長谷部、光忠、大倶利伽羅、石切丸の4人は、アネモネの花畑の前に膝を立てて横並びに座り、空を見上げていた。
獅子王は、短刀達を宿舎へ連れて行っている。
「覚えてるか?主が初めて、本丸に来た時のこと。」
大倶利伽羅が、おもむろに口を開いた。
「確か、いきなり長谷部に抱き付いたんだよな。」
「…そうだ…」
光忠がうつむきながら、寂しげに笑って言った。
「まるで、俺たち無視だったよな。」
「そうそう。」
長谷部は、神妙な表情のまま黙り込んでいる。
大倶利伽羅が、くすくすと笑いながら言った。
「その後、短刀達と一緒になって庭を走り回って…芝生を転げ回って…俺たちただ、呆然と見てるしかなかった。」
光忠と石切丸が、苦笑しながらうなずいた。
「長谷部」
大倶利伽羅が、黙り込んでいる長谷部の肩をぽんと叩いた。
「主の言うとおり、諦めずに待とう。諦めたら、何もかも終わっちまう。」
長谷部は、こくりとうなずいた。…だが、腕で目を覆い泣き出した。
「!長谷部…!」
光忠が、長谷部の頭を抱いた。石切丸は、涙をこらえるように空を見上げた。
その時、獅子王が、短刀達を連れて戻ってきた。
「?」
「なんだ?寝かしつけに連れて行ったんじゃなかったのか?」
大倶利伽羅がそう呟いた。
4人が不思議に思っていると、獅子王が叫んだ。
「短刀達が、俺たちに見て欲しいものがあるんだって!」
「見て欲しいもの?」
光忠が、呟いた。
……
短刀達は、アネモネの花畑の前に並んでいる。第1部隊の5人は、そんな短刀達を椅子に座って見ていた。
最前列の中央にいる乱(みだれ)藤四郎が、5人に向かって言った。
「今までずっと、主様がいない時も僕たちをずっと守ってくださったお兄様達に、お礼のダンスを踊りたいと思います。」
光忠が微笑み、大倶利伽羅が「え?」と目を見開いた。
「実は、お兄様達に内緒で、僕たちだけで曲を選んで、練習していました。まさか、こんな形で披露することになるとは思っていなかったけど…少しでも、お兄様達に元気になってもらえるように、頑張って踊ります。」
乱はそう言ってから、大倶利伽羅に向いた。
「お兄様、リモコンのスイッチを押してもらえますか?」
「え?あ、うん。」
大倶利伽羅が慌てて、椅子の下に置いていたリモコンを取り出した。
「もう押していいのか?」
「はい。」
大倶利伽羅は、再生ボタンを押した。静かなイントロが鳴り出した。
乱が言った。
「曲は「オツキミリサイタル」です。」
大倶利伽羅が目を見開いた。知っている曲のようだ。他の4人は不思議そうな表情をしている。
「…確かに、今の俺たちにぴったりの曲だな。」
大倶利伽羅がそう呟いた時、曲調が激しくなった。
乱を中心に、短刀達が飛び跳ねて踊り出した。
そして、乱が歌いだした。それに合わせて、短刀達が笑顔で踊る。
この曲は、落ち込んでいる友人をなんとか元気づけようとするが、どうしたらいいのかわからない心境を表している。だが、一生懸命に力になろうと励ますうちに、最後には、友人を元気づけることに成功するというハッピーエンドの歌である。
5人は眩しそうに、踊る短刀達を見ている。
間奏になってから、光忠がうつむき加減の長谷部の肩に手を乗せて言った。
「…長谷部、ちゃんと短刀達を見ろ。僕たちよりも小さな体で、一生懸命悲しみを振り払おうとしてるんだ。ほら2代目の五虎退なんて、泣きながら踊ってるだろ?僕たちを励ますためだけに、皆、辛いのをこらえて踊ってくれてるんだぞ。それに応えなくてどうする?」
長谷部は口にこぶしを当て、必死に嗚咽をこらえながら短刀達を見た。そして、うなずいた。
…曲が終わり、短刀達が、最後のポーズを元気に決めると、第1部隊の5人が同時に立ち上がって拍手をした。
そして、獅子王が「お前ら、最高だーっ!!」と言って、短刀達に向かって駆け出した。そして、短刀達を通り過ぎ、花畑に走りこむと振り返って「さぁ誰からだっこだ?」と言った。短刀達が嬉しそうな声を上げて、獅子王に駆け寄った。
それを見た大倶利伽羅と石切丸も、花畑に向かって駆け出した。
「あーあ、花畑が散々だ。」
光忠が笑いながらそう言い、長谷部を見た。長谷部も苦笑している。
「花には可哀想だが、今日は我慢してもらおう。」
長谷部のその言葉に、光忠がうなずいた。
花畑に、楽しそうな笑い声が響いている。
「あれ?」
五虎退に押し倒されるようにして、仰向けに寝転んだ石切丸が、空を見て思わず呟いた。
「?どうしたの?石切丸様?」
「…何か飛んでるぞ?」
「え?」
五虎退が、石切丸の胸の上に乗っかったまま、空を見上げた。
「僕には、見えない。」
「あっ!あれ、ドローンじゃないか!?空飛ぶカメラ!」
石切丸は、五虎退を抱きながら起き上がって叫んだ。
「えっ!?」
全員がその声に、空を見上げた。だが、誰にも見えないようだ。それぞれ、空を見渡している。
「皆、目を閉じて…心で見てごらん?」
石切丸が言った。全員がその通りに目を閉じた。
「あっ」
「あっわかった!」
1人2人と空を見上げ、皆、同じ方向を指さした。
「!!」
光忠と長谷部にも、ドローンの本体が見えた。
「!!俺たちを、まだ撮ってるんだ!」
光忠が言った。長谷部は、何かを思い出し「あっ」と言った。
「声だ…皆の声…!ドローンは、永続する音に反応して映像を撮るんだって、主が…」
光忠が駆け寄ってきた今剣を抱き上げ、肩車をしながら叫んだ。
「おい!主が見るかもしれない!皆、声を出すんだ!」
「!」
それを聞いた全員が立ち上がった。短刀達がそれぞれ「主様ー!」と叫んだ。
大倶利伽羅と獅子王、石切丸も、トンビのように飛び回るドローンを見ながら、手を振った。
光忠も、今剣を肩車しながら、花畑へ入り手を振る。
「主様ー!僕たちずっと待ってるよー!」
今剣が、ドローンに手を振りながら叫んだ。
他の短刀達も同じように叫ぶ。
長谷部はゆっくりと花畑に入り、アネモネの花を一輪、手に取って見つめた。
長谷部の脳裏に、主に初めてこの花畑を見せた時の情景が蘇った。
……
『主、見て!ほら!』
長谷部は、主を横抱きにしたまま言った。首にしがみついていた主が、ゆっくり頭を離して花畑の方を見た。
『!!わあっ!綺麗!』
主はそう言い、長谷部の顔を見上げた。
『何の花かわかりますか?』
長谷部がそう聞くと、主は、首を振った。
『「アネモネ」という花です。』
『アネモネ?』
『はい。紫のアネモネの花言葉は「貴女を信じて待つ」』
『あなたを…信じて…待つ…』
主が繰り返した言葉に、長谷部は微笑んでうなずいた。
……
いつの間にか傍にいた乱が、長谷部の手をそっと握った。
「お兄様…元気を出して…」
長谷部は乱に微笑んでうなずくと、その体を片腕で抱き上げドローンを見上げた。
(貴女を信じて、待っています。ずっと…)
長谷部は、乱と一緒にドローンに手を振りながら、そう心の中で呟いた。
-FIN-
挿入曲「オツキミリサイタル」by じん様