ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
午後の授業終わり。夕食まで時間がまだある頃、
「では
「はいであります、ダリアお嬢様! この手紙は必ずや
そう言ってドビーは一枚の手紙を胸に抱きながら『姿くらまし』をし、寝室の中には私とダフネだけが残される。寝室にはパーキンソン達はまだ帰っておらず、中にいるのは私達だけ。そんな状況の中、ダフネがリラックスしきった口調で話し始める。
「しかし本当に良かったね。ドビーがホグワーツに残ってくれていて。これでしばらくの間ハーマイオニーに届く怪しい手紙をシャットアウト出来る上に、一々彼女に手紙を書くのにフクロウを介さなくて良くなったからね。ドビー様様だよ」
「えぇ、本当に。ただ彼の負担が増えると考えれば、少し申し訳なくもあるのですが……」
「まぁ、それはそうだけど、大丈夫じゃないかな? 彼もダリアの身の回りのお世話以外あまり仕事をしていないって言ってたし。彼が喜んでいたからいいと思うよ?」
「それはそうなのですが……」
私はダフネの言葉に多少複雑な気持ちを抱こうとも、やはり結局は頷くしかなかった。
愚かな記事により送られ始めた、グレンジャーさんへの悪意の塊のような手紙。本来これらを防ぐのは老害の仕事であるような気もするが……それらも含めて奴がチェックしていないお陰で、私へ定期的に送られてくる飲み物が露見していないこともありあまり文句は言えない。よって自分達自身で身を守るしかないのだ。
しかしそうなると取れる手段はあまり多くはない。全ての手紙を問答無用で暖炉に放り込む手段が最も効果的ではあるが、それではダフネからグレンジャーさんへの手紙まで燃やさねばならなくなってしまう。名前を確認しようにも、そもそもダフネから送られてくるものより圧倒的に他の手紙の方が多いのだ。一々確認していたら、それこそ『吠えメール』のような手紙が暴発してしまう。
だがそこで名乗りを上げてくれたのが、
『ダリアお嬢様、それにダフネ様と……
私の家族であるドビーだった。
どうやら医務室での私達の話を聞いていたらしい彼は、自分がグレンジャーさんに届く手紙を選別してくれると言ってくれたのだ。最初は彼が怪我をしないかどうか心配だったが、彼曰くしもべ妖精なら魔法がかかっているか、中に危険な物が入っているかどうか簡単に分かるらしい。それに
だから私も渋々彼に任せることにしたのだ。もっとも、
『でも、ドビー。気持ちはありがたいのだけど、それだと貴方の負担になるのではない? ただでさえこの学校に奴隷労働をさせられていると思うのだけど……』
『いえ、とんでもございません、グレンジャー様! ドビーめは大変素晴らしい待遇で働かせていただいてるのです! 休暇の上に、お給金まで貰っているのでありますです! ドビーめは他のしもべ妖精に比べて遥かにお暇なのであります! それにドビーめが本来したいことはお嬢様のお世話なのです! お嬢様とご友人との交流を手伝わせていただくなど、ドビーめには嬉しくて仕方がないのであります!』
私と同じ疑念を抱いたグレンジャーさんへの返事を聞いて仕方なくではあったが……。
それなのに……何故だろうか。私は口では何と言っても……ドビーへの心配こそ感じていても、今回の方針をどうしようもなく
今回の一件で、私達はしばらく実際に顔を合わせる場を控えた方がいいという結論に達している。あの愚劣な記者がどうやって情報を得ているか分からない以上、これ以上奴に醜聞になるような話題を提供するわけにはいかないのだ。秘密を抱える私のためにも……今現在狙われているグレンジャーさんに、今度はマルフォイ家と関りがあるという噂を立てられないためにも。今は必要以上に顔を合わせるわけにはいかない。
しかしそれがドビーが手紙のやり取りをしてくれることで、実際に会わずともそれなりに会話をすることが出来る。
そのことが私には……何故か堪らなく嬉しく思えていたのだ。
本当に何故だろうか……。別にグレンジャーさんとの会合は私が希望しているものではない。グレンジャーさんはダフネの友人であって、私の友人なわけではない。私は単なる同席者。それだけのはずなのに何故……。
いくら考えたところで、酷く
「ん? どうしたの、ダリア? 何か考え事?」
「……いいえ、何も。それよりダフネ。今日はお互い午後の授業に遅れましたから、図書館で授業の復習をしましょう」
「あ、それもそうだね! まだ夕食まで時間があるだろうから、行こう行こう!」
……その行動が、結果的に私の計画の邪魔になることも知らずに。
第二の試練がいよいよ間近。そんな中で対策を探してもがき苦しんでいるのは、別にセドリック・ディゴリーだけではないのだ。代表選手の力になりたいと願う生徒も……私だけではないのだ。
僕は一体何故こんな無駄なことをしているのだろう。
そんな思いが浮かんでは消えていく。でもそんな思いを抱えていたとしても、僕は今ここで帰るわけにはいかないのだ。
だって……友人であるハリーが今とても困っているから。
『あぁ、本当にどうすればいいのかしら! 人を変身させる呪文なんて六年生でないと勉強しないわ! 私だって完璧に使えるわけではないのよ! それこそこの学校でそんな呪文が使えるのはダリアくらいのものよ!』
『……予め言っておくけど、僕はダリア・マルフォイに変身させられるなんて絶対に嫌だよ』
『分かっていたわ、貴方がそう言うことくらい。でもそれなら尚更他の呪文を探さないと。シリウ……
『そうなんだよ。本当は直接会いたかったらしいんだけど、あんな記事があった後だからね。彼も警戒しているんだと思う。でも今起こっていることについては色々書かれていたよ。三大魔法学校対抗試合について知っていただろうバーサ・ジョーキンズの失踪、闇の印に死喰い人。それに赴任前に襲われたムーディ先生。どれも明らかにヴォルデモートが何かを企んでいる証拠だ。だからカルカロフとダリア・マルフォイに、』
『何故そこでダリアの名前が出るの?』
『い、いや、何でもない……。た、ただ僕は警戒した方がいい。そう彼は書いていたよ。それ以外のことは何も書いてなかった……。水の中で2時間以上も息を止めるなんて……一体どうすればいいんだろう』
グリフィンドールの談話室でされていた三人の会話を思い出す。本来ライバルであるはずのセドリックから次の試練の情報がもたらされたのはつい先日のことらしい。それまで金の卵からヒントを得ることは出来ていなかったらしく、随分慌てふためいた様子で本を捲っていた。でもあの様子からはまだ有効な呪文を見つけられていないみたいだ。ハリーの言っていた、水の中で2時間以上息を止める呪文。僕も彼等がセドリックからされた話を聞いた時は驚いたけど、まさかそんな呪文が必要な課題なんて。しかもあの優秀なハーマイオニーまでお手上げの様子なのだから、最早お手上げな課題に僕は思えた。
でもどんなに困難な課題であっても、ハリーは数日後には必ずその課題に臨まなくてはいけない。ハリーは決して逃げ出せる立場ではないのだ。
僕はそんな彼の立場が……とても不憫に思えて仕方がなかった。
僕なら絶対に逃げ出している。皆に注目されるだけでも嫌なのに、そんな中命の危険すらある試練を乗り越えるなんて僕には無理だ。それでも逃げることも叶わないハリーが、僕にはとても不憫で仕方がなかった。
だからこそ僕は考えたのだ。
何かハリーのために僕が出来ることはないだろうか、と。
勿論彼に僕の助けなんて一切必要ないことなんて百も承知だ。彼はあの誰もが予想していない中、第一の課題であのドラゴンを出し抜いた実績がある。それに今彼の周りにはロンやハーマイオニーがいる。僕の出番なんて万に一つもあるわけがない。
でもだからと言って、僕が何もしないでハリーの苦境をただ眺めているのもどうかと思ったのだ。ハリーが何を求めているのか知らなかったのなら、僕も気兼ねなくただ彼の応援に徹していたことだろう。でも知ってしまった。ハリー達が談話室でしていた会話を偶然聞いただけとはいえ、僕は知ってしまったのだ。なら何もしないのは間違っている。そう、僕は思ったのだった。
そして僕は一人図書室に来て、今こうして普段は見向きもしないような呪文書と睨めっこしている。正直内容が頭に入ってきているとは言えなかったけど、ハリーのためにもやらないわけにはいかない。何より何もしないでボーっとハリーの苦しむ姿を見ている方が何倍も辛いから。まぁ、この調子なら結局僕が何かしたところでハリーの役に立つことはなく、もし万が一僕が何かしらの呪文を見つけたところで、ハーマイオニーの方が既に見つけている可能性の方が高いけど……。
そして……
「……あら、ロングボトム。ここ、貴方の席だったんだね」
そんな諦観にも似た気持ちを抱きながら次の呪文書を見繕い、元いた席に戻ろうとした時のことだった。
今まで僕が座っていた席が空席だと思ったのか、一人のスリザリン生が今まさに本を片手に座ろうとしている。そのスリザリン生は……いつもダリア・マルフォイと一緒に行動しているダフネ・グリーングラスだった。
スリザリン生の突然の登場に体が硬直してしまう。それも
そしてそんな考えは、実際に目の前にいる彼女にも伝わってしまったのだろう。今まで笑顔を浮かべていた表情が、恐怖で固まる僕を見た瞬間固い表情に変わる。そして僕を睨みつけてから、ため息を吐きながら彼女は言った。
「……ふん。あぁ、ごめんごめん。スリザリン生に話しかけられても迷惑だったよね。それとも私がダリアといつも一緒にいるから怖いのかな? ……本当にふざけた話だね。私はもう行くね。貴方が既に座っていた席だって知らずに座ってごめんなさいね。では、さようなら」
……明らかに怒っている口調に、何故か僕の方が悪いことをした気分になってしまう。いつも僕をいじめてくるのはスリザリン生だというのに、何故僕が彼女を怖がっただけで彼女はここまで怒るのだろうか。僕は何とはなしに急いで荷物を纏めるダフネ・グリーングラスを見つめながら、彼女のことを考えていた。
ダフネ・グリーングラス。おそらくこの学校で誰もが知っているダリア・マルフォイ一番の取り巻き。僕にとってもその認識自体は変わることはない。一年生の頃はどことなく明るく元気いっぱいにはしゃいでいるイメージを持っていた気もするけど、二年生の頃には他のスリザリン生と同じくどこまでも冷たい表情で周りのことを見ていたように思う。いつも隣にいるダリア・マルフォイと同じ、明らかに周りの人間のことを軽蔑しきった表情で……。
しかしそこまで考えた時……今まで思い出していた表情とは違った表情のことも思い出すことになる。
例えば二年生の時、
『ロングボトム。グレンジャーはどこ?』
クリスマス休暇明け初日に、大広間のグリフィンドール席にハーマイオニーを探しにやってきた時の表情。あの時の彼女は……何故か猛烈に怒り狂っていると同時に、どこか迷子のように泣きそうな表情を浮かべていたように思う。
例えば三年生の『闇の魔術に対する防衛術』の時。
彼女の前に佇むハーマイオニーの姿をした『まね妖怪』。何故あの時『まね妖怪』がハーマイオニーの姿をとったのか、今でも僕にはさっぱり理解出来てはいない。でもあの時の彼女も、いつも浮かべているような軽蔑しきったような表情ではなく、どこか泣きそうな表情を浮かべていた。
そして……
『……ねぇ、ロングボトム。顔色が悪いわよ』
『……だ、大丈夫だよ。……そ、そう言えば、さっきはありが、』
『勘違いしないでよ。私は別に貴方のために声を上げたわけではないわ』
今年の『闇の魔術に対する防衛術』で、顔色の悪い僕を心配して声をかけてくれた時。
両親を
そう思った時、僕の中で色々な感情が錯綜した。悲しみや怒り。自分ではどうしようもなく、どこにぶつければいいのかも分からない感情の渦に飲まれた僕は、ただそこに立っていることさえ困難な程の状態になったのだ。
でも、そんな僕の状態に誰も気がついてはくれなかった。グリフィンドールの皆でさえ興奮した様子で授業内容を語り合っている。……まるで先程の授業が最高の
そう、本来僕に声なんてかけてくるはずのない、ダフネ・グリーングラスを除いて。相変わらず冷たい口調ではあったけど、その中には確実に僕を本当に心配してくれている響きもあり、それが僕にはたまらなく有難かったのだ。
そこまで僕は思い出し、そう言えば僕はまだあの時のお礼をキチンと出来ていなかったことにも思い至る。あの時結局感謝の言葉を口にしようとしても、彼女自身によって遮られてしまった。でもそんなことは感謝を伝えない理由にはならないだろう。だから僕は今まさに目の前で苛立った表情のまま片づけをしている彼女に、なけなしの勇気を振り絞って声をかける。
「ご、ごめん。で、でもいいよ、君がここに座りなよ。ぼ、僕の方がここに荷物を置いてなかっただけだから……。それと、僕は君に言わないといけないことがあるんだ。……ムーディ先生の授業の時はありがとう。君が先生を止めてくれなかったら、僕は多分あのまま倒れていたかもしれない。だ、だからキチンとお礼を言わないと。こ、この前はありが、」
……一年生の時僕を飛行訓練で助けてくれたダリア・マルフォイには感謝の言葉をかけていないことも忘れて。
だからだろう、
「結構だよ。この席のことも、この前の授業のことも。この席が空いていると思ったから座ろうと思っただけだから。……それにダリアのことを誤解しているグリフィンドール生なんかの座っていた席に、私はダリアと座りたくなんてない。授業のことだって、別に貴方を心配して声を上げたわけじゃないもの。私はただダリアが傷ついてほしくなかっただけ。それだけのことだから、貴方がお礼を言う必要なんてないよ」
彼女がやはりどこか冷たい声音で僕の感謝をにべもなく遮ったのは。
冷たい声音に驚き顔を上げれば、そこには先程以上に鋭い瞳で睨みつけるダフネ・グリーングラスの姿があった。
思えばこれが……僕と彼女が
ダフネ視点
私は目の前でオタオタ戸惑っているロングボトムを睨みつける。これがただ後手に回るばかりで、リータ・スキーター本人に何のダメージも与えられていないことに対する苛立ちからくる八つ当たりだとしても、私はどうしてもこの愚かな男子生徒を睨まずにはいられなかった。
私にとってハーマイオニーのような一部の例外を除き、グリフィンドール生は勿論のこと、ホグワーツにいる生徒は全て敵と言っても過言ではない。それは勿論今私の目の前にいるロングボトムも例外ではなかった。いつもオドオドした態度で私に臨むロングボトム。私が彼をいつもいじめている連中と同じスリザリン生だということもあるのだろうけど、彼が私を恐れるのはそれだけが理由ではない。彼は私がダリアの友達だから恐れているのだ。つまり……他の有象無象と同じく、彼も等しくただ思慮の浅い愚か者の一人でしかなかった。しかもこいつは一年生の頃ダリアに助けられたにもかかわらず、未だにダリアのことを怖がっているのだから質が悪い。
何が、キチンとお礼を言わないと、だ。私はあの時お前のために行動したわけじゃない。全てはダリアのために行動しただけだ。私に礼を言うくらいなら、まずダリアの方に感謝すべきなのだ。
そんな怒りの感情を込めて私はロングボトムを睨みつけ、彼の方は彼の方で更にオドオドした態度になる。
しかし、そんな彼の態度がかえって、
「ご、ごめん。ぼ、僕、君を怒らせるつもりはなかったんだ。ただあの時僕に声をかけてくれたことにお礼を言いたくて。た、ただそれだけなんだ……。君を怒らせるつもりは……。ほ、本当にごめん」
私を冷静にさせてしまうのだった。見ていて可哀想になる程青ざめた表情になった彼に、私は寧ろ自分が彼をいじめているのではないかと錯覚する程の罪悪感を覚える。
どんなに怒っていたとしても、流石に目の前で倒れそうな程顔色を悪くされれば怒りを保てない。
勇気が売りのグリフィンドール生だというのに、少し怒鳴りつけただけでどうしてここまで青ざめるのだろうか。
いつもであればこんな奴は放っておいてダリアを探しに行くのだけど、流石にここまで震えられたら放置して去るのは後味が悪い。
私は少しだけ怒りを引っ込めると、優しく……とは言えないまでも彼が安心できる声音を心がけながら話しかけた。
「はぁ……なんで貴方みたいな生徒がグリフィンドールにいるのよ。まぁ、いいよ。何だか怒るのも馬鹿らしくなっちゃった。私はもう行くね。ダリアと合流しなくちゃ。また別の二人で座れる席を探すよ。……貴方はグリフィンドールなんだから、もう少し堂々とした方がいいよ。折角
「う、うん……」
そしてそんな私の努力が報われたのか、ロングボトムはやや震えを抑えながら応える。
良かった。別に彼らグリフィンドール生のことが嫌いだとはいえ、別に態々踏みつぶしてしまいたい程彼らに
でもそれがいけなかったのだろう。少し顔色が戻り、震えの収まったロングボトムが、
「……君は何だか他のスリザリン生とは違うんだね」
今度はそんな戯言をほざき始めたのだった。
こいつは何を言っているのだろう。少し優しくしただけで、何をこいつは勘違いし始めたのだろうか。そんな感情を込めた視線を送る私に、自分自身も何を言っているのか分かっていない様子のロングボトムが小さな声で続ける。
「ご、ごめん……。いきなりこんなこと言って……。ぼ、僕……何を言っているんだろう」
「……そんなこと私が聞きたいよ」
奇妙な沈黙が流れていた。私は彼から受けた突然の意味不明な言動に困惑し、彼は彼の方で自分自身の発言を訝しむように立ちすくんでいる。
そんな沈黙を破ったのは、目当ての本を見つけてこちらに帰ってきたダリアだった。ダリアはいつもより少しだけ明るい声音で私に声をかけてくる。
「ダフネ。お待たせして申し訳ありません。少し本を探すのに手間取ってしまいまして。……どうしてロングボトムと一緒にいるのですか?」
突然かけられた声に、私とロンボトムは同時に肩を撥ねさせる。
その反応にただでさえ訝し気な無表情を浮かべていたダリアはその表情を強め、今まで震えが収まっていたロングボトムは再びこちらが心配になる程震えさせ始める。どうやらダリアの登場で再び恐怖感が戻ってきたらしい。その反応にまた私も少しだけ苛立ちを取り戻してはいたけど、ダリアが戻ってきた以上もう無駄な時間は過ごしてはいられない。私はダリアの姿を確認すると、急いで彼女に声をかける。
「あ、ダリア。いやね、どうやらここはもう既にロングボトムが座っていた席らしいんだよ。それでたった今鉢合わせてしまっただけ。だから他の席に行こうよ。ここは広いから、まだまだ一杯席もあるしね」
ダリアは私の言葉ですぐに事態を理解してくれたようだった。無表情に浮かんだ僅かな困惑顔を引っ込めると、即座に震えるロングボトムにやはりどこか優しげな響きすら感じる声音で話しかける。
「成程、そういうことでしたか。ロングボトムも申し訳ありません。ここが貴方の座っていた席だと知らなかったのです。では、私達はこれで。……あと、何をお探しかは知りませんが、その本は貴方にはあまりにも不相応だと思いますよ。あまりにも内容が高度すぎます。その本はグレンジャーさんが読んで丁度いいくらいのものですから。何をお探しかを教えて下されば助言くらいはしますが?」
そんないつもはしないような優しい言葉まで添えて。どうやらダリアはダリアで彼女自身も気付かない中、ハーマイオニーと交流を続けられることに僅かにテンションが上がっているらしい。ダリアにとって路傍の石であるはずのロングボトムに、席を横取りしようとしたお詫びとはいえそんな言葉をかけるなんて。
……でもそれがいけなかったのだろう。
「え? そ、それは……水の中で2時間以上も息を止める呪文……なんだけど?」
「……
ネビル視点
それはほとんど条件反射に近いものでしかなかった。
ダフネ・グリーングラスと同じく、突然この場に現れた彼女以上の恐怖対象……ダリア・マルフォイ。いつも浮かべているこちらをその辺の石ころとしか見ていないような冷たい瞳に、僕は一瞬にして恐怖に囚われていた。……だからこそ、その瞳や表情と全く正反対の優しい声音に僕は驚き、半ば条件反射のように応えてしまっただけなのだ。
「え? そ、それは……水の中で2時間以上も息を止める呪文……なんだけど?」
「……水の中で息を止める?」
でもそんな僕の驚きの声に答えたのは、目の前でどこか訝し気な雰囲気を醸し出すダリア・マルフォイではなく、先程まで僕と話していたダフネ・グリーングラスの方だった。
「随分変わった呪文を探しているんだね。授業でそんな呪文が必要になることはないと思うけど……。なんでそんな呪文を探しているの?」
本当は逃げ出してしまいたかったのだけど、条件反射とはいえ答えてしまったのは僕の方だ。僕はこちらをジッと見つめるダリア・マルフォイから目を逸らしながら返事をする。
とは言っても、まさかスリザリン生である彼女達にハリーの事情を話すわけにはいかない。だから僕の答えは……どこまでもしどろもどろしたものでしかなかった。
「な、なんでって……ただ、何となく、かな?」
「……何となくって。貴方はもっと先に学ぶべきことが山ほどあると思うのだけど」
ダフネ・グリーングラスが僕の答えに訝し気な表情を浮かべながら応える。しかしどうやら彼女にとって僕の答えなんて最初からどうでもよかったらしく、即座に隣でこちらを無表情で見つめるダリア・マルフォイに尋ねた。
「……まぁ、なんでもいいや。ダリアは何か呪文を知ってる?」
「……いいえ。私はロングボトムが
先程一瞬感じていた優し気な雰囲気など一切ない、表情同様冷たい返答。やはり彼女は怖い人なんだと恐怖する僕を他所に、そんな冷たい声音にも頓着することなくグリーングラスは続けた。
そしてその中で何気なく言った言葉が、
「え? ダリアでも知らないの? ……ダリアが知らないなら、私には到底無理だね。そういえば、ハーマイオニーにはもう尋ねたの? 貴方の寮で真っ先に聞くべきは彼女だと思うのだけど」
「う、ううん……。実はハーマイオニーも分からないみたいなんだ」
「なら、無理だね。どうやら私達は力になれそうにないよ。……だから呪文を探すのを止めて、他の手段を探してみたら? どうせ潜れれば別に呪文に拘らなくてもいいんでしょう? もっと自分の
結果的に僕に
……勿論グリーングラスの言葉一つでそれに気が付いたわけではない。
僕はこの学校で誰もが知る落ちこぼれであり、僕自身も悲しいことにそれを自覚している。得意分野と言われても、僕にとっては全てが不得意分野なのだ。薬草学のことは好きだけど、それも得意分野とは決して言えない。だから彼女に言葉をかけられても、スリザリン生である彼女達への恐怖も合わさり当初決して薬草学について思い至ることはなかった。
そうあと一押し、
「おい、小娘共。そこでロングボトムに何をしている。まさかコソコソ闇の魔術を使っているのではあるまいな?」
「な、何を藪から棒に! 突然現れて何て言い草ですか、
「……いいから行きましょう、ダフネ。ムーディ先生、失礼しますね……同じ空気も吸いたくないので」
ムーディ先生の言葉がなければ。
どこからともなく現れた先生は目の前のスリザリン生二人を追い払うと、僕に振り返りながら言った。
「ロングボトム、大丈夫だったか? 何もされておらんな? 良かった。丁度お前を探していた時に、お前が奴らに囲まれているのが見えてな。……実はお前に渡したいものがあったのだ。何、以前の授業のお詫びだと思えばいい。お前は薬草学が得意だとスプラウト教授が言っておった。これを読んでみるといい。……今のお前には
感想よろしくお願いします。