ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
アンブリッジ視点
世界には二種類の人間しかいない。
虐げられる側と虐げる側。この二種類の人間だ。どちらでもない人間などあり得ない。虐げられないためには他人を虐げるしかない。
それが私が今までの人生で学んだ唯一絶対の真理。
嘗ての私は残念ながら前者、虐げられる側の人間だった。スリザリンに入り、多くの純血貴族の生徒達と交流を持つようになったが、それでも私の立ち位置はそこまで高いものではなかった。寧ろ低かったと言っていい。
だからこそ私はいつも考えていた。いつかこのような生活から脱してやる。折角冷え切った家庭から抜け出せたのだ。だからあの家庭に戻らないためにも、私はもっと上に行かなくてはならない。
そう思いどんなに理不尽なことも耐え、私はホグワーツに在学中ひたすら耐えに耐えた。
他のスリザリン生達をひたすら褒め称えた。彼等の能天気さをどんなに内心見下していようとも。
グリフィンドール生に容姿を馬鹿にされても、決して怒りのまま手を出すことはなかった。……どんなに心の中で涙を流していようとも。
罵倒に耐え、貴族達とのコネを作り、その合間に魔法を磨いた。全ては将来、私が虐げる側に回るために。
しかし……そのために努力していたとしても、いずれ努力は報われると信じていたとしても、それだけでは私の心が平穏を保つことは出来たわけではない。
いずれ努力は報われる。私の忍耐が実を結ぶ時が来る。もう私は近所の人間、どころか家族にすら馬鹿にされていた無力で無知な人間ではない。私はここから這い上がる手段を手に入れたのだ。
でも、そのいつかはいつ来るのだろうか?
ホグワーツを卒業し、私は最も権力を手にする近道である魔法省に入るつもりだ。しかし卒業して直ぐに権力が手に入るわけではない。今手にしているコネが将来役立つとはいえ、卒業すればまた新たな人間関係が始まる。父は低級官僚のため当てにはならない。私は一体いつ……誰にも見下されない存在になることが出来るのだろうか?
本当は今すぐ結果が欲しい。本当は純血のくせに、あんなマグルの母と結婚した父が憎い。本当は私を馬鹿にするグリフィンドール生にありったけの呪いをかけてやりたい。
意味もなく叫びだしたい衝動に駆られる瞬間があった。いつも心の奥底にどうしようもない感情が渦巻き、私の内心をジリジリと焦がし続けていたのだ。
だからこそ……そんな私にとって、数少ない私より
いくら私が半純血、それも実家は驚くほどの貧乏暮らしであったとしても、私より下の存在はいる。それが魔法使いの血が一滴も入っていないマグル生まれ。そして……人間ではない亜人共。
二つの存在は魔法界では最底辺に位置する存在だった。そもそも私もマグルのことは嫌いだった。私にとってマグルとは母のこと。家にいる間は怖くて仕方がない存在だったが、ホグワーツに逃げた今、私を縛り続けていた邪魔な存在でしかない。私は年々母から受けた理不尽な仕打ちに憎しみを募らせていた。当然魔法が使えるとはいえ、同じマグルである『穢れた血』のことが好きになれるはずがない。
そしてもう一つの存在である亜人。
正直なところ、マグルと違い私は奴らのことを最初は見下していたわけではない。それもそうだろう。私はホグワーツに入るまで、そもそも奴らの存在すら知らなかったのだ。存在も知らない存在を見下すことなど出来ない。
しかしホグワーツに入学し、学年が上がるにつれ……私は奴らのことをハッキリと
最初は私より下として扱われる存在がいることに対する喜びだった。亜人が生徒の中にいたわけではないが、湖には水中人、森にはケンタウロス、城には屋敷しもべ妖精がいる。奴らはそもそも人間としてすら扱われず、それどころか危険生物としての扱いを受けていた。関わりこそ多くなくとも、そこには絶対に越えられない線引きが存在していたのだ。
しかも奴らの素晴らしいところは、どれだけ奴らを堕としても、誰も私に対して何も言わないことだ。……寧ろ寮関係なく、私の言動や行いが
無論一部の教員や生徒は文句を言ってはいた。称賛も大っぴらなものではない。しかし亜人のことを蔑めば蔑むほど、奴らに対する対策を口にすればする程、私は裏で称賛され、文句を言う人間は陰口をたたかれていたのだ。
だから私は『穢れた血』や亜人を蔑むことで、自身の中に燻る感情をコントロールしていた。私も今は虐げられる存在だが、そんな私にも虐げれる存在がいる。私は少なくとも一番下ではない。私は上に這い上がれるが、奴らはこの先もずっと私に虐げられる存在だ。そう私は自分を安心させることが出来……いつの間にか、それが世の真理であると完全に
最初は存在すら知らなかった亜人は……私の中でいつの間にか虐げても良い、虐げることが正義である存在として定着していたのだ。
ゆっくりと……奴らのことを口で蔑む度に、確実に。
そして、この私のストレス解消が寧ろ卒業後の出世を早めたのは行幸と言えるだろう。結局のところホグワーツの中も外も変わりはなかったのだ。どこに行っても穢れた血と亜人は蔑まれるべき存在。態々口にせずとも、表では平等がどうのと綺麗事を並べ立てても、結局のところ皆内心では奴らを蔑み、奴らを堂々と糾弾する私は持て囃された。スリザリンで忍耐の日々を送っていたこともあり、魔法省高官からの覚えも良かったのも勿論あるが……最終的な決め手は奴らに対する言動と政策だったように思う。
ある時は巨人やケンタウロスの居住範囲を狭めることを提言した。ある時は人狼の杖を没収するように提言した。全てが全て認められたわけではないが、確実に私の支持者は増えていったのだ。
そして今年に入り更なるチャンスが私に巡ってくることとなる。
何とあのハリー・ポッターとダンブルドアが魔法省と対立したのだ。それも『闇の帝王』が復活したかという事実で。純血貴族に様々なコネを持っていた私は、『闇の帝王』が復活した事実を掴んでいた。しかしそれをファッジ大臣は隠そうとしている。内心ではどちらが正しいか理解していながら。
当に千載一遇のチャンスだった。私は既に魔法省において上から数えていい存在になっていたが、だからと言って私を見下す存在がいないわけではない。私はもっと上に行ける。だからこそ、私はこの状況を利用することにした。魔法省と闇の帝王、どちらに転んでも私に損はない。闇の帝王は亜人共を受け入れているとのことだが、マグルは以前のまま最底辺。亜人も利用価値があるから利用しているだけ。別に地位が上がったわけではない。つまり私は今まで通り、ただ今まで通りの行動を貫けばいいだけなのだ。それも目障りなポッターとダンブルドアを貶めるだけで私の評価が上がる。ホグワーツ高等尋問官という立場も実に素晴らしい。あのダンブルドアさえある程度制御下に置ける上、全てが全て私の思い通りに運ぶことが出来る。ダンブルドアや彼に忠実な教員を除き、この城には私の言うことを聞くしかない生徒しかいない。
ここであれば私は全てを虐げることが出来る。私は決して、誰にも虐げられることはない。一部の例外を除き亜人はほとんど存在しないが、『穢れた血』は山程いる。しかしそんな連中がいなくとも、この学校において私こそが最も上の存在なのだ。
私の忍耐は遂に報われつつある。ようやくなのだ。私はようやく本当の意味で虐げる側になることが出来た。幼い頃のように、自分の母親にすら怯えるような日々を過ごさなくていい。私は真の意味で
私はもう何にも怯えなくてもいいのだ。
……そう思っていた。信じ切っていた。
しかし、現実はそう上手くはいかなかった。
「ありがとうございます、ドローレス。私で花火は消せるのですが、いかんせん私にその権限があるか疑問でしたので。……最近は特に高等尋問官令が増えましたから。何が禁止されているのか、正直馬鹿々々しくて一々確認していないのです」
ここ最近、何もかも上手くいっていない。
全てが狂ったのは、あのウィーズリーの双子が城から逃亡した時だった。あの双子……私が大広間に突入すると同時に、なんと箒を呼び寄せそのまま城から飛び去ってしまったのだ。それもありったけの花火をまき散らしながら。
私をあそこまで愚弄した人間はあの双子が初めてのことだった。無論私を嘲笑したグリフィンドール生は沢山いたが、あそこまで私に真っ向から反抗してきた人間は初めてのこと。ダンブルドアを追放し、折角肩書だけではなく、名実共に私はこの学校の校長になる道筋を考えていたというのに……そんな私の努力を双子は木っ端みじんにしたのだ。
あの双子のせいで、全てが台無しになった。あまりに愚かな行動に、生徒どころか教員ですら私に対して反抗心をむき出しにするようになった。
今も私の目の前で、堂々とミネルバが思ってもいないことを口にしている。大人しくしていればいいものを、愚かにも生徒の多くが下らない反抗を犯すようになった。そこら中で花火が爆発し、下らない悪戯が横行している。誰も退学など恐れていない様子であり……しかし、その空気を他の教師陣も黙認していた。
今もこうして教室内に漂う花火を消すために、態々私を呼び出し、私がそれを消すまで決して手を出そうとしていない。
目の前のミネルバを含め、他の教員は皆理解しているのだ。亜人ならいざ知らず、他の教員を簡単に解雇することは出来ない。ダンブルドアのような名前だけは有名な校長なら困らないだろうが、腹立たしいことに私は特段ネームバリューがある人間とは言い難い。優秀な人間を簡単に探し出し、現在の反抗的な教師と入れ替えるのは難しいのだ。
私は感情的に解雇を言い渡してやりたい気持ちを何とか抑え込み、目の前のミネルバを睨みつける。しかしこの女はあろうことか私の目と鼻の先で扉を閉めてきたのだ。
私がこの学校を真の意味で支配下に置いていれば、何とでも理由を並べ立てて追放できただろう。だが現実は違う。私は現状生徒ならいざ知らず、教員をこれ以上意味もなく解雇するだけの余裕はない。私の現実を思い知らされる気分だった。私は虐げる側に立ったはず、なのにこのような下らない雑事に足元をすくわれ続けている。解決したと思ったら、また別の雑事で。終わりが見えない。衝動的に、手あたり次第に呪いをかけて回りたいと感じるのは無理からぬことだろう。
私は怒りで乱れる思考のまま考える。
今の私は考えるべきことが多すぎるのだ。本当に忌々しい。生徒とは教師の言うことを聞くべきものだ。私は内心はともかく、常に教員に目をつけられ過ぎないように気を付けてきた。全ては将来私が出世するために。なのに今の生徒達ときたら、私に反抗することを生甲斐にしているようですらある。何と愚かなのだろうか。これだから何も知らない子供は嫌いなのだ。子供なんて私の言うことを黙って聞いていれば良いのだ。そしてそんな簡単な道理をわきまえない教員など、私に言わせれば教員などではない。それはただの反逆者だ。
ミネルバが目の前で扉を閉めたことで更に怒りを募らせながら考える。
闇の帝王が復活した以上、私が権力を更に手に入れるのは確実。そんなことも分からない連中が多いせいで、一時的でも私はこんなに腹立たしい思いをしなければならない。全てが片付けば必ず本当に反逆者として、退学どころかアズカバンに入れてやる。
……しかし、全てを片付ける前にやるべこことが多すぎるのも確かだった。
遠くから響いた花火の爆音と歓声に、私の思考に再びノイズが紛れ込む。
今度はどこで下らない悪戯をしているの!? 花火は正直まだ可愛げのある方だ。この前は私の部屋にニフラーを放たれ、金目の物を散々に荒らされてしまった。他にも私の食事時に糞爆弾を爆発させたり、もはや片時も気を抜ける時がない。
私は貴方達の下らない反抗に付き合っている暇はないのよ! 私は考えなくてはならないことが多すぎるのに!
闇の帝王のこと、ホグワーツのこと、ダンブルドアのこと、ポッターのこと、そして……
中でもミス・マルフォイのことは、妙な胸騒ぎがして仕方がない。あのお菓子箱に紛れ込んでいた血液は一体何だったのだろうか。彼女の素性を考えれば、何か違法な魔法薬の素材と考えるのが一番だが……何故かそれだけではないと、私の今まで積んできた経験が囁くのだ。
いつまでも小骨の様な違和感が着いて離れない。その違和感が気になって仕方がない。この違和感を解消した時、何かとてつもない答えを得られる気がする。本来であれば探ることすら危険な相手であるが、何かが引っ掛かり続けているのだ。
そう、本当はこの違和感の
しかし現実は、
「アンブリッジが来てるらしいぞ!」
「おっしゃ! ありったけの花火に火をつけとくぞ! 皆この隙に逃げるぞ!」
いたる所で起こり続ける雑事に、私の思考は乱され続けている。
花火の更に爆発する音と同時に、生徒達が逃げる声がこちらに届く。本当に忌々しい。私はいつまでこのような下らないことに振り回されなくてはならないのだろうか。
私はようやく念願の権力を得たはず。なのに何故私は……未だに虐げる側にいる実感が湧かないのだろう。
私は乱れる思考の中、そんな不満を感じざるを得なかった。
ダリア視点
ウィーズリーの双子が城から逃亡した。しかも退学したその足で、何とダイアゴン横丁に悪戯専門店を開業したらしい。
まぁ、センセーショナルな出来事だとは思うが、私には心底どうでもいい出来事でもある。
強いて気になる点を挙げるとすれば、あの貧乏で有名なウィーズリーがどうやって店を作れたのかは疑問であるが……何のことはない、ポッターが去年の優勝賞金をそのまま彼らに渡したかららしい。
ダフネからの
セドリックのことを思えば思うところが無いわけではない。が、そもそも私にそれをとやかく言う資格はありはしない。それをとやかく言う資格があるのは、この世にはセドリックの両親だけだ。だからこそ、私にとっては双子の逃亡など何の関わりもなく、興味も大して湧かないものであるはずだった。
……本来であれば。
しかし、
「……今貴方は、一体誰に何を投げようとしたのですか? ダフネにこのような物を投げつけようとするとは……グリフィンドール20点減点です」
双子に感化され、下らない悪戯を私やお兄様、そしてダフネにしようとする連中が大勢現れれば話が違ってくる。
「わ、分かった! 分かったからもうしない! だ、だから、ぎゃぁぁぁ!」
「誰が口をきいていいと言いましたか? グリフィンドール更に20点減点。貴方にはどうやらまだ痛みが足りていないようですね」
「や、止め、ぎゃぁぁぁ! だ、誰か、助け、」
これで何度目だろう。私は今しがたダフネに糞爆弾を投げつけようとしたグリフィンドール生を魔法で跪かせ、彼の手を文字通り
全く愚か者は愚か者らしく黙っていれば良いものを。私に直接何かする勇気はないくせに、代わりにダフネやお兄様を狙う。小賢しいにも程がある。本来ならば死に値する愚劣さだ。ここがホグワーツでなければ『磔の呪文』を使っていたことだろう。手の骨を砕かれたくらいで済ますのだから、寧ろコレは感謝すべきだ。
その上腹立たしいのは、そんな愚か者がこれだけではないという点だ。今日でこの手の悪戯は何度目だろうか。他の親衛隊も標的になっており、どちらかと言えばそちらがメインらしいが……それでも私の大切な人達を狙う愚か者が多いことも事実だった。
彼らが何に反抗しようとしているかなど問題ではない。アンブリッジ先生に反抗するため花火をそこらかしこで爆発させる、そこら中で糞爆弾を投げる、授業を意味不明な理由でボイコットする、廊下の一部が沼に変えられる……大いに結構。でも私の大切な人間に被害を及ぼすのなら、それは明確に私の敵だ。
今まで隠れていたのに、ただ勢いで徒党を組むような連中の覚悟などゴミに等しい。DAなどというお遊び以下だ。
ただのごっこ遊びで私の大切な人達が傷つく? そんなことが許せるはずがない。
だからこそこのようなゴミが二度と湧かない様に、私は徹底的に対処することにした。幸い今の学校で私が何をしても、私を退学に出来る権限を持つのはアンブリッジ先生だけ。つまり私は決して退学になることも、それこそ罰則を受けることすらない。ダフネやお兄様への視線を私に集めるためにも、私は徹底的にやる必要があるのだ。
……だから私が今どんなに
だから私は更に力を籠め、愚か者の骨を完全に粉砕しようとしたのだった。だって今の私は
「ダ、ダリア、その辺で許してあげて。私達に被害はなかったわけだし……。そ、それに、アンブリッジが不問にするにしても、最初はマクゴナガル先生辺りがうるさいと思うし」
「そ、そうだぞ、ダリア。だからそろそろ放してやれ。それより談話室に早く帰ろう」
二人の言葉に、私は
足をどけたことで、グリフィンドール生は悲鳴を上げながら逃げて行った。周りからは恐怖を含んだ視線が降り注いでいる。他のグリフィンドール生に、ハッフルパフにレイブンクロー、少ないがスリザリン生もいる。私は彼等に視線を向けた後、ダフネとお兄様に向き直りながら応えた。
「えぇ、そうですね。阿保共はともかく、OWLもすぐそこまで迫っています。問題ないとは思いますが、帰って勉強しましょうか」
勿論二人にそう答えたとしても、私は決して周囲に対する警戒を怠っていない。二人に言ったように今5年生達はいよいよ間近に迫ったOWL試験にかかりっ切りになりつつある。そのため私達と同学年の人間は悪戯をする余裕は無さそうだが、その他の学年には悪戯を反抗と履き違えた有象無象が大勢いる。二人には勉強に集中してほしい。だからこそ私が警戒をおろそかにするわけにはいかない。
だから……心のどこかで次の生贄が現れるのを望んでいるのは何かの間違いなのだ。
私はぎこちない笑顔を浮かべる二人を引き連れ、恐怖の視線を周りから浴び続けながら歩く。目指すのは談話室。そこでなら私達は安心して自分達の時間を過ごすことが出来る。そこでなら、私達は下らない悪戯に悩まされずに済む。
……なのにどうして、私は今真逆の欲求を感じているのだろうか?
私にとって一番の幸福はダフネと家族といること。それ以外にない。いや、存在してはならない。なのに何故私は……。
私はダフネ達と歩きながら、心のどこかでそんな不安を感じ続けていた。
ハーマイオニー視点
完全に鎮火されたと思っていた反抗の意思が、フレッドとジョージのお陰で今再び燃え上がっている。一つ一つの行動は、本当に取るに足りない悪戯に過ぎないかもしれない。でも、あれだけアンブリッジの横暴に黙り込むしかなかった皆が、小さいながらもあの女に反抗し始めているのだ。
DA解散で半ば諦めかけていたけど、事態は少しだけ改善されつつある。少なくとも今のホグワーツは以前のように、アンブリッジに黙って従うような空気ではなくなった。言うなれば誰も退学を恐れなくなり、そしてそれが結果的に犯人がより捕まりにくくなり、最終的に退学になりにくい状況になっているのだ。
当にフレッドとジョージの勇気ある行動のお陰だと思う。あの二人があのようなことをしなければ、今でも皆暗い顔をして日々増え続ける『高等尋問官令』に従っていたことだろう。たった二人の驚異的な行動力が、学校中を支配していた重い空気を一気に取り払ってくれたのだ。
勿論、だからと言って今のホグワーツの空気を完全に肯定できるかと言えば違う。皆がアンブリッジに反抗的になったと同時に、あの女に権力を与えられている『高等尋問官親衛隊』のメンバーに対しても悪戯をしかけている。パンジー達はどうでもいいけど、その中にダリアやダフネ、ついでにドラコも含まれれば話は違ってくる。
しかも三人の中で誰が最も標的にされているかと言えば……実は一番誤解されているダリアではなく、その親友であるダフネなのだ。理由は至極簡単。ダリアに反感を持っていても、それ以上に恐怖感が勝っている。ならばダリアの親友であるダフネの方が狙いやすく、同時にダリアの神経も逆撫で出来る。そんな心底卑劣な理由からだった。ドラコに関しては、以前のクィディッチ試合のことで評価は二人ほど悪くはない。それがより一層ダフネを狙う要因になってしまっているのだ。アンブリッジへの反抗はともかく、この親友達への卑劣な行動だけは絶対に肯定できない。出来るはずがない。
……尤も、私がどれだけ憤ったところで、彼女達に対する悪戯が成功した例もないわけだけど。
ダフネが一番狙われているとはいえ、彼女の隣にはほとんどいつもダリアがいる。ダリアがいる以上、ダフネは常に鉄壁の防御下にいることになる。しかも聞くところによれば苛烈極まりない報復のおまけつきで。選択授業は流石にその限りではないけれど、別にダフネも自分自身を守れないわけではない。ダリアには流石に及ばないが、彼女も本当に優秀なホグワーツ生なのだ。DAでの実力は上位に位置していた。彼女が自分を守れないはずがないのだ。私の親友達は狙われこそすれ、何だかんだ被害にあっているわけではなかった。
結果、ダリアに絶縁宣告されていることもあり、私は彼女達に何も言うことが出来ずにいる。
そして何より……これはダリア達も含めた5年生全員に言えたことだけど、今の5年生には城の空気以上の問題がいよいよ目の前に迫りつつあるのだ。
『
以前DA設立にあたって、私は闇の勢力と戦うことはOWLより大事なことと発言した上、事実心の底から信じ切っていた。親友達の問題も同様だ。でも自分の将来に関わる試験だとも分かっている以上、試験が近づけば近づく程、流石に存在を無視しきれなくなり……下手な成績は取れないと焦るようになっていた。城の空気に肯定的、否定的なものを感じてはいても、日に日にただ勉強しなくてはという焦燥感が増しつつあるというのが正直なところ。
日が経つにつれ、いよいよ肯定的に捉えていたアンブリッジへの花火音さえ煩わしく感じながら、私達5年生は少しの時間も惜しんで教科書にかじりついている。
彼女達なら大丈夫よ。何より今の私には何もすることが出来ない。それこそ彼女達に話しかけることすら迷惑になるかもしれない。だから今自分が出来ることを……少しでも力をつけるために勉強するしかない。
そうどこか自分に言い訳をし続けながら。
そして悪戯合戦がようやく熱を失い始め、5年生の緊張が頂点に達した時、
「最初に言っておきますが、カンニングは不可能です。今回お配りした羽ペンにはカンニング防止の魔法がかかっています。尤もこれを言っても、毎年自分だけは大丈夫だと考える愚か者は後を絶ちませんが……貴方方は違うと信じています。では、始めてください」
ようやくその時が来たのだ。
いよいよ今まで散々5年生を苦しめ続けていた試験が始まってしまった。最初の試験は魔法史。試験官はホグワーツの教員ではなく、専門の方が派遣されているとのことだ。
私は他のことを全て意識の外に追いやり、ただ目の前の試験に集中する。今の状況など関係ない。この試験を少しでもいい成績で乗り切らなければ、戦いの先にどんな選択肢が残されているかも分からない。そんな風に考えながら、私は能天気に魔法史の試験に向かい合っていた。
後から考えれば……