ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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暴かれた秘密(前半)

ハリー視点

 

二回目のホグズミード行きがあったというのに、今から『闇の魔術に対する防衛術』の授業に向かうグリフィンドール生の顔色はあまり良いものではなかった。

理由は勿論、前回スネイプによって行われた最低最悪の授業の記憶があるからだ。

 

「スネイプが今回の授業も担当するなら……僕、絶対に病欠するよ」

 

ロンの言葉に、僕を含めた全員が無言で頷く。

当然だ。それだけあの時の授業は最悪の物だったのだから。今回もスネイプが教鞭をとると考えるだけで胃がムカムカするようだった。今回はスリザリンとの合同授業でないとはいえ、嫌なものは嫌なのだ。

……しかし、そんな心配は杞憂に終わることになる。何故なら教室の中にいたのが、

 

「ハーマイオニー。教室に誰がいるのか、チェックしてくれないかい? もしスネイプなら、僕はこのまま医務室に行くよ。スネイプアレルギーだ」

 

「はいはい……。あ、大丈夫そうよ」

 

「ん? ハーマイオニー。そんなところでのぞき込んでどうしたんだい? さぁ、早く入っておいで」

 

スネイプなんかとは違い、今まで最高の授業を行っていたルーピン先生だったから。

先生は本当に病気だったらしく、くたびれていたローブを更にくたびれさせ、目の下には大きなクマが出来上がっている。しかしそれでも先生の優し気な微笑みは変わっておらず、席に着く僕等に微笑みながら尋ねてきた。

 

「前回は授業が出来なくて悪かったね。私はあまり体が丈夫な方ではないから、大体()()()()くらいのペースで体を壊してしまうんだよ。でも代わりにスネイプ先生が授業をしてくれたね。彼は学生時代から優秀でね。先生の授業はどうだったかい?」

 

ルーピン先生の笑顔に緊張が取れたのか、全員が一斉に不平不満をぶちまけ始める。

 

「先生聞いて下さい! あのやろ……スネイプ先生ときたら、いきなり『狼人間』についての授業をしやがったんです!」

 

「何が『狼人間』について知らないなんて遅れてる、だ! あのダリア・マルフォイだって()()()()()()()()ことを、僕らが答えられるわけがないじゃないか! 分かってたのはハーマイオニーくらいでしたよ! しかもスネイプはそれすら無視するし! あぁ、今思い出しても腹が立つ!」

 

「しかも宿題まで出したんですよ! 『闇の魔術に対する防衛術』の教師でもないのに! 羊皮紙二巻も!」

 

怒涛のような勢いで漏らされる不満にルーピン先生は顔をしかめながら、

 

「セブルス……ダリアだけでは飽き足らず、そんなことまでやっていたのか。それに、ダリアもダリアで答えなかったとは……。一体彼女は何を考えて……」

 

何事か呟いた後、今度は再び元の笑顔に戻り、未だに不満顔の僕らに言い放ったのだった。

 

「よろしい! 『狼人間』なんて、まだ三年生には早すぎるからね。宿題のレポートも書かなくていいとも! スネイプ先生には私の方から話しておくよ」

 

生徒達から一斉に歓声が上がる。

やはりルーピン先生はスネイプと違い素晴らしい先生だ。ハーマイオニーのものを写したロン、そして更にそのロンのレポートを写した僕は宿題を一応終わらせていたけれど、どうせどんなものを提出したってスネイプに嫌味を言われてしまうのだから、宿題がなくなるに越したことはなかったのだ。唯一僕らの原本を作り上げていたハーマイオニーだけは、

 

「そんな! 私もう書いていたのに!」

 

酷くがっかりした表情を浮かべていたけど。

こうしてハーマイオニーの悲痛な叫び声と共に、ルーピン先生による素晴らしい『闇の魔術に対する防衛術』の授業が再開されたのだった。

 

その後の授業は相変わらずとても楽しいものだった。

先生が今回連れてきた生物は『ヒンキーパンク』と呼ばれるもので、『狼人間』なんかより遥かに興味を惹かれるとても面白い生き物だ。この一回の授業だけで、いかにルーピン先生が素晴らしい授業をしていたかがうかがい知れる。スネイプなんかには逆立ちしたって、こんな面白い授業を行うことは出来ないだろう。

しかも先生は、

 

「よ~し! 授業はここまでだ! 今回もよく頑張ったね! それと……ハリー、ちょっと残ってくれないかい? 話があるんだ」

 

落ち込んでいる生徒を励まそうという心遣いも出来るのだから。

先生は僕以外の生徒が教室から出て行ったのを確認すると、僕に優しい声音で話しかけてくる。

 

「残ってもらって悪いね。しかし、どうしても気になってしまってね。……試合のこと聞いたよ。箒のこともね。非常に残念に思うよ。箒は修理することは出来ないのかい?」

 

「いいえ……。『暴れ柳』にぶつかったせいで粉々になってしまったんです……。もう修理も出来ないって……」

 

数日経ったとしても、やはりあの試合での出来事は思い出すだけで落ち込みそうになるものだった。正直あまり話していて愉快な話題ではない。

しかし以前行った先生とのお茶会とは違い、僕はそんな話題を先生としていても腹を立てることはなかった。寧ろ自然な形で弱音が引き出されてしまう。

それはおそらく、先生が何かしらの答えを僕に与えてくれるという確信があったからかもしれない。

僕の最も恐れるものが『吸魂鬼』だと告白した時、先生は確かに何かを言いかけていた。

 

『感心したよ。それは恥じる様なことじゃない。何故なら、それは君の恐れているものが、』

 

前回のお茶会はダリア・マルフォイの乱入によって遮られてしまったけど、あのまま続けていれば先生は()()()()()()()()()を与えてくれたような……そんな気がしたのだ。

心の余裕を取り戻したわけではない。でも前回と比べ、僕の中での先生への信頼はより大きなものになっていた。

先生はどん底にいる僕にとって、一筋の希望の光だったのだ。

 

誰かに……僕は弱くないのだと証明してほしかった。

 

そして、その信頼は間違っていなかった。

先生は僕の応えにため息をついてから、静かな口調で語り始める。

 

「あぁ、あの木かい……。実はあの『暴れ柳』は、私の()()()()()()()()()に植えられたものでね。本当に暴力的な奴だったよ……。生徒でさえバラバラにされかけたんだ。箒なんてひとたまりもないだろう。それに、箒だけじゃない。ハリー……試合中、『吸魂鬼』に襲われたそうだね」

 

「はい……」

 

「そうか……。なら君が箒から落ちたのは無理もない話だ。君に落ち度なんてない。『吸魂鬼』は最近苛立っていてね、校内に入れないことが余程お気に召さないらしいんだよ」

 

先生はそこで言葉を一度切り、僕の心を見透かしたように続けた。

 

「ハリー……。前回君に言えなかったことでもあるが、君は『吸魂鬼』が一番恐ろしいと言っていたね。そしてもしかしたら、君はそのことで自分を弱い人間だと()()しているのではないかい?」

 

「は、はい。先生、僕は弱いから『吸魂鬼』の影響を受けやすいのでしょうか……?」

 

親友であるロンにも言っていない悩みを見抜かれ、僕は思わず肯定の意を返す。

そんな僕に先生は一つ頷くと、今まで見せたことがない程真剣な表情を浮かべていた。

そこにはダリア・マルフォイに()()()()()()()()を運ばれた時から見せていた疲労感ではなく、ただ僕に対する思いやりだけが見え隠れしていた。

 

「それは誤解だよ。君が『吸魂鬼』の影響を受けるのは、君が弱いからなんかではない。君は寧ろ同年代の()()()()強い人間だよ。あのダンブルドアだってそう思っている。ただ他の人間より影響を受けやすいのは、君の過去に、誰も経験したことがない恐怖があるからなんだ。『吸魂鬼』は周りにいる()()の幸福を吸い取ってしまう。楽しい気分も幸福な思い出も、正の感情の全てを吸い取られ、挙句の果てに彼らと同じ状態にしてしまうことすら出来る。魂のない、ただの抜け殻のような存在にね。心には最悪の経験しか残らない。……ハリー、もしかして君は『吸魂鬼』に襲われた際、何か聞こえているのではないかい?」

 

「はい、そうなんです……。あいつらが傍に来ると……声が聞こえるんです。必死に僕の命乞いをする女性と……そんなあの人を殺そうとする奴の声が……。あの声は多分……」

 

そこまで言って、僕はようやくあの声が誰のものであるかに気が付く。

ルーピン先生の言っていた最悪の経験。そして()()命乞いと、それを嘲笑するどこか()()()()()()()声。

そんなもの一つしか考えられないではないか。

 

あぁ……僕はなんで、今の今まで気が付かなかったのだろうか。

だって、僕の人生において最悪の経験と言えば、

 

「そうか……。そうだったんだ……。あの声は、母の物だったんだ。ヴォルデモートから僕を必死に守ろうとする母の……」

 

両親を失ったこと以外にあり得ないのだから。

酷い話だと思った。僕は何故、こんなにも理不尽な目に遭わないといけないのだろうか。

僕は結局、絶望の中でしか母親の声を聞くことはできないし、それを今まで母のものだと気づくことすら出来なかったのだ。

 

「先生……。そうだったんですね。僕の聞いていたものは……ヴォルデモートが僕の母を殺した時の声だったんですね」

 

「……」

 

僕の応えに、先生がすぐに応えることはなかった。

でも予想通りのものではあったのか、その瞳に驚きの色はない。

 

先生は相変わらず、僕に思いやりに満ちた視線だけを投げかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーピン視点

 

本当に強い子だ。

悲劇としか言いようのない境遇でありながら、それでも自身の弱さや境遇と真っすぐに向き合って生きている。前回のお茶会の時も余裕がなかっただけで、本来であれば冷静に自分を見つめなおせる素直な子なのだ。まさにジェームズとリリーの子だ。

 

……後悔や絶望に塗れてしまった私などとは全く違う。

『狼人間』であることを受け入れてもらいながら、結局はその友人だと思っていた人物から裏切られた自分とは……。

 

私は内心の悲しみをひた隠しながら、ハリーに静かに語り掛ける。

私のような後悔に塗れた人生を歩ませないために。いつダリアにホグワーツから追い出されるかも分からない私が、少しでもハリーのためになれるように。

 

「……そうか。やはりそうだったのだね。なら、やはり君が恥に思う必要なんてどこにもない。君の最悪の経験は……他の人間に比べて遥かに辛いものだ。君のような目に遭えば、どんな人間だって箒から落ちてしまうことだろう。君は決して、恥に思うことないんだよ」

 

「はい……」

 

ハリーは一言返事をすると、そのまま黙り込んでしまう。

それもそうだろう。いくら彼が強い子だとはいえ、ハリーのような13歳の少年にとっては少々酷な話だ。誰だって自分の親が殺される場面を思い出していい気分になるはずがない。

僅かな時間、二人しか残っていない教室に沈黙が漂う。そして再びハリーが口を開いたとしても、

 

「皆僕みたいに、それぞれの声が……最悪の記憶がよみがえるものなんですか? そうであれば……アズカバンは本当に酷い所なのでしょうね……」

 

やはり暗い声音でしかなかった。

私は努めて優しい声音を意識して応える。

 

「あぁ、そうだ。皆君ほどではないが、自分にとって最も酷い記憶を呼び起こされる」

 

ハリーを慰めるためだけの嘘ではない。事実私も、

 

『リーマス……信じられぬと思うが、落ち着いて聞いてほしい。シリウスが……いや、シリウス・()()()()が、先程裏切り者としてアズカバンに収監された。彼は……友人より、自らの血に従うことを選んだのじゃ。ジェームズやリリーだけでは飽き足らず、彼はピーターまでその手で殺めてしもうたのじゃ……』

 

最低最悪の記憶を呼び起こされたのだから。

何よりも信じられると思っていたものが、足元から崩れていった瞬間を。

 

部屋に再び沈黙が訪れる。

ハリーはハリーで何か思うところがあったらしく、私も私で一瞬意識が深い後悔に奪われそうになったのだ。元はと言えばハリーを元気づけるために始めたことだというのに……我ながら実に情けない話だ。

だからだろう。結局再度沈黙を破ったのは、

 

「先生、お願いがあります。僕に『吸魂鬼』の追い払い方を教えてください!」

 

私なんかより遥かに真っすぐなハリーの方だった。しかも先程とは違い、真っすぐな決意を含んだ声音で。

彼はやはり私などより遥かに強い男の子だった。

 

「先生は汽車の中であいつらを追い払いましたよね!? なら、先生はご存知ですよね! あいつらに対する防衛法を! 確かに先生の言う通りなら、僕は心が弱くて『吸魂鬼』の影響を受けていたわけではないのだと思います……。でも、僕はこれ以上あいつらのせいで気を失いたくなんて……あいつらのせいで試合に負けたくなんてない。何より……母が死ぬ時の声なんて聞きたくない。だから先生、お願いです!」

 

静かな教室の中に、ハリーの真剣な願いがこだまする。

それに対し私は、

 

「……まったく。私は『吸魂鬼』の専門家というわけではないのだけどな。()()()だけど、何故皆、私から『守護霊』を学ぼうと思うのか……。でも……そうか。まぁ、うん、よろしい。何とかやってみよう。だが来学期まで待ってほしい。おそらくそれまでに、もう一度くらい体を崩しそうだしね。それに()()もあるんだ」

 

思わず頷いてしまっていた。

言葉通り、私は『吸魂鬼』の専門家などではない。『守護霊の呪文』も『不死鳥の騎士団』であれば全員が使える。私の様に()()()()()『守護霊』しか出せなくなった人間とは違い、もっとハリーの教師に相応しい人間などごまんといるのだ。私が教えて何かハリーにメリットがあるとは思えない。

 

だが、私は結局頷いてしまった。何故か、

 

『教えて欲しいのです。私に『守護霊』の出し方を。幸福とは何なのかを。私は先生の授業をもっと受けたいのです』

 

ハリーとは違い、ダンブルドアからすら警戒される生徒の声を思い出しながら。

立場も()()()()、まるで真逆のはずの二人の願い……しかしその真剣な声音だけは、二つとも共通したものだったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

学期が終わる二週間前。つい最近まで外はあんなにも泥だらけだったというのに、その日の校庭は真っ白な銀世界に変わり果てていた。

もう少しでクリスマス。去年は下らない赤毛共のせいで帰ることは叶わなかったが、今年は何の問題もなく家族の元に帰ることが出来る。たとえ城中がクリスマス様の豪華な飾りつけになろうとも、私にとって家族がいる場所こそが最も美しく、温かく、そして幸福な場所なのだ。

 

……それに、今のホグワーツは私にとって輪をかけて居づらい場所になっていたのだから猶更だ。

何故なら、

 

「マ、マルフォイ様は次のホグズミードにも行かれますか? そ、そうであるのなら、是非僕とも、」

 

「……いえ、先約がありますので。私は肌の関係で、あまり大所帯で動くわけにはいかないのです。それに、そもそも当日行けるかも分かりません。申し訳ありませんね、是非別の人を当たってください」

 

前回のホグズミード行き以降、私に話しかけてくる連中が僅かに増えていたから。しかも全員が全員、何故か頬を赤らめた状態で……。

勿論私が周囲に恐怖されている状況に変わりはない。寮内外問わず、多くの人間が私の無表情に恐怖の視線を送ってくる。

しかしそんな生徒達の中に……突然今までにない反応をする生徒が現れたのだ。おそらくホグズミードで私の表情を目撃した人間達、その中でも特にスリザリン生が主な構成だった。

 

鬱陶しいことこの上ない。すぐにその場を逃げても、見られた事実を消せるわけではない。やはりあそこでキャンディを食べたのは失敗だった。

お兄様達の楽しみに水を差してはいけないと慌ててしまい、随分無理な行動をとってしまった。

いくらあのキャンディが()()()()()()見えても……私はあそこで食べるべきではなかったのだ。

お蔭で私の無表情以外の表情を見ようという奇特な連中に目をつけられてしまった。全く……私の笑顔など見て何が面白いのだろうか……。

 

キラキラとした飾りつけが施された大広間。一部のスリザリン生は私をホグズミードに誘い始め、それ以外の寮生は遠巻きに私を頬を赤らめて見つめている。敵意と何か良く分からない感情の入り混じったカオスな状況に、思わずため息がこぼれそうになる。

私はこれはこれで鬱陶しい視線に辟易としながら、私と男子生徒のやり取りを()()()で見つめていたダフネに声をかけた。

 

「ダフネ、お待たせしました。さぁ、寮に戻りましょう。……どうかなさいましたか?」

 

「ううん、なんでもないよ。……ただ表情一つで態度が変わった連中に腹が立っただけ。……信念なんて最初からないんだよね」

 

「え? 何か仰いました?」

 

「なんでもない! ダリアが気にしていないなら、私も気にしていないから! さ、行こう!」

 

何か小声で呟いていたダフネは、私の追及を断ち切るように宣言して歩き始める。何を言っていたのかは分からなかったが、ダフネがそう言うのならと私は深く追求せず、そのまま先程の出来事を話題にすることにした。

 

「しかし、意外とホグズミードに行ける機会は沢山あるのですね。次はクリスマス休暇直前ですか。まぁ、次の学期には試験の時期があるのです。前半に固まるのは仕方がないとは思いますが……」

 

「そうだね、次でもう三回目だものね。私ももっと少ないと思っていたよ。……次も一緒に行こうね」

 

「はい、勿論です。今回は余計な連中もいますが、出来る限り一緒にいましょうね」

 

クリスマスが近いため、次回のホグズミード行きは雪空になる可能性が高い。曇り空程万全な天気ではないが、私が外に出ても比較的安全と言える天気だ。寧ろこれを逃せば本当に次はない恐れがある。

勿論天気がいいからと言って、次のホグズミードが前回のように完璧なロケーションであるわけではない。未だに校門には『吸魂鬼』がおり、次は前回とは違いお兄様とダフネ以外の同行者もいる。流石にクラッブとゴイルをはじめ、『聖28一族』の面々を無視し続けるわけにはいかない。近すぎる距離も問題だが、険悪な関係にもなるわけにはいかないのだ。お父様に迷惑をかけないために、彼らとは適度な距離で付き合っておく必要がある。

しかしそんな欠点があったとしても、

 

「……まだ半年ですが、何だか今年はあっという間に時間が過ぎているような気がします。もうクリスマスなんですね……」

 

ダフネやお兄様と一緒にいられるのなら、やはりそれは素晴らしい時間であるように思えた。

窓の外では真っ白な雪が深々と降り続けている。今までの経験からして、雪の時期は大抵何か嫌な出来事が起こる。体の秘密に、自身の奥底にある歪んだ本性。そしてダフネ達との一時的な別れ……。昔はいい思い出の多い時期だと思っていたが、去年のせいで悪い思い出の方が遥かに大きなものになってしまっている。

だが……まぁ、今年は大丈夫だろう。だって私の手の中には、

 

「暖かいね……」

 

「ええ……。とても」

 

親友の手のひらが握られているのだから。

この手を離さない限り、私は決して不安に沈むことはないのだから。

 

「ルーピン先生との約束も、先生の体調もあって来学期になりそうですし……今年最後の楽しみはホグズミードとクリスマスですね。あぁ、本当に楽しみですね。……本当に、幸せですね」

 


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