ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ハリー視点
「さぁ! さっさと歩くのよ、ポッター! 今頃大臣も到着しているはずですからね! 私がお知らせしたところ、それはもうお喜びでしたもの! 大臣を待たせるわけにはいかないわ!」
手を魔法で縛られた僕は、今アンブリッジに追い立てられるように歩かされている。
何故こんなことになってしまっているのだろう。今日もいつもと変りなく……それどころかDAメンバーが増えたことで順調な一日ですらあったのだ。それが僅か数分の内に全てが崩れ去ってしまった。一体何が……誰が悪かったというのだろう。
答えは決まっている。あの
ただ
僕は今ここにいないダリア・マルフォイに怒りを募らせながら歩き続ける。勿論歩きたくもないのだけど、魔法で無理やり歩かされているのだからどうすることも出来ない。僕に出来ることは、ダリア・マルフォイにどこかに連行された皆の無事を祈ることくらいのものだ。
「着きましたわよ! 『フィフィ フィズビー』! ポッター、そろそろ観念なさい! 自分で歩くのよ!」
しかし僕がどんなに祈ろうと、遂にアンブリッジは校長室に辿り着いてしまう。アンブリッジが合言葉を唱えると、ガーゴイルの石像が飛びのき螺旋階段が現れる。そして奴は僕の服をむんずと掴んだまま階段を上り、ノックもせずに校長室に踏み込んだのだった。
「あら、あらあらあら! やはりファッジ大臣もいらっしゃいましたか!」
「おぉ、ドローレス女史! 勿論だとも! こんな一大事に、魔法省大臣として駆け付けないのは間違っているからな!」
校長室に入るとそこにはダンブルドアとファッジの姿があった。しかも校長室を見渡せば、マクゴナガル先生やキングズリー・シャックルボルト、それにパーシーの姿もある。分厚い羊皮紙を持って何か記録を取る構えのパーシーはともかく、以前ダーズリー家に迎えに来てくれた時より厳めしい表情のキングズリー。二人はファッジの後ろに控えており、まるでファッジの護衛のようだ。『不死鳥の騎士団』に参加している以上キングズリーは敵ではないと思うけど、今は表面上ファッジに逆らえないということなのだろう。
明らかに異常な空間で、ファッジが毒々しい満足感を浮かべながら話し始めた。
「さーて、さてさてさて。私はドローレス女史の報告によりここに来たわけだが、ここに至ってまさか言い逃れをしようなどという方はいまいな。聞けばここホグワーツでは、明らかな魔法省への反逆行為を企てていたとか。そうだな、ドローレス女史?」
「えぇえぇ! 先程ミス・
「なんと、『ダンブルドア軍団』! これはこれは何と恐ろしいことだ! 私の記憶に間違いなければ、校内でこのような学生組織を結成することは違法ではなかったかね? にも関わらず、名前にはダンブルドアの名前もある! これは立派な反逆行為ですぞ! 一体どう言い逃れをするつもりですかな、ダンブルドア?」
矢継ぎ早に、最早最初から決められていたとしか思えないようなファッジとアンブリッジの会話。ダンブルドアは相変わらず僕の方を見ないものの険しい表情を浮かべており、マクゴナガル先生も同様の表情だ。明らかに僕が引き起こしてしまったまずい状況。これを機にファッジ達がダンブルドアを貶めようとしているのは火を見るよりも明らかだった。
でもそんな状況でも、僕は心臓が激しく鼓動しつつあるのを感じてはいたけど、頭は不思議と冷静さを取り戻しつつあった。アンブリッジにここまで連れてこられた時は不安しかなかったけど、こうして敵の目的が明らかになってくれば否が応でも頭が切り替わってくる。
奴らの言葉で僕は現状を
ようするに……やはりダリア・マルフォイが全ての元凶だったのだ。あいつがもたらした情報に、何が何でもダンブルドアを引きずり下ろしたかったファッジとアンブリッジが飛びついた。それが今回のあらましであり、全てなのだと僕は確信したのだった。
ならば僕の今すべきことは、今こうしてアンブリッジに引きずられていることではない。それも冷静さを取り戻しつつある僕は理解していた。僕は湧き上がる怒りを抑え込みながら、出来る限り惚けた声を意識して話し始めた。
「す、すみません。先生と大臣が何を仰っているか分かりません。そもそもどうして僕はここに連れてこられたのですか?」
それに対し敵の反応は劇的とは言えなくとも、少なからず流れを変えるものだった。アンブリッジは小馬鹿にしたように僕を見ているけど、ファッジは目を剥いて怒鳴りかかってくる。
「は? ポッター、君は何を言っておるのかね!? ここまで来て往生際の悪い! これだから嘘ばかりつく生徒は! 君は校則を破ったのだよ!? その自覚もないと!?」
僕自身も往生際の悪い話し始めだとは思うけど、ここは無理やりにでも話を進めるしかない。こうしてファッジが怒り心頭になり冷静さを失うことで、必ず逆転の目が出てくるはずだ。僕には無理でも、あの世界で一番偉大な魔法使いであるダンブルドアが見つけてくれるはず。だからこそ僕は話し続ける。
「校則? 何のことか全くわかりません。それにダンブルドア軍団? 僕の知る限りではそんな集まりをした覚えはありません。何かの間違いではありませんか?」
「こ、この、わ、私を馬鹿にしているのかね!? こ、校則はともかく、魔法省令で禁止されたはずだ! 校内で許可なく学生組織を作ることは禁止されているのだ! それを知らぬとは言わせんぞ! 魔法省大臣であるこの私が制定したものなのだからな! これに違反するものは校則違反どころか、魔法省に反逆するということなのだ! そして今日、その違法な学生組織が発覚した! そのことも初耳だと君は言いたいのかね!?」
「はい、大臣。初耳です」
のらりくらりと話す僕に、遂にファッジの顔は茹でたロブスターのような色合いになっていた。最早ファッジに冷静な思考は残されていないことだろう。アンブリッジはともかく、ファッジは大したことはない。僕は自分の行動が上手く行っていることを確信しながら、続けてファッジを挑発しようとする。
……でも、
「ま、魔法大臣である私に、」
「ハリー、それぐらいでよい。もうそれ以上ワシを庇う必要はないのじゃ。お主はよくやってくれた。お主のお陰で、今日
そんな僕の企みは、僕が頼りにしていたダンブルドア本人によって頓挫してしまったのだった。
一瞬誰一人としてダンブルドアの言っていることが理解できていなかった。おそらくこの言葉を求めていただろうファッジもだろう。先程までの真っ赤な表情も、今はポカンとしたものに変わっている。マクゴナガル先生も、キングズリーも、パーシーも、アンブリッジも。……そして僕すらも。
誰一人としてダンブルドアの言い始めたことを理解できず、人目も忘れて間抜けな表情を晒していた。
ただ一人、普通ではない光景で、まるでいつも通りの微笑みを浮かべているダンブルドア以外は……。
ダンブルドア視点
計画通りかと言えば……全てが全て計画通りではない。寧ろワシの予想は全て外れたと言える状況じゃった。
ワシも老いたものじゃ。昔のワシであれば……。
いや、そう言うのは傲慢というものじゃろぅ。ワシがどれだけ昔未来を予想出来ていたとしても、全てが全てワシの思い通りに物事が運んでいたわけではない。老いておっても、若かりし頃でも、ワシは無力な人間の一人でしかない。なればこそ、ワシの人生は……。
今はそんなことを考えておる場合ではない。ワシは自身の中に湧き上がり続ける思考を振り払い、今目の前に広がる光景に集中する。
「お主のお陰で、今日初めてワシの軍団……そう、ダンブルドア軍団が組織されるはずじゃったのじゃがのぅ。ファッジの方が上手じゃったということか」
目の前にはワシを見つめる数々の視線。皆一様に驚愕な色合いをしておる。ミネルバやハリーは勿論じゃが、ワシがこのような発言をすることを望んおったファッジですら同様じゃった。いや……ファッジも本当のところは望んでなどおらんかったもしれぬ。彼はただ恐ろしかっただけなのじゃ。ヴォルデモートのことが……。彼はその恐怖感をワシにぶつけておるにすぎぬ。現実から目を逸らし、心の奥底では決して反逆などせぬと信じておるワシに逃げた。じゃからこそワシの言葉を聞き、彼はここまで驚いておるのじゃ。
この中で唯一ワシの言葉を真の意味で望んでおったのは、
「……あ、あらあら、これはダンブルドア校長。それは自白と受け取ってよろしいのかしら? 今貴方はハッキリと仰いましたわね? 今夜の集まりが貴方の差し金であると」
ワシの失脚を企むドローレスのみじゃろう。
本来であればこのような事態が起こるとしても、もっと先のことじゃろうと思うておった。ハリーが何か行っておることは知っておった。彼なりに現状を打破するため、彼が必要と考える行動を必ずとるじゃろうと。じゃがそれがどんなに正しい行いじゃったとしても、何か行動を起こすならば何かしらの粗が出てしまう。ハリーは正義感が強く賢くとも、まだ15歳の少年。彼を支えるミス・グレンジャーも完璧ではない。そして小さな失態を見逃す程ドローレスや……彼女に従っておるダリアは愚かな存在ではない。じゃがまさかここまで彼女等の行動が早いとは……。
先程ドローレスは言っておった。
『先程ミス・
この事態を引き起こしたのはダリア……ということなのじゃろぅ。ドローレスの言い分を鵜呑みにすることは出来ぬが、この事態を引き起こす力を持つのはダリアくらいというのも事実。全てダリアの思惑通りというわけじゃ。
ワシは今年、ダリアに対して特に監視の指示を出してはおらん。いや、出すことが出来んかった。彼女の洞察力を鑑みると、下手に監視を増やせば必ず彼女に感づかれることになる。そうなればワシが今年特にダリアを警戒していると露見し……下手をすれば情報源であるセブルスのことを疑われる可能性もある。一体誰が15歳の少女を『闇の帝王』すら目を掛ける死喰い人と疑う? 彼女を警戒すればする程、あちらのことを少しでも掴んでおる証拠になってしまいかねぬ。ダリアに疑われれば疑われる程、ワシらがヴォルデモートに勝利する可能性は低くなるのじゃ。
じゃがその結果がこれじゃ。ワシは為す術もなく城から追放されようとしておる。全てはワシの予想を外れ、敵の計画通りに事は運ぼうとしておった。
無論今までがアンブリッジやダリア……ひいてはヴォルデモートの計画通りに進んでおったとしても、ワシとて黙っておるわけではない。
計画とは違うが、まだ
ワシは努めて冷静な思考を意識し、目の前のドローレスに応えた。
「その通りじゃよ、ドローレス。お主の言う通りじゃ。計画では今宵、このワシの名を冠する組織にどれほどの人数が加わるかを調べるはずだったのじゃ。どうやら意外な程多くの者が集まってくれたようじゃが……招かれざる者も呼びよせてしもうたようじゃのぅ。まさかお主に全て見通されてしまうとは」
ワシの誤魔化しがどこまで通用するかは分からぬ。こうして何度も初めての会合と強調しておるが、ダリアが全てを掴んでおるのなら何の意味もない行動じゃ。じゃが彼女がどこまでDAのことを把握しておるか分からぬ以上、僅かな可能性にかけて打てる手は打っておかねばならん。それにハリーと同様、こうした発言をしておればファッジは冷静さを失い、
「ほ、本当に貴方が……貴方が組織したと? では本当に……貴方は私を陥れようとしていたのですか?」
「その通りじゃよ、ファッジ」
「お聞きになりました、大臣!? ダンブルドア校長! いえ、アルバス・ダンブルドア! 貴方を今から拘束し、アズカバンに連行します!」
ドローレスは望んだ以上の結果に舞い上がることじゃろぅ。ドローレスは今回の件でハリーを退学にするくらいは出来ると思っておったじゃろうが、まさかワシがここまでの発言をするとは思っておらんかったに違いない。もはや一番望んでおった事態にハリーのことなど忘れておる様子じゃった。後はミネルバが上手いことやってくれるはずじゃ。
唖然とした表情を浮かべるミネルバ、ハリー、そしてキングズリーにこっそりウインクした後、ワシはドローレスに向き直りながら続けた。
「あぁ、ドローレス。お主ならそう言うと思うておった。じゃがお主は勘違いしてはおらんかのぅ? まさかこのワシが……大人しくお主に拘束されるとでもお思いか?」
その瞬間、今まで恍惚とした笑みを浮かべておったドローレスの表情が歪む。彼女は政治的能力では、あまり褒められたものではないが光るものがある。じゃが戦力としては並の魔法使いレベルじゃ。彼女もそれが分かっておるのか、ここに至って自身の側の戦力を換算したのじゃろぅ。そしてファッジにウィーズリー君、そしてキングズリーで私に勝てるかを計算し……残念ながら彼女の方が分が悪いことを今悟ったのじゃ。そのことからも彼女がワシの言葉や行動を予想しておらんかったことが分かるが、ワシにとっては実に都合がよい。
「な、何を言うのだね、ダンブルドア! 貴方がそのようなことをするはずが……。い、いや、そんなことより、ほ、本当に逃げられると思うのか!? 私達は四人だ! ここには闇払いであるキングズリーもいる! いくら貴方でも4人相手に逃げられるはずがない! だ、だから無駄なことは止めるのだ!」
「ファッジよ、寧ろお主が無駄なことを止めるのじゃ。実に残念な事じゃが、事実としてこの中で一番ワシが強い。たとえワシに味方がおらずとも、」
「いいえ、アルバス! 貴方は一人ではありません! 貴方が戦うなら私も、」
「いや、ワシ一人じゃよ、ミネルバ。ワシ一人で十分じゃ」
そしてワシは杖を出そうとするミネルバをたしなめ、そのまま同じく杖を取り出そうとしておる面々に魔法を放った。銀色の閃光が迸った後に立っているのはワシにミネルバ、そしてハリーのみ。
無言呪文とはいえ、人四人を失神させるには十分じゃ。ましてやキングズリーはワシの意図を分かっておったのか無抵抗じゃった。実質三人を無力化した後、ワシは部屋で未だに立っておる二人に声をかける。
「大丈夫かね? ミネルバ、ハリー」
勢いよく呪文を使った影響で部屋には少なからず埃がまっておった。そんな中少しせき込みながらも二人が応える。
「えぇ! 大丈夫です!」
「ぼ、僕も問題ありません!」
事態の変化について来れておれんでも、それでも気丈に返事をする二人にワシは微笑みながら続けた。
「それは良かった。気の毒じゃが、キングズリーには眠ってもらっておる。彼が今疑われるわけにはいかんからのぅ。お主らもワシが立ち去った後、眠ったふりをするのじゃ。彼らは今ワシのことで頭が一杯になっておるはずじゃ。目覚めた直後はこれで大丈夫のはずじゃが……ミネルバ、上手く誤魔化しておくれ」
「勿論です。ですが、アルバス。貴方はどうするのですか?」
「ワシは直ぐにでもここを発つよ。ファッジらをこうした以上、ワシは本物のお尋ね者じゃからのぅ。じゃが、これは好機じゃ。ワシもここにおっては出来んかったことをするとしよう」
全てがワシの想定を超えて進行しておる。その末にワシはこうして城を出ねばならなくなったわけじゃが、ワシとてただ黙って追放されるわけにはいかぬ。まだその時ではないと思うておったが、今こそ敵の不確定要素を調べる時なのじゃろぅ。
ワシはこの機に調べねばならん。ヴォルデモートが如何にして死の淵から復活したか。凡その予想は出来ておるが、まだ確証を得たわけではない。確証を得ぬまま、ただの予想だけで事を進めれば取り返しのつかぬ事態に陥りかねぬ。
そして何より……ワシにはまだ最大の懸念事項、それこそヴォルデモートの秘密以上に、何一つとして理解しておらんことがあるのじゃ。ワシは嘗て聞いた予言のことを思い出す。
『選ばれた子が生まれる七月の末、闇の帝王はついに
後回しにし続けてきた問題じゃが、城を出ねばならぬのなら今こそ調べるべきじゃろう。ヴォルデモートの足跡を辿る旅。その先にこそ全ての答えがあるはずなのじゃから。ヴォルデモートが力をつけつつある今もう一刻の猶予もない。
ワシは意識を切り替え、事態の変化に戸惑うハリーに続ける。
「ハリーよ、気に病むことはない。いずれにせよワシにはこのような時間が必要じゃったのじゃ。それが早まっただけのことじゃ。お主が気にすることはない。ではワシは行ってくるかのぅ。最後に一つだけ、ハリー。今回の集会を何としても初めての集会じゃったと言い張るのじゃ。
そしてワシは肩に舞い降りたフォークスと共に『姿くらまし』をし、城ではない鬱蒼とした森の中に降り立つ。もう後戻りすることは出来ぬ。予想外の出来事であろうとも、それを理由に立ち止まるわけにはいかぬのだから。後はハリーとミネルバを信じるしか出来ぬ。たとえ敵がどれだけ強大であり……たとえ本来であれば同じ学校の仲間であるべき人間でも。ワシに出来ることは今信じることしか出来ぬのじゃから。
「ままならぬものじゃのぅ。このような時にこうして自身を誤魔化すしかないとは。せめてハリー達が無事じゃといいのじゃが」
フォークスはワシの言葉には答えず、ただ何故か悲し気な瞳でワシを見つめるのみじゃった。
……その瞳の意味を、ワシは終ぞ気付くことはなかったわけじゃが。
アンブリッジ視点
今日私の下に転がり込んできたチャンスは、当に千載一遇のチャンスと言っていい程のものだった。
正直なところ、マリエッタ・エッジコムという名前の小娘がもたらす情報などたかが知れているとしか思っていなかった。私の記憶にも残っていないような生徒のこと。持っている情報も大したことはないだろうと予想していたし、何かしらの切欠になればいいと私は最初考えていたのだ。
しかし現実は違った。途中あのマルフォイ家の娘が乱入し、小娘の代わりに情報を話し始めたわけだが……それは切欠どころか、ダンブルドアを逮捕することすら可能であろうものだったのだ。
待ちに待った瞬間に私がどれほど高揚したことか。もはや小娘のことなどどうでもいい。おそらくマルフォイ家の娘が小娘の記憶を消したのも、このあまりに大きすぎる情報と手柄を独り占めするために違いない。私が彼女の立場でも同じことをするだろう。それ程今の情勢下においては、彼女の手にしていた情報は大きすぎるものだった。
何せ魔法学校の中で、校長が生徒を使って軍隊を組織していると疑われても仕方がないものなのだから。
ダンブルドア軍団。名前が入っている以上、ダンブルドアが関わっていないと言い張るのは難しい。
無論真実はそんなことはないのだろう。アルバス・ダンブルドアの性格や実力を考えれば、態々学生で軍隊組織を作ろうなどという発想をするはずがない。
しかし真実など何の価値もなく、結局他人がどう考えるかが全てなのだ。とりわけダンブルドアが反逆を企てようとしていると
あぁ、私は今日大きな成果を得る。校長室に向かう私はそう信じて疑っていなかった。私は今日何もかもを手にするのだ。多少時間はかかるだろうが、確実にあの忌々しいダンブルドアをアズカバンに送ることが出来る。そしてポッターも城から追放する。私は与えられた任務をたった一日で全て成し遂げるのだ。闇の帝王も必ずや私の功績を認めて下さるだろう。そうすれば私がどのような地位を得るのか。想像するだけで気分が高揚するというものだ。
……それがどうしてこうなったのか。気が付いた時には、手に入ると思っていた全てが零れ落ちていた。
本当に、一体どうしてこうなってしまったのだろうか。
あれだけ成功間際だと思われていたのに、
挙句の果てに、
「ドローレス、貴女は何を仰っているのですか? ダンブルドアも仰っていたでしょう? 今回の集会は初めてのものだったと。それも集まったすぐに……ミス・マルフォイの
私はポッターすら逃しかけている。
私は歯軋りしながら目の前のミネルバを睨みつける。私と
ダンブルドアの失神呪文から目を覚まして数時間。ファッジとキングズリー、そしてウィーズリーの子供はもうここにはいない。慌ただしく魔法省に帰ってしまった。彼らはダンブルドアの逃亡で頭が一杯であり、ポッターのことなどもはや頭にありはしない。『闇祓い』にダンブルドアを探すことを命じるだけで精いっぱいだろう。お陰で今ホグワーツで戦わなくてはならないのは私一人という有様だった。
勿論ポッター単体の問題であれば私も躊躇しなかっただろう。しかしアズカバン送りは免れたとはいえ、ダンブルドアの追放というニュースがあるのだ。少数派とはいえ、ダンブルドアの信者はまだまだ魔法界には多い。そこに証拠不十分のポッター追放が重なれば、私への攻撃も無視できない程のものになってしまう。ましてやダンブルドアは今逃亡中。証言を得るにはダンブルドアをまず捕まえる他ない。
ダンブルドア追放に加え、更に一応魔法界の英雄とされているポッターの追放を強行するのはリスクが大きすぎる。確たる証拠があるならばいざ知らず、それを許す程ファッジ大臣は肝が太い人間ではない。私はいまいち決め手を欠く状態で、ミネルバと不毛なやり取りをするしか他なかった。
「ですから、ミネルバ。何度も私は言っているでしょう? 私が高等尋問間令を発して数か月以上。その中でこうして会合がなされていたのです。果たして本当に初回のことだと言えるのでしょうか?」
「ですから、私も何度も申し上げています。その初回でないという証拠はどこにあるのです? 確かに会合が続いていれば違法になるでしょう。ですが集会が続いていた証拠がどこにあるのですか?」
目の前のミネルバにありったけの呪いをかけてやりたい気分だった。出来ることなら魔法省高官としての権利を最大限行使してしまいたい。正直なところ私は魔法省職員というより、もはや闇の帝王の僕としての役割の方が大きい。ですがここで短気にはやれば、魔法省としての立場を一時的に下げかねない。そんな私を闇の帝王が価値ある者として扱うかは甚だ疑問だった。ダンブルドアが自由の身になった以上、ポッターもそうするわけにはいかないという現実もある。……まったく、大人しく私達の言いなりになっていればいいものを。今思い返せばダンブルドアは、
『今日
ただひたすらこの愚かな学生集団が初回であると印象付けようとしていた。奴は最初からこのために行動していたのだ。勝利したのは私であるはずなのに、何故か私の方が敗北したような気分になる。
私に現状出来ることはこうしてミネルバと不毛な議論をするだけだった。
尤も私に逆転の手段が残っていないわけではない。たとえダンブルドアから失言を得られなくとも、私に有利な証言を得れさえすれば良いのだ。
「証拠? 証拠なら……もうすぐ来るはずですわ。
私の言葉で今度はミネルバの表情が曇る。私の言葉で、一体今から誰がここに来るかを悟ったのだろう。ですがその表情を見ても、私の心が真に晴れることはない。彼女がどんなに私にとって有利な証言をしようとも、ダンブルドアが逃亡した以上ポッターをも即座に追放するのは難しい。無論無理やり追放することは可能であるが、それをするにはリスクが大きすぎる。リスクは最小限に留めねばならない。マリエッタという名の小娘に対してではないが、これこそただ切欠になればいいだろう。彼女がどんな証言をしようと、決してミネルバが認めることはないことも間違いないのだから。
しかし、
「失礼します。アンブリッジ先生。指示通り、捕らえたメンバーは全員連れてきました」
「えぇえぇ、待っていましたよ……
私の予想は小娘の時とは逆に……
私の選んだスリザリンにおいても高位の純血貴族家系。高等尋問官親衛隊と、そんな彼らに追い立てられるように歩く有象無象。彼らの先頭を歩くマルフォイ家の娘に声をかける。
部屋に入ってきた彼女に、ポッターとミネルバは表情を完全に青ざめさせていた。当然だろう。私を含めて、マルフォイ家の娘がダンブルドアに有利な証言をするはずがないと考えていた。真実がどうあれ、それこそ真実を捻じ曲げてでも私の望んでいる証言をしてくれるはず。
そう、私は信じて疑っていなかったのだ。
なのに、
「さぁ、まず聞かせて下さるかしら? 優秀な貴女のことです。もう既に尋問は終わっているのですよね? 今私の聞きたいことは一つですわ。それでこの者達が催していた集会は……一体何度めの集会でしたの? この者達は何度も、」
「……何度目の集会ですか? いいえ、私の得ている情報では、今回のものは
ここに至って突然、マルフォイ家の娘はそんなことを言い始めたのだった。
ミネルバとポッターすら驚きの表情を浮かべていることにも気付かず、私はただ唖然としてあの冷たい無表情を見つめる。しかしいくら見つめようとも、そこに浮かぶ感情を読み取ることは私には出来はしなかった。