ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ルシウス視点
「バ、バックビークは危険じゃねぇです! あ、あいつは本当に賢い奴なんだ!」
本来であれば厳かであるべき法廷に、粗暴な野蛮人の声が木霊している。仕立ての悪い茶色の背広に、黄色と橙色の品のないネクタイ。無様な格好も合わさり、所々もつれながら話す様子はもはや滑稽ですらあった。陪審員も私と同意見なのか、そこかしこで嘲笑が漏れ聞こえている。陪審員に対する奴の印象は最悪の一言だろう。
しかも事前に用意されていただろう何かが書かれたメモも、ボロボロと落とすばかりで一切読もうとしていない。誰が用意したのか知らぬが、これで奴の逆転する可能性は完全になくなった。これではもはや論理的な反論は不可能だろう。
私は最後のとどめを刺すべく、ただ妄言を繰り返す野蛮人を遮る。
「そこまでにしたまえ。もう君の下らない話は聞き飽きた。さて、お集りの皆さん。もうご納得していただけたでしょう。彼は件のヒッポグリフが危険でないと言うばかりで、本当に危険ではないという証拠を一切示そうとはしない! 私の息子の腕を、何の
そこで私は傍聴席に座っている老害を一瞥しながら続けた。
「実に……実に理解に苦しむことだ。こんな自明な結論を、態々裁判で決定せねばならんことが。……こんな簡単な判断も出来ず、あまつさえ私の息子を傷つけておきながら、このような野蛮人を未だに庇おうとする人間が校長であることがな」
本来であればこのヒッポグリフ事件を使い、私はダンブルドアを引きずり下ろす予定であった。
去年のロックハートもそうだが、明らかにこの老人に真面な教師を選ぶ能力はない。今回のことも、真面に生徒も授業素材も管理できない教師を選んだとして、ダンブルドアに責任を取らせることが出来たはずだった。
しかし、
「ミ、ミスター・マルフォイ。き、君の気持ちは分る……。息子を傷つけられたのだ、心中穏やかなはずがない。だが……も、もう結論が出ているだろう? ダンブルドアは今回の事件に一切関係ない上に、その彼が保証して下さったハグリッドにも責任はない。そ、そう前回の審議で結論が出たではないか」
実際に老害を引きずり下ろすことは出来なかった。
陪審員たちは去年の理事達と同じく、ダンブルドアを責めることで、世間から自分たちが責められることを恐れたのだ。
そんな無能極まりない連中のお蔭で、私の当初の計画は完全に頓挫していた。
まったく理解に苦しむとしか言いようがない。
何故この様な老害が、未だに『今世紀最高の魔法使い』としてもてはやされ、そしてここまで支持され続けるのか私には欠片ほども理解出来ない。
この老害は未だにダリアを監視し、傷つけ続けているというのに……。
正直陪審員の言葉に、内心では腸が煮えくり返りそうだった。
だがこれ以上ここでダンブルドアの責任を追及しても、実際に奴を引きずり下ろすことは叶わない上に、寧ろ陪審員の印象を悪くし必要最低限の結果すら勝ち取れなくなる可能性がある。
私は内心の怒りを抑えこみながら、何とか次の一言を言い放った。
「……ふん、今回はそういうことにしておこう。しかし……ダンブルドアの責任はないにしても、そのバックビークとかいうヒッポグリフの責任は明らかだ。無論最も重い刑を行ってくださいますな?」
ドラコが怪我をしてからはや半年近く。今まで何度もダンブルドアを貶めるために根回しを繰り返してきた。ここまで手間暇をかけたのだ。せめて奴の追放に手が届かなくとも、少しでも奴の心情を傷つけなければ腹の虫がおさまらん。
そしてそれは陪審員たちの方も分かっているのだろう。ヒッポグリフの責任が明白なこともあるが、たかがヒッポグリフ一匹の命で私の怒りを抑えられ、尚且つ自分の家族を守れるのだ。ここで肯定しないはずがなかった。
「も、勿論だとも。私達もこれ以上の議論が必要だと思っていない、では、皆さん。件のヒッポグリフ、バックビークは後日処刑の方針でよろしいですかな?」
「ま、待ってくだせぇ! バックビークはそんな危険な奴じゃ、」
「異議なし」
野蛮人の叫び声に上乗せする形で、陪審員たちの宣言が響き渡る。無論今回はただ傍聴席に居るだけのダンブルドアも、ただその瞳に怒りの炎を燃やすだけで反論など出来ない。
私の勝利が確定した瞬間だった。
宣言が終わると同時に、傍聴席で静かにしていたダンブルドアが野蛮人に駆け寄る。
「ハグリッド、大丈夫かのぅ? お主の力になれんで、すまなんだ……」
「いえ、校長先生! 先生は本当に良くしてくだせぇました! これ以上先生に迷惑をかけることは出来ねぇ! お、俺が悪いんだ! 俺がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった! ハーマイオニーがせっかく用意してくれたメモだって、焦って読むことすら出来なかった!」
私が冷たい視線を送る中、愚か者共の茶番劇は続く。
「いや、お主はようやった。出来ることならバックビークをどうにかしてやりたいが、」
「いや! 本当にこれ以上校長先生に迷惑をかけらんねぇ!」
「……そうか。じゃが、せめてバックビークの最後には立ち会わせておくれ。せめて最期くらいは傍にいてやりたいのじゃ」
どこまでもダリアを苦しめている分際で、何故ここまで野蛮人如きに労わりの姿勢を示せるのだろうか。
私はこの不快な茶番劇を終わらせるべく、愚か者共に近づき言い放った。
「まったく。たかが獣一匹のために、ここまで手間をかかせおって。どうやらホグワーツは、態々裁判を起こさねば獣一匹処理できぬらしい」
「ルシウス・マルフォイ! お前! よくもぬけぬけと! この腐り切ったマルフォイが!」
「よすのじゃ、ハグリッド!」
森番が立ち上がり、私に拳を振るおうとするが、老害がそれを遮り言った。
「ルシウスよ。もうよいじゃろぅ。これでお主の気もすんだのではないのかね? ならば、すぐにここを去るがよい。どの道処刑担当の『危険生物処理委員会』はお主の息のかかったものばかりなのじゃろぅ? 処刑日はいつにするつもりなのかね?」
流石にここでは分が悪いと思ったのだろう。殊勝なことを言うダンブルドアに、私は僅かに留飲を下げながら言う。
「流石『今世紀最も偉大な魔法使い』と勘違いされるお方だ。己の分くらいはよく分かっておいでだ。そうだな……ホグワーツはそろそろ試験が行われる時期ではないかね? その時期にするよう委員会に要望しておこう。詳しい日程は後日に。……ダリアのいい息抜きにもなるだろうからな」
去年の私は決定的に手段を間違えていたのだと、今の私には分かる。
ダリアを守るためとはいえ、あんな得体のしれない物に運命を託すべきではなかった。
あの時は
だからもう間違えたりしない。今回の件でダンブルドアを再び追放することは叶わなかったが、少なくとも奴の名声を傷つけることは出来たはずだ。こうやって少しずつ奴を追放する布石を敷き、今度こそ私がダリアを救って見せるのだ。
ハリー視点
ルーピン先生の本気のお説教から数日。
怒られた直後は酷く惨めな気分だったし、放っておけばルーピン先生の個人授業ですら先生と顔を合わせずらくなっていたことだろう。
あの時は、
『……あ、あり得ない。君がどこから彼の名前を聞いたのかは知らないが、彼はもう死んだんだ。いや、殺されたんだ。シリウスの手でね……。だからその君が見たという名前もきっと見間違えだ。そうでなくては……。さぁ、もう帰りなさい。それと次の個人授業はきちんと来るんだよ。君には『守護霊の呪文』が必要だからね』
そう先生は仰ってくれたけど、正直気まずいものは気まずいのだ。
しかし、今の僕はそんなことを言っていられる状況ではなかった。何故なら、
「ハグリッドは貴方が辛い状況にあるから、こんなこと伝えなくてもいいと言っていたのだけど……。あ、貴方達も知っておくべきだと思って……」
久しぶりに話しかけてきたハーマイオニーが、ハグリッドから届いたとんでもない手紙を見せてきたから。
スリザリンとの試合がもう数日後までに迫った午後。ハーマイオニーが泣きそうな顔をして差し出した手紙には、
『ハーマイオニーへ。俺たちは負けた。バックビークは処刑される。詳しいことはまだ決まってねぇが、試験期間のどこかでやるとルシウス・マルフォイがぬかしやがった。ハーマイオニーには色々迷惑をかけた。おめぇさんも大変だろうに、俺やバックビークのためにようやってくれた。俺はお前さんが助けてくれたことを絶対に忘れねぇ』
そんなことが、大粒の涙で滲んだインクで書かれていた。
突然の事態に中々頭がついてこない。
バックビークの件は、ドラコの怪我が次の日には治っていたことで、もうとっくの昔に解決したことだと思っていた。それが僕達の知らない間に、こんな事態に陥っていたとは……。
「で、でもだって、こんなことあるはずないよ。だって、ドラコの怪我はすぐに治ったじゃないか! しかもあれはドラコの自業自得なのに! 今更になって何で……」
「そ、そうだ。あれ以来何にもそんなこと言って……。そりゃぁ、ルシウス・マルフォイがあんなことあって黙ってないとは思ったけど……」
唖然とする僕らに、表情同様震えた声音でハーマイオニーが話し始める。
「ほ、本当は私も貴方達に言うつもりなんてなかったわ……。ハリーは今年シリウス・ブラックに狙われたり、とても辛い時期なんだから……。で、でも私は……。わ、私がもっとしっかりしておけばよかったの……。勉強のことだとか、マルフォイさんやグリーングラスさんのことで頭が一杯で、ハグリッドの力になってあげることが出来なかったの! 過去の裁判だとか、ヒッポグリフの生態について色々調べたけど……そんなもの何の意味もなかったのよ! あぁ、私のせいでバックビークは処刑されてしまうの!」
そう言った切り、ハーマイオニーは泣き崩れてしまう。
遠目から見ていた最近の彼女は常に余裕が無さそうな表情をしていたが、ここに来て完全に力尽きてしまったのだろう。
そして彼女をここまで追い詰め、余裕のなくなっていた彼女を放置していたのは……僕達だ。
僕とロンはこの瞬間、ようやく自分達が呑気に箒やペット、そしてクィディッチのことで逆上せている間に、この親友が如何に苦しんできたかを悟ったのだった。
僕達がルーピン先生に叱られた時以上の罪悪感を感じている間にも、ハーマイオニーの嗚咽は続く。
それを最初に遮ったのは、
「も、もう望みはないわ! これ以上裁判が続くことはないし、たとえ控訴したところで何も変わりは、」
「いや、諦めるのは早いよ、ハーマイオニー」
意外にもロンだった。
ハーマイオニーの涙に慌てる僕が何か話し始める前に、今まで彼女と喧嘩していたはずのロンが続ける。
「どうせくそったれのルシウス・マルフォイが裁判官を脅したんだろう? 多分ダンブルドアを追い落とすために、こんなことが起きるのを虎視眈々と待っていたのさ! 裁判はあいつの思い通りってわけさ! でも、まだ何かやり方はあるはずだぜ! 考えようぜ、僕達で……。もう僕達に隠さなくてもいいんだ。今度はちゃんと手伝うからさ……」
突然知らされたハグリッドの危機にスキャバーズ問題が霞んだということもあるのだろうけど……今まで意固地になっていただけで、内心ではロンもハーマイオニーと仲直りしたかったのかもしれない。
ハーマイオニーもそれが分かったのか、今まで以上の大声で泣きだしながらロンに飛び付いた。
「あ、ありがとう、ロン! あぁ、ごめんなさい! スキャバーズのことは本当にごめんなさい! わ、私、最近疲れすぎていて意固地になっていたの! ほ、本当は私が悪いって分かっていたのに! 箒のことだって、」
「いや、うん。いいんだよ。ファイアボルトを先生に渡したのは、ハリーを心配したからだろう? それにもう箒は返ってきたんだ! レイブンクローにもそれで圧勝できたし、スリザリンだって捻りつぶせるんだ! 君が気に病むことはないよ。そ、それと……スキャバーズのことも……仕方がないよ。あいつは年寄りだったし……ちょっと役立たずだったから。これでパパとママにフクロウを買ってもらえるかもしれないから、寧ろいいことだよ、うん」
顔を何故か赤らめた状態で、ロンは不器用ながら抱き着くハーマイオニーの頭を撫でている。
……取り合えず、これで二人は完全に仲直りできたみたいだ。
でも、それをただ喜んでいるわけにはいかない。別に仲直りしたところでハグリッドの問題が解決したわけでも何でもないのだから……。
ダフネ視点
初回の授業以来、しばらくの間『魔法生物飼育学』は真面な授業内容ではなくなっていた。
ひたすら『レタス食い虫』の世話をさせられる授業。しかも世話と言っても、『レタス食い虫』の前にレタスさえ置いておけば、こいつらは最高に元気なのだ。実質授業中に何もやっていないようなものだ。
しかしあの衝撃的な初回授業から半年も経つと、流石にこのままではまずいと森番も思ったらしく、『火蜥蜴』のようなそれなりに安全な生物を扱うようにはなっていた……はずなのだが、
「またレタス食い虫に戻ってる……」
「……」
何があったかは知らないが、どうやら森番の精神状態は振出しに戻ってしまったらしい。
今私達の目の前には、相変わらず放っておけば元気になるレタス食い虫が鎮座ましましていた。
「……どうしよう。授業中暇になっちゃったね」
「あぁ、そうだな……」
一応森番の方を見ても、グレンジャーと愉快な仲間達に囲まれながら泣くばかりで授業をする気配はない。本当に何があったというのだろうか。
まぁ、でも、授業としてはどうかと思うが、実際問題今はありがたくあるのも確かだ。先程から反応の悪いドラコもそう思ったのか、レタス食い虫の入った箱から少し離れた辺りに腰掛け、私に話しかけてきた。内容は、
「……ダフネお前、この前怪我をしたと思ったら……『マグル学』の生徒に突き落とされていたんだな」
「……正確ではないかな。彼女は多分魔法を使う気はなかったと思うよ。ただ私をちょっと脅そうとしただけ。それに驚いて私が転んじゃっただけだよ」
今朝遂にダリアに露見してしまった、先日の『マグル学』での出来事だった。
それは今朝のこと。険しい顔をしたパンジーが、大広間でダリアと共に食事を摂る私に話しかけてきたのが始まりだった。
『ダフネ! 貴女、今『マグル学』を受講しているそうね!? 『魔法生物飼育学』以外何を受けているのか知らなかったけど……よりにもよって『マグル学』なんて! なんだってそんな科目を選んだのよ!?』
人の口に戸は立てられぬと言うが、ここにきてようやく私の受講科目が露見してしまったのだろう。最近スリザリン生から妙な視線を感じるなとは思っていたが、どうやらこれが原因だったらしい。私より格下の家はともかく、私と同じ聖28一族のパンジーは私を直接批難出来ると踏んだ、というところだろうか。
私は隣に座っているダリアが何か言う前に、対スリザリン生用にあらかじめ用意していた言い訳を吐く。
『そんなの当然、マグルの愚かさを知るためだよ? それ以外に何があるって言うの?』
昔の自分に戻っているようであまり言っていて気持ちのいい言い訳ではなかったが、相手はマグル生まれの人間ではないためまだ罪悪感は少ない方だ。少なくとも自分を馬鹿にしているものとは受け取られない。それにこれは純血主義のスリザリン生に対しての、唯一にして最も効果的な方便でもある。事実私の話を聞いたパンジーは、先程まで見せていた怒りを僅かに引っ込め、不満ではあるがまだマシな表情へと変わっている。
ここまでは私の予想していた通りの反応。でも、これからが、
『そ、そうなの? な、なら分からなくもないのだけど……。でも、それでもなんだってそんなことのために『マグル学』なんかを選ぶのよ。馬鹿みたい。この前の夏休みの間、貴女はずっと純血の集まりに出ていたから、別に貴方の言葉を疑うわけではないけど……態々そんなことをしなくてもいいでしょうに。マグルの愚かさなんて、態々学ばなくても分かることよ。そんなことするから、あそこの『穢れた血』共に階段から突き落とされるのよ』
予想外のことだった。
気が付いた時には時すでに遅く、隣で私達の会話を聞いていたダリアが静かに声を上げていた。
『……突き落とされた?』
『あら、ダリアも知らなかったの? ずっと一緒に居るのに? 私もさっき聞いたのだけど、この子、『マグル学』の授業の後でレイブンクローの生徒に階段から突き落とされたらしいの。その話をさっき聞いて、私はダフネが『マグル学』を取ってるって知ったのよ。まったく……マグル学を受ける生徒なんて、『血を裏切る者』くらいしかいないでしょうにね。そんなところに行くから、こんな……こと、に……』
パンジーの言葉が続くことはなかった。
顔を青ざめさせるパンジーを尻目に、今までの穏やかな空気を一転させ、瞳を血のような赤色に変えたダリアが尋ねてくる。
『私はただ階段で転んだだけだと聞いていたのですが……どうやら違ったみたいですね。ダフネ、
あのダリアの発言から数時間。
今回の件で、スリザリン生にとっては完全に私の『マグル学』受講は触れてはならない話題になったのだろうが、そんなことを悠長に喜んでいる場合ではない。
結局私に杖を突き付けたレイブンクロー生が誰だったかは誤魔化せたけど、おそらくまだダリアの機嫌は相当悪いことだろう。放っておけばレイブンクロー全員を血祭りにあげ、私への攻撃を放置したとしてバーベッジ先生まで殺しかねない。今は下手な刺激を与えるわけにはいかない。
「まったく……。確かに僕もお前の立場だったら、絶対にレイブンクロー生のことは隠すだろうが……それでもやり様はあっただろう? どうするんだ、これから。僕も怪我をしたから人のことは言えないが、今のダリアは完全に神経質になってるぞ。『マグル学』もそうだが、今朝は僕達がこの授業に行くことすら不安がっていたからな」
「そうだよね……」
今年に入ってからというもの、ドラコと私、立て続けに医務室に入れられる事件が続いている。ドラコは授業中にヒッポグリフに引っかかれるという、一歩間違えれば大惨事になりかねない事件で。そして私は生徒に階段から半ば突き落とされるという形で。
私が本当にただ転んだだけだったのなら、私を心配するものの、最終的にはダリアもそこまで気にすることはなかっただろう。しかし突き落とされたとなれば話が違ってくる。
『……あの森番の授業ですが、最近は『レタス食い虫』だけのものから普通のものになってきているのですよね? ろうが……ダンブルドアが選ぶような教師です。また何かやらかす可能性があります。お兄様だけではありません。ダフネも気を付けてくださいね。……そして怪我をしたら、今度こそ正しい情報を私に伝えてくださいね? もう私の知らない所で貴女が怪我をするのは嫌なのです……』
私達の安全を何より重要視するダリアが気にしないはずがない。特に今年はシリウス・ブラックの侵入や、それに伴う『吸魂鬼』の配備があることから尚更だ。今朝からどこか私達が自分の目の届かない場所に行くことを恐れている節があった。
「まぁ、時間が解決してくれるのを待つしかないよ。今はただ突然の情報に驚いて、少し過敏になっているだけだろうし。お互い怪我しないように気を付けていれば大丈夫だよ」
私達はただダリアに心穏やかに過ごしてほしかった。
去年はあれだけ苦悩し、そしてようやく少しだけ人に甘えることを覚えてくれたのだ。私という秘密を共有する人間が出来ることで、ようやくダリアが警戒しなくていい場所が出来たのだ。今の平和をずっと保っていてほしい。少しでも、彼女が言う『殺人に対する憧れ』を感じずに済むようにしていたい。そしてその後に感じるであろう、激しい後悔と自己嫌悪を感じずにいてほしい。
そう思ったからこそ、私達は自分が怪我した状況を隠し、ダリアにただ怪我をしたということだけを伝えた。しかし後から露見してしまえばそれに意味はない。
「でも……ある意味ではまた『レタス食い虫』の授業に戻っていて良かったね。このことを伝えたら、少しはダリアも安心してくれるはずだよ。まぁ、授業としてはどうかと思うけどね」
私とドラコはそもそも怪我をしないことを誓い合い、少なくともダリアが気にしているような『魔法生物飼育学』での怪我はもうないだろうなと思っていたわけだけど……。
「ね、ねぇ、グリーングラスさん! 突然話しかけてごめんなさい! でも、どうしても聞いてほしいお願いがあるの!」
「ハ、ハーマイオニー!」
「おい! ハーマイオニー! そんな奴に何を言おうとしてるんだ!? 早く戻ってこい!」
すんなりこの話が終わることはなかった。
先程まで森番の傍に居たはずのグレンジャーが、ウィーズリー達の制止を振り切る形でこちらに近づき、今まで見たことない程必死な形相で話しかけてきたのだ。
「……『マグル学』以外の時間にあまり話しかけて欲しくないのだけど」
「そうだぞ、グレンジャー。お前がなんでダフネに、」
「ドラコ、貴方には用はないわ!」
「……いいよ、ドラコ。それでどうしたの、グレンジャー? 出来れば手短に、」
「マルフォイさんに伝えて! ううん、出来れば直接伝えさせてほしいの! バックビーク……ドラコに怪我をさせてしまったヒッポグリフの処刑を取りやめてって!」
突然のお願いに、この子はいつも何故こうもタイミングが悪いんだろうかと……私は何となく思っていた。