ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
私のクリスマスは平凡に満ち溢れている。
待ちに待ったクリスマス休暇。昨日ようやく家に帰ることが出来た私とお兄様は、目を覚まし食堂に向かうとまず優しい家族に出迎えられる。
「お父様、お母様。おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「おはよう、ダリア、ドラコ。さぁ、座りなさい。折角の朝食が冷めてしまうわ」
食堂に入る私達に、優しい微笑みを浮かべるお父様とお母様。私が日光に当たれない関係で距離こそあるが、柔らかな日差しを取り込んだ窓が食卓を優しく照らしている。
まさに絵にかいたような家族との時間。そこには私がずっと待ち望み、いつだって幸福を感じられる空間があった。
「はい、お母様」
家に帰った時も散々喜んでいたというのに、こんな何気ないやり取りだけで、私はどうしようもなく喜びを感じてしまう。自分では分からないが、おそらくこの無表情も綻んでいることだろう。そしてその予想は正しかったらしく、私の表情を見たお母様の視線は更に微笑ましいものに変わっていた。
そんなお母様の反応で、私の無表情も更に綻んだのは言うまでもない。
私達が食卓に着いたことで、静かだが穏やかな食事が進んでいく。食事中であるためそこまで会話があるわけではない。しかし会話などなくともお互い深い信頼感を持っているため、決して緊張感などが生まれることはない。ただただ穏やかで幸福な時間。それは食事が終わり、食後の紅茶を楽しんでいる間も続く。
何気ない会話がポツリポツリと食卓に響く。
「ダリア。私は理事ではなくなってしまったが、お前の学校での活躍はよく聞いている。今年も素晴らしい成績を残せそうだな。流石は我がマルフォイ家の娘だ」
「ありがとうございます、お父様。決してマルフォイ家の名に泥を塗るようなことはいたしません」
「いや……そんなことは一切心配してはおらん。だが……ドラ、」
「そ、そういえば父上! 後期はスリザリンのクィディッチ試合がありますけど、去年みたいに観戦には来ないのですか!?」
「……まぁ、よい。お前の成績については次の機会だ。しかし観戦か……。おそらく試合を観戦に行くことは出来ないが、その内ホグワーツに……森番に会いに行く
「本当ですか、お父様!?」
聞こえるのは極々ありふれた家族との会話。そこには何の変哲も変化もなく、ただただどこまでも続く退屈な日常があるだけだ。多くの人間にとって、この平凡な日常はただ過ぎ去っていく一日でしかないのだろう。
でも、この日常こそが……私にとって最も感動的で、退屈とは程遠い幸福な時間なのだ。
この暖かい家庭に戻ってきたというだけで、私は胸がいっぱいになるような気持になるのだ。
お父様が私を褒め、そして不器用に私の頭を撫でてくださるのが好きだった。
お母様が私とお父様の会話を聞き、そっと見守るように微笑む姿が好きだった。
そして……
「よかったな……ダリア」
「はい、お兄様! お父様、その時を楽しみにしておりますね!」
両親に甘える私を、お母様そっくりの視線で見つめるお兄様の姿が大好きだった。
朝食が終わり、昼食を食べ、そして夜に細やかな家族だけのパーティーを開こうとも、この穏やかな時間は決して変わらない。
私は本当に幸せな『怪物』だと思う。
本来であれば決して受け入れられないような生き物なのに、それでもこんなに素晴らしい家族が私を愛してくれている。非日常の化け物が、それでもいいと受け入れられ、そっとその何気ない日常の中にいることを許される。それを幸福と言わずに、一体何を幸福だと言うのだろうか。
今日も一日、ただ平凡な一日が過ぎ去ってゆく。
私にとって今年のクリスマスはそんな何の変化もなく、同時にとても幸福感に満ちたものでしかなかった。
ハーマイオニー視点
私はずっと信じて疑わなかった。『吸血鬼』とは、人の血を吸う闇の生き物……
マグルの世界において『吸血鬼』は物語に度々登場する
でも今の私には……それを俄かに信じることは出来なくなっていた。いやそれどころか、それが完全な嘘だったのではとすら疑い始めている。
何故なら、私の知った
彼女はいつだって私を助けてくれようとしてくれた。どんな時だって……それこそ自分が追い詰められ、私なんかより遥かに辛い思いをしている時だって、彼女は何だかんだ言って私を助けてくれた。最終的に私を拒絶しようとも、彼女はいつだってその瞳に悲しみを湛えながら、他人である私のことを心配してくれていた。
そこには血に飢えた怪物の姿などなく、ただ一人の心優しい少女の姿があるだけだった。
それなのに……
「それなのに私は……なんて身勝手なことを」
ほとんど人のいなくなったグリフィンドール談話室で、私は真っ白に染まる外を眺めながら独り言ちる。談話室にはシリウス・ブラックの真実を知り落ち込むハリー、そして何を話すでもなく黙り込む私達に戸惑うロンがいるけれど、それでも私の暗い思考が止まることはなかった。親友であるハリーが落ち込んでいるというのに、放っておけば意識はマルフォイさんの方に流れてゆく。
私はずっと、マルフォイさんと友達になりたかった。いつだって私の目指す先に立ち、そしていつだって私を助けてくれた彼女と、私はずっと友達になりたいと……ハリーやロンと同じ親しい関係になりたいと考えていた。
『吸血鬼』を化け物だと考えるその頭で……。
彼女が『吸血鬼』と知らなかったとはいえ、私はずっと彼女に近づこうとする一方、『吸血鬼』のことを化け物だと罵っていた。去年あんなにも
勿論マルフォイさんにそんな考えを伝えたことなど一度もない。でも無意識のこととはいえ、私は彼女のことをずっと馬鹿にしていたのだ。
そんな私に、マルフォイさんと友達になる資格など最初からありはしなかった。
マルフォイさんが周囲を、それこそ同じスリザリン生すら拒絶するわけだ。私と同じように多くの生徒が『吸血鬼』のことを、ただ血を吸う化け物なのだと信じ切っている。私のようにマルフォイさんが本当は優しい女の子だと知っている人間ならいざ知らず、ほとんどの生徒が彼女の秘密を知れば思うことだろう。
マルフォイさんの無表情は……彼女の人を人とも思わないような冷たい視線は、私達をただの
誰よりも賢い彼女が、そんな簡単な事実に気付かないはずがない。
悲劇的だった。考えれば考える程彼女は他者を拒絶するしかなく、彼女の未来はどうしようもなく行き詰っている。おそらく彼女が信頼できる人間は、ドラコを含めた家族、そして彼女の親友であるグリーングラスさんのみなのだろう。その小さな世界のみが彼女に許された交友であり、それ以外の全ては彼女にとって敵でしかないのだ。そしてその敵の中には、マルフォイさんを未だに『継承者』の共犯と疑うダンブルドアがおり……勿論、何も知らなかったくせに、ただ徒に彼女に近づこうとしていた私も含まれていた。
……一つの事実を知ったことで、次々と彼女の行動の理由が明るみに出て行くようだ。
今なら分かる。彼女が私を助けながら、それでも最終的に私を拒絶した理由が。バジリスクから逃げた後、何故彼女が自身のことを『怪物』と呼び、あんなにも私を助けたことに取り乱していたのか。前回のホグズミードで、何故彼女があんなにも晴れやかな笑顔を浮かべていたのか。
……何故彼女がスネイプ先生の質問に答えないことで、『狼人間』のルーピン先生を庇ったのかが。
時間が経つにつれ、思考がどんどん暗いものになっていく。
私の視線の先には、相変わらず校庭を白く染め続ける雪景色。もう明日にはクリスマス当日のため、窓はクリスマス風に飾り付けられており、外にもベルの垂れ下がった木が何本も見え隠れしている。そこかしこに漂うクリスマスの空気に、他の生徒達がいればさぞ談話室は明るいものになっていたことだろう。でも……現実は違う。明るい談話室の空気はどこまでも暗く、言葉を発している人間はロンくらいのものだった。
結局
ハリー視点
いよいよクリスマス当日。城内はいよいよクリスマスムードに包まれ、冷たい色をして漂うゴーストですら、その冷たい顔色を明るいものに変えている。
でも……
「おい、ハリー……元気出せって。ハーマイオニーもホグズミード以来、何故かずっと黙り込んでいるし……。な、何かやろうぜ、折角のクリスマスなんだし! ほ、ほら、外はすっかり雪景色だ! 雪合戦でもして、パ~と気分転換でも、」
「ロン、折角のクリスマスなのに……ごめん。でも、今はそんな気分じゃないんだ。少しだけ……静かにしていてくれないかい?」
僕等の垂れ流す空気は相変わらず冷たい物でしかなかった。
親切でロンが話しかけてくれているというのに、僕はバッサリと彼の言葉を遮る。もう何度目か分からない会話。このようなやり取りが、クリスマス休暇始まってからずっと繰り返されていた。
相変わらず黙り込むハーマイオニーの横で、ロンが気まずげな表情をしているのが分かる。でもそれでも、今の僕にはどうしても彼のことを気にしている余裕などなかったのだ。
憎しみでどうにかなってしまいそうだった。『忍びの地図』で念願のホグズミードに行けたというのに、僕の中にその熱はもうどこにも存在していない。あるのはただ激しい憎しみだけ。経験したことのない憎しみが毒のように体中を這いまわり、ただ座っているだけで頭がどうにかなってしまいそうだった。
シリウス・ブラック。両親の親友でありながら、本当はヴォルデモートの手下であり、最終的に二人を死に追いやった裏切り者。奴は今もアズカバンではなく、何の不自由もなく外を堂々と歩き続けている。『吸魂鬼』が近くにいようとも、僕の様に母の声で苦しむこともない。その事実が僕には堪らなく憎かった。
僕が黙り込むことで談話室に再び沈黙が舞い降りる。窓の外は真っ白なのに、談話室の中はどこまでもどす黒いものでしかなかった。
そんな暗い沈黙を破ったのは、
「わ、分かったよ……。でも、ほら。その前にプレゼントだけは開けておこうぜ。今年もママがセーターを送ってくれているはずだし……。な、ハリー……プレゼントを開けていれば、少しは気分が変わるかもしれないだろう?」
やはり僕の大切な親友であるロンだった。
僕の醸し出す異様な空気にたじろいではいたけれど、それでも僕を放っておくわけにはいかないと思ってくれたのだろう。少しでも僕の気分を変えさせるため、勇気を振り絞って僕に声をかけ続けてくれる。
そして
僕は渋々といった様子で、ロンの方を振り返り応えた。
「分かったよ……。どの道、プレゼントは開けておく必要があるしね……」
プレゼントの山自体は比較的近くにあったため、僕はすぐにプレゼントの開封作業に取り掛かる。そして実にノロノロとした動きではあったけど、一つ一つプレゼントを開けていく。
目当てのプレゼントはすぐに見つかった。ウィーズリーおばさんから毎年贈られる深紅のセーター。山の一番上にあったこともあるが、僕には
「僕にも来てたよ! ママからのセーター! また栗色だけど……。君のはどうだった?」
「深紅のセーターだったよ……。愛情溢れるいいプレゼントだよね。本当に……
ロンへの返答が、知らず知らずの内に刺々しい物になっている。
駄目だ。ただのプレゼントだというのに、ささくれ立った心が余計な解釈をしてしまう。
僕は思わずウィーズリーおばさんからのプレゼントから目を逸らす。おばさんからのプレゼントは本当に嬉しい。でも今の僕には、正直他人の幸せの家庭を見せつけられるのは本当に辛いものだったのだ。
しかし……。
「あれ? これは……?」
目を逸らした先にあった、一つのプレゼント箱に視線は引き寄せられたのだった。長くて薄いプレゼント箱。何の変哲もないプレゼント箱に、僕は何故か一瞬で引き寄せられた。
「ん? どうしたんだい、ハリー? その包みは何だい?」
「い、いや……。で、でも、折角だし開けてみよう」
僕は不思議な引力に導かれるまま、プレゼント箱を開けた。そこには……
「な、なんてこった! ハ、ハリー! それ、ファイアボルトだ!」
すっきり流れるような柄。1本1本厳選し砥ぎ上げているかのような尾といった、他の箒にはない恐ろしく整ったフォルムをした箒が転がっていたのだった。手を伸ばすと、箒は僕が丁度跨り易い高さに浮かび上がり、箒の柄には金文字の登録番号が燦然と輝いている。
僕はあまりの事態に先程まで感じていた憎しみを一時忘れ、ただ食い入るように夢にまで見た箒を見つめる。突然の事態に、頭が中々ついてこない。
そんな僕に、ロンが横から大声で話しかけてくる。
「す、すごいや! これは史上最高の箒だぜ! だ、誰がこんな大金を君に使ったんだい!? カードか何か入ってないかい?」
僕は停止した思考で、ロンにさとされるままカードを探す。しかしカード類が見つかることはなく、僕は相変わらずボーっとした思考で応えるしかなかった。
「……いや、見当たらないよ。少なくともダーズリーではないことは確かだけど……。一体誰が送ってきたんだろうね?」
「ダンブルドアじゃないかな!? ほら、一年の頃、名前を伏せて君に『透明マント』を送ってきたわけだし! きっとあの人だよ! ダンブルドアなら、この箒も簡単に買うことが出来るよ!」
「……う~ん。多分ダンブルドアではないと思う。『透明マント』は元々僕の父さんの物だったから、それを僕に返しただけだよ。先生が僕のために何百ガリオンもの金貨を使ったりはしないよ」
「いや、だからこそ名前を伏せてるんじゃないか! マルフォイみたいな下衆なら、先生が依怙贔屓しているって
そこでロンは突然歓声を上げ、喜びのまま談話室の絨毯の上を転げまわった。
「そうだ、マルフォイの奴! 君がこの箒に乗ったらどんな顔をするんだろうな! あのただでさえ青白い顔が更に青白くなるのは見ものだぞ! なんていったって、ファイアボルトは国際試合級の箒だ! あいつの持ってるニンバス2001だって、この箒には追いつけやしない! これでグリフィンドールの勝利は決まりさ!」
そして歓声を一通り上げた後、彼は起き上がり言った。
「よし、じゃあ早速外に出て乗ってみようぜ! それで……君が乗り終わったら、僕も試しに乗ってみてもいいかな?」
「う、うん……そうだね。そうしよう」
思考はまだ追いついてはいないが、これがどん底にいた僕に訪れた最高のプレゼントだということだけは理解出来た。
僕とロンは早速と言わんばかりに外に出ようとする。外に出るためのローブも羽織ろうとせず、ただ興奮のまま外に駆けだそうとして、
「待って!」
休暇中ずっと黙り込んでいたハーマイオニーに止められたのだった。
今までずっと虚ろな瞳をしていたというのに、今はただ不信感を露にした表情で僕のファイアボルトを見つめている。そして訝し気に振り返る僕達に、ハーマイオニーは静かな口調で話し始めた。
「……ねぇ、本当にその箒には差出人が書かれていなかったの? それはとっても高い箒なのよね?」
「う、うん。それがさっぱり分からないんだ。カードもついていなかったし」
僕の返答に、ハーマイオニーは更に顔を曇らせながら続けた。
「……おかしいわ。その箒は私もダイアゴン横丁で見たけど、とても生徒に買い与えるような値段の物ではなかったわ」
「そうだぜ、ハーマイオニー! これは現存する最高峰の箒なんだ! スリザリンの持ってる箒を束にしてもこれには届かないよ!」
「そうね。だから……だからこそおかしいの。そんなに高価なものを送って、それでも自分の名前を伏せる人間って一体誰なの? そもそも、一体
ハーマイオニーの回りくどい言い回しに、ロンが苛々したように言う。一刻も早くこの箒に乗ってみたい。その思いが溢れ出しているようだった。しかし、
「誰だっていいじゃないか! それにこの箒を送ってきたのは、ハリーのニンバス2000が壊れてしまったからだろう! それ以外に何があるって言うんだい! ほら、ハリー! 早く行こうぜ! 朝食に行く前に、まずその箒の乗り心地を、」
「駄目よ! 行っては駄目! まだ誰もその箒に乗ってはいけないわ!」
ハーマイオニーの甲高い叫び声によって、再び行く手を阻まれたのだ。
そして彼女は僕の手から箒を奪い取ると、毅然とした表情で告げたのだった。
「ハリー! 貴方はおかしいと思わないの!? こんな高価な箒を、匿名で送りつけてくるなんて! この箒はおそらく……シリウス・ブラックが、貴方を
ダリア視点
クリスマス休暇が終わる。平穏だった日々は終わりを告げ、私は再び常に警戒心を持たねばならない生活へと戻る。
ホグワーツにはダフネがいるとはいえ、やはり両親と別れるこの時間だけはどうしても寂しいものだった。
「ダリア、ドラコ。ホグワーツでも体調には気を付けるのよ。特にダリア。貴女は無理をしすぎないようにね」
「はい、お母様」
「ダリア。ドラコがしっかり勉学に励むよう、しっかり監視しておくのだぞ」
「はい! お父様、お任せください!」
「い、いや、ダリア、そんなに張り切らなくても……。それは程ほどにしてくれよ。僕は今からクィディッチの試合もあるんだからな……」
おそらく寂しさを感じているのは私だけではないのだろう。マルフォイ家は私が如何に家族との時間を大切にしているか知っている。取り留めのない会話をしてはいるが、皆瞳だけは悲しみを湛えていた。しかしどんなに悲しもうとも、このまま家に残っているわけにはいかない。遂に汽車が汽笛を鳴らし始める中、お父様が私の頭を撫でながら言う。
「ダリア、そう悲しい顔をするものではない。ダンブルドアの妨害のお蔭でまだ時間はかかりそうだが、一度はホグワーツによる機会があるのだ。それで我慢してはくれないか?」
「はい……そうですね、お父様」
不器用ではあったが、お父様なりに私を慰めようとしてくださっているのが分かった。何とか笑顔をひねり出そうとしている私を、今度はお母様が優しく抱きしめてくださる。
「……ダリア、何度も言うわ。でも、私は貴女のことが心配なのよ。だから……辛いことがあったら、いつでも知らせてくれていいのよ。ルシウスは確かに理事ではなくなったけど、まだ魔法省の地位はある。貴方のことを必ず守ってくださるわ。だから……辛いことがあったら、必ず私達にも知らせるのよ」
「お母様……ありがとうございます。でも、私はいつだってお母様やお父様に甘えていますよ」
そして、遂にその時がやってきたのだった。
汽車が最後の汽笛を鳴らし、いよいよ動き始める気配を漂わせる。駅でたむろしていた生徒達も急いで汽車に乗り込み始め、もう既に乗り込んでいた生徒もまだ外にいる生徒を呼び込んでいる。その中には私の大親友も含まれていた。
「お~い、ダリア~! 久しぶり~! 早く乗らないと汽車が出ちゃうよ~!」
声の方に振り返れば、汽車の窓から顔をのぞかせるダフネの姿が見える。
流石にもう時間切れか。幸いもう荷物自体は運び込んでいるが、これ以上ここにいては本当に汽車が動き始めてしまう。それにダフネのことをこれ以上待たせるわけにもいかない。
私はダフネに手を振り返し、最後にお父様達に挨拶してからかけ始めた。
「あ、ダフネ! す、すぐに行きます! ではお父様、お母様! 行ってまいります! お父様は城にいらっしゃる前に、必ず連絡をお願いしますね!」
「あぁ、行ってきなさい、ダリア、ドラコ」
「気を付けるのよ! 無理はしないのよ!」
「はい、行ってまいります! お父様! お母様! また夏休みに!」
私とお兄様が乗り込むと同時に、汽車はゆっくりと動き始める。急ぎダフネと合流し、コンパートメントの窓から顔を出すと、離れたところに未だに駅に立つ両親の姿が見えた。
一年の頃、私が初めてホグワーツに入学した時と同じく、お母様は片手で目元を拭きながら手を振り、お父様は片手を優雅にたてておられる。
どんなに成長しようとも、私に変わらぬ愛を注いでくれる両親の姿がそこにはあった。
私は二人が見えなくなるまで、手を振り続ける。いつまでも……いつまでも……。
こうして、私の知らぬ所で事件は進む中……私がダリア・マルフォイとして家族と過ごす、