ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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親友の不在

  

 ハリー視点

 

今年、ロンとハーマイオニーは度々喧嘩することがあった。ロンのネズミであるスキャバーズを、ハーマイオニーが今年買ったクルックシャンクスが追いかけるというペット問題。それに端を発した喧嘩は今年中度々起こり、ハーマイオニーとロンは引っ付いては離れるという関係を繰り返し続けていた。

しかし、それも今回の件で決定的なものとなる。ロンとハーマイオニーの喧嘩に、遂に今まで傍観者であった僕も参戦することになったのだ。しかも今回はペットのことではなく、僕にプレゼントとして送られたファイアボルトが原因だった。

ハーマイオニーは結局、僕からファイアボルトを取り上げたかと思うと、本当にマクゴナガル先生の元に届けてしまった。僕がファイアボルトの主であれた時間はほんの一瞬。箒に呪いがかかっていないことが分かるまで、僕は箒に跨ることすらお預けになってしまったのだ。

僕だって、ハーマイオニーが善意でやったことだとは分かっている。でも、僕はそれが分かっていても、どうしても彼女を許すことが出来なかった。ファイアボルトは呪い崩しのテストのため、一度バラバラの状態に分解する必要があるのだという。そんなことをされてしまえば、僕の元に帰ってきたファイアボルトがどんな状態になっているか分かったものではない。ロンも同意見らしく、連日カンカンになって怒っている。

ハーマイオニーのせいで、僕らのクリスマス休暇は決定的に悲惨なものになり果ててしまったのだ。折角プレゼントのお蔭でシリウス・ブラックについて忘れられたというのに、彼女のせいで全てが台無しになってしまった。しかも……ハーマイオニーには決して反省する気はなく、未だに自分の行ったことが正しかったと主張し続ける態度が、事態を余計にややこしくしていた。談話室に決して戻らず、僕らと顔も合わせようともしない。クリスマス休暇が終わり、帰ってきた生徒から又聞きした話によると、どうも談話室には戻らず図書館に引きこもっているらしかった。

唯一顔を合わせる機会である授業の時だって、

 

「君、いつになったら反省して僕等に謝りに来るんだい?」

 

「私は悪いことなんてしていないわ! ロン、貴方はハリーが箒なんかのために死ねばいいって言うの!?」

 

「箒なんかのためって何さ! あれはファイアボルト! 世界最高峰の箒なんだぞ! それに、シリウス・ブラックがファイアボルトに呪いをかけているわけがないだろう! あいつがファイアボルトを買えるわけがない! あいつは逃亡中なんだぜ!? 国中があいつを見張ってる中、『高級クィディッチ用具店』に現れるわけがないんだ! 君はいつだってそうだ! あの化け猫のことも、ダリア・マルフォイのことも! 君は自分の間違いを認められない!」

 

そんなやり取りが毎回繰り広げられていたのだった。

クリスマス明けの『闇の魔術に対する防衛術』の授業終わり。まだ人が僅かに残る教室で、ロンとハーマイオニーの叫び声が響き渡る。

まだ体調が悪いらしく早々に個室に引きこもっていたルーピン先生と、僕が『吸魂鬼』への対抗呪文の授業について話をつけていた間に、二人の議論はヒートアップしていたらしい。周りから奇異な目で見られているにもかかわらず、二人は大声で罵り合い続ける。

 

「いい加減認めたらどうなんだ!? 君だって本当は分かっているんだろう!? シリウス・ブラックがハリーにファイアボルトを送ったりするはずがないって! 君は意固地になっているんだ!」

 

「そんなことないわ! 私は間違っていない! ハリーのためにも、あの箒はマクゴナガル先生に預けるべきだったのよ! いいわ! 私が正しかったって、いつか必ず後悔することになるから!」

 

「そうかい! そっちがそんな態度ならもういいよ! なんだよ、折角こっちから謝る機会を与えてやったっていうのに!」

 

ロンはそう言った切り、プリプリした態度でこちらに戻ってくる。そして尚苛々した態度で僕に尋ねてきたのだった。

 

「ふん! なんだよ、折角謝るチャンスだったっていうのに! あんな奴もう知るもんか! それよりハリー。ルーピンとの授業はどうなったんだい?」

 

「……今日の夕方5時になったよ。夕食の時間と被ってしまうけど、それより前には()()がいるらしくてね。僕はその後に授業を受けることになったよ。でも……正直大丈夫なのかな?」

 

僕はハーマイオニー問題を一時横にどけ、当面の不安についてロンに打ち明ける。

僕がクィディッチの試合に出るにあたり、不安に思っていることは二つあった。一つは箒。ニンバス2000を失ってしまった以上、僕は次の箒を入手しておく必要がある。それが幸運にもファイアボルトになりそうだったわけだけど……ハーマイオニーのせいで、違う箒を用意しなくてはならなくなった。また一から箒について考えなくてはならない。

そしてもう一つの不安が、『吸魂鬼』のことだった。ダンブルドアがいるとはいえ、吸魂鬼が次の試合に乱入してこないという保証はどこにもない。その時に備え、僕はどうしても吸魂鬼に対する防衛術を身に着けておきたかった。なのに……

 

「ルーピン先生、未だに体調悪そうだったし……。その時になってまた延期されたりしないかな?」

 

クリスマス休暇が明けたというのに、先生の容態は少しも良くなっていなかったのだ。あんな調子で、果たして僕に防衛術の個人授業を開くことが出来るのだろうか。

僕の不安に対し、ロンも同意見なのか頷きながら応える。

 

「そうだよな。本当に、ルーピンには早く良くなってほしいよ。君の授業もそうだけど、もしまた体調を崩されたら、またスネイプの授業になってしまうかもしれないからな……。まったく悪夢だよ」

 

ロンはカバンに教科書を放り込み、更にルーピン先生のことについて続けようとした。しかし、

 

「一体どこが悪いんだろうな? 未だに体調が悪いってことは、マダム・ポンフリーにすら治せないってことだろう? スネイプが調合して、ダリア・マルフォイが運んだなんて怪しげな物まで飲んで……寧ろそっちの方が病気に()()()()なものだけど。一体ルーピンは何の病気なんだろう、」

 

「……本当に馬鹿ばっかりね」

 

ハーマイオニーの苛立ち混じりの言葉に遮られたのだった。

ハーマイオニーは悪態をついたっきり、そのまま教室を後にしようとする。そんな彼女に、ロンが再び剣呑な表情を浮かべながら尋ねた。

 

「……何か言いたいことがあるならハッキリ言えよ」

 

「なんでもないわ」

 

取り澄ましたようなハーマイオニーの応えに、更にロンが突っかかる。

 

「いや、なんでもないわけないだろう! 僕がルーピンのどこが悪いのかって言ったら、君はハッキリと何か言ったじゃないか! 何か言いたいことがあるなら、」

 

「何よ! ルーピン先生のどこが悪いかなんて、そんなこと()()()()()()ことじゃない! もういいかしら!? 私、次の『マグル学』に行かないといけないから忙しいのよ! 貴方達とは違って!」

 

癪に障るような優越感を漂わせた言葉だった。しかもそう言った切り、ハーマイオニーは何も言うことなく教室を走り去っていく。

残されたのはやはり憤慨したように立ち尽くす僕とロンだけだった。

 

「なんだよあれ! まったく、本当は何も知らないくせに! あいつ、どうせ僕達にまた口をきいてほしいだけさ! それに何が『マグル学』だ! あいつが次受けるのは、僕らと同じ『占い学』じゃないか! 『占い学』と『マグル学』を同時に受けられるわけがないのにな! やっぱりあいつの言ってることは出鱈目ばかりだよ! だからファイアボルトの価値も分からないのさ!」

 

 

 

 

彼女の言葉が本当は正しかったと知るのは……まだもう少し先のこと。

それに、どうせすぐに、

 

「なんでお前がここにいるんだ!?」

 

ハーマイオニーの言っていたことなんて忘れることになるのだから。

ルーピン先生に指定された時間。僕が教室を訪ねたところ……

 

「ポッター……。あぁ、成程。確かに貴方には『守護霊の呪文』を学ぶ動機は十分にありますね」

 

ちょうど教室を後にしようとする、ダリア・マルフォイが立っていたのだ。

この日ハーマイオニーが『占い学』の授業をサボったばかりか、()()()()()()()()()()()()ことを差し引いたとしても……僕が彼女の発言を思い出すことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

休暇明け1日目の朝食。

クリスマス休暇から戻り、ドビーが作ってくれた専用の朝食を食べる私の元に届いたのは、

 

『今日の授業終わりすぐ、私の教室まで来てくれないかい? 君も知っての通り、私はまた体調を崩しかけていてね。崩れ切る前に、何とか君に授業を行っておきたいんだ』

 

そんなルーピン先生からの手紙だった。

随分と時間はかかったが、ようやく待ちに待った『守護霊の呪文』の授業が開始されることになったのだ。

私は持ち前の無表情を僅かに崩しながら、隣で幸せそうに朝食を摂るダフネに話しかける。

 

「ダフネ、今日の授業終わりですが、少し用事が出来ました。ルーピン先生に『守護霊の呪文』について学ぶ目途がようやく立ったのです。申し訳ありませんが、今日の勉強会はまた次の機会にお願いできますか? 今日の授業は『マグル学』でしたよね?」

 

選択授業が行われた日には、私達は必ずと言っていい程勉強会を開いている。勿論勉強会と言っても、私とダフネ、そしてお兄様のみの極々小さなもの。勉学というより、どちらかと言えば一緒にいることを目的としたものでしかない。私は今年、この勉強会と言う名の集まりを非常に楽しみにし、一年間ホグワーツで過ごす活力にしていた。

しかし、今日はより大切な用事が入ってしまった。先生の個人授業が楽しみであるということもあるが、それ以上に『守護霊の呪文』は必ず身につけなければならない呪文なのだ。

そう思い、私はダフネに断りを入れようとした……のだけど、

 

「うん、そうだよ! ダリアは『数占い』だよね。でも、そっか……。今日はルーピン先生との授業に行くんだね……。私はそれが終わってからでも構わないよ? 私にだって、ダリアと一緒に勉強するのは楽しいことなんだから」

 

そんな嬉しい提案をしてくれたのだった。

彼女の瞳には嘘の色は一切なく、純粋に私と一緒に勉強したい……一緒にいたいという思いだけがあった。私は無表情を更に崩しながら応えた。

 

「……分かりました。おそらく五時過ぎには終わると思いますので、まず夕食を食べて、それからお茶でも飲みながら今日勉強したことを交換しましょう。……ありがとうございます、ダフネ」

 

そして時間は過ぎ、『数占い』の授業に()()()()()()()()()()()()()()()事件はあったものの、無事授業を終えた私は今ルーピン先生の教室の前にいた。

私は逸る気持ちを抑えながら、教室のドアを静かにノックする。

 

「先生。ダリア・マルフォイです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「あ、あぁ、お入り」

 

やや緊張気味の声音に応え、私はドアを開いた。

中にはやはりどこか緊張しておられる先生がおり、私にぎこちない笑みを浮かべながら声をかけてきた。

 

「ダリア、よく来てくれたね。それに申し訳ないね。知っての通り、また満月の時期が近づいていてね。おそらく私はまた体調を崩すことになる。だからこんな時期になってしまったのだが、」

 

「先生、大丈夫ですよ。寧ろ体調が優れない時期に教えて頂けるのです。お礼こそ言えど、文句など言えるはずがありません。今回は私のお願いを聞いて下さりありがとうございます」

 

私に秘密が露見していること、そして老害に何か言い含められていることでやや緊張気味の先生に、私は出来るだけ安心してもらえる言葉を選びながら応える。折角先生が体調を押してまで授業をしてくれるのだ。取引という名目とはいえ、私には最初から先生の秘密を暴露する気などない。先生には出来ることならリラックスした状態で授業を行ってほしかった。

しかし、

 

「そ、そうかい? そう言ってくれるなら良かったよ……」

 

私の言葉が効果を発揮することはなかった。私のピクリとも動かない無表情が悪かったのか、先生の表情は更に硬いものに変わっている。どうやら余計に警戒させてしまったらしい。やはり私の表情を読めるのは世界広しと言えど、家族とダフネだけなのだ。

無駄なこと……どころか余計なことをしてしまったと悟った私は、ため息一つ吐くと急いで続きを促すことにした。

 

「それで先生。『守護霊の呪文』の授業ですが、どのように進めてくださるのですか?」

 

「あぁ、そうだね。それなんだが……正直あまりいい案が思い浮かんでいないんだ。もう一人『守護霊の呪文』を教えることにしている生徒がいるんだが、()の場合は『まね妖怪』を使おうと思っているんだ。彼の一番怖いものは『吸魂鬼』らしいからね。でも……君の一番怖いものは違うだろう? まさか本物の『吸魂鬼』を連れてくるわけにはいかないからね。それでどうしたものかと悩んでいてね。とりあえずは……まず今君がどれくらいのことが出来ているか確認させてもらえないかい?」

 

ある程度予想はしていたが、私が怒り出さないかとどこか心配しているような言葉だった。だがそれでも正直に答えて下さったのは、恐れると同時に、授業をする以上私に誠実でありたいという思いもあるのだろう。勿論私はそんなことで怒り、先生が『狼人間』であることを吹聴しようなどとは思わない。元々私が呪文の習得に行き詰ったから、先生にお願いした授業なのだ。先生が如何に素晴らしい先生だからといって、すぐに解決策が見つかるものだとは思っていない。

だから私は、

 

「勿論です。では……エクスペクト・パトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

二つ返事で呪文を唱えたのだった。

杖先から出るのは、いつも通りどこか()に見えなくもない銀の靄。形にはなっていても、完成とは程遠い不完全な守護霊。先生はそんな私の守護霊擬きを見つめながら、先程まで感じていた緊張を忘れたかのように話し始めた。

 

「……正直驚いたよ。優秀な君のことだ。呪文を使えないと言っても、それなりのものは出せるかもとは思っていた。でもまさかここまでとは……。ダリア、君なら知っていると思うが、この呪文は大人の魔法使いさえ使いこなせないような非常に高度な魔法だ。ホグワーツを卒業するまでに身に着けている生徒なんてほとんどいないだろう。確かに、君の守護霊は完全なものとは言えない。『吸魂鬼』に対抗出来ても、せいぜい一人が限界だろう。でも、それすら凄いことなんだ。君がこれ以上学ぶことなんてないと思うのだけど……」

 

「いいえ、先生。それでは駄目なのです。それでは、私は誰も守れない。私にはこの呪文を学び取る()()があります。仰る通り、自分一人を守る分にはこれで十分なのかもしれません。ですが、周りの人間を守れないようでは意味はありません。そんなものに、()()()()()()()()()。ですから……少しでもこの呪文を完成させられるよう、先生にはご意見してほしいのです。私には、どうしても先生の存在が必要なのです」

 

私と先生の視線が交差する。先生は少しの間、私の内面をのぞき込もうとするかのようにこちらを凝視していたが、ややあって、

 

「……分かった。取引でもあるしね。力及ばずながら、君が呪文を完全なものに出来るように手助けするよ。……君の守護霊が一体何の動物であるかも興味があるしね」

 

そう微笑みながら宣言したのだった。

その微笑みには先程まであった私への警戒心はなく、どこか確固たる意志のようなものが見え隠れするだけだった。

 

 

 

 

こうしてようやく、私と先生との授業はスタートラインに着くことが出来た。

()()ではない私とルーピン先生の()()が、この時ようやく始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーピン視点 

 

正直驚いていた。

ダリアが『守護霊の呪文』を使える。

それは私にとって、正直予想外の出来事だった。今目の前で練習を重ねる彼女には、

 

『優秀な君のことだ。呪文を使えないと言っても、それなりのものは出せるかもとは思っていた』

 

等と発言したが、正直使えない可能性の方が高いとすら思っていた。

確かにダリアはこの学校で最も優秀な生徒だ。最高学年までは勿論、教師ですら彼女には及ばない可能性がある。大人が使いこなせない呪文でも、あるいは彼女であれば悠々と使いこなせることだろう。

 

だが、『守護霊の呪文』だけは例外だと思った。

何故ならこの呪文は……決して闇の魔法使いには使いこなすことが出来ない呪文なのだから。

 

守護霊は一種のプラスのエネルギーで、生み出すためには生きる希望、幸福、意欲などが必要になってくる。それ故守護霊の呪文を使いこなすには、魔力だけではなく闇に侵されない強い心が大切になってくる。

それを人を殺すことを生業とする闇の魔法使いが持っているはずがなく、ヴォルデモートの配下である『死喰い人』にも呪文を使いこなせる人間はいなかった。魔法使いとして優秀であるかないかに関わらずだ。

 

だから……私はダリアもその例外ではないと思っていた。

ダンブルドアの言では、彼女は去年生徒を石にして回る『継承者』に加担している。殺しではなく、人を石にするだけとはいえ、それは立派な犯罪行為だ。そんなことをしていた彼女が闇の魔法使いでないはずがなく、彼女ももはや守護霊を生み出すことは出来ないことだろうと考えていたのだが……現実は違った。

 

確かに、まだダリアの守護霊は完成してはいない。()のような生き物であることは分かるが、それが何の鳥であるのかは覗い知れない。しかし彼女が守護霊を生み出しているのは紛れもない事実なのだ。それは紛れもなく、彼女が『闇の魔法使い』ではない証明だった。

それに、

 

『周りの人間を守れないようでは意味はありません』

 

彼女は先程こんな発言もしていた。

私にはダリアの無表情を見通すことは出来ないし、正直彼女の声音もいつも通り冷たい物にしか思えなかった……が、その言葉だけは何故か本物であるような気がしたのだ。

以前見た彼女の姿を思い出す。兄を傷つけられ怒り狂い、そしてその兄が帰ってきた時に過剰な程心配し、寄り添うダリアの姿を……。

そんな彼女のことを……私は本当に危険な魔法使いと断じることが出来るのだろうか?

 

ダンブルドアの見立てが間違っているはずがない。だが目の前の彼女から、ダンブルドアの語る彼女の人物像が感じ取れないのも間違いなかった。

私は今年何度目かの混乱した思考で考える。

私は見極めなければならない。彼女の本質を。彼女が一体何を考え私を見逃し、そしてこうして私に教えを乞うのかを。

それにそのために、私はこの授業を引き受けることにしたのだから。

 

 

 

 

思えばこの時初めて、私は彼女に対する恐怖感ではなく、ただ純粋な自分の意志で向き合うことにしたのだ。

ダンブルドアからの命令ではなく、自分の意志で彼女を見極めるために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

「お帰り、ダリア。あの雑巾のような恰好をした奴との授業はどうだった?」

 

一時間という短い授業が終わり、ポッターと入れ違うように寮に帰ってきた私をまず出迎えたのはそんなお兄様からの言葉だった。

私は苦笑交じりにお兄様に応える。

 

「はい、お兄様。……恰好はともかく、ルーピン先生との授業は素晴らしいものでしたよ」

 

「そうか……。なら、守護霊の呪文とやらは習得できたのか?」

 

「いえ……それはまだです。寧ろ内容的には全く進んでいないようなものでした。今日は一通り先生に見ていただいただけで、実際に色々教えて頂くのは次からということになりました」

 

一時間という短い時間だったこともあり、今回の授業では目立った成果は得られていない。あれ以上続けようにも、私に敵愾心丸出しのポッターがいたのでは授業どころの話ではなくなってしまう。

しかし、私の呪文を学ぶ目的が、老害の警戒するような事柄ではないとは理解して下さったのだろう。今回の授業で、少なくともルーピン先生の真剣度が変わったことだけは分かった。これなら次からもっと有効的な助言を貰える。そういう意味では、今回の授業は一概に無駄ではなかった。

それに、私の目的は何も『守護霊の呪文』を習得することだけではないのだ。先生のことを知ることも、私にとっては立派な目的の一つだった。

急いては事を仕損じる。慌てて何とかなるわけではないのだから、じっくり確実に学んでいくのが一番の近道なのだ。

私はルーピン先生への不満を隠しもしないお兄様を敢えて無視し、そう言えばと、

 

「そういえば、ダフネはどこにいるのですか?」

 

先程から全く見かけないダフネについて尋ねた。

談話室に帰ってきた当初から、私にダフネのあの明るい声がかかることはなかった。

彼女のことだから、こんな時真っ先に声をかけてくるはずだと私は思っていた。それに、彼女は私の帰りを待ってまで勉強会を開こうと言ってくれていた。なら、彼女はここにいなければおかしい。

しかし、

 

「いや、僕も見ていないぞ。僕は午後の授業がなかったからずっとここにいたが、あいつが戻ってくる所は見ていないな。あいつの授業は『マグル学』だろぅ? なら、他の奴も知っているわけがないしな……」

 

お兄様の応えはそんなにべもないものでしかなかった。

 

 

 

 

……結局この日、ダフネが寮に帰ってくることはなかった。

彼女が帰ってきたのは……次の日の朝のことだった。


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