めていた。

 

 ―――故に食う。

 

 冗談としか思えない勢い、量を口の中に叩き込んで行く。やがて此方の食べるペースが屋台のキャパシティを上回ってきたのか、横からカレーライスが投げ込まれてきた。視線をそちらへと向ければ、ラッピーの着ぐるみをしたどっかの店の店主がサムズアップを向けており、それを蹴り飛ばしながらやってきたリリーパがステーキを運んできた。運ばれてきたそれを目の前に置き、片手にスプーンを、もう片手にフォークを装備し、その亜種二刀流で二つを同時に口の中へと運んでゆき、飲み込むように食べていく。

 

「増援だ! 増援を呼べ! 鍋が空になっちまった!」

 

「フードコートの魔王の誕生だなこれは……!」

 

「うるせぇ、肉を寄越せ、肉を。特にレバー」

 

「ヒャア! 金蔓だぁ―――!」

 

 目の前にどんどん運ばれてくる料理を一方的に、ほとんど作業的に平らげながら、少しずつだが自分の体の中に血が巡り始めるのと、フォトンが戻り始めるのを感じる。それでも食べる事はやめずに、食べ終わった料理の皿を横へとタワーを創る様に重ねて行く。ドンドンと積み重なってタワーを形成して行く中でも、まだ肉体がフォトンを求めているのを感じた。それが原因なのか、食べても食べてもフォトンへと分解、還元されて行く感覚ばかりでまるで腹に溜まるような気がしない。これは後日太りそうだなぁ、なんて事を考えながらも食べる事だけは止められなかった。

 

「な、なんて女だ……からあげを口に入れたらレモンに齧りついてやがる……!」

 

「それよりも今スパゲティを一皿丸ごとフォーク二本で纏めて一口で食ったぞ」

 

「もはや液体系と麺類は一口で終わらせるペースだな」

 

 体の中にフォトンが満ちて来ると大分速度が上がってくる。体に引っかかっていた倦怠感もなくなって行き、だるさや痛みというものが引いて行く。その代わりに体の芯から活力を感じはじめ、ここらへんで漸く料理の味が分かり始める。既に自分の周りには空になったどんぶりやボウル、皿によるタワーが完成されており、投げる様にその上に空になったのを重ね、タワーを完成させる。

 

 そして、目の前にあったハンバーグを口の中へと押し込んでからコップの中の水を飲みほし、それを台に叩き付ける。

 

「ごちそうさまぁ―――! げふぅー」

 

 ふぅ、息を吐きながら腹を撫でる―――と言ってもその大半がフォトンに還元されてしまっている為、そこまでお腹いっぱい、という感覚はないのだが。ただ周りには死屍累々とした姿が並んでいる為、これ以上は食べない方がいいだろうなぁ、というのと活力の回復は果たしたから、という判断から食べ終わったのだ。

 

 それに何より、

 

「―――探したぞ」

 

「ちーっす」

 

 軽く体を捻りながら後ろへと視線を向ければ、そこにはヒーローズクォーターの―――いや、六芒均衡の中で最も有名であり、精力的に活動している男、ヒューイの姿が見えた。その視線は周りの死屍累々とした店主達の姿から此方へと向けられた。

 

「かなり食べたようだな」

 

「体内の血とフォトン全部吐き出しましたからなぁー。いやぁ、ダークファルスってマジ次元が違いますわ」

 

「となると君は本当にダークファルスと一戦を繰り広げ、生き延びたという事なんだな」

 

「いえーす」

 

 サムズアップをヒューイへと向ける。だが此方の様にふざけるような様子をヒューイは見せない。珍しく素でもない、ガチの様子だった。それだけに今回の、ダークファルスの襲撃という事に対して真剣に向き合っているのだろうとは解る。

 

「単刀直入に聞こう、どう思う?」

 

 そうですなぁ、と言葉を置く。

 

「どう、と言われても、まぁ、曖昧すぎて判断しづらい感じですけど。まぁ、ダークファルスを倒せるの? って質問でしたらまず間違いなくノー、としか答えられませんわ。アレは生物で対抗する事を想定した様な存在じゃありませんわ、いや、マジで。殴られてそれで即死しましたもん。スケドあってもそれで追いつかないもんだからマジでヤバイって」

 

 だからと言って、

 

「このままアークスシップで迎撃に回って、まぁ、十中八九シップ沈められるかなぁ、って。主砲って奴のデータ前見ましたけど、アレでもたぶん無理っすな。たぶん惑星を問答無用で吹っ飛ばすような火力がなければ無理かなぁ、って。まぁ、それにしたってそのクラスを浄化するだけのフォトンがなきゃ再復活しそうですけどなぁ!」

 

 げらげらと笑う。アレは無理だ。不可能だ。専用のメタ対策、そっれも理不尽で概念的なレベルの物を用意しないとどうにもならない。そういう類の生物だった。創世器があればダメージは通ると楽観してもいられない。創世器さえあれば勝てるんじゃないか? と考えていた自分が馬鹿らしい話だ。ほんと、もうそういう風に油断しない―――絶対にだ。

 

「君のフォトンはだけど自信満々に輝いている―――それこそもう負けない、と言わんばかり」

 

 然り、と頷く。

 

「ダークファルスを倒す事は()()()()()()()()()()()()()()()―――これ、たぶんあの場にいた俺だからこそ解る事なんですよねー。という訳で、ヒューイさんや」

 

 ヒューイと、そして周りの視線を集め、考えを整理する時間を与える為に一拍間を置いてから続きを話す。

 

「―――決戦って言葉には素敵すぎる響きを感じません?」

 

 その後告げる考えと、そして内容に、ヒューイは言葉を失った。




 ガーネットスカイ。つまり緋色の空。壊世区域の空の色は……まぁ、どっちかというとピンクなんだけど。という訳で大食いは気合いを入れる為の儀式とか言いつつ次回、

 お風呂回!
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