IS~陽に魅入られた者~   作:ミツバチ

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時系列としては前話と同じ日にちです。

鈴との再会、一夏side。お楽しみください。


幼馴染と『約束』

<一夏side>

 

「お前のせいだ!」

 

「あなたのせいですわ!」

 

時間はあっという間に過ぎて昼休み、開口一番箒とセシリアが俺と祇鳴に文句を言っている。

 

「なんでだよ……」

 

この二人、午前中だけで山田先生に注意五回、千冬さんに三回叩かれていた。学習しないんだろうか。千冬さんの前でぼーっとするのは、危険過ぎる。

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」

 

「む……。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」

 

「俺も行く。鈴と久しぶりに話したいし」

 

「そ、そうですわね。祇鳴さんが行くなら、行って差し上げないこともなくってよ」

 

そのほかクラスメイトが数名付いてきて、俺達はぞろぞろと学食に移動した。

 

俺と祇鳴は券売機で今日も日替わりランチ。箒がきつねうどん、セシリアは洋食ランチを買った。またそれか。もっといろいろメニュー試そうぜ。俺も人のことは言えないけど。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

どーん、と俺達の前に立ちふさがっているのが噂の転校生、凰鈴音だ。ちなみに俺と祇鳴は略して鈴と呼んでる。髪型も昔から一貫してツインテール(正しくはサイドアップテールだっけ?)だ。そういえば箒も昔からポニーテールだったけ。祇鳴も金髪ポニーテールだし。

 

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

 

「う、うるさいわね。解ってるわよ」

 

ちなみにその手にはお盆を持っていて、ラーメンが鎮座している。

 

「鈴、ラーメンのびるよ?」

 

「わ、わかってるわよ!大体、なんで早く来ないのよ!」

 

待ち合わせしてたわけじゃないんだから無茶言うなよ。とりあえず俺達は食券をおばちゃんに渡す。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……」

 

俺の周りの異性は以下同文。なんでこういうアグレッシブな奴ばっかり集まるんだろうな。

 

「鈴、無茶言わないの」

 

「う、うっさいわよ!そもそもなんで祇鳴までここにいるのよ!?」

 

「俺がどこの高校に行こうが自由だろ」

 

「アンタ、まさか女の子にちやほやされたくてココ選んだわけ?」

 

今、何かすっごい内容の発言が飛び出したんだが。ま、どうでもいいけどさ。

 

「まさか、最初はIS学園入ること拒んでいて、一夏が入学するのをニュースで知って、一夏追っかけるために国のお偉いさん脅して、無理矢理推薦させて転校してきた鈴じゃあるまいし」

 

「なっ!?」

 

……ちょっと今度は聞き流せない内容なんだけど。

 

「お前……脅して推薦させたのか」

 

「ち、違うわよ!祇鳴もデタラメ言うな!」

 

「ふーん、じゃあなんで転校してきたの?」

 

「そ、そんなのどうでもいいでしょ!!ほら一夏、注文したのきたわよ!」

 

「お、おう」

 

俺は鈴に言われて日替わりランチの鯖の塩焼きを取る。こんがりとついた焼き目が食欲を誘う。

 

「逃げた」

 

「うっさい!アンタは細かいことを気にしすぎなのよ、このタヌキ!」

 

「タヌキ言うな!」

 

鈴は何故か昔から祇鳴のことを『タヌキ』と呼ぶ。ちょっとからかっていたら鈴から『タヌキ』と呼ばれていた。たしかアニメで『夜天の主』っていう人もそう呼ばれてたっけ。小さい頃のことだから覚えてないけど。

 

「……タヌキ……か」

 

「なぜでしょう。祇鳴さんをタヌキと呼ぶことにすごくしっくり感が」

 

『うんうん』

 

「オイこらそこ、納得しない!」

 

祇鳴=タヌキ 満場一致☆

 

「ここで立ってても仕方ないからとりあえず行こうぜ。向こうのテーブルが空いてるしな」

 

それからすぐテーブルにつけた。テーブルは二つ空いていて、俺、鈴、祇鳴、箒、セシリアが一つのテーブルに着いて、残りのクラスメイトがもう一つのテーブルに着いた。

 

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

「俺だってびっくりしてるよ。鈴がたった一年で代表候補生の専用機持ちになるなんてね」

 

「あたしにかかればちょろいわよ」

 

丸一年ぶりの再会ということもあって会話が弾む。

 

付き合いの長い幼馴染は、やっぱり空白期間が気になるものだ。箒もそうだったし。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 

「そうですわ!祇鳴さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」

 

疎外感を感じてか、箒とセシリアが多少刺のある声で訊いてくる。他のクラスメイトも、興味津々で頷いていた。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」

 

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」

 

「…………」

 

「?何睨んでるんだ?」

 

「なんでもないわよっ!」

 

いきなり鈴が怒った。変な奴。

 

「……はぁ……」

 

「なんで溜め息つくんだよ?」

 

「別に………この唐変木」

 

「は……?」

 

ほれ見ろ鈴、お前の所為で祇鳴までおかしくなったじゃないか。

 

「幼馴染……?」

 

「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ?鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな。鈴も俺と同じく祇鳴とは中学の頃からの友達だ」

 

そっか、箒と鈴って面識無いんだよな。ちょうど入れ違いで引っ越してきたし。

 

「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ?小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道の娘」

 

「ふうん、そうなんだ」

 

鈴は箒をジロジロと見ている。箒は箒で負けじと鈴を見返していた。

 

「初めまして。これからよろしくね」

 

「ああ。こちらこそ」

 

そう言って挨拶を交わす鈴と箒の間で、火花が散ったように見えた。疲れているんだろか。だとしたら休もう。日本人の悪いところは休み方を知らないところだとフランス人社長がテレビで言ってたし。

 

「ンンンッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

「……誰?」

 

「なっ!?わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?まさかご存じないの?」

 

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

 

「な、な、なっ……!?」

 

言葉に詰まりながらも怒りで顔を赤くしていくセシリア。ゆでダコみたい───とか言ったらすげえ怒るだろうなぁ。言わないでおこう。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

 

「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

ふふんといった調子の鈴に、俺は相変わらずの自信家だと思った。鈴は嫌味で言ってるのではなく、確信染みて言ってるのだ。それも素で、そう思っている。

 

「一夏。アンタ、クラス代表なんだって?」

 

「お、おう。成り行きでな……っていうか祇鳴が勝手に決めたんだが」

 

「ふーん……(チラッ)」

 

鈴はどんぶりを持ってゴクゴクとスープを飲みながら祇鳴を見る。アイコンタクトで祇鳴に何か言ったみたいだが内容は不明。珍しいな、あいつが祇鳴と普通に話すの。話してないけど。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

祇鳴から視線を外した鈴は次に俺に向けて言う。いつもはハキハキと歯切れのいい会話なのだが、今回は珍しく歯切れが悪い。

 

「そりゃ助か───」

 

ダンッ!

 

箒はテーブルを叩いた直後に勢いのまま立ち上がる

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

 

うお、顔怖っ!余程クラス対抗戦に燃えているらしい。俺も少しは見習おう。

 

「(トーガ、しののんが怖いよ〜)」

 

「(ああうん、ハッキリ言って俺も怖い…)」

 

そして俺の隣ではいつの間に来たのか、怯えるのほほんさんとそれを慰める祇鳴の姿が見てとれた。あいつ、昔っから人の面倒はよくみるからな。……セシリアが睨んでるから程々にしとけよ?そっちの方が怖いから。

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

 

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 

おいおい箒さん。別に俺は『どうしても』と言った覚えは無いと思うんだが。

 

「あっそ。そ、それよりさ一夏、今日の放課後って時間ある?あるよね。久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ。祇鳴は明日で良いからさ」

 

「残念ながら鈴、それは叶わぬ約束だよ」

 

「何よ祇鳴。アンタまた一夏と約束を入れてるの?少しはあたしに気を利かせ……」

 

「違くて。あのファミレスは去年潰れたから無理なんだよ」

 

「そ、そう……なんだ」

 

祇鳴が邪魔してると勘違いしていたらしい。鈴や、話は最後まで聞きなさい。

 

「じゃ、じゃあさ一夏、学食でもいいから。積もる話もあるでしょ?」

 

「あ、鈴。どの道今日の放課後は……」

 

「今度は何なのよ!?」

 

祇鳴が言おうとすると鈴はまた怒鳴る。牛乳ちゃんと飲んでるか?そんなんだから身長も胸も───うん、止めとこう。

 

「───あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は決まってる」

 

待て箒、なんでお前が決めるんだ?俺には放課後の過ごし方さえ選べないというのか。無体この上ない。

 

「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」

 

おい待て鈴。お前も確認ぐらい取ってから……ってもう行ったか。本当に人の話しを聞かない奴等ばかりだ。難儀だな、俺。はぁ……。

 

────────────

 

そして時間は過ぎて放課後、今日使用可能なのは第三アリーナ。

 

「え?」

 

今日も祇鳴とセシリアにIS操縦を教えてもらう予定だった。そしてアリーナについたら一人の女子がIS『打鉄』を装着しながら立っていた。

 

「な、なんだその顔は……おかしいか?」

 

「いや、その、おかしいっていうか───」

 

「ど、どうしてここにいますの!?」

 

そう、立っていたのは箒だった。

 

打鉄は純国産ISとして定評のある第二世代の量産型。安定した性能を誇るガード型で、初心者にも扱いやすい。そのことから多くの企業並びに国家、そしてIS学園においても訓練機として一般的に使われている。

 

ちなみに『打鉄』はモンド・グロッソの連覇した千冬姉の専用機『暮桜』の機体デザインを<基本:ベース>として作られたISだ。そして作られた『打鉄』は鎧武者のような形をし、<標準装備:デフォルト>は刀型近接ブレード《葵:あおい》とアサルトライフル《焔備:ほむらび》となっている。

 

もっとも箒がアサルトライフルを使うことはないと思うけど……

 

「近接格闘戦の訓練なら私の出番だ」

 

確かにそうかもしれない。剣道の全国大会優勝者ならセシリアより遥かに俺のためになる。

 

「くっ……。まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が下りるだなんて……」

 

悔しそうな顔をするセシリア。なぜだ?

 

「では一夏、始めるとしよう」

 

「お、おうっ」

 

やる気満々の箒。刀型近接ブレードを鞘から抜くかのように展開する。俺もやる気満々の箒を見て、あらかじめ展開されていた《雪片弐型》を両手で握って構える。

 

「では───参るっ!」

 

──と、そこに割り込む影がひとつ。

 

「はい、ストップ」

 

割り込んできた人影───祇鳴が展開した<玄武>で俺と箒の刀を受け止める。

 

「な、なんだ!いきなり」

 

「悪いけど一つ試したいことがあるから、少しだけ付き合ったもらうよ」

 

「俺は別にいいけど」

 

「一夏がそういうなら…」

 

「ありがとう。それじゃあ早めに終わらせるよ」

 

そう言うと祇鳴が<玄武>を展開したまま少し離れる。

 

「一夏、今から君に突撃するから防いでみて」

 

「お、おう」

 

何だかよくわからないまま《雪片弐型》を構える。

 

「それじゃ、いくよ!」

 

そう言って前に飛び出した祇鳴は───

 

ヒュン──────

 

次の瞬間には跡形もなく消え去った。

 

「なっ……」

 

「え?……か、祇鳴…さん?」

 

横で見ていた二人も完全に絶句している。そしてこの状況を作り出した張本人の声が、俺の背後から聞こえた。

 

「どう?見えた?」

 

「か、祇鳴さん!!」

 

「お前、どこから……」

 

「い、いや全く……ていうかお前今何を!?」

 

当然の疑問を祇鳴に投げ掛ける。若干声が上擦っているのは気の所為ではない。

 

「加速の一瞬だけ<玄武>で、俺の前2mにわたって真空状態を作ったんだよ。まあ、世間で言う真空砲のの原理を利用したんだよ。今回弾が人だったから上手くいくか分からなかったけど」

 

「真空って……」

 

普通はできないと思うんだけど。

 

「もうなんでもアリですわね…」

 

「たぬき……」

 

二人も今の説明に苦笑い気味だった。

 

「ありがと、これで一応真空砲に関しては成功したみたいだし、後は一夏の特訓だね。対抗戦では勝ってもらわないとね!」

 

「よっしゃ、いっちょ頼むぜ3人とも!」

 

「よし!では早速……」

 

「箒は準備運動終わってからね?」

 

「ぐっ……」

 

どうやら祇鳴に対して誤魔化しはきかないらしい。

 

どんまい、箒……

 

───────────────

 

「ふう……」

 

訓練が終わって俺はアリーナの更衣室のベンチに座って休んでいた。更衣室には当然俺一人。箒、セシリアは反対側の更衣室。祇鳴はさっさと帰った。

 

五十近くのロッカーのある更衣室を一人で使うには広すぎる。

 

「一夏っ!」

 

バシュッとスライドドアが開いて鈴が現れる。

 

「おつかれ。はい、タオル。飲み物はスポーツドリンクでいいよね」

 

「サンキュ。あー、生き返る……」

 

汗まみれの顔というのはそれだけ鬱陶しいものだ。それをタオルで拭けて、しかも水分補給のドリンク付きと来ている。平時に飲むには糖分が高すぎるそれも、スポーツの後の体には非常に助かる。糖は大事なエネルギー源だ。

 

「一夏さぁ、やっぱ私がいないと寂しかった?」

 

「まあ、遊び相手が減るのは大なり小なり寂しいだろ」

 

「そうじゃなくってさぁ。一年ぶりに会うんだからさぁ」

 

「……あぁ、そうだ。大事なことを忘れてた」

 

「うんうん!」

 

鈴が凄い目を輝かせて俺を見る。しかも上機嫌のように見える。

 

「中学の友達とかには連絡したのか?お前が帰ってきたって聞いたからスゲー喜ぶぞ」

 

「そうじゃなくてさ!」

 

なんか今度は怒ってる。なんでこんなにコロコロと変わるんだ?

 

「そろそろ体が冷えてきたし、着替えていいか?続きは部屋で話そうぜ」

 

「そ、そうね。一夏の部屋で話せばいいわね」

 

なんだ?さっきは怒ってたのになんか嬉しそうな顔になったぞ。

 

「そうだな。箒にもきちんと紹介したいし」

 

「………は? なんでそこでソイツが出てくんのよ?一夏の部屋で話すんでしょ?」

 

あ、そっか。言ってなかったっけ。

 

「俺、いま箒と同じ部屋なんだよ」

 

「……は?」

 

「いや、俺の入学ってかなり特殊なことだったから、別の部屋を用意出来なかったんだと。だから、今は普通に二人部屋で───」

 

「そ、それってソイツと寝食を共にしてるってこと!?」

 

「まあ、そうなるか。どもまあ、箒で助かったよ。これが見ず知らずの相手だったら緊張して寝不足になっちまうからな」

 

「…………」

 

鈴が俯いて反応がない。なんか、こういう時っていつも嫌な予感しかしないのはなぜだろう。

 

「うん?どうした?」

 

「………ったら、いいわけね………」

 

「ん?」

 

俯き加減の鈴が何と言ったのか聞き取れず、俺は耳を傾ける。角度の関係もあって、表情が見えない。

 

「だから!幼馴染ならいいわけね!?」

 

「うおっ!?」

 

いきなりガバッと顔を上げられて、俺は驚いて身を引く。もうちょっと近づいていたら確実に頭突きを食らっていたな。

 

「解った。解ったわ。ええ、ええ、よく解りましたとも」

 

なぜかひとりで納得を始めた鈴は、何度も何度も頷いている。なんだなんだ?何が解ったんだ?

 

「一夏っ!」

 

「お、おう」

 

「幼なじみは一人じゃないってこと、覚えておきなさいよ!」

 

「別に言われなくても忘れてないが……」

 

「じゃあ、後で部屋でね!」

 

「おう」

 

鈴は更衣室から飛び出していく。なんなんだ?

 

「…………あ」

 

俺は重要なことを思い出した。

 

「……鈴に部屋の番号教えてなかった……」

 

とりあえず、着替えるか。俺は着替えて更衣室を出た。

 

───────────────

 

「というわけで、部屋替わって」

 

「…………………は?」

 

「いきなりやってきて命令口調…」

 

寮の部屋、時刻は八時過ぎ。夕食も終わってISの基礎知識を勉強していたらいきなり鈴がやってきた。

 

教えてないのにどうしてこの部屋だと解ったんだ?

 

「いいからさっさと代わりなさいよ!!」

 

「ふ、ふざけるなっ!何故私がそのようなことをしなくてはならない!?」

 

───やばい、この二人は相性最悪だ。

 

「というか寮の部屋は寮長の千冬姉が決めてるから、俺たちにその権限はないんだけど。」

 

「いいから代われ!」

 

「言ったことちゃんと聞いてた!?俺たちにそんな権限はないって!」

 

なんというか、噛み合ってない。正論を言っても、鈴は我が道を行く性格というか、我がままで話を聞いていない。

 

鈴はなんでそこまで必死になって代わろうとしてるんだ。というか、目の錯覚だろうか。鈴はすでに自分の荷物を持ってきているように見えるんが、俺の幻覚だろうか。

 

「鈴」

 

「なに?」

 

「それ、荷物全部か?」

 

「そうだよ。あたしはボストンバッグ一つあればどこでも行けるからね」

 

「相変わらずのフットワークの軽さだな」

 

そういや、祇鳴の荷物もボストンバッグ一つだったような気がするのは俺の勘違いだったか?

 

「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから!」

 

「ふ、ふざけるなっ!出ていけ!ここは私の部屋だ!」

 

さっきから会話が進んでない。同じ会話がグルグル回っている。

 

『一夏、なんとか言え!!(言って!!)』

 

二人が同じことを言って、同時に俺を見る。ていうか、睨む。

 

「俺に振るなよ……」

 

頭痛い。半分が優しさで出来ている錠剤が必要だ。

 

「とにかく!部屋は替わらない!出ていくのはそちらだ!自分の部屋に戻れ!」

 

「ところでさ、一夏。約束覚えてる?」

 

「約束……?」

 

「む、無視するな!」

 

箒が何か言っているが、正直鈴が言う約束の方が気になった。

 

「覚えてる……よね?」

 

急に顔を伏せて、ちらちらと上目遣いで俺を見る。心なしか恥ずかしそうに見えるのはやっぱり気のせいなんだろうか。

 

「えーと、あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を───」

 

「そ、そうっ。それ!」

 

「───奢ってくれるってやつか?」

 

確か、小学校の頃にそんな約束をしたような気がする。よく覚えてるな、俺。すごいぜ記憶力。

 

「…………はい?」

 

「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺にメシを御馳走してくれるって約束だろ?」

 

なにしろタダである。こんなにありがたいことはない。

 

「いやしかし、俺は自分の記憶力に感心───」

 

 パアンッ!

 

「……へ?」

 

いきなり頬をひっぱたかれた。いきなりのことで何が何だかよく解らない。ぱちくりと瞬きをすると、箒と目があった。向こうも、状況が把握できないといった顔をしている。

 

「え、えーと……」

 

ゆっくり、ゆっくりと顔の向きを元に戻す。次第に見えてくる鈴の姿。そうであって欲しくないナンバーワンの光景が待っていた。

 

「…………」

 

肩を小刻みに震わせ、怒りに充ち満ちた眼差しで俺を睨んでいる。しかも、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、唇はそれがこぼれないようにきゅっと結ばれていた。

 

「あ、あの、だな。鈴……」

 

「最っっっ低!!女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないヤツ!犬に噛まれて死ね!!」

 

そこから鈴の行動は素早かった。床に置いていたバッグをひったくるように持って、ドアを蹴破らんばかりの勢いで出て行く。

 

バタンッ! という大きな音が響いて、やっと俺は我に返った。

 

「……まずい。怒らせちまった。」

 

完全に俺が悪い……んだろう、たぶん。

 

「一夏」

 

「お、おう、なんだ箒」

 

「馬に蹴られて死ね」

 

ぐあ、何故か箒もお怒りだ。しかも今になって頬が痛い。これ、明日までに消えるかな……

 

「はあ……」

 

ああ、なんで俺の周りの異性って以下同文。

 

───翌日、生徒玄関前廊下に大きく張り出された紙があった。

表題は『クラス対抗戦日程表』。

一回戦の相手は二組───鈴だった。

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