―――四月中旬。
ダークファルスの撃退を行った事でオラクル船団はやや熱狂に包まれていた。何と言ってしまえばいいのか、勝てるぞ、勝てるぞ! という根拠のない自信が参加していなかった人間にも芽吹いてしまった、とも言うべきなのだろうか。オラクル船団全体がダークファルスという存在をやや軽視しがちである状態になっている。まぁ、それもしょうがないと言ってしまえばそうだろう。少なくとも前線で戦っていたアークスは【巨躯】の威圧感を感じ、それが伊達や酔狂ではなく必殺の存在である事を理解していたが、前線に出てこない人間は違う。そこらへん、後ろにいる連中が勝手を言うのは何時も一緒だ。
とはいえ、そのおかげかどうか、アークス志望やアークス全体の意識の活性化が今は凄い、という話をヒューイから聞いたりもした。なんといっても宇宙の危機を退けたという言葉は嘘ではないのだ。地球の頃、911事件で消防士がスポットライトを浴びたように、今、ここではアークスが活躍した事によってアークスに対する期待が上がっているのだ。そもそもからしてアークスが大きな活躍をしたのは四十年前、【巨躯】の封印以来の出来事となるのだ―――そりゃあ盛り上がりもするだろう。
なにせ、四十年という時間は長い。四十年もあれば前線にいる人間を一新する事だってできる。【巨躯】が討伐されたという風に情報は書き換わっていたし、情報封鎖されていた事を考えれば長い間、盛り上がるような話題がなかったのだ……日常的にダーカーを倒して宇宙を救っていると言ってもピンとくるアークスは少ないだろう。だがダークファルスという目に見える親玉と戦って勝利すれば、今までの戦いがどういう物かを理解する事も出来る、つまりはそういう事なのだ。
そしてそのダークファルスを相手に最前線で戦い続けた十二人の噂はすぐにアークスシップ、オラクル船団に広がった。
―――そのキチガイの様な所業と共に。
「おい、アレってまさか……」
「あぁ……」
「出たよ……」
「……」
最近、アークスシップ、それも人の多い所を歩くこんな風に遠巻きに向けられる視線が多くなった。腫物、というよりはアイドルの様な扱いに近いのは自分が美女の容姿をしているからなのかもしれない。ただ向けられる視線はちやほやする様なものではなく、やや恐怖混じりの畏怖の様な視線が多い気がした。いや、その理由も解っている。十二人というありえない少人数で【巨躯】とかいう惑星規模の敵を追い払ったのだ、
そりゃあ見た目はどうあれ、中身がそれと一緒とは認められないだろう。
「ふふ、ファーレン、実にいい仕事じゃないか」
「どうも、またジグ爺さんから新しくファーレン納品して貰ったら10503しにくるんで」
「クラフトで自分に適応させる事は多くあれど、設計から全て個人の為に作成されたシリーズというものは未だに存在しない……強化をするときももはやプランが目の前に広げられているようで強化のし甲斐を全く感じんよ。だがそれ以上に作ったジグ老の魂と言いうべきものはしっかり感じるものだ。大切にしたまえ。こういう武具はいざという時に数値が異常に高いものよりも信用できる」
「そこら辺は使っていて実感してるんでどーも」
ドゥドゥに軽く感謝をしながら強化カウンターから放れる。ジグから納品されたファーレンは今の所で全部四つ、ユニットは後回しにして、需要の高い新型のバレットボウとカタナを優先的に作成してもらったのだ。この二つは特に最近のブレイバー新設の為のデータ取りで活躍してくれている。スサノショウハとは属性が違う為、状況に応じて使い分ける事も出来るから競合する事もない―――いい話だ。
そんな事を考えながら、周囲から向けられる視線に少しだけ居心地の悪さを感じてしまう。軽く頭の後ろを掻きながらファーレンを圧縮空間へと格納すればその視線も減る。やはり、少しだけ悪目立ちしすぎているのかもしれないなぁ、と考える。
視線から逃れる様に歩きながら六芒均衡に関して考える。
アークスの最大戦力と言われる六芒均衡、その実力はまあ若いヒューイを見れば大体察しが付く。ヒューイレベルで平均、そしてそのヒューイで強いと言うのがマリア、強すぎると評価するのがレギアスだ。六芒均衡という名は決して、安くはない。だけどその名に反してメディアや公共の場でのその姿の露出率は低いと言える。明らかに表に出現する頻度が低いのだ。あの実力なのだからもっと派手に動き回っていていいのだとは思うが、
こうやって良くも悪くも注目を浴びるようになると、その気持ちが解る。
レベルという表現にレベル上限の存在はアークスの能力を数値的に管理しつつ、突き出しすぎない様に管理する為のシステムでもある。だがレベルというシステムはあくまでも数値的に管理できる部分を管理するシステムでしかない。技術とかフォトンとかは数値に出来ない領域だ。そして一般的に突き抜けている、キチガイ、化け物と評価できるアークス、或いは六芒均衡という存在はそういう管理されている領域外を突き抜けているのが基本だ。無論、それは簡単な事ではない。戦えば強くなることが出来た今までのシステムから踏み出す事だ。
だがフォトンアーツ等による
だから良くも悪くも強い者は注目を、そして様々な感情を集める―――この視線が嫌だからほとんどの六芒均衡は姿を露出しないのだろうか。こういうのが嫌だからヒューイはお気楽お助けマンの仮面を被って走り回っているのだろうか、こうやって注目を浴びる身分になると少しだけ、周りの視線や考え方が気になってくる所ではある。
まぁ、変わらない連中は変わらないのだが。
それに個人的に心配なのは自分の事ではなく、完全に身内なマトイの事だ。マイルームとメディカルセンターの往復が基本的な生活となっているあの子だが、流石に身内がこういう視線を受けて、それでその言葉か何かを彼女が聞いてしまった場合、なにか、こう、良くある流れで怒鳴ったり怒ったり庇おうとしないか心配である。そのままソリッドブックルートへ―――というのはファンタジーじゃないのだからありえないか。
だが、まぁ、今の状況がファンタジーと言ってしまえばファンタジーだ。これ以上ある訳がない……とも言い切れないのが辛い。
そこまで考えた所で、何シリアスになってるんだか、と軽く自虐の息を吐いてから歩き出す。特にそれに文句的なんてものはない。ただ、アークスシップという場所、その状況がちょっと気になっただけである。本日は完全なオフ日なので服装はメトリィ・アシンで、目的もなくぶらぶらと歩き回る事にしてみる。
ショップエリアでまず目に入るのはショップエリア中央のモニュメント、四月の春仕様でデコレートされている巨大なフログラッピーがそこには存在する。リリーパスーツの集団が時折破壊工作を仕掛け、それをラッピースーツの集団が防衛戦を繰り広げるのをここ数日は何度も目撃しており、そろそろこれレギアスキレるんじゃねぇの? という話は何度も聞いてる。
そこから視線を外し、ステージの方へと視線を移す。其方は今はアイドルの姿もイベントも何もない事から非常に大人しい、或いは寂しい状況となっている。一応、このショップエリア前のステージエリアがアークスシップ内で一般コンサートを行う時の準トップステージ扱いされているらしく、ここでステージをすることが出来れば、アイドルとしてはメジャーとして扱っても良い領域だそうだ。
なお超大型ライブ用の専用シップが存在する為、大体のアーティストの目標はそのシップを借り切ってライブをする事だろう―――アイドルとしてのクーナもそこらへんを目標に頑張っている、と前言っていたのを思い出す。クーナは―――なんというか、やはり始末屋よりはアイドルをやっている方が彼女らしく思えるのだが、同時にアイドルとしてのクーナで作る喋り方は完全にクーナらしくはないとも感じる。
「始末屋クーちゃんもアレはアレで可愛いもんだからなぁ……」
本人に聞かれたら間違いなく暗殺されるであろう事を呟きながら、ショップエリアに背を向けて二回へと上がる階段を上る。ショップエリア二階部分にあるのは魔石や輝石交換カウンター、そしてエステだ。
ゲーム時代は凄まじい勢いでエステに居すわっていたなぁ、とエステの前で足を止めながら思い出す。ゲームで言うEP1、EP2時代はエステ以外でのアクセサリーの装備、髪型の変更が出来なかった為、キャラクターの姿を変えるのに一々エステへと突貫しなくてはならないクソ面倒な仕様だった。EP3辺りで確か自由にアクセサリーの変更や位置の調整アップデートが入ってさらにコスプレやキチガイレイヤーの数が増えたような気がする。
まぁ、ここでは正直使わない機能だ。体を弄るつもりはないし、そんな事も出来ない。このエステで出来るのは本当に美容に関するケアと髪色の変更程度の事だ。体型そのものを変化する様な大事は流石にゲームではないと無理らしい。エステとかまるで気にしたことないなぁ、と、店員がウィンクを向けて来るので愛想笑いを浮かべ、逃げる様にそのまま階段を上ってショプエリアの最上階へと移動する。
ここは休憩、展望エリアなので人の姿は割と少ない―――なにせ、転送装置でマイルームへと直ぐに帰ることが出来るのだから、態々休憩エリアを使う必要なんてないのだ。そこに設置されているベンチに足を組んで座り、軽く息を吐く。
「―――なんかクッソ普通な休日になってるなぁ……」
そう思った直後、フログラッピー像がゆっくりと倒れて行くのを目撃した。関わるのも嫌なので、無言でそれを視界から外し、ロビーの方へと逃げるか、そう思って立ち上がったところでメールが到着していた。メールを開き、確認する内容は、
「チームの参加者希望かー……」
それも一人とか二人ではなく、十人とか、二十人とか、そういう規模での参加者希望だった。一応集まりは完全にキチガイオンリーという凄まじい状況だが、チームの実力を見ると一日で数百、数千単位のダーカーをジェノサイドしたうえでダークファルスを撃退したチームだ。所属できればそれはそれで美味しいよなぁ、とは思うもの、チームをもうちょい広げて色々と便利機能はほしいよなぁ、とも思う。
じゃあアレしかないな、と突如、宴の発想に思い至る。
やや憂鬱な午後ではあったが、悪巧みを考え付いた途端、一気にテンションが上がってくる。
―――明日が楽しみだ。
幕間だしちょい短め展開だけど自重捨てるから別にいいかなぁ、って……。
次回、地獄絵図。