ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
アズカバン編の『親友デート前編』にイラストレーター、匡乃下キヨマサ様が書いて下さった挿絵を挿入しました。クリスマスプレゼントにどうぞ。
ダリア視点
クリスマス当日の朝、私はすっかり冷えた寝室の中で目を覚ます。本来であればクリスマスである今日、私はマルフォイ家のベッドで目を覚ますはずであった。
それが今は学校のベッドで……。隣からはダフネやパーキンソン達の寝息が漏れ聞こえている。
クリスマスとは本来家族と過ごす時間。断じてこの学校が今浮かれ騒いでいるような、恋人と過ごす日などではない。
……しかし今の私はこの家族以外と過ごすクリスマスに対し、そこまで嫌な感情を抱いてはいなかった。ダンスパーティーなどという下らないイベントこそあるが、ダフネが私と過ごすクリスマスと喜んでくれているのだから、いつまでも悪感情ばかりを抱いているわけにはいかない。少なくとも表面上は……。
それに、
「お父様、お母様。今年もこんなに素晴らしいプレゼントを……」
どんなに離れていようとも、私と家族の絆は決して揺らぐことはないのだから。
ベッドから静かに起き上がり辺りを見回すと、ベッドの足元に巨大な山が出来ている。言わずもがな今年も送られてきたクリスマスプレゼントの山だ。私は躊躇うことなくその一番上に置かれていた
一つ目はお父様からのプレゼント。開けてみると中から出てきたのは、毎年恒例とも言える新しい本だった。でも以前の物もそうだが、どれも大変貴重な
そしてお父様のプレゼント箱の中には、
『ダリア。以前から頼まれていた二番目の課題の情報だが、おそらく
私が求めていた情報も入っていたのだ。湖の中での課題。ということは水の中で行動しなければならない課題ということだ。そこで何をするかは今は問題ではない。水中行動が求められる課題と分かっただけで十分だった。それさえ分かればセドリック・ディゴリーは難なく課題を突破できるだろう。
「ありがとうございます、お父様。これで次の手を打つことが出来ます」
私はお父様からのプレゼントをベッドサイドテーブルに置くと、今度はお母様からのプレゼントを開ける。
お母様からのプレゼントは綺麗なイヤリングだった。金を基調とした、月の形を模した綺麗なデザイン。煌びやかで、でもあまり目立ち過ぎない気品のあるデザイン。流石はお母様と思える非常に素晴らしいプレゼントだった。
しかもお母様のプレゼントにも、お父様のと同じく手紙が入っていた。
『ダリア。今年のクリスマスは貴女とドラコが帰ってこなくてとても寂しいわ。ですが同時に嬉しくもあるの。貴女は今まで大きなパーティーには一切出ようとはしなかったから。そんな貴女が学校のパーティーとはいえ参加するのだから、これ程嬉しいことはないわ。間違いなく貴女が参加者の中で一番綺麗なはずだわ。ドレスに合うよう選んだものだから、是非パーティーの時につけなさい。そして帰ってきた時、またその姿を私に見せなさいね。来年帰ってくる時をとても楽しみにしているわ。だから今はクリスマスを楽しみなさい』
お母様の手紙に胸が温かくなるような気持だった。
あぁ、お母様はいつだって私のことを思って下さる。きっとお母様も分かっているのだろう。本当は私が家に帰りたがっていることを。でもそれが叶わない以上、こうして私が少しでもホグワーツのクリスマスを楽しめるような手紙を送ってくれている。こんな手紙を送られてしまえば文句など言えなくなってしまうではないか。
私はもう一度お母様の手紙をギュッと胸に抱くと、ダフネのプレゼントを手に取る。横目で確認すれば当のダフネはまだ夢の中。
「……う~ん。ダリア……ドレスが綺麗だよ……」
私は隣ベッドから寝言を漏らす彼女に僅かに苦笑しながら箱を開いた。
そして中から出てきたのは高級紅茶葉セットだった。そういえば最近
すると中からは何と金色の髪留めが出てくる。ほんの小さなアクセサリーのような物だったが、作りはかなり精巧で、よく見れば小さなデザインが所々に彫り込まれている。お兄様はクリスマスで大抵はお菓子を下さるのが常であったが、今年は何やら趣向を変えたのだろう。これをお兄様が買って下さっている場面を想像して少し温かい気持ちと……そして両親やダフネの物には抱かなかった
そう、プレゼントの山の一番上に、
「……グレンジャーさん」
今年から時折行動を共にするようになったグレンジャーさんからのプレゼントを見つけるまでは。
重要なプレゼントを回収した以上、後のプレゼントはもはやどうでもいいものばかり。その山をどかして空間を作ろうとした時、一番上にハーマイオニー・グレンジャーと書かれたプレゼント箱を見つけたのだ。
……実は今年、私は彼女へのプレゼントを贈ってはいた。彼女が喜びそうな高度な変身術の本を一冊。彼女はダフネの友達だ。だから……ダフネの人間関係を円滑にするためにも、別に本の一冊くらい贈ってもおかしくはない。そう自分に言い訳してプレゼントを贈ったわけだが、正直彼女からプレゼントを貰うとは想像もしていなかった。
私は彼女のプレゼントを手に取り何とはなしに開けてみる。すると中からはマグルのものと思われるチョコレートと手紙が一枚。
『クリスマスおめでとう、ダリア。こうしてクリスマスプレゼントを贈るのは初めてね。
グレンジャーさんからの手紙を読み終えると、私は先程とは打って変わり微妙な心持になる……と思っていたのに、何故か先程以上に温かな気持ちを抱いている自分に気づく。
確かにドビーの一件以来、私は彼女になるべく拒絶的な発言をすることを控えてはいる。一度離れ離れになってしまった大切な家族を引き合わせてくれたのだ。どれ程危険な他人であったとしても、一概に無下にすることが許されるはずがない。……しかしそれだけだ。どんなに否定的な言葉を取らないようにしたとしても、私とグレンジャーさんは結局は他人でしかないのだ。だからこそ私は口上はともかく、内心の距離感を決して見誤ってはならない。そう思っていたはずなのに……。
「……もっと気を引き締めなければ。……これはグレンジャーさんのためでもあるのだから」
私は気を引き締め直すと、今度こそプレゼントの山を端に退け朝の着替えを始める。
それにいつまでも自分のプレゼントばかりを喜んでいるわけにはいかない。何故なら今年のお兄様へのプレゼントは……。
私は朝お兄様がどのような表情で談話室に下りてくるか想像し、いつもは決して動かない無表情を僅かに綻ばせる。まだクリスマスは始まったばかり。ダンスパーティーは相変わらずどうでもいいが、ダフネやお兄様と一緒なら全く楽しくない一日ということはないはずだ。
そしてその思い通り、
「ダリア! お、お前のクリスマスプレゼント! ま、まさかこれは!?」
「えぇ、お兄様の
今日という日は、お兄様の興奮したような奇声から始まったのだった。
ダフネ視点
……目の前に天使がいる。それこそ私の手の届きそうな所に。
最近あれだけ情緒不安定だったというのに、ダリアから贈られたクリスマスプレゼントに大興奮したドラコに一日付き合い、いよいよ談話室でダンスパーティーに向けて準備を始めたわけだけど……
「……ドビー。手伝ってくれて、本当にありがとう」
「いえ! いえ、お嬢様! ドビーめは嬉しいのであります! このように再びお嬢様のお世話をすることが出来て! お嬢様! 本当にお綺麗でございますです!」
そんな一日のことなんて、今目の前で繰り広げられている光景で全て吹っ飛んでしまっていた。
ベッド横に備え付けられた鏡の前でドビーに髪の手入れをしてもらっているダリア。今まで離れ離れになっていた家族が、ようやくこうして再び元のあるべき姿に戻っている。厨房ではお互いただただ謝り合っていたが、時が経つにつれようやく自分に素直になり始めたのだろう。
正直これだけで私にとっては感動的な光景ではある。ダリアの親友である私が嬉しくないはずがない。
でもそれ以上に今は、
「ダフネ、どうですか? ……似合っていますか?」
「に、似合ってる!? そんなレベルじゃないよ、ダリア! すごい! 綺麗! 天使!」
目の前のダリアがあまりにも綺麗だったのだ。
ダリアの必需品である黒い手袋に合わせたように、漆黒の色をしたパーティードレス。まるで陶器の様に美しい白い肩を露出させた装いは、ダリアの最近同年代より少し幼さを感じさせるようになった顔立ちとは裏腹に色気すら覚える。そしてただでさえ綺麗な顔に化粧を載せ、もはや芸術品と言える顔立ち。身につけた宝石もどれも一級品で、耳には品のいい金色のイヤリングに、いつもは流れる様に伸ばされている白銀の髪は一部
当に天使。こんなのもはやダンスパーティーの主役は決まったようなものではないか。この瞬間だけは、ダンスパーティーを主催したダンブルドアに感謝出来る様な気がした。
「……そんな大げさな。私は成長が止まってしまったのか、少し幼い見た目ですから……。ダフネの方が断然綺麗ですよ。親友として鼻が高いです。その若草色のドレス、とても似合っていますよ」
「ありがとう、ダリア! でも、ダリアの方が凄いよ! あぁ、本当にいつまでも見ていたい!」
私は少し不満そうなダリアの言葉を流し、興奮のままに褒め称え続ける。成長が止まったからなんだ、最初は寧ろ同年代に比べて大人びていたのに、今では周りに追い抜かれたからといってなんだというのだ。ダリアはとにかく綺麗なのだ。それはダリアを恐れている馬鹿共だって認めることだ。学校中で、いや世界中で一番綺麗な人間がダリアであることは疑いようのない事実なのだ。
それに彼女は容姿だけではなく性格だって美しい。
「もう、恥ずかしいではないですか。冗談はそれくらいにして下さい。それでは……ドビー、準備を手伝ってくれて本当にありがとう。……またお願いしてもいいかしら?」
「勿論でございますです、お嬢様! ドビーめはお嬢様の屋敷しもべでございますです! どうかいつでも、どんなことでもこのドビーめに御命じ下さいです!」
「ありがとう……。それとドビー。これは細やかなクリスマスプレゼントなのだけど、受け取ってくれないかしら? お兄様へのプレゼントで今まで貯めてきたお小遣いのほとんどを使ってしまったから、あまり大したものは用意できなかったのだけど……」
「ク、クリスマスプレゼント!? お嬢様! なんとお優しい! ドビーめにクリスマスプレゼントなど!」
「いいの……。貴方は私にとって家族なのだから」
ダリアはドビーの方に振り返ると、鏡の前に置いてあった小さな箱を手渡す。ドビーが箱を開くと、彼の身を包む真新しい枕カバーにピッタリのピン止めが出てくる。しかもそれはただのピン止めではなく、端には花の飾りまで備え付けられている。明らかに普通の魔法使いがただの屋敷しもべにプレゼントするような代物ではなかった。それこそダリア以外の魔法使いは……。
幼い頃、彼女を初めて目にした時の記憶が蘇る。あのそれまでの自分を生まれ変わらせる程に鮮烈な出会いの記憶を。
冷たい無表情でありながら、一瞬にして会場全員の視線を引き付ける存在感。そしてドビーに対する止めどない優しさを。
ダリアはあの時と何も変わってはいない。誰よりも綺麗で、誰よりも優しい女の子。純血とかそんなことは関係なく、ただ個人の価値で輝き続けている。
あぁ、私はこの子に憧れ続けていてよかった。そして彼女の友達で本当に良かった。
幼い頃の記憶と今のダリアが重なり、私の思考が幸福感で浸食されていくようだった。そういえば……この後私達はどこに行く予定だったんだっけ?
そんな恍惚状態の私にダリアが冷静な声音で話しかけてくる。
「ダフネ……鼻血が垂れそうになっていますよ」
「おっと! ちょっと拭くね……これで大丈夫!」
そしてテイッシュで鼻血を拭く私にダリアが続ける。
「しっかりしてください。貴方は
「……あぁ、それね。でもどっちも誘いが煩わしかったから、お互い虫よけのために行くだけだよ。実質二人ともフリーなの」
ダリアの言葉に私は僅かに現実に引き戻されながら答えた。
ダリアの言う通り、私とドラコはダンスパートナーとして今回のクリスマスパーティーに参加する。……でもおそらく私もドラコも、お互いがパートナーである自覚など欠片ほどもない。ただドラコはドラコで、クリスマスが近づき本格的に腰を上げ始めたパンジーの様な肉食系女子を煩わしく思い、私は私でダリアに断られてこちらに流れてきた男子生徒達を鬱陶しく思っていた。だからお互いの断る言い訳のために、ただ名目上のパートナーになったに過ぎないのだ。ダリアだけでなくドラコまでパートナーがいないのは外聞が悪いという打算的な思惑もある。勿論お互い嫌いあっているわけではない。そもそも嫌いなら名目とはいえ、お互いをダンスパートナーにしようとは思わない。ただ私達にとってお互いは友達……ダリアを思う同士であるだけ。そこに恋愛感情は勿論、異性だという感覚すら乏しい。だから私は、
「だからね、ダリア。気が向いたらいつでもドラコと踊ってもいいよ。私はただ貴方といられるだけで、貴女の姿を見ているだけで幸せだから」
ダリアとドラコがダンスすることをまだ諦めてなどいない。マルフォイ家に悪評がたつのを絶対に許容できない気持ちは理解できるけど……もっと自分に素直になればいいのに。それが私の嘘偽らざる感想だったのだ。
しかしダリアの回答も相変わらずのものでしかなかった。私の言葉にピシャリと返事を返すと、そのままドビーのほうに振り返って言葉をかける。
「……馬鹿なことを仰らないで下さい。さぁ、では行きましょう。お兄様をいつまでもお待たせするわけにはいきません。……ドビー、また会いましょう」
「はいであります、お嬢様! お嬢様のご友人も! 行ってらっしゃいませです!」
「ドビー、私の方もありがとう! ダリアだけじゃなくて、私の手伝いまでしてもらって」
「いえ! ダフネ様はお嬢様の大切なご友人の様子! お嬢様のご友人に尽くすのは当然のことであります!」
そして私達はドビーに別れを告げると、今度こそ大広間に向かって足を進めるのだった。
地下の談話室を抜け、階段を登り、また階段を降りてゆく。その間にも数人の生徒達とすれ違うが、皆まるで魂を抜かれた様に、ただ茫然とした表情で隣を歩くダリアを見つめている。極々当たり前の反応だけど、今はそれが無性に誇らしい。
私はダリアの隣を歩きながら、小さくほくそ笑む。
まだ私は諦めてはいない。だってダリアとドラコは絶対に二人で踊るべきなのだ。それがダリアの幸せのためなのだ。
ようは人目がなければいい。その条件さえクリアすれば、後はこっちのものだ。
だから……
「まずはドラコの反応が楽しみだね。……結果は目に見えているけど」
ハーマイオニー視点
「ハ、
「えぇ、
「ごめんなさい。ヴぉく、まだ発音が、」
「いいえ、いいの。ゆっくり練習していきましょう」
私とビクトールは玄関ホールの真っただ中で挨拶を交わしていた。
ダフネから彼を紹介されて数日。最初こそ私の方はいきなり紹介された彼のことを警戒していたわけど、どういうわけか一目で私のことを気に入ったらしい彼に何度も必死に話しかけられると、流石に警戒心など持てなくなってくる。それに彼は見た目こそ不愛想で、いつも何を考えているか分からない仏頂面をしているけど、話してみれば意外と普通の男の子でしかなかった。飛ぶことが得意で、飛ぶことが大好きな普通の男の子。それが私が彼と話していて抱いた印象だった。
彼のような有名人が何故ダリアの様な美人に必死にダンスを申し込まず、私の様な勉強しか取り柄のない平凡な人間をパートナーに選ぶのか私には分からない。放っておいても女の子の方から群がってくるはず。そしてそれをダンスを申し込まれた時に尋ねても、
『クラムさん、本当に私で、』
『ヴぉくのことはビクトールとお願いします』
『そ、そう? ならビクトール。本当に私がダンスパートナーでいいの? 私なんかよりダリア達の方が美人だと思うのだけど』
『……ダリア・マルフォイにダフネ・グリーングラス。確かに二人とも、ヴぉくはとても綺麗な方だと思います。特にマルフォイさんは、ヴぉくの見てきた中で一番綺麗な女の子です。でも、ヴぉくはそんなことどうでもいいのです。ヴぉくは貴女と踊りたい。貴方の様な方こそ、ヴぉくは初めて見る方なのです』
そんなことしか言わないのだから、結局真相は彼の胸の中にしかなかった。
……でも今はそんなことはどちらでもいいだろう。
折角のクリスマスパーティー。どうせなら思いっきり楽しいものにしたい。こうして今まで全く知らない環境で学んできた男子生徒と交流し、人生で初めてのダンスパーティーに参加する。ダリア達が態々こんなチャンスをくれたのだから、この機会を最大限に活かしてみたい。
数日前までと違い、今の私はそんな明るい気持ちで一杯だった。
だからこそ今日の私はいつもと違い容姿に気を遣っているのだ。
「それより、ハ、
「あ、ありがとう。今日は少し化粧をしているから。それに髪も今日は真っすぐにしたし」
いつもは縮れ毛な髪を三時間もかけて真っすぐにし、いつもはしないような化粧を施す。ドレスローブも綺麗な青色をした新品のローブ。我ながら今日の格好には少しだけ自信があった。……手間がかかりすぎるため、いつもはこんなこと絶対にしないけれど。
しかしそんな手間をかけた甲斐はあったと思う。周りから感じる視線が別次元だ。隣にビクトールがいることもあるけど、少なからず私の方にも注目が集まっている。意趣返しのために今までビクトールのことを黙っていたハリーとロンも、今の今になってようやく私が私であることが分かったのか、口をあんぐり開いて驚いていた。もはや二人とも土壇場になって捕まえてきたパーバティー姉妹のことなど忘れ去っている様子だった。それ程までに普段の私と今の私では違っているのだろう。何だかちょっとした優越感を感じる。
もっとも、それもあと少しだけの間であることは私も分かっていた。
何故ならどんなに容姿に気を配っていようとも……決して敵わない子がこの学校には存在するから。
「グレンジャーさん。こんばんは。……とても綺麗ですね」
「ハーマイオニー、すごーい! 今日は何だかキラキラしてるね!」
後ろからかけられた声に笑顔で振り返った瞬間、玄関ホールから音が消えた気がした。
私を含めて玄関ホールにいる全員が彼女を凝視して目を離すことが出来ない。
私の視線の先には丁度階段を降りてきたと思しき二人組。一人はダフネ。若草色のドレスを着こなし、いつもの可愛らしい表情をやはり愛らしい笑顔で彩っている。ドレスの色合いもありどこか爽やかな印象を与える装いで、本来は明るい気質のダフネにはとてもよく似合っていた。
そしてもう一人が……
「ダリア……本当に綺麗……」
「……あ、ありがとうございます。先程も言いましたが、貴女もとても綺麗ですよ。そのブルーのドレス、とても貴女に似合っています」
この学校で一番の美人であるダリアだった。
しかもいつもはしないような化粧までして、もはや想像を絶する綺麗さを発揮している。おまけに肩を露出した真っ黒なドレス。同年代だというのに色気すら感じる。月をモチーフにしたイヤリングもあり、まるで月から来たお姫様でも見ている気分だった。
一瞬にして私へ集まっていた視線がただ一点、スリザリンの彼女にのみ注がれる。もう一人注目を集めていたフラー・デラクールも今ではただの添え物にしかなっていない。もはや誰一人として彼女以外の人間に、それこそこのパーティーの主役であるはずの代表選手にすら注目していなかった。
しかしそんな視線にも恥ずかしがることなく、それどころかどこか鬱陶しいと言わんばかりの仕草をしながらダリアは続ける。
「……ところでお兄様を知りませんか? 先程から見当たらなくて……。まったく、ダフネのパートナーなのにどこにいらっしゃるのか……」
どうやら結局ダフネはドラコで手を打ったらしい。そしてこの口調だとダリアは最初の宣言通りパートナーを選んでいないのだろう。
まぁ、このダリアの姿を見れば、パートナーの有無なんて些末な問題でしかない。これで文句を言う人間は嫉妬に狂った女生徒くらいのものだ。それもダリアの放つ圧倒的な存在感で、嫉妬する気にすらならないだろうけど。
そんな益体のないことを茫然と考えている私に代わって、ダフネが彼女の質問に答える。
「ドラコならあそこにいるよ? ほら、あの倉庫の前あたり。さっきから呆けた顔でこっちを見てるよ。……多分こっちから行かないとずっとあのままだと思うな」
ダフネの言葉に我に返りそちらを見れば、確かに黒いビロードの詰襟ローブを着たドラコが立っていた。まるで英国国教会の牧師の様な恰好をした彼は、はた目からでも分かるくらい顔を真っ赤にさせ、ただ茫然と
「まったく……こういうことにはヘタレなんだから」
ダフネはそんなドラコにため息を一つ吐きながら近づいていく。
……ダフネが近づいても、ドラコは相変わらずダリアを見つめ続けるばかりだった。
「ほら、ドラコ。一応私のダンスパートナーということになっているんだから、もっとシャキッとして! ……見惚れるのは分かるけど、ダリアにドレスの感想を言わないと」
「ダ、ダフネか。そ、そうだな。い、言わないといけないな」
そして何か小さな声で言いあった後、ようやく正気に戻ったらしいドラコはギクシャクした動きでこちらに近づき、ダリアに真っ赤な顔で言う。
「ダ、ダリア……」
「……お兄様。どうですか、このドレスは。似合っていますか?」
「に、似合う? いや、勿論似合っている。ただもう……ダリア、すごく綺麗だ……」
「あ、ありがとうございます。お兄様もそのローブ、とても似合っていますよ……」
……もはや兄妹の会話ではないような気がした。何だか傍で聞いているこっちまで恥ずかしくなるような光景。それこそドラコだけではなく、ダリアまで無表情ながら頬を赤く染めている。肌がなまじ白い分、頬が赤くなると余計に際立っている。まるで初々しい恋人同士を見ているような……。何故か見ている私にはどこか胸がいっぱいになりそうな姿だった。
でもそんないつまでも見ていたいような光景はいつまでも続くことはなく、
「皆さん、時間です! これより三大魔法学校対抗試合恒例のクリスマスダンスパーティーを開催します! 代表選手から大広間に入ってください!」
マクゴナガル先生の宣言によって、いよいよダンスパーティーが始まったのだ。
「そ、それじゃあ、ダリア、ダフネ! また後でね!」
「……えぇ、グレンジャーさん。