ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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初代尋問官親衛隊

 ダリア視点

 

今までとは違い、正々堂々とポッターに挑んだお兄様。

別に今までのラフプレーを私は否定することはない。あれはあれで戦術的に正しいプレーであり、そもそもお兄様がポッターとの実力差を認めなければ出来ない行為だ。そこに驕りや逃げはない。現実を見据えた上で、それでも勝利を掴もうとするお兄様の戦術。それを私がどうして否定出来るだろう。寧ろお兄様のことをよりカッコいいと思える程だ。

でもそれを踏まえた上で……今回のお兄様の姿はより一層輝いていたのだ。

今までの戦術を捨て、正々堂々とポッターに挑む。そこにはどれ程の覚悟があっただろう。箒が変わっても、実力差が決して埋まったわけではない。条件が同じになっただけ。歴然とした実力差……いや、才能の差がそこには横たわっている。それはお兄様にも痛い程分かっていたはずだ。

それなのにお兄様は、最終的にポッターと同じ条件で挑むことを選んだ。私のプレゼントした箒に甘えず、それ以上のことを成し遂げようとした。言い訳や逃げなどそこには存在しない。それは戦術としては正しくなかったかもしれない。まるで届かぬ星に手を伸ばすような行為。事実敗北した時、スリザリンの席からはお兄様を罵倒する言葉が漏れ聞こえていた。

でも、それがどうしたと言うのだ。手が届かないからと言って、どうして星に手を伸ばしてはいけないのだろうか。ポッターに及ばないと知りながら挑んだお兄様の勇気を、私は美しいと思えて仕方がなかった。その成長と勇気に私がどれほど勇気づけられただろうか。試合が終わった瞬間など、私は思わず立ち上がり拍手を送っていた程だ。こんな感動的な試合をお兄様は私に見せてくれた。クィディッチなど私には欠片ほども興味はなく、試合の結果も私にとってはどうでもいい。ただお兄様の成長が私には嬉しくて仕方がなかった。

 

でも同時に思う。

あぁ、それなのに……どうして世の中はそんな私の細やかな喜びすら許してはくれないのだろうか、と。

 

『ミス・マルフォイ。お可哀そうに……こんな残念な結果になってしまって、私()悔しくて仕方がありませんわ』

 

今でもあの時アンブリッジ先生が発した言葉をはっきりと覚えている。

私が立ち上がり、未だ地面に倒れ伏しているお兄様の下に行こうと準備をしている時、アンブリッジ先生が突然わけの分からないことを言い始めたのだ。まるで心底私のことを理解していると言わんばかりの表情と声音で、先生は私の無表情を見つめながら続けていた。

 

『いえ、私は、』

 

『否定することはありませんわ。私には分かりますとも。お兄さんが怪我を負わされ悔しいのでしょう? ()()()()から私には分かりますわ。ミスター・ポッターの不正に憤っていないはずがありません。でも御安心なさって。私が今から正しい試合を正しい結果に導きますから。この試合、スリザリンの勝利ですわ』

 

その後は怒涛の展開だった。アンブリッジ先生の突然の発言に周りの先生達も騒然としていた。特にマクゴナガル先生など、私が今まで見たことがない程怒り狂っていた。ダンブルドアも然りだ。

 

『何を先程から言っているのですか、ドローレス。ポッターの不正? そんなものは存在しません! あれは実に正々堂々とした名勝負でした!』

 

『ワシもミネルバの言うことが正しいと思うのぅ。それにいくらお主と言えども、このような試合に一々口を出すのはあまり感心せぬ。どのような結果であれ、それこそが生徒達の成長を促すことになるのじゃ。それをお主は、』

 

しかしあのアンブリッジ先生が止まるはずもなく、ダンブルドア達の反論を気にすることもなく……それどころか益々笑みを強めながら答えていた。

 

『ミネルバ、それにダンブルドア校長。聞き捨てなりませんわね。貴方達の仰り様は、まるで魔法省に対する背信行為そのものですわ。こういう事態もあろうかと、私今朝コーネリウスより尋問官令を受け取っていましたの。私は生徒の活動について、そう、クィディッチの結果にも改善するべき点があれば介入する様にと。魔法省大臣直々のお言葉ですわ。そんな大臣から信を受けた私への抗議は、ひいては大臣に反逆するということです。私信じたくはなかったのですが……本当に貴方方は反逆を企てているのですか?』

 

どう考えても論理が飛躍しすぎているのだが、あれ程までにあからさまに権力を振りかざされればもう反論のしようがなかった。

マクゴナガル先生も、ダンブルドアも……そして私も。

アンブリッジ先生に一度として肯定の言葉を発しはしなかったが、だからと言って先生を否定することも出来なかった。アンブリッジ先生の言葉を否定してしまえば、決定的に先生との関係がこじれる可能性が出てくる。それが将来私に……何より家族にどのような影響を及ぼすのか予想できない。だからこそ、私には決して軽はずみな言動を取れるはずがなかったのだ。

 

たとえそれが……お兄様の勇気ある行動に泥を塗ることになるのだとしても。お兄様を傷つける行為なのだとしても、私にはどうすることも出来なかった。

 

あの試合から数日。学校全体がどこか暗い空気に包まれてしまっている。元気なのはスリザリンの一部くらいのものだろう。結果こそを重視するスリザリン生ですら、大部分の生徒は流石にこの結果を全肯定出来ずにいる。あれでは試合をしていないのと同じだ。最初から結果が決まっている試合など何が楽しいのか。思っても、負けずに助かった……くらいの感想くらいだろう。そして勝利させられたスリザリンですらそうなのだ。当のグリフィンドールに至っては、

 

「アンブリッジの奴……何が不正だ。ふざけんなよ」

 

「ポッターを目の敵にするのはともかく、あれは流石にやりすぎだろう。どう考えても正当な試合だった。これじゃ試合なんて何の意味もないぞ」

 

数日経っても怨嗟の声が鳴りやまない様子だ。

いつ見かけても暗い表情を浮かべ、時折ブツブツと何か不穏なことを口走っている。グリフィンドール席はまるで毎日葬式をしているのではと思える程暗い空気を放ち続けていた。

それはそうだろう。あの試合はスリザリンから見ても、間違いなくグリフィンドールの勝利以外の何物でもなかった。アンブリッジ先生から許可を何とか捥ぎ取り、その末にようやく手に入れた勝利。その勝利から一転、訳の分からない言い掛かりで敗北となったのだ。落ち込まないはずがない。アンブリッジ先生が教員に就いた瞬間から、常に寮全体が冷遇されていたのだから尚更。唯一の明るいニュースは、もはや思い出したくもない屈辱の記憶に変わっているはずだ。

 

……もっとも、ここまでであれば別に私もグリフィンドールの反応など気にすることはなかった。アンブリッジ先生のことは理不尽だとは思うが、私が罪悪感を覚えるのはお兄様に対してだけだ。それ以外の人間など無価値でしかない。私にとって世界は家族とダフネだけ。それだけが世界の全てなのだ。他の人間の気分の浮き沈みなど何の興味もない。

 

しかし今回は違う。意気消沈の彼等から、

 

「本当にアンブリッジの奴……それにダリア・マルフォイ。この学校を完全に支配するつもりなんだな」

 

「クィディッチまであんな奴らに左右されるのか? 世も末だよ。ダンブルドアは何をしてるんだ。あんな奴らのいいようにさせて。本当に耄碌したんだな、校長も」

 

私までやり玉に上げられれば流石に気になってしまう。それも何とも否定しづらい内容。私はアンブリッジ先生の暴挙を肯定もしなかったが、否定も出来なかった。

何せあの試合の直後、アンブリッジ先生は私を……。

彼等が言っていることも完全な間違いではない。何せアンブリッジ先生の行動は私を喜ばせようという思惑のためだ。無論ポッターや老害に現実を突きつけるのも目的だろうが、主目的は私に媚びを売ることなのだ。先生と私がこの結果を導いたと考えるのは、結論だけ言えば決して間違った認識ではない。その事実がどうしても私に彼等を無視することを許してはくれず、時が経っても私の罪悪感を刺激し続けていた。

そう今だって、

 

「そこのグリフィンドール生。何か私に言いたい事でもあるのですか?」

 

「ダ、ダリア・マルフォイ!? い、いや、俺達はその、」

 

「……先生への暴言は看過できません。グリフィンドール()()()()()

 

言葉とは裏腹に、私は内心苦しくて仕方がなかったのだ。

大広間手前でボソボソと話し込んでいたグリフィンドール生達に、私はなるべく冷たい口調を意識しながら声をかける。私の存在に今の今まで気が付いていなかったのか、彼らは顔を真っ青にして私の方に振り返った。そんな彼らの横を私は通り過ぎながら考える。

 

本当に嫌な立場になってしまったものだ。この下らない()()だってそうだ。学校にいたとしても、常に闇の帝王のことを念頭に置かなければならない。私はただ純粋にお兄様の試合を楽しみ、ただダフネと静かに学校生活を送れれば満足だというのに。

 

私はグリフィンドール生からの視線を無視し、ただ黙ってそのまま大広間に入る。

大広間の入り口には、もはや何個あるかも分からない程の『高等尋問官令』が張り出されており、その中の一つに、

 

『高等尋問官ドローレス・アンブリッジは、ここにダリア・マルフォイを()()()()()()()()()()に任命する。尋問官親衛隊は監督生同様の権限を持ち、ホグワーツの風紀と秩序を守るものとする』

 

そんな心底下らない張り出しがされているのを視界の端にとらえながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダフネ視点

 

『必要の部屋』における第二回目のDA。アンブリッジの()()でクィディッチという最大イベントが潰れ、思ったより早めに開催されてしまったのだ。まったく来たくはなかったけど、相変わらずダリアに参加するよう言われていることから来ざるを得なかった。

……正直今回ばかりは見逃してほしかった。アンブリッジの暴挙にすっかり落ち込んでしまったダリアの傍にいたかったのもある。それに何より、

 

「よくも恥ずかしげもなくここに来れたな! 恥を知れ、スリザリン! このダリア・マルフォイの腰巾着!」

 

「何が初代尋問官親衛隊隊長だ! この前の高等官令といい今回といい、そこまでして学校を支配したいのか! クィディッチまであんなことにして、お前らスリザリン生に恥はないのか!?」

 

ここに来れば、当然こんな声を投げかけられるのは分かり切っていたから。部屋に立ち入った瞬間、今まで以上に怒り狂った表情を浮かべた連中に私は取り囲まれていた。

いつだってダリアの傍にいた私に、今までこの手の抗議がされたことはなかった。当然だろう。ただでさえ学校中から恐れられているダリアは、試合直後に『初代尋問官親衛隊隊長』なんていう理解不能の地位に()()()()()。何故一人しかいないのに隊長なのか等、名称に疑問を持たざるを得ない点は多々あるけど、少なくともダリアが監督生以上の権力を手に入れたのは確かなのだ。本人は決してそれを望んでいなくとも、今では監督生にすら減点を科す権利をダリアは有している。下手に彼女の前で反抗的な態度を取るようなことは、流石のグリフィンドール生でも中々出来ない。陰から攻撃しようにも実力差がありすぎる。

しかし面と向かって出来ないからといって、別にアンブリッジやスリザリン、そしてダリアに対する下らない怒りが消え去ったわけではない。

奴らは勘違いしたのだ。いや……正確には自分達に分かりやすい答えに飛び付いたのだ。ダリアが『初代尋問官親衛隊長』に任命されたタイミング。そして試合中アンブリッジの隣にダリアが座っていたことから、ダリアとアンブリッジが結託してクィディッチ試合の結果を捻じ曲げたのだと。

そこに論理などありはしない。ただ怒りの捌け口にダリアを選んだだけのこと。『継承者』のダリアならあり得る。ダリアならやりかねない。監督生にダンブルドアが()()()()選ばなかったから、その意趣返しをしたのだ。そんな下らない意識だけが根底にあり、論理や事実など二の次でしかない。

でも、だからこそ、奴らの怒りはいつまで経っても消える様子はなかった。最初から事実などどうでもいのだから、どれだけ否定されようとも変わることはない。

そしてその燻ぶり続けた怒りがどこに向かうかと言うと……ダリアの傍を離れた私に他ならなかった。

 

「何とか言ったらどうなんだ、この腰巾着! 恥知らず!」

 

「今すぐここから出て行け! いや、それともDAの的にしてやろうか! お前のご主人様も闇の魔法使いだからな! 丁度いい練習になるさ!」

 

前回に引き続き、入った瞬間からの罵詈雑言。こうなることは簡単に予想出来ていた。ダリアという庇護者がいたからこそ、今学校中に渦巻いている暗い感情が私に向くことはなかった。でもここには絶対者たるダリアはいない。ましてここは密閉空間。馬鹿な連中が暴発するにはうってつけの空間と言える。こうなることは分かり切っていた。DAのメンバー達が口々に何かほざいているのを見つめながら、私はそんな諦観の様な感情を抱いていた。

……もっとも、学内で最も聡明なダリアがそのことに気付かないはずもない。彼女はここに私を送り出す時言っていた。

 

『予想外の出来事のせいで、今回は特に貴女に負担をかけることになります。でも、ごめんなさい……。今引き下がるわけにはいかないのです。ここで引き下がれば、今までの貴女の努力が水の泡になってしまう』

 

そしてこう続けたのだ。それにDAには、

 

『それに集会には……()()がいます。彼女なら必ず貴女のことを守ってくれるはずです。……それだけは、私も彼女を信用していますから』

 

ダリアの次に優秀であるハーマイオニーがいるから大丈夫だと。

その予想の通り、ハーマイオニーは私を庇うように立ちながら大声を上げていた。

 

「馬鹿なことを言わないで! クィディッチのことはダフネにも、それにダリアにも全く関係のないことよ! どうしてそれが分からないの! 寧ろ彼女達は被害者よ! 初代尋問官親衛隊隊長なんて意味の分からない役職、ダリアも迷惑しているはずだわ! だからダフネに当たるなんて言語道断よ! 彼女を傷つけるなら、私が相手になってあげるわ!」

 

いつもの冷静さからは考えられない程過激な発言。しかも遂には実際に杖まで構えようとしている。

……ここまでの反応をダリアも予想できたかと言えば疑問だけど、少なくとも私を守るという目的は果たされている。ハーマイオニーのあまりに過激な言動に、今まで怒声を上げていた連中も唖然としていた。あまりの過剰反応に驚く人間達に、ハーマイオニーは勢いのまま捲し立てる。

 

「ダフネとダリアを責めるなんて、それこそアンブリッジの思うつぼだわ! あの女はホグワーツの結束を壊したいの! どうしてそれが分からないの! 意味不明な肩書だとか、ダリアの仕方なく()()()()()()()減点だとか、そんなことはどうでもいいことなのよ! ダリアの()()()()を見て、彼女が平気だと思っているの! いい!? 次ダフネを攻撃しようとしたら、私が黙っていないわ! さぁ、クィディッチがあんなことになって、寧ろDAの機会が増えたんだから練習するわよ! それしか今私達があの女に対抗する術はないの! ほら、分かったのなら早く二人組になるのよ!」

 

自分達を遥かに上回る熱量の怒りをぶつけられた奴らは、結局反論らしい反論をすることは出来なかった。無論奴らが納得したわけではない。ウィーズリー兄弟など、私に隙あらば呪いをかけてやろうと意気込んでいるのは目を見れば分かる。教師役であるポッターも警戒心と敵意に満ちた視線を私に投げかけている。しかし奴らを含めて、ハーマイオニーのあまりの熱量を上回ることが出来なかったのだ。それだけ今のハーマイオニーは触れれば何をするか分からない程の勢いがあった。

 

「ま、またか……グ、グレンジャーの奴、本当にどうしてしまったんだ?」

 

「ダフネ・グリーングラスどころか、ダリア・マルフォイのことまで庇うなんて……グレンジャーは頭がいいはずなのに」

 

不満は見るからに解消などされていないけど、私に詰め寄っていた連中はすごすごと引き下がっていく。どうやら当面の危機は脱したようだ。

そこで私はため息を一つ吐き、少し呆れたような気持で目の前の親友を見つめる。前から思っていたけど、何だかグレンジャーの性格が最近パワフルになっている気がする。別に大人しい人間だとは思っていなかったけど、どことなく、

 

「ありがとう、ハーマイオニー。でも……ハーマイオニーって、何だか最近グリフィンドールらしくないよね。どっちかと言えばスリザリン的と言うか」

 

私やダリアに思考が近づいているような気がしたのだ。

私の漏らした言葉に、ハーマイオニーは何だか微妙な表情を浮かべながら振り返る。

 

「スリザリン……。グリフィンドールとしては余り嬉しい言葉ではないのだけど……どうしてダフネはそう思うの?」

 

「最近説得がどこか力づくだからね。一番最初の集会でもそうだったし。過程より結果を優先しているみたいだから、どことなく私達に近い思考なのかなって。まぁ、私としてはそっちの方が理解しやすいからいいんだけどね」

 

「べ、別に力づくなんてことはないわ。ただ彼らの言いように少し腹が立っただけよ。……ダリアのことを思うと、本当に酷い話だと思ったから」

 

ハーマイオニーの言葉に私は深々と頷く。ハーマイオニーの言葉は尤もだと思ったのだ。

私も内心では怒り狂っている。ならばハーマイオニーも怒っていて当然だろう。グリフィンドール生であると同時に、ダリアの友達でもあるハーマイオニー。この学校において、ハーマイオニーもダリアの表情を読める数少ない人間の一人だ。勿論ドラコや私の方が遥かにダリアの表情を読み取ることが出来る自負はあるけど、彼女もある程度のものは読み取れるに違いない。ならば彼女もダリアの今の無表情を見て、決して彼女が今喜んで『初代尋問官親衛隊隊長』をやっているとは思わないはずだ。クィディッチのことなんて、ハーマイオニーにすればもはや些末なことに違いない。

本当に……何故こんなにも世界はダリアに厳しいのだろう。

私はハーマイオニーの言葉に同意すると同時に、先程まで危機的状況に瀕していたことも忘れて落ち込む。いよいよダリアの下に帰りたくなってきた。一度目もそうだったけど、何故私はこんな所にいるのだろうか。辛い思いをしているダリアを放っておいて。

しかしそんな暗い気持ちを、

 

「それに、もし私がスリザリンらしくなっているのだとしたら……それは貴女とダリアの影響でしょうね。スリザリンの友人達を守りたい。そう思えたからこそ、私はここまで来たの。他のスリザリン生は嫌いだけど、貴女達のことは違うわ。だから……必ず私は貴女を、ダリアを守ってみせるわ。だから……これもスリザリンみたいな物言いになるけど、今貴女をここから帰すわけにはいかないの。ダリアがここに貴女を送ってきたということは、それは貴女にとってこのDAが必要だと判断したということよ。私が必ず守るから、もうしばらくこの会に参加していて」

 

「……やっぱり、ハーマイオニーにはスリザリンの素質があるよ」

 

やはりハーマイオニーが無理やり変化させるのだった。こんな卑怯なことを言われてしまえば、流石に今から帰りますなんて言えないではないか。

しかも彼女の話はそこで終わりではなかった。私の言葉に満面の笑みを浮かべると、今度は近くで立ち尽くしていたネビル・ロングボトムの方を指差しながら続けたのだ。

 

「今度は誉め言葉として受け取っておくわ。ではスリザリンらしい私は、また貴女にネビルと組んでもらおうかしら」

 

先程まで感じていた悲しみも忘れ、私はただ唖然とハーマイオニーのことを見つめる。今日のハーマイオニーは強引なところがあると思っていたけど、それは親友である私に対してでもあるらしい。

何故ネビル・ロングボトムと? 

前から疑問であったが、何故彼女は私とロングボトムを組ませようとするのだろうか。確かにロングボトムは他の生徒と違って大人しい人間ではある。いきなり襲ってくるようなことはないだろう。でもそれだけ。ロングボトムも他のグリフィンドール生と本質は何一つとして変わらない。ダリアの本質を理解しようともしない愚か者の一人。それ以上でもそれ以下でもない。

それなのにどうしてハーマイオニーは……。

でも私の疑問を他所に、ハーマイオニーはさっさと立ち尽くすロングボトムを呼び指示を飛ばしていた。

 

「ネビル、こっちに来てくれないかしら。貴女も今組む人がいないのよね?」

 

「ハ、ハーマイオニー。う、うん。皆僕と組みたがらないんだ。……僕何も出来なくて、すぐお荷物になってしまうから」

 

「そう。でもそれは好都合よ。下手な人が教えれば、それこそ間違った方向にいってしまうわ。その点ダフネならこの中でも優秀な子だもの。ネビル、またダフネと組んでくれるかしら?」

 

「えぇ!? ま、またグリーングラスと!? ハ、ハーマイオニー。ど、どうして僕と彼女を、」

 

「貴方が一番適任だからよ。貴方なら……彼女をキチンと見てくれるだろうから。それじゃあ、私も誰かと組むわね。ダフネ、近くにはいるから、何かあったら言ってね」

 

そしてハーマイオニーは矢継ぎ早にロングボトムを言いくるめると、本当にそのまま違う生徒とペアを組みに行ってしまった。

その場に残されたのは唖然としてハーマイオニーの後姿を見つめる私と、こちらを不安そうに見つめるロングボトムだけ。

 

前回に引き続き、今までも、そしてこれからも関わることはない()()()()()人物と、私は何故かペアを組まされることになってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネビル視点

 

「失神の呪文、ね。これなら二年生の時に使ったことあるよ。一人は……ちょっとした手違いだったけど、邪魔者を一人排除するためにね」

 

ダリア・マルフォイ。この学校の誰もが知る、いわば恐怖の代名詞。学校中を恐怖のどん底に突き落とし、今も『初代尋問官親衛隊隊長』なんていう新しい地位に就いたことで、生徒の一人なのにそれこそ監督生以上の地位を得ている。グリフィンドールの皆だって言っている。

 

またダリア・マルフォイが動き出した。あいつはクィディッチの結果すら捻じ曲げた。あいつは学校中の全てを支配する気なんだ……と。

 

特にクィディッチ・チームの怒りは凄まじいものだった。試合直後の談話室はアンブリッジ先生とダリア・マルフォイに対する罵詈雑言で溢れかえっていた。チームへの許可を中々出さなかったことに始まり、今回の試合までに行われた悪行の数々。そして彼女達への罵詈雑言が吐き出され切った後、次にやり玉に挙がっていたのが……ダフネ・グリーングラスだった。

誰もが知るダリア・マルフォイの一番の手下。そんな彼女を擁護する人なんて誰もいない。それこそグリフィンドールだけではなく、他の2寮ですら。いてもハーマイオニーくらいのものだ。彼女だけはいつものように、ダリア・マルフォイとグリーングラスを擁護する言葉を発していた。それは今も……。

でもどんなにハーマイオニーが異議を唱えようと、僕は彼女の意見を信じることは出来なかった。当然だ。ダリア・マルフォイはあのマルフォイ家の娘で、尚且つ『継承者』だった女の子。そんな人間といつも一緒にいるような女子を、どうして信用することが出来るのだろうか。こんなことは思いたくないけど、ハーマイオニーもどうかしてしまったのではないかと心のどこかで思っていた。

それなのに……

 

「それじゃあ、さっさと練習しようか。時間は有限だからね。私は早くハーマイオニーの下に戻りたいの。そのためには貴方に早くこの呪文を習得してもらうよ。そうじゃないとハーマイオニーが認めてくれなさそうだし」

 

「う、うん……」

 

どうしてだろう。目の前にいる女の子のことを、僕は皆が言うような極悪非道の人間として見ることが出来ずにいた。友好的……とは言えないけど、少なくとも他のスリザリン生は決してしないような態度。他のスリザリン生なら僕に話しかけようともしないだろう。……そもそもスリザリン生がここに参加していることがおかしいのだけど。

友好的ではないけど、一人の人間として僕のことを認識してくれている少女。いつも不機嫌な表情をしているけど、今は素の可愛らしい表情を見せてくれている少女。

それが今僕が彼女に心の中で感じている印象だった。

本当に僕はどうしてしまったのだろう。

 

「まずは杖の握り方だけど……ちょっと、聞いてる?」

 

よくよく見ると、ダフネ・グリーングラスも凄く可愛い顔をしている。煌めく金色の髪。パッチリとした瞳。美人というより、どちらかと言えば可愛い顔立ち。こうして見ていると……。

 

「ちょっと、ロングボトム! さっきからボーっとして、一体何なの!? 集中していないなら、私はハーマイオニーの所に戻るよ! そっちの方が私にとってはいいからね。で、どうなの、やるの? やらないの?」

 

でも僕が素のグリーングラスを見ていられたのは一瞬のことだった。ただボーっと彼女のことを見ていただけの僕に、グリーングラスは再びいつもの不機嫌顔で詰め寄ってきたのだ。

僕は目が覚めたように意識を取り戻し、すぐに警戒心を持ちながら応えた。

 

「ご、ごめん。ちょっと……ボーっとしてた。や、やるよ。でも、僕なんかが上手く出来っこないと、」

 

「だから教えようとしているんでしょ! まったく……どうしてこんな奴がグリフィンドールなんだろう」

 

そして僕の言葉に対しての反応は、やはりいつものスリザリン生らしい対応だった。

何度が彼女と話したことがあるけど、やっぱりこちらの方が本当だったのだ。僕が今まで何度も感じていた感覚こそ間違いだった。やはり彼女は皆の言う通り、あのダリア・マルフォイ一番の取り巻き。それ以上でもそれ以下でもない。

僕は心の中のどこかで安心すると同時に……どこか悲しく思いながらグリーングラスに向き直る。

それなのに、

 

「本当に馬鹿みたい。他のアホ共程ではないけど、貴方も相当だよ。……貴方でなくても、別に最初から出来る人なんていないんだから。ちょっと不器用なぐらいで自信をなくしてちゃ駄目よ。仮にもハーマイオニーと同じグリフィンドールなのよ。アホ共は違うと思うけど……ここに参加したってことは、貴方も大切な人を守りたいってことなんでしょう? なら頑張らないと。ほら、時間は有限なんだから早く練習するわよ」

 

何故彼女はこんな優しい言葉を、先程までと同じ表情で言ってくるのだろうか。

驚き彼女の再び横顔を見つめる。でも彼女は何でもないかのように『失神呪文』の唱え方をそのまま解説し始めていて、僕の方をもう見てなどいなかった。

 

僕はチラチラとダフネ・グリーングラスの横顔を盗み見る。

動機は……間違いなくハーマイオニーだろうけど、それでも僕の指導を熱心にしてくれている。スリザリンなのに……。ダリア・マルフォイの取り巻きなのに……。

そんな事実と、目の前から入ってくる印象の違いに、僕は結局最後まで戸惑い続けていた。

 

 

 

 

そしてそれは……その発表があってからも変わらなかった。

 

「ダ、ダリア……落ち着いて。私は大丈夫だから……」

 

「……あの女。黙っていればどこまでも調子に乗って……」

 

DAから数日後、いよいよ本格的に外は寒くなり、クリスマス休暇も近づき始めた時、その新しい発表がされた。

学校中の皆が見つめる先、大広間前に新しく張り出された『高等尋問官令』には、

 

『初代尋問官親衛隊に、ドラコ・マルフォイ、パンジー・パーキンソン、ビンセント・クラッブ、グレゴリー・ゴイル、()()()()()()()()()()()を認定する。親衛隊員は生徒および他寮監督生に罰則を与える権利を有するものとする』

 

そんなまたとんでもないことが書かれていたのだ。

一番前で無表情に掲示を見つめるダリア・マルフォイ。そして彼女の傍に寄り添うダフネ・グリーングラス。そんな彼女達を遠巻きに見ながら、皆ヒソヒソとグリーングラス達のことを非難している。

でも僕には……その時、ただ二人が発表に戸惑い、不安を感じているようにしか見えなかったのだ。

 

そこには皆が言うように権力を得て喜ぶ姿なんてなかったように……僕には思えた。


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