ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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変わり始めた感情

 

ハーマイオニー視点

 

ハグリッドとバックビークが大変な状況に陥ろうと、別にハリーの置かれた状況が変わるわけではない。

シリウス・ブラックは未だに捕まっておらず、彼がどうやって城に侵入したかも分かっていないのだ。日が暮れてからハグリッドの小屋を訪ねるなど言語道断。

そのため私達がハグリッドと話せるとしたら、結局『魔法生物飼育学』の授業中くらいのものだった。

裁判のことを知っていたのだろうパーキンソン達が嘲りの笑みを浮かべる中、私達は完全に放心状態のハグリッドに声をかける。

 

「ハ、ハグリッド、元気出して! 私達はまだ諦めていないわ! まだ何か方法があるはずよ! 私達がちゃんと考えるから、だから元気を出して!」

 

「そ、そうだぜ。そりゃぁ、もう裁判は終わってしまったけど、まだ何かあるはずなんだ!」

 

私達の必死な声が校庭に木霊する。しかしそれがハグリッドに届くことはなかった。

 

「ありがとうな……。だが、もう無理だ……。皆俺が悪いんだ。ハーマイオニーはよくやってくれた。折角ハーマイオニーが色々用意してくれたっていうのに、舌がもつれちまって……それどころか慌てて読むことさえ忘れたんだ。もうおしまいだ! 委員会は全部ルシウス・マルフォイの言いなりで、バックビークの処刑を考え直す気なんて毛頭ねぇ! 俺に出来るのは、もうバックビークに残された時間を幸せなもんにすることくらいだ……」

 

遂に我慢できなくなったのか、ハグリッドは両目から大粒の涙を流しながら大声を上げる。

私達の間に暗い沈黙が舞い降りた。

いたたまれなかった。正直、私だってもうバックビークの処刑は覆らないのではと諦めかけている。裁判が終わってしまった以上、私達に万に一つ逆転の目はない。でも、それでも私は諦めきれなかった。私達が諦めてしまえば、バックビークは本当に処刑されてしまうのだから。

 

……しかし、やはりどんなに諦め切れなくても、今のままではどうにもならない状況に変わりはない。

私は唇を噛みながら、私達に割り振られた『レタス食い虫』をそっちのけで物思いにふける。

 

裁判が終わった以上、もう正当な手段でバックビークを救うことは出来ない。だからと言ってバックビークを逃がすのも、露見すれば私達がアズカバンに送られる可能性があり、もし判決をひっくり返すとしても、ルシウス・マルフォイ以上の影響力がない限りそんなことは不可能だ。少なくともグリフィンドールにそんな両親を持つ生徒はいない。そんな生徒がいるとしても、

 

「貧乏人達は憐れよね。今頃裁判のことを知るなんて、少しでも両親が魔法省高官に関わっていたらそんなことないでしょうにね。これだから『血を裏切る者』と『穢れた血』は駄目なのよ」

 

それはスリザリン以外にないだろう。つまり打つ手は皆無と言うことだ。

不公平なことだらけだと思った。何故こんな嫌な人ばかりが魔法界で権力を持っているのだろうか。お金のない人間や、生まれが純血でないと言うだけで、どうしてここまで理不尽な目に遭わなくてはならないのだろうか。正しいことを言っても取り合われすらしない環境にどうしようもなく腹が立つ。

私はこちらに向かって大声を出しているパーキンソン達に怒りの視線を向ける。

しかし……それは長続きはしなかった。何故なら、

 

「でも……ある意味ではまた『レタス食い虫』の授業に戻っていて良かったね。このことを伝えたら、少しはダリアも安心してくれるはずだよ。まぁ、授業としてはどうかと思うけどね」

 

パーキンソン達の横に、()()の姿を見つけたから。 

パーキンソン達と私を嘲ることなく、ただ何か別のことをドラコと話している彼女の姿を見たことで、私は急速にあることに思い至る。

そうだ、彼女なら……彼女の()()なら、バックビークの処刑を覆すことが出来るかもしれない。何と言っても、彼女の親友は被害者であるドラコの妹であり、ルシウス・マルフォイの娘なのだ。何より他の意地の悪いスリザリンと違って、彼女はそんな意地の悪い人間などではない。きっと私達の願いを聞いてくれるはずよ!

そう思い至った私は、善は急げと足を進め、

 

「ね、ねぇ、()()()()()()()()()! 突然話しかけてごめんなさい! でも、どうしても聞いてほしいお願いがあるの!」

 

マルフォイさんの親友であり、私がマルフォイさん同様友達になりたいと思っているグリーングラスさんに声をかけたのだった。

 

「ハ、ハーマイオニー!」 

 

「おい! ハーマイオニー! そんな奴に何を言おうとしてるんだ!? 早く戻ってこい!」 

 

私が何をしようとしているか悟った様子のハリー達が何か言っているけど、私はそれを無視してひたすら目の前のグリーングラスさんを見つめ続ける。  

しかし突然私に話しかけられたグリーングラスさん達の反応は芳しいものではなかった。彼女は訝し気な表情を浮かべながら応える。

 

「……『マグル学』以外の時間にあまり話しかけて欲しくないのだけど」

 

彼女のこの反応は当然の物だろう。話を聞いてくれるようになったと言っても、別にまだ仲が良くなったわけではないのだから。それでも私はグリーングラスさんに視線で訴え続ける。間接的とはいえ、バックビークを死刑に追いやる原因を作ったドラコが話しかけてきても、

 

「そうだぞ、グレンジャー。お前がなんでダフネに、」

 

「ドラコ、貴方には用はないわ!」

 

即座に切って捨て、ただひたすらグリーングラスさんが応えてくれるのを待ち続ける。

そしてどうやら私の必死さが伝わったらしく、

 

「……いいよ、ドラコ。それでどうしたの、グレンジャー? 出来れば手短に、」

 

いかにも今聞かない方が面倒なことになりそうだからと言った態度だけど、彼女はしっかりと頷いてくれたのだった。私はそんな態度に頓着することなく、待ってましたと言わんばかりに勢いのまま言い切った。 

 

「マルフォイさんに伝えて! ううん、出来れば直接伝えさせてほしいの! バックビーク……ドラコに怪我をさせてしまったヒッポグリフの処刑を取りやめてって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

おそらく、今の私の表情はダリアと同じくらいの無表情に変わっていることだろう。

よりにもよってこの子は、一体何故このタイミングでこんなことを言いだしたのだろうか。

私は不機嫌な声音を隠すこともせず、興奮しきった様子のグレンジャーに応えた。

 

「……まずどういうことか説明してもらえるかな」

 

そもそも私は裁判のことなど知らない。ヒッポグリフにドラコが怪我をさせられたのはかなり昔のことな上に、これまでの間ドラコから裁判になっているなどという話は聞いたこともない。

私の質問とどこか拒絶的な反応に、グレンジャーは困惑した態度を取りながらも質問に答え始める。

 

「え、えっと……貴女も見ていたでしょう? バックビー……ヒッポグリフがドラコに怪我を負わせてしまったところを。そのことで、ルシウス・マルフォイが裁判を起こしたのよ。あれはドラコが悪いのに……。そ、それでつい最近判決が出て、ヒッポグリフが処刑されることになってしまったの! いくらなんでも処刑なんてひどすぎるわ! 陪審員に圧力までかけて! だからお願い、処刑を止めさせるのを手伝って! これは貴女にしか頼めないことなの!」

 

……所々自分達に都合のいいことしか言っていない気もするが、取り合えず概ね事情は分かった。どうりでパンジー達が先程から嬉しそうな表情を浮かべているわけだ。休暇前のホグズミードでも、彼女は森番や裁判がどうのと言っていたけど、おそらくこのことだったのだろう。

私は更に情報を補完すべく、隣で私と同じく初めて事情を聞きましたと言わんばかりの表情を浮かべているドラコに話しかける。

 

「……裁判のことなんて初耳なんだけど、ドラコも知らなかったの?」

 

「……あぁ、僕も初めて聞いたよ。ダリアも知らないだろうな。クリスマス休暇の時も、父上はそんなことは一言も言っていなかった。おそらく父上は僕達に言わずに事を進めるつもりだったのだろう。()()()()()()。ただ森番に用事があるから、折を見てこちらに来るとだけ言っていた。ついでにダリアの顔も見に来るともな」

 

「去年と同じ、か……。なら、大方ダンブルドアを追い出すための布石を敷こうとしたってところかな。そんな強引な手段を使ってまで、態々ヒッポグリフの一匹を処刑する意味はないものね。まぁ、()()()()()間違ってないよ……」

 

成程。事情さえ知ってしまえば簡単な話だった。

ルシウスさんが去年同様、ダリアを守るために行動を起こしている。ただそれだけの内容だ。ドラコ達に話していなかったのも、去年のことでどこか後ろめたい気持ちを持っているからだろう。それともルシウスさんにとって、こんな裁判はドラコ達に話すまでもないことだからか。

まぁ、どちらにせよ結論は変わらない。

私は今度こそドラコからグレンジャーに向き直り、

 

「事情は理解したよ。でも……ダリアに伝えることは、断らせてもらうね」

 

きっぱりと否定の言葉を口にしたのだった。

私にとって一番大切なことは、ダリアが心穏やかに日々を過ごせることだ。この情報をダリアに伝えて、彼女がいい気分になることなどあり得ない。……いや、裁判の情報だけならダリアは寧ろ喜んでくれるだろう。でも、この情報が()()()()()()()()()()知った時、ダリアは必ず悩むことになってしまう。特に今はタイミングが悪い。今朝から私達の怪我を不安視している様子なのに、ここでドラコに怪我を負わせたヒッポグリフを許せなどと言おうものなら、ただでさえ最悪の機嫌が悪化しかねない。

しかしそんな私の思いなど分かるはずもなく、グレンジャーは唖然とした様子で口を開いた。

 

「ど、どうして!? だ、だってこのままだと、」

 

「ほら見たことか! ハーマイオニー! どうしてこんな奴に頼もうとしたんだ! 裁判のことを知らなかったなんて白々しい! こいつはダリア・マルフォイの仲間だぞ!? こいつだってバックビークを処刑しようとしているに違いないんだ!」

 

後ろで囀っている馬鹿はともかく、どうやら彼女の中で私に断られるという未来は想定外のようだった。

先程から驚きのあまり言葉が一向に前に進もうとしない。私はそんな彼女の言葉を遮りながら続けた。

 

「寧ろどうしてダリアに頼むのか、私には分からないよ。確かにあの時はドラコが悪かったところが多分にあるけど、それでもあと一歩で大惨事になりそうだった。そんな目に遭った人間の妹が、どうしてヒッポグリフを助けないといけないの? ルシウスさんが裁判を強引に進めたのだとしても、その事実は変わらないと思うけど? やるなら自分達だけでやって」

 

「で、でも、それでも、」

 

「それに、特に今はタイミングが悪いんだよね。私が『マグル学』で怪我した本当の原因が、今日ダリアにバレちゃったんだよ。だから今はかなりご機嫌斜めになってるから、今ダリアにこの話をしたところであの子が困るだけだよ」

 

「……そ、そんな」

 

私の言いたいことが伝わったかは分からないが、少なくともダリアに今回のことを伝えるつもりがないことだけは分かってくれたらしい。

しかし、

 

「……貴女の言い分も分るわ。た、確かにバックビークはドラコに怪我を負わせたわ。それはどうあっても変えられない事実だし、マルフォイさんが怒るのも当然なことだと思うわ。で、でも、ドラコは結局軽症だったわ。バックビークは罰を受けるべきなのかもしれないけど、処刑はあまりにも重すぎるわ! そ、それに、どんなにマルフォイさんに隠しても、いつか必ず今回のことは知れてしまうわ! 貴女の怪我のことだってバレてしまったのでしょう? なら、今回も同じようになるかもしれないわ! その時にマルフォイさんが何を思うか……。今は怒っているかもしれないけど、後になってマルフォイさんが後悔しないはずがないわ!」

 

「……」

 

グレンジャーの言葉に、今度は私の方がたじろぐことになる。

おそらくグレンジャーの言いたいことは、優しいダリアなら尊い命が奪われたことを悲しむ……くらいのものだ。ダリアが優しいことは全面的に認めるが、生憎ダリアはそれ以上に家族を大切にする気持ちが強いため、普段であればヒッポグリフの命など見向きもしないだろう。寧ろ今自分の手で処刑していない方が不思議なくらいだし、怪我した日には実際に殺しに行こうとしていた。

でも、それがグレンジャーに関わることなら話が少し変わってくる。ヒッポグリフが殺されれば、もしかしてグレンジャーが悲しんでしまうかもしれない。そうダリアが考えれば、ヒッポグリフの処刑を喜びきることが出来なくなり……そしてそこにダリア特有の悩み事が生まれてしまうことだろう。人を遠ざけないといけない現実と、それでもグレンジャーに惹かれてしまっている自分自身。そんな彼女の悩みが……。

しかも今回はルシウスさんが処刑を推し進めていることもある。父親に逆らうことになる行為に、ダリアがそうやすやすと納得する可能性はゼロだ。

だからこそ、私はそんな悩みをダリアに感じてほしくないため、今回のこともダリアには秘密にしておこうと思っていた。

 

しかし……本当に秘密にできるものなのかという問いに、私は明確に頷けないことも確かだった。現に私の怪我のことがダリアに露見したばかりなのだ。しかも前回の『マグル学』を受講している生徒だけが知る事件とは違い、今回はパンジー達スリザリン生全員が知りえていることだ。よく考えれば露見しないわけがない。

 

私は思わず黙り込んでしまい、グレンジャーはグレンジャーでダリアに負担をかけることが分かっているのか、こちらを必死な表情で見つめるばかりで何も話そうとしない。

唯一口を開いているのは、

 

「ハーマイオニー! いいからこっちに戻って来いよ! こんな奴に頼んでも駄目なのはもう分かっただろう!? 去年思い知ったじゃないか、こいつもダリア・マルフォイ同様性根が腐ってるって!」

 

相変わらずウィーズリーくらいのものだが、こいつの話など聞く価値もない。

ウィーズリーが叫び続けるだけの気まずい沈黙が舞い降りる。そしてそれを破ったのは、

 

「……ダフネ、ダリアにこのことを話そう」

 

意外にも今まで黙りこくっていたドラコだった。

しかもグレンジャーの言葉を肯定するおまけ付きで。

私達が唖然とする中、ドラコは毅然とした態度で続ける。

 

「お前も今回のことで分かっただろう? 認めるのは嫌だが、こいつの言うことは尤もだ。隠したところでどうせダリアには伝わる。ダリアがまた僕達に秘密にされていたんだと思えば、あいつは必ずそれを気に病むだろうな。初めてのホグズミードの時と同じだ。だからどうせバレるなら、サッサと言ってしまった方がいいに決まってる。まぁ、お前の言う通り、タイミングも大事だと思うけどな。少なくとも今はまずい。言うとしても、僕の試合が終わった後だ。それまでの間、僕からも父上に掛け合っておくさ。ダリアのために行動している父上が僕の言葉で判決を覆すとは思えないが、もし処刑を取りやめれば、そもそもダリアに伝える必要すらなくなるからな」

 

意外な人間からの、意外な言葉の数々。私はドラコの提案にただただ驚き、彼に返す言葉が思いつかなかった。

そしてそれは横で聞いていたグレンジャー達も同じだった。ダリアが関わっていないことに関しては、ドラコはただの我儘お坊ちゃまでしかない。彼のそんな部分しか見てこなかったグレンジャー達にとって、ドラコのこんな姿は青天の霹靂なのだろう。彼女達はしばらく唖然とした表情を浮かべ、その中でポッターとウィーズリーがややあって口々に話し始めた。

 

「ドラコ……なんのつもりだ? 何を企んでるんだ?」

 

「……ふん、何がダリア・マルフォイに伝える、だ……。どうせ伝えても、バックビークの処刑を止める気なんてないんだろう? 伝えたところで、ダリア・マルフォイなら処刑を止めるどころか、寧ろ喜んで見学に行くのは分かってるんだよ。そもそもお前らが知らなかったことすら疑わしいね」

 

次々に言い放たれる否定と疑念の言葉。

ポッター達の横でじっとドラコを見つめていたグレンジャーも、やっと口を開いたかと思えば、

 

「……どういう風の吹き回しなの?」

 

やはり疑心に溢れたものでしかなかった。

しかしそんな彼女達の態度を気にした風もなく、ドラコは淡々と続ける。

 

「ふん。別にお前らのためにやるんじゃない。全てはダリアのためだ。今回の件にグレンジャー、お前が関わっていると知った時、ダリアが何を思うか……。僕はただ、一番ダリアが後で傷つかなくてすむ方法を提案しているだけなんだからな。お前らが信用するかどうかなんてどうでもいい。疑うなら勝手に疑っていろ。僕は僕で勝手にやるだけだ」

 

そう言った切りドラコは黙り込み、目の前に置かれた『レタス食い虫』を意味もなくいじくり始める。もうグレンジャー達が傍にいる状態では話すつもりはないということだろう。しかも丁度タイミングを見計らったように、遠くの方から授業終了を知らせるチャイムが鳴り響く。そしてチャイムが鳴ったと同時に、依然訝し気にこちらを見つめているグレンジャー達を置き去りにして、ドラコはサッサと城に向かって歩き出したのだった。

私は急いでドラコを追いかけながら尋ねる。

 

「ね、ねぇ、どういうつもりなの? なんでグレンジャーに協力するなんて……」

 

「……」

 

返事はなかった。

ただチラリと私の方を見た切り、ドラコは何も答えることなく、皆を置き去りにするように大広間の方に足早に進んでいく。そして彼がようやく応えたのは、

 

「……ダフネ。お前は……怖くなかったのか?」

 

周りに人が全くいなくなった時だった。

突然の言葉に不思議がっている私に、ドラコは探るような視線を私に送りながら続ける。

 

「グレンジャーがあんな提案をした時、以前のお前なら、有無を言わせず断っていたはずだ。お前のダリアを守るという言葉に嘘はない。だがそれ以上に、お前はグレンジャーがダリアに近づくことが怖かったはずだ。それにグレンジャーの頼みごとで、ダリアが苦しむ可能性を考えることそのものを、お前は恐れていたはずなんだ……。でも、さっきのお前に、そんな様子はこれぽっちもなかった。お前は……本当に怖くなかったのか?」

 

長々としたドラコの言葉。

それを受けて私は……()()()()()()()()()、グレンジャーにダリアが未だに惹かれているという事実を、自分の中で当たり前の事実として認めていることに嫉妬と()()()恐怖を()()()()()のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラコ視点

 

「そ、そうだ……。わ、私どうして……」

 

目の前にいるダフネは、僕の言葉に今ようやくグレンジャーへの恐怖感を思い出したようだった。しかもボガードの時程強いものでもない。

それはつい先日まででは考えられない態度だった。

……ダフネのグレンジャーに対する恐怖感は、明らかに変わってきている。

 

「……すまない、ダフネ。余計なことを言ったみたいだ。大丈夫だ、安心しろ。お前はただダリアのことを思って行動しただけだ。お前は何も怖がる必要はない。ほら、食堂に行くぞ。ダリアも待っているはずだ」

 

縋りつくような表情を浮かべるダフネに、僕は足を進めるようさとしながら考える。

以前のダフネなら、そもそもグレンジャーが話しかけてきても無視していたことだろう。たとえ応えたとしても、グレンジャーがダリアについて語ることを許さず、ダリアがグレンジャーに惹かれているという事実を考えることすら嫌がっていた。

グレンジャーからダリアへの願い。あんなことをお願いされようものなら、ダフネは感情のままに怒り、恐れ、そしてそんな感情を持ってしまっている自分を嫌悪していたと思う。

しかし、それがどうだろうか……。今は僕が言うまで、グレンジャーへの恐怖を感じていない様子だった。僕が指摘して初めて、まるで思い出したように僅かな恐怖感を感じる。それが今のダフネの姿だった。

 

まったく……僕がどうにかしてやるまでもなかった。ボガードの一件から心配していたが、どうやらいらぬ心配だったらしい。いつ頃から変わったのかは知らないが、これで一つ心配事が減った。

 

「……接点があるとしたら『マグル学』か。マグルなんて下らないくせに……。これじゃあ『マグル学』に行くな、なんて言えないじゃないか……」

 

「……ドラコ、何か言った?」

 

「いや、何でもない。ほら、行くぞ」

 

僕はダフネをさとしながら歩き続ける。この小さな変化がダリアに……そしてダリアの、()()()()にいい影響を与えてくれると信じながら。

今後のことを考えると、心配事がなくなったわけでは決してない。減ったと言ってもダフネのことだけで、寧ろグレンジャーのせいでまた一つ増えたとさえ言える。いくらダリアとグレンジャーの関係をこれ以上拗らせないためとはいえ、僕が父上の意見を覆せるとは思えない。父上はグレンジャーのことを知らないのだから当然だ。それにダリアに相談するタイミングも重要だ。ダフネも心配しているように、ダリアは最初必ず悩みを抱えてしまうことになる。それをどうやって支えていくかが問題なのだ。口が裂けても不安がないとは言えない。

しかしそんな状況でも……この時の僕は、どうしても将来が明るいものと感じずにはいられなかった。

 

「……もうすぐ試合か。ここで勝っておけば、ダリアの気分をもっと盛り上げてやれるんだがな……」

 

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