ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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遅くなりました!


誘導(中編)

 スネイプ視点

 

吾輩にとってダリア・マルフォイという生徒は……実に判断に悩む、複雑怪奇な少女だった。

ルシウスと親交のある吾輩にはダンブルドア程警戒しきることは出来ず、かといって能天気に考えられる程ただ可愛げのある少女でもない。

大変認めがたいことであるが、ポッターの情報は正しかった。吾輩は闇の帝王にホグワーツでのスパイ活動を命じられているため、逆に言えば帝王自身の情報をあまり多く入手出来ているわけではない。だがそれでも、ミス・マルフォイの現状は微かに漏れ聞こえている。

初めはポッターの妄想話であり、ルシウスの自慢話であると断じていた。だが事態が推移するにつれ、一概に無視することが出来ぬ状況になっていた。

認めるしかない。吾輩らしからぬことであるが、感情で事実を否定しようとしている。だがそんな感情を排し、吾輩はいよいよ認めねばならぬのだろう。

 

ダリア・マルフォイという少女は……少女でありながら既に闇の帝王の右腕なのだと。

 

無論事実を認めたからといって、彼女についての根本的な疑問が消えたわけではない。

たかだか15歳の少女が何故闇の帝王に認められているのか。家庭事情を考えれば、彼女が闇の帝王に与していることには納得がいく。寧ろそれ以外の選択肢が彼女に与えられているとは思えない。だが、それでも15歳の少女なのだ。いくら実力があろうとも、闇の帝王と出会ったのは数日くらいのものだろう。果たして本当にそれ程重宝されるようなことがあるのだろうか。

それに……彼女の気質が悪であると、吾輩にはどうしても思うことが出来ないのだ。

根拠は明確な物ではない。ただ彼女が……何と言えばよいか、ただの他人とは思えないのだ。吾輩と彼女は、友人の娘であるという点を除けば、ただ教師と生徒という関係でしかない。実際彼女と言葉を交わしたことは数える程しかない。だが何故だろうか。吾輩には彼女がただ他人のためにしか生きていないように感じるのだ。

自身のことを罪人と、無価値な存在と考え、その穴を埋めるためにただ他者に尽くしている。

吾輩の場合はリリーの……吾輩が人生で()()()()()女性のため。そして彼女の場合は……。

何故吾輩がこんな風に考えているのか、吾輩自身も理解できない。理屈ではなく、感情で吾輩は思考している。実に不合理だ。だからこそ、吾輩は理路整然としたダンブルドアの見解に抗いきれずにいる。いつだってダンブルドアは腹立たしいくらい正しい。他者には反論を許されない程、彼は()()を正しく認識している。

闇の帝王は打倒されなくてはならない。そして15歳でありながら闇の帝王の配下であり、既に我々の脅威となりうる力を持つ少女を警戒するのは当然だ。放っておけば闇の帝王にすら辿り着けなくなる可能性もある。

その理屈を……吾輩とて理解しているのだ。そこに反論の余地など無い。闇の帝王の右腕になりつつあると知った今は尚更。ポッターの妄想と断じる余裕はもはやない。

だというのに、

 

「あぁ、よく来てくれましたね、セブルス。単刀直入に言うわ。『真実薬』を持ってきてくれないかしら。確か貴方は薬を持っていたはずよね? ポッターの尋問に使います!」

 

「……」

 

吾輩は彼女を敵と認識しきれずにいるのだ。

……今もそうだ。OWLという一年における一大イベントもようやく終わった時間、本来であれば生徒達は大広間に夕食を摂るために向かっているはず。そんな時間に吾輩は何故か突然アンブリッジ新校長の部屋に呼び出され……実に不可思議な光景を見せつけられている。

親衛隊に拘束されるポッター三人組に、何故かネビル・ロングボトムにジネブラ・ウィーズリー、そして確か……ルーナ・ラブグッドという名の女生徒。ポッター達の前にふんぞり返るアンブリッジに、彼女の横に静かに佇むミス・グリーングラス、ドラコ・マルフォイ。

そして……ダリア・マルフォイ。

狭いとは言えないが、そう広いとも言えない部屋に大勢の人間が存在している。どう考えても何かがあったのは間違いない。

ポッター達を見下ろすアンブリッジに、その隣に佇むダリア・マルフォイ。一見すればミス・マルフォイはアンブリッジ側に見えることだろう。

だが……だというのに、この状況を前にしても吾輩は彼女への印象を変えきれずにいる。

 

「どうしたのですか、セブルス? 何を黙っているのですか? 私は命じているのですよ! 高等尋問官であり、新校長である私が!」

 

「……」

 

わめくアンブリッジと違い、彼女はただ黙って佇むだけ。表情も普段の無表情だ。

だが何故だろうか。吾輩にはその表情がどこか……酷く思いつめたモノに見えて仕方が無かったのだ。

いずれにせよ、吾輩には彼女の言動と行動にも関わらず、どうしても好意的な解釈を捨てきれずにいる。

我ながら実に度し難い思考だとは思う。何故ダリア・マルフォイに関しては、吾輩は実に下らぬ感情などに引っ張られた思考をするのだろうか。

 

……いや、今はこんなことを考えている場合ではない。

吾輩はそこまで考え思考を切り替える。今は目の前のガマガエルに集中せねば。

 

「何を、」

 

「失礼、校長。少々事態が理解できませんで。で、真実薬をお求めになっておられるのは分かりましたが、何故それを必要なのですかな? ポッターに毒薬を使うのであれば無条件に賛同いたしますが、真実薬は非常に高価な物なのです。ポッター如きには勿体無い。真実薬は……残念ながら調合に一ヵ月はかかる。貯蔵していた物は去年全て()校長が使い切ってしまいました」

 

「な、なんですって!?」

 

ミス・マルフォイから無理やり意識を切り離し、吾輩はただ淡々と新校長に告げる。無論虚偽の内容だ。真実薬は確かに在庫は存在する。クラウチ・ジュニアに飲ませはしたが、全てを使い切ったわけではない。だが彼女に真実薬など渡そうものなら、ただでさえ口の軽いポッターからどのような秘密を引き出されるか分かったものではない。当然渡せるはずがない。

それにこうして挑発しておけば、

 

「こ、この! わ、私は高等尋問官ですよ! 私には貴方達教員には及びもつかない権利があるのよ! このポッターは私の暖炉を使って、誰かに連絡をしようとしていました! 間違いなくダンブルドアだわ! これは明らかな反逆行為! 貴方は黙って私の命令に従っていればいいのよ!」

 

アンブリッジは勝手に情報を吐き出してくれるのだ。普段は我々を苛立たせることに異様な才能を発揮しているが、今は冷静さを些か欠いている様子だった。吾輩の言葉にわめき散らし、重大な情報を吾輩にもたらした。

成程。やはりポッターがいつもの如く考えなしに行動したということか。本当に無思慮で、傲慢な小僧だ。何を考えたのかは知らぬが、もはやアンブリッジの部屋に堂々と侵入するとは。しかも暖炉を使って連絡を取ろうとした? 愚かにも程がある。露見しないはずがない。アンブリッジの部屋は今格好の悪戯対象に成り果てている。無論それに彼女が対処していないはずがない。生徒の侵入自体は許しているようだが……侵入したまま、ただ暖炉を使うために居座り続ける愚か者を捕まえるくらいには対処されている。

まったく余計なことばかりする小僧だ。それにその取り巻き達も。グレンジャーなど、こういう事態にこそ無駄な頭脳を働かせればよいものを、いざという時この少女もポッターの愚行に同行するきらいがある。所詮はグリフィンドールというべきか。いや、リリーのことを思えば、ただこの小娘が愚かなだけだろう。勉学だけが出来ても何の意味もない。たとえどんな事情があろうとも、少なくともグレンジャーだけは冷静に頭を働かせるべきだったのだ。

そう、たとえ、

 

「ス、スネイプ先生! ほ、本部で、」

 

「ハーマイオニー! 何を、」

 

「ロンは黙って! ほ、本部でシリ……パッドフットがあ、あいつに! あ、貴方にも良心はあるのでしょう!? なら、ダンブルドアに早く伝えて! ダンブルドアに伝えないといけないことが沢山あって! でも、先生にまだ良心が残っているのなら、この人に従うべきではないのだわ! だから早く本部のパッドフットを!」

 

本来ならあり得べからざる事態が起こったのだとしても。

吾輩は当然、最初この少女が何を言い始めたのか理解出来はしなかった。正直なところ、遂に気が狂ったのではないかとさえ考えた。

だが、本部という言葉に違和感を感じた瞬間、吾輩はようやくこの少女の言わんとしていることを理解したのだった。

今本部に……つまり『不死鳥の騎士団』本部にいる人間。それはシリウス・ブラックに他ならない。それに奴のことを、あの忌々しいジェームズ・ポッターが『パットフッド』と呼んでいたのも覚えている。ならば奴が捕まったということをグレンジャーは言いたいのか?

あり得ない……と言えないのが、あの男の愚かさだろう。情勢も読めず、ただ自分のちっぽけな不幸を嘆くだけの男だ。冒険と称して外に出るなんてことは十分にあり得る。

そしてそれを知り得た手段も……同じ愚かしさを持ったポッターで説明できる。吾輩の指導を完全に無意味なものとし、愚かにも再び『闇の帝王』の夢を見たというところか。

少なくとも一々詳細を気にしている場合ではないことは理解したが、それでも苛立ちを覚えずにはいられなかった。グレンジャーの言葉で事態を理解してしまった自身を恨みたくなる。知らなければ無視できたものを、もののの見事に吾輩も巻き込まれてしまったというわけだ。

シリウス・ブラック、ハリー・ポッターが愚かであることは今更考えても仕方がないことだ。ブラックは言わずもがな、ポッターもあのジェームズ・ポッターの息子だ。父親の蛮行を目にした時は流石に顔を青ざめさせていたが、そもそも他者の記憶を覗き見する段階で程度が知れている。吾輩の忠告も聞かず、性懲りもなく『闇の帝王』と繋がり続けているのがいい証拠だ。

そして今回の件に関して、やはりハーマイオニー・グレンジャーもその愚か者の一味と言える。確かに吾輩への伝え方に関しては及第点だ。アンブリッジには意図は伝わらない上、吾輩を巻き込まない最小限の演技もされている。これではアンブリッジが吾輩を責めることは困難だろう。

だがそれだけだ。そもそも彼女がもっと上手く立ち回れば、こんな厄介な事態にならずに済んだのだ。大方この城で誰にも見られずに連絡を取るには、寧ろ敵の懐に飛び込むのが最も安全なのだとか考えたに違いない。愚かにも程がある。小娘の浅知恵だ。もっとましな方法をどうして考えなかったのか。時間が無いにしろ、もっとやり様はあったはずなのだ。その努力を怠った結果がこの様だ。

 

尤も、今この愚か者共の愚劣さを挙げ連ねても仕方がないのも確かだ。

グレンジャーの言うことが真実であれ……あるいは()であれ、吾輩は早急に確かめねばならぬ。このままではポッターと愉快なお仲間共が退学にされかねないが、今はそれすら二の次だ。遂に闇の帝王が動いたと見ていい。グレンジャーの世迷言で動くのは癪だが、吾輩は今こそ動かねばならぬ。

 

「パッドフット? 一体何を言っているのですか? セブルス、この子は貴方に話しているみたいですが、一体何のことを言っているのですか!?」

 

「さっぱりですな。吾輩が思いますに、ミス・グレンジャーは錯乱したとしか。吾輩としてはこれ以上気が狂った生徒に付き合うのはごめんこうむる。新校長も用が無いのならこれで。あぁ、一つご忠告申し上げますに、ポッターとその仲間の妄言にあまり真剣に付き合わないことをお勧めします」

 

そう言って吾輩はアンブリッジの言葉を適当にあしらい、最後にもう一度ダリア・マルフォイの方に視線を向けた後に部屋を後にする。

……やはり一見冷たい無表情でしかないはずが、何故か吾輩には酷く思いつめたモノのように見える、あの少女の横顔を見つめた後に。

 

突然の事態であるが、吾輩は『不死鳥の騎士団』の一員だ。以前の戦いの時も、悲劇は突然、何の前触れもなく起こっていた。今回とてどんなに突然の事態であろうとも、吾輩が何をすべきかくらいは理解している。たとえこの事態が、どうしようもない愚か者共によって引き起こされたモノだとしてもだ。

怒りに引きずられそうになる思考を無理やり引き留めながら、吾輩はただ今為すべきことのみを考える。

まずはシリウス・ブラックの所在確認だ。捕まったかどうかはさておき、今奴が騎士団本部にいるかどうかを確かめる必要がある。もしいなかった場合は騎士団員を早急に招集せねばならぬし、いた場合も闇の帝王の罠を警戒せねばならない。ポッターがこれ以上愚かな行動を取らぬようにせねば。

 

どんなに愚かで、心底見捨てたいと思っていようとも……ポッターはリリーの息子である事実に変わりはないのだから。

それに、この行動こそがミス・マルフォイの真に望んで……。

 

 

 

 

これが吾輩がグレンジャーの言葉を聞いた直後のことであり……ポッター達の真の愚かさを再確認する直前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンブリッジ視点

 

ようやく尻尾を掴んだ!

私はここのところ忍耐に次ぐ忍耐を、極めて不当な待遇を強いられてきた。それもこれも全てあのアルバス・ダンブルドアのせいで。

しかし、これでその忍耐も終わり。私はようやく掴んだのだ。今度こそポッターを破滅させる口実を。誰一人文句の言えない、完全無欠の口実を!

切欠は偶然でしかなかった。ただ偶々事務的な用事で教員室にいた時、何とあのポッター達が、

 

『マ、マクゴナガル先生! 先生に知らせなくちゃ、』

 

『あらあら。どうしたのです、そんな風に慌てて。それに……知らせなくては? あらあら、一体何を知らせるつもりなのかしら?』

 

突然あまりにも意味深なことを、それも慌てふためいた様子で叫んでいたのだ。

何事かまでは分からないが、どう考えても私に知られたくない何事かが起こったのは間違いなかった。しかも私を見た瞬間、黙り込んだのだから、もはや自白したも同然だろう。

だからこそ私はミネルバを監視し続けた。ポッターはホグワーツ教員の中で敢えてミネルバを選んだのだ。ならば必ず彼女でなければならない理由があるはず。私の直感が告げている。この降ってわいた幸運をモノにすれば、必ずやポッターどころか、それこそ現在のホグワーツで最も邪魔であるミネルバさえ排除できる。

私は自分のことをこれ程幸運だと思ったことなどなかった。どちらかと言えば、私程不運だった人間もそうはいまい。私には最初から何も無かった。家柄も、お金も……容姿も。何もかもが私には無かった。不公平極まりない。どうして私には何もないのか。どう考えても不公平ではないか。そう考えたことは何度もあった。

でも、それも今度こそ終わりなのかもしれない。遂に私の忍耐が今度こそ報われる時が来たのだ。一時は取り逃したと思っていた幸運が、再び私の手の中に舞い戻ってきた。これで私は今度こそこの城の全てを手に入れられる可能性がある。闇の帝王が望まれる全てを私が実行し、あのお方の目に留まる。その足掛かりを私は二度も手にしたのだ。今度こそ逃すことは出来ない。

 

そして、そんな私の予感は見事に的中することとなる。なんとポッター達が私の部屋に侵入し、あろうことか『煙突飛行』で誰かと連絡を取り合おうとしたのだ。

 

このホグワーツで煙突飛行そのものを実行することは出来ない。どの暖炉にも侵入は勿論、脱走も出来ないように魔法がかけられているのだ。しかし、体の一部を飛ばすことでの連絡くらいは取れる。子供とは完全な管理下に置かねば何をしでかすか分かったものではないのだから、このようなことは欠陥以外の何物でもない。大方ダンブルドアのホームシックにかかった生徒に対する余計な気遣いなのだろう。当然そんな愚かなことを、新校長である私が許すはずがない。だからこそ、私の暖炉以外は連絡すら取れない様に、魔法省の力すら使って監視をかけていたわけだけど……それが見事に功を奏したというわけだ。

私の暖炉を使おうとしたのはハーマイオニー・グレンジャーである様子だった。いつも私に賢しらに反抗的なことを言う小娘。教科書を文字通り丸暗記しているだけはあり、私が暖炉を監視している可能性に思い至ったことだけは認めよう。でも、所詮小娘に考え付く可能性などその程度のこと。大方私の暖炉なら盲点をつけると考えたのだろうが、私が部屋に侵入された時点で気付かないはずがないではないか。確かに生意気な学生の侵入を防げず、今も取り逃がし続けていることは間違いない。認めがたいことではあるが、ホグワーツの悪戯生徒のレベルは侮りがたいものがある。しかし、だからと言って私が何も対策していないと考えるのは、どう考えても私のことを過小評価しているとしか言えない。私が何も対策していないわけがないではないか。侵入を許しても、少しでも馬鹿な学生を捕まえられるよう対策は取っている。ましてや暖炉で長話しようとした生徒を捕まえられないはずがない。そんな簡単な事実を、グレンジャーは見逃したのだ。これを愚かと言わずに何というのか。所詮は『穢れた血』の小娘でしかない。私と違い、一滴たりとも純血の血が流れてはいない。そんな愚か者が私に敵うはずが無いのだ。

 

その愚かさの結果が、今目の前の光景という訳だ。

一人レイブンクロー生が紛れ込んでいるが、ポッターの愚行に加担したと思しきグリフィンドール生が数人。私の部屋に侵入したポッター達三人は当然のことだが、他の四名も私のことを明らかに監視していた。間違いなくポッターの一味であり、事実こうして捕まっても反論の一つもしていない。言い逃れの一つでもすればよいものを、それを黙っているというのは下らない正義感からの行動だろう。グレンジャーを含め、本当に愚かとしか言いようがない。

一体誰と、どのような内容を連絡しようとしていたのだろうか。

いえ、正直内容など、真実などどうでもいいことだ。私の予想ではダンブルドアで間違いないが、違ったとしてもどうとでもなる。要は私の部屋に侵入し、誰かと連絡を取ろうとした事実さえあればどうとでもなる。及び腰になっているファッジ大臣をも説得できる程の事実。結局のところ、理由や正義感などに何の価値もなく、ただ私が出世する機会が再び舞い込んだだけのこと。ポッター達の愚かさには感謝してもし切れないくらいだ。

 

だからこそ、たとえセブルスが思い通りにならなかったとしても、

 

『ダンブルドアに早く伝えて! ダンブルドアに伝えないといけないことが沢山あって! でも、先生にまだ良心が残っているのなら、この人に従うべきではないのだわ! だから早く本部のパッドフットを!』

 

『パッドフット? 一体何を言っているのですか? セブルス、この子は貴方に話しているみたですが、一体何のことを言っているのですか!?』

 

『さっぱりですな。吾輩が思いますに、ミス・グレンジャーは錯乱したとしか』

 

私は僅かに冷静さを保つことが出来たのだった。

セブルス・スネイプの行動に関して、正直なところ最初から違和感を感じていた。漏れ聞くところによると闇の帝王のスパイとのことだが、それにしてはあまりにも不可解な点が多い気がしたのだ。それに私の直感が、どうにもこの男を信用しすぎては駄目だと告げるのだ。根拠は実に曖昧なものであるが、疑いを持つに越したことはないだろう。計画が上手くいけば、いずれ私の方が上の立場になるのだ。セブルスがどういう立場であり、私が彼にどのような態度を取ろうとも関係のないことだ。

だから私はセブルスの言い訳がましい行動にも、どうにか冷静さを失わずにいられた。無論内心では怒りや焦りを感じていたが、決定的なものではなかったはずだ。去り行くセブルスの背中を睨みつけながら、私は冷静な思考で次点の策を考える。

『真実薬』を使えていれば、何の苦労もすることはなかった。だがセブルスにないと言われてしまえば、話はそこまでだ。私の勘ではセブルスが嘘を言っているようにも感じるが、それを今問いただす方が時間を取られてしまう。だからこそ、私は更に決定的な言葉をポッターから引き出すべく、次の手立てを早急に考え始めた。最終的に内容などどうでも良いが、決定的な情報であれば尚よい。

そしていよいよ『服従の呪文』や『磔の呪文』をも候補に挙げだした時、更にグレンジャーがとんでもない愚行を犯したのだった。

 

「そうだわ、『磔の呪文』を使いましょう……。これは正当な行為。あれを使えばポッターの口も、」

 

「アンブリッジ先生! そ、それは違法なことですよ! そ、そんなことをされるくらいなら、わ、私が正直に話します! だ、だからハリーに酷いことは!」

 

いかにも絶望的と言わんばかりの表情で、グレンジャーがそんなことを口走り始める。そういえば先程も決定的なことを話していたのはグレンジャーだった。やはり所詮は小娘。どれだけ大言壮語を吐いても、結局は恐怖に勝てないということだろう。

この世界は虐げられる側と、虐げる側の二択の人間しかいない。それをこの小娘もようやく理解し始めたということだろうか。

 

「ハ、ハーマイオニー! 君は一体何を、」

 

「ハリー、ごめんなさい! そ、それに皆も! で、でも私もう耐えられない! こんな()()を抱えておくなんて! ダ、ダンブルドアにも伝えられなかったし、もうお終いなんだわ!」

 

「だから君は一体何を、」

 

「お黙りなさい、ポッター。さぁ、ミス・グレンジャー! 貴女が話して下さるなら、私も文句はございませんわ! 貴女を特別に許してあげることも考えましょう! だから貴女のやろうとしたことを、私に早く話しなさいな! 貴女はダンブルドアと連絡を取ろうとしていたのよね! 今更嘘をついても駄目よ! 一体彼に何を伝えようとしたの! パッドフットとは一体何なの!」

 

私は大声を上げ始めたポッターを黙らせ、小娘の両肩を押さえつけながら尋問する。すると、

 

「パ、パッドフットは……そう、()()です。ダンブルドアに命じられて作った、魔法省に対抗するための武器です。アレは『禁じられた森』に隠してあるから……ダンブルドアにそれを伝えようとして」

 

小娘は私も想像していなかったレベルのことを言い始めたのだ。

私の僅かに残っていた理性が、予想を上回る事実に焼き切れる。これはチャンスどころの話ではない。本当に……本当にこれで全てを手に入れられるかもしれない。私は燃え上がった欲望のまま、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーナ視点

 

事の始まりはロングボトムに呼び出されたことだった。それも大広間で食事を摂ろうとしていたところをいきなり話しかけられ、

 

『ルーナ! そ、それにジニーも! よ、良かった! 僕、君たちに手伝ってほしくて! ハーマイオニーに言われたんだ! アンブリッジを見張ってくれって! 二人も一緒に! だから直ぐに来てほしくて!』

 

何だか意味不明なことを言い始めたのだ。あたしにとっても意味不明なのだから、周囲で話を聞いていた人達はもっと理解不能だったと思う。現に周りのレイブンクロー生は眉をひそめて、私とジニー、そしてロングボトムのことを見ていた。

でも、だからこそ、あたしは今この瞬間、本当の緊急事態が起こったのだと分かった。

グレンジャーに言われて、アンブリッジの監視。

その理由が何であっても、それが必要な事態が起こったということだ。それもあのハーマイオニー・グレンジャーの頼み。絶対に何かがある。あたしはただロングボトムに頷き、先を促しながら大広間を出た。そしてジニーも少し戸惑いながらもあたしについてきてくれるのを感じながら、ロングボトムに質問した。

 

()()()と戦う時が来たんだ。あたし達はどこに行けばいいの?』

 

DAという団体はもう無くなってしまった。でも、それでもDAが最初に作られた意味は、あたしの中ではまだ息づいてる。こんな明らかに不自然な状況で、ただグレンジャーに任せっきりにするのはどうかと思う。あたしはあたしなりに行動しなくてはいけない。それが明らかに何かが起こった今の様な状況ならば尚更。記憶することを許されたあたしは戦わなくちゃいけないのだ。

 

そう、戦わなくちゃいけなかったのだ。

……だというのに、あたしの戦いは一瞬にして終わりを告げることになる。

 

ロングボトムの呼びかけに即座に応えて、ジニーと一緒にアンブリッジ先生を見つけ出すまでは良かった。ジニーもDAの記憶こそなくても、戦う意味を十分に理解できてる。実力だって、DAでの練習が無くても上位だったように思う。だからジニーもついて来てくれたことが、あたしは少し嬉しかった。

でも、そんなあたし達が監視し始めた瞬間、即座にアンブリッジ先生自身に捕まってしまったのだ。

 

『あらあら、こんな時にグリフィンドール生と……レイブンクロー生が私に何の御用かしら? まさか私の監視ではないでしょうね? ポッターに何か言われたの?』

 

そしてそのまま問答無用に魔法で拘束され、先生の部屋に連れてこられてしまった。抵抗という抵抗も出来ないで……。実力で敵わなかったわけではない。最初から抵抗しなかったのだ。先生に魔法を使うという選択肢を、咄嗟に取ることすら出来なかったのだ。この先生は……間違いなく『例のあの人』に繋がっているというのに。

その結果が目の前の光景だった。

親衛隊のスリザリン生達があたし達を取り囲み、決してここから逃げられない様にしている。ポッターとグレンジャー、それにロナウド・ウィーズリーに至ってはアンブリッジ先生自ら尋問されそうになってる。とても逃げ出せそうにない上、今のアンブリッジ先生は興奮しきった様子で、下手な抵抗をしたら何をしでかすか分からない雰囲気があった。多分、生徒からの悪戯や、他の先生からのちょっとした嫌がらせに神経を高ぶらせてるんだと思う。だからこそ、やっとポッターの尻尾を掴んだと興奮しきっているのだろうか。

 

「そうだわ、『磔の呪文』を使いましょう……」

 

最終的にそんなことを呟き始めていた。

ポッター達が何に気付いて、何をこの部屋でしようとしたかはよく分からない。でもこの光景から考えると、あたし達同様、ポッター達も上手くいかなかったのだろう。この事態を打開出来そうなのは、DAメンバーの中で唯一アンブリッジ先生に存在を知られていないダフネ・グリーングラス。それに……ダリア・マルフォイだけだ。

尤もこの二人にも事態を打開するのは難しいと思う。グリーングラスもダリア・マルフォイも、グレンジャーこそ危険な目に遭いそうなら介入しくれるだろうけど、今尋問されてるのはポッターだ。立場が立場なだけに簡単に動けるとは思えない。

……あたし達がしようとしていたことは、結局何だったのだろう。あたしは目の前の光景をぼんやり見つめながら考える。

覚悟が出来ているつもりで、結局何も覚悟が出来ていなかった。状況は全てが全て『例のあの人』に都合のいいように進んでる。アンブリッジ先生の校長就任もその一つ。でもあたし達は焦ってはいけなかった。慎重に行動しないといけなかった。それも数名まで減ってしまったDAメンバーだけで。この部屋にいる人間がDA最後のメンバー。不安でないはずがなかった。でも、それでもあたし達は軽率な行動を取るべきではなかったのだ。

確かにホグワーツの中なんかではなく、もっと大きなことが外で起こる予感はした。そしてそれが今この瞬間、実際に起こったということなのだろう。でも捕まってしまっては何の意味もない。戦わなくちゃいけない時に戦えないのでは意味がない。

そこまで考えていた時、あたしの肩を掴んでいた親衛隊が力を強めたせいで思考が一瞬乱れる。

見上げると、そこには青白い顔をした男子生徒の顔があった。あのダリア・マルフォイの兄……ドラコ・マルフォイ。他の親衛隊は嫌な表情を浮かべている中、見上げたマルフォイの表情は、酷く苦しそうなものでしかなかった。親衛隊であるこの人がこの状況を喜ばない。別に不思議なこととは思わなかった。だってこの人にとっても、この状況は……。この人もあたし達と同じなのだろうか。戦う覚悟を決めても、それが決していい方向には運ばない。この人もきっと……。

しかしあたしの思考がまた別のことに移ろう前に、またもとんでもないことが目の前で起こり始めることとなる。

 

「アンブリッジ先生! そ、それは違法なことですよ! そ、そんなことをされるくらいなら、わ、私が正直に話します!」

 

予想もしていなかった事態。なんとグレンジャーが決して言わないようなことを言い始めたのだ。

最初、DAメンバーはあり得ないものを見る目でグレンジャーのことを見つめていた。ここに来て、突然裏切るような発言。今までのグレンジャーの言動からは決して考えられない。

でも、直ぐにその疑問自体は解決することになる。ポッターの制止を振り切り、グレンジャーは続けたのだ。

 

「ハリー、ごめんなさい! そ、それに皆も! で、でも私もう耐えられない! こんな秘密を抱えておくなんて! ダ、ダンブルドアにも伝えられなかったし、もうお終いなんだわ!」

 

その瞬間、DAメンバーの全員は再びグレンジャーに驚きの視線を送る。

だってそれは、

 

「貴女のやろうとしたことを、私に早く話しなさいな! 貴女はダンブルドアと連絡を取ろうとしていたのよね! 今更嘘をついても駄目よ! 一体彼に何を伝えようとしたの! パッドフットとは一体何なの!」

 

「パ、パッドフットは……そう、武器です。ダンブルドアに命じられて作った、魔法省に対抗するための武器です。アレは『禁じられた森』に隠してあるから……ダンブルドアにそれを伝えようとして」

 

あたし達にはどう考えても嘘だと分かる内容だったから。グレンジャーはこの絶望的な状況の中で、それを打開するための行動を取り続けていたのだ。

そしてそれは……おそらく()()()も同じなのだろう。

 

「禁じられた森に武器が? な、何を隠していたというの? それは一体何だというの!?」

 

「そ、それは……私達にも正直分からないんです。私達はダンブルドアの言う通りに作っただけで……ただすごく()()()()、ここに持ってこれるものではなくて」

 

何を考えているのかは分からないけど、あからさまな嘘を続けるグレンジャー。そしてどこかいつもの冷静さを無くしているのか、ただ騙され続けるアンブリッジ先生との会話に、

 

「……いいでしょう。ならば私を案内しなさい。私が直々にそれを確かめて、」

 

「おや、先生も行かれるのですか? なら、私も行きましょう」

 

突然酷く冷たい声音が響き渡った。

今度は親衛隊を含めた全員の視線が、部屋の中で静かに佇んでいたあの人に注がれる。皆の視線の先には、あの真っ白な容姿のダリア・マルフォイがいたのだった。

全員の視線に晒されても、あの人はいつもの金色の瞳と違い……何故か血の様な赤色に見える瞳をアンブリッジ先生に向けながら続ける。

 

「先生に護衛は必要ないと思いますが、万が一ということもあります。何しろ森の中では()()()()()()()不思議ではありませんから」

 

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