ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
の後書きに挿絵追加しました。いつもイラスト書いて下さるジンドウ様の作品です!
是非そちらも見てください!
ダリア視点
ダンブルドア率いる光陣営。そして
表面上は去年と何も変わることはない。闇の帝王が裏で活動しており、魔法省の間抜け共がそれを決して認めていない現状では、何も知らない人々はさぞいつもと変わらない日常を過ごしていることだろう。
だが事情に少しでも通じている人間には分かる。平和なのは上辺だけ。現状が決して平穏な状況ではないことを。そして迫られる。己がどの陣営に属すべきかということを。自身を、そして己が
かくいう私もそうだ。マルフォイ家とダフネが無事であれば、後のことはどうだっていい。戦いの中で人がどれだけ死のうがどうだっていい。正義を叫ぶ、本当に大切な物が何かも
だからこそ……
「……まだ新学期が始まったばかりなのに、本当に色んな出来事が起こるね。え~と、なにこれ?
「……さぁ、偉い方の考えることはよく分かりません」
「それを言うならダリアのお父さんも……まぁ、いっか」
争うなら私を巻き込まない所でやってほしい。
初日のある意味で衝撃的な授業から数日。相変わらずアンブリッジ先生は魔法省の……闇の帝王の意向通りの授業を執り行っている。何も教えず、何もさせず、何も学ばせない。実に時間の無駄でしかない授業。それを大真面目にされるのだから生徒達は堪ったものではない。もっともその都度先生に突っかかり、これまたその度に罰則を言い渡されているポッターもどうかと思うが……。そのせいで益々アンブリッジ先生の明後日の方向への努力が熱を増している。
だがそんな代理戦争の様相な授業であっても、所詮は閉じた学校内で起こった出来事に過ぎない。どんなに先生が将来の芽を取り除こうとしても、どんなにポッターが気勢を上げようとも、所詮は狭い空間で起こった出来事に過ぎなかったのだ。先生の権限も普通の教員のものとそう大差はなかった。
でも……今日からは違う。アンブリッジ先生の権限は、今日この瞬間普通の教員とはかけ離れたものになってしまった。
最悪の予想は案の定現実になってしまったのだ。
ダフネが手に持つ新聞には、
『ドローレス・アンブリッジ。初代高等尋問官に任命。魔法省、教育改革に乗り出す』
そんなことが書かれていたのだから。
非常に無視してしまいたい記事であるが、残念ながら私が現状の情報を疎かにするわけにはいかない。戦争のほぼど真ん中に放り込まれている以上、どんな些細な情報が命取りになるのか分からないのだ。
私は頭が痛くなるのを我慢しながら記事に目を通し始めた。
『魔法省は昨夜突然新しい省令を制定し、ホグワーツに対しこれまでにない統率力を持つことを決定した。魔法大臣はここ数週間、魔法学校の改善を図るための新法を制定していたが、今回の措置は今までのものよりも遥かに
ある魔法省高官は語る。
『ここ最近のダンブルドアは常軌を逸した決定を何度も下していました。半巨人のルビウス・ハグリッドや狼男を教師にしてみたり、妄想癖のあるマッド−アイ・ムーディーを起用してみたり。もはや正気を疑うしかありませんし、未熟な魔法使い達を導く魔法学校校長の任に耐えれているとは思えません』
この魔法省高官が語る通り、昨今のホグワーツにいい噂はほとんど聞かない。一刻も早い魔法学校の改革が急務と言えるだろう。特に今の学校にはハリー・ポッターのようなただ目立ちたがり屋な、モラルの低下しきった生徒も存在するのだから。高等尋問官の任命によりホグワーツに新たな信用できる校長を迎えることが出来るか。アンブリッジ女史の手腕が今試されていると言えるだろう』
……読み終えて余計に頭が痛くなりそうだった。唯一の救いは新聞の中で『狼男』とは書いているが、お父様から圧力があったのかルーピン先生自身の名前は書かれていないことくらいだろうか。
お父様の変わらぬ
時間の問題だとは思っていたが、アンブリッジ先生がホグワーツ内で絶大な権力を持つのはこれで確定した。しかもこの記事を読む限りでは、それこそ生徒どころか教員の進退を決められる程絶大な権力を持つのだろう。勿論生徒や教員の心配をしているわけではない。進退が心配になるとすればスネイプ先生くらいのものだが、そもそも先生はアンブリッジ先生と
先日アンブリッジ先生は私に言った。
『監督生などという小さなものではなく……貴女はもっと素晴らしい立場に就くことが出来るわ』
おそらく先生としては私に媚びを売ることで、ついでに私の背後にいるお父様や闇の帝王にも媚びを売るつもりなのだろう。
まったく有難迷惑以外の何物でもない。私は出来るならなるべく戦争とは離れたところにいたいのだ。マルフォイ家がもはや闇の帝王から逃げられない関係で巻き込まれているだけ。本当は家族やダフネを連れて逃げ出してしまいたい。だが裏切り者の未来が確定している以上逃げることも出来ない。
だからこそ、せめて誰の目にも留まらない位置にいたかっただけなのに……これではその望みも完全に潰えたと言える。先生が私にどのような立場を用意するかは知らないが、随分と面倒なことになることだけは間違いない。立場を与えられた以上、何もしなければそれはそれで目立ってしまう。結果私はこの不毛な争いにホグワーツの中ですら巻き込まれることになるのだ。
私は盛大な溜息をこぼした後、
「っひ! マ、マルフォイ様!? な、何かご不快なことでも、」
「……なんでもありません。私のことは気にせず、ご自分の食事に集中してください」
「も、申し訳ありません!」
私のため息に反応したスリザリン生を黙らせ、更に零れそうになるため息を我慢し食事を再開する。
ダフネが心配そうに私の頭を撫でてくれるのを感じ、私はその温かな感触に身を任せながら思考する。
何とかしなければ。これでは完全なじり貧だ。私は全てにおいて現在後手に回っている。これではいつか必ず後悔することになる。
せめてダフネのことだけでも何とかしなければならない。彼女にはまだ
しかしいくら考えたところですぐにいい答えが出るはずもない。
しかもそんな思考の最中、
「ダリア……。これ……今届いたのだけど、ダリアはどうする?」
更に私の思考をかき乱す手紙が送られてくる。
私の頭を撫でてくれていたダフネの下にフクロウが一枚の手紙を落とす。そしてその手紙には、
『ダフネ。それに
そんなことが書かれていたのだった。
……今度こそ我慢できず、再び大きなため息を吐いたのは言うまでもなかった。
ハーマイオニー視点
「ハーマイオニー、どうしたんだい? 何だかさっきから落ち着きがないように見えるけど」
「な、何でもないわ。す、少しやることがあるから早く談話室に帰りたいと思っているだけよ」
ロンの質問に私はなるべくいつも通りの声音を意識しながら応える。
落ち着きがない?
そんなのは当たり前よ。今年に入って私が
……でも今はそれをおくびにも出すわけにはいかない。今は今日も今日とて
ハリーは去年目撃した出来事から、今年は去年にも増して私と彼女達の接触を阻止しようとしている。彼の経験を考えれば当たり前のことだけど、彼女達の本質を理解している私からしたら有難迷惑以外の何物でもなかった。
でもそれを今議論しても仕方がないのも事実。ハリーはハリーで今いっぱいいっぱいなのだ。一々無駄と分かっていてアンブリッジに面と向かって盾突くことが原因の一つではあるけれど、それもそもそもは彼の余裕の無さが根本的な要因であることは想像に難くなかった。ただでさえ今も無遠慮な視線に晒され続けているのだ。今は余計なことをして彼に必要以上の刺激を与えるわけにはいかない。私はハリーのためにも、今から彼女達と隠れて会う必要性がある。
そう私は心の中で言い訳をして、素知らぬ顔を装いながらその時をじっと待つ。
そして自分の食事を疾うに終え、いよいよ手持無沙汰になり始めた時……ようやくその時が訪れたのだ。
視界の端に常にとらえ続けていた彼女達が席を立つ。しかも彼女達をいつも取り囲む取り巻きを置き去りにして。どうやら彼女の兄が足止めをしている様子だ。
それは紛れもなく私に……本来ならば会話するはずのないグリフィンドール生に会うための行動に他ならなかった。
だからこそ私は、
「わ、私は先に行くわね。早く行かなくちゃ。少しやりたいことがあるの」
未だにノロノロと食事を摂るハリーやロンにそう言い残し、彼らの返事を聞く前にサッサと大広間を後にする。
そしていつも彼女達と密会していた場所、つまり大広間横の倉庫に足を踏み入れると、
「あ、ハーマイオニー。ごめんね、中々あそこを離れるタイミングが見つからなくって。大広間でずっと私達が出てくるのを待ってくれてたんだよね」
「……」
やはり彼女達……私の親友であるダフネとダリアが中にいたのだった。
勿論私を歓迎するように笑顔を見せてくれているのはダフネの方だけ。ダリアは私の存在を無視するかの如く、明後日の方向を向いたまま私に視線を合わせようともしていない。彼女は仮にも敵陣営に属さざるを得ない以上、私への態度を決して去年までの物に戻すわけにはいかないと考えているのだろう。残念だけど、夏休みの間に私もそのどうしようもない事実については認めざるを得なかった。彼女は私の親友ではあるけれど、決して
…でも同時に彼女の姿を見て思う。
あぁ、やはり彼女も来てくれた……と。彼女がどんなに口で私を拒絶しようとも、決して本心からそうしているわけではないのだ。私がどうしてもと手紙に書くと、こうして私を無視しながらも決してここから出て行こうとはしていない。彼女がどの陣営に表向き属していようと関係ない。優しい彼女は彼女のままだ。私はようやく改めてその変わりようのない事実を再認識出来、瞬間的に嬉し涙を流しそうになったのだ。
しかしそれで今悠長に涙を流しているわけにもいかない。ここで一々それに言及してしまえば、それこそ折角のダリアの気遣いを台無しにしてしまう。だから私もダリアのことに一切言及することなく、ただダフネに微笑み返しながら応えた。
「いいえ、こちらの方こそありがとう。こんな時期に態々ここまで来てもらって。でもどうしても相談したいことがあったから……」
「そうみたいだね。で、早速で悪いけど、相談したい事って何かな? 貴女の言うように、今は時期が時期だからね。
そしてダフネもそんな私の意図をお見通しなのか即座に私に続きを促す。私もそれに応え、そのまま本題を続けることにした。
「それもそうね。ではいきなり本題なのだけど。私、どうしても貴女達に知恵を借りたかったの。ねぇ、二人も気が付いているのでしょう? あの女……アンブリッジが魔法省から送られてきたスパイだってことに」
「あぁ、あの人……。そうだね、私もあんな授業されれば流石に気付いたよ。あの人、明らかに私達に何も教えないようにしてるもの。教師ではあり得ないことだよね。……正直教育意欲だけなら3年前のペテン師の方が上だものね。これで気付かない方がどうかしているよ。……まぁ、私もダリアの言葉がなかったらもう少し気付くのに時間がかかっただろうから、あまり偉そうなことは言えないけどね。それで、どうしたの? あの人のことが相談したかったことなの? あの人が酷いことは私達が話し合っても仕方ないと思うけど……。言っておくけど、私とダリアもあの人を追い出すことは出来ないよ? あれがあの人に
「いいえ、相談したいことは正確にはあの人のこと……というわけでもないの。確かにあの女が魔法省からの差し金である以上、あの女に何かを期待する方が間違っているわ。ファッジが『例のあの人』の復活を認めない限り、魔法省が今の方針を覆すとは思えない。私が相談したいのは……これから私達はどうやって『闇の魔術に対する防衛術』を学ぶべきかってことなの」
そこまで話した時、我関せずを貫いていたダリアが初めて少しだけこちらに視線を送ってくる。どうやら私の相談事は多少彼女も気になっていた事柄だったのだろう。
でもやはり私が今ここでそれに反応してしまえば、彼女の優しさを無下にしてしまうことになる。私はそのまま何も気づかない振りをして話を続けた。
「私達は今年
長々と話し終えた私は一息つき、目の前の二人の様子を窺う。
自分でも唐突過ぎる相談事だと言うことは分かっている。こんなこといきなり聞かれても他の人なら何が何だか分からないことだろう。それに、
「……よくもまぁ、そんなことを。闇の帝王が復活したから、ですか……。よく私にそのような質問をする気になりましたね」
特にダリアにこんなことを尋ねれば、彼女が返答に困ってしまうのは私にも分かっていたことなのだ。微妙な立場にいる彼女には、『例のあの人』が復活した事実を前提に話をされても反応に困ることだろう。どこに目があるか分からない以上明確な肯定は出来ず、だからと言って事実である以上
しかしそれでも私はこの質問を彼女達にしなければならなかった。私が思いつくのは図書館で本を読むことばかり。実践が重要だと分かっていても、精一杯思い浮かべるのはルーピン先生や去年の偽ムーディ先生の授業の真似事でしかない。だからこそ、今こそ私が最も信頼する二人の意見が欲しかった。この学校で誰よりも賢い彼女達の意見が……。
そしてその期待通り、真っ先に混乱から立ち直った様子のダフネがダリアに尋ね始める。
「ま、まぁ、ダリア、少し落ち着こうよ。それより……『闇の魔術に対する防衛術』の自習か。私達もあの先生が来てからずっと二人で自習しているけど、ハーマイオニーはそう言うことが聞きたいのではないんだよね? 二人での自習ではなくて、もっと実践的なもの……。うーん、なんだろうね。自習の中でもっと実践的なもの。広い教室を借りて、決闘の練習でもするとか?」
流石は私がこの学校で最も信頼する二人。即座に私がまだ明確に思い浮かべていなかった案が上がる。ダリアもダリアで私に応えるのではなく、ダフネにならばと少し表情を和らげながら応えていた。
「……そうですね。ダフネが言うのなら……。しかし……決闘ですか。それはどうでしょう。決闘と言うと、どうしても3年前の記憶が……。あの時のことを考えると、とても身を守る手段になるとは思えません。結局一番いい方法としては、誰かアンブリッジ先生の代わりになりそうな人間を探すしかないと思います」
「それならスネイプ先生とかどうかな? 先生なら一度決闘クラブを担当した経験もあるし。先生の中でも真面な部類だと思うよ。
もっとも彼女達がスリザリン生だということもあり、多少認識の違う意見も出てくるのだけど……。
私は和気藹々と話し始める二人の軌道修正をするため一声かける。
その一言が、
「……スネイプ先生はどうかと思うわよ。スリザリン生の貴女達は大丈夫でしょうけど、グリフィンドールの私に何か教えてくれるとは思えないもの」
私が後々思いつくアイディアに繋がるとも知らずに。
私の一言にダフネは神妙な今名案を思いついたと言わんばかりの表情で答えたのだ。
「そうだね……。なら先生が駄目なら、
ダフネ視点
倉庫から談話室への帰り道。周りには生徒の姿はなく、彼らがまだ大広間で食事を摂っていることが伺える。誰にもハーマイオニーと一緒にいたところを見られないための措置とはいえ、いくらなんでも早く出過ぎただろうか。こういう機会ぐらいしか素直になれないダリアのためにも、もう少しあそこで粘るべきだった。少しだけそれを残念に思いながら、私は隣を歩くダリアに尋ねる。
「ねぇ、本当に断ってよかったの? 私としてはいい考えだと思ったのだけど……。この学校にダリア以上に『闇の魔術に対する防衛術』を上手く教えられる人間なんていないよ? ハーマイオニーも断られて凄く残念そうだったし」
「先程も言いましたが、私は教師役には不適です。……おそらくグレンジャーさんの求めている授業に私は向いていませんし、そもそもする気もありません。私が何かを教えるとすればダフネとお兄様のみです。勉強くらいなら他のスリザリン生にも多少付き合いますが、それ以外のことは……。それに……私が教えられることは、もう
やはり先程と同じにべもない返答。
尤も私も口では期待したことを言っているけれど、内心ではダリアが絶対にそんなことをしないだろうということは分かっていた。ダリアは自分の家族を守るため……だけではなく、ハーマイオニーのことも守るためにも彼女を遠ざけている。そんな彼女がハーマイオニーの教師をするなんて選択をするはずがない。
その事実を再確認し、私は更に残念な気分になりながらダリアの手を握る。無表情の仮面の下で内心悲しい思いをしている、ダリアの気持ちを少しでも和らげるために。
ダリアの内面を考えると涙が出そうになる。
今回のことだって、本当はダリアもハーマイオニーを手助けしてあげたいと思っているのだ。でなければあのハーマイオニーの、
『どうしても相談したいことがあるの。ダリアは立場上来たくないことは分かっているわ。でもお願い。これはどうしても必要なことなの』
あの手紙に嫌々ながらも応えるはずがない。倉庫の中でもハーマイオニーを無視しながらも、ダリアは決して彼女の話を聞いていないわけではなかった。その上で自分では彼女の役に立てない、自分は寧ろ彼女の邪魔になってしまうと判断するのがどれほど苦しかったことか。ダリアの内心を想像するだけで、私は無性に悲しい気持ちになるのだった。
本当に……闇の帝王なんて復活しなければ良かったのに。
ダリアが何故こんな風に自分を押し殺して生きていかねばならないのか。その全ての元凶はあの闇の帝王が復活したからに他ならない。
嘗て魔法界を恐怖のどん底に陥れた闇の魔法使い。現在一見平穏な社会の裏側で、次の戦争に向けて着々と準備を進めているだろう危険人物。そして……ダリアを人工的に生み出し、今も家族を人質に彼女を縛り続けている
私はダリアの温もりを手で感じながら、内心この状況を作り出した元凶に対し怒りの感情を覚える。そして……そんなダリアの現状を分かっていながら、それでもこうして手を握って上げることしか出来ない自分の無力さを恨みながら。
そんなことを内心で考える私を、ダリアが静かに見上げていたことにも気付かずに……。
この時私を見上げる彼女が内心どんなことを考えていたのか……そのことに気付くのはずっと後のことだった。