ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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ダイアゴン横丁(後編)

 ダリア視点

 

『マダム・マルキンの洋装店――普段着から式服まで』

 

そう書いてある看板の店に、お兄様と共に入る。

 

「まあ、いらっしゃい。ホグワーツの新入生かしら?」

 

そう藤色ずくめの服を着た、ずんぐりとした女性が愛想よく話しかけてくる。

 

「ええ、制服を私とお兄様のぶん、お願いします」

 

「はい、わかりましたよ。それでは、そちらの台の上に立ってね。採寸をするから」

 

三つある踏み台の右端に私が、お兄様が真ん中のものに立つ。

マダム・マルキンの採寸もいよいよ佳境になってきた頃、一人の男の子が入ってきた。

黒いくしゃくしゃな髪をした男の子も新入生なのか、ホグワーツの制服をつくるために、お兄様の左隣りの踏み台に立つ。

 

「やあ、君もホグワーツかい?」

 

お兄様は同じホグワーツに行く子と出会えたのが内心うれしいのか、開口一番にそう話しかける。

 

「うん」

 

「こっちは僕の妹だ」

 

そう紹介され、私も男の子の方に軽く会釈する。

こちらをみて軽く会釈し返してくる彼は、どこか私におびえていた。

 

「僕らの父上は学用品を買いに行っているし、母上はその先で杖を見ている」

 

「そうなんだ」

 

「この後もう少し時間があるだろうし、妹と競技用の箒を見に行くんだ。一年生が自分の箒を持っちゃいけないなんて、理由が分らないね。父上を脅して一本買わせて、こっそり持ち込んでやる」

 

この後競技用の箒を見に行く予定など聞いてないのですが、お兄様……。

というよりお父様を脅すなんて、お兄様は無理でしょうに……。

 

おそらくお兄様なりに話題を作っているつもりなのだろう。純血貴族として堅苦しい付き合いが多かったお兄様としては、まったく知らない同年代の男の子というのは新鮮なのだ。実に微笑ましいことだ。

 

まあ、結果は……残念なものになるだろうけど。

お兄様が口を開くたびに、男の子の顔から嫌悪感がにじみだしている。

 

「ところで、君の両親は僕達と勿論同族なんだろう?」

 

「あぁ、魔法使いと魔女だよ。そういう意味で聞いてるんなら」

 

「僕はね、他の連中は入学させるべきじゃないって思ってる。そう思わないかい? 僕達のように常識ある生き方をして来てないんだよ。手紙を貰うまではホグワーツの事なんか聞いた事もない奴らと一緒になんて考えたくもないね」

 

そうつづけるお兄様に、今度はあからさまな困惑と嫌悪を示してることから、どうやらこの子はお兄様の言う『手紙を貰うまではホグワーツの事なんか聞いた事もない奴ら』だったのだろう。もしくは正義感の強い人間か。

そんな彼の不機嫌な顔にお兄様は気付くことがない。

 

何故無表情な私の表情を読むのはうまいのに、こんなあからさまな顔をよめないのだろう。

 

そう私が思っていると、お兄様が窓の外にいる、もじゃもじゃ髭の大男に言及し始めた。

 

「ほら、あの男を見てごらん! 森番のハグリッドだ! 言うならば野蛮人だって聞いたよ。学校の領地内にほったて小屋を建ててそこに住んでるんだ」

 

私もお父様から彼のことを聞いたことがある。ホグワーツに行く時の注意事項を話してくださった時に、チラッと話されていたことを思い出す。

といっても、それまでの具体的な注意事項と違って、どちらかというと愚痴に近いものではあった。

 

『なぜあのような野蛮人をあそこに置くのだ……』

 

とかなんとか。

 

「彼って最高だと思うよ」

 

「へえ? どうして君と一緒なの? 両親は?」

 

「死んだよ」

 

もはや彼のお兄様への嫌悪感はとどまるところをしらなくなっていることだろう。

 

やはりお兄様にあの()()()()は相応しくないのでは? ()()としか付き合いがないお兄様は、こういう付き合い方しか知らない。私には優しく気遣いができるのだが、やはり家族と他人は違うものらしい。この男の子のことはどうでもいいのだが、将来下の者と仕事をしないといけない時、お兄様がこのままではまずい。

 

尤も今お兄様の未来を心配しても仕方がない。ホグワーツでお兄様はお友達がたくさん持つことになるだろうから、そこで学んでいかれるだろう。

最悪、他人に不快感をもたれない程度であればよいのだ。

 

そう考えていると、私とお兄様の採寸が終わる前に、彼の採寸の方が先に終わってしまった。お兄様をまた待たせてしまった。女の子は採寸にそれなりに時間がかかるのだ。

 

「じゃ、ホグワーツでまた会おう。たぶんね」

 

そう店をはやくでていこうとする彼に、そう気取ったようにお兄様は挨拶をしていた。

 

 

 

 

「お待たせしてしまいました、お兄様」

 

「いや、大丈夫だ。だが、父上と母上がもうレストランで待っておられるかもしれない。少し急いで行こう」

 

「はい。ああ、()()()()()()()()()()()かなくてよろしいので?」

 

そうお兄様をからかうように言うと、お兄様は慌てたように、

 

「い、いいんだよ! さ、急ぐぞ!!」

 

そう言いながらも、日傘をさしているせいであまり速く走ることのできない私に合わせて、ちょっと速足だけにしてくれているお兄様を見て、

 

『ああ、やっぱり私のお兄様は優しいな』

 

そう思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

僕が魔法使いの世界に足を踏み入れた記念すべき一日目。

 

……しかしそこで出会った人間は、全てが全ていい人間というわけではなかった。

 

マダム・マルキンの店に入ると、そこには二人の男女が先に踏み台に立っていた。

青白い顔をした男の子の横に立つと、

 

「やあ、君もホグワーツかい?」

 

そう男の方が話かけてきた。どうやら同じくホグワーツに入る子のようだった。

そう推測しながら返事をすると、

 

「こっちは僕の妹だ」

 

そう彼の隣に立っていた女の子を紹介される。

今まで彼の体で死角に立っていた女の子に目を向けると、そこには真っ白な美少女がいた。白銀の髪に薄い金色の瞳。何もかもが白く、その子は僕が見てきた人間の中で飛び切り綺麗な女の子だった。

 

しかし……普通ならそんな綺麗な子と会えてときめくのだろうが、いつまでも見ていたいような美少女は絶望的に無表情だった。

 

そんな女の子がこちらをその薄い金色の瞳でみつめ、軽く会釈してくる。

僕にはその会釈が、そのどうしようもない無表情と合わさり、

 

『心底どうでもいいが、一応挨拶します』

 

という風に見えた。

そんな冷たい美少女にちょっと怯えてしまったが、兄の方が再び話しかけてきたので、女の子のことを頭の端においやる。

その兄の方との会話は……ひどく不愉快なものであったけど。

 

採寸が終わり、この不愉快な時間にようやく終止符がうたれたので、急いで店を出る。

最後に一瞬女の子の方をみると、やはりそこには……心底どうでもいいといった無表情の女の子がこちらを見ていたのだった。

 




ダリアちゃんは基本無表情なので、初見はたいてい勘違いされます。
今回の場合は、本当にどうでもいいと思ってますが。
ハリーのことより、お兄さんの将来が気になってます。



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