安藤物語   作:てんぞー

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Velvet Breeze - 3

「―――ふぅ、とりあえずウォパルでぶん回したぞ」

 

「おぉ―――うぉっ、なんじゃこりゃ!? 記録されているだけでも数千はダーカーを狩っておるな……なにやっとんじゃお主は……」

 

 ファーレンフレインをアークスシップ、ショッピングエリアのジグへと渡す。格納状態のそれを受け取ったジグはすぐさまパラメーターやステータスのチェックを行うと、ウォパルで討伐してきたダーカーの数を見て軽く驚いている。とはいえ、これぐらいのダーカーをデイリーで討伐するのは安藤としてはそこまで不思議な事ではない。まぁ、安藤としては。他のアークスがこれぐらい戦っているかどうかに関しては秘密である。何せ、ゲーム時代の数倍の数ダーカーは出現し、その数倍は簡単に雑魚ダーカーは殺せるから、殺戮のペースが以前より上がっているのだ。まぁ、そういう理由もあってダーカーの殺戮ペースは上がっている。

 

「それ、まぁ、久しぶりにボウ握ると楽しくてなぁ、ついついレーダーに出てくる反応を片っ端から殺って、ナウラの出張ケーキ屋さんでティータイムを過ごしたら再びジェノサイドマラソン再開するから……マスターシュート、ほんと便利だよね。逃げて行くダーカーを地獄の果てまで追いかけてぶっ飛ばしてくれるもん」

 

「一応自己修復機能は載せてあるんじゃが、もうちょっとそこらへんの機能を強くするか。フォトン消費が上がるけど大丈夫……じゃな!」

 

「うん!」

 

 最近、益々フォトンへの親和性、というか理解が進んでいるような気がする。ジグにファーレンを預け乍らも、空いた掌の上で白い光を生みだす―――フォトンの光だ。本当ならアークスシップ内でこんなフォトンの使い方は出来ないらしいのだが、何故だか自分にはこんな事も出来てしまう―――いや、これは自分だけじゃなくてマトイもそうなのだが。実はマイルームでフォトンを使ってマトイとキャッチボールやっている時にアフィンにバレて、お前ら何やってるの!? という状況から普通は出来ない、と発覚してしまったのだ。

 

 ……一体、どこに俺は突き進んでいるのだろうか。

 

――私の縁者――

 

「……」

 

「ふむ……それ以外に関しては予測の範囲内じゃのう。やはりファーレンシリーズは現段階で儂が作れる武器の中で、お主を対象にするならもっとも汎用性に優れた傑作じゃな……もっと性能をとがらせて、もっとなにかに特化させるなら新たな何かを生み出せそうじゃが……ううむ、インスピレーションが足りんな。複合兵装とかちょっと考えておるんじゃが材料が足りんしなあ……」

 

「ま、爺さんの整備と発明には助けられているから、新作には期待しているぜ。またなんかテストする必要があったら呼んでくれ」

 

「うむ、勿論じゃ。それじゃあの」

 

 軽いチェックの終わったファーレンフレインを受け取りながらそれをインベントリの中へと戻し、ショッピングエリアへと戻って行く―――ウォパルから戻って既に服装はオフ用のメトリィアシンへと着替えてある。楽な格好の状態で、そのまま部屋に戻る気分でもないのでショッピングエリアに設置してあるベンチの一つに座り、ふぅ、と息を吐く。

 

「……また、しばらくは騒がしくなりそうだな」

 

 マターボードを取り出しながら確認する。エコーとの遭遇、そしてテオドールとの遭遇の後にもウォパルをひたすらマラソンしていた結果、一枚目のマターボードはあっさりと埋まり、その役割をはたして新たなマターボードを自動的に更新する様に生み出した。前まではシオンが手渡ししてくれていたのだが、相当あの熱烈変態ストーカーの事が苦手らしい、自動的に手元へと届いて来た。……まぁ、それはいいのだ。

 

 だがマターボードは騒乱の象徴でもある。これがあるという事は()()()が起こるという事の証明でもある。使い続けてきた自分には解る。このマターボードは強い時空の力が満ち溢れている。まるで無理矢理道筋を捻じ曲げているようだった。本来発生する筈のない出来事でさえ、引き起こしている。

 

 ……だがそれも一概に悪い、とは言えない。【巨躯】出現での出来事でシップが一つ沈んだのも事実だし、だけど【巨躯】という存在を撃退する事に成功したというミラクルを成してきた事も事実だ。きっと、クーナの死でさえ本来は正しいのだと思う。マトイも、きっとマターボードの力なしでは生きてはいないだろう。そう考えると色々と複雑だ。しかもまだシオンはマターボードを此方に送り続けている。

 

 ―――彼女の目的はなんなのだろうか……? それが自分には良く解らない。

 

「あ、いたいた。見つけたぞアキナくん」

 

「ん? おや、アキセンセじゃないっすか」

 

 龍族の生態に首ったけな女研究員であり、同時にアークス資格を取っているアキが片手をあげながら此方へと近づいてきた。今日はどうやら、何時ものオトモ兼犠牲者のライトくんの姿が近くに見られない。ついに入院したかな? ―――胃痛で。そんな事を考えながらアキに片手で挨拶を返した。

 

「いやぁ、【巨躯】討伐の英雄だからもっと、こう、人が変わったんじゃないかと思ったけどまるで変わらないね、キミは」

 

「まぁ、寧ろ俺を変えられるほどのイベントって奴にはちょっと興味あるよ。こう見えてカレーうどんのシミよりもしつこく濃い性格をしていると自負していますからなぁ……! と、馬鹿話はさておき、アキセンセが来るって事は―――」

 

「あぁ、勿論調査さ! なんでも最近、アムドゥスキアの奥地ではダーカーの数が増えているらしい。彼らの話を聞きに行くついでにちょっとダーカーの掃除を行おうと思ってね……こういう話は、君は好きなんじゃないかな?」

 

「あぁ、ども。そこらへんの話は一切断らないつもりなんで」

 

「良し! それじゃあ改めて私の方からスケジューリングして予定を送ろう!」

 

 テンションを上げたアキが背中を向けて走り去って行く。うーん、本当に龍族の事となるとまるでテンションが違うなぁ、と思いつつベンチに深く座り込む。数か月前であればここら辺をゼノとゲッテムハルトが歩き回っていたんだがなぁ、と思い出す。あの二人、顔を合わせる度に衝突して今にも殴り合いそうだったなぁ、とか。ゼノとエコーは互いに引っ張り合っていたなぁ、とか。ゲッテムハルトがドゥドゥ被害者の会を殴って黙らせていたなぁ、とか。そんな事を思い出す。

 

「意外と俺も寂しがってんだな……」

 

 賑やかだったからなぁ、と思い出す。やっぱいなくなると寂しいわ、と。泣く程じゃないけどちょっとだけ……会いたいなぁ、とは思う。だけどこの数倍、或いは数十倍の寂しさをエコーやテオドールは味わっている訳だ―――そりゃあ大変だよなと思う。俺もマトイが急に姿を消したら、なんて事を考えたら、うん。

 

「―――アークスシップを沈めてしまうかもしれない……!」

 

「い、いきなり物騒な事を言うわね、お姉さん……!」

 

「ん?」

 

 聞き覚えのある声に視線を少しだけ持ち上げてみれば、正面にはここ最近、全く視なかったポニテール姿の女の子が見えた―――サラだ。お、と答えながら片手を上げれば、サラも手を振り返してくる。隣に座って良い? と聞いてくるので横を叩く。

 

「ありがと、なんか黄昏ていたけど……なんか失敗した?」

 

「え、この俺が失敗するの……?」

 

「うわっ、凄い自信の塊……流石ダークファルス撃退の英雄ね」

 

「もっと褒めろ……もっと褒めろ……! ―――何せ世間様じゃダークファルス撃退の英雄ってよりえっ……何アイツの動き……人間してない……とかそういう系統の話ばかりで誰もちやほやしてくれないからね……。俺だって……少し、褒められたいに決まっている……うん、ごめん。嘘ついた。少しというかかなり褒められたい」

 

「うーん、この全く変わらないクオリティ」

 

 はっはっは、と笑いながら頬を掻く。まぁ、人間そう簡単に変わるもんじゃないと思う。少なくとも人生を変える様な衝撃に出会う事の方が稀だ。人間とは変化の生き物だ。だから徐々に、徐々に変わって行くのがその中で劇的な変化を与える出来事はそう多くはない……ぶっちゃけた話、これからもダークファルスとの戦いはやってくるような予感しかしない。

 

 だったら一度の撃退で自惚れる暇なんてない。というか死ぬ。

 

「……まぁ、知り合いの姿がなくなっちゃったからな。それを思うとちょっと寂しいって気持ちが出てくるのさ。つっても安藤さんに喪に降すとかいう概念はないからな! やられたら10倍返しで殴り殺す! 目に見えたダーカーはミンチ! ……という訳で」

 

「いや、訳で、と言われても困るんだけど……ふふふ、お姉さんは本当に変わらないのね」

 

「それが安藤の良い所だからな」

 

 笑いながら思う―――きっと自分はあのシオンでもどうしようもない、そんな事の為に呼び出されたのだ。その為の最終兵器なのだ、きっと。そうじゃなければこの異常に動ける体も、適応する精神も、そして怒涛の展開も説明が付かない。だけど……まぁ、それでもいいと思っているのも事実だった。別に、後悔はないのだ。少し両親に申し訳ないと思う事もある。だがそれを差し引いても、こっちに来てからの人生は楽しい。

 

 捨てる事が出来ない程に重いものが今は多すぎる。戻ろうとは考えられない。だから、

 

「困った事があったらとりあえず俺に言えよ。とりあえずダークファルスぐらいまでだったら解決してみるから。場合によっちゃあヒューイさんを生贄に捧げて」

 

「六芒均衡の犠牲担当……!」

 

 すまんなヒューイ、お前が一番手頃なんだ、なんて茶番をサラを相手にやって、笑う。

 

「ヒューイさんリアクションが一々面白いし偶に素に戻る所がなんとも言えなくて、ネタだって解ってても付き合ってくれる付き合いの良さあるし、あの人ほんと六芒均衡の犠牲担当だよ。レギアスの爺さんはそれとなく付き合いが良いんだよなぁ。ノリは良くないけど誘うと意外と付き合ってくれるというか。まぁ、お酒飲む時なんだけど。他の六芒はどうなんだろ」

 

「意外と交友関係がスゴイのね……と、思ったけど立場が立場だし当然なのか……な?」

 

「どうだろう? 特別かもしれないけど、あんまり自分が特別だとは思いこみたくはないな。そういう自惚れってなんか、こう、格好悪いし」

 

「格好悪い」

 

「いいか―――俺の中にある基準なんて格好いいか悪いかどうかぐらいだからな」

 

 あとはマトイに対して俺が胸を張って生きていられるかどうか、という事だろう。まぁ、俺の判断基準なんてそれぐらいでいい。深く悩むのも馬鹿らしい。そう……深く考えるのも馬鹿馬鹿しい話だ。過去の事は過去の事、これからの事はこれからの事だ。変えられない過去はどうしようもないが……変えられるかもしれない過去はそこに存在するのだ。だったらその時が来るまで、浸ってないで爪を研いで待っていればいいのだ。

 

 それだけの話……何時も通りの話だ。

 

「なんだか気晴らしに付き合わせちゃったみたいだな」

 

「ううん、良いのよ……あっ、でもそうね。少しでも申し訳なく思っているなら今度、付き合ってくれないかしら?」

 

「どこに?」

 

「龍祭壇」

 

「……ん? 聞き間違いかな?」

 

「龍・祭・壇」

 

 語尾にハートが見える様な言い方でサラが言いきった。畜生、マトイにはないあざとさが憎い。可愛いぞこいつ。そう思いながら言葉を選ぼうと少し悩む。龍祭壇とはアムドゥスキアにあるエリアの一つだ―――その中でも一番難易度が高い所だ。龍族にとって神聖なエリアであり、また同時に迷路の様に入り組んでいて非常に面倒なエリアでもある。空に浮かんでいる龍祭壇は浮遊するブロックによって構成されており、これがまた面倒なギミックによって探索を阻んでいる。

 

 安藤、マラソンするのが面倒なマップランキングに入るエリアである。

 

「俺、あそこ嫌いなんだよなぁ……」

 

「駄目?」

 

 首を傾げながら言われると物凄く困る。それにサラの誘いはなにか、裏を感じさせるものがある。はぁ、と溜息を吐きながら仕方がないか、と苦笑する。

 

「ありがとう! 絶対に損はさせないから!」

 

「お、おう」

 

 両手を握られ、それを上下に振られながら笑顔でサラはそう言い切ると、それじゃあ、と楽しみにしていると言葉を残して消えて行く。その背中姿を眺め乍らうーん、と呟く。

 

「押しの強いタイプに弱いなぁ、俺」

 

 つまりは九割方マトイの話なのだが。最近ではぐいぐいと押し込んでくるから力関係逆転して来ているよなぁ、と思う。まぁ、それだけ生活的になったとも言えるから、それはそれでいいんだが―――まぁ、いいや。

 

 勢いよくベンチから立ち上がる。

 

「休憩終わり! うっし、ウォパルもう1周してくるか!」

 

 安藤の戦いに終わりはないのだ。




 安藤、サラちゃんにデートの約束を付ける。

 安藤だって人間。偶に悩む振りをして実はダーカーを殺す事しか考えていない。あと偶にアークスを見ながらあいつからはどんなドロが出るんだろうか……とか考えてる。

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