ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
ちょっとした出会いのあとは特に何事もなく、列車の旅は順調にその目的地に近づいている。
あの後部屋に戻った私は、盛大にポッターの悪口をしているお兄様達と交代で制服に着替え、再びコンパートメントでの雑談と読書の時間に戻っていた。
あんなにお菓子を購入した生徒は初めてだったのか、車内販売の婦人が味をしめて再び私たちのコンパートメントを訪れたが……豚二匹が何か言う前に私が断った。
再びここを豚小屋にしてなるものか。
お菓子がないためお兄様達は手持ち無沙汰だったのか、再びポッターの悪口を、私は読書に戻ってしばらく、ようやく汽車の速度が落ち始める。
「そろそろだな」
「ええ」
といっても、制服に着替えてしまっている私たちには特別することはない。
荷物の整理も、原理まではわからないがここに置いておけば自分の決まった寮の部屋に勝手に運ばれる仕組みになっているらしい。おそらくホグワーツに大勢いるという、しもべ妖精がやってくれているのだろう。
そうこうしているうちに、列車が止まった。ホグワーツ最寄り駅の『ホグズミード駅』に到着したのだ。
列車が止まり、ゾロゾロと生徒達が降り始める。もうすでに暗くなった辺りを見回していると、向こうの方から、
「イッチ年生! イッチ年生はこっち!」
そう言いながらランタンを掲げた大男が近づいてきた。
「あの方もダイアゴン横丁でみましたね」
「ああ、父上が言ってた野蛮人だよ」
野蛮人かはともかく、こうやってみると本当に大きい。何を食べたらあれほど大きくなるのだろう。最も、クラッブとゴイルと違ってこの大男は筋肉の塊といった風情だったのだが。
「イッチ年生はもう残っていないな? さあ、ついてこい! 足元に気をつけろ。いいか! イッチ年生、ついてこい!」
そう歩き出した大男に私たち一年生はついていく。私たちより大きい生徒達は違う方向に歩いて行ったことから、一年生だけがこの道を歩くらしい。
それは道とかろうじて言える代物だった。あたりは暗く、足元もでこぼこしているためか非常に歩きにくい。
一年生は皆必死に足元に注意しながら歩いていると……狭い道が急に開け、視界が開くとそこには大きな黒い湖のほとりだった。
そして湖の向こうに山がみえ、そのてっぺんには、
「ほら、イッチ年生! 見えたぞ! ホグワーツだ!!」
大きく、大小様々な尖塔をもった、荘厳なお城がみえたのだった。
「あれがホグワーツ」
そう、あれこそ私とお兄様が今から魔法を学ぶ場所。
魔法族の子供なら誰もが行くことに憧れる、世界有数の魔法学校、ホグワーツだった。
あまりに荘厳な景色に、一年生たちが歓声をあげていると、
「さあ、4人ずつボートに乗るんだ!」
私達の注意を城から引きはがそうと大男が大声を上げる。
大男の指示に従い、お兄様、私、そしてクラッブとゴイルがボートに乗る。……正直、二人のせいでボートは非常に狭かった。
ホグワーツの煌々とした明りに照らされた広大な湖を、私たち一年生のボートが滑るように進んでいく。
暗い夜に浮かぶ巨大な城はあまりに美しく、いつまでも眺めていたいと思っていたところ、
「頭さげー!」
再度大男の指示が響き、皆慌てたように頭をさげる。
ボートの集団は崖下のツタのカーテン、そして城の真下と思われるトンネルをくぐることで、地下の船着場に到着した。
「ホイ、お前さん。これは、お前さんのヒキガエルか?」
忘れ物を確認していたのか、大男は丸顔の男の子にヒキガエルを渡し、
「さあ、イッチ年生、ついてこい!」
そう再び一年生を連れて歩き出す。
大男の先導に従ってごつごつした岩の道を通り、ようやく城の玄関と思しき巨大な樫の木の扉にたどり着いた。
重そうな扉を、大男が軽々と開ける。
扉の向こうには、エメラルド色のローブを着た厳格そうな黒髪の女性がいた。
「マクゴナガル先生。イッチ年生を連れてきました」
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
どうやらここからは、こちらの女性が連れて行ってくれるらしい。
ようやく歩ける平たい地面を踏みしめつつ、石畳のホールを横切る。行く手には二つの扉があり、片方からはざわめきが聞こえることからこの扉の奥で入学式が行われるのだろうと考えていたのだが……生徒が連れられて入ったのは、その脇にある小さな部屋の扉の方だった。
「まずはホグワーツ入学おめでとうございます。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、寮生が学校での皆さんの家族のようなものとなります。寮は四つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンです。それぞれ輝かしい歴史があって、数多くの偉大な魔法使いが卒業していきました。ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いは自分の属する寮の得点になりますし、反対に規則に違反した場合は寮の減点になります。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りになることを望みます」
そして、準備が整うまで身なりを正して静かに待っているようにと言い残し、マクゴナガル先生は部屋を出て行った。
マクゴナガル先生が出ていくと、周りの一年生たちは思い思いに身だしなみを整えながら、これから始まる入学式の話をしている。
「一体どうやって寮を決めるんだろう?」
「組み分けは試験のようなものだと思う。すごく痛いってフレッドが言ってたけど、きっと冗談だから大丈夫さ」
そんな会話が近くから聞こえる。周りの子たちも同じような疑問を口々に話している。
マグル生まれの子がそれなりにいることもあるのだろうが、魔法族の子供でも、この寮の決め方を子供に教えないというのがある種の伝統らしい。
お父様は私たちに話したが……。
帽子をかぶって資質をみるとかどうとか。少なくとも、近くの生徒が話しているような試験のようなものはないのだろう。
お父様の話を思い出し、はやくもホームシックを感じそうになってしまう。しかし、横からぶつぶつ何か聞こえることに気付き、一体なんだろうとそちらを見やる。
そこにはひたすら自分の覚えている呪文を唱えている少女がいた。
そういえば汽車の中で会った子だなと思って、なんとはなしにその呪文を聞く。
おそらく周りの生徒同様これからある寮決めが試験か何かだと思った少女は、必死に勉強したことを確認しているのだろう。
そんなこと思いながら聞いていると……その呪文が一年生後半どころか、二年生に少し入ったくらいのところまで勉強しないとわからないものだということに気付いた。
お兄様はさぼりがちだったとはいえ、マルフォイ家の跡取りということもあり、小さいころからしっかり教育されてきていた。そんなお兄様を超えるとは……彼女は相当勉強熱心なのだろう。魔法族であれ、マグル生まれな子であれ、相当勉強が好きなのだろうと考えられる。それどころか、もしマグル生まれな子なのだとしたら、今まで魔法のことなど知らなかったのだから、勉強好きというだけでなくとても物覚えが良いということになるのではなかろうか。
そう少しだけ、この縮れ毛の女の子に興味を持っていると、
「さあ、行きますよ。組分け儀式がまもなく始まります」
マクゴナガル先生が戻ってきた。
私達は先生に連れられ、再び玄関ホールに戻り、そこから二重扉を通って生徒たちは大広間に入った。
大広間には四つの長テーブルがあり、それぞれ寮の上級生が何百人も着席している。
テーブルには金色のお皿とゴブレットが置いてある。
空中に浮かぶ星の数ほどの蝋燭が、広々とした広間を照らす。
見上げた天井には、ビロードのような黒々とした空に、星が点々と光っていた。
「本物の空?」
「違うわ。本物の空に見えるように、魔法がかけられているのよ。ホグワーツの歴史という本に書いてあったわ」
誰かがあげた素直な疑問に、すぐ後ろを歩いていた縮れ毛の女の子が答えている。
一年生が大広間の前の方に連れてこられると、マクゴナガル先生が四本足のスツールを置き、その上にさらにとんがり帽子を置くのが見えた。
その帽子は、この城の中で一際浮いているようにみえた。何故なら帽子のあちこちはツギハギだらけだし、ボロボロでとても汚らしかったのだ。
あれをかぶらねばならないのですね……。
そう思っているといつの間にか静まり返っていた大広間で、そのくたびれた帽子が突然歌い始めた。
『私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組み分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
勇気のある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古く賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん! 恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!』
帽子が歌い終わると今まで静かに聞いていた上級生、そして先生方が拍手する。
割れんばかりの拍手の中、私は物思いにふけっていた。
勇敢、忍耐、機知、そして狡猾さ。
最後だけなぜか印象が悪い言葉だが、ようするに目的を達成するための決断力……と言いかえることができる。
でもこれら四つの一つでも、まったく持ち合わせていない人間がいるのだろうか?
いや、これらは人間が生まれながらに持っている要素だろう。勿論偏りはある上、それが個性と言えるのかもしれない。
だから、この帽子が見るのはおそらく、その子がどのようなものを持っているかもあるだろうが……それ以上に帽子が最も見るのは、その子が何をその中から
であれば、私の行くところは決まっている。
もともとお父様たちもそれをお望みだ。
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」
そう言いながら、長い羊皮紙の巻紙を手にしてマクゴナガル先生が進み出た。
そして一人目が呼ばれる。
「アボット・ハンナ!」
金髪の三つ編みをした女の子が、恥ずかしいのか、頬を染めながら前に出て帽子をかぶる。
少しの沈黙の後、
「ハッフルパフ!」
帽子が叫んだ。
右側のテーブルがワッと湧き、安堵の顔を浮かべた一人目がハッフルパフのテーブルへ歩いて行く。
上級生は彼女を快く歓迎していた。
私たち兄妹はともに「m」だ。もう少し先になるだろう。
途中で呼ばれた、縮れ毛の女の子は「ハーマイオニー・グレンジャー」というらしい。
私の記憶では、グレンジャーという名前の家名は魔法族になかったはずだ。ということはマグル出身なのだろうとあたりをつける。やはり彼女は、素晴らしい才能を持っている。
そして順調に組分けが進み、ついにその時が来た。
「マルフォイ・ダリア!」
私は前に置いてある帽子に歩み寄る。
……特に緊張はない。
ただ
そう考えながら歩いていると、ふと、大広間が不思議な緊張をはらんだ静けさに満ちていることに気付いた。
スリザリンのテーブルだけは、ひそひそしながら私を見ている。
私の頭の上に帽子がおろされる。
私の視界は、真っ黒な闇に覆われた。
帽子がおろされる直前私が見たのは、数百人の生徒達全員が、私に恐怖を含んだ視線を送っている光景だった。
ダンブルドア視点
ダリア・マルフォイ。魔法具の持ち込み申請書にあった少女がこちらにゆっくりと歩いてくる。
先ほどまで騒いでいた大広間の生徒たちは、静かに、そして食い入るように彼女を見ていた。
まるで目を離してしまうことに恐怖を覚えたように。
まるで目を離したすきに、何かよからぬことが起きるのでは、と思ったように。
全校生徒、そして教授たちの視線を集める少女は、ひたすらに美しく、そしてなにより冷たかった。
白銀の髪、そしてその髪にあわせたような真っ白な肌。じゃが薄い金色を持ったその美しい顔は、恐ろしいまでに無表情じゃ。この年の少女が浮かべるようなものではない。
じゃが……なぜかわしにはその表情こそが、彼女に最も似合った、彼女の魅力を最も引き立てている表情のように思えた。
そう考えながら、わしの目は彼女が着用している手袋にいく。
あれは闇の魔術がかけられておるのう。なんの効果があるかまではわからぬが。やはり最初に危惧していたことは間違いではなかったようじゃ。
彼女の入った寮監には注意を促さねば。
そう今後のことを考えながら、彼女の組み分けに視線を戻す。
しかし、何なのじゃろうの……この子のオーラは。とても新入生が醸し出すようなものではない。
遥か昔、トムが在校していた時にも似たようなオーラはだしておったが、まるでこの子のものは……
わしはそう無意識に考えてしまい、急いで頭を振る。
……わしは、何を馬鹿なことを考えておるのじゃろう。この子を見たのは、これが初めてじゃ。それなのに、この子の第一印象で人間性を見極めた気になるとは。
わしは教育者として、そんな印象を生徒に持ってはならない……そう自分をしかりつけるのじゃが、最後までその印象をぬぐい去ることができんかった。
どうか、トムのようになってくれるでないぞ、ダリア・マルフォイよ
ダリア視点
「ふ~む。恐れを知りながら進む勇気がある。じっと時を待つ忍耐力、そして素晴らしい知識欲、才能がある。だが、やはり一番大きいのは、どんな手段でも目的を達しようとするその狡猾さだな」
「ええ、私もそれを選ぶ」
「しかし、よいのか? 同時にそれは君の望まぬ道に通じているとも思っているのではないかね? 君には偉大な血が流れている。それは君の望んでいるものではないのではないかね?」
「……たとえ、そうなったとしても。私が選ぶものはかわらない。それがたとえ、私が望まないものを私にもたらすとしても、私はもうそんなことで立ち止まりはしないと決めたのです。6年前のあの日に。だから、帽子さん? 私が望むのを。そんな私が一番ふさわしい寮に」
「ふむ。そこまで言うなら、やはり君にはあそこしかあるまい。では……」
一瞬沈黙し、
「スリザリン!!!!!」
帽子はそう叫んだ。
ハーマイオニー視点
私はグリフィンドールに組み分けされた。帽子はレイブンクローと悩んでいたが、先輩方が優しく迎え入れてくれたので、こちらでよかったとほっと胸をなでおろす。
私の後も組み分けは順調に進み、どんどん周りの子の名前が呼ばれていく。
そしてついにその子の名前が挙がった。
「マルフォイ・ダリア!」
その子は私が汽車の中で出会った子だった。
はじめて会った時も無表情な子だった。
ひるみながらも話しかけてみると、こちらにかけらほどの興味も示していない表情とは裏腹に、言葉はなんだか普通の子のように感じられた。
だが今、前に歩いていく彼女は、会った時と同じ無表情なのもあるが、あの時にはなかったひどく冷たいオーラを大広間中に振りまいていた。
あの時私が感じたことは思い違いだったのだろうか?
「あの子……なんだかこわい」
私の隣にいた子が、思わずといった様子でもらす。
その子だけじゃない、なぜかみんなそんな風に思っている様子だった。
でも、私には……なぜだか、遠くに見えるその子の背中が少しだけ……
冷たいながら、ひどく悲しそうなものに見えていた。
ドラコ視点
僕の前にダリアが前に呼ばれる。組み分けが始まる少し前から、なんだか妙な表情をしていたが、どうしたのだろうか?
ダリアは昔から悩みを内にため込もうとするところがある。おそらく本当の子供ではない自分に引け目を感じてのことなのだろうが、僕も、そして父上母上もそれを内心悲しく思っていた。
僕たちは家族だ。
どんなに血がつながっていなくても。そんなことは、ダリアもおそらく思っているのだろう。でも、だからこそ、僕たちに迷惑をかけたくないと思ってしまっているのだろう。
一度父上と話したことがある。
このままでは、おそらくダリアは壊れてしまうのではないかと。
ダリアが抱える事情は、僕は全部知っているわけではないが、どれも普通の女の子が抱えるには大きすぎる問題だらけだと聞いている。
ダリアはたぶん、今後もなかなか悩みを言いはしないだろう。だが、それでもダリアの、たった一人の妹が悩んでいることくらい察してやれる、そばに寄り添ってやれる。
そう、ずっと昔、小さい頃に思い、今まで決めてきたことを改めて心の中で確認するのだった。