ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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越えられないはずの線(後編)

 ハリー視点

 

17歳になっていないにも関わらず、その実力のため特例で代表選手に選出された僕。

ホグワーツ代表選手となり、様々な課題を乗り越える僕。

そして遂に優勝杯を手にし、全校生徒の大歓声の中祝福される僕。その中にはあのチョウ・チャンも含まれており、彼女が僕だけに向かって称賛の笑顔を向けてくれる。そんな彼女に、僕もやはり彼女だけに向けて笑顔を返す。

 

……そんな夢の様な光景を、一度でも夢見なかったかと言えば嘘になるだろう。

 

でも自分自身でも分かっているのだ。僕は決してダンブルドアの施した年齢対策を突破することは出来ないし、ましてや選出されたとしても、三つもあるという危険な試練を乗り越えられるような実力など持っていない。ヴォルデモートから逃げおおせることが出来たのも偶々僕の運が良かっただけ。次も乗り越えられると思う程、僕は自分の実力を過大評価してはいない。だからフレッドとジョージに誘われても、僕は『三大魔法学校対抗試合』に立候補するつもりはなかった。

しかしだからと言って、代表選手に対しての興味が失われたわけではない。寧ろ自分が試合には出ない分、誰がホグワーツの代表として戦うのかとても興味を持っていた。

そしてそんな生徒は僕だけではなかった。

今年のハロウィーンは土曜日にあるため、普段であれば遅い朝食を摂る生徒が多い。でもいざ早めに玄関ホールに行ってみれば、

 

「人のこと言えないけど、皆気になってるんだな」

 

「そうだね……」

 

大勢の生徒達が『炎のゴブレット』の周りをウロウロしていたのだった。

ホールの真ん中に設置されたゴブレットはいつも『組分け帽子』を載せる丸椅子の上に置かれており、そしてその周り半径5、6メートル程の床には細い金色の線が描かれている。おそらくあの金色の線こそ『年齢線』なのだろう。玄関ホールに集まっている生徒はその線の周りをウロウロしており、中にはまるでそこに壁でもあるような仕草をしている生徒までいる。あの様子から判断すると、17歳未満の生徒は線を跨ぐことどころか、指一本入れることも出来ないのだろう。僕も試しに触ってみれば確かにそこに見えない壁の様な物があった。分かっていたことではあるけど、やはり僕が代表選手になる可能性は万に一つもなさそうだ。

分かっていたこととはいえ、やはり突き付けられた現実に少しだけショックを覚えながら僕は近くにいた女の子に話しかけた。

 

「誰か今までで名前を入れた生徒はいた?」

 

「ダームストラングとボーバトンは朝早くに全員入れていたわ。だけど肝心のホグワーツ生は誰も……」

 

そこで隣にいたロンが笑いながら声を上げる。

 

「そりゃこんなに人がいる中で名前を入れられる奴はそういないよ。僕だったら昨日の夜の内、それこそ皆が寝静まった時間に入れるね。だってゴブレットに名前を入れた瞬間吐き出されたら嫌だろう?」

 

確かに僕もロンの言う通りだと思った。

名前を吐き出されるかはともかく、名前を入れて選出されないということは代表選手より僕が劣っていたという証明になる。勿論それがグリフィンドールの、他にもハッフルパフやレイブンクローの上級生であれば文句なんてないけど、スリザリンの生徒だったらと考えると反吐が出そうだ。それに単純に恥ずかしいという理由もある。こんな人だかりの中で名前を入れて、一体どんな顔をすればいいのか僕には分からない。

でもそんな恥ずかしさなど一切感じない人物も中にはいるわけで、

 

「いえーい! 『老け薬』が完成したぜ! これで年齢線を越えられるぞ!」

 

「一人一滴だ! 俺たちはほんの数か月分、年をとればいいだけだ」

 

玄関ホールに突如フレッドとジョージの笑い声が響き渡ったのだった。

振り返れば勝ち誇った表情を浮かべる二人。その手には小瓶が握られている。昨日あれだけハーマイオニーが反対したというのに、二人はやはり作戦を実行したのだ。ハーマイオニーが、

 

「……上手くいきっこないわ」

 

と小さな声で呟いているが、それも二人は聞き流している。

そして皆の興奮した視線を一心に受けながら二人は遂に、

 

「行くぞ! これで俺たちが一番乗りだ!」

 

まるで走り幅跳びでもする勢いで線の中に飛び込んだのだ。

本来であれば見えない壁に阻まれるはずの行動。しかし彼らは越えた。本来なら越えられないはずの線を。彼らが着地した時には『年齢線』の内側だった。

その瞬間、おそらくこの場にいる誰もが二人の企みは成功したのだと思ったことだろう。それは実行したフレッドとジョージは勿論、あれだけ批判的意見を述べていたハーマイオニーも例外ではない。ハーマイオニーは驚愕した表情を浮かべ、その他の生徒は皆喜びの歓声を上げた。

……でもダンブルドアがそこまで甘いわけがなく、

 

「ぎゃ!」

 

成功したと思った瞬間、ジュっという大きな音と共に、双子は二人ともまるで砲丸投げでもされたかのように円の外に放り出されたのだった。

しかも二人には床に叩きつけられた後、顔を上げれば真っ白な長い髭すら生えている。

唖然とする生徒達の耳に第三者の声が届く。

 

「忠告したはずじゃよ」

 

深みのある声に振り返れば、そこにはこの『年齢線』を引いた張本人であるダンブルドア校長が立っていた。先生は面白がったような声音で続ける。

 

「二人ともマダム・ポンフリーの元に行くがよい。既に何人かが君達と同じ手段を使い、同じ症状でマダムのお世話になっておる。尤も君達程立派な髭が生えた者は今の所おらんがの」

 

皆がダンブルドア校長の言葉に声を上げて笑う。上手くやり込められたフレッドとジョージでさえ、清々しいやられっぷりに笑っていた。

僕も笑いながら考える。

確かにフレッドとジョージの作戦は失敗したけど、まだグリフィンドールの挑戦者がいなくなったわけではない。出来ることならそれが僕と()()()()()()()()()()()であるのなら……そう、本来なら()()()()()()()()()()の外で僕は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

「スリザリンでは誰が入れたんだ?」

 

「ワリントンさんが入れたらしいぞ。今朝一番に入れたって自慢してたよ。その他は……まだ聞いてないな」

 

「そうか……出場するならスリザリンでないと困るんだけどな。他の寮は……特にグリフィンドールなんかに代表選手になられたら目も当てられないよ。他の寮はどうなんだ?」

 

「ハッフルパフからはディゴリーが出るらしい。出来損ないのハッフルパフから選出されないとは思うが、あいつに関しては女子の間でも人気があるからな。それに一応あいつも純血だ。グリフィンドールが代表選手になるよりかはましだろうな」

 

まだ一日が始まったばかりだというのに、壊れたレコードのように繰り返される会話にうんざりしそうだ。どこに行っても代表選手、代表選手。どこの誰が代表選手になろうがどうでもいい。それがスリザリンだろうと、ハッフルパフだろうとレイブンクローだろうと、そしてスリザリンの仇敵であるグリフィンドールだろうとどうでもいい。何故そんなことを皆がこれほど気にするのか私には理解出来なかった。聞けば私達がここに来るより更に早い時間から、この大広間はこんな話で埋め尽くされていたそうだ。何故そこまで飽きもせず代表選手の話が出来るのか。下らない話を延々と繰り返されるこっちの身にもなってほしいものだ。しかも周りで話すだけならまだしも、

 

「マ、マルフォイ様は立候補されないのですか? マルフォイ様なら『年齢線』を超えられるのでは? 貴女様なら必ずや優勝できるはずです!」

 

「そ、その通りです! この学校でマルフォイ様以上に代表選手に相応しい者はいません!」

 

私にも話を振ってくることがあるのだから鬱陶しいことこの上ない。一体どういう思考回路を辿れば、大切なクリスマスを奪ったイベントなどに私が参加することになるのだろうか。考えただけで反吐が出る。ダフネとの時間を除けば、私はとにかく家に帰りたいのだ。たとえ私が17歳以上だったとしても、決してこのイベントに参加などしない。

私はそんな苛立ちを込めて、お世辞を言っているつもりなのであろうスリザリン生に応えた。

 

「……私は代表選手になるつもりはありません。そもそも私は肌の関係で外に長時間いることが出来ません。それとも貴方達は……私に日光の下で課題をこなせと言うのですか?」

 

少しずるい言い方だが別に間違ったことを言っているわけではない。私の対抗試合への心情を無視しても、私にはそもそも長時間日光の下にいることが出来ない以上、上級生ですら命の危険を帯びる試練に私が出られるとは思えない。全てが全て室内で行われる試験であるということはないだろう。日光に晒されれば私の秘密も白日の下に晒される。そんな危険を私は冒すことは許されないのだ。

そして秘密のことはともかく、私の嫌がることを勧めたという事実を伝えることは出来たらしい。

最近は皆私に近づくことすら恐れていた中、勇気を振り絞って話しかけてきた二名は血の気の引いた顔で慌てて応える。

 

「め、滅相もございません! ぼ、僕らはただマルフォイ様の実力なら可能だと思っただけなのです!」

 

「そ、その通りです! で、では僕達はこれにて!」

 

そして彼らは逃げるように大広間を後にし、私の周りにはお兄様とダフネ、そしていつものメンバーだけが残されたのだった。

私達の間に何とも言えない空気が漂う。ダフネやお兄様に至っては内容が内容のため言葉にはしないが、どこか心配そうな表情で私を見つめていた。そんな中、空気を読むという能力をどこかに置き忘れたらしいパーキンソンが私に話しかけてくる。

 

「まぁ、確かに日光のことを考えれば貴女が立候補するのは少し難しいかもね。でも貴女なら『年齢線』を破ることくらいは出来るんじゃないの? 日光のことも貴女なら最終的にはどうにかしてしまいそうだし」

 

思わずため息の出そうな話題の継続だったが、一応この子はお兄様の取り巻きの一人。お兄様とダフネが軽蔑した視線を送る中、私は仕方がないと適当に返事を返した。

 

「さぁ、どうでしょうね。試すつもりもないので」

 

その後私はドビーがいつも通り作ってくれた朝食を食べ終え、何も言わずにその場を後にする。そしてどこか気まずそうに続く取り巻き達を引き連れ大広間を出ると、そこには件の『炎のゴブレッド』と『年齢線』。ここに来る時にも目にしたが、実に邪魔くさい光景だ。何故こんな人の往来が多い場所を占拠しているのだろうか。『年齢線』に至っては幅が5、6メートル程もあるため態々玄関ホールの端を歩かねばならない。年齢がもう少し上であれば『年齢線』内を突っ切るのだが、周りに屯する生徒達の様子を見るに透明な壁でもあるのだろう。態々壁にぶつかりに行く趣味がない以上、線の外を通って談話室に戻るしかない。

しかしそんな邪魔な線を避けて通っていた時、

 

「……おい、マルフォイの小娘。お前は代表選手に立候補せんでいいのか?」

 

線より更に邪魔な人物によって歩みを止められてしまったのだ。

突然浴びせられた声に顔を上げれば、そこにはこの学校で最も忌々しい人物。魔法の目をギョロギョロと動かしながら、ムーディが階段の上から普通の目で油断なくこちらを見つめていた。思わず殺意を感じる自身を抑え込む私に、奴はまるで値踏みでもするように……でも同時にどこか挑発するように続ける。だが、

 

「お前の実力なら立候補しても誰も文句は言うまい。だが残念だったな。試合においては『闇の魔術』は、」

 

「ご心配なく。私は最初から立候補するつもりはありません。ご忠告丁寧にどうも」

 

私にそれを一々聞いてやる義理はない。私はこちらを睨みつけるムーディを無視し、再び談話室に向かって歩を進める。

まったく……何故皆こいつを含めて、私にひたすら代表選手になる可能性を説くのだろうか。勿論このクズ教師の言葉はただの私に対する当てつけでしかない。それでも、こいつがどこか私が代表選手になる可能性を危惧していることもまた確かなのだろう。そうでなければ一々こんなことは言わない。

だがそれが分からない。よしんば私に試験を乗り切るだけの実力、そして最大のネックである日光を排する手段を有していたとしても……残念ながら今の時点で私が老害の魔法を超えることは出来ない。『年齢線』がある以上、私に代表選手になる可能性は存在しない。一体皆は私を何だと思っているのだろうか。

 

私はそんな苛立ちを込めて、丁度すぐ横にある『年齢線』上の見えない壁を軽く()()()()()()

 

……これはただの何気ない行動だった。これ以上馬鹿な話に付き合っていられない。そこでただ私には『年齢線』を超えられない。そう軽くパフォーマンスするための軽い仕草の()()だったのだ。

 

しかし結果は、

 

「……ん?」

 

私の手は壁に触れることはなく……『年齢線』を跨いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???視点

 

別にそこまで大きな結果を求めていたわけではなかった。

これからの計画において、俺はダリア・マルフォイとかいう小娘を徹底的に利用する。おそらく俺が何をするまでもなく、この学校にいる全員の疑いの目がいずれあの小娘に降り注ぐことになる。だがそれをより確実なものにするために、ただほんの少しの布石を打っておこう。そんな軽い気持ちで考えていただけなのだ。

奴が『年齢線』の近くにいる時、少しだけ挑発的な言葉を投げかける。俺は今ムーディを演じているためあまり奴の言いそうにないことを発言することは出来ないが、これくらいの挑発なら問題ないだろう。小娘が『年齢線』に触れば御の字。それだけで小娘が『年齢線』に興味を持っていた、『年齢線』を破る手段を見つけたのかもしれないと、後々作戦が成功した後小娘を陥れられる噂を立てることが出来る。そう思っていただけだったのだ。

それなのに……

 

「……ん?」

 

目の前で起こった光景は、俺の予想をはるかに超えるものだった。

本来であれば指一本入れることが出来ないはずの境界線。

小娘はダンブルドアの引いた『年齢線』を、何の障害もなく超えて見せたのだ。

 

俺を含めた全員の驚愕した視線が小娘に降り注ぐ。たまたまこちらのやり取りを見ていた、早朝からここで屯していた暇な生徒達も例外ではない。目の前で起こったあり得ない光景に理解が追いつかない。

そんな中、いつもながらの無表情を保ちながら、だがどこか困惑した雰囲気を醸し出す小娘が再び『年齢線』に触れようとする。

 

「……おかしいですね」

 

しかし結果が変わるわけではない。小娘は今度こそしっかり『年齢線』に両の手を伸ばすものの、やはりそこには最初から何もないかのように腕は空を切るばかり。

挙句の果てに物は試しと『年齢線』を実際に跨いでみても、

 

「さ、流石ね。もう! とっくにダンブルドアなんかの『年齢線』の対策が出来てるなら、最初からそう言ってくれればいいのに。試すつもりがないなんて嘘までついて」

 

それすら悠々と超えられてしまう始末。『年齢線』の内側で立ち尽くす小娘が外にはじき出される様子は一向になかった。

異様な光景に誰もが唖然とした表情で黙り込んでいる。玄関ホールに響くのは、小娘の取り巻きであるパグ顔の声くらいのものだ。

そしてようやく事態が変わったのは、

 

「……成程。私は老害にとっても想定外の()だった……そういうことですか」

 

小娘が何事か呟いた後、何をするでもなくサッサと『年齢線』から退き、そのまま何事もなかったかのように談話室に向かって歩き始めた時だった。

視線の先でグリーングラス家の娘と手を繋ぎながら歩く小娘に再度パグ顔の声がかかる。

 

「あら、いいの? これで日光対策さえしっかりすれば、貴女だって代表選手になれるのよ?」

 

「……」

 

しかし小娘がそれに応えることはない。表情通りの冷たい態度でただ前だけを見て歩き続ける。混乱しながらもようやく声を上げた俺にも、

 

「ふ、ふん。流石は学年主席なだけはあるな。だ、だが肝に銘じておけ。どんなに『年齢線』を超えられようと、どんなにカルカロフのような闇の魔法使いと結託しようと、ワシの眼がある内は好き勝手はさせんからな」

 

「……」

 

やはり小娘は答えることは無かった。チラリとこちらを一瞬見やりはしたが、そのまま何も言わずに取り巻き達を連れ立って談話室に帰って行ったのだった。

事の元凶である小娘がいなくなることにより、あちらこちで生徒達の声が上がり始める。

 

「……ダ、ダリア・マルフォイの奴。あっさり『年齢線』を超えてたぞ?」

 

「もしかして……あいつ、もうゴブレットに名前を入れたんじゃないか?」

 

「な、ならあいつがホグワーツの代表になるのか? 人格はともかく、実力だけはこの学校で一番だから……」

 

「でもそうなったら……他の代表選手が皆殺されることになるぞ?」

 

……完全に予想外の展開ではあったが、作戦自体は実に上手くいった様子だ。これでいざ()()の疑いが晴れたとしても、反比例するように小娘に疑いの目を向けさせることが可能になる。

何故小娘が『年齢線』を超えられたのかは分からないが、これで全てが俺の計画通りに……。

 

しかしそこまで考えて、俺は自身の思考に強烈な違和感を抱いた。一度は無視しようとした疑念に強烈な違和感を感じる。

 

いや……本当に何故小娘は『年齢線』をあんなにも容易く超えられたのだ。確かにあの小娘はこの学校で一番の実力を有していると言えるだろう。まだこの学校に赴任してそこまで時間は経っていないが、それくらいの隔絶された実力を奴が有していることは分る。だがそれだけだ。『闇の帝王』すら警戒するダンブルドアを超えるようなものではない。

だというのに、ああも容易く『年齢線』を超えた。それは本当は小娘がダンブルドアの力を上回っているか……もしくはもっと俺には分からない理由があるかのどちらかを意味している。

俺は帝王の言葉を再度思いだす。

 

『あれは将来素晴らしい『死喰い人』に……俺様の役に立つだろう』

 

……そもそも何故闇の帝王は小娘のことをご存じだったのだ? 

闇の帝王がお隠れになったのは10年以上前。その頃の小娘はまだ赤ん坊とさえ言える年ごろだ。いくら今優秀であろうと、赤ん坊の頃から闇の魔術が使えるわけではない。

 

闇の帝王は……()()()()小娘の存在を知り、奴を将来の右腕として見定めたのだ?

 

俺は突然湧いて出た疑念にその場で立ち尽くす。

周りには先程の光景を恐る恐る語る生徒達。それは作戦自体は上手くいきすぎる程上手くいったことを表している。本来の作戦も今夜の代表選出後に開始される。全ては闇の帝王と……俺の計画通りに動いている。

だが、それなのに俺は……何故か強烈な不安感を感じざるを得ないのだった。

 

 

 

 

ダリア・マルフォイとは……一体何者なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

いよいよハロウィーン・パーティの時間。

()()()()()()()相変わらずビクトール・クラムはダリアの近くに座っており、周りの視線を一身に集めている。

しかしそんな視線も昨晩よりかはいくらか軽いものでしかなかった。多くの生徒は今ビクトール・クラム以上に、教員席近くに移動された『炎のゴブレット』に注目しているのだ。

 

「グリフィンドールはアンジェリーナ・ジョンソンが入れたらしい。ほら、あのチェイサーの」

 

「あぁ、あいつか……。だがマルフォイ様が投票された以上、あいつが選ばれることは万に一つもないぞ。マルフォイ様より代表選手に相応しい人間がいるもんか」

 

だからその注目に比例して、今朝以上に鬱陶しい話題が耳に届き続けている。

本来であれば、このイベントに全く興味を持っていないダリアが話題に上がることはなかった。しかし今朝の事件のせいで、何故かダリアこそが現在の代表選手最有力候補として噂になってしまったのだ。

 

……ダリアの意志とは全く関係ない所で。

 

大広間は例年通りハロウィーン仕様の飾りつけが施され、宙に浮かぶ何百という蝋燭に明るく照らされている。しかしそんな中で、唯一ここだけ照明が当たっていないのではないかと思える程、私とダリア、そしてドラコの周りだけは雰囲気が暗かった。

原因は当然今朝のことだ。

それはそうだろう。周囲は無邪気にダリアが立候補できる、もしかしたら立候補したのではと騒ぎ立てているが、内情はそんな生易しい話で収まるものではない。

ダリアは『年齢線』を超えた時思ってしまったのだ……

 

『……成程。私は老害にとっても想定外の()だった……そう言うことですか』

 

自身がダンブルドアに()()()()()()()()()()のだと。

 

勿論いくらあの爺がダリアのことを警戒していても、彼女を本当に人間扱いしていない……というわけではないことは分かっている。いくら老害でもそれくらいの良識はまだ残っているだろう。しかし同時に彼が無意識にダリアを追い詰めてしまったことも確かなのだ。

この学校には今人間以外の血が混じった生徒、教師が何人も在籍している。ゴブリンの血が混じるフリットウィック先生、巨人の血が混じっているのでは思われるマダム・マクシーム校長、挙句の果てにヴィーラの血が入っているのではと噂されるボーバトンの女生徒。……そして私とドラコのみが知っている、吸血鬼の血を()()()()()ダリア。

ダリアはともかく、あの爺がボーバトンのことを考慮していないはずがない。ならば奴も『年齢線』を設定するにあたって、17歳以下なら人間以外でも除外、あるいは年齢を満たしていれば通れるように設定しているはずなのだ。

しかしダリアは通れた。17歳以下にも関わらず、何の障害もなく。

それはダリアに吸血鬼の血が混じっているから……などではなく、おそらくもう一つの特性が原因しているからだと思う。

 

それは魂の問題。

ダリアは『年齢線』に無視されたのだ。去年のホグワーツ行き特急で、()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

自身が人間ではないと再確認させられてしまったのだ。ダリアが傷つかないはずがない。

でもそれが分かっていても、

 

「ダリア……き、気にすることないよ」

 

「……はい」

 

今の私にはこんな何の慰めにもならない言葉しかかけてあげることが出来なかった。

何が、気にすることがない、だ。親友ならもっと気の利いた言葉をかけられるはずだ。何故私はこんなにも、一番大切な時に一番必要な言葉をかけてあげることが出来ないのだろうか。いくら周囲の目があるため大っぴらなことを言えないのだとしても、もっとやりようはあるはずだ。

でもどうやらそんな不甲斐ない思いを抱えているのは、私だけではない様子だった。

私の隣に座るドラコは心配げな表情を浮かべているものの何か発言することはない。そして遠くのグリフィンドール席に座っているハーマイオニーも、周りにいる寮生達がダリアの方にチラチラと視線を送ってくる中、グリフィンドール内では唯一心配そうにダリアのことを見つめている。おそらく彼女の位置からでもダリアが異様な無表情を浮かべていることは分るのだろう。ただ距離もあることから具体的な行動を取ることは出来なさそうだ。

しかもそんな二進も三進も行っていない中、

 

「さて、皆今晩も存分に食べたことじゃろう! 丁度良いことに、ゴブレットは代表選手を選び終えたようじゃ!」

 

いつもの如く、どこまでも間の悪い老害が声を上げたのだ。お蔭でダリアにこれ以上声をかけてあげることが出来なくなってしまった。

私が間の悪い爺を睨みつける中、老害は何も知らない呑気な声音で続ける。

 

「ゴブレットに選ばれた代表選手は大広間の一番前に来るとよい。そして教職員テーブルに沿い、隣の部屋に進むのじゃ。そこで最初の指示が与えられることじゃろう」

 

老害がそう発言した瞬間、件の『炎のゴブレット』が突然一際明々と輝きだす。そして次の瞬間中から一枚の羊皮紙が吐き出され、老害はそれを掴みながらまず一人目の名前を宣言した。

 

「ダームストラングの代表選手は……ビクトール・クラム!」

 

私達の気も知らないで、大広間は大歓声の渦で満たされる。目の前の拍手を送られているご本人もどうやら騒がしいのはあまり好みではないらしく、少しムッツリした表情を浮かべながら指示された部屋に向かった。

……()()()話を聞いている限り、彼には別にダリアに対して何かしらの目的があったわけではないことは分かった。目的があったのはダームストラングの校長の方。彼は奴に利用されていただけに過ぎない。でも彼からどんな情報が奴に行くか分からない以上、私に警戒しないという選択肢は存在しない。

私がクラムが部屋に入っていく姿を見つめる中、次の代表選手の名前があがる。

 

「ボーバトンの代表選手は……フラー・デラクール!」

 

どうやらボーバトンの代表選手は、あのヴィーラの血が混じっている女生徒に決まったようだ。ダリアという最高の美少女を見慣れているため、私やドラコを含むスリザリン生はあまり騒いでいないが……グリフィンドールは先程のクラム以上の歓声を上げている。

でもその歓声も長くは続かない。何故ならいよいよホグワーツ生のほとんどが気にしていた、

 

「さて、ゴブレットが最後の選手を選び終えたようじゃな」

 

ホグワーツの代表選手が発表されるのだから。

ゴブレットが再び赤く燃え上がり、三枚目の羊皮紙が吐き出される。

 

「ホグワーツの代表選手は……セドリック・ディゴリー!」

 

そしてそれを掴み取ったダンブルドアが、高々とその名前を読み上げたのだった。

反応は激的だった。主にハッフルパフの席が。

ハッフルパフの生徒は雄叫びを上げながら全員総立ちになり、足を踏み鳴らしている。中には、

 

「やったぞ! あのダリア・マルフォイを抑えて、うちのセドリックが代表選手になったぞ!」

 

興奮極まったのか、そんなふざけたことをぬかしている生徒までいる始末だ。

別にセドリック・ディゴリーとかいう生徒が悪いわけではないが、今のふざけた発言でより一層応援する気がなくなってしまった……。

下らない勘違いの下で盛り上がる生徒達を睨みつける私を他所に、老害が朗らかに話し始める。

 

「これで三人の代表選手が決まった! 選ばれなかった生徒も、皆打ち揃ってあらん限りの力をもって代表選手を応援してくれると信じておる。選手に声援を送ることで、皆が本当の意味で自身の学校に貢献を、」

 

私の興味はそこで途絶えた。何故クリスマス・パーティー以外興味もないイベントで、知りもしない代表選手の応援をしないといけないんだ。

しかし……今朝から始まった不愉快な流れだったけど、代表選手が決まったことで終わりになることだろう。まだまだダリアが代表選手なんかに立候補したのではと思う生徒がいるかもしれないけど、試合が始まってしまえばそんな噂話に没頭している余裕はなくなるはず。

だから私の中で今日のパーティーはここで終わり。後はトットと談話室に戻り、まだ落ち込み気味のダリアを慰めるのだ。

 

 

 

 

……そう考えていた時に、それは起こった。

 

ダンブルドアの話し中に、突然『炎のゴブレット』が再び赤く燃え始めたのだ。

代表選手は()()()()()()()()()というのに。

 

私だけではなくこの場にいる全員が異変に気が付いたのか、大広間は完全に静まり返る。

そして静寂の中ゴブレットから一枚の羊皮紙が吐き出され、それを反射的に掴んだ老害が、

 

「……()()()()()()()()

 

そのあり得ない名前を読み上げたのだった。

 

……どうやらこの学校には平和な年なんてものは存在しないらしい。




さて……やるか。
感想よろしくお願いします。
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