安藤物語   作:てんぞー

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Interlude
Resting In Green - 1


 ―――スサノショウハの刃を抜いた。

 

 アサギリレンダンで高速接近し、動きをキャンセルしながらツキミサザンカで斬撃を飛び上がりながら食らわし、頂点に達した所でカンランキキョウによる360度、八方への回転斬撃を放つ。正面、ロックベアの弱点である顔面をそれで削りながら素早くサクラエンドを追撃で繰り出し、削った顔面を完全にバツの字に抉り、トドメにゲッケザクロを繰り出して急降下と共にバツの字に縦一閃の斬撃を追加し、着地と共に再びカンランキキョウを繰り出す―――円状の斬撃が繰り出される動きと共に、集まっていたウーダンが一掃される。

 

『あららら、これも突破されちゃいますかー。レベルあげてるんですけどね』

 

『カタナは私の方が長く使っているんだけどなー……』

 

『ではでは、これはどうでしょうかー?』

 

『アレ、それ、数字おかしくない?』

 

 サイレンの音が鳴り響くのと同時に広い、平坦なフィールドが点滅し始める。虚空からうっすらとナベリウス森林の鳥形エネミー、アギニスが飛翔する様に登場し、フィールド外からファングパンサーとファングバンシーの二体の夫婦豹が出現する。点滅する床はマス状に区分けされており、それによって点滅する床では電撃が流れている。なるほど、触れてしまえば確かに感電するだろう。痛いのではなく、辛い―――動きを止められる事が。

 

『さて、どうしますかー?』

 

 答えは簡単だ―――着地しなければいいだけだ。

 

 ファング夫妻が低く声を唸らせながら警戒してくるが、そんな事もお構いなしに接近してくるのが雑魚のアギニスだ。それを利用させてもらい、前へと向かって跳躍し、アギニスと高度を合わせてからグレンテッセンによる裏周りと斬撃でアギニスを横に一閃する。そうやって真っ二つに裂かれたアギニスの姿を見送りながら再びグレンテッセンで影となり、一瞬ですれ違いながらグレンテッセンを素早く叩き込んで、

 

『うわ、空から落ちずに戦ってるよあの子』

 

「これぞ奥義、八艘()()―――なんつってな」

 

 やっている事はファルス・アーム相手にやった事を着地せず繰り返すだけだ。アギニスの間の距離が短い為、グレンテッセンによる斬撃の反動、そして込められるフォトンの量だけで十分に空中を移動する事が出来る。その為、一回も足を地につける必要なんて存在せず、動作のキャンセルを含めて連撃すれば、もはや疾走しながら斬撃を繰り出しているという状況に近い。それほどまでにグレンテッセンというフォトンアーツは単純に()()()()()()()のだ。故に空に浮かび上がっていた、飛翔していたアギニス計八体、その全てがグレンテッセンの餌食となって床に落ちて消える。だがそこからそのままファング夫妻へと刀で接近せず、スサノショウハを鞘の中に納刀しつつ腰裏へと戻し、

 

 黒と紫色の、ハンドバッグの様な形をした金属を代わりに握る。

 

「起きろ()()()()()

 

 刀匠ジグがたった一人の為に作った専用の武器、ファーレンシリーズ。創世器の様なぶっ飛んだ能力はない。だがそれでも明菜というアークスの為だけに生み出された専用のシリーズ武器。ハンドバッグ型の格納姿から展開され、紫色の半透明のフォトンウィングが展開、強弓(バレットボウ)、ファーレンフレインがその姿を展開した。ゲーム環境では最終的に性能は微妙の一言で纏められたファーレンシリーズ。入門用と言われ、サイキシリーズを入手すればもう必要がないともされていた。だがそれは誤りだ。

 

 馴染む―――手に物凄く良く馴染む。水平に構え、グリップを握る手がブレず、滑らない。弦を引こうとする指に弦が吸い付き、それを引く動作にストレスを一切感じない。ゼロからのオーダーメイド。アキナというアークスの為だけに作ったセット運用を想定した武装。それがファーレンシリーズ。ジグは創世器のメンテナンスを何度もしていると言ったし、構造を完全ではないが理解しつつあるとも言っていた。だから創世器に近いものを将来生み出せるようになるとも言っていた。それを断言できるオラクル最高の刀匠が大衆の為ではなく、たった一人の為に心血を注いで生み出したのがこれ、ファーレンシリーズだ。

 

 弱い訳がない。動作一つ一つが洗練されて行く様な感触を覚える。爪弾きチェイスアローを放った虚空に矢を格納しつつ素早くフォトンを矢と体と共に射出、矢による加速を体に与え、体を射出する。カミカゼアロー、そのフォトンアーツで弓そのものをファングバンサーの頭に突き刺し、蹴り飛ばす様に体を打ち上げる。直後、ファングバンシーが此方を狙って前足を振るってくる。それに合わせ格納された一発のチェイスアローが発動、振り払おうとしたファングバンシーの前足をチェイスアローが穿った。

 

 瞬間、素早くスサノショウハへと武器を切り替え、ゲッカザクロで降下しながら斬撃を繰り出し、グレンテッセンで背後へと移動しながらファングバンサーの後ろ足を両方とも同時に破壊する。その衝撃にファングバンサーが動きを止めた瞬間に武器をファーレンフレインへと帰還させ、チェイスアローを爪弾きで三連射、最大の状態まで格納させた所で弓を引き、此方へと跳びかかってくるファングバンシーの顔面に一撃、フォトンの矢を叩き込んだ。

 

「グルッ!?」

 

 だがダメージはない。それにファングバンシーがやや驚いたような表情をしながらそのまま跳びかかってくる。その動きを素早くスサノショウハを手元へと引き寄せながらジャストガードによって防御し、カウンターで斬撃を衝撃波と共に返し、それで前足を両方とも貫通する様に破壊し、一瞬だけファングバンシーの動きを停止させる。ファングバンサーが後ろ脚をやや引きずりながら振り返ったところで遅い。

 

 ファーレンフレインへと武器を切り替えながら蹴りで上昇し、間髪入れずにラストネメシス―――超強力な一矢を叩き込んだ。ファングバンシーの顔面へと格納されていたチェイスアローが追い付くように命中し、カタナでのカウンターから始まった一連のダメージに顔面の矢が―――バニッシュアローが限界を超えた。

 

 ―――膨れ上がったバニッシュアローが弾けるのと同時に蓄積された衝撃を再現する。

 

 全く同じダメージが繰り返されたファングバンシーはただダメージを再現されたのではない。一連の攻撃を軽減される事無く()()()()()()()受けた。それがバニッシュアローというフォトンアーツの性質。一撃一撃は弱くとも、それを束ねれば強力になるという事例を体現したフォトンアーツ―――ただし、今回はそれぞれが高威力であった。そしてそれを全く同じタイミング、融合して放てばどうなるのか?

 

 消し飛んだファングバンシーの頭が全ての答えだった。流石にファングバンサーも番の頭がはじけ飛ぶ姿を目撃するのは初めてだったのか、こっちへと振り返ったところで完全に動きを停止してしまった。その瞬間に着地するまでもなくバニッシュアロウを爪弾きで素早く放ち、そのままカミカゼアロウで接近、強力な弓による一撃を加えてからスサノショウハへ、やや後ろへと体を蹴りだしつつ居合を鞘から滑らせ、ハトウリンドウを放った。真正面に放たれた斬撃にバニッシュアロウが反応、カミカゼアロウとその威力を融合させて破裂、ファングバンシー程ではないがその頭が消し飛んだ。

 

 スサノショウハを一回転させながら納刀し、腰の裏へと収納する。再びファーレンフレインを抜いてチェイスアローを三連で爪弾いて格納させつつ、空へと―――ヴァーチャルバトルルームに映し出される人工の空へと向けた。

 

「カリン、アザナミ、こんなもんでいいか?」

 

『よしよしよし、とてもよしです! いやぁー、途中で設定をミスしてしまった時にはどうしようかと思いましたけど、流石レギアスさんのオススメなだけありますね、この程度まるで問題ないと言わんばかりの素晴らしい実力ですうー』

 

『明らかに手が滑ったってレベルじゃなかったクセによう言うわ。あ、ごめんアキナちゃん。VRでのデータ取りは終わり、戻ってきてもいいよ』

 

「ういさー」

 

 体を大きく伸ばしながらもう存在しないファングバンシーとファングバンサーを思い出す。感覚的にレベル70は硬かったなぁ、と。今回のデータ取りでは無理をせず40前後の相手をするはずだったのに、何が手を滑らせる、だ。どうやらエクストリームでお馴染み、オペレーターのカリンのマッド具合はリアルになったオラクルでも変わらないらしい。安心する様な、そうじゃないような。そんな事を考えながら切り上げることにした。

 

 ―――ブレイバー新設用のカタナ、バレットボウのデータ取りを。

 

 

 

 

「いよっ、流石ダークファルスを追い返した英雄さん! 戦う姿はまるで次元が違うってしか表現できないねー、このこのー。一体どうすればそんな風に戦えるようになるんだか、お姉さんはほんと不思議でしょうがないよ」

 

 そう言って赤髪、ジェンダーピラート姿のアークスが近づき、ドリンクの入ったボトルを此方へと胸を軽く叩くように渡してきた。小さく笑い声を零しながら彼女、ブレイバークラスの新設の為に今、一番力を入れているアークス、アザナミに答える。

 

「んー、俺の場合は全く参考にならないから聞かない方が良いよ」

 

「えー……そうなの?」

 

「俺の場合どちらかと言うと()()()()()()()だけだからな」

 

「ん? つまりどういうこと?」

 

 アザナミが全く理解していない風な様子に隠す事もなく笑うと、少しだけ頬を膨らませて怒ってくるので、逃げる様にドリンクを飲みながら横のオペレータ室へと移動する。VRルーム付きのオペレーター室にはアークス研修制服姿の、桃色の髪をしたオペレーターがいるのが見える。彼女こそがゲーム時代は数多くのアークスにヘイトを向けられるオペレーターその人、カリンだ。ただでさえ面倒なエクストリームクエストの中、調整ミスと言って難易度を上げたり、最近ではVR再現でダークファルスのデータを叩き込んできたり、と凄まじい殺意を見せるマッドサイエンティストだ。

 

 とはいえ、VR空間での戦闘や調整に関しては彼女が一番という事実もある。その為、彼女以外にこの施設を任せられる人物がいないのも確かだ。ともあれ、

 

「データの方はどんな感じ?」

 

「すっごい集まってますよー。ビンビンきてますねー。アキナさんだけじゃないですけど、本当にトップに立つ一部のアークスの方々は本当に同じ種族なのかどうかを疑いたくなる動きを見せますが、アキナさんはその中でもトップに立つ存在ですねー。カタナを使ったのはこの間の出撃が初めて、バレットボウも刀匠ジグの逸品であっても握ったばかりなのにここまでキチガイの様に使いまわせる人はいませんよ」

 

「あぁ、そう言えばダークファルス戦を見た師匠(レギアス)が動きに凄い驚いたって……」

 

 ゲーム時代にカタナとバレットボウは最高火力を出す為の本気武装として活躍していたのだから、火力が出せたり動けて当然なのだが―――という理由とは別に、最近、自分でもこの異常な動きや技術力の高さに関してはある種の憶測を立てている。

 

 つまりは時間軸のズレと完成度の話だ。

 

 明菜というアークスの完成された姿が未来には存在する。そしてマターボードという時間軸に干渉する道具を通してその経験や技術が現在へとループされる様にフィードバックされているのだ。現代から過去に干渉するという事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性を孕む事でもある。自分はこれ、()()()()()()()()()()と思っているのだ。だからやっている事は簡単だ。

 

 戦えば戦うほど成長するのではない。

 

 戦えば戦うほど、アキナは明菜という完成されたアークスに近付いているのだ。だから凄いのは自分ではなく、凄いのは()()()()()だと思う事にしている。

 

 つまり俺、凄い。流石安藤。

 

「ですけどそのおかげで新クラス・ブレイバーの設立は近そうですよ! いやぁ、新しいモルモットがエクストリームに挑みそうで実に楽しみです」

 

「今隠す事無くモルモットって言いやがったなこいつ……! でも武器作る為の魔石はここでしか精製出来ないから通う必要あるんだよなぁ……」

 

「意識の高いアークスは本当にいいモルモットさんですねー」

 

 エクストリームは本当に地獄だぜ。

 

 そんな事を考えながらダークファルス【巨躯】の撃退から一週間が経過した。

 

 未だにダーカーの姿は出現するが、ダークファルスのリベンジなんてことはなかった。

 

 アザナミに頭を下げられてブレイバークラスの設立なんてものに奔走しつつ、アークスシップはあの混乱から回復しつつあった。そしてそのさなか、ダークファルスを撃退したという事実からオラクル船団全体がややお祭り状態へと突入しており、

 

 消化するべきマターボードがなく、

 

 戦うべきダークファルスは見えない、

 

 ちょっとした作業だけがある……短い、休暇に入っていた。




 という訳でEP1終わったので幕間タイム。ブレイバーはこの時期にデータ取りと運用実験を始めたんだろうなぁ、ってのとエルダー戦でカタナ活躍したんだから良い宣伝だったよなぁ、ってのも。とりあえずアザナミさんインストール。

 戦技大会……? 知らない子ですね……。
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