ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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閑話 危険な陰謀

 ボージン視点

 

自分で言うのは情けない限りだが、私の店はそう大きな店ではない。

揃えている商品はそれなりのものだ。ノクターン横丁は闇の道具に満ち溢れているが、その中でも一級品と言える物がここにある。

だが、一級品があるからと言って、この横丁の中で上位の店かと言えば違うのだ。他にも上質な道具を売る店はいくらでもある。横丁の中では中の上。低級ではないが、一流でもない。それがこの店の横丁での立ち位置だった。更に言えば、その中の上の立場になったのもつい最近のことだ。昔は更に下だった。それこそ一級品など望むべくもない程に。

少しずつ物が集まり始め、顧客に信用されるようになったのはいつ頃だろう。元々父親とその友人が造った店だが、最初はそれこそ何も無い店だったらしい。ただちゃちな闇の道具を売り買いするだけの、ノクターン横丁では最底辺の店。正直いつ潰れてもおかしくなかったとのことだ。潰れても誰も気にしなかっただろう。それが曲りなりにも私の代まで継がれたのは、()()()()がバイトに入ったからだという。バイトなど雇う余裕などないのに、()()()()()()()()父親はその青年を雇っていた。そして何より、青年は自ら望んで雇われ、安い給料にも文句ひとつ言わなかったのだとか。それだけならば、ただ変わり者もいたものだと思うだけだ。だが不思議なことに……その青年が入ってからというもの、不思議と多くの闇の道具が集まるようになったらしい。それも上質な品が。それまで手に入れるとは夢にも思わなかったような品が。青年が純血貴族を訪ねると、何故か皆代々受け継いできた品を差し出してきたらしい。

……まるで持ち主が青年に()()するかのように。

それが何故なのか、父は終ぞ語ることはなかった。父親が言うには、青年の顔は非常に整っていたらしい。それこそ貴族のご婦人方を夢中にさせる程。実際何人かの貴婦人は、はした金とも思える金で一級品を売り渡してきたらしい。だが果たして顔だけが理由だったのか。何かもっと……もっと恐ろしい理由があったのではないか。私達が売る闇の道具より恐ろしい何か。不安や恐怖を口にしても、父はそれ以上の言葉を語ることはなかった。闇の道具を扱っているくせに、父はその青年を最後まで恐れていた。それこそ青年が何も言わずに店から消えた後も。

尤も、その青年のことなど知らない私にはどうでもよい話だ。事実青年が消えた後、この店は再び何の取柄もない店の一つに逆戻りした。私からすれば、何故そんな金蔓を取り逃がしたのか責めたくもなった。お陰で私の代で再び店の切り盛りに苦労する羽目になったのだ。文句の一つも言いたくなって当然だ。

 

だが……今の私はもう父に文句を言うつもりなど毛頭ない。

何故なら今の私は……父と同じく、目の前の御方にとてつもない恐怖を感じているのだから。

 

「こ、これはこれは、()()()。きょ、今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

私の目の前に、一人の少女が……いや、少女の皮を被った()()が佇んでいる。闇の道具が所狭しに置かれている中、一見()()は酷く場違いな存在に見えるだろう。白銀の髪や陶器の様な白い肌に汚れは何一つなく、その存在自体がまるで著名な絵画の様に美しい。

だが、そんな美しい姿に見惚れるのもその瞳を見るまでの話だ。

 

「……えぇ、いつもの物を買いに。用意はありますか?」

 

その瞳は美しくありながら、どこまでも冷え切ったものだった。まるで全ての生物を、そこらの石ころだと思っているかのように。物腰こそ丁寧だが、私には彼女の瞳が恐ろしくて仕方が無かった。

何の前触れもなく現れた彼女をなるべく見ないようにしながら、私は彼女との出会いを思い出す。

初めて会ったのは随分昔のことだ。今まで付き合いなど無かったマルフォイ家が、突然この店との取引を持ち掛けてきたのが始まりだった。『聖28一族』筆頭であるマルフォイ家。その当主であるルシウス・マルフォイが突然店を訪ね、今まで聞いたこともない注文をしてきたのだ。

 

『これから君の店で……()()使()()()()を取り寄せてもらいたい。定期的にな。代わりと言っては何だが、この店で他の取引もすることにしよう』

 

今思い返せば、ルシウス氏は取引を秘密裏にするために、当時何の取柄もない私の店を選んだのだ。それこそノクターン横丁の住人すら見向きもしないこの店を。そしてそんな店を援助することによって、私が決して彼を裏切らない様にしたのだろう。

実際その目論見は成功と言える。あのマルフォイ家と取引が出来るのだ。どんな危険な香りのする取引でも、ここでチャンスを逃すわけにはいかない。何とかのし上がりたいと考えていた私は、何の迷いもなくその取引に飛びついた。魔法使いの血など、違法な手段で取り寄せる他なかったが……その見返りは確実にあると考えたのだ。

それからというもの、私の店は着実に成長している。私は賭けに勝った。少なくないリスクを孕んでいるのは間違いない。未だに取り寄せた血液が、一体何に使われているかも分からない。だがマルフォイ家は店の取るに足らない商品も購入し、時に一級の品を売り渡して下さる時もある。店の許容範囲を超える売却を持ち掛けられる時もあるが、今の地位に成長できたのは、確実にマルフォイ家のお陰と言っていいだろう。だからこそ、私はマルフォイ家に感謝ばかり感じていたのだ。

そう、ルシウス氏の長女たる……ダリア・マルフォイ様にお会いするまでは。

ある日、突然ルシウス氏が一人の少女を店に連れて来た。まだ幼い少女だった。年頃は6歳頃だったか。とにかく、あまりにも店に不釣り合いであり、そもそも何故このような危険な道具が満ちた場所に、ルシウス氏がこのような少女を連れて来たのか全く分からなかった。

だが、不審に思いながらその少女の顔を見た瞬間、感じていた違和感は即座に消え去る。その少女は完全な無表情で……目の前に立つ私のことにも無関心のようだった。それだけならば生意気な餓鬼だと思うだけなのだが、私はその表情に異様な恐怖感を感じたのだ。まるで魂からこの少女のことを恐れているように。云わば闇の道具を取り扱う商人の勘だったのかもしれない。危険だと心のどこかで分かっているのに、視線が妙に引き寄せられる。ある意味で私が扱っている道具と同じ香りがしたのだ。

何より、どこか思い起こされたのだ。何年も前にいなくなったはずの御方を。魔法界を恐怖で支配しかけた、この世で最も偉大且つ恐ろしい御方を。

ただの小娘であるはずの少女が、『例のあの人』と同種の空気を醸し出していた。

そしてその勘は決して間違ったものではなかったのだ。

 

『ボージン君、紹介するよ。我がマルフォイ家の長女。ダリア・マルフォイだ』

 

『……はじめまして、ボージン氏。いつも大切な商品で()()()()()()()おります。これからも頼りにしております』

 

何気ない言葉だったが、考えれば考える程おかしなものだ。

闇の道具しか売っていないのだから、当然マルフォイ家が買うのも呪われた商品だ。それが何故世話になっているという話になるのか。何より彼女が手に付けていたのは、先日売却した呪われた手袋だ。あれは決して人が身に着けていいような物ではない。本来であれば身に着けた人間を衰弱死させるようなものだ。それをあんな平然とした表情で。私の勘が正しければ、定期的に購入されている血液も……。

可憐な見た目と、肌で感じる異様な空気が一致せず……常に奇妙な違和感と恐怖を感じる。マルフォイ家の長女である以上に、何から何まで恐ろしくて仕方がない少女だった。理性ではなく、感情や魂から恐怖を感じる。彼女のお陰でこの店がある程度繁盛しているのだとしても、この恐怖感は拭い切れるものではない。青年を恐れていた父のことを馬鹿にすることなど出来はしない。

 

「いつもの物を買いに。用意はありますか?」

 

「え、えぇ、勿論です、お嬢様。いつもの……例のものですね。いつでも準備させていただいております」

 

「……それはそれは。いつもお世話になります」

 

今もそうだ。目の前の少女に対する恐怖感は年々増すばかりだ。目の前の存在に違和感ばかり感じる。例えばその()()()。本来ならば年頃の少女だ。年々見違える程成長するのが普通だろう。だが、彼女は一切()()()()()()()。まるでその状態が完成形と言わんばかりに。異様な空気を垂れ流しながらも、どこか幼さを残した容姿。少なくとも同じ人間ではないのだろう。私の様な俗物が同レベルで語ってはいけない存在。それが彼女に対する一貫した私の印象だった。

私は手の震えを何とか抑え込みながら、瓶に入った血液をお嬢様に手渡す。今日はルシウス氏と共にいないことに疑問も感じるが、考えればそれも当然のことだろう。ルシウス氏は『死喰い人』であることが露見した。アズカバン送りになってこそいないが、表を堂々と歩けるような立場ではなくなった。それに対して、お嬢様は少女でありながら『闇の帝王』の右腕。表立っては知られていない事実だが、裏の世界を生きる我々はある程度の情報を掴んでいる。そんな御方に危害を加える愚か者がいるはずもない。誰もこんな危険な存在に手など出したくないはずだ。

一刻も早く帰ってくれ。それが正直な私の思いだった。感謝は勿論あるが、怖くて仕方が無いのだ。ありがたいことに、商品を受け取った彼女はそのまま出口に向かって歩き始める。

溜息を噛み殺しながら、少女の皮を被った何かの後姿を見る。相変わらず後姿はただの幼い少女にしか見えない。だがその事実が何よりも恐ろしかった。

……それなのに、

 

「……あぁ、そういえば、もう一つ聞きたいことがあったのでした」

 

出口の手前で、()()は僅かに振り返りながら続けたのだった。

 

「つい先日、ここに()()()が来ませんでしたか?」

 

恐怖で背筋が凍る。

()()()()()()ことは分かっていた。先日来たマルフォイ家の息子は開口一番に告げた。

 

『僕はあの御方から命令を受けた。ダンブルドアを殺す……僕は必ずやり遂げねばならない』

 

子供の戯言と断じるには、些かマルフォイ家の事情は複雑すぎる。半信半疑ではあったが、大人しく従った方が身のためだ。そう判断し、彼の求める情報は話した。彼の言いつけ通り、誰にも情報は話さなかった。言われなくとも喋るつもりなどないが。誰が話すものか。私は一介の魔法具売りでしかない。巻き込まれてたまるものか。誰にも話さなければ、少なくとも私はただ道具を売っただけ。巻き込まれてはいるが、ある程度無関係でいられる。そう考えていた。

だが、私は今選択を迫られている。答えによっては重大な結果をもたらす可能性がある。若様は誰かに話せば必ず報復すると言っていた。特に妹には話すなと。何故妹に隠すのかは分からないが、話したことでどのような影響が出るのか。ある程度情報を掴んでいても、闇の勢力のことを隅から隅まで知っているわけではない。裏でどのようなことが起こっているのか分からない以上、報復が無いと言うことは出来なかった。

 

「その表情は……どうやらお兄様は来たようですね。そして口止めをされた。そんなところですかね」

 

しかし私に与えられた時間はそう多くは無かった。何が起こるか分からないが、それ以上に目の前の怪物の方が恐ろしい。

私は恐怖に耐えきれず、震えながら応えるしかなかったのだ。

 

「じ、実は……」

 

 

 

 

求められるままに答える。若様が話した言葉。何を購入されたか。道具にどのような効果があるか。……そして、若様のことを嗅ぎまわっていたと思しき()()の事。

恐怖に震えながら、私はただ急かされる様に話すしかなった。

 

何故なら、こちらを見つめる……あの冷たく光る()()()が恐ろしくて仕方が無かったから。私が売る血液より紅い瞳は、私のことを同じ人間とは見なしていなかったから。

 

私は一体、どれ程恐ろしい事態に巻き込まれてしまったのだろうか。私は恐怖感の中、そればかりを考えていたのだった。

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