Velvet Breeze - 1
ウォパルの探索許可が降りた。その理由は惑星ウォパルに置いて高いダーカー反応を発見できたからだと言われている。ダーカー排除の為に、アークスたちはウォパルへの探索を他の惑星での活動と平行しつつ進める事を望まれていた。【巨躯】の襲来等で一時的にアークスの数は減ったが、しかし、【巨躯】の撃退を見た人々はアークスになって戦う事に対して憧れを覚えた。かつて、地球であった災害現場で救助活動を行っていた消防士が憧れられるのと同じ現象だ。その為、手が回らなくなるなんて事は心配する必要がなかった。一定以上の成果を出していなければ行けないウォパル探索だが、【巨躯】の撃退という歴史に残る偉業を成したアークスの一人である自分には無論、あっさりと探索許可が出た。それを受けてまずやる事は、
―――ショップエリアへと向かう事だった。
そこには当然の様に白衣姿の女の姿があった。
「……シオン」
「貴女が、来るのを……待っていた」
それは今までの彼女と比べれば酷くはっきりした言葉だった。難しい言葉や複雑な言い回しをせずに、解りやすく言葉が耳に染み込んでくる。今までの彼女のスタイルとは大きく違う言葉遣いに、多少驚きを隠しながらははーん、ついに人的コミュニケーション方法を覚えたな、こやつめ、と結論する事にした。そう考えている間に、シオンが片手を浮かべた。そこには小さく圧縮された長方形のマターボードが浮かんでいた。此方が差し出す様に手を伸ばせば、マターボードはゆっくりと浮遊して此方の手の中に納まり、消えた。
「惑星ウォパルの登場によって新たな事象がマターボードに刻まれた。そこにはあらゆる闇の痕跡が残されている。留意せよ、敵は決してダーカーだけではない。深淵を嘲笑う者が手ぐすねを引いて待っている。……時間は、そう多く残されてはいない。故に貴女に謝罪する。私の縁者よ……呼び出してしまった事を謝罪する。貴女に背負わせるような事をさせて申し訳ない」
「そりゃあ勘違いだぜ、シオンちゃん」
チッチッチ、と指を振る。だいばくはつ! とか発動しないだろうか。ともあれ、
「俺はオラクルへと来れて良かったよ。確かに辛い事も悲しい事もある。だけど同時に楽しい事だっていっぱいある。ここに呼んでくれた事を俺は恨んでいないよ―――たとえ、俺が俺じゃなくなりつつあっても、その程度は気にしないさ。なんてたって安藤だからな」
安藤は宇宙を救うからな! と笑いながら腕を組む。それを見てシオンがニッコリとほほ笑む―――なんだ、ちゃんと笑えるじゃねぇか。その姿を見て少しだけ安心した直後、シオンの姿が消えた。ん? と首を傾げたのは一瞬、背後から足音が聞こえた。
「―――あぁ、成程。君はずっとそこにいたんだね」
振り返りながら声の主を見た。そして一目見て解った。こいつは変態だ。キザったらしい髪型の白髪、腹の形が良く見える白い服装、眼の横に入ったタトゥー、そして何よりも陶酔するようなネットリとした声。お前が変態じゃなくて誰が変態なんだよ、という妙な安心感がそこにはあった。だが、それとは別に、頭の奥でこいつとは関わってはいけない、という警報が鳴り響いていた。
「あぁ、シオン! シオン! あと少しだ! 最初は君の居場所さえも解らなかった! だけど今では君の気配を感じるよ! あと少し……あと少しで君へと手が伸びる。そうすれば一つになって真の全知を目指そう!」
「関わっちゃあかん奴だこれ……」
関わるだけ無駄に感じるので、そっと気配を殺してゆっくりと変態が立っている場所から離れて行く。キチガイは多いけど、純粋な変態もまた珍しいなぁ、と思いつつ、自分の世界に染まっている変態を置いて、テレポーターに乗る。
さっさとあの変態を忘れてウォパルのマターボード回収しちゃおう、と。
露骨にシオンが嫌な表情を浮かべ、そしてシオン狂いの変態がショップに出没した事実を完全に脳内から押し出しつつ、クエストカウンターで受注を終わらせ、何時も通りマイシップに乗り込み、そして海の惑星であるウォパルへと迷う事無く向かった。本日は目的がマターボード埋めという事もあって、同行者は一切いない状態である。マイシップの窓から眺めるウォパルの景色は美しく、こんな景色を地球にいる間にも見たかったぜ、と軽く悔しく思う。マイシップがウォパル圏内に入った所で、
―――迷う事無くテレポーターの中へと跳びこんだ。
一瞬の転送光と共に足元は柔らかい砂地を踏み、そして波によってサンダルに海水がかかってくる。明るい陽射しが照り付ける様に照らしながら、海風によって涼しい風を全身で感じる事が出来た。
「海だぁ―――!! ヒャッホ―――! わはぁ―――!」
浅瀬に跳びこんでばしゃばしゃと足で水面を蹴りあげる。フォトンの加護がある為、濡れようと思えば濡れられるし、濡れたくないと思えば水分を弾く事も出来る―――流石フォトン、なんでもないぜ。だから今はこうやって海の冷たさを感じながら上がった時は水滴を弾き飛ばすなんて事も出来るのだ。それはもう、ナベリウスの川で体験済みの事だった。なので一切遠慮する事無く海の浅瀬で水を蹴り飛ばし、中に舞い上がる水滴が陽光を反射してきらきらと輝く姿を見て、堪能する。そしてそのまま、海の中へと背中からドボン、と倒れ込み、ぷかぷかと浮かび上がる。
「あー……極楽極楽……」
やっぱ海は良いなぁ、と浮かびながら思う。だが同時に、マトイにこれを見せられない事に軽い寂しさを覚える。今の所、アークスシップ内部以外ではマトイの歩ける場所が少なく、そうなると必然的にこの海を見せる事が出来ない……それは残念だ。
「あぁ、いや……そういえばチームルームにリゾート風ウォパルルームがあったな。チムルムをウォパルにしてからマトイを連れて行けばいいか」
今は遊べるから、という理由でチームルームの姿は森の遊び場になっていたりする。流行っている遊びはキャスト帝国~下等種族は兎跳びでコースクリアだ~、とかニャウの放流とか、そう言う感じのバイオレンスでクレイジーな遊びが流行っている。まぁ、連中はキチガイだけど人間愛を持っているし、何よりも年下には優しいから問題ないだろ。
あぁ、幸せな時間だなぁ、と思う。こうやって自然に囲まれてゆっくりするのは結構好きだ。マトイをどうにかして連れてこられないかなぁ、と頭を捻っていると、
「あ―――! あんたこんな所で何をやってるのよー!」
「ん?」
頭を持ち上げて海岸の方へと視線を向ける。すると海岸には見慣れない服装のエコーの姿があり―――その背にはソードが背負われていた。その横には見た事のない、原住生物の様な存在も一緒であり、なんというか、実にアンバランスな姿を見せている。
「おー、エコーじゃん」
「おー、エコーじゃん……じゃないわよ! ここ、一応ダーカー出没区域よ!? 何呑気に海水浴楽しんでるの!? しかもその格好!!」
「ん?」
体を起き上がらせながら自分の姿を見る。それは一般的に言えば水着、と呼ばれる服装だ。青いビキニタイプに腰にはフレアパレオを撒きつけており、頭の上には麦わら帽子まで装着している―――完全に安藤サマーverとでも言える姿だった。これは地球でのエーテル通信時代、ウォパルでゆっくり時間を過ごす時に自分が決めていたコーデだ。それを見せつけるとエコーが呆れたような表情を返してくる。が、まぁ、安心しろ、と言葉を置く。
「【巨躯】を殴り返した影響か、一定以下の雑魚ダーカーとか浸食されている原生生物とか、ビビってるのか自分から探しに行くか気配を殺さない限り近寄らなくなってきたんだよな、流石に50とか60レベになると殺しに来るんだけど、ここらって基本的にレベル低いだろ? だからこうやっていても特に襲ってこないどころかビビって逃げるんだよなぁ……」
「完全に死神やな」
「本当にアークスかどうか疑わしくなってきたわね!」
それを言うな。自分でも時折、俺ってなんだろう? と思わなくもないのだから。ともあれ、とりあえず浅瀬から浜辺へと水を弾きながら戻り、軽く体を振るう。その様子をエコーが無言で眺めている。
「……強くて、性格が良くて、スタイルも良い。その欠片の才能をこっちに寄越しなさいよー」
「安藤キメてるとイロモノになるか美形になるかの二ルートしか許されないからね。安藤だからしょうがない。つかそんな事より見た目が二人? 揃って面白いんだけどなにやってんだ」
「あぁ、聞いてくれんか姉ちゃん。このポンコツ嬢ちゃん、人の話を全くきかんのや」
「ほほう」
巻貝の触手みたいな生物はカブラカンと言うらしい。なんでも相方を探しているのだが、その肝心の相方探しの最中で、エコーに見つかってしまったとか。そのエコーもエコーでかなり強引にだったら手伝う、と恩の押し売りを始めてしまい、カブラカンは小さい為、それから逃げられずにいる。ただこのエコーとカブラカンのどこか騒がしいコンビは見ていて楽しいものがある……いや、言葉を変えよう。エコーとゼノのコンビを見ているのを思い出す。
エコーがどこか、ゼノの面影を求めてハンターというクラスに手を出した事、そしておぼろげにながら事情を知らずとも、何かを投影しているのをカブラカンも見えているのだろう。ま、しゃーねーわな、と言葉を置く。
「しかたがねぇ。この宇宙最強のアークスたる安藤が今日は手伝ってやろうじゃねぇか」
麦わら帽子をサングラスへと変えて頭に装着しながら今までは消していたスサノショウハを抜き去り、腰のアタッチポイントへと装着した。それを見ていたカブラカンが首を傾げながら、視線エコーの方へと向けた。
「嬢ちゃんお払い箱やな」
「そりゃあ私が勝ってる要素欠片もないけどぉ―――!! というかなんで私の呼び方お嬢ちゃんであっちが姉ちゃんなの!?」
「えっ……言ってもええんか……?」
「むきぃー!!」
このコンビは面白くなりそうだなぁ、と苦笑しながらエコーとカブラカンに並び、威圧するような気配をなるべく顰めながらウォパルの海岸を三人で歩き始める。
「カマロッツだっけ? を探しているんだよな」
「そうやで。突然いなくなるもんやからいったいどこへ行ったもんか解らへんのや」
「まぁ、今日は軽く海岸探して、それで海岸に気配がなかったら深海かねぇ……」
「あー……あっちは物騒やからあまり近づかんとちゃう?」
「まぁ、一応な」
「私なしで話が進んでる……!」
エコーの言葉に苦笑する。正直な所、エコーは色々とアークスとしては粗が多いから放っておくのが心配という事実もあるのだ。このまま、この二人で放置しておくというのは選択肢としてはない―――そう思った直後、レーダーに敵の姿が映る。
「お、私の―――」
アプルクス―――ウォパルに存在する原住生物で砂の中に潜りながら移動する事の出来るエネミーであり、数が少なくなると仲間を呼ぶという特徴を持っている、面倒な相手だ。故にグレンテッセンのキャンセル移動で一瞬でアプルクスの群れの中に突入し、そのままカンランキキョウで薙ぎ払って群れを丸ごとまとめて真っ二つに断った。音もなくアプルクスを処理しつつ、スサノショウハを鞘の中へと戻す。ウォパルでの試運転、
「おっと、スタンススイッチ入れ忘れてた。気を付けよ」
「私の存在価値って……」
「まぁ、世の中比べるのが間違いっちゅー連中もおるし? 姉ちゃんと比べるには問題がありすぎるんやないか」
「冷静に分析しないでよー! もぉー! 次は私に任せなさいよ! ゼノがいなくたって私だって戦えるってところを見せてやるんだから!」
ソードを持ち上げながらウガー、と叫んで勇むエコーは先へと進もうとしたところで透明だったウォパルの原生種の姿に足を躓け、転び、そのまま顔面から砂浜にダイブする。その光景をカブラカンと共に並んで眺め、視線を合わせて軽く肩を振る。これはほんとどうしようもなく才能ねぇな……と。
「あ、こらこら。前やったみたいにハンターでの戦い方を教えるからさ……」
「別に急がなくたってえんやで?」
「急に優しくなるのが心に痛い」
エコー、才能がないくせに無駄に頑張るからなぁ、と苦笑する。エコーはアークスとして最も必要な、最後の一線を乗り越える狂気を持っていないのが悪いのだ。いや、平和に生きるには必要のない技能であるのは間違いがないのだが……やはり、アークスには向いていない。
苦笑しながら、ウォパルの海岸探索を進める。
ウォパルは個人的に好きなエリアの一つになる。チムルムもウォパルにしてビーチから眺めているのが結構好きだったり。マトイちゃんには是非とも海を見せてあげたかった……。