ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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近くて遠い友人(後編)

 ハーマイオニー視点

 

「こんばんは、ダリア」

 

「……」

 

「貴女はきっと来ると思っていたわ。貴女にとって、今夜は()()の状態を再確認する最後のチャンスだもの」

 

私はそう言って、アンブリッジのいる区画を指さす。カーテンで閉め切られているため姿は相変わらず見えないけど、今朝の様子から真面な状態であるはずがない。こちらの声など聞いてなどいない。だから私は久しぶりに二人っきりになったことをいいことに、親友であるハリー達にだって出来ない話を始めたのだった。

 

「安心して。あの人は何も覚えてはいないわ。ずっとブツブツ何か呟いているけど、森の中で何があったかも、それこそどうして森に行ったのかも覚えていない様子だから。ダンブルドアの代わりに校長になっていたことも半信半疑の様子だったわ。……貴女が心配すべきことは何もないわ。これが知りたくて、ここまで来たのでしょう?」

 

あの女に関して、ダリアにこれ以上説明する必要はないと思った。ダリアならばここまで言えば、直ぐにでも私が何故彼女がここに来ると考えたか……そして彼女がアンブリッジに何をしたかを理解していると悟るはずなのだ。事実彼女は無表情ながら目を見開き、ただ驚愕している様子だった。尤も、彼女が本当に驚いているのは、どちらかと言えば私が彼女の行為を容認していることなのだろうけど。

私は黙り込むダリアに苦笑しながら続けた。

 

「意外かしら? 貴女も知っての通り、私はもう規則を絶対だと思っていないわ。そうでなけばDAなんて立ち上げようとも思わないもの。それにあの女がどうなろうと、もう私はどうも思わない。それだけのことをあの女はしたのだと思っているわ。だから貴女がやったことを、寧ろ手放しで褒めたいほどよ」

 

そう言った後、ダリアに隣のベッドに座るよう示したのだけど、彼女はただ私を見つめるばかりで座ろうとはしなかった。私はそんな彼女に苦笑しながら腰掛ける。いつまでも立っていると、私の方が緊張に耐えられなくなりそうだったのだ。

……ここまで何の気負いもないように振舞っているけど、本当は内心とても緊張していた。彼女との会話が久しぶりであることもある上、彼女には一方的とはいえ別れを告げられた後。自分と相手の立場も、既にこれでもかという程思い知らされている。そんな中こうして話すのは、緊張と同時に罪悪感も生じさせていた。

でも、私は話さなくてはならない。ここを逃したら……明日になれば、また私達は敵同士になってしまう。なら今日ここで話さなければならない。

 

「……怒っていないのですか?」

 

「え、何が?」

 

「……貴女の足を傷つけたのは私です。貴女が怒りを感じないはずがない」

 

それに彼女の誤解も解かなければならないから。私は彼女の言葉を慌てて訂正する。

 

「怒ってなんかいないわ! それは呪文を使われた時は痛かったけれど……でも、貴女があんな呪文を使ったのは、私を守ろうとしてくれたからだもの。実際そのお陰で私は命を落とさずに済んだ。私に貴女を責める権利なんてありはしないわ」

 

私は言葉を続ける。まずは前提条件を再確認しなければならない。ダリアが今回の件で一体何をしていたか……そして何を守ろうとしていたかを。

 

「そう、私に責める権利なんてありはしない。……でも、まずは最初から確認させてほしいの。間違った認識で話せば貴女に失礼だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

声を掛けられた時から予感はあった。彼女には……聡明なグレンジャーさんには、私がアンブリッジ先生に何をしたか見抜かれている。

あの時は時間が無かった故に、先生の記憶は老害が追放された日から丸ごと消し去った。それはDAに参加していたダフネの安全を確実にするため。私の行動を闇の帝王にも知られないため。そして私の秘密を隠すため。先生の私に対する態度がおかしくなった時期は覚えている。おそらく私の進路指導に同席した時には、既に私の秘密の一端を掴んだのだろう。が、全てを考慮すると丸ごと消した方が安全だと判断したのだ。

愚かにも先生は、誰も目撃者のいない森の中で私を挑発した。大方命の危機から解放され、一時的に何もかもが敵に見えてしまったのだろう。あるいは最初から私を含めた全てを見下していたか。いずれにせよ、怪物である私に口実を与えてしまうとは、何とも運のない人だ。素晴らしい立ち回りで魔法省と学校、どちらでも絶大な権力を手にしかけていた。正直私はその立ち回りに感心すらしていたというのに……最後の最後に先生は選択を間違った。しかし多少同情したとしても、家族の安全のためには()()()()犠牲になってもらわなくては。

消し去った期間は数か月にも及ぶもの。しかし時間が無かったことから、どれ程の効果を発揮したかを確認出来てはいない。だからこそ、私は最後のチャンスであろう今夜医務室に侵入したのだが……グレンジャーさんには全てがお見通しというわけだ。

彼女のことだ。先生の様子から『忘却術』を掛けられた可能性に直ぐに辿り着いたことだろう。そして私が何故そのようなことをしたか……私の肉体の秘密を隠すためとは分かっていないだろうが、私の今夜取るだろう行動は把握していたのだ。

素直に素晴らしい聡明さだと思う。彼女は森で私と同行したことから、他の人間より多くのヒントを得ることは出来た。だが彼女程手に入れた情報を的確に分析できる人間は他にいない。

こうして会話すること自体に罪悪感を感じているが、今この瞬間において単純に驚きの方が勝っていた。

しかし私が今晩医務室に来ることを予測していたことにも驚いたが、グレンジャーさんの聡明さは私の想像を更に超えたものだった。

 

「まず私が疑問に思ったことは……私達が先生達を探していた時、先生一人一人の近くに何故親衛隊がいたかということ。あの時はただ慌てるだけだったけど……後から考えれば違和感があったの。親衛隊の人間は、貴女やダフネを除いて勉強熱心な生徒はほとんどいないわ。なのにあの時、どの先生にも誰かしらの親衛隊が張り付いてた。よりにもよってOWLが終わったタイミングに。彼等の性格を考えると、そんなことはあり得ない。だから当然、誰かが彼等に指示を出したことになるわ。それが出来るのは、アンブリッジか……貴女だけ。でも、アンブリッジは私達がマクゴナガル先生に会おうとするまで、私達のやろうとすることは知らなかったはず。そうでなければ、私達を尋問した説明がつかない。マクゴナガル先生と会うのを邪魔した後、直ぐに親衛隊に指示を出したとも思えない。だから彼等に指示したのは……」

 

そこでグレンジャーさんは言葉を切り、更に考え込む仕草をとりながら続けた。

 

「そう考えると、別の疑問が湧いてくるわ。どうして貴女は親衛隊にそんな指示を出したのか。でも、その答え自体は簡単なものだったわ。貴女は私達が先生達に助けを求められない様にしたのね。そうすることで、私達が……ハリーが神秘部に誰の助けもなく行くように誘導していた。……『あの人』の目的を()()()()()だろう貴女だからこそ出来ること。ここまで間違いはあったかしら?」

 

間違いなどない。私は肯定もしなかったが、否定もしなかった。

ただ彼女が唯一見抜けていない点は、私がどうやって『闇の帝王』の作戦を知り得たかという点だ。

彼女はその部分を敢えて省いた。彼女は言った。私が『闇の帝王』の目的を()()()()()、と。無論奴が求めている物は疾うの昔に知っている。何せ夏休み期間中は一時的に『神秘部』への偵察もさせられていたのだ。目的の物を知らないはずがない。ただあの日、私は初めて奴が一体どうやって予言を手に入れようとしているかを知った……というより()()のだ。()の中で。

それはいつもの奇妙な夢だった。夢だと言うのに、異様な程の現実感。そして私ではない人間になる感覚。それも今回も闇の帝王その人に。

ただいつもと違う点は、それが現実ではなく……明らかにポッターに向けられた罠であった点だ。

言葉の端々に違和感があり、それどころか私に流れ込む『闇の帝王』の思考は、ただただポッターを誘導しようとしているもの。まるでポッターに向けた幻想。いつも見る夢とは一線を画していた。それがいつも通りの現実であれば、私としては無関心でいられた。シリウス・ブラックがどうなろうと、私にはどうでもよいことだ。

しかし、それが私の考えた通り『闇の帝王』の罠であれば話が変わってくる。正直直感でしかなかった。何か具体的な根拠があるわけではない。『闇の帝王』の思考が……私とポッターに流れ込んでいる? それに気づいた『闇の帝王』が、その繋がりを利用してポッターを誘き出そうとしている? そう考えれば夢の内容に説明がつくが、考えれば考える程荒唐無稽な話だ。しかし、そもそも私が奴の夢を見ること自体が理解不能な現象なのだ。それがポッターとも起こっていたとしても、私は完全に否定することなど出来ない。何より夢を見てから胸騒ぎが止まらなかった。何かが……何か決定的なことが行われようとしている。そんな予感がして仕方が無かったのだ。

だからこそ、私は駄目元とはいえ行動を起こした。今現在、お父様は予言を手に入れられないことで苦しい立場に追いやられている。どんなに多大な功績を残しても、一つの失敗で機嫌を損ねるのが『闇の帝王』。お父様を救うためには、()()()()奴の納得する成果を示すしかない。駄目で元々なのだ。少しでも可能性があるのなら、私が行動を起こさないわけにはいかなかった。

これこそが私が行動を起こした理由……『闇の帝王』の作戦を知り得た理由。それは流石のグレンジャーさんにも見抜けてはいない。彼女は私が予め『闇の帝王』から作戦を知らされていたと考えているのだろう。ただそれに言及すれば、私を責めることに繋がると考えたのかもしれない。彼女には私を糾弾する正当な権利があるというのに……どこまでも甘く、優しい人間性だ。

私はただ沈黙を以て彼女に応える。そしてその沈黙を肯定と捉えたグレンジャーさんは続ける。

 

「……でも、計画には思わぬ邪魔が入った。『あの人』の目的はハリーを『神秘部』に誘導すること。それを知らないアンブリッジがハリー達を拘束してしまった。アンブリッジとしてはハリーを学校から追放するチャンスだと思ったのでしょうけど、それは『あの人』の思惑からは外れたものだった。だからこそ、貴女は邪魔者を排除しなければならなかったのね。それと……私の保護も。私がアンブリッジを森に誘導した時、貴女にとってはまたとないチャンスだったはずだわ。アンブリッジが森の中に入るのですもの。森に入れば、そこで何があっても証拠隠滅は容易だわ。貴女程の実力があれば、どんなアクシデントにも対応できる。実際ケンタウロス達は予想外だったのでしょうけど、それでも貴女はしっかりと辻褄を合わせた。貴女は森の中でハリーをアンブリッジから解放すること、そのアンブリッジを排除すること……そして私を盤上から外すこと。それらの全てに成功してみせたんだわ。その後のことは私は伝聞でしか知らないけど……概ね貴女の思い通りに事は進めれたと言えるでしょうね」

 

表情こそ変わっていないだろうが、私は内心苦笑していた。グレンジャーさんの予想以上の聡明さに驚いたこともあるが、自分自身の行動のあまりの行き当たりばったりさに笑いが込み上げたのだ。

グレンジャーさんは全て私が思い通りに事を成したように話すが、実際のところ全て後手に回った事ばかりなのだ。概要は間違っていない。罠の可能性に半信半疑であったとはいえ、ポッターが実際に動き始めたことで確信に変わった。そこから先は()()()()私の目論見通りと言えるだろう。尤もその目論見をグレンジャーさんに見抜かれたわけだ。流石はグレンジャーさんと言える。しかし細かな部分において、私には感心される点など一つもない。

正直なところ、私はアンブリッジ先生がポッターを拘束した時、それはそれで問題ないと心のどこかで思っていた。夢を見た直後の思惑とは矛盾するが、初っ端から作戦が頓挫する可能性に直面し考えてしまったのだ。先生のせいで作戦が失敗したのならば、それは全て先生の責任ということになる。お父様が責められる要素は無い。それに全て『闇の帝王』の思惑通りに事が運ぶというのも、それはそれで気に食わなかった。だからこそ、二重スパイであるスネイプ先生が部屋に呼ばれた時、この作戦は失敗する可能性が高くなったとすら思った。先生は必ずポッターが陥っている危機を他の騎士団員に伝えるはず。ならば騎士団は必ず『闇の帝王』の邪魔をするはず、と。『闇の帝王』自らの杜撰さで失敗が確定した作戦に、いつまでも付き合う方が墓穴を掘る可能性があると考えたのだ。

しかし、後から思えばこの甘い考えが矛盾の始まりだった。私が負うべき家族への責任を放棄した、まさに唾棄すべき発想だとさえ言える。

グレンジャーさんがアンブリッジ先生を森に連れ出したことで、再び責任の一端が私に戻ってきたのだ。グレンジャーさんならばアンブリッジ先生の誘導に成功した段階で、先生を無力化することに必ず成功する。それがポッターが拷問された末の出来事であれば、既にスネイプ先生の報告も騎士団に届いていたことだろう。しかしグレンジャーさんの聡明さがこの点では仇となった。グレンジャーさんが迅速に機転を利かせたことで、ポッターが神秘部に間に合う可能性が再び出てきたのだ。まさか逆にグレンジャーさんを止め、アンブリッジ先生の方を野放しにするわけにはいかない。それは後で責任問題に発展する可能性がある。

結果的に私は次善の策を取らざるを得なくなった。つまり今度は森の中でアンブリッジ先生のみを排除し、更にグレンジャーさんを事態から除外すること。そんな後手に回らざるを得なかったのだ。そんな矛盾を抱えるくらいなら、最初からスネイプ先生のことすら邪魔すれば良かった。グレンジャーさんが騎士団に連絡したことはともかく、スネイプ先生の邪魔さえしていれば、もっとお父様の救援は楽になっていたことだろう。あの矛盾した、一時の気の迷いのせいでお父様は危険に晒され、最終的にはダンブルドアと対決する羽目になった。()()()逃げ切ることこそ出来たが、いらぬリスクを負ったことに変わりはない。そう後で後悔することになるが、考えても事態は目まぐるしく変わり続けていたのだから、あの時はそれが最善策だと思っていたのだ。アンブリッジ先生も最初は記憶を消すつもりなど無かった。これも成り行きとしか言いようがない。

……そしてネビル・ロングボトムとルーナ・ラブグッド。あの子達に関しても行き当たりばったりだ。ポッターが一人で『神秘部』に辿り着けるとは思えないため、誰かしら補佐をつける必要があるとは思っていた。その点で言えばダフネ達の行動は間違っていない上、彼等とダフネが敵対しないという点でも予定通りと言える。そうなることを予想もしていた。しかし、その末に彼らが危険に晒されることを私は当初認識、容認しながらも……最終的には容認しきれなかったのだ。

無論ダフネ達の心理状態を慮ってのことでもある。私とは違い、ダフネは優しい子だ。だからこそ彼女は共にDAを過ごしたネビル・ロングボトム達を助けると私は予想していたのだが、彼女自身はその行動の末に彼らが危険に晒されるとは思っていなかっただろう。未だ今回の詳細を知らせていないため、特にロングボトム達について思い悩んだ様子はない。しかし、彼女もいずれ知ることになるだろう。その時に優しい彼女が何を思うか。想像は難くなかった。彼女のためにも、私は魔法省に乗り込み直接事態を掌握する以外に選択肢は無かった。

全く度し難いことだ。自身の優柔不断さに嫌気がさしてくる。何もかもが中途半端に終わってしまった。最初から最小限の……家族とダフネのことのみを考え、他を全て切り捨てていれば。

しかし、当然今そんなことを悩んだところで何か変わるわけではない。もはや全てが手遅れ。私はこれからも今回の矛盾に整合性を付けるために行動しなければならない。『闇の帝王』に関しては何とかなりそうだが、気になるのはダンブルドア……。直接対峙した以上、何かしらの情報を与えてしまった可能性は高い。今も私が追放されていないことから、何か決定的な証拠を握られたとは思えないが……あの老害は何を考えているか分からない。

私は自身の愚かさに内心苦笑した後、今度はグレンジャーさんの言葉に応える。いつまでも黙っていても仕方がない。折角グレンジャーさんがここまで口にしてくれたのだ。今度こそ彼女に現実を突きつけねばならない。

私という怪物に二度と関わらせないために。

 

「……貴女の仰る通りです。もうお判りでしょう? ……私は決して貴女の味方ではない。貴女は足を傷つけられたことを怒っていないと言いましたね。えぇ、確かにその怪我で、貴女が『神秘部』に行かずに済んだことは確かでしょう。ですが、それだけです。私の目的は、決して貴女達の得になるものではない。……この際だからハッキリ言いましょう。私は貴女方の敵です。私はポッターを『神秘部』に導いた。それがどのような結果を迎えるかを知りながら。……シリウス・ブラック。貴女達の仲間だったそうですね?」

 

今度はグレンジャーさんの方が黙り込む番だった。今回の件で人が実際に死んだのだ。それが彼女と親しい人間であるのだからこの反応が当然。嘗て殺人犯として追われていた彼が実際は冤罪であり、今は『不死鳥の騎士団』に属していることは私も知っている。グレンジャーさんはまだ学生とはいえ、あのハリー・ポッターの親友。騎士団メンバーとの交流は少なからずあったことだろう。交流のあった人間が私のせいで死んだ、いや、()()()()。ショックでないはずがなく、尚且つ私をこの件に関して許せるはずがない。許していいはずがない。

それはグレンジャーさんも分かっているのか、先程までとは打って変わり黙り込む。先程までの勢いは当然なく、話し始めても随分歯切れの悪いものでしかなかった。

 

「……そうね。シリウスとは……私も親しくしていたわ。……ダフネにもそう言えば話していなかったかしら。あの人が無罪だと知ったのは、実は3年生の時なの。それに彼は……ハリーの名付け親でもあった。騎士団以外の場所でも交流はあったし、私も彼のことは好ましく思っていたわ。ハリーは特に……残された唯一の家族だったから。だからシリウスのことについて、確かに私は貴女の行動を……勝手に許すことなんて出来ない」

 

俯きながら話すグレンジャーさん。しかし、そこで彼女は顔を上げ、勢いこそないまでも私の無表情をしっかり見つめながら続けたのだ。

 

「彼が貴女の行動を知った時、彼が何を思うか……。きっといい感情を抱くはずがない。だからこそ、私は貴女のことを許すなんて言えない。それは貴女の言う通りだわ。……でも許せないとしても、やっぱり私自身としては貴女を責める気なんてなれない。貴女がシリウスを殺そうと思って行動したとは思えないもの。貴女はただ家族を守ろうとしただけ。それに彼の死を招いた責任は私やハリーにだってある。だから貴女に責任の全てを押し付けるのは、寧ろ無責任と言えるわ。……勿論ハリーにそんなことを言うつもりはないし、詳しい事情を話す気もないけど」

 

あまりの強情さに再び私は言葉を失う。一体彼女の強情さはどこから来るものなのか。私の言葉を理解できない愚か者であれば話は早いが、彼女がそうでないことは今しがた再確認させられたばかりだ。彼女は理解した上で、このような強情を貫き通している。それが不思議で仕方なく……同時に心のどこかで安堵している自身に苛立ちを覚えざるを得なかった。

許すとか許さないとかの問題ではない。現実に私達は敵同士であり、私の大切な人達の安全のためには敵を犠牲にしなければならない。それが偶々シリウス・ブラックだっただけであり、最悪の場合グレンジャーさんも……。それが私達に横たわる現実であり、私はそのためにあの監督生風呂で彼女に別れを告げたのだ。私の方が揺らいでどうするというのだ。

なのに、

 

「貴女は『死喰い人』であり、私の敵。えぇ、認めがたいけど認めるわ。貴女は大切な人のために、今後も誰かを……私を含めて誰かを犠牲にするかもしれない。でも、私はその現実を受け入れた上で言うわ。……私は絶対に貴女を()()()()()()()。貴女を必ず()()()()()()()()

 

何故グレンジャーさんはこのようなことを言うのだろう。……何故グレンジャーさんの言葉に、こんなにも心がざわついてしまっているのだろう。

ただアンブリッジ先生を()()しに来ただけだというのに、予想外の出来事に翻弄されてしまっている。

私は当初の計画を忘れ、ただただ自身の内面に翻弄されてばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

「何を……仰っているのですか? 私を助ける? 意味が分かりません。私は助ける側であり、助けられる()()ではありません」

 

私の言葉に対する返事は、そんな拒絶を表すものだった。

無表情でこちらを見つめるダリア。暗闇の中でも浮かび上がる彼女の顔は、どこまでも綺麗なものでありながら、そこに何の感情も映し出していないように見える。

……でも、私には分かる。彼女は表情こそいつも通り無かったけれど、瞳は今も寂し気に揺れ動いていた。

彼女は紛れもなく……誰かに助けを求めている。そう私には思えて仕方が無かったのだ。

 

「……今はそれでいいわ。いいえ、私は別に貴女の答えを期待しているわけではないの」

 

私はダリアがここに来ることを予測し、彼女の来訪を待ち構えていた。それは彼女の行動を肯定や否定するためではなく、ただ彼女に告げたかったのだ。

私の覚悟を。現実を認識して尚、私が求める結果を。私はそれを彼女に告げるために、医務室でただ黙って待ち続けていたのだ。

私の行動が正しいか間違っているか。そんなことを問われれば、私を含めて誰もが間違っていると言うだろう。ハリーは唯一の家族を失った。その一つの要因と言えるダリアを勝手に許すなんて、本来なら間違っているとしか言えない。そもそもハリーはダリアのやったことを知らない。彼が彼女の所業を知れば何を考えるか、想像するまでもなかった。

でも私は最終的には選んでしまったのだ。ハリーに真実を告げないことを。ハリーが真実を知らず、ただ自分のみを責めることを。これを間違いと言わずに何というのだろうか。

それでも、私は自身の選択を後悔するつもりはない。ダリアはずっと私のことを守ってくれていた。今回のことも、彼女なりに私を守ろうとしてくれたのだ。そんな彼女を私の方が見捨ててどうするというのだ。

それに私はハリーやロンと同じく、ダリアのことも友人だと思っているから。ダフネにダリア。寮はグリフィンドールにスリザリン。ダリアに至っては敵の陣営に属してすらいる。でも、私にとっては彼女達も大切な友人なのだ。

どんなにダリアに否定されようとも、私はこの感情だけは決して捨ててはならない。現実はどこまでも残酷で、私一人の力で抗えようもない。でも友人を助けたい。どんなに困難な状況であったとしても、この思いだけは変えることは出来ない。

そんな自分の気持ちを再確認した時、私はようやく目を覚ますことが出来た。今まで悩んでいたけれど、気が付けばこんなにも簡単なことだったのだ。

私は今までずっと悩んでいた。彼女が敵である現実を。この現実が変わることがないことを確認し、その事実に日々打ちのめされ続けていた。どんなに望んでも、彼女は私の味方になることはない。彼女が大切な人を守るには、どんなに辛くても『あの人』の下にいるしかない。その大切な人が、他ならぬ『あの人』の下にいることを望んでおり……その上裏切ればどうなるか、彼女は知っているだろうから。彼女が私の側に来てくれる可能性は、私がどんなに頭を悩ませても見出せなかった。そんな答えのないことに延々と悩んでいたのだ。

でも、遂に戦いの最中に人が殺されたことで……いよいよ私が覚悟していた以上の事態が発生したことで、私はようやくこれが戦争であることを体感し、本当に考えるべきことに気が付くことが出来た。

結局のところ、私には延々と悩んでいる暇なんて無かったのだ。益体の無い思考に捕らわれている間にも誰かが死んでいく。それは今回はシリウスであり、今後は知らない誰かかもしれないし、彼よりもっと親しい人かもしれないのだ。変わりようのない現在に捕らわれ続けている場合ではない。本当に誰かを救いたいのなら、今は前に進むしかない。

だからこそ、私は現在に悩むことを止めた。止めざるを得なかった。彼女が敵だとか味方だとか、そんなことは後から悩めばいいことだ。私はただ彼女を救い出したい。このどこか不器用で、皆に誤解されがちな女の子を。暗闇に取り残され悲しい思いをしているのに、そこだけが自分の居場所だと信じ込んでいる友人を。私はその単純な気持ちを忘れなければいいだけだっのだ。今は違う陣営……たとえ敵であっても、この気持ちさえあれば最後には正しい結果に繋げられるはず。

だから私は決意を新たにし、再びダリアの揺れる瞳を見つめた。

 

「待っていて。私は必ず貴女を助けるわ。たとえ時間がかかろうとも貴女を私は諦めない。貴女は……どんなことがあろうとも、私の友人だから。私は今日、貴女にそれだけを伝えたかったの」

 

ダリアからの応えはない。ただ()()()()()()()()()()()視線で私のことを見つめるだけ。それどころか彼女は私の瞳を見つめた後、黙ったまま踵を返してしまった。もうアンブリッジのこともどうでも良くなったのだろうか。ただ黙ったまま、医務室から来た時と同じく音もなく去ってしまう。それは彼女の拒絶の意思でもあったのだろうけど……私には、やはり去り行く彼女の背中が助けを求めるように、寂し気なものに見えて仕方が無かった。

 

 

 

 

彼女はもう……本当の意味で後戻りできなくなってしまった。もう彼女にとって、私といる時間は苦痛でしかない。私の言葉は彼女にいらぬ期待感を与えてしまっている。それはどうしようもない事実。彼女が私の味方になることは、『あの人』がいる限りあり得ない。

でも、今はそれでいい。そんなことを今悩んでいても仕方がない。敵であっても、彼女が優しい女の子であり、私の大切な友人であることに変わりはない。私のすべきことは何も変わらない。

これが私の答え。ダフネやドラコとは違い、私もダリアとは反対の陣営にいることしか出来ない。だからこそ辿り着けた答え。これがただの妥協や諦めだとも分かっているけど、これが私がダリアを救える唯一の方法でもあるのだ。

先程まで近くにいたのに、()()決して手が届かない友人。言葉こそ交わせても、私達の間には厳しい現実が横たわり続けている。でも、私はいつか絶対に……。私は静かになった医務室で、ただダリアの消えた扉を見つめ続けていた。

 




次回、時限爆弾を連続爆破
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