踏み込む―――接近しながらダーカーの集団を前にして、ブラッディサラバンドを叩き込む。乱舞する様に振るわれるTDにフォトンの刃が乗り、それが斬撃として飛翔しながらダーカーの姿を切り裂く。それによって僅かに浮かび上がったダーカーを追撃する様に更にブラッディサラバンド、続けてブラッディサラバンド、追撃でブラッディサラバンドを叩き込み、最後にブラッディサラバンドを放つ。
雑魚の殲滅、ツインダガーではこのPAが一番楽で便利なのだ。
合計、五連続のフォトン刃の乱舞がダーカーを正面から強引にねじ伏せる。PPの最大容量はドリンクの効果が継続している事で上昇している―――が、四発目を放てる程上昇しているはずはない。愛用していたユニットのサイキシリーズはレベルが下がったことで装備できなくなり、全て外れてしまっている。
PSO2というゲームではPA、及びテクニックの発動にはPPという数値を消費するシステムになっている。この数値を見るとドリンクで最大値が+20されてはいるが、それでもPPは120、ブラッディサラバンドは一回で30、つまり五回放てばPPが150必要になってくる―――これは少し計算が合わないだろう。とはいえ、目を背けたい現実ではあるが、PSO2が非常にリアル化してしまっている以上、そういう事もあるんだなぁ、と深く考えずに納得するしかない。
「ブラサラ空打ち!」
「もうダーカーいないよ!! というか相棒つっよ!」
「これがレベルの暴力って奴よ―――まぁ、レベルキャップかかったせいで大分弱体化してるんだけどな。あんにゃろ、次会ったら絶対にぶっ飛ばすぜ……! まぁ、それはそれとして、ダーカーは基本的に動きがパターン染みてるからな。上位の個体でも相手をしない限り範囲を攻撃できるPAで纏めてぶっ飛ばすのが一番早いぞ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
アフィンに頷きを返し、背にTDを戻しながら歩き出す。生身でオンラインになってから、もっと体が自由に動くようになって、試した事は色々とある。だがそれでも一番解ったのは
PA発動と、PA発動せずに同じモーションをしたのでは、威力が数倍単位で変わってくる。
頑張ればPAの途中で動きをキャンセルすることぐらいはできるが―――ほとんどプログラミングされた動きを最高の状態で繰り出す、みたいなものだ。動きがパターン化されたダーカー相手には割とこれが良く突き刺さる。流石にあの戦った仮面のダークファルスみたいな存在となると、逆に見切られるからPAを使わない方がいいのかもしれない。
「まぁ……アヒンくんRaだろ? だったら基本的には火力よりも支援回りの方が期待されるな。大型のエネミー相手には
「アフィンだよ! というか相棒の話って次元が違う様に感じるよ」
「いや、最終的にはどんなアークスもこんな感じだろ。最適解を求めるなら」
そう言うが、アフィンは首を傾げている。まぁ、まだアークスになったばかりのアフィンでは少し解り辛い事なのかもしれない。だがゲームとしてのPSO2であれば最適な戦術、クラスの組み合わせ、火力のインフレのさせ方が判明している。その為、このクラスはどう動けばいいのか、そういうのが出揃っているのだ―――まぁ、こうやってリアルになった為、ダメージ表記が消えたり色々とリアルになったりで、完全に知っている通りのPSO2通りにはいかないのだが。
少なくとも血が流れるし、敵も血を流す。それだけは戦闘して解った。
「っと、またダーカーか。数が多いな」
「う、あんま好きじゃないんだよなぁ……ダーカー……」
アサルトライフルを構えたアフィンがアクションを開始する前に拾い上げた無強化ナックルへと武器を変え、PAで素早く接近しながら素早くダブルセイバーへと切り替え、小型の竜巻で姿を巻き上げながら吸引し、集まってきたところをサイドステップで離れる。瞬間、アフィンのアサルトライフルから放たれた榴弾が集団に直撃し、巻き込んで爆発を起こしダガン達をバラバラに吹き飛ばす。いくら低レベル帯といっても流石に一発で倒せる程ダガンは柔らかいとは思わないのだが、
―――やはりそこらへん、特にフォトン関連は事情が違いそうだ。
火力計算が狂いそうなのはちょっと辛い。
「ほら、アヒンもやれば出来るじゃん」
「そりゃあ相棒がそこまで手伝ってくれれば―――ってアヒンで固定し始めてないか?」
はっはっはっは、と笑い声を零して誤魔化す。ダブルセイバーを背後で折りたたむように収納しつつ、正面へと視線を戻す。予想外にダーカーの数が多い。この状況、凄まじく弱体化してレベル30へと落ちてしまったが、それでもオーバーキルレベルの実力者である自分が居なかったらおそらく、アフィンは生存できていないだろう。そういうレベルでのダーカーの多さを感じる。ある意味、自分を見つける事でアフィンは生き残る事に成功したのだ。
「ん? どうしたんだ?」
「いや、シップに戻ったら少し休みたいな、って」
「……大丈夫か?」
アフィンに笑顔を返す。
「大丈夫、大丈夫。少なくとも
「あ、うん。これ心配する必要ない奴だ」
呆れるアフィンが先へと進む横で、げらげらと笑い声を零しながら続いて歩く。色々と心配な事は多いが、少なくとも現状、あの【仮面】、とでも呼ぶべきダークファルス、そして市街地で出現する様なキュクロナーダ等の中位ダーカーがいない分、このナベリウスの森林エリアは安全に思える。小型ダーカーであればたとえSH級の個体が出現しようが、30レベでも十分撃退できるのは縛りプレイ動画を見て良く理解している。
ただこれはあくまでもアフィンの試験らしい―――あまり自分が張り切っても評価が悪くなるばかりだろう。その事を思い出し、あまり暴れすぎないようにしないと、と軽く自分に言い聞かせながらレーダーを目で追う。とりあえず、レーダーの範囲内にダーカーの反応はない―――だが此方へと向かって近づいてくるアークスの反応はあった。
正面、視線を向ければ大きな十字路が見える。その反対側には赤毛のアークスが立っているのが見え、此方へと向かって手を振っている。
「お、他にもアークスがいた! おーい!!」
アフィンが手を振り上げながら赤毛のアークスへと振り返す―――のと同時に、十字路に大量のダーカーの姿が浮かび上がり始め、赤毛のアークスの背後にもダーカーが出現する。後ろだ、危ない、そう叫ぶ前に超反応を赤毛のアークスは見せた。後ろからダーカーが来るのが見えていたのか、横へとステップを取りながら素早く横へキックを繰り出し、取り出したガンスラッシュの射撃モードで腹下のコアへと精確な射撃を叩き込んだ。
「うぉっ、すごっ」
「レーダー見てりゃあ奇襲は防げる、アヒンこっちも合流して叩くんだよ!」
「りょ、了解! あとアヒンじゃない! アフィンだい!」
若干キレた様に言い返してくるが、そのおかげかアフィンの動きからは緊張の色が薄かった。ガンスラッシュをソードへと切り替えた赤毛のアークスも戦い馴れているのが良く解り、即座に囲んできたダーカーに対してステップを活用したショートダッシュで突破し、外側からPAによって押し込みを始める。それに合流し、攻撃を加え始める頃には既にダーカーの数は半分まで減り、それが完全に消え去るまでには十秒も必要としなかった。
アフィンはともかく、慣れているアークスが余程慢心かレベル違いの所へとやってこない限りは事故は発生しない。つまり、この赤毛のアークスはそれだけ実力のあるアークス、という事だ。片手を上げながら此方へと挨拶してくるアークスへと向かって、此方も片手で挨拶を返す。
「よ、お前らの方は大丈夫か? 最終試験で事前にダーカーが出現しない様に掃討されたのにダーカーが出るってんで焦ってクエスト受けてきたんだけど―――」
「あ、お疲れ様。こっちが新人な」
「あ、あざっす!」
「いや、そう固くならなくていいからさ。っと、駄弁ってる場合じゃねぇな。現在生き残っている時点で試験は合格、シップに戻ればその時点でアークスとして認めるって判断らしいぜ」
赤毛のアークスのその言葉に首を傾げ、そして判断する。
「……予想以上に状況が悪いのか?」
その言葉に赤毛のアークスは歩き出しながらどうなんだろうな、と答えた。
「そういう詳しい話は分かったもんじゃないけど、ただえらく焦っているところを見ると何か想像以上に予想外の事態とぶつかったみたいだな。それに犠牲者も割と多いらしい。俺もさっき、間に合わずにダーカーに呑まれた白髪の女の子を見たしな。……ちっとやるせねぇわ」
「……」
頭を少しだけ気まずそうに描いた後、それを振り払う様に赤毛のアークスはダーカーの影響力が届かない範囲へと抜ける為に歩き出した。アフィンも人数が三人に増えたからか、少しだけ怖がる様子を見せなくなり、警戒しながらも前へと向かって進んで行く。殿を受け持つために数歩後ろを歩きながらも、白髪の女の子、という言葉に胸に突き刺さる何かがあった。
誰か、誰かに会わなくてはならない―――。
一体その思いはどこから来たのだろうか。自分には一切解らなかった。だがそれは強い、とても強い感情として心に焼き付いていた。まるで
「―――なんだってんだ……」
本当に、本当におかしな出撃だった。気付けば市街地でソロ、そこで変な女を追いかけて、そしてそこで死にかけて今度はナベリウスに。もし、これでただのエーテル通信で発生した新手のバグかなんかだったらバイトを紹介した所へと乗り込んでマウントパンチを叩き込む。
叩き込むところなのだが―――どこからどう見ても通信とかそういう領域を超えている事態だ。
そもそもからしてエーテル通信という新しい技術を使ったらフルダイブできる、という考え自体がおかしい。だからその時点で何かあっても、何も言えないのだが、
「さてはて……どうするかなぁ……今後は……」
そっと、メニューを開いてそこに存在する筈のログアウトのボタンが存在しないのを予想通り確認し、アフィンと赤毛のアークスに聞こえない様に溜息を吐く。出口のテレポーターはもう既に見える場所までやってきていた―――なんともまぁ、長い一日だった。
本当に、本当に―――疲れた。
もう解るかもしれないけど、主人公の遊んでいたぷそにーにはDFとストリが存在しないのである。という訳でEP1、本格開始しますよ。
開幕ヒロインちゃん死亡のお知らせと共に。