ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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この作品は群像劇です。


引き継ぎ……挿絵あり

ルシウス視点

 

 妻が息子のドラコを産んで2ヶ月。愛する妻ナルシッサ、そして初めてできた待望の後継との生活と、死喰い人としての仕事を両立させなければならない中、突然闇の帝王から呼び出しがかかった。

 当然の呼び出し。……褒美などを期待する程、私が身を置いている闇の勢力は生易しい場所ではない。内心、息子の誕生で疎かになりがちであった死喰い人としての仕事を叱責され、最悪の場合処刑されるのではないかと戦々恐々としていた。

 だが着いてみると闇の帝王の用件は叱責ではなかった。闇の帝王は何の前置きもなく、淡々と用件のみを口にされた。

 

「お前に渡すものがある。今すぐ俺様について来い。誰にも目撃されてはならん」

 

 そして帝王の言葉に戸惑いながら指示された場所に姿現しする。

 そこには暗い森の中に、ポツンと一軒の黒い屋敷が建っていた。

 

「帝王、ここは……?」

 

「ここは俺様が使っている闇の魔術の実験所だ」

 

 帝王は振り返ることなくおっしゃり、中に入ってゆく。

 そのまま脇目も振らず地下に降りていくと、雑然とした空間の中、真ん中に机がおいてあり、そこに一冊の本と、何故か白銀の髪が特徴の、異様に白さが目立つ赤ん坊が寝そべっていた。

 

「ルシウスよ。光栄に思うがいい。これらをお前に預ける。純血であり、俺様に最も忠実なお前を信用してのことだ」

 

 帝王はこちらを振り返り、厳かな口調でおっしゃられた。

 正直理解が追い付いているとは言い難い。だが私が今発すべき言葉は分かっている。私はただ反射的にまず感謝を述べ、それからなるべく帝王の機嫌を損ねぬような口調で尋ねた。

 

「あ、ありがたき幸せ。我が君の信頼に応えられるよう、この先も精進してまいります。……ですがこれらは一体?」

 

「……尤もな疑問であると認めるが、本のことはお前が知る必要はない。だがこれは俺様にとって非常に大切なものであるとだけ言っておこう。それを決して損なうな」

 

「は、はい。この身に代えてもこれを守り通してみせます。して、そちらの赤ん坊は……?」

 

 我が意を得たり。そう言わんばかりに帝王はニヤリと笑った。酷く嫌な予感がした。そしてその予感通り、帝王は想像も出来なかったことを仰り始めたのだった。

 

「これは俺様が創りだした、()()()()()()()()死喰い人だ」

 

 それは思いもよらないことだった。

 帝王の血? まさかご息女? 

 そんな話は聞いたこともない。

 

「帝王の血を……ですか?」

 

「そうだ。これは将来、俺様の片腕として、俺様の忠実なる死喰い人としてあれと、そう創りだした()だ。これは将来、お前たち純血の死喰い人の同僚として……いいや、お前達を統率する物として働くことになるだろう」

 

「そのような方を……」

 

「これは俺様がお前を信用して与えるものだ。これを見事、俺様に忠実な死喰い人として、お前の娘として育て上げるのだ」

 

 私は更に驚きを露にしながら応える。

 

「わ、私の娘……としてでありますか?ですが、この方は帝王のご息女では……?」

 

「造りあげる際、半分とはいえ俺様の尊きスリザリンにつらなる血を分け与えた。その点だけを考慮すれば、俺様の娘と言えなくもないのだろう。……が、そのような存在としてこれを扱うつもりなどない。偉大なるスリザリンに連なり、真に尊く、特別であれるのはこの俺様のみだ。これはお前の娘として育てるが良い。お前の家柄なら俺様には及ばないまでも、将来上に立つものとして扱うには不足はあるまい。働き次第では、これにも俺様の娘とはいかぬがそれなりの地位を与えよう。無論、これを育てたお前達マルフォイ家にもな……」

 

「あ、ありがたき幸せ」

 

事情を理解したとは言い難い。だが我が家のこれからの繁栄を約束して下さったことは確かなようだ。しかし安心した後、今度は別の疑問が生まれる。私は安堵感のまま、帝王にぶしつけとも思える質問をしてしまった。……尤も、返答は更に予想外のものでしかなかったのだが。

 

「失礼ながら、帝王と、どなた様のお子なのでしょうか?」

 

「む? ああ、お前が想像しているようなものではない。これは俺様が魔法で()()()()()()()()。まあ、血は男女のものが必要だったので、男は俺様を、そしてもう半分は俺様よりは劣化させるという意味で、配下の見た目のよさそうで魔力も高い吸血鬼のものを使っている。人工的に作り上げたとはいえ、魔法族としての機能は問題あるまい。今後問題が出てくるやもしれぬがな……」

 

 帝王の返答に、私は今日何度目かの驚きの声を上げてしまう。

 

「きゅ、吸血鬼でありますか? 亜人ではございませんか!?」

 

「そうだ。だがマグルや汚れた血よりは、はるかに上等なものだ。無論お前たち純血の血であればより()()()()が出来上がったであろう。が、それでは肉体に不死性を与えられぬ。その点吸血鬼は亜人とはいえ、弱点こそ多いが強固な肉体と寿命をもっている。血のつなぎとしてはうってつけだ」

 

「な、なるほど。ですがこの方は、吸血鬼としての生態をどれほど持つものなのでしょうか?」

 

 理解不能な存在である上に、亜人と言われて即座に納得など出来るはずがない。だが納得しきれてはいないが、私はその不満を横に退け、次なる疑問を帝王に尋ねる。家には妻が、そして生まれたばかりの息子がいるのだ。家族の安全のためにも、これだけは確認せねばならない。帝王のお答えによっては育て方を考えねばならないのだから。

 

「それは俺様といえども予想出来ぬ。お前が育てながら考えるしかあるまい。だが、俺様の血を半分は混ぜているのだ。いきなりお前の家族を吸血するということはあるまい」

 

 そうおっしゃられてもまったく安心しきることはできない。

 しかし、

 

「……了解いたしました。謹んで育てさせていただきます」

 

 結局のところ、私に拒否権などないのだ。

 だが、私の中にあるひと握りの疑念を見抜かれたのか、闇の帝王から急激に殺気を迸り立ち上り始める。

 

「なんだ、俺様の決定に不満でもあるのか?」

 

「いえ!!めっそうもありません!! 喜んでお育ていたします!!」

 

 私に出来ることは、もはや慌てて頭をさげることだけだった。

 

「……そう案ずるな。これが機能を開始して、一週間。今まで一度も血を求めたことはない。おそらく血は時折少量与えるだけでよいのだろう」

 

 そこで闇の帝王は、この話はこれで終わりだと出口に向かい始め、ふと地下室のドア前で立ち止まられる。

 

「そういえば、セブルスがもってきた情報にあった……()()()の所在はつかめたのか?」

 

「い、いいえ。奴が言っていた日に生まれ、なおかつ条件にあう子供は二名で、一人はロングボトムの家、そしてもう一つはポッターの家にございます。ロングボトムの家はわかっておるのですが、ポッターの家は未だに所在がつかめず……」

 

「……まあ、よい。おそらくポッターの家であろうな。引き続き捜索せよ」

 

「は! ですが、なぜその日に生まれた赤ん坊をお探しになっておられるのでしょうか……?」

 

「お前は知る必要はない」

 

ぴしゃりと不機嫌そうにおっしゃられたので、慌ててひきさがる。

 

「お前は引き続きポッター家をさがせばよい」

 

今度こそ話は終わりだと歩いていかれる。それに私は慌てたように白銀の赤ん坊と『()()()()()()』と書かれた本を丁寧に抱え、帝王についで姿くらましするのであった。

 

 

【挿絵表示】

 

 


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