<一夏side>
「あー……」
参った。これはマズイ。ダメだ。ギブだ。
「……………」
一時間目のIS基礎理論授業がおわって今は休み時間。
ちなみに、IS学園ではコマ限界までIS関連教育をするため、入学式当日から普通に授業がある。
学内の案内?地図を見ろってさ。
(だがしかし、どうにかならないのかこれは……)
俺と祇鳴以外全員女子。それはクラスだけではなく、学園全体がそうなのだ。
「どうした?一夏」
「みんなに見られてて落ち着かないんだ」
「確かに『話かけて』オーラを纏った女の子がいっぱいだね。しかも、他学年もいるし」
そうなのだ。現在、廊下には他クラスの女子、二、三年の先輩らが詰めかけている。しかし女子だけの空間に馴染んでしまっているのか、なかなか俺や祇鳴に話しかけるということはしない。それはクラスの女子も同じで『あなた話しかけなさいよ』という空気と『ちょっとまさか抜け駆けする気じゃないでしょうね』的な緊張感が満ちている。
「祇鳴は平気なのか?」
「うん。まぁね」
「そっか……」
ちらっと隣の女子を見ると、それまで俺に向けていた視線を慌ててそらす。しかも『話しかけて!』という雰囲気はそのままに。
しかも、元日本代表で全国の女子の憧れ、織斑千冬の弟というプロフィールまでつくと、ますます話はややこしい。
(誰かこの状況を助けてくれ……)
ふと、旧友の五反田のことを思い出す。あいつは羨ましいとずっと言っていたが、どこがだ。今からでも遅くはない、代わってくれ。
「……ちょっといいか」
「え?」
突然、話しかけられた。女子同士の牽制に競り勝ったのだろうか?
……いや、今教室内外に広がっているざわめきを考えると、どうも一人思い切って行動に出たようだ。
「……箒?」
「……………」
目の前にいたのは、六年ぶりの再会になる幼馴染だった。
篠ノ之箒。俺が昔通っていた剣術道場の子。髪型は今も昔も変わらずポニーテール。肩下まである黒い髪を結ったリボンが白色なのは、やっぱり神主の娘だからだろうか(篠ノ之道場は神社兼任)。
身長は平均的な女子のそれだが、長年剣道で培った体はどこか長身を思わせる。少し不機嫌そうに見える目は生まれつきと本人曰く。……いや、俺が嫌われている可能性もゼロではないけれど。実際、今し方名前で呼んだら睨まれたのは錯覚ではないはず。
どこかしら日本刀を思わせる印象、それが俺の思っていた箒像だったんだが、それは空白の六年で鋭さを増した気がする。
「廊下でいいか?」
教室では話しにくいことなんだろうか。まあ、俺も今の状況から抜け出せるならなんでもいい。やはり持つべき者は幼馴染だ。
「早くしろ」
「お、おう」
すたすたと廊下に行ってしまう箒。そこに集まっていた女子がざあっと道を空ける。モーゼの海渡りかよ。
それで、まあ廊下に出たんだが、俺と箒から四メートル程離れた包囲網が完成してるだけだった。しかも全員聞き耳を立てているのをひしひしと感じる。教室内で喋っても同じだな、こりゃ。
「箒、話に混ざっていい?」
「祇鳴なら別に構わんぞ」
どうやら、祇鳴も出てきたらしい。ただコイツの場合、場の空気に負けて逃げ出してきたというより、ただ単に俺たちの会話の方が面白いと思って近づいてきている。
さて、これで幸か不幸か箒が噂の新入生を二人とも独占する形となったわけだ。これ、後が怖いな……。女子による暴動が起きなければいいが……
「そういえば」
「何だ?」
ふと思い出したことがあって、俺から話を切り出した。というか箒よ、廊下にまで移動させておいて自分から話しかけないっていうのは新しすぎるだろ。
「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」
「おめでとう。箒」
「……………」
箒は俺の言葉を聞くなり、口をへの字にして顔を赤らめた。
……え?なんで怒ってんの?褒めたのに。
「なんでって新聞で見たし……」
「俺は記事だけ切り取って家に飾ってるよ」
「な、なんで新聞なんか見てるんだっ」
何を言ってるんだ、箒は。意味が分からない。新聞くらい好きに読ませろよ。あと、久しぶりに聞いたけど、口調がなんか男っぽいというか、サムライって感じだな、相変わらず。
「あー、あと」
「な、何だ!?」
「…………」
「あ、いや……」
さすがに自分の剣幕にきづいたのか、ばつが悪そうにする箒。しかし妙に興奮してるな。不思議な奴だ。
そして横では、祇鳴が必死に笑いを抑えていた。なに?なんか面白い事でもあったんだろうか?俺の周りには不思議な奴が多いな。
「久しぶり。六年ぶりだけど、箒ってすぐわかったぞ」
「え……」
「ほら、髪型一緒だし」
そう言ってちょんちょんと俺が自分の頭を指さすと、箒は急に長いポニーテールを弄りだした。
「よ、よくも覚えているものだな……」
「いや、忘れないだろ、幼なじみのことくらい」
「…………」
ギロリ。また睨まれた。えー、なんで?
横では祇鳴が、今度はやれやれといった風に頭を抱えていた。俺、なんかまずい事でも言ったんだろうか。理由を知ってんなら教えてくれ。
キーンコーンカーンコーン。
「一夏、箒。俺達も戻ろうぜ」
「わ、わかっている」
ぷいっと俺から顔をそらし、また来たときと同じようにすたすた歩き出す箒。どうやらこの幼馴染は俺を待つ気はないらしい。六年の歳月はこうも人を変えるのか。いや、うそ。箒は昔からこんな感じだ。
初志貫徹、日進月歩、日々鍛練、頑固一徹。篠ノ之箒といえば、そういう言葉が男子よりよく似合う女子。小学校の頃から変わってない。
(個人的には臨機応変とか、その辺も少しは入れてほしいところなんだが……)
「…………」
またギロリと睨まれた。いかん、俺の考えがバレたのかもしれない。箒は、こと自分の悪口に関しては昔から鋭い。いや、悪口じゃないけど。あくまで俺の希望なだけであってだな。
パァンッ!
「とっとと席に着け、織斑」
「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」
俺の脳細胞は午前中だけで二万個死んだ。