―――髪型を変える。
ツートーン色設定が可能なRINAヘアーへと髪型を変更すれば、即座に変更が採用され、白髪に毛先が赤く変化するグラデーションのかかったセミロングヘアーへと髪型が変わる。それに合わせ服も着替える。アイエフブランドとは全く違う、未来的な意図の服装、全身が白く、そこに黒と金によるラインと装飾の入った服装、複雑なつくりをしており、細かい複数のパーツに分かれている為、普通に着ることの難しい衣装だ。自動装着機能で装備をセットする様に装着すれば、フォトンの光と共に下着姿から選んだ服装に包まれる。
SFと獣を融合した、露出が少な目の衣装、胸元が僅かに開いており、スカートというよりは前垂れと後ろ垂れで股間部を隠している。頭には最後に服装のイメージ元となった獣を象徴する様に狐耳のギアパーツを頭へと装着し、今回ばかりはボロボロになってほとんど布きれ状態となってしまったヒーローマフラーを外し、着替えを完了する。ヴァリアントヴィクセン、セットとなるヘッドギア、そして髪型はツートーン対応のRINAヘアー。ヴァリアントヴィクセン自体が装飾が多く、尻尾の様なマフラーパーツが複数存在する為、これ以上のアクセサリーの類は必要としない。
これで着替えは完了する。リビングの壁へと向かい、壁に飾ってある一本のカタナへと視線を向ける。金の装飾が施された黒に蒼い絵柄の鞘、鍔も金で、柄の持ち手には蒼い布が巻かれてある、美しい芸術品の様なカタナだ。壁にかかっているそれを手に取り、刃を鞘から抜けば花の絵柄が刀身に描かれているのが見える。
「―――力を借りるぜ
クーナとハドレッドの戦いの結末、ハドレッドはクーナによって送られた後に残されていたものがこのカタナだったらしい。ファイタークラスであるクーナはカタナを使えず、そしてこれはおそらく自分の為に残されたものだと言ってクーナはこれを、ハドレッドの形見をくれた。確かに、スサノショウハはクローム・ドラゴンが落とす星11武器であり、汎用カタナとしては高ランクの逸品である。何より
だがブレイバーが存在しないこの状況、ハンターでのカタナフォトンアーツが使用可能とされている状況で、ハンターでも装備できるカタナを入手できたのはもはや運命さえ感じられる事だった。或いはこれはハドレッドが引き寄せた運命への抵抗なのかもしれない、と、自分ではそう判断する事にした。
レギアスが出したハンターでのカタナのフォトンアーツ使用許可――使用制限解除とは、ある種無理矢理な行動でもある。それぞれのクラスでフォトンアーツが制限されるのは武器内臓のフォトンリアクター、アークスのクラス別フォトン波長、それらの相性を考慮し、アークスに対して負担をかけない為の処理だ。無論、それを解除すればチャレンジャーの様にあらゆる制限を無視してすべてのテクニックやフォトンアーツを行使する事だってできる。だがそれは肉体の耐えられる範疇ではなく、
大幅な体力の低下、フォトン出力の低下、そういうデメリットが付きまとう。
そんな状況で、ハンタークラスに適合するモノが狙わずに、転がり込むように入手できたのだ―――やはり、運命を感じずにはいられない。
「なぁ、どうなんだろうな……ハドレッド?」
スサノショウハを腰の裏に装着し、
ユニット、クラフトされたサイキシリーズが装着されているのを確認し、全ての準備を完了させる。スケープドールの補充はこの状況では無理だったため、ハーフドールしかもう手元にはない。持ち込めるバフアイテムを全て
武器、ユニット、アイテム、その全てが完了され、時間も少しずつだが迫っている。リビングルームの中央で立ち尽くし、軽く息を吐く―――何時からこんなにも簡単に恐怖を克服することが出来る様になったのだろうか。はたして何時からこんなにも情熱を燃やすことが出来るようになったのだろうか。はたして何時から―――こんなにも、誰かを強く守りたいと思えるようになったのだろうか。不思議だ、不思議な気分だ―――だが悪くはない。
振り返り、片手で緩く敬礼をしながら笑みをマトイへと向ける。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
くるり、とそのまま回転して正面へと向き直り、振り返る事無くそのままマイルームの外へと、アークスロビーへと向かう為に転送装置に乗り込む。
アークスロビーはかつてない程忙しい姿を見せていた。カウンターの前では多くのアークスが出撃の為にオーダー受け取って出撃し、オラクル船団全体の統率と防備の為に走り回っていた。それを横目にクラスカウンターでさっくりとクラスの変更とスキルツリーの変更を行い、決戦に向けての最後の準備を終わらせる。それを終えて振り返り、クラスカウンター前の待機エリア、円状に設置されているベンチの方へと視線を向ければ、そこには腰に創世器である破拳ワルフラーンを待機させたヒューイの姿を見て。此方同様、ヒューイも肩の上にマグを浮かばせている辺り、戦闘に対して本気で準備をしてきた、というのが見える。片手を上げて挨拶すれば、向こうも手を上げて挨拶を返してくる。
「カタナか……レギアスが使っているのを見るが、他のアークスが使うのを見るのは初めてだな」
「こいつでなきゃ本気が出せないから早い所カタナ専用のクラスを実装して欲しい所で」
「中々難しい話だな。クラスとして実装するには実績と需要が必要になってくるからな……まぁ、今回君が頑張って成果を出すことが出来れば、それが評価されてカタナを扱うクラスが広まったりするかもしれないな」
そこまで行ったところで、ヒューイが此方を見た―――というより服装を認識したのだろう。
「普段はもっと違う服装だった気がするが……着替えて気合いを入れ直した、という事か」
「これが決戦用の服装って事なんで」
ヴァリアントヴィクセンはお気に入りの衣装だ。マグの見た目をテルクゥに設定しているのを見れば解るかもしれないが、狐系のキャラは割と好きなのだ。ヴァリアントヴィクセンという衣装は狐とSFを融合した様な衣装である上に、必要以上の露出を行わない、非常にファッショナブルな衣装だと思っている。動いていて栄えるというのも理由の一つだが、気合いを入れる時は大体この衣装で暴れまわっているのが自分の趣味だ―――実装直後のボスとかイベントはこれで乗り込んでいたのが懐かしいなぁ、と思い出していると、此方へと歩いて近づいてくる集団が見えて来る。
「おーい、こっちこっちー」
「ん? 彼らが君が勧めた―――」
近寄ってくるアークス達の姿を見て、ヒューイが動きを完全に停止する。その姿を無視しながら近づいてきたアークス達とハイタッチを決める。軽くスキャンを行えば解るが、
自分とヒューイを含め、ここに十二人のアークスが揃った。なので、まず全員揃ったところで、
「イエーイ! 諸君ダークファルスぶっ殺したいー?」
声を放った。それに反応して全員が顔を合わせ、
「ぶっ殺してぇ―――!!」
咆哮の様な声がアークスロビーに響いた。良し、いい感じだなこれ、と思いながらおいマテ、との声が横からする。其方へと視線を向ければやはりヒューイがいる。
「なんだこれは」
「【巨躯】戦に呼んだマイ・フレンズ」
「マテ、アレはなんだ」
ヒューイがそう言って一人目に指をさす。その先にいるのはカテドラルヴェールを装着した、顔がブラックホールの様な、おそらく生物学上は女性キャストとして表現するブルマ姿のアークスだった。未だに自分でも自信が持てないが、多分彼女はアークスだ。
「アイリさん」
「Eトラトラトラトラトラトラ」
「発狂してないか?」
「割といつもの事です」
二人で微妙に揺れながらEトラと無限に発言し続けるアイリを数秒間眺め続けてから、ヒューイから疲れたような声が出て来る。
「えぇ……」
「じゃあ続けてマイ・フレンズの自己紹介に回りましょうか。フードコートで拳がいい感じだったんでスカウトしたラッピーくんとリリーパくん」
「ラッピーとかいうクソ鳥死なないかなぁ……りー」
「リリーパという宇宙の害虫をダークファルスを殺すついでに始末できると聞いて」
「その二人のトモダチのニャウくん」
「リリーパもダーカーもラッピーも所詮は劣等種ニャウ。この宇宙の真の優勢種はニャウと決まっているんだニャウ」
その言葉にリリーパが笑い、ラッピーが唾を吐き捨てた。反応する様にニャウがガンを二人へと送り、それを傍で見てたトナカイスーツが全体へと向けて両手を持ち上げて中指を突き立てた。
「あの中指突き立ててる素敵なトナカイスーツが黒雪くんで、その横にいるカイ・レプカの子がおそらく連れてきた面子の中で一番まともなイオンちゃん。あそこで
「着ぐるみ勢が殴り合いを始めているがいいのか?」
「うん」
リリーパスーツがニャウスーツを後ろから羽交い絞めにし、ラッピースーツがニャウの腹に執拗にボディブローを叩き込み始めた。ニャウスーツの口からリアルに嗚咽が聞こえ始めるが、それでもラッピーもリリーパも動きを止めず、そのままニャウから完全に力が消え去ったところで解放し、床に倒した。それを見ていたアイリがムーンアトマイザーをニャウの口の中へと押し込み、起き上がってきたニャウをラッピーとリリーパが二人掛かりで再びイジメ始める。
「劣等種が止めろニャル! 劣等種がニャウ! 劣等種の分際でニャウ!」
「りー!」
「きゅいきゅい!」
「声だけは可愛いのになんだこの地獄絵図は」
ヒューイがそんな事を言っている間に再びニャウが蘇生の必要な状態に突入したが、当然のムーンアトマイザーが投入された。ニャウの無限地獄はまだ終わらないらしい。ヒューイがこの世の地獄を目撃してしまったような表情を浮かべているので、彼の代わりに作戦を説明する。
「えー、ヒューイさんがメンタル・リセットを必要としているので司会と進行を担当させて貰うアキナさんです。どうぞよろしくお願いします」
「わぁーい!」
拍手と喝采が返ってくる。ありがとう、ありがとう、と返答しながら頭を下げ、
「えー……これから君達はダークファルス【巨躯】と戦ってもらいます。ここにいる十二人はその決戦に挑む面子です」
ヒューイ曰く、動ける六芒均衡はヒューイのみだったらしいので、ヒューイ以外は全員、普通のアークスだ。普通と言ってもキリングスコアが最上位に突入していたり、異常に恐怖を感じなかったり、サイコパス一歩手前の、そういうキチガイアークスばかりだ。
キチガオ・オブ・キチガイ、アークスキチガイ代表、ここにいる連中は色んな意味でそういう連中ばかりだ。
「えー、話し合った結果、”迎撃に回ったらシップ沈むわ”って発覚したので、”沈む前にぶっ殺しにいかね?”って発想に至りました。ですが、ダーカー反応が強すぎて僕らダークファルスの前まで転送できません!!」
ダーカー反応が強いと通信、転送等の機能が大幅に制限される。それがダークファルスなんていう凶悪な存在になると、文字通り制限ではなく封印レベルとなってくる。その為、ダークファルスに決戦を挑みたければアークスシップを沈められる覚悟で迎撃に回らなくてはならない。だがそれでは被害が多すぎる。ならどうするべきか?
答えは簡単である。
此方から出向けばいいのだ。
物理的に。
というかそうじゃない限り
「えー、これから皆さんは
カイ・レプカの少女、イオンの手が上げられる。
「はーい、帰り道はどうなるんですか?」
「ない。殺さなきゃない。殺すか撃退したら帰れます。みなさん、残業を覚悟しましょう」
アルワズが手を上げた。
「はい、そこの箱」
「アークス本営からの支援はあるのか?」
「後方で俺達以外のアークスが全員迎撃に出撃するからそれ以外はない」
ヒューイが連れて来たであろうアークスが手を上げた。
「はい、そこ」
「ニャウが泡を吹いてるんだが」
「ムーン口に突っ込んどいて。他に質問は? ない? マジで? ならばよろしい、君らは栄えあるエリート
咆哮の様な声が返ってきた。ピクリとも動かないニャウの事がやや心配だが、なぁに、プラットフォームに投げ込めば嫌でも動き出すだろう―――生存本能で。
「それでは諸君、出撃だ! 特攻野郎Aチーム出撃ィ!」
ヒャッハー、と叫びながら皆でゲートへと向かい始める中、一人だけ残ったヒューイを見る為に振り返れば胃を押さえながら呟く姿が見れた。
「本当に勝てるかどうかいい感じに怪しくなってきたな……!」
前回シリアスだったのでその反動で。
イカレた協力者を紹介するぜ!! というお話。一部キャラクターは現役安藤にご協力いただきました、本番はたぶん次回からだけど。
次回、真打・アークマの野望。それとは別にエルダー戦BGMかそんな感じのを次回は推奨。