ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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交友関係

 

 ダフネ視点

 

『悲劇の少年ハリー・ポッター。魔法界において誰一人としてその名を知らぬ者はいないその少年は、両親の悲劇的な死以来14年間ひたすら孤独に耐え続ける人生を送っていた。その反動として今ホグワーツで行われている三大魔法学校対抗試合に、まだ年齢が基準に達していないにも関わらず()()名乗りを上げ、自身に周りの注目を一身に集めようとしたわけだが、彼の目的は未だに達しきれているかといえば疑問である。彼は注目こそ集められても、それが彼の本当に欲している愛あるものとは限らないからだ。その証拠に彼は今実に野心溢れる少女に付きまとわれている。マグル出身のハーマイオニー・グレンジャー。この美しいとは言い難い少女は今ハリー・ポッターの心の隙間に付け入り、彼に甘い言葉を囁くことで彼の関心を得ようと企んでいる。その上彼女はハリーだけでは満足できないらしく、先ごろ行われたクィディッチ・ワールドカップのヒーローであるビクトール・クラムにまで手を出そうとしているのだ。彼女は随分と有名な魔法使いがお好みの野心家であるらしい。二人の少年の心を弄び、二人のことを天秤にかけ続けている。しかし彼女のどこにそのような魅力があるのだろうか。少し傲慢な部分の目立つハリーに優しい言葉をかけるのが、ホグワーツにおいて彼女だけであったとしても果たしてここまで彼らの心を鷲掴みにすることが出来るのだろうか。先程も述べた通り、彼女はお世辞にも美しいとは言い難い少女でしかない。そんな彼女が少年達の心を掴んだ理由。それは彼女の雀の涙程度の自然な魅力だけではないのだろう。とある4年生の女の子は我々の前でこう答えた。

 

『あの子ブスだけど、勉強だけはそこそこ出来るの。きっと愛の妙薬を二人に盛ったのよ』

 

愛の妙薬は当然ホグワーツでも禁じられた薬物だ。生徒に盛るなどあってはならない事態だが、性根の腐っている彼女ならそんな手段を使ったとしてもおかしくはない。しかしそれでも疑問が残る。インタビューに答えてくれた彼女も、グレンジャーに果たして愛の妙薬を作り出せるだけの能力があるかについては疑問だと答えている。事実彼女の成績は上位でこそあれ、いつも()()()()()()に負けているものでしかないという。愛の妙薬の出所を含め、彼女には何かもっと深い闇がある可能性があるのだ。アルバス・ダンブルドアは先日お伝えした半巨人の人選を含めて、詳しくこの件を調査すべきである。そしてハリーの応援団としては、彼が次にもっと相応しい相手を見つけ出すことを願うばかりだ』

 

記事を読み終えた私は、自分の手がいつのまにか震えていることに気が付く。そしてそんな震える手を見た瞬間、私は自身が今激怒している事実にようやく気が付くのだった。

なんだろうこの記事は。もはや突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込めばいいか分からない。支離滅裂で内容についても何一つ理解することが出来ない。

 

この記事で唯一分かることは……この記事の筆者であるリータ・スキータがハーマイオニーを猛烈に愚弄しているということだけだった。

 

ダリアも先程から異様な空気を垂れ流しながら記事を見つめ続けている。彼女の醸し出す空気に大広間は静まり返り、辺りを見回せば皆一様にこちらにチラチラと視線を送ってきている。

そんな恐怖の視線を一身に浴びながら、ダリアは真っ赤な瞳で小さく呟くのだった。

 

「ふざけた記事ですね……。実に愚劣極まりない」

 

短い言葉。しかしそれが逆にダリアの怒りの強さを表しているようだった。

彼女は激怒しているのだ。……()()()()()であるハーマイオニーが馬鹿にされたから。口では何だかんだ言っても、結局彼女は怒っているのだ。自分の友達を馬鹿にされたことを。でもそんな嬉しい事実があったとしても、私は今それを指摘する気分になどなれない。何故なら……私も今ダリア同様怒り狂っているから。

私はダリアに努めて冷静な声音を心がけながら尋ねる。

 

「どうする? このリータ・スキータって記者……どうやって懲らしめる?」

 

しかしそれに対するダリアの答えは実に単純明快で……私の想定より遥かに過激なものだった。

 

()()()()。愚かさの代償を命でもって償ってもらいます」

 

これが冗談であれば良かったのだけど、おそらくダリアのこの様子では冗談でも何でもないのだろう。どうやらいつもの目が赤くなっている時同様本当に怒り狂っているらしい。今目の前にリータ・スキータがいれば本当に行動に移していたと容易に想像できた。

ダリアの理性が焼き切れた言葉で逆に冷静になる。私は自らの怒りを長い深呼吸で抑えこんだ後、ダリアと手を重ねながら言った。

 

「駄目だよ、ダリア。落ち着いて。そりゃ私だって今猛烈に怒っているけど……殺してしまうのだけは駄目だよ。そんなことをしたらダリアの方が最終的に後悔してしまう。だから駄目。一回深呼吸しよう?」

 

それに対しダリアはしばらく記事を見つめ続けるだけだったけど、流石に目の前にリータ・スキータがいるわけではない状況では長く怒りが続かなかったらしい。ダリアも私同様深呼吸一つすると、先程まで垂れ流していた冷たい空気を収めながら答えた。

 

「ダフネ……ありがとうございます。もう大丈夫です。……また私は、」

 

「ううん、いいの。だって今回の件はあまりにも酷過ぎるから。正直私も殺してやりたい程怒っているもの。ダリアが怒るのも当然だよ」

 

そこで私は一度言葉を切り、もう一度記事の方に視線を向けながら続けた。

 

「それにしても……これは本当にどうしようか? この記者はこんなふざけた記事書いてただで済むと思っているのかな。パパに言ってグリーングラス家からも抗議を、」

 

「それは無理だと思うぞ。勿論マルフォイ家もな」

 

しかし私が言葉を言い切る前に、今度はダリアのことを心配そうに見つめていたドラコが声を上げる。

 

「僕達マルフォイ家も、そしてお前のグリーングラス家も純血主義の家だ。それがマグル生まれのグレンジャーを庇えるわけがない。少なくとも父上は絶対に承知しないだろう。それにこんな記事でもあのリータ・スキータの書いた記事だ。あの記者に純血主義のマルフォイ家とグリーングラス家が抗議してみろ。必ず両家のあら捜しをしてくるぞ。それこそあの記者を喜ばせるだけだ。父上も昔あの記者には随分悩まされたらしいからな……。こんな記者でも影響力だけは絶大だ。こんな支離滅裂な記事を書いても問題にならないくらいにはな。だから今早計に奴に抗議を出すわけにはいかない。……()()()。今お前達に出来ることはそう多くはない。それより今お前達がすべきことは……グレンジャーに届いた()()を何とかすることじゃないか?」

 

そしてそこまで言い切ると彼は私達の背後を指で指し示す。私達も彼の意見に反論するより、今は彼の意図の方が気になり指さした方を振り返る。

するとそこには……

 

「こ、これって……」

 

「ハ、ハーマイオニー。それ、二年生の時僕に届いたのと同じ……『吠えメール』だ!」

 

今しがた届けられたと思しき真っ赤な手紙を握るハーマイオニーの姿があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

『ハグリッド! 何をふさぎ込んでいるの!? あんな頭のおかしい記事になんて負けては駄目よ! 貴方の血筋がどうであろうとも、私達はこれっぽちも気にしないわ!』

 

『そうじゃ、その通りじゃよ。ミス・グレンジャーの言う通りじゃ。どんなことが記事で書かれようとも、お主が今までやってきた素晴らしいことが消えるわけではないのじゃ。それにもしお主が全ての人間に好かれようと思うておるなら、それはお門違いというものじゃ。ワシなど校長になってから、少なくとも一週間に一度は苦情を受け取っておる。だがそれでワシはどうすれば良いと言うのじゃ? まさかお主の様に部屋に閉じこもっておるわけにもいかんのじゃ。ハグリッドよ……お主はもっと周りの素晴らしい人間に目を向けよ。特にお主を慕ってこうして励ましに来てくれる三人のことをな。家族がどのような存在であったとしても関係ない。お主をお主として見てくれる友人を大切にするのじゃ。じゃからこれ以上ここに閉じこもることは許さぬ。明日の朝八時半に、大広間でワシと一緒に朝食を摂るのじゃ。言い訳は許さぬぞ』

 

『ダ、ダンブルドア校長先生……それにハリーやロン、ハーマイオニーも。ありがてぇ……』

 

記事のことで案の定森小屋に閉じこもっていたハグリッド。そんな彼をその場にいたダンブルドア先生と共に励まし、何とか森小屋から引きずり出すことに成功した。確かに彼はショックを受けてはいたし、グリフィンドール以外の席からは少なからず冷たい視線を送られていた。でも……それでも次の日には笑顔で朝食の席に来れていたのだ。冷たい視線はあっても、それ以上に彼を温かく迎える視線があったから。

本当に良かったと思う。まだ()()()()()()のスリザリン生は騒ぐだろうけど、ハグリッドはまた『魔法生物飼育学』の授業を受け持つことが出来る。完全に元通りの状況とは言えなくとも、ハグリッドの尊厳がこれ以上不当に踏みにじられることだけはなくなったのだ。

勿論それでも……あのリータ・スキータとかいう記者のことが許せるわけではないけれど。

 

『貴女って最低の女よ! 記事のためなら、誰かが傷つこうともどうでもいいのだわ!』

 

『お黙り! 馬鹿な小娘の癖に! 分かりもしないのに、分かったような口をきくんじゃないよ! 生意気な小娘なこと! いいざんしょ! お前のことも、その()()()()()同様色々調べてやろうざんしょ! 毎日震えているといいわ!』

 

クリスマス休暇中、今年は家に帰れないことで生徒がストレスを感じないようにと許可されたホグズミード行き。そんな中、私はあの嫌な女に偶然出会ったのだ。

実際に出会った瞬間分かった。品の悪いバナナ色のローブに、長いショッキング・ピンクの爪。瞳は嫌らしい輝きを放っており、カメラマンと思しき男性と話す時の人を完全に見下しきったような言葉の数々。この人はなんて嫌な女なのだろうか。ハリーの記事の時から思っていたけれど、記者の癖に真実を書こうという意志なんて何一つない。より多くの人の注目を集めたいだけ。よりショッキングな記事を。……寧ろより人を傷つけるような記事を。そんな下衆な人間でしかないことが一目で分かるようだった。

だから感情のままにあの女を罵倒した。私の言葉で悔い改める様な人間ではないだろうけど、それでも私は言わずにはいられなかったのだ。

 

『ハ、ハーマイオニー! あまりリータ・スキータを刺激するなよ! あの女、君の弱みを確実についてくるぜ。そうなったら君は、』

 

『関係ないわ! やれるものならやってみればいいのよ! そもそも私の両親は『日刊予言者新聞』を読まないわ! 私はあんな女に脅されたくらいで逃げも隠れもしない!』

 

『で、でも……大丈夫かな。僕は君のことが心配だよ……。君は頭に血が上ると、僕やハリー以上にとんでもない行動を取り始めるから……』

 

ロンの本気で心配してくれている発言を受けても、私は後悔なんてするはずがないと思った。友達をあんな嫌な女に、何の理由もなく馬鹿にされて許せるはずがなかった。これが何の意味もない行動だと分っていても、私にはあの場であの女に罵声を浴びせる以外の選択肢はありはしなかった。

 

……でも、

 

「あんたのことは記事で読みましたよ! あんたはハリーを騙している!」

 

結局ロンの指摘通り、私は心のどこかでリータ・スキータの影響力を見くびっていたのかもしれない。

リータが私について中傷した記事が実際に発行され、その記事を読んたダリアとダフネが怒ってくれていることを嬉しく思っていた矢先……二年前ロンに送られてきた手紙と同じ、『吠えメール』が見知らぬ誰かから送られてきたのだ。静まり返る大広間の中、手に取った瞬間叫び始めた『吠えメール』が大声を垂れ流し続ける。

リータの報復を覚悟していたはずの私は……突然晒された悪意に茫然とするしかなかった。

 

「あの子はもう十分に辛い思いをしてきたのに、あんたは更にあの子を苦しめようとしている! 本当に酷い娘だわ! これで終わると思わないことね! 大きな封筒が見つかり次第、次のフクロウ便で呪いを送りますからね!」

 

そして言いたいことを言い終えたのか、手紙はいきなり燃え上がり跡形もなく消える。残されたのは……やはりただ突然の悪意に唖然とするだけで、今しがた何が起こったのかも理解しきれていない私だけだった。しかしリータの記事で作り出された悪意はそれで終わりではなかった。吠えメールが終わったと思った数秒後に、今度は違うフクロウが私を目がけて飛んでくる。今度は赤い手紙ではなかったけど、やはり同じ悪意の塊であることに変わりはなかった。

 

「アイタッ!」

 

私の目の前に落とされた封筒に触れた瞬間、それは独りでに開き、中から強烈な石油の様な臭いがする液体が噴き出す。そしてそれがかかってしまった私の手は、まるで分厚いボコボコの手袋をはめているかのように腫物だらけになってしまう。

立て続けに起きた事態に、私がこの場で我慢できたのはここまでだった。

 

「ハ、ハーマイオニー、はやく医務室へ! これ、『腫れ草』の膿を薄めていないやつだ!」

 

背後でロンが手紙を調べているのを無視し、私は急いで医務室を目指して駆け出す。走る私の瞳からは……自然と涙があふれ出していた。

薬がかかった部分が酷く痛むのもあるけど、突然自分がこんな理不尽な目に遭うことに腹が立って、そして悔しくて、悲しくて仕方がなかったのだ。

今思えばハグリッドもこんな気持ちだったのかもしれない。ぶつける先のない怒りに、何故こうなったかも理解出来ない理不尽さ。ただ突然の悪意に晒され、やり場のない怒りや困惑に耐えるしかない状況。

私は彼を励ましたにも関わらず、あの時の彼の心境を今この状況になって初めて理解したような気がした。

 

 

 

 

もっとも、

 

「グレンジャーさん。手の怪我は大丈夫ですか?」

 

「ハーマイオニー! まさかあんな馬鹿な記事に負けたりしていないよね!?」

 

私もハグリッドと同じように、大好きな親友達によって救われることになるのだけど。

医務室で手当てされ、それでも新学期初めの授業を受ける気分になれずにいた私に、本来この時間にかかるはずのない声がかかる。

振り返ればそこには……こちらに心配そうな表情を浮かべるダフネと、相変わらずの無表情ながら、声だけはダフネと同じ心配げなダリアが立っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

新学期明け初めての授業は『魔法生物飼育学』、つまりハグリッドの担当する教科だった。

あの記事で一度は塞ぎ切ったハグリッドも、今は勢いよく森小屋に突撃していったハーマイオニーや、彼を心配しに来ていたダンブルドア校長のおかげで元気を取り戻している。

 

「おう、今日の授業は一度『尻尾爆発スクリュート』を離れて『ニフラー』をしようと思うちょる。さぁ、一人一匹ずつ選ぶんだ。金貨を何枚か庭に埋めておいた。無論レプコーンの出した偽物だがな。自分の二フラーに一番沢山金貨を見つけさせた者に褒美をやろう」

 

そして機嫌がいいからなのか、僕らにも心の底から喜べる授業内容を提供してくれていた。

……今度はハグリッドの代わりに医務室で塞ぎ切っているハーマイオニーを除いて。

 

「ん? ()()二フラーが残っちょるぞ。誰が来ていないんだ?」

 

「ハーマイオニーだよ、ハグリッド。朝彼女に手紙が届いて……その中に『腫れ草』の膿が詰まっていたんだ」

 

僕はこちらにニヤニヤした表情を向けているパーキンソンに聞こえないように返事をする。その返事でハグリッドは概ねの状況を悟ったらしく、表情を僅かに歪めながら答えた。

 

「成程な……。記事は俺も読んだ。あんなのは嘘っぱちだと俺なら分かるが……俺の時もそうだった。リータ・スキータが俺のことを記事に書いたすぐに、俺の所にも山程手紙が送られてきたもんだ。『お前は()()だ』とか、『お前の母親は存在してはいけない怪物だ。お前も同様の怪物なのだから、恥を知って死ね』とか。本当に酷い手紙ばかりだった」

 

「酷いね……」

 

「本当にな。やつらは頭がおかしいんだ。純血主義の連中と同じだ。あいつらは人間じゃねぇ」

 

黒いフワフワした生き物であるニフラーが庭のそこら中で走り回り、それを大勢の生徒達が笑顔で見つめている。久しぶりに行われた『尻尾爆発スクリュート』以外の授業内容。皆それが嬉しくて仕方がないのだろう。でも内容はとても楽しい授業だというのに、僕達はどうしても苦い気分を抱えずにはおられなかった。ハーマイオニーがリータに喧嘩を売ったことが原因とはいえ、そもそも彼女があんな行動を取ったのは僕やハグリッドのことで腹を立てていたからだ。彼女に恥ずべきことなど一つもない。悪いのは全てリータ・スキータや、あんな馬鹿げた記事に踊らされている連中だ。なのにこうして苦しんでいるのはハーマイオニーのみ。今頃彼女が医務室で一人泣いていると考えると、僕達にはどうしようもなく腹立たしくて仕方がなかった。

でも……

 

「あら! 今日の授業はニフラーだったの!?」

 

「え、嘘!? なんだ……また『尻尾爆発スクリュート』だと思って態々ゆっくり歩いていたのに」

 

「ダフネ……何だか随分とゆっくり歩くと思っていたら、そんなことを考えていたのね」

 

「でもハーマイオニーもそう思っていたから、こうして私の速度に合わせていたんでしょう?」

 

「ま、まぁ……」

 

何故か授業途中で現れたハーマイオニーは僕らが想像していた表情と違い、明るい表情を浮かべていた上に……一人でもなかった。彼女の隣には、何故かダフネ・グリーングラスが居座っていたのだ。

グリーングラスの隣にいる彼女には、今朝大広間から駆け出した時の暗さなど微塵もありはしなかった。

思っていた光景に唖然とする僕らを他所に、ハーマイオニーとグリーングラスは分かれてそれぞれのグループの下に向かう。グリーングラスはドラコが待つグループへ。そしてハーマイオニーは僕らのグループへと。そして彼女は僕らの困惑に頓着することなく話しかけてきたのだった。

 

「ハグリッド、授業に遅れてごめんなさい」

 

「い、いや、それはえぇんだが……」

 

「ありがとう。それにしても、今日の授業はニフラーなのね。本当に可愛いわ。でも本で読んだのだけど、ニフラーって、」

 

「ちょっと待って、ハーマイオニー」

 

僕等が我慢できるのはそこまでだった。僕は頭痛を感じそうになる思考を抑えながら、努めて冷静にハーマイオニーに尋ねる。

 

「何、ハリー?」

 

「いや……どうしてグリーングラスと一緒だったんだい?」

 

しかし僕の質問に対する彼女の応えは実にあっさりとしたものだった。

 

()()()が私のことを心配して医務室まで来てくれたからよ。二人とも授業中だけど、私が元気になるまで一緒にいてくれたのよ」

 

少し目を離したすきに、そんなことになっていたとは。しかもハーマイオニーの口振りからすると、グリーングラスだけではなくダリア・マルフォイとも一緒に医務室にいたのだと推察できる。返事に僕とロンはため息で応えるしかなかった。何故ハーマイオニーはあんな連中と一緒にいて平気な上、それどころか親友とまで言っているのだろうか。この点においてだけは、僕はハーマイオニーのことが全く理解することが出来なかった。

……もっとも今回に関してだけは、実際にこうしてハーマイオニーが元気に医務室から出てきたこともあり何も言うつもりはないけど。今あいつらの危険性をハーマイオニーに説いたところで逆効果なだけだ。だから僕とロンはため息を吐きつつも、彼女が元気になったことを今は純粋に喜ぶことにしたのだった。

そしてこの中で唯一ハーマイオニーのマルフォイ事情を知らないハグリッドも最初は訝し気な表情を浮かべていたけど、考えても分からないと思ったのか、若しくは最初から見なかったことにしたのか普段通りの口調で続ける。

 

「そうか……。まぁ、お前さんが元気そうで何よりだ。手紙のことだが、お前さん、」

 

「大丈夫よ、ハグリッド。もうそのことなら気にしていないわ」

 

「そ、そうなのか……。だ、だが、これだけは言っておくが、ハーマイオニー。手紙はおそらくまだまだ届く。俺の時もそうだった。だからまた来るようなことがあったら、しばらくは手紙を開けるな。全てすぐ暖炉に放り込むんだ」

 

「それも大丈夫よ。もう()()()()を講じてくれたから」

 

「そ、そうか……」

 

しかしそれもハーマイオニーの理解不能な言動によって受け流されてしまい、遂にこの件で話す内容が無くなってしまう。

結局僕らは彼女が講じた対策とやらが何かも分からないうちに、全てが有耶無耶にされてしまったのだった。

 

 

 

 

それに、

 

「ハリー。もう君は次の試練の内容を知っているかい?」

 

「いや……まだだけど」

 

「そうか……なら良かった。()()()()()予め教えてもらっていたとはいえ、君が僕にドラゴンのことを教えてくれようとしたことは確かだ。なら、僕も君に教えないとフェアではないね。ハリー、次の試練は水の中で行われる。金の卵を水につけたら、あの悲鳴みたいな声が変わるんだ。確か……探しにおいで、声を頼りに。我らが捕えし大切な物。探す時間は一時間。取り返すべし、大切な物。一時間のその後は、もはや望みはあり得ない。()()()ヒントを彼女から貰ったから、僕はあまり偉そうなことは言えないけど……とにかく、次の試練は水の中、おそらく湖の中で行われるんだ」

 

僕はこの日、ハーマイオニーのことだけに構っていられなかったこともある。

新学期がいよいよ始まり、そろそろ本当に次の試練の内容を探らないといけないと焦りだした時……チョウ・チャンのことで二度と話しかけまいと心に決めていたセドリックがそんなことを言ってきたのだ。

 

いよいよ次の試練がもうすぐそこまで迫りつつあった。

様々な疑問を置き去りにした状態で……。




そろそろゴブレッドも大詰めに近づきつつ……感想お願いします。

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