ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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見えざる馬(前編)

 ハリー視点

 

あれだけ不安に思っていた尋問も無事終わってから数日。

尋問の場所と時間が突然変えられるし、法廷ではファッジ自ら僕の尋問をしてくるわ、その上彼の隣にいたガマガエルみたいな女が酷く僕を馬鹿にした態度を取ってきたりとあの時はどうなるかと思った。

でもダンブルドアがフィッグおばさんを証人に連れてきてくれたことで、僕はこうして無事にホグワーツに行く準備をすることが出来ている。

何だかあれだけ心配していた毎日が嘘のようだ。本当にヴォルデモートが復活したのかと自分でも疑いそうになる程穏やかな日々だった。

勿論復活していないわけがない。僕は奴の復活をこの目で見たし、騎士団内部も子供達こそ穏やかな生活を送っているが、騎士団員達は慌ただしく出入りしている所を時々見かけた。

……それに僕が少しでも奴の復活を疑ってしまえば、奴に殺されたセドリックが浮かばれない。

だからこそ僕は自分の中に生まれた緩んだ気持ちを打ち消し、ホグワーツに行く準備をしながらも緊張感を保とうとする。

どんなに一見平穏に見えようと、敵は今この瞬間だって活動し続けている。

 

ヴォルデモートしかり……そして奴も目をかけているダリア・マルフォイも。

 

あの尋問が終わった後、ルシウス・マルフォイと共にいた奴に僕は出くわした。あの時交わした言葉は、

 

『これは、これは、守護霊ポッター殿と……アーサー・ウィーズリーではないか! こんな所に一体何用ですかな? ここは君がいるべき場所でないと私は思うがね?』

 

『……そちらこそ、一体ここに何の用だい? そちらもここに職場はなかったはずだが? 娘まで連れて、一体ここに何の用だというんだい?』

 

『私と大臣との私的なことは君に関係ないと思うがね。……それにダリアは君の愚かな息子達と違い優秀なのだ。大臣の覚えも既にいい様子。まったく我がマルフォイ家の長女として鼻が高い。それではな、アーサー。私達は君のような愚者と付き合う程暇ではないのだ』

 

そんな短い会話でしかなかったし、奴は終始いつもの無表情で無言を貫いていたけど……あいつが何か企んであそこにいたことは僕にだって分かる。ウィーズリーおじさんも、あの嫌な親子が立ち去った後言っていた。

 

『やはりキングズリーの情報は確かなようだね。ダリア・マルフォイ……あの年で『あの人』に任務を与えられるようになるなんて……。本当に末恐ろしい。恐ろしい娘だよ』

 

やはり僕の得た情報は間違っていなかったのだ。あいつは何か良からぬことを企んでいる。それこそヴォルデモートの手先として。

ホグワーツは世界で一番安全な場所とはいえ、あいつがいる以上必ずしも安全とはいえなくなってしまった。これからも気を付けないといけない。ダリア・マルフォイに。そしてあいつの兄であるドラコや、取り巻きであるダフネ・グリーングラス。あいつらが二年生の時と同じく何か良からぬことをしないように。

……ハーマイオニーがあいつらに決して近づかないように。

ハーマイオニーはまだあいつ等のことを友人だと妄想している。去年の終わりダリア・マルフォイに酷いことを言われたというのに。彼女が何故そこまであんな奴に拘るかさっぱり分からないが、今年こそは僕も本気であいつと引き離さなければ……。

そしてそんなことを考えている時、

 

「ハリー! こ、これを見て!」

 

件のハーマイオニーが突然、僕に割り当てられた部屋に飛び込んできたのだった。

突然の訪問に驚きトランクの前で固まる僕に、ハーマイオニーが何かをかざしながら大きな声で続ける。尋問からの帰りに僕を出迎えてきた時も興奮していたけど、今の彼女はそれ以上だ。

彼女のかざした物は赤と黄色を基調にした、ライオンのシンボルの上に『P』の文字が刻まれたバッジだった。

 

「わ、私……え、選ばれたの! ()()()に! し、信じられないわ! 確かに5年生からは監督生になる資格があるとは聞いていたけど……ほ、本当に私が選ばれるなんて思っていなかったわ! 私、とても嬉しい! ねぇ! 貴方も選ばれたのでしょう!? 私が選ばれたのだから、貴方も選ばれているはずよ! 何せ貴方はこれまで多くのことを成し遂げてきたのだから!」

 

……どこかで見覚えのあるバッジだと思っていたら、やはり監督生バッジだったらしい。そう言えばパーシーがホグワーツに在籍していた頃、ことあるごとに彼にバッジを見せびらかされていたのを思い出す。当時からウィーズリー兄弟の中で唯一そこまで好きでない人間ではあったけれど、この前の尋問の時もファッジの横で僕に冷たい視線を投げかけていた。嘗て一緒の寮で過ごした時間は一体何だったのだろうか。

そんな嫌なことも同時に思い出し、僕は監督生バッジを少しだけ眉を顰めながら眺める。それにハーマイオニーが期待している中申し訳ないが、僕の下にバッジは届いてなどいない。ホグワーツからの手紙にはそのような物は含まれていなかった。

しかしそんな僕とハーマイオニーが全く正反対のことを感じている中、

 

「ハ、ハリー……。僕……。と、とにかくこれ……」

 

次に僕の部屋に現れた人物によって、部屋の空気は完全に凍り付くこととなる。

 

ロンが震える手で差し出してきたのはハーマイオニーと同じバッジ。

それは僕ではなく、ロンこそが今年の監督生に選ばれたことを表していた。

 

その事実に気づいた瞬間僕は……何故か『誰も僕のことを見てくれない』と、そんな孤独感のような感情に襲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

『例のあの人』が復活したと聞いた時には、もっと慌ただしく危険な夏休みになるものだと思っていた。

『あの人』は嘗て魔法界を恐怖のどん底に陥れた人物。私はあの人の所業を本でしか読んだことがないけど、それだけでも恐怖を覚えるには十分なことを『あの人』はしたのだ。だから『あの人』が復活したからには再び魔法界は荒れる。それこそ大勢の人が亡くなり、あの人を赤ん坊の頃に倒したハリーは凄まじい攻撃に晒されるかもしれない。そうどこかで考えていた。

でも実際は違った。

表面上生活はどこまでも穏やかで、新聞に誰かが亡くなったというニュースは一つも載らない。それこそハリーが吸魂鬼に襲われたことも、彼がその後理不尽にも尋問にかけられたことさえ。新聞には何一つ不吉なものは載っていない。まるで『あの人』が復活していないかのように……。そんなこと()()()()()()()()と言わんばかりに。

でもだからこそ……私はより警戒感を強くしたのだった。

事態は私の想像より悪い方向に進んでいる。敵側が着実に準備を進めている中、不死鳥の騎士団以外の人々は誰も敵の襲撃に備えてすらいない。それどころかこの夏休み中、寧ろ真実を伝えているハリーやダンブルドアを誹謗中傷する記事で新聞は溢れていた。おそらくホグワーツに帰っても……ほとんどの生徒はハリーのことを信じていないことは想像に難くない。

 

こうしている間にも敵側は魔法界を再び恐怖に陥れるための準備をしているというのに。

……あの優しいダリアまで無理やり動員して何かを企んでいるというのに。

 

事態は静かだけど、だけどそれ故により危険な方向に進みつつある。だからこそホグワーツに戻っても決して気を抜くことは出来ないと思う。おそらく今以上に辛い目に遭うだろうハリーを守るために。せめてホグワーツにいる時だけは、ダリアが少しでも心穏やかに過ごせるように。

 

……でもそんな覚悟をしていたとしても、

 

「ほらロン、行くわよ! 私達は監督生なのよ!」

 

この新しい立場に対する喜びまでは抑えることは出来ないのだけど。

いよいよ夏休みが終わり、私達がホグワーツに戻る時が来た。ホグワーツ特急がプラットホームに煤けた蒸気を吐き出している。そしてそのプラットホームには出発を待つ生徒や家族が大勢いた。

そんな中、私は人混みをかき分けるように汽車に乗り込みながら、背後のロンとハリーに続ける。

 

「ロン、早く! もうすぐ時間だわ! また後でね、ハリー! 最初に監督生車両に集まる以外は、時折車内をパトロールするだけでいいらしいから! 後で貴方のいるコンパートメントに行くわ!」

 

5年生になると各学年各寮から二人ずつ選ばれるようになる監督生。品行方正かつ多くの功績を残してきた生徒が選ばれ、多くの特別待遇の上、生徒に罰則を与える権利すら有する。それ故にのしかかる責任も重大なわけだけど、私にとっては監督生に選ばれただけで本当に名誉なことに思えた。しかも5年生の段階で選ばれれば、よほどのことをしない限りはそのまま上の学年でも監督生になることが出来る。今まで頑張ってきたことが認められたようで嬉しくないはずがなかった。

 

それにもう一つ……もしかすると()()()……。

 

唯一気がかりなのはハリーが選ばれず、彼の代わりにロンが選ばれたことだった。今までの成してきた功績から考えると、申し訳ないけどやはりハリーが選ばれるとしか思えなかった。彼は今まで誰も成し遂げたことのないことを成し遂げてきた。それこそ大人達ですら出来なかったことを。そんな彼が選ばれないなんて客観的にはあり得ないことなのだ。

でも蓋を開けてみれば監督生に選ばれたのはロンだった。これには私だけでなく、当の選ばれたロン自身ですら驚いていた。何故ハリーではなく自分が選ばれたのだろうと……。

もっとも後で冷静に考えれば、これはこれで良かったのではないかと考えている自分がいるのも確かだけど。

確かにハリーはロンが選ばれた時には表面上は彼を祝福していたけれど、内心では何故ロンではなく自分が選ばれなかったのかと疑問に思っていたことだろう。勿論それは彼がロンを見下しているからではなく、純粋にダンブルドア先生に認めてもらえなかったことに対する不満からだと思う。特に最近の彼はダンブルドア先生にどこか放置されているところがあるから尚更。いくら先生が忙しくても、敵が一番狙っているであろうハリーからすれば何も知らされないのは不満で仕方がないと思う。そんな不満を抱える中、あれ程の功績を成し遂げながら監督生に選ばれなければその不満は益々増大するに違いない。実際彼が一番に浮かべた表情はロンに対する嫉妬ではなく、どこまでも寂し気なものでしかなかった。

でもそんな不満を抱いていたとしても、今考えるとハリーは監督生に選ばれない方が良かったのかもしれない。

何故なら彼は多くの功績を残してきたが故に……監督生なんて些末としか思えない程の重責を負っているのだから。これ以上監督生なんていう責任まで負わせてしまえば、彼を必要以上に追い込んでしまいかねない。今の余裕のないハリーにそんな思いは伝わらなくても、いつかそんなダンブルドア先生の思いは伝わるはずだと思う。今はどんなに心配でも一緒に寄り添うことくらいしか出来ない。

それにハリーには劣るものの、別にロンが監督生に相応しくないわけではない。彼だってハリーと同じく様々なことを成し遂げてきたのは間違いない。それに今だって、

 

「ハーマイオニー……そんなにせっつくなよ。ハ、ハリー、ほんの少しだけだから。僕、本当はあっちに行きたくなんてないんだ。だ、だけど仕方なく……。僕はパーシーと違うと言うか……」

 

ハリーの複雑な内心を気遣い、こうして不器用なりに声をかけようとしている。内心の嬉しさを抑えてまで、きちんと自分の友人の心配をしている。ロンはロンなりに監督生として相応しい気質を持ち合わせていると私は思う。……少しばかり頼りない所があるけれど、それは私がフォローすればいいことだろう。

 

「ロン、馬鹿なことを言わないで。選ばれたからには責任を果たさないと。それではね、ハリー。ロンの言う通りすぐに帰ってこれるとは思うから。少しだけ待っていて」

 

「うん、別に構わないよ。監督生頑張って。僕はその間皆が入れるコンパートメントを探しておくよ」

 

だからこそ私はロンの姿に頬が熱くなるのを感じながら、ほんの少しだけ寂しそうなハリーに別れを告げて足を進めるのだった。

 

 

 

 

『例のあの人』が復活した今、本来であれば私達は決して気を抜いてなどいけない。敵がこちらが油断しきっている陰で暗躍しているなら尚更のこと。

でも、それでも私はこの監督生という立場が嬉しくて仕方がなかった。

自らの頑張りが目に見える形で認められたから。

 

それにもう一つ……もしかすると彼女も……私と同じく選ばれているかもしれないから。

 

グリフィンドールでハリーが選ばれるに違いないと思っていたのと同様、スリザリン生の中で最も監督生に相応しいのは一人しか思いつかない。

同学年どころか、学校内でさえ最も優秀な成績を収め続けている彼女が選ばれないで誰が選ばれるというのだろう。まさかあの脳震盪を起こしたトロールより馬鹿なパンジー・パーキンソンがなるとは思えない。

だからこそ私は楽しみだった。彼女とは()()()()距離を取られてしまったけれど、これでまた監督生という繋がりを持つことが出来る。また彼女と話すきっかけを作ることが出来る。

そうほのかに思っていたのだ。

 

それがやはりどこまでも甘えた考えだとも気付かずに。

 

果たして監督生車両に辿り着くと、そこには数人の監督生と思しき姿があった。ハッフルパフの制服を纏ったアーニー・マクラミンとハンナ・アボット。レイブンクローはアンソニー・ゴールドスタインとパドマ・パチル。あまり話したことのない生徒ばかりだけど、皆同学年ということもあり一応顔だけは知っている。ここにいるということは皆今年監督生に選ばれたということなのだろう。

でもスリザリンの監督生は、

 

「……あっ、()()()()()()()。やっぱり貴女が選ばれたんだね」

 

「……」

 

ハリーと同じく、私の予想とは違った人物が選ばれていたのだった。

そこにはあの美しい白銀の髪を持つ少女ではなく、金色の髪をした私のもう一人の親友が座っていた。彼女の最大の特徴である可愛らしいパッチリとした瞳を、隣に座るドラコと同じく不機嫌に歪ませた状態で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

スリザリン生で最も監督生に相応しい人物は一体誰か。その問いに対し、おそらく全員が同じ答えを返すことだろう。

 

そんなもの……ダリア以外にあり得ない。

 

ダリアは一年生の頃から最も優秀な成績を収め続けていた。それこそ彼女が一年生の頃から。それに彼女の影響力。純血貴族だということもあるけど、彼女には人を従わせるだけのオーラがある。彼女こそが最も監督生に相応しいのは自明の理だった。彼女以外では……それこそパンジーなんて選ばれた日には、決してスリザリン生が納得することはないだろう。そんな簡単なことはあの愚か者のグリフィンドール生だって分かることだ。

 

でも現実は違った。

私はホグワーツからの手紙を受け取った時、それに一番に気付いてしまったのだ。

私の手紙の中に……緑と銀色を基調にしたバッジが入っていた。それはつまり、ダリアではなく……私こそがスリザリンの監督生に選ばれたということに他ならなかった。

 

普通の女の子なら、この結果に何も考えずに狂喜乱舞することだろう。ダリアではなく、自分こそが監督生に相応しいと思われたのだと。

そんな馬鹿な……どこまでも浅はかな考えを。パンジーあたりならそう考え、翌日には寮全員に喜びの手紙を送りつけたに違いない。

でも私は違う。私はそのバッジを見た時真っ先に感じたのは……どうしようもない程の怒りでしかなかった。

この結果は別にダリアより私の方が監督生に相応しいと思われたからなどではない。ホグワーツ側は……あの()()は要するにダリアを監督生にしたくなかったのだ。あいつが生徒の中で最も警戒するダリアを、危険な人間に下手に特権など与えないために。

そんな浅はかな考えが透けて見える結論に、ダリアの親友である私が怒りを覚えないはずなどなかった。

 

入学当初から奴らは何一つ変わっていない。徒にダリアを警戒するばかりで、彼女の無表情の下に隠れた本質を何一つ見ようとしていない。彼女がマルフォイ家という名家の名や、そして彼女の最大の特徴であるあの無表情の下にどれ程優しい本質を隠しているかなんて見ようともしないで……。

 

たとえ彼女が今闇の帝王の下で()()()()()()()としても、彼女が優しい普通の女の子であることに変わりはないのだ。

 

だからこそ私にとってもはや監督生という資格自体が、それこそバッジを受け取った瞬間からどうでもいいものに変わり果てていた。

 

何が監督生だ。そんなもの、ダリアが選ばれていない以上何の価値もない。

そしてその考えはダリアも、

 

『……そうですか。ではダフネも……。あの老害……よくも私達の時間を……』

 

『う、うん。最初だけ……それこそ一瞬だけ監督生車両に行かないといけないみたいなの。で、でもダリアが望むなら私はここに、』

 

『いいえ。ダフネもお兄様と共に行って下さい。……私はここで帰りを待っていますので』

 

共通しているみたいだった。別に彼女自身が監督生になりたがっていたわけではない。私が監督生に選ばれたと知らせた時も、別に特に何の感慨もない様子でしかなかった。寧ろ最初からこの結果を予測している様子でもあった。

でもいざ私がこのホグワーツ特急で数分だけとはいえ彼女と離れなければならないことを告げると……途端に寂しそうな無表情を浮かべていた。結局彼女は監督生なんていう見せかけの立場なんかより、私やドラコとの時間にこそ価値を感じてくれていたのだ。そんな親友の可愛らしい反応を受けて、どうして今更こんな下らない物に価値を感じられるというのだろう。

 

もっともそれを今言っても仕方がないことくらいは私にだって分かっている。

特にもう一人の親友であるハーマイオニーがこの立場を喜んでいるなら、私が態々あの老害の魂胆を話して彼女の喜びに水を差す必要はない。彼女は()()()()実力で選ばれたのなら尚更だ。

だから私は、

 

「……あっ、ハーマイオニー。やっぱり貴女が選ばれたんだね」

 

なるべく自分の苛立ちを抑えようと努力しながら、ハーマイオニーに渾身の笑顔を向けようとしたのだった。

でも、

 

「ダ、ダフネ……久しぶりね。手紙には書いていなかったけれど、貴女が監督生に選ばれたのね。ど、どうしたの? 何だか怖い顔をしているけど……」

 

どうやら私の表情は上手く自分の内面を隠しきれてはいない様子だけど。

ハーマイオニーは一瞬ダリアではなく私がここにいることに驚きの表情を浮かべた後、すぐに気を取り直したのか不機嫌な空気を漏らす私におずおずといった様子で話しかけてくる。私は結果的に彼女の喜びに水を差してしまったことを悟り、小さくため息を吐きながら応えた。

 

「……うん、ちょっとね。それに別に取り繕わなくていいよ。本来ならダリアがここにいるはずだと思ったのでしょう? それが当然だよ。でも……だからこそ私は怒っているの。()()()が考えているだろうことが、あまりに下らないことだろうから……」

 

「それは……」

 

聡明なハーマイオニーのことだ。彼女も私が何を言いたいか一瞬にして理解出来たのだろう。背後で私とドラコに敵意の籠った視線を送るウィーズリー(あほ)とは違い、喜びの表情は途端に悲しそうなものに変わっている。

しかし彼女が続けて何か言う前に、

 

「皆集まってるな。よし、これから打ち合わせをするぞ。今日は5年生の諸君にとっては初日だからな。監督生の心構えも含めて話そうと思う」

 

レイブンクローの主席監督生と思しき生徒の声で、私とハーマイオニーの会話は無理やり遮られてしまったのだった。

 

 

 

 

監督生なんてどうでもいい。ただ老害に押し付けられたから仕方なくやっているだけ。本当ならこんな会合すら無視してしまいたいけど、無視すればそれはそれでダリアを面倒な立場に追いやってしまうかもしれない。監督生であることを純粋に喜んでいるハーマイオニーの手前もある。

だからこそ私は出来るだけ早くダリアの下に戻りたいという内心を抑え、監督生の心得なんていう心底どうでもいい話を黙って聞くしかなかったのだ。

 

……その間、

 

「あ、ダリア・マルフォイだ」

 

「どうやってここに……部屋には『人避けの呪文』を。いえ、そういう貴女は?」

 

「あたしは()()()。ルーナ・ラブグッド」

 

ダリアが奇妙奇天烈な出会いを果たしているとは知らずに。


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