ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
「……こんばんは、セドリック」
ポッター
彼の死体には何処にも傷がなく、まるで本当にただ眠っているだけのような顔をしている。それこそ今この瞬間に再び起きるのでは思える程だ。
でも現実は違う。彼は死んでいる。試合前に、
『この学校一番の成績の生徒に褒めてもらえるなんて。君の言う通り不思議と緊張をあまり感じていなかったけど、君の言葉でより自信が出たよ。……今回も観戦してくれるんだよね?』
そんないじらしいことを言っていた青年は……もうこの世のどこにもいない。
それが分かっていても私はここに来ずにはいられなかった。私が行けば、彼はいつものように嬉しそうな声を上げてくれる。最初は警戒していたというのに、最後にはそれこそダフネと同じくらいの親しげな声で。そう心のどこかで思っていたのだ。
でももうその声も私は聞くことはない。
認めよう。いや、私は認めなくてはならない。私は彼のことを気に入っていた。最初こそ彼のことをただの駒だとしか思っていなかった上、今もそうであるべきだったと思っている。でも現実は違う。彼が死んでから、私は初めて自分の感情を素直に受け入れることが出来た。皮肉なことだ。もうどうしようもない段になって、私は自身の彼への感情を認めることが出来たなんて。
私は彼の……臆病でありながら家族を思い、家族や仲間のために勇気を振り絞る姿を非常に好ましく思っていたのだ。冒険や危険に憧れているわけではなく、等身大の普通の男の子としてただ家族のためを思う。その姿に私は非常に好感を抱いた。それこそただの駒でしかなかった彼を、ただ純粋な気持ちで応援し始める程に。
つまり彼はいつの間にか……私にとって初めてできた親しい年上の存在になっていたのだ。
「本当に愚かですね私は……。貴方もそう思うでしょう?」
当然答えなどない。いくら質問しても聞こえてくるのはポッターの寝息のみ。
聞こえてきたとしても、
『ダ、ダリア・マルフォイ。ど、どうして君がここに?』
そんな彼との思い出ばかりでしかなかった。
初めて彼とコンタクトを取った時のことを思い出し、何とはなしに表情が僅かに綻ぶ。思い返せば何だかつい先日のことのようだ。
初めは私のことを完全に警戒していたセドリック。当然のことだ。彼にとって私は恐怖の対象でしかなかった。他のホグワーツ生が全員私のことをそう思っているように。顔をこわばらせ、それでも必死に私に恐怖を悟られまいとしていた。
しかしそれも一時的なもの。最初に彼の一番欲していた言葉を与えたのが功を奏したこともあるが、彼はみるみる私のことを警戒しなくなっていた。クリスマス・パーティーの際に至っては、
『別に付き合っているわけではないんだ。ダンスを誘って、彼女が受けてくれた。それだけの関係さ。ま、まぁ、いずれは付き合いたいとは思っているけどね……』
私にチョウ・チャンとの恋愛話までする程に。もはや警戒も何もない。
本当に……彼は一体私なんかのどこに警戒心をなくす要素を見つけ出したのだろう。私はこんなにも……醜い存在であるというのに。結局彼に
そこまで考え、少しだけ綻んでいた私の表情が再びいつもの無表情に戻るのを感じた。明るい思い出は全て暗い罪悪感に飲み込まれ、口から漏れ出る言葉は、
「ごめんなさい……」
もはや謝罪の言葉しかあり得なかった。
静かな医務室に私の謝罪の言葉が溶けていく。謝罪しても何も変わらない。謝罪をするべき相手はもうこの世にはいない。出来たとしても、これからのことを思うと出来るはずもない。本来なら彼の死を嘆き悲しんでいるであろう両親に謝るべきなのだろうが……それも私には出来ない。私は失敗したのだ。セドリックという犠牲を払ったにも関わらず、最終的に奴の復活を防ぐことすら出来なかった。
そう私を人を殺すための道具として生み出し、マルフォイ家を未だに縛り続ける
奴が復活した以上、私が今まで通りの平穏な日常を過ごすことが出来るとは到底思えない。だからこそ奴の邪魔を少しでもしようと、私にできる範囲のことを手探りで行っていたというのに……。しかもそれが今考えると本当に奴の計画を邪魔する最適解であったというのに……結局私は何もすることが出来なかった。
得たのはセドリックをただ殺してしまったという罪悪感のみ。私の平穏は今日をもって崩れ去ったのだ。
本当に嫌になる。セドリックを殺したというのに、結局未だに自分の心配ばかりしている。彼からすれば薄情極まりない怪物に思えることだろう。
だからこそ思うのだ。
確かに私はセドリックの死に対して罪悪感を感じている。でも……私は本当に彼のことを悼み切れているのだろうか、と。
本当は罪悪感より不安の方が強いのだ。
彼の死を悲しむ気持ちはあるのに、それ以上に将来の不安感の方が先立っている。寧ろ彼の死に罪悪感を感じることが、私に課せられた義務でしかないように感じている。
こんなことが許されるのだろうか。
こうしてここに来たのも、私自身に改めて自身の罪を認識させるためなのだ。そうしなければ彼の死を真の意味で実感することも出来ずにいる。未だに彼が突然起き上がり、
『やぁ、ダリア』
などと声をかけてくるのではないかと心のどこかで期待しているのだ。
頭では理解していても、突然彼が唐突にいなくなってしまったことに実感が湧かない。何だかセドリックと共に同じ時間に置き去りにされたような気分だ。
それとも私は……本当は彼の死をどうでもいいことと本心では感じているのだろうか。私は彼とこの一年ずっと会話していたのに……私が彼を殺したというのに、彼のことを本当はどうでもいいと本心では……。
これでは彼のことを忘れて眠りこけている城の連中と同じではないか。
だから私は繰り返す。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
何度も
私がセドリックを殺したのだと。だから……どんなに実感が湧かなくても、もうこの世にセドリックはいないのだと。
繰り返す。私はただ繰り返す。
「ごめんなさい……。ごめんなさい……」
しかしそれでも……夜がいよいよ更け、私もそろそろダフネやお兄様が待つ談話室に戻らなくてはならない段になっても私は結局、
「ごめんなさい……」
私は彼の死を真の意味で実感することも出来ず、
……私は皆とは違う。
私はニンニクの臭いが耐えられない程嫌いだ。
でも大丈夫。そんな私を思って、お母様とドビーはいつも私の食事からニンニクを除けておいてくれる。
私は一月に一回血液を飲まなくてはいけない。
でも大丈夫。そんな私にお父様達は毎月血液を送ってくださっている。ホグズミードに行ったダフネが吸血鬼用の飴をこっそり買ってきてくれる。
私は人より力が強い。何も対策をせねば、それこそ日常生活すら満足におくれない。
でも大丈夫。そんな私にお父様は手袋を下さった。これをつけてさえいれば、私は少なくとも力に関してだけは普通の女の子になれる。
私は銀の食器を使えない。
でも大丈夫。そんな私にお父様達は木製の食器を与えて下さった。これさえあれば私も家族と食卓を囲むことが出来る。
私は日光の下を歩けない。皆と共に外で遊ぶことも出来ない。
でも大丈夫。私にはお兄様やダフネがいる。外に出れない私に付き添い、私と共に過ごしてくれる人達が。
私は蛇と話すことが出来る。それは私が奴に作られた存在であることを何より表している。
でも大丈夫。こんな人間でもない私を、マルフォイ家やダフネは受け入れてくれた。私の幸せはこの大切な人達の中にこそある。
でも……それなのに私は……やはりそれでもどうしようもなく、そんな美しい世界を穢す怪物でしかなかった。
何故なら私は……セドリックを
罪悪感を感じてはいても、
……涙の一つも流してあげることが出来ないから。
私は思う。
もし私があの時少しでも今年起こることの一端を掴んでさえいれば。
私は彼を……セドリックを殺さずに済んだのではないか? 怪物になる、その第一歩を踏み出すことは無かったのではないか?
そう、私は今年の最後に思ったのだった。
……でも、こうとも思っていた。
もし私が気付いていても……私は結局彼を
義務感からでなくとも……その魂から湧き上がる衝動によって……。
親しい人の死に涙も流せない。私という怪物はどう足掻いても、どう運命に逆らおうとも……決して怪物であるという事実から逃れることは出来ないのだから。
……もう私には怪物になるしか道が残されていないのかもしれないのだから。
だから私は最後まで、
「ごめんなさい」
ただ涙もなく、中身のない謝罪の言葉を繰り返すしかなかった。
ダンブルドア視点
「ダ、ダンブルドア! 一体どういうことだ!? ム、ムーディが偽物だった!? この学校は世界で一番安全な場所なのではなかったのか! だ、だからこそ私はここに来たのだぞ!」
校長室にカルカロフの怒鳴り声が響く。彼にはここに来た当初の余裕など欠片ほどもなく、表情や服装もどこかやつれたものにすら見えた。
原因は勿論ヴォルデモートの復活。今夜は彼にとって最も恐れていたことが起こった日じゃろう。
カルカロフは他の死喰い人を売ることによって生き延びた。それをあのヴォルデモートが許すとは思えぬ。つまり彼の運命は……今日決まったということじゃった。
彼に残された道は二つのみ。一つは何とかヴォルデモートから逃げ延びること。魔法省がヴォルデモート復活を認めておらん状況で、奴から逃げ延びるのは至難の業じゃろうが……もはやそれしか道はない。
無論もう一つの道もあるにはある。それは、
「そうじゃ、カルカロフ。その件についてはワシの目が耄碌しておったとしか言えぬ。全てはワシの責任じゃ。じゃが……カルカロフよ。それでもワシはここを世界で最も安全な場所じゃと……いや、そうしようと全力を注ぐ心づもりじゃ。ここには来年も生徒達が変わらず通い続けるのじゃからのぅ。じゃから……もしお主が良ければ、お主もここに身を隠さぬか?」
このままここに留まるという道じゃった。
彼を信用しておるわけではない。横に控えておるセブルスなど、表情からワシの提案を完全に間違ったものと思うておることが伺える。じゃがもしここで彼を見捨てれば、彼は十中八九殺されてしまうじゃろう。それを分かっておりながら、彼にむざむざ見捨てるのは人の道に反すると思うたのじゃ。
じゃが残念なことに、カルカロフの僅かにあったワシへの信頼感は今回の一件で完全に崩壊したのじゃろう。ワシの提案に更に怒りを募らせた様子で続けた。
「馬鹿なことを! そう言って私を使い倒すつもりなのだろう! そう言ってお前は私を殺すつもりなのだ! 何がここは世界で最も安全な場所だ! まんまと出し抜かれていながら、よくも抜け抜けと! それにここにはマルフォイの娘がいる! あの純血貴族の間でも有名な、ダリア・マルフォイ
「無論吾輩は反対だ。こちらとしてもお前のことを信用などしておらん。出て行きたければ出て行くがいい。別に誰も止めはしない」
「そら見ろ! ここにいれば今度はお前達に……それにダリア・マルフォイに殺される! こんな所にこれ以上いられるか! 言っておくがな、セブルス! 今お前はそうやって平然としているが、お前も俺と同じ立場なんだぞ! ダリア・マルフォイに取り入ったからと言って、お前が助かる道などありはしない! 闇の帝王は決して裏切り者を許すことがないのだ! くそ! こうしていられない! 私は今すぐ逃げるぞ!」
「……お主の生徒達はどうするつもりじゃ? 今校長であるお主に置き去りにされれば、」
「知るかそんなこと! あいつらは私が権力を得るための道具に過ぎない! それも命があってのことだ! ガキ共のことなど考えていられるか!」
そして一通り怒鳴り散らした後、カルカロフは校長室を出てゆく。
これで彼は本当に逃げるしか道がなくなった。彼が逃げきれればよいが……それも望みは薄いじゃろう。
ワシはおそらくこれが
「……残念なことになったのぅ。ワシとてカルカロフのことを信用してはおらぬが、死んでほしいと思うたことなどない。それにヴォルデモートに捕まれば、彼はもっと悲惨な目に遭うやもしれん。出来ることなら目の前の命を助けたかったが……」
「幻想ですな。奴は信用できない。奴は簡単に裏切るような男だ。もし闇の帝王が奴を許す代わりに、何かしらの情報をもたらすよう提案すれば……奴は間違いなく再び向こうに寝返ることでしょう。そんな者をこの城の中に置いておけるはずがない。だからこそ、貴方も止めなかったのでしょう?」
セブルスの言葉にワシは何も言えんかった。つくづく嫌な年の取り方をしたものじゃ。セブルスの言う通り、ワシは提案こそすれ最後まで彼を留めようとはせんかった。寧ろ彼がここを去ったことでホッとしてすらおる。彼が殺される可能性が高いと分かっておりながら……本当に嫌な立場になったものじゃ。
しかしそれを議論しておっても何も変わらぬ。事態は今こうしておる間にも刻一刻と悪化しておる。ファッジが護衛として連れてきた吸魂鬼によって、唯一の証人であるクラウチ・ジュニアは物言わぬ屍同然の状態になってしもうた。そしてファッジも恐怖のあまりヴォルデモートの復活を認めようとはせん。全てが奴の都合のいいように進んでおる。リリーの守り呪文も、ヴォルデモートがハリーの血を使って復活したため奴にはもう効かぬ。……もっともそれにより逆に奴がハリーを殺すことが
やらねばならんことは山ほどある。ハグリッドにはもう出立の用意を言い渡しておる。彼が巨人と上手く交渉できれば、敵の戦力を大幅に削ることが出来る。そしてアラスターには嘗ての『不死鳥の騎士団』メンバーへの声掛けを。解放されたばかりのところを申し訳ないと思うたが、早急にこれを成し遂げねば敵の勢力に対抗出来ぬ。
そして最も大切な仕事は、
「セブルス……早速で悪いが、すぐに奴の下へ。これはお主にしか出来ぬことじゃ。お主に最も危険な仕事を任せることになるが……」
「分かっております。そのために吾輩はここにいたのですから」
セブルスに
じゃからこそワシは迷いながらもセブルスにその任務を与え、彼も彼でそれを分かっておるからこそ、こうして迷いなく校長室を後にしようとしておる。
全てはリリーの息子であるハリーを守るために。
……じゃが彼にも全く何も悩みがないわけではないらしかった。校長室のドアを開ける直前セブルスは一瞬立ち止まり、ワシが最も懸念しておる不安を口にする。
「それはそうと……。まさかダンブルドア。貴方までポッターの妄言を信じているわけではありませんな?」
「……妄言とは何のことじゃ、セブルス」
「分かり切ったことを聞かないでいただきたい。
その質問にワシは黙り込むしかなかった。
ワシはダリアを警戒しておる。彼女には嘗てのトムと同じ空気があり、そして今までの行動も不可解極まりないものが多い。じゃが今まで知り合ってもおらんはずの彼女をトムが気にかけておる。それもまだまだ14歳の少女を。それがワシにはどうしても納得できることではなかったのじゃ。
……じゃが同時にハリーが嘘を吐いているとも思えぬ。ハリーは素直な子じゃ。あの場で態々ダリアの名前を出してまで嘘を吐くはずがない。ハリーが証言したのじゃから、それは間違いなくトムがダリアのことを言及したということなのじゃ。
今回明るみになったセドリックへの介入、そしてヴォルデモートの言葉。ますます彼女への警戒心が募るばかりじゃ。彼女にはあまりにも不可解な要素が多すぎる。内心ではこれまで以上に彼女を警戒しなければならんと……ましてや彼女はただでさえあのルシウス・マルフォイの娘なのじゃから警戒せぬ道理はないと思うた。彼女が敵の戦力になればあまりにも大きな脅威となる。
もっともそれをセブルスに素直に答えても仕方がない。彼はスリザリンの寮監であることからダリアを気に入っておる節がある。どこか彼女への目が曇っている所のある彼に、重要な任務直前に余計なことを言うても始まらん。
ワシは一瞬の逡巡の後、セブルスに神妙な声音で答えたのじゃった。
「全てを信じておるわけではない。彼が勘違いしておる可能性も十分にある。じゃからこそお主の情報が必要なのじゃ。ハリーの発言の真偽を確かめるためにも、今は一刻も早く奴の下へ。何もかもが不確かなことじゃ。それをお主にこそ確かめてほしいのじゃ」
ワシの答えにセブルスの仏頂面が更に歪んだものになる。余計なことを言ったつもりはないが、やはりワシの答えに一抹の不信感を抱いたのじゃろう。じゃが今はそれを議論しておる暇はないと思うたのか、彼はそのまま何も言わずに今度こそ校長室を後にする。
残されたのは彼の今しがた出て行ったドアを何とはなしに見るワシと……そんなワシをどこか非難がましく、そして同時に悲し気な瞳で見つめるフォークスのみじゃった。
ハリー視点
「……まずはじめに、ワシらは一人の立派な生徒を失ったことを悼まねばならぬ。本来ならそこに座っておるはずじゃった。そして皆と一緒にこの宴を楽しみ、いつもと変わらぬ笑顔を見せてくれるはずじゃった。じゃが……彼は亡くなってしまった。さぁ、皆起立して杯を上げよう。……セドリック・ディゴリーのために」
一年最後の宴。大広間にダンブルドア先生の悲し気な声が響く。
一年最後の宴といえば、いつも壮大で華やかな装いが大広間中に施されていた。でも今はそんなものは一つもない。教員職テーブルの後ろの壁には黒の垂れ幕がかかっており、一目でそれがセドリックの喪に服しているものだと分る。そんな中まず初めにダンブルドアが発した言葉によって、大広間にいる全員が一斉に起立したのだった。
誰も彼もが悲し気な表情を浮かべている。ハッフルパフは勿論、あのスリザリン生達ですらどこか神妙な表情をしている。
ただ一人……ダリア・マルフォイを除いて。
あいつの方を見れば、この大広間でただ一人いつもの無表情を浮かべていた。そこにはセドリックの死への悲しみなど微塵も感じられない。
僕同様……あいつもセドリックを
僕はあいつの無表情を睨みつけるが、その間も皆の唱和が響いた後ダンブルドアの言葉は続く。
「セドリックはハッフルパフ寮生の中でも特に模範的な生徒じゃった。忠実な良き友であり、勤勉であり、フェアプレーを尊んだ。更には誰よりも
その瞬間、僕は決して見逃さなかった。一瞬だけ表情こそ無表情であっても、ダリア・マルフォイがダンブルドアの言葉を鼻で笑うような仕草をしたのを。セドリックを勇敢だと言ったダンブルドアを小馬鹿にしたような態度だった。まるでダンブルドアは
でも次に発せられたダンブルドアの言葉により、僕もあいつにばかり気を取られてはいられなくなる。何故なら彼の言葉は、
「……しかしそんな試合の最中、彼はヴォルデモート卿に殺されたのじゃ」
あまりにも唐突に示された真実だったから。
大広間に恐怖に駆られたざわめきが走る。僕もあまりの事実にロンやハーマイオニー以外の生徒に真実を話してはいなかった。知っているのはムーディに扮するクラウチから解放された後、医務室で僕の話を聞いたメンバーだけだ。だからこれが皆が真実を知る初めての機会だったのだろう。皆まさかという面持ちで、恐ろしそうにダンブルドアを見つめている。大広間の所々で、
「あ、あり得ない。だ、だってあの人は死んだって……」
「な、何の冗談だ? だって魔法省はセドリックのことは事故と……」
恐怖の声がしばらく上がり続けていたが、それをダンブルドアは手で制すと厳かな口調で続けた。
「……魔法省はワシがこのことを皆に話すことを望んでおらん。彼の死はただの事故じゃったと発表してすらおる。それは魔法省もヴォルデモート卿の復活を信じられぬから、いや、信じたくないからじゃ。しかしワシは大抵の場合、真実は嘘に勝ると信じておる。それに嘘で事実を塗り固めることは、死んでいったセドリックへの侮辱じゃ。彼は決して己の失敗で死んだのではない。ただ運がなかった。彼は偶々ヴォルデモート卿の前に躍り出てしまったばかりに殺されたのじゃ。それでも彼は最後まで勇気をもって敵に立ち向かった。それを決して忘れてはならんぞ」
今までざわめいていた大広間もダンブルドアの言葉で再び静まり返る。彼等が僕のもたらした事実を信じてくれたかは分からない。大広間を見渡せば恐怖に顔を青ざめさせている生徒もいれば、所々に胡散臭そうな表情でダンブルドアの方を見ている生徒もいる。スリザリン席に至っては完全に馬鹿にした表情で彼を見ている生徒ばかりだ。でも、それでも皆が黙り込んでいるのは、ここがセドリックの死を悼む空間だということにあらためて気づいたからだろう。表情はそれぞれ違っても、皆再び彼の死を悼むように黙り込んでいる。
……やはり一人だけ、ダリア・マルフォイを除いて。
あいつはあろうことか静まり返る大広間の中、突然外に向かって歩き始めたのだ。突然の行動にあいつの周囲の生徒だけは驚いた様子であるが、大多数の人間は悼むように俯いているためあいつの行動に気がついてはいない。僕が気付けたのも、あいつと同じく大広間で一番入り口に近い場所にいたのもあるが、僅かでもあいつの方に警戒する意識を向けていたからだ。視界の端で動いた白銀の髪に目を向ければ、そこには丁度大広間を出て行くダリア・マルフォイと、その後に続くグリーングラスにドラコの姿があった。
僕は周りの人間が目を伏せているのを確認すると、そっと奴らの後を追って大広間を後にする。
医務室で僕がダリア・マルフォイの話をした時、ダンブルドアやウィーズリー家の皆こそ信じてくれたが、ハーマイオニーなどは、
『またそんなことを……ダリアがそんなことになるはずがないでしょう』
そんなことを呆れた顔で呟いており、スネイプも小馬鹿にした表情で僕を見ていた。スネイプはどうでもいいが、ハーマイオニーがあいつのことを信じたままなのは非常に危険だ。
ヴォルデモートが復活した以上、来年からも呑気に敵側の人間と付き合っていればどうなるか……考えるだけで恐ろしかった。
だから僕はこれからあいつをハーマイオニーから引き離すためにも、あいつに
本当は言いたくなんてない。でも……
それが彼を、
『優勝杯を掴もう。……でも二人ともでだ。二人一緒に取ろう。それならホグワーツの優勝に変わりはない。二人で引き分けだ』
殺してしまった僕に課せられた義務なのだから。
あいつはいつも大勢の取り巻きを引き連れて行動している。セドリックの死を悼むこの式典で抜け出すのはどうかと思ったけど、あいつが数人で行動していることなどグリフィンドールである僕は滅多に見かけない。なら今しかないのだ。この際グリーングラスやドラコが一緒にいることには目をつぶろう。
そう思い僕は、
「ダリア……大丈夫?」
「……ごめんなさい。何だかあの老害が
「ダリア・マルフォイ!」
大広間から少し離れた廊下で、何かボソボソと話している奴らに話しかけたのだった。
僕の大声に三人が一斉にこちらに振り返る。そして一瞬でドラコとグリーングラスが、まるで僕からダリア・マルフォイを庇うような立ち位置に移動しながら返事をした。
「ダリアに何の用、ポッター? 貴方がダリアに話すことなんて何もないと思うけど。何故
「そうだ。それにお前は大広間にいた方がいいのではないのか? ほら、お前は
出だしから挑発的な言動だった。特にドラコから発せられた言葉は僕が今最も気にしている事柄で、一瞬怒りで我を忘れそうになった。僕が話していないため、まだ生徒達の大勢はあの日何があったかを知らない。でもダンブルドアが大広間で話した以上、いずれは皆にもあの日のことは徐々に知れ渡っていくと思うし、ましてやこいつらの親はあの場にいたのだ。こいつらが既にあの夜のことを知っていてもおかしくはない。でもだからこそ腹が立った。全部を知っていながらこんな挑発的な態度を。こいつらはヴォルデモートの復活を恐れてはいない。それどころか歓迎してすらいる。そしてその過程で犠牲になったセドリックのことなんてどうでもいいと思っているのだ。
僕がこんなにも彼の死で苦しんでいるにも関わらず。
ダリア・マルフォイがどうしてセドリックを優勝させようとしていたのかは分からない。でもそれが
『……それはダリアがあの人の復活を邪魔しようとしていたからよ。彼女は気付いていたんだわ。例のあの人が何をしようとしているかを。彼女だけは敵が貴方をただ殺そうとしているのではないことに気が付いていた。……あの子は誰よりも賢いから。でも……それで彼女は……。あぁ、
いつもの妄言をしていたけど、こんないつもの冷たい無表情を浮かべている奴がそんなことをしようとしたはずがない。少なくともセドリックをただの自分に都合のいい駒だと思っていたのは間違いないのだ。
こいつらを見ているとムカムカした熱い怒りが溢れそうだった。
でも僕はそれをグッと我慢し、こいつらから早く離れるためにも用件だけ口にした。
「……ダリア・マルフォイ。お前に伝言がある。……
その瞬間、いつもの無表情こそ変わらなくとも、ダリア・マルフォイは二人の影から勢いよく顔を出す。
言葉はない。ただ黙って僕の言葉を待っている様子だ。そんなあいつに、僕は吐き捨てるように彼の言葉を伝えたのだった。
ヴォルデモートの杖から出てきた彼が残した……ダリア・マルフォイへの最後の言葉を。
彼の影は出てきた時言った。両親のもとに死体を持ち帰ってほしいと。そして……
「ごめん、ダリア。
そんな意味不明で短い言葉を。彼の影はどこか悲しそうに……そんな言葉を僕に託したのだ。
僕はそれを言った切り、即座に踵を返して大広間の方に戻る。これで義務は果たした。僕がこれ以上こいつらと不愉快な会話をする必要なんて無いのだ。
それにこれでもう……こいつらとは完全に敵味方に分かれるのだから。
だから、
「そう……貴方は最後までそんなことを気にしていたのですね。実に貴方らしい。……貴方は
背後にいたダリア・マルフォイが先程までの無表情ではなく、その薄い金色の瞳から一筋の
「さようなら、セドリック……。ようやく貴方に……お別れが言えました。ようやく私は……貴方の死を
……僕は最後まで気が付くことはなかったのだ。
ハーマイオニー視点
思えばもう全てが遅かったのだと思う。
あのハリーが三大魔法学校対抗試合最後の試練に挑んだ日。あの日の夜に、今まで信じて疑わなかった日々が終わった。……全てがもうどうしようもない所に行ってしまった。
でもそんなどうしようもない事実に私は気づいてはいなかった。……気付いていても、本当の意味で信じてはいなかった。
確かに例のあの人は復活した。ハリーが言うのだからそれだけは間違いないと思う。これから始まるのは戦争。きっとこれまで通りの生活は大きく変わる。
でも決して変わらない物もあると信じていたのだ。
そう、この日までは……
「ではカルカロフがいなくても、貴方達はダームストラングに戻れるのね?」
「そうです。カルカロフヴぁ、家事を全部ヴォく達にやらせていました。だからカルカロフがいなくなっても何も変わらない」
煙を吹きだし、今か今かと走り出すのを待っている汽車の手前、私は今年に仲良くなれたビクトールと最後の別れをしていた。
ハリーからビクトールが最後の試練で『磔の呪文』を使ったとは聞いていたけど、『服従の呪文』をかけられていたことでお咎めなしで済んでいた。だからこうして元気一杯に私の元に別れの挨拶をしに来てくれたのだ。辺りを見回せば彼だけではない。ダームストラング生どころか、ボーバトンの生徒もホグワーツ生と別れを告げ合っている。そこには純粋な名残惜しさだけがあり、皆お互いのことをもう本当の友人だと認識していることが雰囲気だけで察せられた。私達の近くではフラーとハリー、そしてロンがにこやかに挨拶しており、ハグリッドとマダム・マクシームの話し合っている姿まである。
それは三大魔法対抗試合が本来の目的を果たせたことを何よりも表していた。
そうこれこそが敵に立ち向かうのに必要なことなのだと思う。
友人達との絆。これこそが強大な敵に立ち向かう力に。
私はこの光景を見て表情が自然に綻ぶのを感じながら、そう心の中で再確認していた。
そしてそれは、
「それではね、ビクトール。手紙を書くわ! また機会があれば会いましょう!」
「あぁ!
いよいよ汽車が動き出し、彼と別れることになっても変わりはない。
私はあまり友達作りが得意な方ではないことは自覚している。でもそんな私に出来たホグワーツ生以外の友達。これが嬉しくないはずがなかった。
だから私はこの縁を作ってくれたダリア達に改めて感謝の言葉を口にしなければいけないと思ったのだ。
それにダリアのことが心配なのもある。彼女は最後の試練の日から、遠目にも分かる程
だから私はクラムやフラーに大きく手を振るハリーや、その横で少しだけ複雑な表情を浮かべながらもしっかり手だけは振っているロンに隠れて汽車の中を進む。あの日からどうにもハリーが本気で私をダリア達の下に向かわせないようにしていたことから、私は容易には彼女に近づくことが出来なかった。彼女達に会うならこのタイミングしかない。ドビーを介したやり取りも今では
『……申し訳ありませんです、グレンジャー様。お嬢様から返事のお手紙は
ダリアから返事が返ってこなかったのだ。これを逃せばいつ彼女と話せるか分かったものではない。
私は彼女に会って伝えなければならない。ビクトールと引き合わせてくれたことへの感謝を。そしてセドリックの死は、決してダリアのせいなどではないのだと。
果たして彼女がいるコンパートメント自体はすぐに見つかった。
視界の端にあの特徴的な白銀の髪が見える。そしてその周りにこれまた綺麗な金髪に、ホワイト・ブロンドの髪。三人のみで一つのコンパートメントを占拠しており、幸いにもいつも彼女達を取り巻く取り巻きは中にはいない。
私は友人達の存在に喜び、その喜びのまま扉を開け、
「ダリア、ダフネ! 良かった! ここにいた……のね」
その恰好のまま固まることになる。
何故ならコンパートメントの中は……異様な程
別に部屋の中が暗いわけではない。ダリアの体の関係でカーテンこそ閉められているけど、それでもコンパートメント内を照らすには十分な光が入り込んでいる。
しかしそれでもコンパートメントの中が異様に暗いと思えたのは……偏にダリアの醸し出す空気があまりにも暗かったからだ。
ダフネの肩に頭を乗せた状態の彼女は、私の方に一瞬視線を向けても、またすぐにまるで私のことを
「あ、あぁ、ハーマイオニー。よく来たね……」
どこか困ったような曖昧な笑みを浮かべるだけのダフネ。彼女達の醸し出す空気はどこまでも暗く、とても外の天気が快晴だとは信じられないようなものだった。
私はあまりの空気に気圧されながら、それでもここで踵を返すわけにはいかないとコンパートメントの中に踏み入る。
そしてまず話の取っ掛かりとして当たり障りのない会話から始めることにする。……いきなりセドリックの話をすれば逆効果になる可能性がある。だからまずダフネが片手に持っている今日の『日刊予言者新聞』のことについて話題を振ることした。
……その間も、決してダリアがこちらに目を向けることはなかったけれど。
「その記事、何も書いていなかったでしょう?」
「う、うん、そうだね。私も今見てびっくりしちゃった。あんなことがあったのに、三大魔法学校対抗試合のことさえ何も書いてない。魔法省が黙らせているのだろうけど、まさかここまで何も書いてないとは思っていなかったよ。リータ・スキータ辺りは絶対黙ってないと思ったんだけどな~。あの記者、あんな嘘八百な記事を書きたてたくせに、こういう時にはだんまりを決め込んでいるんだね。いよいよふざけた記者だよ」
ダフネの少しだけ怒りが滲んだ言葉に私は内心ほくそ笑む。彼女達が魔法省の愚かな見解を信じていないと再確認できたこともあるが、これは彼女達の興味を引ける話題を提供できるかもしれないと思ったのだ。数ある嫌なニュースの中でも、これだけはいいニュースだった。きっとこの子達も喜んでくれるはず。
そう思い私は、
「それなのだけど……実はリータは記事を書いていないのではないの。今は
カバンの中から一つのガラス瓶を取り出したのだった。
中には小枝や木の葉と一緒に、大きな太ったコガネムシの姿をした……リータ・スキータが入っていた。でも彼女達は私が何故このタイミングで一見コガネムシの入った瓶を取り出したのか理解出来た様子ではないため、私はやはりにこやかに話を続ける。
「つまりね、彼女は無登録の『
話題の効果としてはてき面だった。ダフネとドラコは目を見開きながら瓶の中身を見つめ、ダリアも視線だけはこちらに向けてくれている。最も効果がありすぎて、
「成程! 流石はハーマイオニーだね! ちなみにどうやってあの記者だって確認したの?」
「この瓶に閉じ込めて、正直に反応しなければ一生この瓶の中よって言ったら、本当に素直に反応してくれたわ。あれでただのコガネムシということは無いはずよ。それに安心して。この瓶には汽車に乗る前、中からは外の状況が見えないように魔法をかけておいたから。これでこの女が私と貴女達が一緒にいるとは分からないはずよ」
「そうなんだ! 貴女がそう言うなら間違いなくそうだね! ねぇ、ついでに
ダフネが少し暴走気味なことを言い始めたけれど。どんなに嫌な女であっても、まさかカエルの餌にするわけにはいかない。私は慌ててリータ・スキータをカバンに再び隠しながら次の話題に移ることにした。
「だ、駄目よ、そんなことしては。それに彼女とは約束してるの。もし魔法省に『
私はそこで一度言葉を切り、これからが正念場だと覚悟して言葉を続ける。
でも、
「私、ハリーから聞いたわ。今年あった色々なことを。……貴女がずっとセドリックを手助けしていたことも。でも私は、」
「グレンジャーさん。用件はそれだけですか? ならすぐにここから出て行ってもらっていいでしょうか。私はこれ以上貴女の話を聞くつもりはないので」
その覚悟は……ここに入ってきた時同様、ダリアによっていきなり遮られてしまったのだった。
セドリックの名前を口にした瞬間、ダリアが無表情で私の方を見つめる。そこには明確な拒絶な意志だけがあり……以前まで私に見せてくれていた不器用でも暖かいものはどこにもありはしなかった。
思えばもう全てが遅かったのだと思う。
私はやはり甘かったのだと思う。
何も変わらない。たとえ『例のあの人』が復活しても、決して優しいダリアが変わるわけではない。
あの人がダリアのことを知っていても……それこそ死喰い人にしようとしていたとしても関係ない。彼女は彼女。誰よりも優しく、そして決して敵にはならない子なのだと。そう私は無意識に思っていたのだ。
だから私は……どうしようもない愚か者だった。
考えてみれば変わらないはずがなかった。彼女自身が変わらなくとも、決して彼女の周りの状況は……彼女をただの優しい女の子であることを許してくれないのだ。
彼女の愛する父親が敵側にいるということは、すなわち彼女も敵側にいなければ、その父親の立場や命も危うくなることなのだから。
それは決して彼女と私が友人であっても……私達の道がもう
ダリア視点
「……ダリア、本当に良かったの?」
「……もうこれしか道はないのです。それに彼女にとってもこっちの方がいいのです。寧ろ今までおかしかったのです。私と付き合いがあれば……彼女も危険な立場になってしまうから。だからこれでいいのです。……これしかないのです」
ホグワーツ特急がロンドンに到着し、汽車の中にいた生徒達も今はプラットホーム内で家族との再会に喜びの声を上げている。
そんな中私とダフネは、遠くからこちらに何かもの言いたげな視線を送るグレンジャーさんの存在を感じながら話し込んでいた。ダフネと違い、私は決して振り返らない。
彼女に決して残酷な希望を持たせないために。……私が決して、余計な希望を持たないために。
グレンジャーさんが私を慰めようとコンパートメントに来てくれたことは分かっている。彼女のあの様子だと、ポッターから全てを聞いたのだろう。それこそ私が今年何をしていたかを含めて。
それでも彼女は私の所に変わらぬ態度で来てくれた。それは彼女もまたダフネと同じように、
『ダリア……貴女は決してセドリック・ディゴリーを殺したわけじゃない。貴女のせいなんかではないよ』
そう言ってくれようとしたのだろう。グレンジャーさんもまた、ダフネと変わらぬ優しさを持っているから。
でもだからこそ……もう私は彼女と共にいるわけにはいかない。
闇の帝王が復活したから。私はもう……今までのように平穏な日常を生きることを許されないから。
だから私は決して振り返らない。グレンジャーさんが私を慰めてくれようとした瞬間、
『私はこれ以上貴女の話を聞くつもりはないので』
そう言って無理やり部屋から追い出した。彼女と決別するために。それを悲しそうな視線を送っているからというだけで彼女の方に振り返れば、先程の行動の全てが無意味なものになってしまう。
それにあくまで彼女は、
「……でも、ダリア。私は彼女とこれからも話し続けるよ。だって彼女は私の友達でもあるもの」
「……えぇ、彼女は
私の友人ではなく、ダフネの友人でしかないのだから。寧ろこれまでがどうかしていたのだ。彼女にはドビーと再会させてもらった恩がある。でもそれだけだ。彼女と永続的に付き合い、彼女に
だから……これでいいのだ。
私は内心で湧き上がる寂しさを抑え込みながら、何とか苦心してダフネに別れの挨拶をする。
「では、ダフネ。また……手紙は書きます」
「うん……今年も私は毎日書くよ。だからダリア……」
「そんなに悲しそうな表情をしないで下さい。……貴女
そして今までで一番暗い雰囲気の別れを済ませた後、私は後ろで黙って待っていてくださったお兄様の下に向かう。
背中にダフネと……そしてグレンジャーさんの悲し気な視線を感じながら。
お兄様はそんな私を迎えると、そっと一言だけ尋ねてくる。
「ダリア。……大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です」
「ふん。そうであればどれだけいいことか。そんな表情をして大丈夫なはずがないだろう。……だからダフネとも
しかしどうやら最初から私の返答など聞いていなかったらしく、私の返事に取り合うことなく歩き始めたのだった。
私はどこか釈然としない気持ちで、汽車の窓ガラスに反射するいつも通りの無表情を眺めた後、前を進むお兄様に続いて歩き始める。
そんな中ふと、去年も同じようなやり取りをお兄様としたことを思い出した。もっとも去年と今年では全てが逆なのだが……。
だがそんな益体のないことを考えていても、時間という物は問答無用に進み続けていく。ホームを歩いていると、これまた去年と同じく、いや、
……お母様の姿はホームのどこにも存在しなかった。しかもお父様は開口一番、
「ダリア、ドラコ。良く戻って来たな。だが帰ってすぐで悪いが、ダリア。お前にはすぐに会ってもらわねばならんお方がいる。シシーには
そんな不吉な言葉を添えていたのだ。
あのお方。名前こそ明言されてはいないが、このタイミングでお父様がここまで丁寧な対応をする相手など一人しかいない。
つまり私は……これから
いよいよこの時が来てしまったかと思う私の手を、お父様はやはり上機嫌に握った後『姿現し』をする。
果たしてそこは私の愛してやまないマルフォイ家だった。無能な魔法省のせいで奴はまだ世間では死んだことになっている。それを奴は最大限利用するため、こうしてどこかに隠れ潜みながらお父様を含む『死喰い人』に指示を出しているのだろう。そしてその栄えある隠れ家にマルフォイ家の屋敷を選んだと……。いよいよ気分が沈んでいくようだった。
「ドラコ、お前は自分の部屋に戻りなさい。お前にはまだ早い。だが……ダリア、さぁ、お前はこっちだ。あのお方は首を長くしてお前をお待ちだ」
しかし……私の運命は、相変わらず否が応でも決められた方に進んでいく。
不安そうなお兄様を置き去りにし、私はお父様の書斎に連行される。そしてそこにこそ、
「あぁ……ダリア・マルフォイ……で合っているな? 無論お前ならば俺様が何者であるか分かっているな?」
私を人殺しの道具として創り出し、今なお私の運命を縛り付ける……闇の帝王がいたのだった。
今年も色々なことがあった。
その中でも一番印象に残ったのは……おそらく別れだったように思う。寧ろ一年間色々あったというのに、もう私の中には別れしか残ってはいない。
セドリックとの別れ。あのムーディに化け続けていた男との別れ。グレンジャーさんとの別れ。
そして……今まで大切にしてきた、私の愛する日常との別れ。
別れたものは……失ったものは二度とは戻らない。どんなに望んでも、どんなに嘆いたとしても。
だから私は告げる。セドリックの遺言を聞いた時と同じように、
「初めまして、我が主。私の……
私は今までの日常に、そっとそんな