別れは突然に   作:立花祐子

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後編

「くそっ!!どうして開かないんだっ!!」

 

大倶利伽羅は、長谷部の部屋にある大型金庫を開けようとしていた。守護札を取り出すためだ。

 

…だが、金庫を開けるロックナンバーは長谷部にしかわからない。

光忠が、パソコンから主にメールを送ろうとしたが、断線しているのがわかった。

 

「…長谷部が死んじまう…」

 

大倶利伽羅は、金庫にもたれかかるようにしてうなだれた。光忠も為す術がなく、その大倶利伽羅の傍で立ち尽くしている。

長谷部は今、手入部屋にいる。命は尽きてはいない。だが、少しずつ姿が消えはじめていた。

 

「長谷部君っ!!」

「!!」

 

大倶利伽羅は、その声に驚いて顔を上げた。紛れもなく主の声だ。

 

「…主?」

 

長谷部の部屋の襖が開け放たれた。女審神者が、涙で顔をくしゃくしゃにして立っている。光忠も目を見開いている。

 

「長谷部君はっ!?どこっ!?」

「手入部屋に…」

 

その大倶利伽羅の呟きを聞いた主は、部屋を飛び出して行った。大倶利伽羅が、その主の後を追った。

 

……

 

「長谷部君っ!!目を開けて…お願いっ!!消えないで!」

 

大倶利伽羅が手入部屋についた時には、主が長谷部の頭を抱いて泣いていた。

 

「主!聞いてくれ!金庫のロックを開くナンバーを教えろ!!」

 

大倶利伽羅が、主の肩を掴んでそう尋ねたが、主は首を振った。

 

「…私にもわからないの…」

「えっ!?」

「全部…長谷部君に任せてたから…わからない…」

 

その言葉に、大倶利伽羅はその場に座り込んでしまった。

守護札を取り出せなければ、長谷部は死んでしまう。…蘇らせることは決してできない。

 

「死なないでお願い…お願い…」

 

長谷部の頭を抱きしめながら泣き崩れている主の姿に、大倶利伽羅は何かを決意したかのように立ち上がった。

 

……

 

大倶利伽羅と光忠は、金庫の前に立っていた。

 

「金庫を壊す?」

「そうだ。」

 

光忠の驚いた声に、大倶利伽羅はうなずいた。一緒にいる獅子王も目を見開いている。光忠が言った。

 

「刀で斬るのか?」

「それしかないだろう。」

「お前が折れるかもしれないぞ。」

「構うもんか。」

 

大倶利伽羅は、本体を出現させた。

 

「あんな主…2度と見たくない。」

「!…倶利伽羅…」

 

光忠はその大倶利伽羅の言葉に微笑むと、自分も本体を出現させた。

 

「同時にやるか。1本より2本だ。」

「!光忠!お前は残らなきゃならない!誰が、お守りを長谷部のところに届けるんだよ!」

 

光忠が、獅子王に向いた。

 

「その役目は、この中で一番「機動力」が高い獅子王、君(きみ)だ。」

 

獅子王は、目を見開いた。光忠が続けた。

 

「俺たちが金庫をとにかく壊す。その中からお守りを1つ持って、手入部屋に行くんだ。その時、俺たちがどうなっていても何もするな。少しでも早く、長谷部にお守りを届けるんだ。わかったな。」

 

光忠が、今まで見せたことのない厳しい表情で獅子王に言った。大倶利伽羅がうなずき、獅子王に向いた。

 

「…わかった。」

 

獅子王は、唇を震わせながらうなずいた。

 

………………

…………

……

 

ヒビが入った金庫の傍で、大倶利伽羅と光忠は倒れていた。

2人とも動かない。刀はどちらも折れている。

 

獅子王は、歯をギリギリと音を立ててかみしめた。

そして自分の本体を出現させ、その刀身を構えて振り上げた。

 

「待てっ!獅子王!」

 

祈祷を終えた石切丸が、部屋に飛び込んで叫んだ。そして、その刀身を握った獅子王の手を掴んだ。

 

「止めるなっ!!あと少しで壊せるんだ!」

 

獅子王はそう叫び、石切丸を振り切ろうとした。だが、石切丸の力は強く、振り切ることができない。

 

「お前の役目はなんだった?お守りを届けることだろう。」

 

何もかも知っているかのように、石切丸が言った。獅子王は、驚いた眼で石切丸を見た。

 

「だけど…!」

「私の「打撃力」は、君より強いって知っていたかい?」

「!!」

 

獅子王が目を見開いた。石切丸は、本体を出現させた。

 

「お守りを届けろ。わかったな。」

 

石切丸はそう言い、獅子丸の前に進み出ると刀身を上段に構え、片足を下げて目を閉じた。

 

「我に、森羅万象すべての力を与えたまえ…」

 

石切丸はそう呟くと、かっと目を見開き、右袈裟に刀を振り下げた。

大きな音と共に金庫が裂け、中から光が漏れた。…同時に刀が折れ、石切丸が倒れた。

 

獅子王は涙をこらえながら、その光の中に手を差し込んだ。そして、守護札を1つ掴むと部屋を飛び出して行った。

 

…石切丸がゆっくりと頭だけを上げ、金庫の方へ血だらけの手をかざした。

 

「…2つ…」

 

息を切らしながらそう言うと、守護札が2つ、金庫から浮かび上がった。石切丸はかざしている手を、ゆっくり光忠と大倶利伽羅の方へ向けた。守護札は2人それぞれの体に移動すると、ぽとりと落ちた。2人の体が光り輝いたのを見て、石切丸は安心したように体の力を抜いた。

 

……

 

長谷部は、ゆっくりと目を開いた。ぼんやりと、人の姿が見える。

 

「長谷部君!!」

 

その声に、長谷部は「主?」と呟いた。

 

「良かった!!長谷部君!間に合った!!」

 

主が長谷部の体に伏せ、声を上げて泣いた。長谷部は涙をこらえるような表情になり、主の頭を抱きしめた。

 

それを見届けた獅子王は、すぐに本舎に向かって走った。

 

……

 

獅子王が長谷部の部屋に飛び込んだ。

すると、大倶利伽羅と光忠が並んで片膝を立てて座り、ぐったりとした石切丸の上半身を2人で支えていた。

 

「!石切丸!!」

 

獅子王は、戦慄して石切丸の傍に座り込んだ。

 

「大丈夫。今、お守りを握らせたところだから。」

 

光忠が微笑みながら、獅子王に言った。獅子王は、ほっとして石切丸の顔を見た。

すると、石切丸が光り輝いた。

その眩しさに、皆、一瞬目をそらせた。

 

「あれ?」

 

石切丸が、獅子王、光忠、大倶利伽羅と順番に目を合わせて言った。

 

「あの世にしては、むさくるしいな。」

 

3人は、思わず吹き出して笑った。

 

……

 

手入部屋では、主が長谷部の胸にしがみついて眠っていた。

長谷部が、入ってきた光忠達を見て「すまなかった」と微笑んだ。

 

「…とにかく良かった。」

 

光忠がそう呟いて座った。その横に大倶利伽羅も座った。石切丸と獅子王は長谷部を挟んで向かいに座った。

 

「お守りは、どうやって取ったんだ?」

「……」

 

長谷部の問いに、全員が黙り込んでいる。…光忠が大倶利伽羅に向いて「どうせばれるから言うか」と言った。大倶利伽羅は苦笑してうなずいた。

 

「?」

「金庫を叩き斬ったんだ。」

「!!!えっ!?」

 

長谷部が思わず体を上げようとして、はっと胸の上で寝ている主を見た。4人が同時にしーっと人差し指を唇に当てて、長谷部を押さえた。

…主は起きる様子がない。

 

大倶利伽羅はそれを見てほっと息をつくと、小声で長谷部に言った。

 

「…実は、お守りもお前の分以外に、3つ使っちまって。」

「!!…まさか…お前たちも折れたのか!?」

 

獅子王が手を上げて「俺以外ね」と言った。長谷部が再び起き上がろうとしたが、4人がまた同時に自分の唇に人差し指を当てて「しーーーっ!」と言いながら、長谷部を押さえた。

 

「だって、そうするしかお守りを取る手段がなかったんだよ。ロックナンバーわからないし。」

「金庫を壊して、すまない。」

 

大倶利伽羅が弁解した横で、光忠がうなだれて謝った。

 

「違う!金庫を壊したことじゃない!お前たちが…折れたって事が…」

 

そこまで言うと、長谷部の目に涙が溢れ出てきた。

 

「!…長谷部…」

「まさか…そんな事してまで…」

 

長谷部は、目に手を乗せて嗚咽をもらした。

 

自分は死んでよかったのだ。誰も金庫を開けられないことをわかっていて、長谷部は竜巻に挑んだ。…まさか、自分たちが折れるのも構わずに、助けてくれるとは思ってなかった。

 

「ま、主が悲しむ姿を見たくなかっただけだよ。」

 

大倶利伽羅が、起きる気配のない主の頭を撫でながら言った。

 

「見ろよ。このだらしない主の顔。安心しきったガキのようだ。」

 

光忠が、声を押さえながら笑った。すると、主が寝言を呟いた。

 

「んー…もう飲めない。」

 

大倶利伽羅が目を見開き「もう宴会の夢かよっ!」と叫んだ。

長谷部を含め、全員が大笑いした。

 

……

 

主は、大倶利伽羅に抱き付いて泣いている。

 

…目を覚ましてすぐに、大倶利伽羅達が長谷部を助けるために、自分たちが折れるのも構わず金庫を叩き斬った事を聞かされたからである。

大倶利伽羅は、主に抱きつかれたまま困ったような表情で光忠達を見ている。光忠達は苦笑するばかりである。

 

「主ー…皆、お守りのおかげで助かったんだから、もういいだろー?」

 

大倶利伽羅がそう言うと、主が大倶利伽羅に抱き付いたまま言った。

 

「あんたたち、お守りがなくったって、無理するじゃないのよっ!!」

「だって長谷部死んだら、主、泣くし…」

「あんたたちが、死んでも泣くもんは泣きますっ!うちには、死んでもいい子なんて1人もいないのっ!!」

 

その主の言葉に、体を起こしている長谷部が、ふと微笑みうつむいた。

大倶利伽羅は、主の頭を撫でながら「わかったわかった」と子供をあやす様に言った。

 

「だけど…そもそもは、長谷部が無茶したのが悪いよな。」

 

長谷部が、その大倶利伽羅の言葉に「え?」と目を見開いた。光忠がうなずきながら「そうだよな。」と同意する。石切丸と獅子王は、思わず吹き出している。

 

「そうよ!もとはと言えばっ…!」

 

と、主が顔を上げて長谷部を見たが、はっとしたような表情になり、神妙な表情でうつむいた。

 

「?どうした?主?」

 

大倶利伽羅が、主の顔を覗き込みながら言った。

 

「…長谷部君は悪くない。」

 

呟くように言ったその主の言葉に、大倶利伽羅が「なんだよー!」と言いながら、主の額をついた。

 

「ほんっとに、主は長谷部に甘いよな!」

「違う!そういう意味じゃないの!」

「じゃぁ、どういう意味だよ!」

「……」

 

主は、大倶利伽羅から離れてうつむき黙り込んだ。光忠が大倶利伽羅の肩を叩いて言った。

 

「倶利伽羅、そろそろ主を許してやれ。可哀想になってきた。」

「え?俺、今悪者?」

 

大倶利伽羅が、長谷部達を見渡しながら言った。長谷部達は、苦笑しながら黙っている。光忠が、主の背中を優しく叩きながら言った。

 

「主、今日はゆっくりできるんですか?」

 

主は「え?」と光忠の方を見て、腕時計を見た。

 

「!…そうだった。一時的に通したラインだから、あんまり長くいられないんだ!」

「えっ!?」

 

全員が、目を見開いた。大倶利伽羅が、主の肩に手を乗せて言った。

 

「長くいられないって、時間はあとどれくらいなんだ?」

「…1時間くらいかな…」

「1時間っ!?」

 

長谷部達は、顔を見合わせた。光忠が、腕を組みながら言った。

 

「…準備を考えると、食事会は無理だな。」

「あっ、じゃぁさ、ビデオで見せたダンスと今練習しているダンスを見てもらおう!それなら時間いけるだろっ!?」

 

大倶利伽羅がそう言うと、主が「きゃああああああああああっ!」と両手を上げて、喜びの声を上げた。

5人は思わず、同時に耳をふさいだ。

 

 

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