ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
私は無事スリザリンに入ることができたので、今まさに上級生達の歓声が上がっているテーブルに向かう。
マルフォイ家は『聖28一族』筆頭であるため、必然的にここにいる子供のほとんどは私より格下の家の子となる。そのため私はどこか恭しい雰囲気で上級生達に迎え入れられた。これは純血主義の多いスリザリンならではの光景だろう。
最も、私がお茶会で会わなかっただけで、同級生の中に他の『聖28一族』がいるとお父様はおっしゃっていた。その子達はこんなふうな態度は取らず、ある程度対等な関係を築くことができるのだろうか?
そう益体のないことを考えていると、
「マルフォイ・ドラコ」
私の次にお兄様が呼ばれた。私とファミリーネームが同じなのだから当然だ。
お兄様が組み分け帽子の方に歩いていく。そして帽子を頭にのせるかのせないかの内に、
「スリザリン!!」
帽子は声高に叫んでいた。
やはりお兄様はスリザリンだった。お兄様は血筋を、家族を大切にされている。それならば入るのは当然ここだろうという読みは正しかった。
お兄様は私と同じように上級生に迎え入れられながら、
「ダリア。これで一緒の寮だな」
「ええ、お兄様。7年間よろしくお願いしますね」
そう二人で笑いあった。
……そして心底どうでもいいことだが、クラッブとゴイルも無事にスリザリンに入ることができた。
彼らの場合だけは勇気、忍耐、機知をはたして持っているかも、望んでいるかすら怪しかったので、この結果は家柄的にも順当なものだろう。
途中ポッターの名前が呼ばれ、あたりが騒然となる出来事もあったが、概ね順調に組み分けは終了した。
組分けが終わると同時に、教員席の真ん中に座っていた校長と思しき、銀色の長い髭と髪をした長身な老人が立ち上がり言った。
「ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」
あまりの内容に一瞬何事かと思ったが、周りの人間が平然としていることからどうやら彼の平常運転らしい。
大量の料理が机に置かれていた金色の皿に現れ、上級生、そして入りたての新入生達が歓声をあげ、その素晴らしい料理に舌鼓をうつ。
お兄様達は上級生の方と話しておられる。スリザリンの寮杯をとるための必勝戦略がどうとか。
そして私も横耳にその話を聞きながら、血の滴るようなステーキを食べていると、
「ねえ、さっきすごい雰囲気出してたけど、あなたがあの有名なダリア・マルフォイ?」
前に座っていた……金髪で、目のパッチリとした美人というより可愛いといった表現が似合っている女の子が話しかけてきた。
「ええ、どう有名か知らないですが、私がダリア・マルフォイです。貴女は?」
「私はダフネ・グリーングラス! あなたと同じ聖28一族よ。私の組み分け見てなかったの?」
どうやらいきなり件の『聖28一族』の一人に会えたらしい。
私は全く動かない表情筋を、なるべく申し訳なさそうに見えるように努力しながら応えた。
「ごめんなさい、少し考え事をしていたものですから」
「そうなの……」
案の定少し寂しそうにされた。なんだか本当に申し訳ないことをした気分になる。
「ところで、グリーングラスさん、」
「ダフネでいいわ。これから同じスリザリン生なんだし。それに私はあなたと同じ純血だものね!」
「ええ、では私のこともダリアと。ところでダフネ。私が有名というのは?」
「まあ、あなたは知らないかもね。マルフォイ家の聞こえないところで皆話をしていたし。あなた6歳の時のお茶会で、今回と同じようにすごい雰囲気だしてたらしいじゃない。おまけにすごい美人だし。それでいろんな所の家があなたと交流を持とうとしたみたいなのに、あれから一度もマルフォイ家があなたをパーティーに出さなかったでしょ? だから皆、あなたのささいな情報でもいいから血眼で探してたってわけ。その情報を元にあなたに少しでも近づけたらと思ったんじゃないかな?」
それ、私にしてはいけない話なのでは?
私は6歳のお茶会からパーティーに出たことがない。ホグワーツで共に勉学をする交流ならともかく、パーティーで知り合って仲良くするというのは、純粋な交流の側面以上に家同士の付き合いというのも関わってくる。
つまり端的に言えばお見合いなどだ。
だが私の場合、マルフォイ家の代表としてそういった付き合いに参加するには……余りにも大きな秘密を抱えすぎていた。
それは勿論吸血鬼のことだ。
仮にお見合いに発展してしまった場合、相手に私の体のことが露見するのは必定だ。そうなれば吸血鬼を家族として囲っていたと、他の純血貴族から、マルフォイ家が後ろ指をさされる結果になってしまう。
だからこそ、私は最初のお茶会だけ参加し、尚且つその場で紹介されたのが、私とお見合いに発展することのないだろう格下の家柄のクラッブとゴイルだったのだ。
……尤も、お父様達は私をあれからもパーティーに参加させようとはしていた。将来的な不安はあれ、私をのけもののように扱うことがお嫌だったのだろう。
私はそんなお父様たちの優しさを嬉しく思いながらも、なんとかお父様達を説得し、お茶会への参加を最初の一回のみで終えている。
これ以上、私がマルフォイ家に迷惑をかけるわけにはいかない。
以降はお父様曰く『外に出したくないほどに、可愛い私の娘』という扱いにすることで、なんとか乗り切っているようだった。
「まあ、ダリアをパーティーにマルフォイ氏が出そうとしなかったのは納得だわ。ダリア、無表情だけどすっごい美人だもの」
「あ、ありがとうございます」
「お礼言う時も無表情なのね……」
そう苦笑しているダフネとおしゃべりする。
彼女は私の無表情を見ても、特に何も思わないらしい。おおらかで、元気な性格の持ち主なのだろう。頭は少しゆるそうだが。
この子とは
私は僅かに暗さが籠った思考でそう思った。
皆が料理を食べ終えた頃、校長が立ちあがり宣言する。
「全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。一年生に注意しておくが、校内にある森に入ってはいけません。これは上級生にも、何人かの生徒たちに特に注意しておくぞ」
半月眼鏡の奥から覗くブルーの目が、グリフィンドールの席の誰かを見ている。
「管理人のフィルチさんから、授業の合間に廊下で魔法を使わないようにという注意があった。今学期は二週目にクィディッチの予選がある。寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡するのじゃ。そして最後じゃが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右の廊下に入ってはいけません」
始まり同様、校長が再びとんでもない発言をした。
……何故そんな危ない場所が学校にあるのですか? とりあえず、お兄様が間違って入らないように注意しておかねば……。
それから謎の校歌を全員で歌い、入学式は解散となった。
「これから寮に案内する。俺についてこい」
そう言う監督生の後を、新入生達はゾロゾロとついて歩く。大広間を抜け、階段を上がったかと思えば、再び地下へ続く階段を降りて行く。どうやらスリザリンの寮は地下にあるようだった。
監督生は湿ったむき出しの石が並ぶ壁の前で立ち止まると、
「純血」
そう、おそらく合言葉であろうものを言い、開いた壁から中に入ってゆく。
そこは緑色のランプに照らされた談話室だった。大理石でできているためか、荘厳な雰囲気を醸し出している。さすが純血貴族が入る寮。
隣で目をキラキラしているダフネとあたりを見回していると、
「ここがお前たちが今日から暮らす、栄光あるスリザリン寮だ。荷物はもうそれぞれの部屋に運んであるはずだ。今日はもう休んでいい。だが、明日から気を抜くな。我々はこの六年間寮杯を手にしてきた。今年も寮杯を取れるかは君たちにもかかっている。それを忘れるな」
そう締めくくり、監督生は新入生を解散させる。
やはり皆一日いろんなことがあったせいかクタクタなのだろう。気もそぞろに自分の部屋を目指して歩いていく。
「では、お兄様、おやすみなさい」
「ああ、ダリアもおやすみ」
お疲れの様子のお兄様に挨拶をし、私も部屋を目指すことにする。
ダフネと共に女子寮の階段をのぼり、自分の荷物がある部屋を探していると、
「あら、私の荷物がある」
隣を歩いていたダフネがそう言って、一室に入ってゆく。
よくみれば私の荷物もこの部屋にあった。
「どうやら私もこの部屋のようですね」
「そうなの? よかった!
ダフネは私が今まで会ったことのないタイプの人間なため、元気に握手を求めてくる様に一瞬驚くが、すぐ持ち直し、
「はい、こちらこそ。ごめんなさい、諸事情で手袋はとれないのです……」
「そうなの? 別に構わないよ!」
おそらく、私が理由を私が話したくなさそうにしているのを察したのだろう。
彼女は元気よく、私の手を握るのだった。
「あなたたちもこの部屋?」
二人で握手をしていると、突然少し高飛車な声をかけられる。
部屋の入口をみると、パグ犬のような顔をした女の子と、女の子にしてはがっちりした体格の子が入ってくるところだった。
「あら、あなたは……」
パグ犬顔の女の子が私の顔を見た瞬間、先ほどの高飛車な声から急に媚びるような声を出し始める。
「もしかして、貴女がダリア・マルフォイさん?」
この子もどうやら私のことを知っていたらしい。純血というのは思った以上に狭いコミュニティーなのだろう。
「ええ。あなたは?」
「私はパンジー・パーキンソン。そしてこっちがミリセント・ブルストロードよ。私たち、どちらもあなたと同じ聖28一族よ。ダフネ、あなたも久しぶりね」
「うん、久しぶりだね二人とも!」
そういう私たちに満足したのか、二人は自分の荷物が置かれたベッドを確認しに行く。
「お知り合いだったのですか?」
「うんまあね。ただ、私もダリアと同じであまりお茶会に行かなかったから、二人とは会った時に少し話をするくらいだったんだけどね」
そうこそこそ話してから、私たちも自分のベッドの確認に行く。
さすがスリザリン。マルフォイ家のベッドには劣りますが、ずいぶん寝心地がよさそうなものを使ってますね。
そう無表情でベッドをぽすぽす触っていると
「四人部屋の中が全員聖28一族でよかったわ。これからよろしくね」
そういってパンジー・パーキンソンが握手を求めてくるので、手袋をとれないことを告げてから握手をする。
ついでにとミリセント・ブルストロードが握手を求めてきたのでしてみると、見た目通りがっしりしていた手だった。
「それにしても、手袋をとれないわけって?」
どこか詮索するような眼をしてパンジー・パーキンソンが尋ねてくる。横でミリセント・ブルストロードも同じような目をしている。ダフネだけは咎めるような眼をして彼女たちを見た後、そっぽを向いて、聞こえてませんよとアピールしていた。
ダフネの言っていたことを考えると、おそらく私が話したことはすぐに彼女たちの親に伝えられるだろう。
やはり彼女達の前では気が抜けないな。といっても、私の気が抜ける相手など、後にも先にも私の家族だけだ。
「いえ、私は生まれつき魔法の力が強すぎるようで、これはそれを抑えるものなんですよ。と言っても、取ったら魔法が暴走するというわけではなく、あくまで念のためなのですけどね」
そうあらかじめお父様と作っておいた言い訳をする。この言い訳なら、怖がって外せとは言わないだろうし、もし仮に外さねばならない場面があったとしても、実際に私の魔法力が強いのもあり、すぐに嘘が露見することはないだろう。
「そう、大変なのね」
案の定、彼女は少し顔をこわばらせていた。マルフォイ家の手前、あからさまに恐がれない。それにそもそも魔法族にとって、魔法の力が強いというのは暴走しない限りは悪いことではない。
「そろそろ寝ないと明日に響くわよ」
そろそろ我慢できないほど眠くなってきたのか、ペットの猫をゲージから出しながら、ミリセント・ブルストロードが言う。
「そうね。明日からもう授業があるのだし」
そうパンジーは若干逃げるように、そそくさとベットに入っていく。
「じゃあ、私たちも寝ましょうか?」
「うん、そうだね。お休みダリア」
私たちもおやすみの挨拶をし、ベットに潜る。
やはりいいベッドを使っていますね。
と、どうでもいいことを考えながら、横になると私もなんだかんだ言って相当疲れていたのか、すぐ甘いまどろみの中に落ちていく。
睡魔にいざなわれながら、ふとあることに気付いた。
そういえば、ダフネだけは私が言いたくなさそうにしているのを無表情の上から察して、手袋を外さない理由を聞かないでいてくれたな……と