IS~陽に魅入られた者~   作:ミツバチ

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はい、どうも。相方がいつもすみません。
ミツバチの片割れこと、ハッチーです。

「お。今回は此方の主様か。相方はどうしたんだ?」

驚くことに、見事に夏風邪をひいて寝込んでおります。

「それは確かに驚きだな」

でしょ?夏に風邪をひく奴なんて初めて見たし、それにあいつは元気が取り柄の───

「馬鹿でも風邪をひくんだな」

そっち!?

「まあ、あいつは無駄に元気が取り柄の馬鹿なんだから大丈夫だろ。」

いやいやいや。
あれでも、無尽蔵じゃないんでね?
それに心配しとかないと、後で「心配すらしてくれないなんてこの薄情者!」とか言って煩いから、形だけでも心配しといた方がいいよ?

「はっ!ざまぁないね!」

まさかの暴言!?

「それでは、『金の貴公子と銀の剣』スタート!!」

唐突だし、それ俺のセリフなんだけど……


金の貴公子と銀の剣

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

転校生の一人、シャルルはにこやかな笑顔でそう告げて一礼する。

 

呆気にとられたのは俺を含めてクラス全員がそうだった。

 

「お、男…?」

 

誰かがそう呟いた。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を───」

 

濃い金色の髪を伸ばして後ろの方で丁寧に束ねており、顔立ちは中性的。体つきは華奢とも思えるくらいにスマートで、しゅっと伸びた脚が格好いい。

 

印象は、誇張じゃなく『貴公子』といった感じで、特に嫌味のない笑顔が眩しい。

 

「き……」

 

「───はい?」

 

ふとそんな声が女子達の方から漏れ、祇鳴は言いようもない危機感を感じとって、静かに両手で耳を塞いだ。

 

『きゃああああぁぁぁぁぁ!!!』

 

直後教室内から歓声が走った。ただしその音量は、人の耳の許容出来る大きさを越えており、歓声というより凶声といった感じではあったが。塞いでいても軽く耳が痛いほどに。

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれてよかった〜!」

 

「死にそうになるほど勉強して、IS学園に来てよかった〜!」

 

そんなに、嬉しいの?

 

それにしても、俺たち以外に男でISを動かせる奴がいたとはね。驚きだ。

 

女子達がきゃーきゃーと騒ぎ、祇鳴はやれやれというように息を吐いた。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

面倒くさそうに千冬姉さんがぼやく。仕事がというより、こういう十代女子の反応が鬱陶しいんだろう。学生の時も一般的な女子とはつるんでいなかったしね。

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

そして、忘れていたわけではないが───というより意識の外に追いやるのが難しいもう一人の転校生は、見た目からしてかなりの異端であった。

 

腰近くまで下ろした輝くような銀髪に、透き通るような白い肌。そこまでなら、文句なしの美少女だったろう。

 

だが左目の眼帯と、射抜くような視線が冷たい印象を与える。

 

「………」

 

そして実際に、腕組みをしながら右目の赤い瞳で教室内の女子達を下らないものを見るような目で見ている。いや、そう思っていたがその視線は既に千冬姉さんに向けていた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

千冬姉さんの言葉に、いきなり佇まいを正して敬礼を持って返す少女───ラウラに、クラス一同がぽかんとする。

 

対して、異国の敬礼を向けられた千冬姉さんはさっきとはまた違った面倒くさそうな顔をした。

 

「ここではそう呼ぶな。私はもう教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えるラウラは、ぴっと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばしている。

 

それを見て、祇鳴は一つの予測をもって一夏へと耳打ちする。

 

(一夏、確か千冬姉さんはドイツで教官をしていたことがあったって言ってたよね?)

 

(え、ああ。山田先生とか学園関係者にそう聞いたけど……千冬姉、俺にはどこで何してるのかくらい教えてくれよなぁ……)

 

ごめん、俺が教えなかっただけです、すみません。反省はしている、だが後悔はしていない。だって、その方が面白いからです。人は己の快楽に対しての欲求には素直であるべきなのだ。

 

と、哲学的なこと言えば許してもらえるかねぇ。───無理か。

 

(お、なんだ寂しいのか?)

 

(ち、違えよ!)

 

しかも、さらに追い打ち。酷いやからがいたもんだ。

 

しかし、お陰で祇鳴の予測は確信へと変わる。間違いなく彼女はドイツのしかも軍人、少なくとも軍関係者だ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

『…………』

 

ラウラはようやく名前を名乗り、クラスの少女達はその続きを待つ。しかし彼女は名前を名乗るとまた口を固く閉じてしまっていた。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

空気に居た堪れなくなった山田先生が出来る限りの笑顔でラウラに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけだった。

 

あ、山田先生が段々涙目になってきた。こらこら、先生をあんまりいじめるんじゃないよ?入学式の日に同じ事をした奴が隣にいるけどね?こいつと同等の馬鹿、そんな認識は嫌でしょ?

 

そんな極めて失礼なことを考えていた所為なのかどうかは分からないが、彼女の目が一夏と合っていた。

 

「!貴様が───」

 

ラウラはそう呟くと、へっ?といった感じの表情をしている一夏につかつかと歩き寄る。

 

次の瞬間、ラウラの腕が上がるのを見た祇鳴が音も無く立ち上がると、彼女の後ろに回り振り上げた右手の手首を掴む。ちなみに今は下げたままの左手首もそっと取っている。

 

「………なんのつもりだ、貴様?」

 

「〈一夏:家族〉が殴られるのを黙って見ていられるほど、俺は器が大きくないんでね。」

 

ラウラは後ろを取っている祇鳴を右目で睨みつけると、祇鳴はふっと笑みを浮かべながら飄々とした声質で返した。

 

「……ふん」

 

ラウラはつまらなくなったというように祇鳴の手を振り払うと、空いている席に座り目を瞑って腕を組み、また微動だにしなくなった。

 

ああしてれば、西洋のお人形みたいで可愛いんだけどな…

 

「あー……ゴホンゴホン!ではホームルームを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

千冬姉さんはそう言って手を叩き行動を促した後、それから一夏と俺を見た。

 

「織斑、翔河。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

「はい!」

 

「わかりました。」

 

まあ、そうなるよね。

 

「えっと、君が織斑くんであなたが翔河くん?初めまして、僕は───」

 

「ああ、自己紹介は後でいいから。とりあえず今は移動が先だよ。女子が着替え始めるから」

 

説明と同時に行動に移す。シャルルの手を握ってそのまま教室を出た。一夏もその後をついてくる。

 

「とりあえず男子は空いているアリーナ更衣室で着替え。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてね」

 

「う、うん……」

 

「おっと、敵襲来るぞ!」

 

「て、敵襲!?」

 

祇鳴の説明に対しシャルルは落ち着かなさそうに頷くが、一夏の言葉を聞くとぎょっとしたような声を上げる。

 

ああ、そういやこれもあったっけ……

 

一々面倒くさいので説明はしない。知りたければ前を見よ。

 

「いたっ!こっちよ!」

 

「者ども出会え出会えい!」

 

そこに現れるたるは敵もといIS学園の女子。あれに呑まれたら最後、質問攻めの挙句に授業に遅刻、鬼教師の特別プログラムが待っているのだ。だか何故か、その雰囲気は曲者を見つけた武家屋敷。今にも法螺貝の音が聞こえそうであった。

 

ぶぉ〜おおぉ〜〜♪

 

……ホントに吹いてるし。あ、千冬姉さんに叩かれた……お気の毒に。

 

「祇鳴くんに続いて二人目の金髪!」

 

「織斑くんの黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」

 

「しかも瞳はアメジスト!」

 

「きゃああっ!見て見て!祇鳴くんと転校生!手!手繋いでる!」

 

「日本に生まれて良かった!ありがとうお母さん!今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

いや今年以外もちゃんとしたプレゼントしようよ。というか、河原の花って勝手に取ったらダメなはずだけど?

 

「な、なに?なんで皆騒いでるの?」

 

「そりゃ、男子が俺達だけだからだろ?」

 

困惑顔のシャルルに一夏が返すと、きょとんとした顔を見せる。

 

「いや、普通に珍しいだろ?ISを操縦できる男って今のところ俺達しかいないんだから」

 

「あっ、そ、そっか!ああ、うん、そうだね!」

 

一夏の訝しげな表情での言葉にシャルルはこくこくと頷く。

 

「ついでに言えばここの女子は男子との接触経験が極端に少ないから。俺達はウーパールーパー状態なんだよ」

 

「ウー……何?」

 

「二十世紀の珍獣のこと。まあウーパールーパーは流通名で正式名称はメキシコサラマンダーって言うんだけどね。昔日本で流行ったそうだよ?」

 

「へぇ~」

 

「お前、変なとこで博識だな。俺、二十世紀の珍獣で昔日本で流行ったくらいまでしか知らなかったぞ……」

 

「トリビアが豊富だと言ってくれ」

 

シャルルが感心したように頷き、一夏が苦笑を漏らす。

 

その間も祇鳴は、辺りをきょろきょろと見回し人の気配がない事を確認する。

 

「よし、包囲網突破!だけど伏兵がいる可能性もあるから、更衣室に着くまで油断しないでよ?」

 

「イエッサー!」

 

「は、はーい……」

 

祇鳴の言葉に一夏がノリノリで返し、それに乗せられる感じでシャルルも困惑気味に返す。

 

そして祇鳴は走りながらシャルルの方を振り向いた。

 

「さて、まあなんにせよ、数少ない男子同士これからよろしくね。俺は翔河祇鳴、祇鳴でいいよ」

 

「俺は織斑一夏、一夏って呼んでくれ。苗字じゃ織斑先生と紛らわしいしな」

 

「うん、これからよろしく。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「分かった、シャルル」

 

「うん。よろしくね、シャルル」

 

走りながら三人がそれぞれ自己紹介をしあい、そうこうしている内に校舎を出ていた。どうにか群衆には捕まらずに済んだらしい。

 

「はい、到着〜!」

 

そして更衣室に到着し中へと入ると、一夏が時計を確認する。

 

「うわ!時間やばいな!すぐに着替えちまおう」

 

時間を見た一夏がやばいと判断して一気に服を脱ぐ。確かにあのISスーツ、身体にフィットするように作られているから、物凄く着づらいのだ。

 

「わあっ!?」

 

と、いきなりシャルルが声を上げた。それに祇鳴も制服を脱ぎながら声を返す。

 

「どうしたんだデュノア?荷物でも忘れたか?」

 

「あ、い、いえ、そうじゃないんだけど……」

 

「じゃあなんで着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないけど、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で……」

 

「うっうん?き、着替えるよ?で、でもその、あっち向いてて、ね?」

 

「???いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないが……って、シャルルはジロジロ見てるな」

 

「み、見てない!見てないよ!?」

 

なんだか不可解な反応をするシャルルに一夏が訝し気な目を向けるが、その思考は頭への軽い小突きにより中断させられた。

 

「一夏、いくら男同士でも恥ずかしいとかで裸を見せたがらない人はいるんだよ?シャルルはそういうタイプなんじゃないの?」

 

「そ、そう!そうなんです!!」

 

祇鳴の助け舟にシャルルはこくこくと何度も頷く。それでもまだ不思議そうな表情をしていたが、今はそれどころではなかった。

 

「そうか?まあ、本当に急げよ。初日から遅刻とかシャレにならない……というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

 

「ああ。最悪の場合死を覚悟しておけば間違いない」

 

「そこまで言うか?」

 

当たり前である。

 

一夏は苦笑し、二人は着替え進める。

 

「……」

 

妙な視線を感じ、祇鳴と一夏がそっちに視線を向ける。

 

「シャルル?」

 

「な、何かな?」

 

視線の先にいたシャルルは少しだけ一夏達の方に向けていた視線を慌てて壁の方にやって、ISスーツのジッパーを上げた。

 

「うわ、着替えるの早いな。なんかコツでもあんのか?」

 

「い、いや、別に……って一夏まだ着てないの?」

 

シャルルの言葉に一夏が呟く。一夏はズボンと下着を脱いでISスーツを腰まで通したあたりで止まっており、その間にも刻一刻と死の宣告時間が迫っている。何この緊張感、ゾクゾクしちゃう。まあ、どうでもいいけど。

 

「これ、着るときに裸っていうのが何か着辛いんだよなぁ。引っかかって」

 

「ああ、分かるな」

 

「ひ、引っかかって?」

 

「おう」

 

「………」

 

気の所為か、シャルルの顔が真っ赤になる。祇鳴は二人に悟られない程度に、一瞬怪訝な目を見せたが、すぐに何事もなかったかのように準備を済ませる。

 

「よっと……よし、行こうぜ」

 

「おう。ダッシュで行くぞ」

 

「う、うん」

 

そして一夏が着替え終えると、三人はダッシュで更衣室を出て行った。

 

────────────

 

「遅い!」

 

はい、第一声からいただきました……

 

第二グラウンドに無事到着───とはいかなかった。なんせ、鬼が腕を組んで待っているのだから。金棒も持たせたら完璧ではないだろうか。まあ、その場合は鬼に金棒どころか鬼にエクスカリバー並の危機的状況に陥るだろうが。つまり、普段でも充分恐いということである。

 

はい、イマイチ何言ってるかわからないですねすみません。

 

「くだらん事を考えている暇があったらとっとと並べ!」

 

ばしーん!

 

ご指導ありがとうございます。

 

千冬姉さんに叱られてしまい、ついでに一夏も何か妙な事を考えていたのか、千冬姉さんに同じく出席簿による指導を受けていた。今日も出席簿は好調にその角を擦り減らしております。あれって買い替えたらいくらぐらいなんだろうね?百均?

 

バシン!本日四度目の快音が頭上から響いた。

 

三人は一組整列の一番端に加わる。

 

「随分ゆっくりでしたわね」

 

一難去ってまた一難とはまさにこういう事なんだろうか。

 

何の因果か隣の女子はセシリアだった。何故かその声から微かに棘を感じるのは気の所為では無いようだ。だって、めちゃくちゃ可愛い顔で拗ねてらっしゃるだもの。ほらあるじゃん?ほっぺた膨らませてそっぽ向いたやつ。まさにそれ。

 

「………えい」

 

「へ……?」

 

だから、俺が突然頬っぺたを突ついたとしてもなんら不自然ではないはずだ。

 

ぷに。ぷにぷに。以外に柔らかいな…女の子の頬って。

 

「な、なななななななななななな!!!??」

 

先生〜、セシリアが壊れました〜。

 

顔を真っ赤にして、酸欠の魚みたいに口パクパクしている。そんなに驚く?

 

「はあ!?一夏、あんたなんでそうバカなの!?」

 

「うおっ?」

 

すると後ろにいたらしい鈴が一夏に向けて驚声を上げていた。

 

「安心しろ。バカは私の前にも三名いる」

 

そんな声が前方から聞こえ、俺とセシリア、鈴はギギギと油の切れたロボットのように声の方を向く。その後、バシーンという音が響いた。

 

────────────

 

「今日から、本格的な実践訓練に入る。今までで理論は物にしたはずだ。だが、それを活かせなければ何にもならん。クラス代表と国家代表候補以外は、今まで学習した事を一つ一つ確かめるようにISを動かせ。他の者も、決して授業を疎かにするな。いいな?」

 

『はい!』

 

一組と二組の合同実習なので人数はいつもの倍。出てくる返事も妙に気合いが入っていた。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。凰!オルコット!」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

千冬姉さんが、何やら先程からぐちぐちとうるさかった二人を呼び、それにセシリアが非難の声を上げる。

 

「専用機持ちはすぐに始められるからな。いいから前に出ろ」

 

「だからってどうしてわたくしが……」

 

「一夏の所為なのになんであたしが……」

 

二人はぶつくさ声を漏らしながら前に出て行く。すると千冬姉さんは僅かに笑みを見せ、二人に顔を近づけるようにかがみこむ。

 

「お前たち少しはやる気を出せ……あいつらにいいところを見せられるぞ」

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「実力の違いを見せる良い機会よね。専用機持ちの」

 

切り替え早え……

 

千冬姉さんの言葉を聞いた瞬間態度を一転、やる気満々になる二人であった。

 

「今、先生なんて言ったの?」

 

「俺が知るかよ……」

 

シャルルがひそひそと一夏に尋ねるが彼はそう返すのみ。

 

「大方予想はつくけどね……」

 

誰にも聞こえない音量でそう呟いた後、祇鳴は誰もいない方向を向きながら、静かに息を漏らした。

 

「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが?」

 

「ふふん。こっちのセリフ。返り討ちよ」

 

その間にも前に出てバチバチと火花を鳴らしながら二人は互いを牽制しあう。

 

「慌てるな、馬鹿共。対戦相手は───」

 

千冬姉さんがそう言いかけた時、突如上空からキイイィィィンという音が聞こえてきた。例えるならこう、飛行機とかが空気を裂く音と言うか。

 

また、それと同時に待機状態の光月が俺に情報を知らせてきた。

 

『IS一機接近。PIC及び姿勢制御スラスターのバランスが著しく崩れています。このままでは地面に激突。予想地点は、ここです。』

 

ちょっ、墜落て……しかもここ!?

 

「ああああああーっ!退いてくださーいっ!!」

 

「上!?」

 

直後聞こえてきた悲鳴と、突如差した影に上からの落下物を視認する。

 

「ど、どいてくださーいっ!!」

 

山田先生が地面に向かって真っ逆さま〜。

 

って、何やらかしてんのこの副担任!?

 

「みんな、今すぐここを離れろ!」

 

俺は光月を展開させながら、皆に避難するように促す。

 

そして、落ちてくる山田先生を受け止める為にPICとスラスターの出力に気をつけながら自分を浮かせて、ゆっくりと背中を地面につける。

 

が、どういうわけか、山田先生のISのスラスターがごく一瞬、低出力だが噴射される。

まあ要するに、タイミングがズレた訳で……なんで、こんなことになるんだろうね?

 

そんなことを、身体に広がる衝撃と巻き上げられた砂煙の中で思った。

 

『ああっ!!』

 

舞っていた砂埃が晴れていくと、女子たちがこの世の終わりが来たような叫び声が聞こえた。どうかした?

 

「たく、この馬鹿者。お前はどうしてこうなる?」

 

千冬姉さんが目を覆う。それって、俺を咎めてないか?俺は何もしてないよ?

 

それにしても、唇のこの暖かい感触は何だろうか。手にも、何やら柔らかい感触が……

 

「あ、あの、翔河君…」

 

山田先生が話すたびに、唇に伝わる感触が変わる。

 

(え、え〜と?まさか……)

 

俺は目を開け、恐る恐る口元を見ると、俺の唇に山田先生のそれが重なっていた。世間一般で言うところのマウスtoマウス、である。そして、ご丁寧に俺の手は山田先生の胸をしっかり鷲掴みにしていた。マシュマロみたいにフワフワですな、うん。

 

にしても、山田先生って見た目以上にかなりの巨乳だな。ご馳走様です。

 

(と、いかんいかん。早く離さないと…)

 

山田先生の唇と胸の柔らかい感触に軽く放心気味だったが、咄嗟に我に返って胸から手を離そうとする。

 

だが、こういう時に限って、手はうまく動かない。金縛りってやつ?

 

「あん。そんなふうにされたら……」

 

……なんか、先生の反応見てたら離したくなくなってきたんですけど……

 

そんなことを思ったのが間違いなのか、そもそも受け止めようとしたのが間違いだったのか。俺は何かに勘付いたようにその場を飛び退き、その直後さっきまで頭があった場所をレーザーライフルから撃った光線が横切った。

 

「あら。私とした事が、すぐに女性を刺激する殿方におしおきをするつもりでしたのに。失敗してしまいましたわ…」

 

撃った本人であるセシリアは満面の笑みを浮かべてそう言う。ただ、目が全く笑っていない。しかもISを展開、ライフル・ビットをフル展開済みで。

 

お前、俺を殺す気か!?

 

すると今度はガッシィィィンと何かが連結される音が後ろから聞こえ、祇鳴はそちらを振り返る。

 

そこにあったのは、何やら憤怒の形相で二本の双天牙月を一夏に向かって投げる鈴の姿であった。

 

何したのさ一夏……君関係ないじゃん……大方予想はつくけどさ。

 

だが、鈴の攻撃から逃げまわっている一夏ことはどうでもよく、今は女子の視線が気になる。

 

大多数は涙目。そして、約一名が殺意を孕んだ眼をしていた。あ、ラウラだけは普通───でもないか。心無しか、頬が赤く染まっている。

 

だから頼みますよ、山田先生。迂闊な事だけは言わないでください。

 

「お、怒ってますよね。偶然とはいえ、その、キスしちゃったわけですから…。」

 

いや、事故ですから、仕方ないですし。

 

「でも、私にとってもその…ファーストキスだったんですよ…?」

 

あのね、そういう発言は駄目ですっていいませんでした!?言ってないか。そうですか。

 

「それにその、胸を触られたのだって……」

 

潤んだ目で山田先生が俺を見てくる。なにこれ可愛い過ぎなんだけど。

 

───じゃなくて、まずい!絶対まずい!

 

「翔河くんと、山田先生が…」

 

「ふしだら……」

 

「教師と生徒の禁断の愛ってやつ……?」

 

はい、案の定こうなりました。というか、禁断の愛って何?

 

「禁断の愛…確かに在学中はまずいですよね!!で、でも、卒業後なら…それに、織斑先生と同居も……」

 

先生も反応しない!!だから、禁断の愛って何さ!?

 

「何をしている、馬鹿ども!!」

 

この動乱は、千冬姉さんの一喝により無事収まった。出来ればもう少し早く収めてくださいませんかね、織斑先生……

 

「自業自得だ」

 

さいですか……

 

「さて小娘共、いつまでぼけている?さっさと始めるぞ」

 

「えっ?あの、二対一で?」

 

「いや、流石にそれは……」

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

その言葉に二人はカチンときたような表情を見せる。

 

「いいわ。専用機持ちの力見せてあげる!!」

 

「先生、手加減しませんよ!」

 

案の定、2人は本気になったらしく、その瞳に再び闘志が灯る。

 

だが、祇鳴の胸中にあったのは期待ではなく不安だった。

 

大丈夫かねぇ、あいつら…

 

「始め!」

 

上昇した2人は、高度200程度で戦闘を始めた。

 

山田先生が使っているISは、デュノア社製第二世代IS『ラファール・リヴァイブ』。操縦性がよく、装備によって様々な状況に対応できる万能機だ。量産機のシェアでも世界第3位である。スペックでも初期第三世代にも劣らない。

 

つまり戦い方次第では充分二人に対抗できる訳で。

 

山田先生は2人の攻撃を巧みにかわしながら、51口径アサルトライフル「レッドバレット」で2人の回避先に射撃を加えながらパターンを狭めていく。そして、密集した所で6連装グレネードランチャー「ヘキサグラム」を発射する。

 

直撃を受けた2人は絡みあって地面に落下。これ以上ないほどの敗北だった。

 

見事に不安的中。連携訓練もろくにしてないのに無理だってば…

 

「くっ、うう……まさかこのわたくしが……」

 

「あ、アンタねえ……なに面白いように回避読まれてんのよ……」

 

「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちの台詞よ!なんですぐにビットを出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」

 

「ぐぐぐぐっ……!」

 

「ぎぎぎぎっ……!」

 

龍虎相まみえる───つうか仲悪いだけだな。

 

「山田先生は元代表候補生だ。例え代表候補であっても遅れはとらん。そこの2人はよく解っただろう」

 

そう言って、千冬姉さんは絡まったまま睨み合うセシリアと鈴を横目で見る。

 

専用機持ちと代表候補生のブランド株価がぎゅんぎゅん落ちていっている音を聞いた気がする。しかし無情にもストップ安はないらしい。

 

ま、それよりもさ。

 

「先生、俺も立候補していいですか?一対一」

 

「え?」

 

「は?」

 

「と、翔河くん?何を……」

 

祇鳴の突然の発言に、一組・二組両組の女子共に驚きの声をあげる。転校生であるシャルルとラウラ、当人である山田先生でさえ驚きの表情で祇鳴を見ていた。

 

いやなんかさ、元代表候補生って聞いたら闘ってみたくなるじゃん?こう、闘争本能的に。

 

そんな中、ただ一人千冬姉さんだけは黙って祇鳴を見ていた。その視線を正面から受け止め、千冬姉さんと向き合う。

 

「……まあいいだろう。やってみろ」

 

「どーも」

 

どうやら許可は降りたらしい。溜め息と共に発せられたその言葉に祇鳴は軽く返し、山田先生の方に歩き寄る。

 

「という訳でよろしくお願いしますよ、山田先生」

 

「え…あ、は、はい」

 

山田先生はまだ軽く放心気味ではあったが、ちゃんと応えは返してくれた。

 

────────────

 

「………」

 

「………」

 

アリーナの中央、そこから約30mほど離れた位置で互いに構えを取る。

 

さすがは元代表候補生。その構えに迷いなどまるで無く、相手がどう来ても対処できるように半歩足を後ろに下げた体制で此方を見ている。

 

はっきり言って、隙などまるで無かった。

 

(さすが、というところかな。舐めて掛かったら危ないかもね…)

 

よって先程までの構えを解き腕を下げる。そう、選んだのは駆辿卂冥流の『零』。腕を身体の横に持って来た自然体、構えない構え。

 

かの生徒会長すら倒した〈零刻〉の構えを取る。

 

「え?」

 

「なんで構えないの……?」

 

「舐めてるとか?」

 

「何それ、生意気…」

 

〈零刻〉がどんなものか知らない女子から様々な反応が飛び交うが無理もない。端から見ればただの直立不動。見せられてもその真価を見抜ける者は少ないだろう。

 

「では……始めっ!」

 

合図が終わると同時に、拳を堅め山田先生へと跳ぶ。

 

タイムラグ無しの正真正銘『零』となった拳の一撃が山田先生に襲いかかった。

 

「っ!?」

 

ドガアアアァァァァンッ!!!!

 

次の瞬間女子たちが見たのは、大きく後ろに跳ぶ二つの影とその中央で巻き起こった爆発であった。

 

「え、今……」

 

「何が起こったの…?」

 

誰かが思わず上げたであろう声。それに連なるように疑問の声が伝播していく。その間に二つの影が着地したが、両者は互いが互いともその場から動かない。よって両者の姿をしっかりと目で見ることが出来た。同じ距離を同じように跳んだ二人───祇鳴と山田先生の姿は、しかし少しばかり違っていた。

 

祇鳴には片腕に焦げたような跡がある。対して山田先生の方は全身の装甲に焦げた跡がついていた。

 

「嘘……」

 

「山田先生があんなに…」

 

「翔河くんの方もダメージは受けてるけど……」

 

「片腕だけだもんね…」

 

「傷も浅そうだし…」

 

「もしかして、山田先生の方が不利、なの……?」

 

そう、その姿ははっきり言って異常だった。たった一度の衝突で傷を負った両者。明らかな痛み分け。だが異常とは双方の装甲が焦げていること、ではなかった(・・・・・・)

 

そう、山田先生のダメージは焦げた装甲だけなのだ。無いのだ、〈零刻〉によって生じたであろうダメージの痕跡が。全身をどれだけ見ようとも、山田先生が負ったらしい傷はそれ一種類だけであった。あの時、〈零刻〉の一撃は間違いなく『零』を刻み、相手を叩き伏せていたはずだった。寧ろそうでなければならなかった。それが焦げた跡だけ(・・)?余りにもあの激突で起こり得るはずの事象が少な過ぎた。

 

だが、祇鳴には既に答えが見えていた。

 

(ほんと、無茶するね全く…。グレネードで自分ごと爆破するなんてさ…)

 

山田先生がやったことは至極簡単な事であった。

 

開始直後の〈零刻〉を躱すことが出来ないことを瞬時に判断した山田先生は、自分の前方、祇鳴が今まさに拳を叩きつけようとしているその場所にグレネードを投擲。

 

余りの予想外の行動に、祇鳴は攻撃から一転し全ての力を回避に回さざるを得なかった。もちろん山田先生はグレネードの爆破を至近距離で受けたが、絶対防御により操縦者自身にダメージはない。

 

さらに爆破によって生じた爆風により、祇鳴との距離をとっていた。それが意図したものなのかは分からないが、結果として祇鳴の攻撃を躊躇させることとなったのであった。

 

〈零刻〉は特性上、その攻撃は抜刀術に似ている。『零』へと至るが故に一撃必殺、これが〈零刻〉という構えの特性。

 

だが、その一撃必殺の攻撃にも弱点がある。

 

一つは、攻撃と防御、どちらかしか出来ないこと。〈零刻〉は自然体の構えからによる筋力の限界始動により『零』の動きを可能にしている。構えから動くまでの間ならば攻撃と防御の切り替えは可能だが、一度動作に入ってしまうと切り替えることが出来なくなる。つまり、攻撃を行えば防御が、防御を行えば攻撃が出来ない一極端な動きになってしまうのだ。

焦げた片腕の装甲がその証拠だ。あれは、攻撃の動作を無理矢理回避へと移した為に起こったタイムラグにより受けたものであった。でなければ、IS内最速を誇る〈光月〉が爆風などでダメージを追うはずがない。

 

そして二つめは距離。先程の通り〈零刻〉は筋力での動作だ。距離が離れれば離れるほどそのスピードは遅くなる。真空砲のようにいつまでも同じ速さで進む訳では無い。

今の二人の距離はおよそ60mといったところか。先程までの距離が30mだった為、その倍の距離となる。あの距離で防いだ山田先生だ。これだけ距離が開けば、今度は此方がやられる可能性がある。それが〈零刻〉の二つ目の弱点であった。

 

瞬時に取るべき行動へと移す判断力にこの後の展開を読む洞察力、最小にダメージを抑える行動力、そして何よりも自らの身体を躊躇わず犠牲にするその度胸。どれを取っても、一流の戦士であった。

 

「ま、ここまでは予想通りかな…」

 

だが、〈零刻〉を破られた祇鳴の表情に変化は無い。まるで予め分かっていたかのように。

 

「さてと、このままだとつまんないし第二幕開始といこうかね」

 

そう呟いた祇鳴の手には、いつの間にか二対の短剣が握られていた。

 

「それは、何ですか?見たところ双剣のようですけど…」

 

「ええ、名前は〈青龍(せいりゅう)〉です」

 

短剣、というよりナイフのような形状をしたその武器は、従来のナイフにすれば刃が長く握りも分厚い。それに何故かナイフには鍔が無く刃と握りが一繋がりになっている。そして何より特徴的なのは、刃の全般に不釣合なほど大きな蒼い稲妻の紋様があしらわれていることか。

 

「それじゃ、行きますよ!」

 

言うや否や山田先生へとナイフを突き出す。『無拍子』も使い完全に虚を突いたその攻撃は、しかし空へと回避されてしまう。だが、そこで『青龍』の攻撃は終わらない。

 

「ハッ!!」

 

空へと逃れた山田先生に対して、その場から勢いを完全に殺し直角に上空へと跳ぶ。

 

「くっ!」

 

さすがにこの攻撃は躱せなかったのか、近接ブレードを呼び出し突き出された青龍を受け止める。流れるような連続攻撃は、剣よりも遥かに軽いナイフによる双剣だからこその滑らかな美技であった。

 

だが、まだ終わらない。

 

ガンッ!ギンッ!ギリッ!ガンッ!

 

金属のぶつかり合う音が連続で響く。だが優勢なのは祇鳴だ。相手の防御の隙間をまるで蛇のように、しなやかに、的確に突き入れる。山田先生は何とか受け流しているものの、余りの手数の違いに攻撃へと移るタイミングを掴めないでいた。防戦一方である。

 

「は、速い!」

 

「山田先生、防戦一方だな…」

 

「武器が何本も見えるわよ、あれ…」

 

「ナイフにしても速すぎだよ……」

 

「…………」

 

下から見ていた一夏たち専用機持ちが恐る恐るといった風に声をあげる。

 

速いのは当たり前だ。元々、此方の手数を増やし攻防のバリエーションを増やす為の二刀流なのだ。大小両の刀を持つ近代の双剣より遥かに軽いナイフによる二刀流、さらに祇鳴の持つ筋力と技術があればこれぐらい出来ないはずはない。

 

それを受け止め続ける山田先生も大概ではあるが。しかも腕への負担が掛からないように、あの高速の斬撃を見極め流れに逆らわず、ナイフの側面に添えるようにして受け流しているのだから驚きだ。これも山田先生の技量が成せる技ということか。だが『ラファール・リヴァイヴ』の誇る多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)による高い凡庸性がまるで発揮されていないあたり追い詰められていると見るほうが妥当であろう。

 

「ぐっ!?」

 

そして戦況は、簡単に、突然に入れ替わる。

 

キン!キン!カン!キン!

 

「弾かれだした!?」

 

斬り合う刃のぶつかり合う音に鈍い音が混じり始めていた。いくらナイフとはいえ、これだけの手数を打ち込めば腕に掛かる負担はかなりのものになる。さらには両手でない以上一撃の威力は弱くなる。いかに男性といえど片手と両手では分が悪い。

 

(だけど予想以上にまずいな、これ……腕の疲労が遥かに早い)

 

祇鳴は初めて焦っていた。青龍の攻撃で最低でも十発は当てられるであろうと踏んでいたが、現実は一発も当てるどころか擦りすらもしていない。さらには腕への疲労が予想よりも早く来てしまった。このまま続ければ隙が生まれかねない。

 

「換装、『雷切』!」

 

「え?」

 

「捨てた?」

 

よって祇鳴の行動は早かった。すぐに青龍を手放し、装備の中から近接ブレードを呼び出す。光月の装備は百を優に超える。一つ手放そうがなんら問題はない。

 

そして再び剣の打ち合いが始まった。両者の剣が激突するたびに青白い光が飛び散る。

 

雷切に換装した祇鳴の斬撃は、先程とは違い威力が別次元のモノとなる。元々、剣道を習っていた為ナイフなんかよりも刀の方が扱いやすいのだ。

 

一撃目を辛うじて防ぐも、二撃目はその余りにも強過ぎる威力と圧力に押され、山田先生は後方へと吹き飛んだ。

 

だが、皆が異常に気づいたのは八回目の衝突の時か。

 

ガンッ!

 

「ぐっ!?」

 

一瞬、まるで映像にノイズが走ったかのように、山田先生の動きが止まる。もちろん、祇鳴がそこを見逃すはずもなく、初めてまともにダメージが入った。

 

「な、なんか今…」

 

「止まらなかった…?」

 

戦いの中動きを止める事がどれほど愚かで危険か、元代表候補生の山田先生が知らないはずはない。ならば何が起こったというのか。

 

その異常の正体は山田先生自身が身をもって知っていた。

 

(電気…!?打ち合いで剣を通じて流し込まれた電気が動きを止めた!?)

 

そう、電気。『雷切』は雷神を斬ったと云われる有名な刀であり、この武装もその事象を元に作られている。この武装の特性は『雷刃投電(らいじんとうでん)』。刀を振るう毎に、摩擦によって生まれた電気エネルギーを刀に蓄積、それを相手に当てることで電流を流し込み動きを止める。

 

あの、剣が衝突した際の火花のような青白い光が正にそれである。一撃で相手へと流せる電流は微々たるもので、一発当てた程度では全く効果が無いが、当て続けることで相手に蓄積された電流のダメージは着実に身体を蝕み、やがて動くことすら出来なくなる。

 

(接近戦は不利……)

 

たったの八発で見抜けたことが功を奏し、完全に動けなくなる前に離脱することに成功、レッドバレットを呼び出し遠距離戦へと持ち込もうとする。

 

それが、祇鳴の予想通りの展開だと気づかずに。

 

山田先生は距離を取る為に離脱を開始しようと、一瞬スラスターと武器の呼び出しに思考が削がれる。

 

その一瞬の隙が勝敗を分けた。

 

今まさに後退しようとしていた山田先生の身体を、五十六発もの弾丸が身体を貫いた。

 

それが雷切の一撃によって半分近くまで削られていたエネルギーを丸ごと消し飛ばす。

 

その攻撃の主の両腕には、蒼い稲妻があしらわれた二丁の銃剣が握られていた。

 

「勝者、翔河祇鳴!」

 

そしてアリーナに祇鳴の勝利を告げる千冬姉さんの声と両組の女子たちの歓声が響いた。

 

─────────

 

「か、勝ってしまった……」

 

「勝っちゃったな…」

 

「ほんと相変わらず凄いわね、あいつ」

 

「と、当然ですわ!祇鳴さんが負けるはずありませんもの!」

 

「ふぇ……凄いんだね、祇鳴は…」

 

「………フン」

 

専用機持ち組の歓声?を聞きながらゆっくりと地上に降りる。すると、山田先生と千冬姉さんが此方に近づいて来た。ま、何を言いたいかは検討がつくけど。

 

「えーと、まずは勝利おめでとうございます翔河くん。良い戦いでしたよ!」

 

「いえ、此方こそ我が儘に付き合わせてしまってすいませんでした」

 

両者共に軽く頭を下げ健闘を称え合う。

 

「それで、失礼ですけどそれは一体……」

 

そして予想通りの質問が来た。ま、当たり前だわな。自分が見たものが変わっていたら、確かめようとするのが本能というものだ。

 

なので持っていた二丁の銃剣を二人の目に晒す。

 

「お二人が予想している通りだと思いますが、これが〈青龍〉の本来の姿です」

 

「あ、やっぱりそうなんですね」

 

そう、ナイフではなく銃剣。拳銃にナイフを取り付けたものではなく、ナイフと拳銃が一体となった双銃剣。これが真の青龍の姿である。握りに付いた金具を操作すると、太い刀身が左右に割れ中から従来の拳銃よりも一回り小型の拳銃がスライドして出てくる仕組みだ。

 

ちなみに発射する弾はエネルギー弾なので、銃弾の発射薬に含まれる硫黄、硝酸などの酸化粒子が銃剣に付着し、発錆が促進される弊害はない。集弾密度は若干拡散するが、そこは腕の見せ所か。

 

「スライド式の双銃剣とはまたマニアックなものを」

 

「それは言いっこなしですよ織斑先生」

 

だってあなた雪片使ってんじゃん。めちゃくちゃマニアックじゃん。

 

「まあ、元代表候補とはいえ勝てたことは褒めてやる」

 

「どうもありがとうございます」

 

千冬姉さんはそう言うと、驚愕と興奮で未だ騒ぎっぱなしの生徒たちの方を向き手をパンパンと叩き黙らせる。あの騒音の中聞こえるか聞こえないか微妙な音量の手叩き二回でピタリと収まるあたり、よく教育されているというべきか、はたまた生徒たちの心酔のなせる技というべきか。どちらもあまり理解したくないという点ではどちらも同じだが。

「専用機持ちは織斑、翔河、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。ではグループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?では分かれろ」

「織斑君、一緒にがんばろう!」

 

「わかんないところ教えて~」

 

「デュノア君の操縦技術見たいなぁ」

 

「ね、ね、私もいいよね?同じグループに入れて!」

 

「翔河くん、さっきの戦い凄かったです!」

 

「あの、私達にも優しくご教授を……」

 

「私もトーガがいい~」

千冬姉さんがそう言った瞬間一夏、シャルル、祇鳴の周りに女子達が一気に詰め寄る。若干約一名、顔を見なくても人物特定が可能な間延びした声が聞こえてくる。分かりやすいことはいいことだよ、うん。

 

そして予想以上の繁盛ぶりに、三人ともどうしたらいいのか分からずただただ立ち尽くすだけ。

 

その状況を見かねたのか、あるいは自らの浅慮に嫌気がさしたのか、千冬姉さんは面倒くさそうに額を指で押さえながら低い声で告げる。

「この馬鹿どもが……出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンドを百周させるからな!」

そこに響く鶴の一声。それを聞いた瞬間アリのように群がっていた女子達は千冬の指示通りに並んでいく。ざっと二分程度で終了した。因みに俺の所はのほほんを含めた1組の女子だけだ。どうやら一組はな行が少ないらしい。

 

「最初からそうしろ、馬鹿者どもが」

ふうっと溜め息を漏らす千冬姉さん。それにバレないようにしながら、各班の女子はぼそぼそとおしゃべりをしていた。

 

「……やったぁ。織斑くんと同じ班っ。この苗字に生んでくれた両親に感謝っ」

 

「……う~、セシリアかぁ……さっきボロ負けしてたし。ハァ」

 

「……凰さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」

「……デュノア君! わからないことがあったら何でも聞いてね。ちなみに私はフリーだよっ」

 

「……翔河くん、お手柔らかに頼むね……」

 

「……」

 

やはりと言うべきか、唯一お喋りが無いのがシャルルと同じ転校生であるドイツから来たラウラ・ボーデヴィッヒの班だ。

 

張り詰めた雰囲気と言っても良い。そして人とのコミュニケーションを拒んでいるオーラ。生徒達をまるでつまらないように含む冷たい眼差し。さっきから一度も開いてない口。

 

ああ……あそこの女子がものすごく可哀想なんだが……

 

「ええと、いいですか~みなさん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は『打鉄』と『リヴァイヴ』が三機ずつです。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよ~?」

 

お、山田先生が普段の授業とは違ってしっかりしてるな。さっきの模擬戦で自信を取り戻したんだろう。もし眼鏡を外せば『仕事の出来る女』に見えそうだ。

 

けどまぁ……堂々とした態度を見せるのは良いんだが、十代の乙女には無い豊満な胸までも惜しげなく晒すのはちょっと。特に眼鏡を直すときに、肘が胸にあたっているのが戴けない。なんともけしからんお胸様である。

 

ギュウ~~~~!

 

「……何してるんだ、のほほんさん?」

 

いきなりのほほんさんに左の頬を抓られる俺。

 

「トーガがまやまやに対していやらしい目で見てたから~」

 

「そんな目をした憶えは無いんだけど……」

 

だが布仏が納得しないと思い妥協して放置。下手な事を言うと却って不味いかもしれないしね。

 

「なんかあの二人仲良すぎない?」

 

「あんなにスキンシップできるの本音だけだし……」

 

「そういえば以前同じ部屋だったし」

 

「同じ部屋にいる内に、お互い惹かれ合って結ばれたってやつ?」

 

後ろの女子達が何か訳の分からん事を言ってるが、取り敢えず無視。『リヴァイブ』を借りて布仏たちのいる所へ戻る。

 

『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』

 

「さて、んじゃ始めますか」

 

────────────

それから少し時間が進み、祇鳴は二人目の女子の歩行を見ていた。ちなみに少々起動に手間取ってしまい、一夏達より少し遅れている。

「ああ、いいよ。その調子」

「は、はいっ」

祇鳴の言葉にぎこちなくISを歩行させている女子生徒は必死な表情でこくこくと頷く。

「じゃ、そこで止まって。交代」

「はい……」

交代というのに女子生徒は緊張が途切れたのかほっとした様子でコクピットから飛び降りる。

 

「ねえ翔河くん。コックピットに届かないんだけど……」

「あ、忘れてた……」

ISが立ったままになり、コクピットが高い位置で固定されてしまっていた。一人目の女子生徒は自主的にしゃがんで解除してくれてたし、専用機持ちである祇鳴は訓練機を使用する場合装着解除時にしゃがまないといけないことなどあまり馴染みがなかった。

「ああ、翔河くんの班もやってしまったんですね。仕方ありません、翔河くんも、今織斑君がやっているように自分のISを起動させて、次の人をコクピットまで運んであげてください」

 

「ああ、ああいうこと」

「はい」

山田先生の指示に祇鳴は一夏班を見てくっくっと笑う。そこに映るのは、一夏が白式を展開し顔を真っ赤にした箒をお姫様抱っこして運んでいる光景。ま、なんとも微笑ましい。

「しょうがないね。悪いけどちょっと我慢してね」

 

「は、はい」

 

俺が三人目の女子を抱き上げてすぐにヒョイヒョイと飛んでISのコックピットまで運ぶ。

 

「はい、装着をしたら起動と歩行をするようにね。それと終わったら解除する際しゃがむように」

 

「あ、ありがとう……」

 

運び終えた後すぐに降りると、布仏が俺に近づいてくる。 

 

「トーガって身軽だね~。今度は私も運んでよ~」

 

「残念だが次からはしゃがんで装着解除するように言ってあるから運ぶ事は無い」

 

楽して乗る気満々だね。だが、そうは問屋がおろさないのだよ布仏くん。

 

だが予想は容易に裏切られる。ISの操縦を終えた三人目の女子が立ちながら装着解除をしていた。

 

「いやー何で立ったまま装着解除をしてるのさ」

 

「いや、まあ、何となく?」

 

「何となくって……」

 

そんな理由で勝手な事しないでよ。また運ばなきゃいけないの俺なんだからさ。

 

「まあまあ翔河くん。そう怒らない怒らない」

 

「そうだよ。さ、早く本音を運ばなきゃね」

 

「お前等、何か妙に楽しんでいないか?」

 

『気の所為だよ♪』

 

ハモってるから説得力が皆無だ。まあいいけどさ。

 

「それじゃのほほんさん、ちょっと失礼するよ」

 

「えへへ~♪ トーガにお姫様だっこされてる~♪」

 

何故か上機嫌であった。そんなに楽できるのが嬉しいか?

 

ちなみにこの後、俺の班は特に滞りなく進んだ。全員担いで乗せることになったこと以外は。

 

だからしゃがめって……

 

───────────────

 

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 

遅れていた為に殆どが肩で息をしている一夏のグループに、千冬姉さんは連絡事項を伝えると山田先生と一緒にさっさと引き上げていった。

 

「あー……あんなに重いとは……。そう思わなかったか、祇鳴?」

 

「まあね」

 

訓練機はIS専用のカートで運ぶが動力が一切無いので、必然に俺たち「人」が動力となる。

 

「しかしお前の班の女子たちは?」

 

「先に帰ったよ。まあ、男の俺が運ばないで女子に運ばせるっていうのも普通におかしいというか、ありえないからいいんだけど」

 

「相変わらず甘いね一夏は」

 

シャルルの班は「デュノア君にそんなことさせられない!」と数人の体育会系女子がそう言って訓練機を運んでいた。俺はともかく、一夏とシャルルの扱いが結構違うのが良く分かったよ。

 

「ま、お前のその考えは今に始まった事じゃないから仕方ないよ。それより早く着替えに行くよ」

 

「そうだな。シャルルも一緒に着替えに行こうぜ。俺たちはまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」

 

「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしてからいくから、先に行って着替えててよ。時間がかかるかもしれないから、待ってなくていいからね」

 

「機体の微調整はすぐにやるべきものじゃ無いと思うけど……。ま、シャルルがそう言うなら先に戻ろうか。行くよ一夏」

 

「いや、別に待ってても平気だぞ?俺は待つのには慣れ───」

 

「い、いいからいいから!僕が平気じゃないから!ね?先に教室に戻っててね?」

 

「お、おう。わかった。そ、それじゃ行くよ」

 

シャルルの妙な気迫に押され、一夏はつい頷いて祇鳴に付いて来た。

 

「なあ祇鳴、何でシャルルはあそこまで必死だったんだ?」

 

「さあな。もしかしたら一夏にセクハラされるかもしれないと危惧したんじゃないの?」

 

「何でだよ!俺は男相手にそんな趣味は無いぞ!」

 

「冗談だよ。そう向きになって怒るな。けどシャルルもああ言ってる事だから、さっさと更衣室に行くよ」

 

食って掛かる一夏に俺が軽く流してると更衣室に着いてすぐに着替え始める。

 

「そうだ祇鳴。今日の昼は空いてるか?」

 

「何だ藪から棒に」

 

「箒が俺と一緒に昼飯を食べないかと誘われてさ。けど俺だけってのもなんだし、良かったら祇鳴も一緒にどうかと思って。あ、勿論シャルルも誘うつもりだ」

 

それ、多分箒の事だから一夏と二人っきりで食べたいから誘ったんじゃないだろうか。本人は全く気づいてないけど。ま、一夏の鈍感は今に始まった事じゃないけどさ。

 

そしてその後、俺がやんわりと断っても一夏は気づくことすらなく、結局こちらが折れる事になった。昼休みが怖い……

 




小説恒例、『後書き座談会』のコーナー!!!

「バカが戻ったか」

扱いがひどいっすね!?相変わらず!!

断固改善を要求する!!

「要求する前に自らの行いを省みることだな」

ぐっ!!

だ、だけど俺だっていいこと一杯やってんスよ!?

「ほう、例えば?」

蜂の巣の駆除!!

「動物虐待によるストレス発散」

道に迷っている人に道を教える!

「その間に財布を盗む」

じ、児童館での子供の遊び相手……

「と見せかけての女の子にセクハラ」

ちょ、町内のゴミの清───

「をしている最中に不法侵入&下着ドロ」

うがああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!

「壊れたな……これでよかったのか主さま」

ま、今回は仮病で学校すらも休んでたし、これぐらいいい仕置きになるでしょ。

「仮病って……筋金入りの馬鹿かコイツは」

その通りだから否定はしない。

「さて、今回はお仕置き会~ミッツー編~ということでお送りしました」

今回は相方の所為で一ヶ月ほど更新なくてすいません。

これからもこの小説をよろしく。

「そして馬鹿なもう一人の主様も長い目で見てやってください」

それでは次回「ボーイorガール」、お楽しみに!!

うがああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!

『五月蝿い』

バシンっ!!
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