IS~陽に魅入られた者~   作:ミツバチ

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ルームメイトは女の子…………なんで?

〈一夏side〉

 

「えーと、ここか。1025号室だな」

 

俺は部屋番号を確認して、ドアに鍵を差し込む。あれ?開いてるじゃん。

 

ガチャ。

 

部屋に入ると、まず目に入ったのは大きめのベッド。それが二つ並んでいる。そこいらのビジネスホテルより遥かにいい代物なのは間違いない。こう、見ているだけでふわふわ感が醸し出されている。これが格の違いというやつだろうか。国立万歳。

 

荷物をとりあえず床にやって、俺は早速ベッドに飛び込む。……おおおお、なんというモフ感。これは間違いなく高いベット&羽毛布団。

 

「誰かいるのか?」

 

突然、奥の方から声が聞こえた。ドア越しなんだろう、声に独特の曇りがある。そういえば全室にシャワーがあるって言ってたっけ。──ん?

 

「ああ、同室になった者か。これから一年よろしく頼むぞ」

 

──何か、すごくいやな予感が、こう、足下から、ぞわぞわと。

 

「こんな格好ですまないな。シャワーを使っていた。私は篠ノ之──」

 

「──箒」

 

シャワー室から出て来たのは、今日再会を果たした幼なじみだった。

 

今し方までシャワーを使っていた。そしてシャワー室から出てきた。どうやら脱衣場は洗面所と兼ねているタイプだ。そして相手が女子だと思ってそのままの格好で出てきたのか、箒はその体に、バスタオル一枚を巻いただけの姿だった。あ、ポニーテールじゃない。

 

白いバスタオルの面積は色んな意味でギリギリで、その端から下は瑞々しい太ももが露出している。シャワーを浴びていたのを証明するように、つぅっ……と水玉が脚線を滑り落ちる。健康的な白さを持った肌が眩しい。

 

その上くびれた腰はよく鍛えられた体であることをタオルの上からでも感じさせた。引き締まっていて、それでいて女性的なラインを主張している。

 

タオルを押さえている手の下では、かなり大きな胸の膨らみが見て取れた。何せ体を最後に見たのは小四の頃の水泳の授業だ。あの頃の面影なんか微塵もない。意外と箒って着やせするタイプなんだな。──以上、0,3秒の思考世界終了。

 

「……………………」

 

きょとんとした顔の箒。俺もきょとんとしているだろう。全日本きょとん選手権予選、開幕だ。

 

「い、い、いちか……?」

 

「お、おう……」

 

俺が頷くと、ボッと顔を真っ赤にする箒。そりゃまあ、シャワーから上がってすぐに異性がいたらそうなるだろう。俺でも反応&対応に困ること必至だ。

 

「っ……!?み、見るな!」

 

「わ、悪い!」

 

慌てて顔を横に逸らす。ちらっと見えた横目の視界では、箒が体を隠すように(あるいは守るように)タオルできつく自分を抱きしめている姿だった。……押し上げられて逆に見えてしまった胸の谷間が、俺の心臓をひときわ強く脈打たせる。

 

「な、な、なぜ、お前が、ここに、いる……?」

 

ギギギ……という音が聞こえてきそうなほど、ぎこちない動きで俺に聞いてくる箒。

 

「いや、俺もこの部屋なんだけど──」

 

そこからの展開は早かった。超速だ。さすがは全国剣道大会優勝者。箒は即座に壁に立てかけてあった木刀を取ると、くるり一回転して上段打突の構え。そこから基本に忠実な低腰短歩で一気に間合いを詰めてくる。──って死ぬ!

 

「うおおっ!?」

 

俺はベッドから飛び降りると一目散にドアを目指した。

 

バタン!

 

ドアの向こう側へと間一髪の脱出。背中で閉めた反動が遅れてじーんとやってくる。

 

「助かっ──」

 

ズドン!

 

顔の真横、僅かに頬の二ミリ隣から木刀の切っ先が突き出していた。おい、このドア木製だぞ。それを木刀で貫通するって言うのはどういう技術があれば可能なんだ。

 

ズズズ……と木刀の切っ先がドアの中に沈んでいく。ほっ、諦めてくれたか。

 

ズドン!

 

「って、本気で殺す気か!今の躱さなかったら死んでるぞ!」

 

数秒前まで俺の頭があった場所にまた鋭い打突が飛んできた。

 

「……なになに?」

 

「あっ、織班くんだ」

 

「えー、あそこって織班くんの部屋なんだ!いい情報ゲット~!」

 

騒ぎを聞きつけて、それぞれの部屋から女子がぞろぞろと出てくる。

 

しかも、困ったことに全員がラフなルームウェアで、かなり男の目を気にしない格好をしている。一部の子に至っては、長めのパーカーを着て、下にはズボンもスカートも穿いていない。白の逆三角形がちらちらとのぞいていた。

 

他にも、羽織っただけのブラウスの合間から肌色の胸元が見えている子までいる。……女子って、そんなに簡単に下着取っちゃうのか?大丈夫なのか、色々と。

 

「……箒、箒さん、部屋に入れてください。すぐに。まずいことになるので。というか謝るので。頼みます。頼む。この通り」

 

頭の上で合掌。届けこの思い。

 

「……………」

 

ドアから返ってきたのは沈黙だった。ただ、木刀の切っ先は室内に引っ込んでいった。三回目の打突が来ないことを切に願う。

 

「お前……何やってんの……?」

 

「おわっ!?」

 

誰もいなくなったはずの廊下で、いきなり背後から話しかけられ、軽く飛び上がる。漫画でよくある描写たが、実際にやってみるとかなり恥ずかしい。しかも条件反射だから手に負えない。

 

振り返った先にいたのは、その手に竹刀を持った祇鳴だった。どうやらトレーニングをしていたらしく、その額には薄っすら汗が滲んでいた。

 

「いや、ちょっとな…。一人部屋だと思ったら箒と相部屋だったらしくてさ…」

 

「それで追い出された、と」

 

「ああ……」

 

まるでご愁傷様と言わんばかりの表情を俺に向けて、祇鳴は横を通り抜けていった。

 

おいコラ親友、目の前で困っている友達を助ける優しさは無いのか。俺の周りの人間は優しさが欠けている。水不足と共に優しさ不足として世界問題にも発展するかもしれない。

 

しーん……

 

それからしばらく続いた沈黙。時間にして二、三分程度だとは思うが、今の俺にはそれが一時間以上に感じられた。

 

ガチャ。

 

「……入れ」

 

「お、おう」

 

ドアを開けた箒は、剣道着を身に纏っていた。すぐに着られる服がこれだったのだろう。実際、大急ぎで着たのか、帯の締め方が緩い。

 

何にしても入室許可を得た俺は、俺の部屋に入った。

 

〈一夏side end〉

 

───────────────

 

〈祇鳴side〉

 

我が学園の生徒会長であり、俺を一ヶ月近くストーカーし続けた更識会長との会合を終え、千冬姉さんに言い渡された部屋に向かっていた。

 

あの後、なんとなく修行する気にはなれず、仕方なく手持ちのタオルで汗を軽く拭き取り、部屋へと向かうことにした。

 

ただ、その道のりが尋常ではなく過酷であった。

 

何故なら。

 

「あっ、翔河くんだ」

 

「ホントだ。翔河くんよ」

 

「汗かいてる!汗かいてるよ!」

 

「きゃー!運動後の翔河くん……レアよ!レアだわ!!」

 

「写真、写真よ!高性能カメラ用意しなさい!え?無い?だったら買ってきなさい!今すぐに!」

 

おい、お前ら……人を珍獣か何かと勘違いしてねえか?しかも最後のやつ。写真撮ってどうする気だ。絶対、真面な使い方しねえだろ。後、無茶言うな。

 

と、こんな感じで向かう先々で女子の群れに囲まれてしまった。お陰で一時間掛けて進んだ距離、僅か10メートル……

 

ああ……距離にして恐らく80メートルぐらい先の部屋が遠い……

 

しかも、その恰好がまた……

 

男子の目というものに全く縁が無いためなのか、全員ラフな恰好をしていて、一部の子に至っては、長めのパーカーを着て下にはズボンもスカートも穿いてなく、白の逆三角形がちらちらとのぞいている子もいた。他にも、羽織っただけのブラウスの合間から肌色の胸元が見えている子までいたし。そんな簡単に女子が下着取っちゃだめだろ……大丈夫なのかこれ、女の子として、人として……

 

「……箒、箒さん、部屋に入れてください。すぐに。まずいことになるので。というか謝るので。頼みます。頼む。この通り」

 

そして、極め付けは扉の前で合掌して拝み倒す、珍獣ウーパールーパー。

 

ではなく、我が親友、織斑一夏であった。

 

……一夏?

 

「お前……何やってんの……?」

 

「おわっ!?」

 

一夏が驚きのあまり、軽く飛び上がった。てか、現実でホントに飛び上がるやつ初めて見たよ……見た感想としては……恥ずかしいな、うん。

 

「いや、ちょっとな…。一人部屋だと思ったら箒と相部屋だったらしくてさ…」

 

「それで追い出された、と」

 

「ああ……」

 

これ、自分としては好きな男と同じ部屋なのは万々歳だけれども、それを表立って表す勇気がなくて、何とか体裁だけでも整えようとしてるけど、結局空回りして、でも嬉しい!……という箒の気持ちの現状だよなぁ……

 

まあ、何が言いたいかと言うと。

 

箒よ……もう少し素直になれ。

 

俺は、未だ扉の前に跪いている一夏に、ご愁傷様という念を込めた視線を送りながら、横を通り抜ける。

 

なんか後ろから、お前助けろよ的な視線が送られている気がするが……うん、気の所為だろう。

 

それから、やっと俺が暮らすことになる部屋に辿り着いた。所要時間2時間の激闘であった。

 

もういや……疲れた、早く休みたい……

 

部屋の前に立った俺は、一夏の前例に習いドアを叩く。出来れば誰もいないことを望むが、何故か嫌な予感しかしなかった。

 

「は〜〜い、どなたですか〜?」

 

あー……この間延びのする声……これ絶対あの子だよ……。こんな力が抜ける声は知っている限り一人しかいない。

 

「あ〜、トーガだ〜」

 

「どうも、これからよろしく、布仏さん」

 

「こちらこそよろしくだよ〜」

 

やっぱり合ってた。いつも通り眠そうな布仏 本音(のほとけ ほんね)がドアから顔を出す。これから同じクラスメイトでルームメイトにもなるわけだが……

 

とりあえず聞いておきたいことがあった。

 

「布仏さん、俺と同じ部屋でホントに良かったの?」

 

「ぜ〜んぜんだいじょぶだよ〜!ノ〜プロブレムだよ〜!」

 

即答だった。いや、この間延びのする喋り方の所為で即答って程早くはなかったけど。

 

ま、でもそれだけ聞いて安心したのは確かだ。小さい頃から一夏の家に居候している身としては、他人に気を使う性質が出来上がってしまっている。要するに、俺は同じ空間の人間が気分を害することを好まない性格なのだ。

 

だがま、布仏さんならあまり神経使うこともな無いだろうがな。あの性格だし。

 

兎にも角にも、俺の部屋が決まった。

 

〈祇鳴side end〉

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