「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
三時間目は千冬姉さんの授業か……寝ないようにしないとな。
どうやらよっぽど大事なことなのか、山田先生までノートを持っている。
特性って、だいたい感覚で掴んでるから、いちいち気にしたことなかったんだよな、俺。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
ふと、思い出したように千冬姉さんが言う。
ああ、確か入学前に渡された参考書で読んだな……めんどくさいことこの上ない役割が。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」
ほら面倒。
そして一夏、ほんとにお前何も知らないのな……意味がわからないって感じの顔している。マンガで情景描写でもしたら、頭の上に?マークが3つ程出ていることだろうよ。後で参考書貸してやるからとりあえず読め。このままだとお前、惨めすぎるから。
ざわざわと教室が色めき立つ。俺は推薦されないことを祈ろう
「はいっ。織班くんを推薦します!」
俺じゃなくてよかった。って一夏!
「私もそれが良いと思いますー」
みんなずいぶん推してるな……
「私は翔河くんを推薦しま~す」
なんだ翔河か。珍しい苗字が二人もいたもんだ。
「あ、私も翔河くんがいいで~す」
うん、誰々?もうひとりの翔河ってどこにいるの?
「では候補者は織班一夏、翔河祇鳴……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」
ほう、翔河祇鳴ってこのクラスにもうひとり──────いるわけないよねー……
なんで?普通、入ってきたばかりの経験浅い男子に押し付けるような仕事じゃないと思うんだけど?
「お、俺!?」
ついびっくりした顔で立ち上がった一夏に、『彼ならきっとなんとかしてくれる』という無責任かつ勝手な期待を込めた眼差しが一斉射撃している。
ああ……哀れだ……
「織班。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないならこの二人で投票だぞ」
千冬姉さん、やはり貴方は鬼です……
「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな──────」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「い、いやでも──」
すると、再び世間知らずのお嬢様の怒りが炸裂した。
「待ってください!納得がいきませんわ!」
セシリアがバンッと机を叩いて立ち上がる。モノは大切にしようね~?
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
お前、何様だよ!?
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
いいのか一夏、猿扱いだぞ?てかイギリスも島国なはずだけど?
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
興奮冷めやらぬ─────というか、ますますエンジンが暖まってきたセシリアは怒涛の剣幕で言葉を荒げる。代表には全く興味はないし、そもそもなりたくないにも関わらず他薦された身としては自己主張で立候補してくれることは大いに結構なんだが、こうまで言われるとちょっと癪だ。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で──」
カチン。
もし、世の中に飛び交っている副声が認識できたなら、おそらくそう聞こえたであろう。
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
一夏が、おそらくつい反射的に言ってしまったであろう侮蔑の言葉にイギリス代表のお嬢様が絶句。
その後、一秒とかからず怒髪天をついたような怒りへと移行。
怒髪天って日常で初めて見たな…あまり見たくはないけど。っていうかタコ?こう、髪が脚みたいな感じで。
「あっ、あっ、あなたねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?決闘ですわ!!」
バンッと机を叩くセシリア。ついでに手袋も投げてきたりするんだろうか。手袋してないけど。というかあの決闘申し込みってイタリアだっけ?
「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い──いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう?何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
俺の預かり知らぬところでどんどん話が進んでいく……これどうしたらいいと思う?
「織斑先生、やりたい方があちらに居るようですし、俺はそちらに譲りたいのですが………」
「ダメだ。自他推薦は聞くが、辞退は聞かん!」
一蹴された。
…………かったる。
仕方ない、やるしかないか。
『ハンデはどのくらいつける?』
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺達がどのくらいハンデをつけたらいいのかなーと」
と、そこまで言ってクラスからドッと爆笑が巻き起こった。
なんでクラスの奴ら爆笑してんだ?何かおかしなこと言ったか?
「翔河くん、織班くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織班くん達は、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
みんな本気で笑っている。
「……じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」
明らかな嘲笑を顔に浮かべているセシリアの表情を見ると、正直イラッとする。
「でっ、俺の方はハンデは付けなくていいのか?」
「付けて差し上げてもよろしくってよ」
は?何言ってんのこいつ?
「勘違いするな。俺がお前にハンデ付けてやるって言ってるの。分かる?」
「あなた!わたくしを侮辱してますの?ハンデなんていりませんわ。むしろ、わたくしがハンデを付けて差し上げてもいいぐらいでしてよ」
「はいはい。じゃあハンデは無しでいいよ」
この絶対的自信とプライドがある限り、こちらの忠告は聞きはしないだろう。
あとでみんなの前で恥かいても知らねぇぞ?
「ねー、織班くん、翔河くん。今からでも遅くないよ?セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」
「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」
おお、一夏が男らしい。これぞ日本男児。
「えー?それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」
「…………」
お前らも俺のことを舐めすぎだ。こいつらなら全員合わせても二分で倒せる自信があるね。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。織班と翔河とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと手を打って千冬姉さんが話を締める。俺は高校に入って初のISバトルが出来ることに嬉しさを抱きながら、席に着いた。
でも勝利すると面倒なことにクラス代表になってしまう。どうしたものか……はぁ……
よし、寝よう!
そして、早速俺は授業中に眠りに落ちたが、すぐに千冬姉さんの出席簿アタックが飛んできたことは言わずとも分かるだろう……