「えー………えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
前に立って、平凡な挨拶をする一夏。
何かもっと、喋ることはないんだろうか。
周りのみんなも『もっと色々喋ってよ』的な視線を一夏に向けている。
「………………」
これまた全くの無反応。
(お〜い…この状態で黙られると後に響くからやめてくれー。主に俺が被害を被るから。)
そんな俺の思いが通じたのか、一夏がやっと喋り始める。
「以上です。」
がたたっ。思わずずっこける女子が数名いた。
うん、大丈夫だよ?お前たちの気持ちはよくわかるから。
そして、山田先生はこの空気に半泣き状態。なんか可哀想だな……と思ったので、仕方なくフォローすることにした。
「一夏。」
「は…え?な、何だ祇鳴?」
突然話し掛けられて、答えに詰まる一夏。お前…どんだけ不器用なの?
そしていきなり話し掛けた俺に、クラス中の視線が集中する。
なんか……うん、一夏…今までバカにしてゴメンなさい。
「と、とりあえず、好きなものとか得意なこととかないの?」
「いやぁ……普通、初対面の奴に趣味の話とかされたら困らないか?」
気にし過ぎです。
「そもそも、別に万人に聞いてほしいって程でもないし。」
すみません、これ…手の施しようがないかも…
「すみません、山田先生。」
「は、はい?」
「無理です。」
「あ、あのー……」
涙声成分が二割増し☆いやいや、そんな目で見られても困るの俺なんですけど…
パパアンッ!いきなり頭を叩かれた。一夏と一緒に。かなり痛い。
そして、なぜ俺は叩かれた?フォローしようとしただけなのに。
あれ?そういや、この的確な威力と速度で、確実に頭の痛覚を抉る一撃……俺のよく知る人物と同じ感じなんだけど……
恐る恐る振り向くと、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているが、けして過肉厚ではないボディライン。組んだ腕。狼を思わせる鋭い吊り目。
俺と一夏は揃って声をあげた。
『げえっ、関羽!?』
パパアンッ!また叩かれた。
あの、すんげえ痛いんすけど。音もめちゃくちゃデカイし。
ほら見ろよ、女子が若干名引いてんじゃん。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
トーン低めの声。ドラの効果音が聞こえてきそうで、若干冷や汗が絶えないんですが。
てか、何で千冬姉さんがここにいるわけ?職業不詳で月一、二回程しか家に帰ってこない神出鬼没の一夏の実姉様が。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
おお、今まで聞いたこともない優しい声。
どうやら三国志の英雄は、赤兎馬で劉備の元に去っていったらしい。
「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」
お〜い、さっきの涙声はどうした?何、その熱っぽい声と視線は?
「諸君、私が
出たよ、暴力発言…間違いなく千冬姉さんだ。一夏は口を開けたまま呆然としている。
これじゃ、クラスの女子たちも呆然とするんじゃ……とか、思ってた俺が馬鹿だったらしく、教室から起こったのは困惑のざわめきなどではなく、黄色い声援だった。
あれ?もしかして、俺が間違ってる?
「キャーーーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」
知らんわ。どうでもいいわ。来たけりゃどっからでも来りゃいいさ。もういっその事、北南の端からでも通ってきなさいな。馬鹿さ加減に気付くだろうから。
ていうか、憧れだけで倍率一万越えのIS学園に合格するから凄い。
そんな、きゃいきゃい騒ぐ女子達を、千冬姉さんはかなり鬱陶しそうな顔で見ている。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
それは違うよ、千冬姉さん。さっき隣のクラスから「キャーーー!お姉様がいるのね!」やら、「今から行きます!すぐ行きます!ああ…愛しのお姉様!!」やら、その他大人数の女子達の声と、それを必死に止めている教師の悲鳴が聞こえてるから。
てか、ちょっとこれ異常じゃね?何?あれなの?あっち方面の人達なの?女子校の現状被害がこんなところで垣間見えるとは。これで世界が少子化で苦しんでるなら、あまり無下に出来ない状況だな、うん。
「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして〜!」
ホント、元気でなによりですね、千冬姉さん☆
俺はこのクラスの女子が怖くて仕方ないけど。
いま気づいたけど、自分よりも強い感情が近くにあると人は相対的な意識が働くらしい。それをただいま、身を以て体験中です。体験レポートとか出したら金賞貰えないかな、これ。
「で?挨拶も満足に出来んのか、お前等は」
千冬姉さんは俺と一夏を睨みながら言う。本当に容赦ないね。
えっと、こういう時の言葉って何て言うんだっけ?辛辣?親鸞に似てるな。
まあ、そんな馬鹿な事は置いといて。
「あのさ千冬姉さん、俺まだ──────」「いや、千冬姉、俺は──────」
パパアンッ!本日三度目の脳天直撃。これ、そこらの不良なら一撃で倒せんじゃね?必殺技的な感じで。千冬スマッシュ!、とか。
「織斑先生と呼べ」
「…はい、織斑先生」
相変わらず厳しいな。でもこのやり取りはまずくないか?クラスメイトは姉弟だって知らないわけだし。衝撃のカミングアウトになってそうだけど。
「え……?織斑くんって、あの千冬様の弟……?」
「ああっ、いいなぁっ。代わってほしいなぁっ」
「あれ?でも、翔河くんって………?」
ほらバレた。
「なにをボーっとしてる。次はお前の番だ、翔河!お前は出来るよな?」
い、イエッサー……
「翔河 祇鳴です。織斑家に居候しています。あと、なんかさっきから視線が変なんで言っときますが、俺は男です。ISは動かせません。よろしくお願いします」
「えーーーーーー!?翔河くんって男!?」
うん、予想通りの反応をありがとう。
まさかとは思ってたけどね……ホントに女だと思われていたとは。普通、制服なんかで分かりそうなもんだが。
「こいつは、男のくせに髪が綺麗で肌も綺麗で顔も綺麗ときている。皆が間違えるのも無理はない。私も、こいつが男と知ってから嫉妬でうっかり殺しそうになったことがある。」
そうですね、あの時は大変でしたよ……。いきなり寝込みを襲われた挙句に部屋を半壊にして、さらには剣道場で地獄の千本組手をやらされましたしね……
今思えばよく生きてたな、小5の頃の俺……
「IS使えないのにIS学園にいるってどういうことなんですか?」
「まぁ翔河は特別だ。ISが使えないとは言っても翔河は『
「専用機持ち!?」
「これ以上は国家最重要機密だ。これ以上詮索はするな!いいな?」
『はいっ!!』
まぁ一応言っておこう。
俺は世界で唯一『光月』が使える人、一夏は世界で唯一『IS』が使える男としてここ、公立IS学園にいる。
IS学園というのは、『ISの操縦者育成を目的とした教育機関であり、その運営および資金調達には原則として日本国が行う義務を負う。ただし、当機関で得られた技術などは協定参加国の共有財産として公開する義務があり、また黙秘、陰匿を行う権利は日本国にはない。また当機関内におけるいかなる問題にも日本国は公正に介入し、協定参加国全体が理解できる解決をすることを義務づける。また入学に際しては協定参加国の国籍を持つ者には無条件に門戸を開き、また日本国での生活を保障すること。(──────IS運用協定『IS操縦者育成機関について』の項より抜粋。)』という学園なわけだ。
わかりやすく言うと、『てめー、日本人が作ったISのせいで世界は混乱してりから責任もって人材管理と育成のための学園作れや。そこの技術はよこせや。あ、運営資金は自分で出してね』ということ。完璧にヤクザだな、某A国。
(で、なんで俺達がその学園にいることになったか……というのは、俺は『光月』でIS学園の試験を受けたからだ。一夏はIS学園の試験会場でテスト用ISを動かしたかららしいけど、そもそも一夏がなんでそこに行ったかっていうのは……)
───藍越学園とIS学園って、似てるよね?つまり、そういうことらしい。
「……………」
おっ、なんか箒が一夏を見てる~面白くなりそうな予感(笑)
「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基本知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
なんか、千冬姉さんが悪魔に見える……気のせいかな……?
まぁ、千冬姉さんの言うこと聞いて間違いはないだろう。なんせこの織斑千冬、第一世代IS操縦者の元日本代表なのだ。しかも公式試合の戦歴は無敗。ある日突然、引退して姿を消す。そして、何故か学園の教師してた……
せめて一夏にくらいは言えば良いのに……。一夏、心配してましたよ?あ、俺が言えばよかったのか。
「席に着け、馬鹿者」
俺はともかく、実の弟に馬鹿は可哀相ですよ。