ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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閑話 遠い昔の記憶

 ドラコ視点

 

幼い頃の夢を見る。それは僕の中にある決意の夢。おぼろげだが、確かに存在した僕の決意の始まり。

 

 

 

 

ダリアは昔からなんでもできる子だった。

僕より勉強はできた上、外にあまり出ないくせに僕より運動までできた。

同い年の妹だというのに、彼女は僕より遥かに優秀な存在だったのだ。

だから、僕はダリアに当時嫉妬していた。

そしてそれを余計助長させるように、彼女はよく僕には与えられない……()()なものを与えられていた。

 

日傘、食器、手袋、そして時々彼女が飲む()()()()

 

それらが僕には与えられず彼女にだけ与えられるのは、彼女が僕より優れているからだと思った。そんな両親の視線を一心に集める妹に、当時の僕は激しく嫉妬した。

 

そんなある日。

妹が朝からのどの渇きを訴えていた。別に紅茶でも飲めばいいのでは、と思ったのだが、父上は今日も妹にあのジュースを与えることにしたらしい。

僕はそんな特別扱いされる妹が嫌いだった。

その赤黒いジュースなんて、正直本当に欲しかったかといえば……多分あまり欲しくなかった。ただ、それを独り占めする妹が嫌だっただけなのだ。

 

「父上、僕もそれが欲しいです!!」

 

僕は自分の中の嫉妬にあらがえず、父上にそう頼んだが、

 

「だめだ。これはダリアのものだ。それに、これはお前には飲めない」

 

父上の返答はにべもないものだった。

その飲めないという言葉が、本当に僕には飲むことが()()()()ということを表しているのだと、当時の僕にはわからなかった。だからその言葉が、僕にはそれを飲む()()がないという意味だと思ってしまったのだ。

僕にはその言葉が耐えきれなかった。その後部屋に帰ると、僕は部屋にふさぎ込んだ。何もかもが嫌だった。優秀な妹も、その妹をちやほやする両親も。

 

どれくらいそうしていただろうか、暗くしていた部屋に、突然明りが差し込んだ。

ドアの方を見ると、ダリアがじっとこちらを無表情で……心配そうに見ていた。

正直、その時の僕はダリアの顔など見たくなかった。

 

「あっちいけよ!」

 

思わずそう叫ぶと、ダリアは無表情で一瞬驚き、そのままパタパタと走り去っていった。

何故だか、その様子に僕は胸の奥がズキンとうずいたような気がした。

どうして、僕は妹のことが嫌いなのに。両親の関心をすべて独り占めする、彼女が許せないのに。

 

そんな風に自分の中に出来た不快感にしばらく悩んでいると、部屋に屋敷しもべ妖精が入ってくる。

 

「お坊ちゃま。夕食の時間でございます」

 

昼にあんなことがあったのだ。正直行きたくもなかった。だが、行かなければ父上はともかく、母上に心配をかけてしまう。

それはそれで嫌だったので部屋をでようとすると、ふと、ドアの外にお菓子の箱が置いてあるのに気付いた。それは当時の僕が一番好きなお菓子であった。

 

こんなものがなぜこんな所に?

 

答えなど分かりきっている。

ダリアが持ってきてくれたに違いない。

あの僕が怒鳴ってしまった時、彼女はおそらく僕を心配してこれを持ってきてくれていたのだ。

昔から、ダリアはそうだった。

僕が何かやらかしてお父様に怒られてしまった時、大切にしていたおもちゃを壊してしまった時、転んでけがをしてしまった時。

 

いつも僕が落ち込んだ時、彼女は僕のそばにいてくれようとしたし、慰めようとしてくれていた。

 

今回も僕が落ち込んでいると思って、ダリアはこれを持ってきてくれたのだろう。

自分が飲んでいたものをあげられなかった代わりに、これを持ってきてくれたのだろう。

 

そう考えていると、途端に自分が恥ずかしくなった。ダリアにひどいことをしてしまったと思った。

 

今日の夜にでも謝ろう。

 

そう思いながら夕食の席に着く。

いつものように家族で夕食を食べ終わると、突然父上が、

 

「ドラコ。これから私の書斎に来なさい」

 

そうおっしゃった。おそらく昼のことだろう。父上に怒られてしまう。

そう思いながら、父上の書斎につくと、

 

「ドラコ。すまなかった」

 

突然そうおっしゃった。

 

「昼。お前には悪いことをしてしまった。確かにお前からみたら、ダリアは特別扱いされているように見えるかもしれないと……シシーに言われて気付いたのだ。だからドラコ。あの飲み物はお前には与えられないが、代わりに何か欲しいものはあるか? 今回は特別だ。なんでも言っていいぞ」

 

いくら謝ろうと思ったとはいえ、まだ僕の中にはダリアに対する嫉妬があった。だから、

 

「では、ダリアがつけている手袋と同じものをください」

 

僕はダリアと同じものを性懲りもなく要求した。

ダリアは最近手袋をつけるようになった、黒いシルクのように滑らかなその手袋。それが僕にはひどくかっこよく見えたのだ。

しかし父上の返答は、

 

「……すまないが、あれもやれないのだ、ドラコ」

 

やはり否定の物でしかなかった。

その言葉に僕の中の嫉妬心はまた強く燃え上がる。

 

「どうしてですか!? 僕の方がダリアより劣っているからですか!? 僕がもらうに値しないからですか!? ダリアの方を愛しているからですか!?」

 

「そうではないのだ、ドラコ。決してそのようなことはないんだ。ダリアにドラコ。どちらも私たちにとって、大切な我が子なのだよ」

 

「では、どうして……?」

 

そう言い募る僕に、父上はしばし考え込むような顔をされた後、

 

「……そうだな、いずれお前にも知らせなければならないことだ。ダリアが知る前にお前に知らせた方がいいのかもしれない。おそらく、あの子は私たちには頼らないだろう。だが、お前には……」

 

そうつぶやかれて、父上は僕の顔まで膝を下し、僕の目を真剣に見つめられる。

 

「ドラコ。これから言うことを決して、決して人には言ってはいけないぞ。もし言えば、ダリアがひどく悲しい思いをすることになる」

 

そう言って、約束できるか?と尋ねる父上に僕は頷く。

ダリアに嫉妬していても、傷つけたい、悲しい思いをさせたいなんて思ったことは一度もなかった。

 

「わかった。お前の覚悟を信用しよう。ダリアはな……吸血鬼なのだよ」

 

「きゅうけつき?」

 

僕はその言葉の意味が最初理解出来なかった。

 

「そうだ。人の血を飲む亜人のことだ。体は強靭だが、日光と銀に弱い。お前も知っているだろう? ダリアが日傘をささねば外に行けず、私たちと同じ銀食器を使っていないことは」

 

そうだった。昔からなんとなくは疑問に思っていた。

なぜ、妹は日中外に出たがらないのか。なぜ出ても日傘をさしてるのか。そして、なぜ僕らと同じ銀食器を使っていないのか。

そうだったのか。ではあれはすべて。

 

「あれはすべて、ダリアが『きゅうけつき』だったからなんですね」

 

「そうだ。ダリアはとある純血の中の純血である方と、吸血鬼との間の子供だ」

 

そこで僕は思い至る。

 

「では、ダリアは、僕の妹ではないのですか?」

 

「……ああ、肉体的にはそうだな。だが、あの子は純血以上に純血な上、私とシシーがここまで育ててきたのだ。誰が何と言おうと、お前の妹だよ」

 

僕はずっと、ダリアが僕がもらえないものを貰っているのは、ダリアが特別扱いされているからだと思っていた。

だが、そんなことはなかったのだ。あれらは全て、僕が当たり前に享受しているものを……ダリアが享受できるようにするための、彼女に()()()()()のものだったのだ。

僕はなんて愚かなことを。一人で勝手に嫉妬していた。本当に嫉妬していいのは、僕ではなかったというのに。

 

僕はクィディッチが好きだ。箒に乗って空を飛びながら、風を切り、そして日に当たるのが好きだった。

一度、ダリアを誘ったことがある。だがダリアは悲しそうに首を振り、本に顔を戻してしまった。

 

そんなに勉強して父上に褒められたいのか!

 

とあの時は思ったが、今考えるとなんて馬鹿なことを考えたのだろうか。

 

彼女が勉強が好きということもあるが、それ以上に……ダリアは外に、日光に当たるクィディッチなどできなかったのだ。

 

そんなことも知らずに、妹に嫉妬し、傷つけてしまった。僕をいつも慰めてくれる妹を悲しませてしまった。

そう思うと、胸が罪悪感でいっぱいになった。

 

「もう、こんな時間か。今日はもうおやすみなさい。明日また、欲しいものはきこう。ただし、()と手袋以外でな」

 

やはりあのジュースは血だったのか。『きゅうけつき』なら、どこかで血を飲まないといけない。今まで妹を見てきた中で、飲んでいると考えられるタイミングはそこだけだ。

そう思いながら、部屋を出る直前、

 

「そういえば、あの手袋は何ですか?」

 

どうかそれだけは、彼女へのご褒美であってくれと思いながら尋ねる。

しかし、現実はどこまでも残酷だった。

 

「ああ、あれはあの子の力を抑える闇の道具だ。本来の用途は相手につけさせることで衰弱死させるものだが、まあ、道具は使い方しだいということだ」

 

 

 

 

自分の部屋に帰り、ベッドに腰掛けながら妹のことを考える。

 

ああ、自分はなんてひどいことを言ってしまったのだろうか。

自分はなんてひどいことをし続けてしまったのだろうか。

 

そんなことを考えていると、またドアが開き、ダリアがこちらを見ていることに気付いた。

 

今度こそは間違えない。そう思いダリアを手招きすると、ダリアはうれしそうな無表情をしながらパタパタとこちらに近づいてきて、僕の横に腰掛ける。

 

「おにいさま、まだつらい?」

 

そう僕に尋ねてくる。

この子は僕があんなに邪険に扱ってしまったのに、それでも僕の心配をずっとしてくれていたのだな

 

そう思うと、途端に目から涙があふれだす。

ああ、自分はこんなにいい妹をもっていたのかと。自分はこんなに素晴らしい妹に、あんな醜い感情を持っていたのかと。

愚かな自分がたまらなく恥ずかしかった。

 

血がつながっていなくとも関係ない。この子こそ、僕の大切な妹なのだと。

 

涙ながらに僕は、これだけは我慢できなかった。

 

「ダリア、僕はお前の兄でいいのか? 僕が兄で、お前は幸せか?」

 

今までの罪悪感から言葉が口からあふれ出る。

すると妹は、僕をぎゅっと抱きしめて、

 

「うん、おにいさま、大好きだよ。おにいさまの妹で、わたし幸せだよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

僕はこの笑顔を見て決意した。

これから先、どんなことがあろうと、ダリアのそばにいようと。ダリアの味方であろうと、そしてダリアの家族であろうと。

 

 

 

 

ホグワーツ初日。僕はスリザリン男子寮で目を覚ます。

当時の記憶はもうおぼろげで、ところどころに思いだせないところがある。

だがこの決意だけは、あれからずっと、一切色褪せず覚えている。

 

そう妹に向けるには……少しだけ()()()()()()()を胸に、僕はベッドから起き上がるのだった。

 

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