ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
1991年9月1日キングズ・クロス駅
ダリア視点
ホグワーツの学用品を買い終え二か月。私はその間、これまでの勉強の復習を。
そしてお兄様も復習を……少しはしていたかな?
お兄様は根は真面目で勉強もできる方なのだが、如何せん元気な11歳の男の子。机にかじりついて勉強しろというのは酷なのだろう。
お兄様としては勉強よりクィディッチの方がお好きなのだから、外がクィディッチ日和の快晴なら逃げ出したくもなるのかもしれない。
それでも必要最低限はなされていたのだが、お父様としては不満らしく、
『マルフォイ家の跡継ぎは、ダリアにせねばならんな』
とよくおっしゃっていた。
割と本気の様子だったので、説得するのに苦労したのは余談である。
そんな家族との日常とも、しばしお別れの時が来た。
私たちは今、ホグワーツ特急の前に立っている。周りには様々な家の魔法使い、魔女だけではなく、そのペットが縦横無尽にそこら中を歩き回っていた。なかなかに混沌とした空間だ。
こんな空間に長時間いるのはお母様がかわいそうなので、早々に別れを済ませ、ホグワーツ特急に乗った方がいいだろう。
「では、行ってまいります」
「気を付けるのよ」
私の言葉を受け、お母様が目じりに涙を浮かべながら私を抱きしめる。
「いいか、何か困ったことがあれば、すぐに私に知らせるのだぞ。それとドラコ、ダリア。ダリアはそんなことないと思うが、授業や学校のことでわからないことがあれば、今魔法薬学の教授をしているセブルス・スネイプという先生を頼るといい。私がホグワーツにいた頃、彼は私の後輩だった。今でも交流を持っている男だ。何かあれば頼ってみるといい。きっと力になってくれるはずだ」
そして私たちが頷くのを確認し、
「さあ、ドラコ。先に行ってコンパートメントを取っておきなさい。ダリアは私ともう少しだけ話がある。荷物は二人分あるが、まあ何とかなるだろう」
そう、近くで同じく親と別れをつげているクラッブとゴイルをお父様はみやる。おそらく運ばせろということだろう。
「わかりました。ダリア、先に行ってるぞ」
最後にもう一度お母様に抱きしめられてから、お兄様はクラッブとゴイルの方に歩いて行かれた。
「さて、ダリア。最後にもう一度だけ確認だ。決して、お前の
私の体は半分吸血鬼だ。露見すれば周りに差別されるかもしれない。それだけでも問題なのだが、それ以上の問題になる可能性があった。
魔法界では、非人間の生物が杖を持つことは禁止されているのだ。
吸血鬼は亜人に分類される。狼男も同じく亜人に分類されているのだが、あちらは後天的になるものだから、今のところ見逃されているらしい。
つい最近まで、狼男の杖の所持まで禁止にしようとしていた
そして私の場合……狼男ではなく半分とはいえ吸血鬼なので禁止になる恐れがあった。
もしそうなればマルフォイ家が全力で抗議するから大丈夫だとおっしゃってくださってはいるが、そんな迷惑は
「わかっております、お父様。お父様の迷惑になるようなことはいたしません」
「……子供は親に迷惑をかけるものだ。ただ私はお前のことが心配なのだ。だが、その様子なら大丈夫だろうな。どうか頭の片隅にでも置いていてくれ」
そう一瞬渋い顔をされ、私の頭を撫でてくださる。
お父様はお兄様にはそれなりに厳しく教育されるが、私のことは基本的に甘やかしてくれる。無論、結局のところお兄様にも最終的に甘いのだが。
「では、気をつけて行ってくるのだぞ。次はクリスマスに会おう。ああそうそう、言い忘れるところだった。外に出るときは日傘をするのだ。ホグワーツにも話を通してある。手袋のあとだったから、なんの魔法もかかっていない日傘はすぐ許可されたぞ。まあ、許可されなかったとしても、もう一度理事で押し通すだけだがな」
私はお父様、お母様両方にもう一度抱きしめられ、ホグワーツ特急に乗り込む。
「こっちだ、ダリア。クラッブとゴイルが今コンパートメントを
そう言うお兄様についていくと、取り巻き二人がコンパートメントを取ってくれていた。
「ありがとう、二人とも」
そう言うと二人が私に頭を下げる。
ちょうどその時特急がついに動き出す。
頭を下げる二人をしり目に、日傘で日光を防ぎながらコンパートメントから顔を出し、お父様たちに手を振る。
「行ってまいります!! お父様! お母様!! またクリスマスに!!」
同じく顔を出したお兄様と手を振る。お母様は片手で目元を拭きながら手を振り、お父様は片手を優雅にたてておられる。
お兄様は途中で恥ずかしくなったのか引っ込んだが、私は二人が見えなくなるまで、手を振り続けるのであった。
ナルシッサ視点
「行ってしまったな」
「ええ、しばらく寂しくなるわ」
「何、今生の別れというわけではあるまい。クリスマスにまた会える。その時はドラコがどれ程勉学に励んでいるか確認せねばな」
そう言って笑う夫に、
「あら、ダリアは?」
私は悪戯っぽく尋ねた。
「ダリアの心配などする必要はない。あの子は十分すぎるほどに出来た子供だ。心配なのは寧ろ
「私たちに迷惑をかけまいと思っているのでしょうね。あの子は優しすぎるところがあるから」
「ああ、まったく、子供は親に迷惑をかけるものだ。それにあれではいつか、あの子が壊れてしまうかもしれない。ホグワーツに行って他の子供と触れ合うことで、少しでも我儘を言うようになってほしいものだ」
「ふふ、そうね」
そう私たちはもう見えなくなりつつある列車を見やるのだった。
ダリア視点
ホグワーツ特急の中には娯楽が少ない。外を眺めているか、車内で売ってるお菓子を食べているか、友達と話しているか……そして私のように持ち込んだ本を読むかだ。
しかし私が何故本を読んでいるかと言うと、私が本を読むのが好きということもあるのだが……一番の理由はなるべく目の前にいる二匹の豚を視界に入れたくなかったというものだった。
最初の頃はよかった。話がかみ合わないながらも、これからのホグワーツ生活の話をすればいい。
問題は車内販売が来てからだった。
マルフォイ家はお金持ちだ。だがそれに及ばずとも、クラッブ家、ゴイル家ともにお金持ちの名家だ。
そんな奴等だからこそ、もっているお小遣いも結構な額だ。
結果、この人間に食べきれるかわからぬ量のお菓子が散乱した豚小屋が完成したわけだ。
お兄様も視界からその光景を追い出したいのか、クラッブとゴイルと話すのに、
この吐き気を催すような光景を目撃しながら、二人と律儀にお話になるとは……さすが優しいなお兄様。
と、現実逃避ぎみに感心していると、
「おい、前の車両にハリー・ポッターがいるらしいぞ!!」
「すげー!! あの生き残った男の子だろう!」
そんな興奮した声がコンパートメントの外から聞こえてきた。
「おい、ダリア! ハリー・ポッターだとさ! 僕達も見に行こう!!」
「あまり迷惑をかけてはいけませんよ。ここまでもおそらくジロジロ見られたことでしょうし。……ただ、挨拶程度なら構わないでしょう。いずれ同級生になるのですしね。……それにこの部屋から出たかったもので」
そう言って本から久しぶりに顔をあげると、なぜかもうお菓子がなくなっていた。
あなたたち、あれだけの量をもう食べきったの……?
驚愕したように二人を見ていると、お兄様が急いだように前の車両に行ってしまわれた。その後をクラッブとゴイルが、その後を私がついて歩く。
最初は二人が私の後ろを歩こうとしたのだが、別にハリー・ポッターに興味があったわけではないので、先に二人を行かせる。
もっとも二人を先に行かせたことで、前に巨大な壁ができてしまい、視界のほとんどがなくなってしまい後悔した。
そうこうしているとお兄様がハリー・ポッターがいるらしいコンパートメントのドアを開ける。
「このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話で持ち切りなんだけど、それじゃ、君だったのかい?」
「……ああ、そうだよ」
前の方から聞こえる声に聞き覚えがある。たしか……マダム・マルキンの店で会った男の子の声だ。
あの子がハリー・ポッターだったとは。
「こっちはクラッブ、こっちがゴイル。後ろにいるのが……見えないな。まあ、後ろにいるのが双子の妹のダリア。そして僕はドラコ、ドラコ・マルフォイだ」
そう私たちをお兄様が紹介する。
だが何が面白かったのか、マルフォイというところで、ポッターとは違う笑い声がした。
は? 今マルフォイ家を笑ったのですか? 殺しますよ?
私が後ろで殺意すら覚えているのを雰囲気で感じたのか、前の二匹の背中から冷や汗が噴き出す。しかし振り返るのはもっと怖いのだろう。前から決して視線を動かそうとしない。
そんな状況が後ろで繰り広げられているとは知らずに、前の愚か者共とお兄様の会話は続く。
「僕の名前が変だとでもいうのかい? 君が誰だか聞く必要もないね。お前はウィーズリー家だろう? パパが言ってたよ。ウィーズリー家はみんな赤毛で、育てきれないほど子供がいるってね」
成程、ウィーズリー家だったか。ということは見事な赤毛なのでしょうね。さぞ燃やしたら赤が映えるだろう。
そう物騒なことを考えていると、
「ポッター君、魔法族にも家柄の良いのと、そうでないのとがいる。間違ったのとは付き合わないことだ。僕が教えてあげるよ」
そう言ったお兄様に対して、
「悪いけど、友達は自分で決められるよ。どうも御親切様」
ポッターは冷たく返した。
ポッターは……まあいい。あのマダム・マルキンの店で会った男の子だとしたら、彼のお兄様に対しての好感度はほぼ最悪と言っていいだろう。この対応でも納得できる。
お兄様をなめた態度とはいえ、お兄様にも非がある以上仕方がない。これを糧に、お兄様には下々の者との付き合い方を学んでいただこう。
だが、お前は別だウィーズリー。お前はマルフォイ家を、私の愛する家族を馬鹿にした。顔を見ないと収まらない。
「それじゃ用が済んだのなら、出て行ってくれないかな?」
「出ていく気分じゃないな。ここには食べ物もある。僕たちのはもうなくなってしまってね。出ていくのは君たちの方だろう?」
前の方で誰かが立ち上がる気配がする。
「僕たちとやるつもりかい?」
「いますぐ出ていかないならね」
そう一触即発空気の中、
「ぎゃあ!」
急にゴイルが悲鳴を上げた。みると指に一匹の小汚いねずみが噛みついている様子だった。
悲鳴を上げながらネズミをぐるぐる振り回し窓に叩きつけたあと、お兄様達は急いで元のコンパートメントに走っていった。
私は廊下の端により、そんな彼らをやり過ごす。
……さて、私も
「スキャバーズ、大丈夫かなあ?ノックアウトされちゃったみたい」
「ちがう……驚いたなぁ。また眠っちゃってるよ」
そう中でネズミを心配そうに見ている二人の背中に声をかける。
「またお会いしましたね、ハリー・ポッター」
そう挨拶すると、二人はびくっと肩を震わせ、驚いたようにこちらを振り向く。
先ほどは巨体の陰で見えなかったせいか、私がいたとは思わなかったのだろう。
「君は……」
「ええ、以前も一度お会いしましたね。私、ダリア・マルフォイと言います。これからは同級生ですし、どうぞお見知りおきを」
そう挨拶をし、忌々しい赤毛をした男の子の方を向く。
「それで、あなたは何というお名前ですか?」
「マ、マルフォイ家がなんのようだ!? お前の兄はもう出て行ったぞ!! お前もはやくいけよ!」
「いえ、先ほどなんだか不快な声を聴いてしまいましてね。我がマルフォイ家を愚弄する不届きものの名を聞いておこうと思ったのです……」
ふうと一度言葉をきり、
「もう一度だけ聞いてあげます。あなたの名前は?」
私は殺気を込めて再度尋ねた。
次に応えなければ、必ず殺してやるという思いを込めて。
「ロ、ロナルド・ウィーズリーだ」
「そうですか、しっかりと覚えました」
ロナルド・ウィーズリー。覚えました。
私は今度こそお兄様のいるコンパートメントに向かう。
部屋をでる直前、
「次、我がマルフォイ家を馬鹿にするようなら…………殺しますよ」
そう言うと、おびえたようにこちらを見つめる二匹を振り返ることもなく、お兄様の元に戻るのだった。
ハリー視点
マルフォイ達が逃げていったあと、眠っているスキャバーズを心配していると、
「またお会いしましたね、ハリー・ポッター」
そう綺麗なのに、どこまでも冷たい声がかけられた。
驚いて振り向くと、そこには以前店で会った、ドラコ・マルフォイの双子の妹、ダリア・マルフォイがいた。
さっきはクラッブとゴイルのせいで見えなかったのだろう。でも、まだいるとは思わなかった。
「君は……」
彼女は前回と同じ無表情でこちらを見ながら、表情同様の冷たい声で話し続ける。
「ええ、以前も一度お会いしましたね。私、ダリア・マルフォイと言います。これからは同級生ですし、どうぞお見知りおきを」
言葉こそ丁寧だが、こっちをゴミか何かだと思っているといわんばかりの無表情だった。
だけど、
「それで、あなたは何というお名前ですか?」
そうロンにかけた声は、さらに冷たい表情をしていた。
「マ、マルフォイ家がなんのようだ!? お前の兄はもう出て行ったぞ!! お前もはやくいけよ!」
そうロンが気丈に返すも、
「いえ、先ほどなんだか不快な声を聴いてしまいましてね。我がマルフォイ家を愚弄する不届きもの名を聞いておこうと思ったのです……」
返す言葉はさらに冷たさを増していく。
そして
「もう一度だけ聞いてあげます……。あなたの名前は?」
それはまぎれもない最後通牒の響きを持っていた。
今度ばかりは耐えきれなかったのか、
「ロ、ロナルド・ウィーズリーだ」
ロンは自分の名前を名乗った。
「そうですか、しっかりと覚えました」
聞きたいことは聞き終わった。そういわんばかりに今度こそコンパートメントから出ていこうとする。
だが、扉の所で立ち止まり、
「次、我がマルフォイ家を馬鹿にするようなら…………殺しますよ」
それは紛れもなく、今まで自分が覚えている中で、初めて感じた殺気だった。
彼女が出て行き、先ほど感じていた恐怖がようやく薄れてきた頃。
「僕、あの家族のことを聞いたことがある。『例のあの人』が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つなんだ。魔法をかけられたって言ってたらしいけど、僕のパパは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかったろうって」
そうぽつりとつぶやくロンの話を聞きながらふと思う
どうして前会った時の彼女の瞳は、薄い金色だったのに、さっきは
ダリア視点
まったく不快な奴だった。今度マルフォイ家のことを馬鹿にしていたら、殺しはしないまでも、殺してほしいと思うようなことはしてやろう。
そう思っていると、前から茶色の多い縮れ毛の女の子が走ってきた。
私の無表情をみて一瞬たじろぐも、それに臆することなく尋ねてくる。
「ねえ、ここで喧嘩があったって聞いたのだけど?」
「いいえ。
そううそぶくと、
「あら、そう。でも、ここの男の子は本当に子供なんだから。あなたも気をつけないとだめよ?」
そうよくわからないお節介をかけてくる子に驚きながら、
「ええ、そうしますね。では私、そろそろ着替えねばならないので」
そう言って別れを告げるのだった。
この子は、何がしたかったのだろう?
私とハーマイオニー・グレンジャー。今後何度も会話することになる彼女との初対面は、たった数秒のものでしかなかった。