IS~陽に魅入られた者~   作:ミツバチ

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皆さんアケオメ〜♪ミツバチ再来です!!

「年明け早々から、ウザいテンションだな…」

まあまあ、いいじゃないですか。年末年始はお目出度いことなんですから!

「それが三ヶ月も更新を滞らせてた奴の発言だと思うと素直に喜べないな…」

それは言わないお約束♪

「はぁ…もういいからさっさと始めてくれ…」

な、なんか今回はいつものイジりが無いのが気持ち悪いですけど…とりあえず進めましょうかね。

それではシャルルの秘密が暴かれる!?

二人の転校生編「光と闇」スタート!!



光と闇

〈一夏side〉

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さん、祇鳴に勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

「そ、そうなのか? 一応分かってるつもりだったんだが……」

 

シャルルが転校して五日が経ち、今日は土曜日。IS学園は土曜日の午前には理論学習、午後は完全な自由時間になってる。とはいえ土曜日の午後はアリーナが全開放なので殆どの生徒が実習に使ってる。俺もアリーナでISの練習をしているのは言うまでも無い。

 

「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほどんど間合いを詰められなかったよね?」

 

「うっ……確かに。『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』も読まれてたしな……」

 

「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

 

「直線的か……なるほどな、シャルルの説明は分かりやすい」

 

俺はシャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話のたびに頷く。なにせシャルルの説明はわかりやすい。非常にわかりやすいのだ。

 

『こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかんっ!という感じだ』

 

『なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。……はあ? なんでわかんないのよバカ!』

 

『防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』

 

俺に今まで教えてくれた自称コーチたちの有難いお言葉がこれだ。

正直に言おう。全くもってわからん。訳の分からん擬音の羅列に感覚の一点張り、そして細かすぎて逆に分かり辛いというなんともいえない状況に、色んな意味で行き詰まっていた(そして息詰まっていた)俺の前に現れた救いの主ことシャルル・デュノア。その感動はとてもではないが言葉では言い表せない。

 

「一夏さん、それではまるでわたくし達の説明が下手くそだったという風に聞こえるのですが?」

 

「あ、いや、そういうわけじゃ……」

 

「わたしの理路整然とした説明が下手?あたし達がどれだけ頑張って教えてきたと思ってるのよ!」

 

「い、いや、だから、お前等の説明が下手って言ったつもりじゃなくってだな……祇鳴〜」

 

自称俺のコーチ×2がぶつくさ言いながらこちらを睨んでいる。咄嗟にここにはいないもう一人の救世主に助けを求めるが、如何せんいないのだから仕方ない。そのSOSは虚空へと虚しく消えていった。ちなみに祇鳴だけでなく箒もここ数日特訓に参加していない。突然のことだったし箒に何してるか聞いても「特訓だ」としか答えないため、何処で何をしてるかは誰も知らない。ま、祇鳴も似たような感じだし大丈夫だろ、うん。そんな根拠も何もあったもんじゃない推測に落ち着いた後、シャルル指導の下射撃訓練が開始された。

 

「一夏の『白式』って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(バススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われた」

 

「たぶんだけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」

 

「ワンオフ・アビリティーっていうと……えーと、なんだっけ?」

 

「言葉通り、唯一仕様(ワンオフ)特殊才能(アビリティー)だよ。各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のこと」

 

こういう説明がすらすら出てくるあたり、シャルルがいかに優秀かがよく分かる。

 

「でも、普通は第二形態(セカンド・フォーム)から発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズと凰さんの衝撃砲がそうだよ」

 

「なるほど。それで、白式の唯一仕様ってやっぱり『零落白夜』なのか?」

 

白式の『零落白夜』はエネルギー性質の物だったら何であっても無効化・消滅させる白式最大の攻撃能力だ。だがそれは自らのISのシールドエネルギーを削ると言う危険も伴った諸刃の剣でもある。

 

「白式は第一形態なのにアビリティーがあるっていうだけでものすごい異常事態だよ。前例がまったくないからね。しかも、その能力って織斑先生の───初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じだよね?」

 

どうもそういうことらしい。千冬姉と同じなのは武器だけではなく、その仕様までもが同じらしい。なんとも因縁めいている。

 

「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」

 

「ううん。姉弟だからってだけじゃ理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的にできるものじゃないんだよ」

 

「そっか。でもまあ、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」

 

「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。はい、これ」

 

そう言って俺に渡してきたのは、五五口径アサルトライフル《ヴェント》だった。

 

「え?他のやつの装備って使えないんじゃなかったのか?」

 

「普通はね。でも所有者が使用許諾(アンロック)すれば登録している人全員が使えるんだよ。今一夏と白式に使用許諾を発行したから、試しに撃ってみて」

 

「お、おう」

 

─────────

 

「そういえば、シャルルのISってリヴァイヴなんだよな?山田先生が使ってたやつと大分違うように見えるんだが、本当に同じ機体なのか?」

 

ちょうど装填されたマガジンが一つ使い切ったところで、俺は気になっていたことを聞いた。

通常機に装備されている肩部の物理シールドがすべて取り外され、背部のスラスターも通常のとは違うものが使われている。アーマー部分山田先生のものよりも小さくシェイプアップされている上に、ウェポンラックとして付いている大きなリアスカートには小型の推進翼が装備されている。そしてもっとも特徴的なのが、左腕。左腕にシールドと一体化した腕部装甲が付けられている。

 

「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備(プリセット)をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてあるんだ」

 

「倍!?そりゃまた随分な拡張だな……。ちょっと分けて欲しいくらいだ」

 

「あはは。あげられたらいいんだけどね。そんなカスタム機だから今量子変換してある装備だけでも二十くらいあるよ」

 

「うーん、ちょっとした火薬庫見たいだな」

 

シャルルの言葉に腕を組みながらそう声を漏らした、その時だった。

 

「ん?」

 

急にアリーナ内がざわめき始める。

 

「ねえ、ちょっとあれ」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型じゃない」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

俺とシャルルは、声の方向を見る。そこにいたのは、漆黒のISを纏ったもう一人の転校生。

 

「ボーデヴィッヒさん…」

 

銀で作られた剣のごとき鋭さを持つ、孤高のドイツ候補生。

 

シュヴァルツェア・レーゲン(黒雨)……まさか、それを持ってくるとはね。僕はてっきり、第二世代を極限までチューンしてくると思ってたんだけど…」

 

シュヴァルツェア・レーゲン。ドイツが開発に成功した第三世代ISだ。基本装備は右肩部の大型レールカノンと、各所に装備されているワイヤーブレード、プラズマ手刀。その他にも特殊装備有り。最新鋭の試験技術を用いながらも高い完成度と実戦能力を持つが、反応値の設定が高く常人には扱えない───と、祇鳴から聞いた限りではこんなところか。

 

「おい」

 

ISの開放回線オープン・チャネルで名指しの声が入った。それは言うまでも無くラウラ本人の声だ。

 

「なんだよ?」

 

無視するわけにもいかず、どこか不機嫌そうに返す。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

いきなり何言ってるのコイツは?戦争大好きっ子か?

 

「いやだ。理由がねぇよ」

 

「貴様にはなくとも、私にはある」

 

ああ、そうかよ。思い当たる節はある。

だが、お前なんかに。

何も知らないお前なんかに、言われる筋合いなどない。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえたことだろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を────貴様の存在を認めない!」

 

やはり、そういうことか…。

だが、それはそれ。これはこれ。俺とラウラが戦う理由にはならない。少なくとも、俺はやる気がない。

 

「また今度な」

 

「ふん。ならば───戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

言うが早いか、ラウラは漆黒のISを戦闘状態へとシフトさせる。刹那、左肩に装備された大型の実弾砲が火を噴いた。言葉と共に放たれる弾丸に、まさかいきなり撃って来るとは思わなかったため、反応が遅れた。

 

「!」

 

ゴガギンッ!

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

「貴様……」

 

シャルルが即座にシールドを展開して実弾を弾き、同時に右腕に六一口径アサルトカノン《ガルム》を展開してラウラに向ける。

 

「フランスの第二世代型(アンティーク)ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうからね」

 

互いに涼しい顔をした睨み合いが続く。

俺はシャルルが割って入ったことにも驚いていたが、それ以上に装備呼び出し(コール)の速さに驚いた。通常は一~二秒かかる量子構成をほんの一瞬と同時に照準も行っていた。

───なるほど、それが出来るからこその大容量拡張領域なのか。事前に呼び出しを行わなくても戦闘状況に合わせて最適な武器を使用出来るだけでなく、同時に弾薬の供給も高速で可能だろう。要するに持久戦では圧倒的なアドバンテージを持っており、相手の装備を見てから自分の装備を変更出来る強みがあると言う事だ。

シャルルが代表候補生、そしてその専用機が量産機のカスタム機である二つの理由に納得した。

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

突然アリーナにスピーカーからの声が響いた。騒ぎを聞いて駆けつけた担当の教師だろう。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

二度の横槍に興が削がれたのか、ラウラはあっさりと戦闘体勢を解いてアリーナゲートへ去っていく。その向こうではおそらく教師が怒り心頭で待っているだろうが、あのラウラの性格からして無視してしまうだろう。

 

「一夏、大丈夫?」

 

「あ、ああ。助かったよ」

 

ラウラが去ったことでシャルルは警戒を解いて俺の方を振り向く。

 

「今日はもうあがろっか。四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」

 

「おう。そうだな。あ、銃サンキュ。色々と参考になった」

 

「それなら良かった」

 

またにっこりと微笑む。その無防備さに妙に落ち着かない気分になりながら、俺はISを待機状態にして更衣室に向かった。

 

〈一夏side end〉

────────────

〈祇鳴side〉

 

「ハアァァァアアアアアッ!!」

 

バンッ!

 

「はい、また脇が空いてる!」

 

「くっ!…まだまだぁああっ!!」

 

カンッ!ガッ!キンッ!ガンッ!!

 

今日は晴天、いい加減太陽さんも過労で倒れるかもと少々本気で心配してしまうぐらいギラギラと陽光煌めく土曜日の午後、祇鳴と箒は剣道場で打ち合っていた。

 

────────────

 

「おい、何故剣道場などに来ている!ISの特訓をするのではなかったのか!?」

 

話は数日前に遡る。箒の特訓をする為に訪れたのはアリーナではなく、剣道場。しかも先生方に頼んで開けてもらったので二人の貸切だ。

 

いやしかし、だだっ広いなぁ…ここの剣道場。通常の学校の体育館が丸ごと一つ入りそうな感じだ。嘘です、多分半分ぐらいしか入りません。

 

「はいはい、そんな大声出さないの。剣道場って結構響くから」

 

「そんなことは知っている!」

 

「なら声を抑えようよ。耳が痛くなってきた…」

 

到着早々横から喚き立てる箒を、うんざりしたように手で制し祇鳴は仕方なく説明を始めた。

 

「ふぅ…で、なんで剣道場に来てるのかってことだけど…」

 

「そ、そうだ!特訓をするのだろう?ならばアリーナに───」

 

「はいはい、慌てない。人の話は最後まで聞く。それに誰がISの特訓をするなんて言った?」

 

「───は?」

 

箒が口を半ば開けて絶句する。

 

「箒は適正値低いし、今の状態じゃISでの特訓は無益、無意味、時間の無駄」

 

「ぐっ…」

 

自分でも分かっているのか、箒は口を噤む。

 

「かと言っても急激に強くなる方法なんてものはない。だから箒には俺の使う戦闘技術を習得してもらうよ。ま、特訓と言っても俺が教えるのは技術だけどね。」

 

そう、これが俺が考えた箒専用特訓方法である。

 

箒はISの適正値が低い為、いくら頑張っても悪いものは悪い状態に陥ってしまう。整備などで若干適正値は上がるが、目に見えて良くなる訳ではない。一から本人専用として作り変えでもしない限り適正値の急激上昇などあり得ないのだ。

 

ま、やったら束さんに叱られますけどね。

 

その分生身で培った実力は嘘はつかない。多くの人々はISの強さを機体やそれを操る技術のことだと思い込んでるが、厳密に言えばそうではない。

確かに機体や技術は大切だが、それは自身の強さがあってのものだ。自身が未熟なままいくら技術や知識を学んでもそれは机上の空論に過ぎない。実際にそれらを活かせるかは自分自身で決まるのだ。だからこその特訓法だった。

つまり箒の特訓法とは、実戦での戦闘である。

 

「教える技術は剣術と足使いの二つだけ。あまり詰め込みすぎてもいけないし、大会まで時間がないからこれぐらいが妥当でしょ」

 

「まあ、そうだろうな」

 

箒も修行の話に入った途端、顔を引き締める。

 

「それじゃ、早速だけど構えて」

 

「あ、ああ」

 

そう言い、竹刀を中段に構える。箒は少し戸惑うも同じく基本に忠実な中段の構えをとる。全国で優勝しただけはあり構えに隙がない。

 

「それじゃ、行くよ」

 

「来い!」

 

箒の声を合図に祇鳴が飛び出す。普段の彼にしては力の抜けた緩いスピードだが、それでもかなりの速さがあった。祇鳴の竹刀が中段から突き出される。相手の胴を的確に狙った牙突。

 

「フッ…」

 

その迫る切先を箒は最小限の動作で避ける。竹刀で刃先を沿うようにして逸らし、祇鳴の右手側に回り込む。祇鳴の効き手は左。右側は反応が遅くなると判断しての行動だった。実際にその判断は正しかった。効き手とは逆からの攻撃に、一瞬だが祇鳴の動作が遅れる。防御は、間に合わない。

 

「はあッ!」

 

しかし打ち込まれた竹刀は空を切る。祇鳴は竹刀が振り下ろされる直前、さらに床を蹴り加速したのだ。結果、中段からの一撃は祇鳴の影を打つに留まった。

 

「ちっ!」

 

「いやはや、さすがは日本一。動きに無駄がないね」

 

「軽々と避けておいて言うセリフか…っ!」

 

さらに箒の追撃が来るが、間合いが開いた為に全て防がれてしまいどれも防御を抜けることはない。

 

「くっ!」

 

「箒!そろそろ、行くよ!!」

 

祇鳴の動きが変わる。足全体で地面を滑るような動きから、爪先で地面を擦る動きへと。

そして次の瞬間から、竹刀は相手にすら届かなくなった。

 

「くそっ!!」

 

唐竹、突き、薙、切り上げ、袈裟斬り。箒が何度竹刀を振ろうとも、防御の為に使っていた竹刀にすらも擦らない。まるで影を斬っているかのような感覚に襲われる。

 

「これがお前のいう技術か、祇鳴!!」

 

箒が叫ぶが、祇鳴は答えず先ほどと変らず箒の竹刀を避け続ける。祇鳴は自ら語る気は無いらしい。それが、自分自身で掴めということだとすぐに気づく。

 

(ならばやってやる!!)

 

箒は闘いの中へと意識を集中していく。

 

───剣が当たらない

 

箒にとってこの感覚は未知のものだった。もちろん、剣道にも避けはある。だがそれは剣を当てることを前提にした避けだ。竹刀自体を見切り実際に避けられる者などいないに等しい。それを目の前の相手はそれを平然とやってのけていた。箒の困惑と苛立ちが込み上げる。

だがそれを表に出さず剣を振るい続ける精神力は対したものだった。

 

(何故だ!?何故当たらない!?)

 

その中で考える。何故自身の剣が当たらないのか、何故自身の剣が届かないのかを。

 

(いや駄目だ!考えている程度では──)

 

考えているだけではいけない。見ているだけでは意味が無い。ならば───

 

(感じるのだ!奴の動きを、奴自身の流れを──!)

 

意識を集中し、広げる。この一見矛盾した行動は、その道の達人とプロとの境を分け隔てるものでもある。意識を己へと集中させながら力の流れを読み取り場の全てを支配する。恐ろしいまでの鍛練と生まれ持った才能があってこそのものであった。

幼い頃から続けた剣の鍛練と日本一にまで上り詰めた類稀な剣の才能。事実、箒の力はこの一瞬、達人の域へと到達した。

 

その達人へと登り詰めた箒の身体が無意識に動いた。相手を倒す為ではなく、相手を斬る為に───

 

「ハァァァァァァアアアアアアアッ!!!」

 

そう、それが箒のいう技の真実であり、祇鳴と箒の剣の違いでもあった。自身を守る為の剣と相手を殺す為の剣。守るものは要所で後ろへと、殺るものは前へと意識が向く。意識していようともそう簡単には拭いきれない無意識の呪縛。それが箒がこの技の影響を顕著に受けてしまった理由であった。

 

よって相手を斬る為に振るわれた剣は───

 

「ッ!?」

 

ガッ!

 

(───通った!!)

 

初めて、だが確実に相手を捉えた。

 

「ふふ…やっと掴んだみたいだね、箒」

 

「はあ…はあ…はあ…どういうことだ…?」

 

全精神力を使い果たし息も絶え絶えになりながら、箒が訪ねる。

 

「ネタバラしするとね、さっき迄のは技でもなんでもない。君と俺との違いをつかった、ただの錯覚なんだよ」

 

「なん…だと…?」

 

竹刀を杖にしてなんとか膝を着くのを耐えている箒を前に、祇鳴の説明が続く。

 

「初めに言ったでしょ、俺が教えるのは技術だって。でも俺の剣術と君の剣道じゃあまりに振るう剣が違いすぎる。振るい方だけでなく、見識もね。箒も気付いているだろ?君は肝心な時に限って最後の一歩が踏み込めていない。それは無意識に人を傷つけることを避けたんだ。長年己が振るい続けた『剣道』としての剣を全うするが如く───」

 

「……………」

 

箒は黙ったまま祇鳴を見つめ続ける。

 

「だから一旦その無意識を破壊させてもらった。〈己を守る剣〉を破壊させてもらったんだ。傷つけることを避けたままの剣じゃ誰にも届かないさっきのようにね」

 

「っ!!」

 

目を見開く箒の手を見て、祇鳴が満足そうに頷く。箒の手はしっかりと竹刀を握りしめていた。

 

「ま、完全には破壊してないし、今は身体に少しでもその感覚が残っているぐらいで充分だよ」

 

いつものほんわかとした祇鳴が戻ってくる。それを見て思わずといった風に箒が尋ねた。

 

「祇鳴…お前は、ホントに何者なんだ?」

 

対して、当の本人はいつも通りなほんわかとした雰囲気で答えた。

 

「俺か?俺は、哀れなただの高校生だよ」

 

────────────

 

それからしばらく祇鳴が教えた技の練習を、箒はし続けている。完成度は九割。いつ闘ってもいけるぐらいまで仕上がっていた。

 

「よし!今日はここまで!」

 

「押忍!」

 

もうすっかり男勝りな挨拶が定着してしまっているが、これはこれで箒っぽいので放置だ。

 

「大方技は完成してるから、後は繰り返し身体に染み込ませれば大丈夫かな?」

 

「わかった。今まで付き合ってくれたこと、感謝する」

 

「終わるまでわからないけどね」

 

まだ大会は終わっていないが、今回の俺の仕事はひと段落ついた。ここからは箒の努力次第ということだ。

 

特訓が終わって後も素振りを続ける箒の背中を傍目に、祇鳴は部屋へと戻った。

 

────────────

 

「う~ん…こんなところかな。」

 

俺は、以前からやっていた事を、珍しく寮の部屋でやっていた。内容は禁則事項なので秘密です☆

 

「ま、このあたりはこんな所だな。さて、次はと…」

 

「あれ?祇鳴、どうしたの?」

 

風呂を済ませてきたシャルルが部屋に戻ってきた。

入学以来男子用の風呂は無かったが、ボイラーが壊れていた予備の大浴場を整備して男子用の浴場となっている。ちなみにシャルルは日本風の風呂には馴染めないのか、浴場の隣のシャワールームを使っている。

 

「ん?ちょっとな…」

 

俺は、シャルルに曖昧に答えて、キーボードを叩き続ける。ちなみにディスプレイは束さんお手製対軍事スパイ機能対応型なので、登録している人間しか見る事は出来ない。しっかりと束さん防御機能も入力済みの一級品である。

 

「よし、形になったな。さ、寝ようか。就寝時間過ぎて起きてたら、千冬姉さんに半殺しにされる」

 

「あぁ…その話、僕も聞いたよ。一晩中ランニングする刑を受けて、次の日の朝はボロボロになっていたんだってね…」

 

これは去年の話だが、就寝時間を過ぎてもこっそり遊んでいた先輩たちが体験した事らしい。ボロ雑巾のようになって教室に入ってきた当時の在校生によって恐怖と共に語り継がれている。

一夏?一夏は既に爆睡中ですが?風呂から帰ってきた途端に糸が切れたみたいにベッドに倒れこんで、そのまま就寝なさいました。よっぽど疲れてたらしいな。

 

「そういう事。じゃあ、お休み。」

 

「うん、お休み…」

 

─────────

 

外から聞こえるヒールが床を打つ音は、千冬が巡回していることの証拠である。

 

それを確認したシャルルは、そっと起きる。

 

「ごめんね、二人とも…」

 

IS学園に来て初めてできた友人たち。何かと世話を焼いてくれて、不可解な行動も黙って受け入れてくれた心優しき友人。そんな友人を裏切る事に、シャルルは罪悪感を感じていた。

 

(でも、僕はこうするしか…)

 

自分の机から小さな端末を取りだす。そして座ったのは祇鳴の机だった。

 

「どうする気だ?」

 

驚いたシャルルの首筋に、銀色のナイフが突きつけられる。

 

(そんな、いつの間に…)

 

シャルルも代表候補生である。様々な訓練を受け、さらにある目的で諜報活動の訓練も受けている。訓練する側から見てもシャルルは優等生だった。

 

「遂に尻尾を出した。いや、出させた奴がいるってことかな?誰だかは知らないけど、元凶はそいつか…」

 

シャルルが入学してから、俺は妙な違和感と印象を持っていた。

まず最初は握手だ。手の感じが男にしては柔らかすぎる。それ以外でも、筋肉の付き方や一夏が白式の整備・調整をする時の視線も引っかかった。

そして、決定的なのが今の行動。これで、シャルルがIS学園に来た目的がはっきりした。

そして…

 

「シャルル。君は男じゃないだろ?」

 

決定的な事実を、口にした。

 

「はぁ…ばれちゃったね。うん、その通り。もう解っていると思うけど…」

 

シャルルの言葉を祇鳴が手で遮る。

 

「話は明日聞く。今の時間は話すのには適していないからね」

 

祇鳴はそう言ってナイフを引き、ベッドに戻る。

 

「早く寝ろよ。明日も授業があるんだからな。」

 

いつも通りの口調だが、そこにはどこか悲しさがあった。

ある程度、予想はしていても、祇鳴は外れて欲しかったのだ。

 

────────────

 

「じゃあ、全部話すね。」

 

そう言って、シャルルが部屋のかぎを閉め、ブラインドを下ろす。

 

「ああ。それにしても、なんで、鍵を掛けて、ブラインドまで下ろすんだ?」

 

まあ、他人に訊かれていい話じゃないことぐらいは解るが、ブラインドを下ろす必要はないと思うんだけどなぁ…

 

「必要だから。祇鳴には、ちゃんと知ってて欲しいから…」

 

そう言って、シャルルは頬を染めて束ねた髪を下ろす。

 

そして次の瞬間───制服を脱ぎ始めた。

 

「ちょっと待て、何をする気だ?」

 

上着を脱いで、ズボンを下ろし、シャツのボタンに手を掛ける。

 

(これって、まさか───)

 

祇鳴は堪らず後ろを向く。

 

「目を…背けないで…」

 

消え入りそうなほどの、小さいシャルルの声が聞こえる。

 

「お願い、こっちを向いて。ちゃんと、僕を見て…」

 

「…解った」

 

本音を言えば、躊躇していた。けど、シャルルも相当に恥ずかしい思いを抑えて言っているんだ。それに応える必要が、あると思った。前を向いた俺の目に映ったのは、特殊なコルセットだった。なるほど、あれなら外見は男子に見える。けど、胸が相当に圧迫されるから、楽じゃないはずだ。

そんな事を考えていると、シャルルは、コルセットを外して、胸を露わにした。って、そこまでやる必要ないだろ!

 

「っ!!」

 

止めようと伸ばした手が宙を泳ぐ。シャルルが視線で「やめさせないで。」と、訴えてきた為だ。俺の目に映る、さほど大きくはないが形のいい胸と、桜色の頂点。

遂に最後の一枚に手を掛けるのを見て俺はもう我慢が出来なくなり、シャルルに脱ぎ捨てられた制服の上着を掛けてやる。

 

「もういい…もういいから。シャルルが女の子だって解った。これ以上は、必要ない…」

 

「でも───」

 

シャルルにとっては、贖罪の一つだったのかもしれない。

俺だって男だ。人並みに性欲だってある。女の子の裸を見たいと思う事もある。でも、こんな形では絶対に御免だ!!

 

「震えてるんだろ?本当は恥ずかしいんだろ?なら、する必要はない。とにかく服を着ろ。な?」

 

今だって、シャルルの身体の震えが手を通じて伝わってくる。シャルルだって年頃の女の子だ。裸を見せるのが、恥ずかしくないわけがない。だからこそ、こんな形は絶対に嫌なんだよ!!

 

────────────

 

「もう、着終わったよ…」

 

後ろを向いていた俺に声が掛かり、俺が振り向いた頃にはシャルルはいつも通りの服装だった。

それを見て、俺は心の中でほっとした。あのまま続けさせていたら、俺は絶対に自分自身を許せなかったから。

 

「父にね。こうしろって、言われたんだ」

 

シャルルが出し抜けに話し始める。

 

「僕はね、祇鳴。本妻の子じゃない、愛人の子なんだよ」

 

冷めたような、乾いたような表情でシャルルは続ける。

 

「ずっと離れて暮らしてたんだけど、母さんが亡くなってね。二年前に引き取られたんだ。孤児院っていう選択肢もあったけど、父が手を回してね。もっとも、ろくに話した事はないよ。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなぁ…本妻の人に殴られたよ、『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね。」

 

冷めた表情に一瞬哀しみの色が混じる。

 

「その後調べている内に、僕に高いIS適性がある事が解ったんだ。そして、非公式ながらデュノア社のテストパイロットになったんだよ。」

 

自分に愛人の子がいるのが世間に解り、スキャンダルになる可能性を摘み取った。そして何か使い道がないかと調べてみたら、その折にISを動かせることを知る。

ならば道具として使おう、今の世の中ではそう考えてもおかしくはない。そう、勘えてしまってもおかしくはない。

 

知らず知らずの内に、怒りがこみ上げて来て、ズボンの布を握り締めていた。

 

──────たとえ『予め知っていた』としても、到底それだけで抑えられるものではなかった。

 

「それから、少ししてからかな。デュノア社は経営危機に陥ったんだよ…」

 

今、EUでは第三次イグニッション・プランに基づき、次期主力機の選定にあたっているはずだ。その候補がセシリアが専任を務めているティアーズ。ボーデヴィッヒのレーゲン。そしてイタリアのテンペスタⅡの3機種。

 

ただしそこに、フランス製のISの名はない。

デュノア社以外のIS製造メーカーも必死に開発を続けてるが、まるで形にはなっていないらしい。

 

「ISの開発には多額の資金がいる。ほとんどのメーカーが政府からの資金援助があって成り立っているのが今の現状だ。このままではデュノア社は資金援助どころか、開発許可そのものが剥奪される。だからシャルル、君が来た。第三世代以降の機体のデータを盗むために…」

 

そして、そこに最適の相手が現れた。束さんが直接開発した白式を専用機とする一夏と、その機体をベースにした専用機を持つ、この俺が───

 

「三人目の、厳密に言えば二人目のISを動かせる男子ともなれば広告塔としてはこれ以上のものはない。そして俺たちに接触して専用機のデータも盗みだせる、か……」

 

「そう、正解。そして君の生体データ、より正確に言えば君の遺伝子もね…」

 

それを聞いただけで、俺はシャルルの親父が何をさせようとしたのかよく解った。解りたくはないが、解ってしまった。口にしたくもないが…

そして同時に、何故俺がシャルルが気にかかったのか解った。いや、解っていた。目の前に現れた時から、その姿を見た時から。

 

同じなのだ、前世での俺と。

 

似ているなんてものじゃなかった。前世での俺の人生を丸々写し取ったかのような冷酷で残酷な人生を、シャルルは生きていた。

 

「はあ…全部喋ってすっきりした。それと祇鳴、黙ってて御免」

 

シャルルが頭を深々と下げる。その姿に沸々と怒りがこみ上げてくる。抑えなきゃいけないと思ってても、抑えきれない。いや、俺自身が抑えようとしない。勝手に愛人作っといて、生まれた子供は道具にして、自分の会社の儲けの為に使う…。もう、我慢がならなかった。

 

「いいのかよ、それで…」

 

俺は自分が驚くほど冷静に、シャルルに訊ねた。

 

「えっ…。でも、どうしようもないんだよ…」

 

全てを諦めたようなシャルルの表情が、逆に俺に火をつけた。

 

「お前はそれでいいのかよ!?道具にされてままで、いいのかよ!?」

 

言葉が止まらない。怒りが止まらない。

これは俺が怒るべきじゃなくて、シャルルが怒るべきだ。

解っていても、俺は自分を抑えきれない。

 

「お前はお前、親父さんは親父さんだ。確かに血は繋がっているけど、お前が道具になる必要なんてどこにもない。第一俺にばれた以上、これからどうするんだよ…」

 

シャルルは本意じゃなかったとしても、会社ぐるみで大ペテンをやらかしたんだ。ただで済むわけがない。

 

「そうだね。デュノア社は悪くて倒産。よくて、他の企業の傘下かな。いずれにせよ、今まで通りにはいかないかな。僕は一生を檻の中で過ごす事になると思うよ?」

 

全てを悟り、諦めきった、シャルルの寂しい微笑み。

その表情を見た瞬間、決意した。やっぱり、やるしかないな。

 

「ここにいろ!」

 

「え?」

 

俺の言葉にシャルルは面喰う。

 

「俺さえ黙っていればいい。誰にもしゃべる気はないし、仮にばれてもIS学園特記事項第21項がある限りフランス政府もデュノア社もお前には手出しはできない。」

 

IS学園はその特殊な性格から、国家によって承認された55項もの特記事項がある。その一つ、特記事項第21項。学園に在学している3年間はいかなる国家、企業、団体に帰属しない。

元々は国家の都合に振り回されずにISの訓練に専念できるように決められた特記事項だが、これは国家や企業からの介入から生徒を守るために充分利用できる。

 

「よく覚えてるね。55個もあるんだよ、特記事項って…」

 

シャルルの声に、明るさが戻ってきた。

 

「これくらいは覚えないとね。記憶力が頗る悪い幼馴染もいることだし」

 

いつものほんわか拍子で言ってのける。お陰でシャルルの顔に久しぶりの笑顔が戻る。

 

「だから、俺が守ってやる。君が望むなら、俺はいつでも君を護ろう」

 

恰好つけた言葉だとは思うが、これは嘘偽りなく翔河祇鳴自身の本心だ。

 

「決めるのはシャルルだけどなね。」

 

祇鳴の言葉を聞いて、シャルルの胸の鼓動は早鐘のように高鳴った。

どうして、そこまでしてくれるの?

僕が何のために君たちに近づいたのを知っているのに、どうして優しくしてくれるの?

 

シャルルは混乱しつつも、嬉しかった。

自分の為に、ここまでしてくれる目の前の、明るい笑顔の少年の心づかいが嬉しかった。

(───いいのかな…?助けを求めても、いいのかな?)

 目の前の強く優しい王子様に助けを求めていいのかという疑問と共に、強い願望が生まれた。

 

「助けて…」

 

シャルルが祇鳴のTシャツにしがみつく。

 

「シャルル…」

 

祇鳴にしがみつくシャルルは男などではなくて、歴とした女の子だった。

 

細くて、どこか脆くて…。

守ってやらないと───そう思わせる、ごく普通の女の子だった。

 

「助けて、祇鳴…。助けて…。もう、嫌だ…。こんなの…嫌だ…」

 

震えるシャルルの肩を、俺はそっと抱きしめる。

 

「解った。出来る限りの事はする。だから、俺を信じれくれるか?」

 

「うん…」

 

涙がにじんだ目で祇鳴を見たシャルルは、しっかりと頷いた。

 

─────────

 

その翌日、フランス国防省は大騒ぎになった。

送信元が特定不明の情報が送られてきたのだ。しかもフランスがのどから手が出るほど欲しがっている第三世代ISの概念図だった。しかし、これだけでは開発は不可能のものではあったが。

さらにメールも添付され送られてきていた。その中身は特定の条件を飲めば、情報の全てを開示する事を確約するという内容だった。

さらに最後にはこう付け加えられていた。

 

『───交渉がしたければ、ロビーまで降りてこい。私はそこにいる。神光の星騎士より───』

 

その手紙の押印には〈金と銀の剣〉の模様が彫られていた。

 

〈祇鳴side end〉




どうも、年末早々から相方が失礼しました。
ミツバチの片割れことハッチーです。

今回は特別編ということで長めな文章になりました。

「確かに、今まで類を見ない程の長編になったな。まあ、年末だから目出度くていいけどね」

ちょっと、途中あたり18禁になりそうな部分もありましたが、ギリギリOKかなということでそのまま載せて見ました。

「ああ…あれは結構恥ずかしかったんだぞ?俺だって男だからな?」

本当にすいません。相方が調子乗って載せろ載せろって煩くて敵わなかったので仕方なく載せて見たんですけど…

「ホント録なことをしないなあのバカは…」

まあまあ、年に一度のお目出度い日なんですから騒がせてあげましょうよ。

「あいつは年柄年中あんな感じな気がするが?」

否定はしませんよ?事実ですし。

さて長編、年明けスペシャル。
これにて御開きにさせて頂きます。

「次はもう少し早く更新してくれよ?」

善処します。

それでは皆様───

『良い御年を!!!』
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