ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダフネ視点
不愉快極まりない集会から数日。
何故あんな集会に参加させられたのか未だによく分からない。あの空間で真面だったのはハーマイオニーと……あのルーナというレイブンクロー生くらいのものだろう。今思い出しただけで鳥肌が立つ。心底考え方の違う連中ばかり。きっとあの中で誰とも分かり合えることはない。もう二度とあんな集まりに行くのは御免だった。
でも結局ダリアと……ハーマイオニーはそれを許してはくれなかった。私が何とか談話室に辿り着いた瞬間、ハーマイオニーがドビー経由で手紙を送ってきたのだ。
『ダフネ、今日は参加してくれてありがとう。私、本当に貴女が来てくれて嬉しかった。あの場では虚勢を張っていたけど、本当は心細かったの。ハリーに教師役をお願いしたけれど、それ以外は私がやらなちゃいけないから。だから貴女が来てくれてどんなに励まされたか。何かして欲しいというわけではないの。でも貴女がいるだけで、この会は本当に意味のあるものになるの。もし貴女がいなければ、この会は多分ただの仲良しグループに成り下がっていたわ。どんなに立派な目標を持っていても、それだけでは絶対にダメなの。それにこう言っては何だけど、親友が一人いるだけで私は安心することが出来る。ただの仲良しグループは駄目と書いたばかりだけど、それも嘘偽らざる気持ちなの。だから本当に来てくれてありがとう。
ダリアに事情を必ず話すであろう私に、ハーマイオニーが呪いのかかった羊皮紙を差し出すとは思ってはいなかったけど……やはりそういう絡繰りだったらしい。変な言い方をするなと思っていたら、何ともずる賢い言い分だった。そもそもこの手紙だって、どこかダリアも読むことを前提にしている。前から思っていたけれど、彼女にはスリザリンにだって入れる素質がある。グリフィンドールなんかよりもっと相応しい寮があっただろうに。横から手紙を読んでいたダリアも一瞬『呪い』という言葉に厳しい無表情を浮かべていたけど、最終的にはどこか呆れた表情を浮かべていた。
……でもそのまま呆れ返ってくれればいいのに、
『ま、まぁ、これである程度安心ですね。グレンジャーさんはどこか抜けている所がありますから、もしや無策でダフネを迎え入れたのかもと思いましたが……彼女は彼女なりに考えていたのですね。これで次回も安心してダフネを送り出すことが出来ます』
『そうだな……。ダフネ、次の集会もあるんだろう? お前は次も必ず行け。これは
そんなことを言いだしたのだ。おまけに行く前は難しい表情を浮かべていたはずのドラコまで賛成側に回ってしまった。最初はやや反対していたドラコがいつの間にか賛成に回る。そんなの、ドラコがこの行動こそがダリアにためになると判断したからに他ならない。ドラコの判断基準の大半はダリアが占めている。何があったかは知らないけど、これでは私がただ嫌だからという理由で逆らえるわけがない。ドラコのせいで私は内心どんなに嫌に思っていたとしても、次の集会にも参加せざるを得なくなったのだった。
だからこそ、私に出来ることはただ次の集会が来ないことを祈ることのみだった。ハーマイオニーの言う『闇の魔術に対する防衛術』の自習。その考えに反対というわけではない。寧ろ賛成してすらいる。そもそも彼女にこの話を焚き付けたのは私とダリアだ。最初はダリアを教師役にという話だったけれど、そこから発想を得たことは間違いない。言い出したのが自分である以上、会の存在理由自体に文句を言うわけにはいかないのだ。だからこそ、私はただ次なんてなければいいと祈っていた。ハーマイオニーには悪いけれど、あんな連中の集まる会なんて不愉快なだけ。次がなければそもそも私が参加するかで悩む必要すらなくなる。そう思っていたのだ……。
そしてその祈りは……意外なことに叶うことになる。
勿論集会の存在自体が無くなったわけではない。でもどうやら、ハーマイオニーは集会をやりたくてもやれない状態になっているらしいのだ。
原因は単純、まずこの集会の開催場所が中々見つからないことだった。
自習するだけならば図書館で事足りる。魔法の練習をするだけでも、無駄に広いホグワーツならば空き教室がいくらでもある。でもハーマイオニーが必要としているのは、皆で勉強したり魔法を練習したりするだけの空間ではなく、他の人間には絶対にバレない場所。その条件を満たすにはただの空き教室では駄目だ。流石のハーマイオニーもこの条件には難渋している様子だった。
そしてもう一つの原因が……メンバーの数人が集会以外の用事にかかりっきりになったことだった。
ホグワーツ中が最も熱狂するイベント。クィディッチ寮対抗戦の時期がいよいよ近づいてきたのだ。
あの時集まったメンバーには何人ものクィディッチ選手がいた。グリフィンドールなんて選手のほとんどがあの会に参加していたし、あの鬱陶しいことこの上なかったザカリアス・スミスも聞けばハッフルパフのチェイサーとのことだ。その他にもチョウ・チャンなど多くの選手が在籍している。いくら何よりも大切なことと言っても、ほとんどの生徒にとっては内心クィディッチの方が大切なのだろう。苛立った様子のハーマイオニーとは裏腹に、どうやらクィディッチ選手たちはこの時期での集会は望んでいない様子だった。
お陰で私はよくハーマイオニーの愚痴に付き合わされる羽目になる。いつもの倉庫にハーマイオニーの悲痛な叫びが今日も響く。
「もう! 皆クィディッチ、クィディッチって! あの人達は本当にこの集会の意味を理解しているのかしら! 挙句の果てにハリーすら今はクィディッチのことで頭が一杯みたいなの! これでは先が思いやられるわ!」
「……私としてはその方が助かるけど」
朝食後の情報交換会。倉庫の中にいるのは私とハーマイオニーのみ。これはただの情報交換でしかないことから、当然倉庫の中にはダリアの姿はない。ハーマイオニーが余程の危機に晒されれば来てくれるのだろう。でもこんな愚痴を聞くだけの会に流石に来てはくれなかった。お蔭で議論は堂々巡り。私がなるべく集会を先送りにしようとしていることもあるけど、ダリアを欠いた状態でいい答えが直ぐに出てくることはなかった。
「ねぇ、ダフネ。本当にどこかいい場所を知らないかしら? クィディッチのことは今更言っても仕方ないから我慢するわ。でも、そもそも場所が無いと、始められるものも始められないわ。まさかアンブリッジの目と鼻の先で集まるわけにもいかないもの。流石にただの自習グループと言い張るのは無理があるから。スリザリンの談話室は地下よね? 地下にどこかいい部屋は無いかしら?」
「……う~ん。地下にそういった部屋があるって聞いたことはないよ。それに私だってあまり城の中には詳しくないんだよ。ハーマイオニーに厨房の場所を教えてもらうまで知らなかったくらいだからね。寧ろハーマイオニーはどうやって厨房の場所を知ったの? 生徒の中でもあまり知っている人はいないよ」
「私も聞いただけよ。フレッドとジョージがこういったことに詳しいから。でも今回の条件に合致している場所は知らないみたい」
「そうなんだ。それは良かっ……
そこで私達の会話は切れる。いつもの倉庫の中、ハーマイオニーは答えの出ない状況に頭を抱え、私はそもそも答えを出す気がない。結局どれだけ話しても、大して城の中に詳しくない私達では答えの出しようがないのだ。知らないものを答えることなんて誰にも出来ない。その答えを出す有効な手段を思いつける人間もいない。だから結局行きつく結論は、
「……ダリアはどこかいい場所知らないかしら?」
私達の最も頼れる親友である彼女に頼ることだった。ハーマイオニーも賢いし、何より『スリザリンの怪物』の正体を見破ったりと実績はあるのだけど、あの子に比べればどうしても見劣りしてしまう。
「さぁ。でも多分知らないと思う。あの子もあまり城には詳しくないから」
でも今は彼女に頼れない。
それは勿論こんなどうでもいいハーマイオニーの相談に彼女が乗ってくれないだろう上、彼女もハーマイオニーが求めているような場所を知らないだろうこともある。でもそれ以上に、今彼女は違うことで頭が一杯の様子だからだ。
今頃あの子も、ハーマイオニーが悩んでいる連中みたいにクィディッチに……と言うより、それに向けて練習する兄に夢中なんだろうな。
何と言っても今年のドラコの箒は……。
悩みが多い状況の中、少しでもあの子が気を逸らすことが出来るなら、もう少しだけあの子の邪魔なんてしたくない。それがたとえ一時的なものだとしても……久しぶりに浮かべてくれている明るい無表情を曇らせたくなどないのだ。
だから私はハーマイオニーの質問に曖昧な笑顔で応えるのだった。
そう、それが本当に……ただ一時的なものでしかないことを知りながら。
ドラコ視点
「ド、ドラコ……まさかその箒は!?」
地下にある空き教室の一角。そこにスリザリン・クィディッチチームと……本来部外者であるはずのダリアが集まっていた。
そんな中、新しくスリザリンチームキャプテンとなったモンターギュが代表し声を上げる。視線の先には僕の新しい箒。去年ダリアからクリスマスプレゼントに貰った箒を指差し、顎が外れるのではないかと思える程大きく口を開けていた。そしてそれは他の連中も同じだ。声こそ上げていなくとも、それこそモンターギュと同じく驚愕の表情を浮かべている。新しいビーターであるクラッブとゴイルなど、いつもの阿保面がまだ賢そうに見える程だ。誰一人として、僅かに頬を紅潮させて僕を見つめているダリアの存在に疑問を持つ人間などいない。
まぁ、でもそれも仕方がないことだろう。何故なら僕が今持っているのは、
「あぁ、お前達の想像通りだ。これは何を隠そう……あの
ニンバス2001すら遥かに凌駕する最新鋭の箒なのだから。
僕が肯定したことで、堰を切ったように皆が歓声の声を上げる。
「す、凄いぞ、ドラコ! ど、どうやってこの箒を!?」
「ニンバス2001の比じゃないだろう! 箒を全員分揃えるのとはわけが違う! いくらマルフォイ家でも、こんな高い物易々とは、」
「去年
「そ、そうなのですか、マルフォイ様!?」
「……えぇ。頑張っておられるお兄様にはこれくらいの箒は必要だと思いましたので。お兄様の為です。大した出費ではないですよ。元々使い道が思いつかないお金でしたから。寧ろ安いものです。……だから感謝はお兄様に」
「さ、流石はマルフォイ様! これで今年もまたスリザリンが優勝することが出来ます!」
「ドラコ、こ、これは凄いぞ! やったな!」
今まで秘密にしてきた箒の存在に、皆の興奮はドンドン高まっていくようだった。もはや興奮のあまり、いつものダリアに対する恐怖など感じていない様子だ。かくいう僕のお披露目する姿を見に来たダリアも、明らかに興奮した様子で注目される僕にウットリとした無表情を浮かべていた。……こんな表情を浮かべるダリアの姿などいつぶりだろうか。
僕はチームメンバーに半ばもみくちゃにされながら、それでもどこか冷静な気持ちで思考する。
去年はクィディッチの試合が無かったためお披露目できなかったが、ようやくこれを見せる時が来た。皆もこれで多少はダリアに対する恐怖が和らいだことだろう。あくまでチームメンバー限定であるが、このファイアボルトを効果的に使えたと言える。所詮は無表情であるというだけでダリアを恐れる連中だ。ニンバス2001より優れた箒をそれこそ自費で買ったとなれば、恐怖より興奮の方が上回るに違いない。僕の予想は見事に的中したのだ。
でも、僕はこれくらいの結果で満足してはいけない。
この箒は所詮切欠に過ぎない。ダリアが僕に与えてくれた切欠。結局皆が興奮しているのはこの箒に対してのみだ。僕も箒を貰った時こそ興奮したが、本当に真価を問われるのはこれから。僕がこの箒をどのように使うかにこそ、本当の価値と意味がある。僕はこの最新型の箒を貰ったからといって、決して慢心してはいけないのだ。
ファイアボルトを貰った? だからどうしたと言うのだ。それは僕にこの箒をくれたダリアにこそ功績がある。それこそ今まで貯めていたお小遣いを使ってまで買ってくれたのだ。それは全てダリアのお陰に過ぎない。僕が誇れることなど何もない。僕は所詮ポッターと同じ土俵に立てただけ。これでようやく対等に戦うことが出来るだけ。僕は何一つとして成し遂げてなどいない。僕の戦いはこれからなのだ。
そしてその思いを分かっているからこそ、僕がそう考えると思ったからこそ……ダリアはこうしてここに来てくれて、こうして僕のことをを恍惚とした無表情で見つめてくれているのだ。僕が箒を持つ姿ではなく、そう決意を新たにする姿を見たからこそダリアは喜んでくれているのだ。ならば僕はこの思いを決して損なうわけにはいかない。
一時的とはいえ、今こうして久しぶりに笑顔を浮かべてくれているダリアのために。無力な僕に出来ることは、
だからこそ、僕は皆の興奮を断ち切り声を上げる。
「それより、今まで通り箒のことは僕達だけの秘密にした方がいいが……これからの練習はどうする? まさか競技場で堂々と練習するわけにはいかないだろう」
そしてそんな僕の思惑通り、少し冷静さを取り戻したモンターギュが顎に手を当てながら応えた。
「そうだな……。グリフィンドールは他寮の練習を覗き見るなんて……
「いや、一時的にはそれでいいが、ずっとそれでいくわけにはいかないだろう。流石に本番だけこれを使うには無理がある」
しかし興奮した中出した割にはいい意見だったが、モンターギュの答えは完全に納得することの出来るものではなかった。
秘匿するだけなら奴の意見で十分だ。だがニンバス2001とファイアボルトは速度がまるで違う。流石にニンバス2001で練習して、本番だけファイアボルトを使うなんてことは出来ない。速度に翻弄されるのがオチだ。非常に悔しいことだが、ポッターにそんな付け刃な技術で勝つことは不可能なのだ。必然的にどこかでファイアボルトで練習する必要がある。
だがそれに対しての明確な得られなかった。結局こいつにも納得いく答えはないということだろう。
僕の返事にモンターギュを含めた全員が考え込むように黙り込む。それこそ、
「であれば、お兄様だけ透明化しながら練習するのはどうですか? お兄様のポジションはシーカーです。透明化しても特段問題は無いと思います。魔法なら私がかけますが?」
この中……どころか学校の中で一番賢いダリア以外は。
当に学校一優秀なダリアらしい意見。こんなことが出来るのはダリアくらいのものだろう。僕はダリアの方に顔を向けながら応えた。
「そうだな……。それが一番確実だ。だが毎回魔法をかけるんだ。ダリアの負担になりはしないか?」
「いいえ、問題はありません。たかが数時間の魔法をかけるだけです。負担になどなりはしませんよ。……それにどんなに負担になったとしても、お兄様の為です。私は助力を惜しみません」
最後に少し不安に感じる様なことを言ってはいるが、この様子だと本当に負担にはならないのだろう。それに何より、今こうしてクィディッチのことを考えてくれている方が、昨日まで浮かべていた思い悩んだ表情よりは遥かにマシだ。
ようやく始まったクィディッチ・シーズン。二年越しにやってきた、無力な僕だって活躍できるイベント。この期間の間であれば、たとえ少しであったとしてもダリアの苦悩を紛らわせてやることが出来る。ダリアの恍惚とした無表情を見つめ返しながら、僕はそう決意を新たにしていたのだった。
……そう。この後、
『ホグワーツ高等尋問官令』
絶望的にタイミングの悪い告知が出るまでは。
談話室に戻った僕らは、掲示板にその告知がデカデカと張り付けられているのを見てしまったのだ。
『学生による組織、団体、チーム、グループ、クラブなどは、ここに全て解散される。再結成の許可は高等尋問官に申し出るように。許可なく再結成した場合は、それに属する生徒を全員退学処分とする』
正直これでスリザリンのクィディッチ・チームが無くなったとは誰も考えてはいなかった。スネイプ以上にスリザリンに対して便宜を図ろうとするアンブリッジのことだ。グリフィンドールならいざ知らず、スリザリンの再結成にそう時間はかからないだろう。どうせこれはグリフィンドールへの嫌がらせに過ぎない。だから本来であればこの告知を見たところで、スリザリン生が落ち込むことなどありはしないのだ。
だが……今までクィディッチに集中出来ていたダリアに、今自分の置かれた現実を思い出させるには十分なものだった。
談話室に戻り、先程までグレンジャーと一緒にいたと思しきダフネと合流したダリアは、それまではとてもいい明るい無表情を浮かべていた。だが告知を見た瞬間、今まで忘れていたアンブリッジの存在を思い出してしまったかのように、
「……あの女。いくら任務とはいえ、お兄様の活躍に水を差すようなことを。それにこの内容は……あぁ、本当に邪魔なことばかりを。これではグレンジャーさんの集会も……」
明るい表情を霧散させ、最近ずっと浮かべていた思い悩む様な表情に変わってしまったのだ。
ハリー視点
こんなに幸せな気分は一体いつぶりだろうか。
あの集会は最後の最後に特大なケチが付いてしまったけど、それでもそれまでの鬱屈とした気分を吹き飛ばすには十分なものだった。
久しぶりに向けられた好意的な視線。僕の今まで成してきたことを称賛する言葉。そして何より、僕のことを見つめるチョウ・チャン。
ザカリアス・スミスや……明らかに敵であるダフネ・グリーングラスが集会に紛れ込もうと、あの時感じた幸福感は損なわれない。
そりゃ、あの時は本気で怒りもした。いつまで経ってもグリーングラスと縁を切らないハーマイオニー。挙句の果てにこそこそとあいつと繋がり、いつの間にか集会にまで呼んでいたのだ。現実を一向に見ようとしない行動に、何故僕がこれだけ言ってもあんな奴を信じるのかと本気で怒った。
でも流石にハーマイオニーも何も考えていないわけではなかったらしく、情報漏れに対する対策だけはしていた。勉強会と言っても、誰がどう考えてもそんな大人しい会ではない。アンブリッジにバレれば、必ず何かしらの罰則を与えられることになるだろう。グリーングラスを呼んだとしても、それだけはキチンとやっていた。マルフォイやグリーングラス以外のことに関しては、僕はハーマイオニーを最も信頼しているのだ。彼女が呪いをかけたと言うのならば、それは確実に有効な手段なのだろう。
だからこそ、僕は寧ろこれは好機だと思うことにしたのだ。腹が立ちはしたけど、寧ろこれでグリーングラスがアンブリッジやダリア・マルフォイにあれこれ報告することは出来なくなった。会に今後も参加しないのも良し、もし参加しても監視下に置くことが出来る。ハーマイオニーとコソコソ密会されるより遥かにマシだ。だからこそ僕は留飲を下げ、それ以外の明るい事実に目を向けることにしていたのだ。
でも、
「ダフネ・グリーングラスだ! あいつが! あいつがアンブリッジに言ったんだ!」
この告知を目にしてしまえば、どうしてもそのハーマイオニーへの信頼も疑わざるを得なかった。
グリフィンドール談話室の掲示板。僕とロン、そしてハーマイオニーの目の前には、アンブリッジの新しく出した禁止令が張り付けてあった。あまりにタイミングが良すぎる告知。まるで僕らが集会したのを知っているかのようなタイミング。僕には誰かがアンブリッジに集会のことを垂れ込んだとしか思えなかった。そしてそんな人間は……ダフネ・グリーングラス以外にあり得ない。次点としてザカリアス・スミスも考えられるけど、グリーングラスの疑わしさに比べれば微々たるものだ。もはやグリーングラスしか疑わしい人間が言えないとさえ言える。そしてロンも同じ意見なのか、掲示を見た瞬間真っ先にあいつの名前を叫んでいた。でも僕とロンの非難する視線を受けても尚、ハーマイオニーは自分の顎に手を当てながら応えた。
「あり得ないわ。ダフネがアンブリッジに報告するなんてことは絶対にない。そんなことは天地がひっくり返ってもないの」
それにと彼女は続ける。
「それに、ダフネ以外もそんなこと出来ないわ。少なくともしたら私に絶対に分かるようにしているもの。私がかけたのは強い呪いよ。だからあの場にいた生徒がアンブリッジに報告したなんてことはないの。……あの場に私たち以外の客なんていなかったわ。だからこれはタイミングが悪いだけで、おそらく私達の集会とは無関係のものだわ」
あまりに自信に溢れた声音に、僕とロンは思わずたじろぐ。ハーマイオニーの実力は学内屈指の物だ。彼女が絶対の自信を持っている呪文に、僕らがこれ以上論理的に疑問を差し挟めるはずもない。……尤も疑いが無くなったわけではないがけど。
口には出さないまでも胡乱気な視線で見つめ続ける僕らを他所に、ハーマイオニーは一人考え込むように呟いていた。
「本当にタイミングが悪いけれど……これは絶対に今回の集会とは無関係なはず。前から計画していた? あの女の目的は私達に魔法を学ばせないこと。ならその一環の行動ね。本当にタイミングが悪いけれど……。でも裏切り者が出てない以上、それ以外はあり得ない。本当に嫌になるわ。これで今まで以上に秘匿性の高い場所を探さなくてはならなくった。どこか……どこかないのかしら」
結局この後も、僕とロンがこれ以上ダフネ・グリーングラスが告発したのだと主張することはなかった。というより出来なかった。
ハーマイオニーがあまりに真剣な表情で何事か呟いていて、その後も彼女の思考を邪魔することが出来なかったのだ。
それに何より、
「ハリー! アンブリッジの告知は見た!? あの告知……どうもクィディッチ・チームのことも含まれてるらしいのよ! スリザリンは即座に許可が出たと言っていたけど……グリフィンドールはどうなのかしら!?」
談話室に今にも泣きそうな表情を浮かべたアンジェリーナが駆け込んできたから。
集会とは別に僕の心を明るくしてくれていたクィディッチ。次の集会が決まっていないこともあり、僕は最近そちらに集中していたわけだけど……アンジェリーナに言われるまでチームの解散の可能性について完全に失念していた。クィディッチはホグワーツ最大の行事。去年が例外なだけで、普段であればこのイベントが無くなることなんてあり得ない。まさかそれが無くなる可能性なんて思ってもいなかったのだけど、アンブリッジがそれすら止める権力を持つようになっていたとは。
僕とロンはあまりのことに泣き出しそうなアンジェリーナと話すため立ち上がる。頭にはもうダフネ・グリーングラスのことなどない。ただこのクィディッチ危機のことで頭が一杯で、その他のことに構っている余裕などありはしなかったのだ。
もう僕らには……
「どこか場所は……。地下は駄目ってダフネが言っていた。外は……禁じられた森くらいかしら。でもそれは危なすぎる。本当に……どこにもないの?」
やはり一人で考え続けるハーマイオニーを気にする余裕などありはしなかった。
ハーマイオニー視点
先程までクィディッチのことで騒いでいたチームメンバーも全員寝室に戻り、今談話室には物思いにふける私だけが残されていた。
そろそろ本格的に冷たくなってきた時期。それでも談話室を快適な温度に保っている暖炉を見つめながら、私は一人必死に思考を巡らせる。
内容は勿論次の集会のこと。ハリーやロン、そして集会に参加していたグリフィンドール・チームは集会よりクィディッチの方が心配の様子だったけど、私からすれば寧ろそちらの方がどうだっていいことだった。
おそらくアンブリッジの
『な、なぁ、ハーマイオニー。アンブリッジの告知だけど……ほ、本当に大丈夫なのかい? あの時は不正ではなかったけど、これからどうなるか……。それにこれはグリーングラスがスパイだったからだろう? 君の実力を疑いたくないが、本当に君のかけた対策とやらは大丈夫なのかい?』
なんて直接聞きに来る人までいた程だ。あの時ダフネを疑う言葉を吐いたアーニーには本当に呪いをかけようかしらと思ったけれど、冷静に考えれば彼の疑念も尤もなことなのだ。寧ろクィディッチのことで頭が一杯なグリフィンドール生達の方がどうかしている。
裏切り者がいた可能性は今の所皆無と言っていい。皆に名前を書いてもらった羊皮紙には強力な呪いをかけている。それこそもし他人に集会のことを言えば、その人は必ず後悔する程の呪いが。その上私にもそれが分かるようにしているのだ。自慢ではないけど、この呪いを解くことが出来る生徒はそうそういないと思う。解けるとすればダリアくらいのものだろう。
そして唯一羊皮紙に名前を書いていないダフネが裏切った可能性も皆無。私の親友がそんなことするはずがない。彼女ならダリアと……ドラコには集会の詳細を伝えるだろうけど、その情報がアンブリッジの下に届くことはない。ダリアやドラコが、態々ダフネが危機に陥るようなことを積極的にするはずがないのだから。そもそも集会にダフネを送ってくれたのはダリアなのだ。あの子達が味方であるのは自明の理だった。
だからこそ、今回の告知はただタイミングが悪かっただけなのだと私には分かる。……分かったところで、タイミングが最悪なことは確かなのだけど。
これで今まで以上に隠れて集合する必要が出てきた。空き教室でする案は勿論使えない。当に万事休すと言っていい状況だった。集まれたのは最初だけ。私達の次の行動は完全に抑え込まれているのだから。
「どうすればいいの……」
悩んでばかりいるせいで頭がどうにかなりそうだった。今ならハリーの気持ちが本当の意味で理解出来る。考えてばかりで、逆に余計なことが頭をよぎってしまう。何故私は一人で悩まなくてはいけないのだろう。考えるのは私ばかりで、他の人は誰も一緒になっては考えてはくれない。唯一相談に乗ってくれるダフネとも中々会えない。まるで独りぼっちになった気分。夏休み中のハリーもおそらくこんな気分だったのだろう。尤もそのハリーも今はクィディッチのことで頭が一杯なのだけれど……。
私は余計な雑念を頭を振って追いやり、何とか集中して集会候補地について考える。
「城には場所がない。ならば外ね。禁じられた森は危なくて無理。ホグズミードは練習に貸してくれるような場所を知らないし、間隔が離れすぎてしまう。そうだ! 叫びの屋敷! あそこなら誰も……いいえ、駄目ね。あそこは狭くて皆が入れない。入れたとしても練習には使えない。何より少しの衝撃で崩れてしまうかも。う~ん、駄目ね。やっぱり一人ではいい考えないんて出ないわ」
でもやはり答えが中々出てくることはない。ダフネと相談している時でさえ出ないのだから、夜こうして一人で考えても出るはずがない。それでも考えなくてはいけないだけ。もはや時間がない。このままではクィディッチ試合どころか、クリスマス休暇までもつれ込んでしまうかもしれない。こうしている間にも『例のあの人』の勢力は大きくなっているのだ。今歩みを止めるわけにはいかい。
そしてそう考えているのは……私だけではなかった。
「グレンジャー様」
一人であるはずの談話室に突然キーキー声が響く。私はその声に
「ドビー! なんとなく、今日来てくれると思っていたの! 本当に来てくれたのね!」
あの告知が掲示されたのはグリフィンドールだけではない。なら彼女だって必ず見ているはず。ダフネは彼女に事情を話したがらなかったけど、あの掲示を見て彼女も私達の状況を察してくれるに違いない。そう、この学校で一番賢く、事の重大さを真に理解しているダリアならば。
……本来なら私が彼女を当てにするのは間違っている。ダリアは今本当に難しい立場に置かれているのだ。あの子からすれば、以前と同じように彼女に纏わりつこうとする私は迷惑以外の何物でもないだろう。私も本当はそれを分かっている。あの子はただ家族とダフネ……そして私のことも守るために、あぁして私のことを拒絶している。その努力を私が壊してしまうなんて間違っている。
でも、それでも私には彼女がどうしても必要な時があるのだ。ダフネとダリア、二人の存在で私がどれだけ勇気づけられているか。彼女達が友人であり、どんな立場であろうと本当は仲間であると思えるだけでどれだけ嬉しいか。そしてこうして、
「やはりグレンジャー様は予期されておられました! 流石はお嬢様のご友人でありますです! ドビーめはお嬢様からの伝言をお預かりしているであります! ……本当はお嬢様から、ただドビーめの判断で伝えたことにするよう言われているのでありますです! ですがお嬢様はお優しい方だと、グレンジャー様は知っておられる! ドビーめが嘘をついても必ず見抜かれると思ったのです!」
不器用ながら陰で支えてくれることがどれだけ心温まるか。
私は零れた涙を拭いながら尋ねる。
「……本当に貴方の言う通り、ダリアは優しい子よ。どんなに拒絶されても、本当はあの子がいつも私を守ってくれていることくらい分かるわ。だからこそ……今回のことであの子が絶対に手助けしてくれると思ったの。それでドビー、ダリアはなんと言っていたの?」
しかしいつまでも感傷に浸ってはいられない。もう夜遅い。折角夜遅くに、それも私が一人でいるタイミングでドビーが訪ねてきてくれたのだ。必要以上に彼をここに縛り付けるわけにはいかない。それにダリアのことだから、それは必ず私が今まで思いつきもしなかった答えに違いない。私では散々悩んでも出なかった答えを、彼女が如何にして出すか気になって仕方がなかったのだ。
そしてそんな私の予想通り、
「はいです、グレンジャー様! ダリアお嬢様は仰りました! 城のことを知りたいのであれば、それはこの城に最も詳しいモノに聞けばいいと! つまりお嬢様は……
今まで私が考えてもいない方法だった。
ドビーの言葉に私は目を見開く。言われてみれば単純なこと。城の構造に詳しい人に聞く。それは最初から思いつていた。でもそれはフレッドとジョージだと考えるばかりで、それ以上のことに考えが及んではいなかった。
「そうよ……何故今まで気づきもしなかったのかしら。この城に一番詳しいのは……貴方達『しもべ妖精』。考えれば本当に単純なことだったんだわ。答えは最初から近くのあったのよ。そ、それで、ドビー、貴方はどこかいい場所を知らないかしら!? ダリアの言う通り、今私達にはどこか秘密の練習場が必要なの!」
思わず前のめりになる私にドビーは事も無げに答える。
「一つだけドビーめは心当たりがありますです。……『
これがこの先何度も通うことになる『必要の部屋』を初めて知った時だった。