ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
セドリック視点
いよいよこの日が来てしまった。そんなどちらかと言えば後ろ向きな思考に反して、待機場テントの周りからはまるで代表選手を押しつぶさんばかりの大歓声が響き渡っている。
「さぁ、いよいよ第二の試練です! 今審判員の先生方から教えて頂いた情報では、今回の試練は湖の中で行われるとのこと! そこであるものを取り戻さないといけないのだとか! 水の中でどのように代表選手が行動するのか、非常に楽しみな内容です!」
グリフィンドールのリー・ジョーダンの声が響くと同時に、ただでさえ騒がしかった生徒達の歓声も更に熱を帯びるようだった。表面を取り繕っているとはいえ、内心では試練に恐怖しかない僕には有難迷惑以外の何物でもない。……でも彼らを裏切るわけにもいかない。これだけ大きな歓声を出してくれているということは、逆に言えばそれだけ僕等に期待を持ってくれているということなのだ。僕は彼らのためにも絶対に無様な真似は出来ない。
僕は一つ大きな深呼吸をして自分を落ち着かせると、再度目前に迫る試練に集中するため思考を巡らす。
『探しにおいで、声を頼りに。我らが捕えし大切な物。探す時間は一時間。取り返すべし、大切な物。一時間のその後は、もはや望みはあり得ない』
あの金の卵の謎を解いたのはクリスマスパーティー直後のこと。お蔭で水の中で行動する対策も十分に立てられた上、ヒントの内容もしっかりと検討することが出来た。他の代表選手がいつ頃僕と同じ結論に辿り着いたかは分からないが、おそらく4人の代表の中でも僕が最も早かったと信じている。
でもだからと言って……まさか『大切な物』が人間のことだったとは思いもよらなかったけれど。
最初の違和感を覚えたのは、チョウ・チャンが観客席にいないことに気が付いた時だった。
僕が今絶賛片思いをしている女の子。そんな彼女がつい先日僕に言ってくれたのだ。
『セドリック! 次の試練の時は必ず応援に行くわ! 観客席から
彼女がただダンスパートナーを務めた僕に対して、ちょっとしたリップサービス的な言葉をかけてくれたに過ぎないのは分かっている。でも真面目な彼女のことだから、ああして言葉にした以上必ず僕のことを見ていてくれる。応援してくれている。だからこそ僕は今日ここに到着した時真っ先に観客席を見回して彼女の姿を探したわけだけど……そこに彼女の姿を確認することはついぞなかった。
確かに最初は彼女が未だに来ておらず、今頃城でまだ彼女が好きな男子と一緒にいるのかもしれないと思いもした。でも時間が経つにつれ冷静になると、彼女はそんなことをするような子ではないと思い至ったのだ。そして最後に、
「
同じ代表選手であるクラムや、
「マ、マダム・マクシーム! い、妹が見つかりません! 一体あの子はどぉこにいるのですか!? 観客席にいぃるはずでぇす!」
フラー・デラクールの言葉を聞いて、僕は確信した。
『大切な物』が何か今まで分からなかったけど、これはもしかして代表選手とダンスを踊った人間のことではないのだろうか。少なくとも単純な持ち物ではないことは確かだ。今朝持ち物を確認しても何もなくなってはいなかった。
つまりそれ以外の
フラーの人質は一緒にダンスを踊った相手というわけではなさそうだけど、それ以上に大切な存在であることに変わりはない。
考えがその真実に至った瞬間、今まで感じていた試練に向けての高揚感や緊張が鳴りを潜め、より大きな不安と焦燥感を感じ始める。
もし僕が考えている通り、本当に僕にとって大切な女性であるチョウ・チャンが攫われたのなら……僕はこれがただの試合だとかそんな悠長なことを言っている場合ではなくなる。ダンブルドアのことだから人質に命の危険があるとは思えないけど、万が一と言うこともあるのだ。少なくとも彼女のことが好きな僕が悠長に構えていることは許されない。クリスマスが明けたとはいえ、まだまだ外の気温は低く、それに比例して湖の水も冷たい。そんな冷たい水の中、そして何がいるかも分からない湖の中に彼女はいるのだ。試練のことがなかったとしても、今すぐに彼女を助けに行かねばならない。
そしてそんな思考に囚われるうちに、
「お、お待たせしました……」
「……課題が始まるのに、一体どぉこに行っていたのでぇすか!?」
「ご、ごめんなさい。ちょっと
今までいなかったハリーがようやくテントに到着し、遂に試合が本当に目前まで迫る。
人質のことに他の代表選手も気付き始めたのか、どこかソワソワした落ち着きのない態度でテントの中を歩き回っていた。フラーに至っては余程人質である妹が心配なのか、いつもは美しい表情を焦りに歪ませている。
もっとも僕もフラーのことが言えた口ではない。僕は僕で落ち着かない気持ちを静めるために、第一の試練の時と同じくテントの端により精神を落ち着かせようとする。あまりテントの中を動き回っていても逆に緊張感は増してしまう。今はただテントの端で大人しくしていた方が落ち着けるだろう。
……いや、本当は分かっている。僕がこうしてテントの端に態々陣取っているのは、別に一人で深呼吸するためだけではない。僕が前の試練と同じ行動を取っているのは、
「セドリック・ディゴリー。そこにいますか!?」
僕は心のどこかで、ここにいればまた
こうして試合直前に僕の下に訪れ、僕の緊張を取ろうとしてくれることを……。
しかし、どうやら今回は前回と違い、
「……あぁ、ここにいるよ。……ありがとう。また僕の緊張を、」
「いいえ、ディゴリー。時間がないので手短にお話しします。ただでさえ試練のことで頭が一杯のところ非常に申し訳ないのですが、もし湖の底にチョウ・チャンと一緒にハーマイオニー・グレンジャーがいたのなら……どうか
ダリア・マルフォイは僕を励ましにだけ来たわけではないらしかった。
テント越しのため表情を確認することは出来ない。でもその声音は……いつも浮かべている無表情とはかけ離れ、どこまでも焦ったものでしかなかった。
ダフネ視点
ダリアが何かコソコソ行動していることは以前から知っていた。四六時中一緒にいるというのに、時折ふらりとどこかに消え、尚且つその間の行動を決して言おうとはしないのだから私が気付かないはずがない。無表情なのに、ダリアはその実あまり嘘が上手ではないのだ。私が気付いていないと考えているのはおそらくダリアのみだろう。
でもダリアが今は言いたくないと思っているのなら……彼女の中で明確な答えが出るまでもう少しだけ待っていよう。去年お互いのことをもっと言い合おうと誓ったけど、それはお互いに全く秘密を抱えないことを意味しているわけではない。だからもう少しだけ彼女が自分から秘密を教えてくれるようになるまで見守っていよう。
私と……そしておそらく私と気持ちを同じくしているドラコはそう考えていたのだ。
でも流石にダリアがこそこそ会っていたのがセドリック・ディゴリーだったとは……私にも完全に想定外のことだった。
『ダ、ダリアお嬢様! た、大変でございますです! 湖の中にグ、グレンジャー様が攫われたのです! ド、ドビーめはいつもの様にお嬢様方からのお手紙をグレンジャー様にお届けしようとしたのであります! そ、その時に偶々見てしまったのです! 他校の代表選手が湖の中から取り戻されなければならない大切な
今日の試練は屋外で行われるということで、ダリアの日光対策を一緒に準備していた時。ドビーが突然現れそんなことを言う。正直私には突然現れたドビーが何を言っているのかチンプンカンプンでしかなかったけど、ダリアにとってはそうではなかったらしい。ドビーの言葉を聞いた瞬間立ち上がり、そのまま寝室から出て行ってしまったのだ。そして日光対策自体はもう出来ていて良かったと頓珍漢なことを混乱した思考で考える私を尻目に、そのまま城外に出て、
「……そういうことですか。何故彼女なのかと思いましたが、そういう選考基準ですか。ふざけたまねを。より場を盛り上げるためとはいえ、彼女を危険に晒すなんて。あの老害……」
一瞬もう満員になっている観客席を見回したかと思うと、一直線に代表選手の待機場と思しきテントを目指す。そしてたどり着いたテントで、
「セドリック・ディゴリー。そこにいますか!?」
「……あぁ、ここにいるよ。……ありがとう。また僕の緊張を、」
「いいえ、ディゴリー。時間がないので手短にお話しします。ただでさえ試練のことで頭が一杯のところ非常に申し訳ないのですが、もし湖の底にチョウ・チャンと一緒にハーマイオニー・グレンジャーがいたのなら……どうか二人とも連れ帰ってもらうことは出来ないでしょうか? 勿論ビクトール・クラムが失敗しそうだった場合のみで構いません。こんなこと、貴方にしか頼めないのです!」
本来であればダリアと全く接点のないはずのセドリック・ディゴリーと話し始めたのだった。
クリスマスパーティー直後に、私に隠れてダリアが彼と会っていたのは知っている。ダリアが今隠れてやっていることに彼が関わっていることは間違いない。でもこんな風にダリアが切羽詰まった声で彼にお願い事をする程の仲になっているとは想像もしていなかった。
何が起こっているのか、そして何故ダリアがテント越しにディゴリーに頼みごとをしているのか。現状に全くついていけず、ただ焦っているダリアの邪魔をするわけにもいかず黙るしかない私を他所に、彼女と彼の会話は続いていく。
「……君ももう気付いたんだね。僕等のやる気を出させるためなのかは知らないけど、湖の中に人質がいることに。でも……何故グレンジャーのことを? 確かに彼女はビクトール・クラムの人質だと思うけど、君と関係があるとは思えない。彼女のことは少しだけ知っているよ。なんでもグリフィンドール寮が誇る、マグル生まれで君に迫る程の成績を持つ生徒だとかなんとか。……失礼だけど、君と彼女はどういう関係なんだい?」
テント越しから聞こえる、どこか試すような声音を持った言葉。その言葉に私は遅ればせながらようやく事態を理解し、表情を青ざめさせる。
ダリアはずっと前から知っていたのだ。第二の試練が湖で行われることを。そしてドビーの発言を受けたことで全ての情報を一瞬で理解し、ハーマイオニーが今どこにいるのか、そして何のために彼女が攫われたのかを悟ったのだ。つまり今ハーマイオニーは湖の中で代表選手の……おそらく彼女のダンスパートナーを務めたクラムに対しての人質になっている。
しかしそれが今更分かったところで事態が変わるわけではないし、私のするべき行動が思いつくわけではない。
ただ少しだけ事態を理解したことで逆に更に表情を青ざめさせる。そんな私の横でダリアがディゴリーの質問に答えた。
「……ただの
「……分かっていると思うけど、君が予め僕に試練の内容を教えてくれているとはいえ、僕にもあまり余裕があるとは言えない。湖の中に何がいるかは分からないからね。……だから確約は出来ない。散々君に助けられたからなるべく要望には応えたいけど、それでよければ、」
「えぇ、それで構いません。……今頼れるのは貴方だけなのです。本当は試練関係なく湖の中に私自身が行きたいのですが、私は少々ここの老い耄れ……校長に警戒されていますので」
ダリアが答え終わると同時に彼女とディゴリーとの会話は途絶える。ディゴリーがダリアの強がった返答に何を思ったのかは分からない。ただテントの向こうで、
「そうか
セドリックが何事か呟いてはいるけど、あまりにも小さな声音のため聞き取れることはなかった。
待機所のテントにいよいよ老害をはじめとする審査員が集まり始めたため、私達は彼らにバレないように観客席を目指す。
その道すがら、私は恐る恐る隣を歩くダリアに尋ねた。
「ハーマイオニー……大丈夫かな?」
「……流石に命の危険まではないと思います。あれがいかに老害だったとしても、試練のために生徒の命を危険に晒すようなことはないはずです。……それでも万が一ということはあるわけですが。あの老い耄れ……」
無表情ではあるけれどその声にはハッキリと焦った響きがある。やはりディゴリーに頼んだとしても不安な気持ちは消えないのだろう。
そんなダリアを刺激しないように、私はなるべく平静を保った口調で重ねて尋ねた。
「そうだよね……。そう言えば、ダリア。セドリック・ディゴリーと仲がいいんだね。この前も一緒にいたし。ねぇ……ダリアはディゴリーと一緒に何をしているの?」
しかしダリアの答えは、
「……ただの気まぐれですよ。意味がないと分かっていても、ただ何もしない方が嫌だと思っただけです。それに彼と私は別に仲良くありません。彼は私にとってただの駒です。ただそれだけの関係で
やはりどこかはぐらかした物でしかなかった。
ハリー視点
「さて、全選手の準備が整いました! 第二の課題がいよいよ始まります! 課題時間は一時間! 一時間の内に選手たちは奪われた者を取り返さなければなりません! それでは……はじめ!」
合図と共に他の代表選手は一斉に湖へと飛び込む。そんな中で僕だけは、ポケットに入れていた『鰓昆布』を口に押し込んでから、冷たい湖の中に入ったのだった。
効果はすぐに表れた。まるで首の両脇にナイフを差し込まれたかのような痛みを感じたかと思うと、急に水の中でも息が出来るようになる。触ってみるとそこには鰓と思しき裂け目が存在していた。
……正直これを
僕は鰓と一緒に生え始めた鰭足で水を蹴りながら、ネビルが僕にこの手段を提案してくれた時のことを思い出した。
『ハリー! 水の中で息をする手段! 僕、見つけたよ! さっき
『え、鰓昆布! そうよ! その手があったわ! 今まで呪文を探すことばかり考えていたけど、別に呪文に拘る必要はないのよ! 寧ろ鰓昆布の方がハリーの呪文を失敗した時のことを考えずに済むわ! ネビル! ありがとう、私には思いつきもしなかったわ!』
ネビルには本当に感謝だ。本当にギリギリのタイミングで『鰓昆布』が届いたとはいえ、彼の助けがなければこうして第二の試練に臨むことすら叶わなかっただろう。
僕は彼への感謝を新たにすると、彼の努力を無駄にしまいと先を急ぐ。試練の時間は一時間。その間に僕は『取られた大切な
でもそんな僕の勘違いは……この後すぐに正されることになる。
水草の間に潜む『水魔』を撃退しながら進んだ先、20分くらい泳いだ頃僕の耳にあの歌が聞こえてくる。
『探す時間は一時間。取り返すべし、大切な物。一時間のその後は、もはや望みはあり得ない』
ようやく行先を見つけたと喜び、歌の聞こえる方に一直線に泳いでいくと……僕は見つけてしまったのだ。
灰色味を帯びた肌に、ボウボウとした長い暗緑色の髪。足ではなく大きな尾びれを生やした『
ロンにチョウ・チャンにハーマイオニー、そしてもう一人せいぜい八歳ぐらいの女の子の姿を見た瞬間、僕はこの試練の真意を悟る。僕ら代表選手が取られた大切な者とは……僕等にとって大切な人のことだったのだ。このメンバーから考えるにハーマイオニーはクラムの、唯一見覚えのない女の子はフラーの、ロンは僕の。そしてチョウ・チャンは、
「あぁ、ハリー! 君も来たんだね! 良かった! 正直誰も来ないんじゃないかと悩んでいたんだ!」
僕より早く来ていたらしく、彼女を縛り付けているロープを慎重に解こうとしているセドリックの……。
僕は試練でセドリックに先を越されたことに対する悔しさより、何とか人質を助けられないかという焦りの方が勝るのを感じながら彼に話しかける。
4人中3人も僕の友達や思い人なのだ。大切な者が人質だったことに驚いたこともあるが、友人達の危機に焦らないはずがなかった。
「セドリック! 先に来ていたんだね! クラムやフラーは!? 彼らの人質はどうなるの!?」
僕の声は水の中ではただガボガボという音を立てるだけだったけど、どうやらこの『鰓昆布』は水の中でも声を伝える作用があるらしい。セドリックは僕の言葉に間髪なく答えた。
「それがまだ来ていないんだ! だから他の人質も取りあえず解放だけはしようとしたのだけど……」
そう言って頭の周りに大きな泡がついたセドリックは、チョウ・チャンの横で漂うハーマイオニーのロープに手をかけようとする。しかし手を伸ばそうとした段階で周りにいた水中人達が動き、セドリックの方に手に持った銛を向ける。どうやら他の代表選手の人質には手を出すことは許されないようだ。僕は更に焦りを積もらせながら続ける。
「どうしよう!? 僕の人質はロンだ! でもそれだとハーマイオニーとその女の子が残ってしまう! 彼女達を置いてなんて行けないよ!」
チョウ・チャンとロンはセドリックと僕が連れ帰るとしても、それでは二人をここに取り残すことになってしまう。クラムとフラーがたどり着ければいいけど、彼らが本当にここに辿り着けるかどうかは分からない。よく見れば二人とも湖の冷たい温度のせいか顔色が青い気がする。僕には到底楽観的な思考で二人をここに放置することなど出来はしなかったのだ。
だからそんな状況下で、
「……そうだね。だったらこうしよう! 僕は取り敢えず、クラムがグレンジャーを迎えに来るまでここで待とう! もし彼が来なかったら
彼がそんな提案をしてくれたことは、僕にはひどく有難い提案に思えてしまったのだった。
何故彼がハーマイオニーの方で、僕がフラーの妹を任されたのか考えもせずに……。
セドリック視点
本当に僕は一体どうしてしまったのだろう。
そんな困惑した思いと同時に……どこか
「レディース、アンド ジェントルマン! 先程水中人の長と審査員が話し合った結果、それぞれの代表選手の得点が今決まりました! 本日は審査員の一人であるクラウチ氏が
……やはりそうなったかと思った。
ハリーと湖底で話し合っていた時にクラムが到着したため、僕は結局グレンジャーを連れ帰らずに済んだ。しかし最後まで彼がちゃんと彼女を連れ帰るかを確認しながら戻ったために、僕は結局二番目に人質を連れ帰る結果になったのだ。彼が一番に評価されぬ道理などない。
でも同時にこうも思う。僕はクラムの後に到着しても、それでも二番目に到着したことには違いない。ならばクラムの次に呼ばれるのは僕であり、僕は彼の次の成績を収められることだろう。第二の試練は二位の結果とはいえ、最初の試練は一位で通過したのだ。ならば総合的にはまだ一位をキープする可能性だってあるはず。
僕はそんな自分の中に僅かに存在する悔しさを抑え込みながら、次は自分の番だとその場で立ち上がる。
しかし、
「そして次の発表は二番目に到着したセドリック・ディゴリーを
何故か次に僕の番が来ることはなかった。困惑する僕を他所に解説員の発表は続く。
「彼女は素晴らしい『泡頭呪文』を使いましたが、水魔に襲われゴールにたどり着くことは出来ませんでした! 当然人質も取り返すことが出来なかったため、得点は15点!」
そして間髪入れることなく、今度は最後にゴールしたはずのハリーの発表を始める。どうやら僕は最後に回されたらしい。
「次は我らがグリフィンドールのハリー……マクゴナガル先生、冗談ですよ! さて次はハリー・ポッター! 戻ってきたのは最後だった上、一時間の制限時間もオーバーしてしまいました! しかし彼の使った『鰓昆布』は非常に効果が大きく、しかも何と連れ帰った人質は
一番最後に到着したことで心が折れかけていたのだろう。顔を青ざめさせながら俯いていたハリーが、発表を聞いた瞬間弾かれる様に顔を上げている。
「やったぜ、ハリー! 君は間抜けなんかじゃなかった! 君は道徳的な力を見せたんだ!」
そして歓声を上げるロナウド・ウィーズリーとハーマイオニー・グレンジャーにもみくちゃにされていた。今までで一番高得点の彼に、他の代表選手も含めて全員が拍手を送っている。
そしていよいよ、
「最後にセドリック・ディゴリー!」
ハリーに対する大歓声の中、僕の順番が来たのだった。ハリーの解説に大興奮していた観衆が、そう言えば僕もいたなと思い出したかのように一斉に黙り込む。そんな沈黙の中、リー・ジョーダンの発表は発せられた。
「第一の試練でも高得点であったセドリック・ディゴリーですが、今回も彼はやってくれました! 彼が湖面に辿り着いたのは2番! しかし実は人質の解放は代表選手の中で一番早かったとのこと! 彼もハリーと同じく、他の代表選手が他の人質を解放するのを待っていたそうなのです! クラムが
……最後の最後に僕の順番を回されたのはそういうことだったのか。途端にハリー以上の歓声が辺りに満たされる。想像もしていなかった結果に茫然とする僕に、横で待機していたチョウが大興奮した様子で声をかけてきた。
「やったわね、セドリック! 本当に素晴らしい結果だと思うわ! 何だか私……貴方のことを見直しちゃった! 本当に貴方ってかっこいいわ!」
絶賛片思い中の女の子からの思いがけない言葉。
しかし僕はその言葉が……何故か今はそこまで舞い上がる程嬉しいものには
「ありがとう、チョウ。君にそう言ってもらえると本当に嬉しいよ。最後の試練も頑張るね」
本当に僕は一体どうしてしまったのだろう。
思いがけない最高得点、そしてチョウからの嬉しい言葉。全てが全て僕にとってはどれも嬉しくて仕方ないものであり、本来であればこの場で小躍りする程求めてやまないものだったはず。
でもどうしてだろうか……僕はこの一連の結果に驚きこそすれ、大して達成感のようなものを感じきれてはいなかった。
寧ろこの
僕はチョウの言葉に微笑で返しながら、本来僕が目も向けることもなかったはずの、
そしてその中には、
「っ! ……なんだ、君も
この学校で唯一、代表選手である僕を本当の意味で支え続けてくれた
僕はおそらくチョウを連れて……いや、グレンジャーをクラムがちゃんと連れ帰ったのを確認し、自分の
あぁ、良かった……彼女が安心してくれている、と。
僕にはあの瞬間、彼女のいつもの無表情が……どこかとても
彼女のいる場所はスリザリン生が固まっている中でも日陰の中。僕の位置から正確に彼女の表情を確認することなど本来は出来はしない。でも僕には確かにそう見えたのだ。光の加減による勘違いだとしても、僕には確かに……。
そして今も、
「まったく……そんな表情が出来るなら最初からしてくれたら良かったのに。僕は今まで一体……」
僕には拍手をこちらに送ってきてくれている彼女の表情が、間違いなく
彼女の要望通りに行動したわけではないけど、彼女の
そのことに僕は……試合開始前にあれだけ望んでいた最高点を得た結果とは関係なく、どうしようもなく満足感を得てしまっていたのだ。
そんな僕と彼女の様子をムーディ先生が冷たい瞳で見つめていることにも気付かずに……。
ゴブレットも残り数話です(多分)