ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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パートナー選び(前編)

 ドラコ視点

 

『変身術』の授業終了直前にマクゴナガルからその宣言がされた時、僕は、

 

「クリスマス・ダンスパーティーが近づきました。これは三大魔法学校対抗試合の伝統であり、外国からのお客様と知り合う機会でもあります。全員参加のイベントです。パーティは大広間で、クリスマスの夜八時から始まり、夜中の十二時に終わります」

 

あぁ……遂にこのイベントが来てしまった。そう思っていた。

まったく面倒なイベントが来てしまったものだ。

しかしそう考えているのはどうやら僕くらいのものであるらしく、周囲の連中は今までの疲れた表情から一転、いつもからは考えられない程真剣な表情でマクゴナガルの話に聞き入っている。

全員の視線の中奴は続ける。

 

「クリスマス・ダンスパーティーは私達全員にとって……そう、髪を解き放ち羽目を外すチャンスと言えるでしょう。ですがだからと言って、決して羽目を外しすぎていいというわけではありません。ホグワーツ生であるのならある程度節度ある行動をするように。では本日の授業はここまでです。解散」

 

そして授業が終了すると同時に、全員がワイワイとパーティーについて盛り上がり始めたのだった。

あちこちで同性同士で固まり、そこかしこで誰を誘うかなどを話し合い始める。女子のグループからはくすくす笑いが。男子のグループからもどこか興奮したような声音が。まったくどいつもこいつもおめでたい奴ばかりだ。

誰とダンスパーティーに行きたいかなど考えたくもない。

僕は内心の苛立ちを抱えながら……でもどうして自分が苛立っているのかを()()()()()()()()()()、隣に座る同じくダンスパーティーに大して興味の無さそうなダリアとダフネに声をかけた。

 

「二人とも行くぞ。昼食後は選択科目だ。さっさと昼食を済ませておこう。特にダフネ、僕達の選択科目は『魔法生物飼育学』だからな。……心の準備は長い方がいい」

 

「う、嫌なことを思い出させてくれるね、ドラコ。あの尻尾爆発スクリュート……多分また大きくなってるよ」

 

「……尻尾爆発スクリュート? なんですか、その生き物は? 寡聞にしてそのような生き物の名前を聞いたことがないのですが……。あの森番、性懲りもなくまた危険な生き物を?」

 

「う、ううん、そ、そんなことはないよ? 大きくなってからは近づいてもいないから。でも、まぁ……見た目がちょっとね」

 

案の定二人とも特に異論無く立ち上がり、まだ無駄話を続けている連中を置き去りにして教室を後にする。

ダリアにとって強制参加のダンスパーティーは家族でのクリスマスを潰したイベントでしかない。そしてダフネにとっても、ダリアと過ごすクリスマスというものに興味を持ちこそすれ、男子生徒とダンスを踊るパーティーには興味がないのだから当然だろう。

しかし強制参加である以上、僕らにいくら興味がなかろうと無関係でいるわけにはいかない。

雑談をしながら大広間に着くと、ダリアは相変わらずドビーが作ったと思しき食事を食べながら、そういえばと言った様子でダフネに尋ねる。

 

「そう言えばダフネ。今回のダンスパーティー。一体誰を誘うおつもりなのですか?」

 

「え? ダリアを誘うつもりだよ? ダリア、一緒に踊ろうよ!」

 

「……ダフネ、パーティーの趣旨を理解していますか? おそらく女性同士でパートナーになることは、マクゴナガル先生もお認めにならないかと」

 

「大丈夫大丈夫! マグル学で、マグルの世界では女の子同士の方が絵になるって推奨されているって言ってたよ! 特に極東辺りで」

 

「……僕はマグル学を受けたわけじゃないが、お前は一体マグル学で何を教えられているんだ?」

 

……勿論受け答えはあくまで頓珍漢なものでしかなかったが。

どうやらこいつらも心底ダンスパーティーには興味がないらしい。

 

 

 

 

この時点での僕らのダンスパーティーに対する興味は所詮この程度でしかなかった。

それこそ僕だけではなく、ダリアとダフネすらも。

ダリアもダフネも率先してパートナー選びをするつもりはなく、僕は僕で誰をパートナーにするかなど()()()()()()()()()

ただ折角用意したドレスやパーティーローブを着て、三人で適当に談笑でもしておけばいい。それくらいの……()()()()()()()()()()()()、それだけで()()()()だというのが、僕の本心だったのだ。

だが、

 

「ダリア・マルフォイ。……僕と一緒にダンスパーティーに参加するつもりはありますか?」

 

それもビクトール・クラムがそんなことを言ってダリアに話しかけるまでだったが。

振り返ればいつも以上に仏頂面の世界的シーカー選手。ダリアを誘うのが明らかに不本意だと顔に書いてある。おそらく初対面と同じくダームストラングの校長に命令されてダリアを誘っているのだろう。

だが、それでも……僕はその言葉を聞いて、無性に心がかき乱される気分だったのだ。

 

僕には他人の指図であろうとも、こんなにも簡単にダリアを誘えるということが()()()()()仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリー視点

 

これならハンガリーホーンテールと戦った方がまだましだ。

僕には今の状況に対してそう思えて仕方がなかった。

ダンスパーティーに女子を誘う?

どうやったらそんなことが()()()()()()()()()()()()()()僕にはどうしても分からなかった。

女子の方から誘われないわけではない。今まで女子との接点などほとんどなかったのに、ダンスパーティーの宣言があってから、見ず知らずの女の子に誘われることが何度もあった。

でも、全く知らないような女の子に話しかけられてどうすればいいのだろう。彼女達の目当ては代表選手という肩書だけだ。そんな女の子とダンスパーティーに行った日には、後々面倒なことに巻き込まれるのは目に見えている。

誘われるのに……一緒に行ける、一緒に行きたいような子には話しかけられない。

それが現在の僕の悩みだったのだ。

そもそも何故女の子はあんなにも固まって行動するのだろう。廊下でクスクス笑ったり、ヒソヒソ囁いたり。男子生徒が傍を通り過ぎる度にキャアキャア笑い声を上げる。話しかけにくいにも程がある。

 

「どうして皆こんな時に限って行動するかなぁ。これじゃあ誰に話しかけても笑いものだよ。次の日にはホグワーツ中に誰と踊るかが知れ渡るって寸法さ」

 

そしてその思いを共有しているのは僕だけではなく、ロンも同じ様子だった。

僕を見ながらクスクス笑う団体の横を通り過ぎながら、僕はロンの発言に心から頷く。

……実は誘いたい女子がいないわけではなかった。チョウ・チャン。一年前のクディッチ試合以降どうしても視線が行ってしまうレイブンクローの女の子。恋している……とまではいかないけど、どうしても気になって仕方がない女の子だった。ダンスパーティーに一緒に行くなら彼女が良かった。……でも勇気を振り絞って彼女に話しかけてみれば、

 

『ごめんなさい、ハリー。私、もうパートナーが決まっているの。その……セドリックから先に誘われてしまって。私……もう()()()()()()()()

 

そんな返事を貰ってしまったのだった。セドリックに殺意を覚えたのは言うまでもない。何故僕は彼にドラゴンのことを教えようと思ったのだろうか。結局役に立たない情報だったとはいえ、あの時彼に教えるなんて愚の骨頂だった。次は絶対に教えないでおこう。ダリア・マルフォイの手先になり、挙句の果てに僕の目の前でチョウ・チャンを掻っ攫うなどもう僕の敵だ。

残ったのはどうしようもない遣る瀬無さと、あの時どうやってチョウ・チャンに話しかけれたのかという疑問だけ。

僕はどこかダンスパーティーに対して虚無感を感じると共に、女子に対しての気恥ずかしを感じざるを得なかった。

 

「とにかく……このままだと僕らは最悪()()()と踊らないといけなくなる。君はまだ選択肢があるだろうけど、僕なんて死活問題だ。まさかあのエロイーズと行くわけにはいかないだろう?」

 

でもどんなにチョウ・チャンに未練を感じていても、強制参加である以上パートナーを選ばないといけない。どうせ踊るなら、せめて鼻が真ん中についている女の子に越したことはない。

どんなにやる気をなくしていても、どんなに女の子が固まって行動していようとも、僕はもう行動するしかないんだ。

僕はロンの意見に神妙に頷くと、自分の中に燻ぶる虚無感を撥ね退けようと努力しながら言う。

 

「よし、こうしよう。僕等は今日誰かしらのパートナーを見繕う。談話室に帰ってきた時には、必ずそれを報告し合うんだ。それでいいかい?」

 

「……あぁ、そうだね。ここで地団駄踏んでも仕方がない。出遅れたとはいえ、まだ数人は可愛い子が残っているはずだからな」

 

そして僕らは走り出す。まだダンスパーティーが宣言されてからそう日にちが経っていないというのに、もう可愛い子はどんどん売れていっている。チョウ・チャンがいい例だ。残っているのは大してパッとしない容姿の子か……あるいは美人でありながら性格が絶望的、且つビクトール・クラムの誘いを大衆の面前で()()くらい人付き合いの悪いダリア・マルフォイみたいな人間くらいだ。もう一刻の猶予もない。

僕等は少しでも楽しいクリスマスを過ごすために、重い腰を上げるのだった。

 

 

 

 

「……何よ、女の子ならここにもいるじゃない」

 

僕等といつも一緒にいる女の子の存在を忘れたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

いつもは近づいてこないくせに、何故こういうイベントの時だけは積極的に行動できるのだろう。

私は目の前の()()()()を見つめながら、そんな益体のないことを考えていた。

 

「ダ、ダリア・マルフォイ様。ど、どうでしょうか、私とダンスパーティーに……。私の家もマルフォイ家程ではありませんが純血の家です。どうかこれからは、」

 

「お断りします」

 

下心が透けて見えるようだ。そもそも彼に私に対する興味はなく、私の所属する偉大なマルフォイ家に近寄るという目的以外は存在しない。まったく汚らわしいことだ。そんな人間をマルフォイ家に私が近づけるはずがないではないか。

……まぁ、逆に私に興味を持たれても困るわけだが。

逆に私に興味を持って近づく連中……特に去年のホグズミードから私の方をチラチラ見ている連中は、それはそれで気持ちが悪い方々だと思う。こんな無表情な人間のどこを気に入ったのか、私には理解不能だった。

何がダンスパーティーだ。私はこのイベントを企画した人間を殺したくて仕方がなかった。家族とのクリスマスを潰したということもあるが、そもそも私が一緒にパーティーに行ける人間などそう多くはない。スリザリン生は全員私に下心を、そして他寮生は私に敵意を。他校の生徒も何かしらの目的を。秘密を抱えている私にはどれも危険極まりない存在なのだ。一緒にダンスなど行けるはずがない。

唯一及第点と言えるのは、昔ながらの付き合いがあり、他の有象無象に比べれば多少気心の知れた中であるクラッブとゴイルなわけだが……。

右の豚と左の豚。どちらと貴女は踊りたいですか?

そう尋ねられても全くダンスをする気になれないのは、おそらく私だけではないはず……。よって私はパートナーを選ぶことすら出来ず、必然的にダンスパーティーへの興味を完全に失っていたのだった。

 

秘密を守るためにも誰かと必要以上にいるわけにはいかない。このような浮ついたイベントなら尚更だ。一緒に行ったら最後、後で何を言われるか分かったものではない。

それに何より私は……。

しかしそう考えていても、やはり次から次へと私に話しかける人間は現れる。先程まで目の前にいた生徒がどこかにトボトボと歩き去ったかと思えば、次の生徒がまた間髪入れず話しかけてきた。

……しかも今度は先程以上に忌々しい話付きで。

 

「マ、マルフォイ様。先程のやりとりを見ていたのですが……いえ、盗み見ていたわけではないのです! た、たまたま目に入っただけで! それより! マルフォイ様はまだパートナーを選ばれていないのですか?」

 

「……えぇ、そうです。それに選ぶ気もありません。私は一人でダンスパーティーに行くつもりですから」

 

「えぇ! そ、それはいけません、マルフォイ様! 一人でダンスパーティーに参加するなど、マルフォイ家の沽券に関わることです! ど、どうですか、その点私なら、」

 

「……お断りします」

 

「そ、そうですか……。い、いえ、マルフォイ様がそこまで仰るなら、な、何か目的があるのですね」

 

一瞬殺してしまおうかと思ったが、何とか自身の殺意を内に抑え込む。でもどうやら殺気だけは感じ取ったらしく、私に続けて挑戦してきた愚か者はどこかに逃げるように歩き去って行ったのだった。

内心の苛立ちをぶつける様に彼の背中を睨みつけながら考える。

マルフォイ家の沽券に関わる?

そんなことは私だって分かっている。でも私にどうしろというのだろう? 

確かに一般的にパートナーを伴わずにダンスパーティーに参加することは恥とされている。おそらくこのクリスマスパーティーも、よほどの売れ残り以外は全員パートナーを伴って参加するはずだ。残り得るのは私が唯一選べるクラッブとゴイルくらいのものだ。よってマルフォイ家という本来であればかなりの優良物件である私が誰ともパーティーに参加しないのは、客観的に見ればマルフォイ家に泥を塗る行為と言っていいのだ。

そしてそれが分かっているからこそ、いつも一緒にいざるを得ないセオドール・ノットやブレーズ・ザビニは、今の所私を誘っては来ていない。最後の最後に、それこそクリスマスパーティー直前に私に話しかけ、恥をかきたくなければ自分を選べとでも言うつもりなのだろう。流石に三年間以上私と過ごしただけあって、彼らも私の行動原理を少しは理解している。マルフォイ家のことを言われれば、私が一番揺らぐということを彼らは理解しているのだ。もっともちゃっかり()()()は用意しているようであるが……。

でも……だからと言って、今回だけは私も譲歩出来るはずがない。多少の恥をかいても、マルフォイ家の秘密を守るために。

そして何より……私は嘘でもいいからと他人と踊ることなど絶対に嫌なのだ。

 

私が異性と踊るとしたら、それはこの学校にたった一人しかいない。その方以外と踊る自分なんて、私には想像することすら出来ないのだから。

……()()()()()()()()と行けない以上、私はただダンスパーティーの時間を一人適当に過ごすだけだ。

 

日々過熱していく勧誘合戦に知らず知らずのうちに苛立ちが漏れ出す。

そのお陰なのか、先程の生徒を最後に今日私に話しかける男子生徒はいなくなったわけだが……同時に私の周りには人影一つなくなってしまったのだった。

私を心配そうに見つめる、ダフネとお兄様を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

ドビーの一件から数日間。この学校も今ではクリスマスムード一色に染まっている。

あちらこちらで繰り広げられるパートナー争奪戦。最初はダリアとクリスマスを過ごせるならダンスパーティーなんてどうでもいいと思っていたわけだけど……ここまで周りが白熱してきたら、私達も無関係というわけにはいかない。お蔭でドビーとの再会で機嫌の良かったダリアも、ここ最近は毎日のように行われるお誘いに辟易としている様子だった。

今も彼女に話しかけ、そして一瞬で断られている生徒が一人。そしてそのすぐ近くに更にダリアを誘おうと手ぐすね引いている生徒が数人。まだまだダリアの悩みは終わりそうにない。

私は隣で私同様ダリアを心配そうに見つめているドラコに話しかける。

 

「よくもまぁ、あれだけすっぱり断られているのに皆誘い続けるよね。自分も断られるって分からないのかな?」

 

「……マルフォイ家は聖28一族筆頭だからな。それにダリアはあの容姿だ。一か八かでも、もしダリアが頷けばそれだけでパーティーの主役になれる。……それにパートナーになれさえすれば、後々有利に事を進められるとでも思っているんだろう。……ダリアとのお見合いとかな」

 

うんざりするような話に、私は眉を顰めるしかなかった。

私だって聖28一族の端くれ。純血を保つためにも、将来的に結婚するなら純血の魔法使いの方がいいと思っている。でも正直こんな学校でのダンスパーティーなんかで将来に負担が出る程の家柄ではないのだ。こんな所まで気を遣わないといけないのなら、聖28一族筆頭というのも大変だと思う。

特にダリアの場合は出生に特大の秘密を抱えているため、そんな中でも更に行動に気を付けないといけない。全く理不尽極まりない話だと思った。

しかしだからと言って、私にはどうすることも出来ない。

出来ることはただ彼女の傍に寄り添ってあげることだけ。本当なら今もダリアにへばり付いている生徒達を追い出してしまいたいけど、それをしても何の解決策にもならない。どうせ後からダリアにすり寄るのは目に見えているし、何より追い出そうにも理由がない。

まさかダリアは秘密を抱えているから、皆さん彼女をダンスに誘わないで下さいとは言えないのだ。

……それに本来こういうことに対処できるのは、

 

「……ドラコ、それが分かっているなら、どうしてダリアをダンスに誘わないの?」

 

彼女の兄であるドラコの方なのだから。

次から次へとやってくる誘いを断つには、既にパートナーが決まっているという言い訳が一番効く。そりゃ多少は、

 

「……馬鹿なことを言うな。ダリアは僕のいも……()()だ。家族をパートナーにすれば、それはそれで馬鹿にされる。それこそマルフォイ家をな。そんなことをダリアが許すわけがないだろう。少なくともダリアは絶対に()()()()()()

 

それはそれで問題は出てくるけど。

ドラコの言う通り、兄妹をダンスパートナーにするのは一般的には最後の手段だ。つまり誰もパートナーを捕まえられなかった人間が、ただ数合わせのために誘ったと思われる。しかもダリアとドラコの両方が。あまりいい噂がされるとは思えない。

でもそれがどうしたと言うのだろうか。ダリアを今の勧誘地獄から解放するためだ。多少揶揄されようが、それは他寮だけの……特にグリフィンドールの話だから無視しておけばいい。あれだけダリアが断っている場面を見ており、尚且つ彼女を内心では怖がっているスリザリン生は絶対にそんなことを言わないだろう。

 

それに何より……結局二人とも一番踊りたいのはその兄妹同士なのだから、その欲望に忠実であればいいのだ。

 

私は仏頂面になっているドラコに内心呆れながら言う。

 

「まぁ、それはダリアからは誘ってこないだろうけど。でもそれなら尚更貴方が誘えばいいでしょ。馬鹿にする奴もいるだろうけど、そんなことは関係ないって。何より貴方が一番踊りたいのはダリ、」

 

「違う!」

 

しかし私の言葉はドラコの突然の大声に遮られてしまう。

驚いてドラコの方を見れば、仏頂面を更に苛立った表情に変えている。でもそれも一瞬だけ。すぐに自分が大声を上げたことを恥じたように、どこか気まずそうな顔をしながら、

 

「と、とにかく……僕はダリアをパートナーにする気はない。そ、それだけだ」

 

そう言ってどこかに歩き去ってしまったのだった。

一人残された私はひとりごちる。

 

「……素直じゃないんだから。もうダリアのことを妹だと思ってないくせに。……もうダリアのことを妹だと言えないくせに」

 


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