てなわけで、二つに分けて書かせていただきます。
それでは、三つ巴の代表決定戦、始まり始まり~☆
<一夏side>
あれから箒の稽古、その後は祇鳴のISの基礎知識の勉強というローテーションが続いた。
そして月曜。セシリアとの対決の日。
「…………」
「…………」
第三アリーナ・Aピットは沈黙に包まれていた。原因は俺の専用機で、何やらごたついていたらしく、結局来ていない。そう、今も。ああっ……沈黙が重い。
「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」
三度も呼ばなくていいです。こちらに向けて駆けてくる山田先生は本気で転びそうで、見ているこっちがハラハラする足取りである。
それに対して千冬姉は落ち着いた様子で歩いて来る。さすが元日本代表、気品が違う。
「千冬姉、どうし───」
パァンッ!
「織斑先生と呼べ。学習しろ。さもなくば死ね」
うわあ、聞きました?教育者とは思えないお言葉。美人の割に彼氏がいないのはこの性格の所為だと思う。
「ふん。馬鹿な弟にかける手間暇がなくなれば見合いでも結婚でもすぐできるさ」
おおう、読心術。千冬姉にはありとあらゆる意味で敵わない。
「そ、そ、それでですねっ!来ました!織斑くんの専用IS!」
──────え?
「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用出来る時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
──────はい?
「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ。一夏」
──────あの?
「え?え?なん……」
『早く!』
三人の声が重なった。
俺の周りにはこういう異性しか以下同文。
ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防壁扉は、重い駆動音を驚かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく。
──────そこに、『白』が、いた。
白。真っ白。眩しいほどの純白を纏ったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。
「これが……」
「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!」
真っ白のそれ。無機質なそれは、けれど俺を待っているように見えた。『そう、こうなることをずっと前から待っていた。この時を、ただこの時を。』
「体を動かせ。すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。できなければ負けるだけだ。わかったな」
急かされて、俺は純白のISに触れる。
「………」
不思議だ。試験の時に、初めてISに触れた時に感じたあの電撃のような感じはない。ただ、馴染む。これが何なのか、何のためにあるのか、理解できる。
「背中を預けるように、ああそうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化をする」
千冬姉の言葉通りIS──────白式の開いていた装甲が俺の体に合わせて閉じる。
「あ」
──────先頭待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネーム『ブルー・ティアーズ』。戦闘タイプ中距離射撃型。特殊装備有り─────。
「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」
いつもと同じ態度に見える千冬姉の、その微妙な声の震えまで知覚できる。─────ああ、心配してくれているんだな。
「大丈夫、千冬姉。いける」
「そうか」
ほっとしたような声。けれどそれは、ISのハイパーセンサーがなければおそらく分からないほどのブレだった。
それとなく、箒の方に意識を向ける。目を向ける必要はない。なにせ、自分の周り360度全方位が『見えている』から。
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「あ……ああ。勝ってこい」
その言葉に首肯で応え、俺は解放されたゲートから飛び出した。
<一夏side end>
────────────
<楯無side>
今日はこの学園に来た二人のイレギュラー、織斑一夏くんと翔河祇鳴くんの試合が行われるというので、授業を抜け出してきた。
この学園の長である以上、生徒の実力や伸び代を把握する義務がある。という名目上、ただ面白そうだから来てみただけだ。あはっ、お姉さんってだいた~ん♪
そして、お目当ての部屋、第三アリーナのモニター室に入る。
「更識、お前、何故ココに居る?」
「我が学園の男子二人が勝負すると聞きましたので、見にきました」
「織斑はオルコットと待機中だが、翔河はいないぞ?」
「あらら。」
たぶん寝てるわね、彼……昨日まで彼の行動を見てきた身としての感だけど、確実に寝ていると断言できる。
(だって彼、こういう場面ではまるっきり真面目じゃないんですもの……)
そう、例えば試験前日だったり剣道の試合の前でも、大概遊ぶか寝ているかの二択なのだ。逆に彼が真面目になったところを見たことがない。
「まあいい、今は試合が始まる」
織斑先生が静かに言うと同時に、試合開始のブザーが鳴った。
<楯無side end>
────────────
<一夏side>
「あら、逃げずに来ましたのね」
セシリアがふふんと鼻を鳴らす。また腰に手を当てたポーズが様になっている。
鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。
───警告、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行。セーフティのロック解除確認。
白式から情報が流れてくる。
アリーナ・ステージの直径は200m。発射から目標到達までの予測時間0.4秒。すでに試合開始の鐘は鳴っているので、いつ撃ってきてもおかしくない。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンスって?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」
「そういうのはチャンスとは言わないな」
「そう?残念ですわ。それなら───」
セシリアが手に持っている二メートルを超す長大な銃器、六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》の銃口を俺に向けて構える。
───警告!敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。
「お別れですわね!」
キュインッ!耳をつんざくような独特の音。それと同時に走った閃光が刹那、俺の体を撃ち抜く。
「うおっ!?」
白式のオートガードがどうにか俺の体を守ってくれた。直撃は免れたものの、成形途中だった左肩の装甲が一撃で吹き飛ぶ。直後、遅れてやってきた
────バリアー貫通、ダメージ46。シールドエネルギー残量、521。実体ダメージ、レベル低。
(くそっ、俺が白式の反応に追いつけてない!)
大雑把に説明すると、ISバトルは相手のシールドエネルギーを0にすれば勝ちだ。ただし、今のようにバリアーを貫通されると実体がダメージを受ける。そっちは数値化されているシールドエネルギーと違って、破損箇所などは大なり小なり後の戦闘行為に影響を与える。
「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
射撃、射撃射撃射撃。まさに弾雨の如き攻撃が降り注ぐ。しかも、それら全てが的確にこちらを狙ってくるため、凌ぐのですら難しい。
「装備、装備は!?」
白式に問うと、すぐさま現在展開可能な装備の一覧が現れる。───一覧?
「一個しかないんだが……」
『近接ブレード』と書かれた装備しか表示されない。はて、気のせいだろうか。はて。
「素手やるよりはましか!」
キィィィン……
高周波の音と共に俺の右腕から光の粒子が放出され、片刃のブレード、渡り1.6mはある長大な『刀』が形成された。
「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!」
セシリアは背に従えた四枚のフィン・アーマーを切り放す。機体の名前となった四つの自立起動兵器、『ブルー・ティアーズ』だ。
間隔27mの戦闘が幕を開けた。
────────────
「───二十七分。持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」
「そりゃどうも……」
シールドエネルギーの残量67。実体ダメージ中破。武器はかろうじて使えるが、かろうじて使えるというだけだ。
「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが始めてですわね」
そう言ってセシリアは自分の周りに浮いている四つの自立機動兵器を、まるでフリスビーを取ってきた愛犬を褒めるかのように撫でる。兵器をペット扱いするお嬢様……不気味だ。
「では、
「くっ……!」
セシリアの命令を受けて俺の上下に回ったブルー・ティアーズ───ややこしいから以下ビット───がレーザーを放ち、それをかろうじて防御、あるいは回避すると、その隙をセシリアのライフルが突いてくる。とにかくこのパターンだ。
「左足、いただきますわ!」
───まずい!左足はブルー・ティアーズの攻撃で装甲が吹き飛んでいる。そこに攻撃を食らえば、『絶対防御』が発動、エネルギー残量0で確実に俺の負けだ。
なら。一か八か───
「ぜああああっ!!!」
ガギンッ!派手な音と一瞬の火花。無理矢理の加速で、体ごとセシリアの持つライフルの銃身にぶつかる。それが功を奏し銃口が逸れ、なんとかとどめの一撃を免れる。
「なっ……!?無駄な足掻きをっ!」
俺にとどめの一撃を阻止され、一度距離を取ったセシリアは、空いている方の左手を横に振る。すると、それまで周囲の空間に待機していたビットが俺に向かって飛んでくる。
───よし、わかったぞ。
穿たれるレーザーをくぐり抜け、一閃。
真っ二つにされたビットは断面に青い稲妻を走らせ、一秒後に爆散した。───一機撃墜。
「なんですって!?」
「うおおおっ!!」
驚愕するセシリアに向けて、俺は上段打突の構えで斬り込む。
「くっ……!」
後方に回避するセシリア、そしてまた左手を振るう。そして残りのビットのうち二機を俺に向けて飛ばす。
「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない!しかも───」
軌道を先読みして、ビットの後部推進器付近を斬って、また一機撃墜させる。
「その時、お前はそれ以外の攻撃を出来ない。制御に意識を集中させているからだ。そうだろ?」
「………!」
ひくくっとセシリアの右目尻が引きつった。図星だな。
ビットは必ず反応が一番遠い角度を狙ってくる。いくらISの全方位視界接続が完璧といっても、それを操るのは人間だ。真後ろや真下、真上なんかはどうしても直感的に『見る』ことができない。セシリアはそこを突いてきている。だが、逆に『自分でその角度に誘導』すれば回避は出来る。
簡単に言えば隙を作ればいいのだ。後はそこに意識を集中し待ち伏せていればいい。
(───やれる。あとは集中するだけだ)
俺はやっと見え始めた勝利に、僅かに胸を躍らせた。
───────────────
───獲った!
セシリアの間合いへと踏み入った俺は、振り下ろした刀で一機、そのまま無重力起動の回し蹴りで残り二機、全てのビットを墜とす。ライフルの銃口も間に合わない。完全に一撃が入るタイミングだった。
「───かかりましたわ」
───まずい!にやり、と笑ったセシリアに、本能的に危険を感じて距離を置こうとするが。
「遅いですわ!」
ヴンッ───────
セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。その突起が外れて、動いた。
「お生憎様、ブルー・ティアーズは六機ありましてよ!」
さっきまでのレーザー射撃を行うビットとは違う。『
ドカァァァンッ!!
回避が間に合わずミサイルをくらう。赤を超えて白い、その爆発と光に俺は包まれた。
<一夏side end>
───────────────
<楯無side>
「一夏っ……!」
モニターを見つめていた箒ちゃんが、思わずといった感じで声を上げた。
「───ふん」
だけど、織斑先生は画面を見て鼻を鳴らした、どこか嬉しそうな表情で。
「機体に救われたな、馬鹿者め」
言葉に呼応するように、漂っていた煙が弾けるように吹き飛ばされる。そしてその中心には、あの純白の機体がある。
そう、真の姿の『白式』が。
(あれって、
なるほど、それならあの攻撃を受けても未だに浮遊出来るわね。
ということは、今まで彼は初期設定だけで戦っていたことになる。さすが、織斑先生の弟ってところかしら。
セシリアちゃんは、ようやくこの事態に理解がいき叫んだ。
『まさか………一次移行!?貴方、今まで初期設定で戦っていましたの!?』
織斑一夏くんは、自分専用になった機体、『白式』を見つめた後、セシリアちゃんに迫るが、一気にエネルギーゲージが0となる。
試合終了の合図が鳴り響いた。
『試合終了。セシリア・オルコットの勝ち』
『あれ……?』
「あらら。」
そういえば、織斑くんが持っていた刀……雪片って名前だっけ。
雪片───かつて織斑先生が振るっていた専用IS『
(それに、あの力……まさかとは思うけど、調べてみる価値はありそうね。)
「はぁ…………」
そんなことを考えている自分の隣りでは、頭に手を当て溜め息をつく織斑先生がいた。自分の家族の敗北と無事の両方が詰まった溜め息は、いつもより少しだけ長かった。気がした。
なんだかんだ言って愛されてるわね、織斑くん♪
織斑くんは、ピットに戻っていく。その姿を確認した織斑先生と山田先生もピットに向かった。
<楯無side end>
────────────
<一夏side>
「よくもまあ、持ち上げてくれたものだ。それでこの結果か、大馬鹿者」
試合が終わって、俺は馬鹿者から大馬鹿者になっていた。すげえ嬉しくないランクアップだった。
「武器の特性を考えずに使うからああなるのだ。身をもって解っただろう。明日からは訓練に励め。暇があればISを起動しろ。いいな」
「……はい」
「えっと、ISは今待機状態になってますけど、織斑くんが呼び出せばすぐに展開出来ます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ」
どさっ。今どさっていったよ。一手渡された超分厚い本、『IS起動におけるルールブック』と書いてある。しかも一枚一枚がめちゃくちゃペラ紙。何ページあんだよ……
「何にしても今日はこれでおしまいだ。帰って休め」
本当にこれが実の姉か疑わしくなる優しさの無さだ。しかし目の前にいるのが正真正銘、俺の、織斑一夏の実の姉、織斑千冬であった。
半分は優しさで出来ているという錠剤を見習って欲しい。というかこの人、俺が守る必要が本当にあんのか……?
「というか、祇鳴との試合はしなくていいんですか?」
「エネルギー0の状態で戦う気か、大馬鹿者」
もっともである。
<一夏side end>
いつもながら、行き当たりばったりの投稿ですいません。