ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
感想よろしくお願いいたします。
ドラコ視点
「ドラコ……ケイティ・ベルは無事だったよ。念のために『聖マンゴ病院』に移るみたいだけど、命に別状は無いって」
「そう……か」
薄暗い談話室の中で、僕はダフネからの報告を聞いていた。
ケイティ・ベルの安否について、僕からダフネに尋ねたわけではない。僕から何か頼むまでもなく、ダフネはただケイティ・ベルの情報を集め、僕に知らせてきたのだ。
無論、僕にも情報の出どころは分かっている。ダフネのグリフィンドールの情報を聞き出す伝手など、一人しかいない。
ダフネがケイティ・ベルのことを尋ねただけで、
僕がやったのだ。僕がケイティ・ベルを……殺しかけたのだ。
「どうして……どうしてこんなことをしたの、ドラコ?」
「……」
今更僕の目的について、ダフネが質問しているわけではない。どうして僕がこんな杜撰で衝動的な行動を取ったのか。それをダフネは聞いているのだ。だがそれを分かっていたところで、僕は咄嗟に質問に応えることが出来なかった。何故なら僕も、何故自分がこんな軽率なことをしたか分からなかったからだ。
最初はただの思い付きだった。僕の手元にあった手札は2つ。1つはそれ自体に殺傷能力は無く、いざと言う時援軍を呼ぶ手段でしかない。そしてもう1つが、今回使ったネックレス。購入したは良いが、正直どちらも使いにくい道具に違いなかった。手元にいつまでも置いておける代物でもない。ネックレスはただ触れるだけで相手を呪う物だが、そもそもダンブルドアに直接これに触れさせるのは、僕には到底無理なように思えた。ならばコレは僕の武器ではなく、寧ろ僕の邪魔にしかなっていない。
だからこそ、僕はネックレスを言わば
僕がダンブルドアに直接ネックレスを渡すことは出来ない。だが、奴が贔屓するグリフィンドール生ならばどうだ。本当は教員を使うのが一番いいが、それは実力的に不可能に近い。スクイブであるフィルチも考えたが、グリフィンドール生の方がダンブルドアに辿り着く可能性が高いように思えた。
それに、今回のことが失敗に終わったとしても、もしかしたらある程度陽動に使うことが出来るかもしれない。暗殺手段は、別に呪いの道具に限ったものではない。それこそ僕が取れる手段であれば、毒物の方が遥かに入手しやすい。ならばダンブルドアが呪いを警戒している間に、今度は毒薬を他の誰かから届けさせ、奴に飲ませることも可能になるのではないか。
そうだ、それはいい考えだ。成功するに越したことはないが、成功する可能性はあまり高くないだろう。だが何もしなければ、ただ時間だけが過ぎ去ってしまう。今回行動することで、何かしらの経験を得ることは出来る。失敗ならば失敗で、それが何故失敗したかを考えることが出来る。その対策を考えて行けば、自ずと次の計画を立てやすくなるはず。
……今思い返しても、どうしてこんな馬鹿な発想に飛びついたのか理解不能だ。
決断してから、実行は迅速だった。まずはアリバイ作り。どうせグレンジャーには疑われるが、教員やダンブルドアに疑われるわけにはいかない。だからこそ、僕はまずスラグホーンの教室からポリジュース薬を盗み出した。スネイプと違い、スラグホーンは教室にいることは殆ど無い。生徒や教員達の下に繰り出し、人脈作りとやらに注力している。最初の授業でポリジュース薬が教室内にあることも分かっている。だから魔法薬を盗み出すこと自体は、それ程難しい事ではなかった。
条件は揃った。僕は丁度風邪で寝込んでいたパンジーに成りすまし、ホグズミードに出かけた。『元気爆発薬』を飲むことが嫌で、あいつは医務室ではなく寮で休んでいる。僕は記録上、ホグワーツに残っていることになっている。ホグワーツよりホグズミードの方が監視の目は少ないはず。そして何より、この日は天気が荒れ模様であり、ダリアもダフネもホグワーツに残っていた。ホグズミードで起こった出来事であれば、僕だけではなく、何かと疑いを持たれやすいダリアのアリバイも作ることが出来る。僕はパンジーとして『三本の箒』のトイレに潜み、適当なグリフィンドール生が来るのを待っていた。
そして、たまたま最初にやってきたのが……ケイティ・ベルだった。
僕はあの女のことを殆ど何も知らない。知っているのは、奴がクィディッチのチェイサーであるということだけ。奴の人柄も、奴の交友関係も。僕は何も知らない。
だが、グリフィンドールというだけで、僕は彼女に『服従の呪文』をかけた。ここまで全て上手くいっていたが、今後も上手くいくとは限らない。こんなチャンスが何度もあるとは限らない。ポリジュース薬もいつまで効果があるか分からない。これ以上待っていても、他のグリフィンドール生が来るとは限らない。だから僕は真っ先に目についた、ケイティ・ベルに呪いをかけた。
『服従の呪文』をかけること自体に、当初全く抵抗感は無かった。この呪文は『許されざる呪文』だが、僕は別にこいつを殺すわけではない。ただネックレスを、ダンブルドアの下に届けるよう指示しただけ。成功すれば殺人の片棒を担いだことになるが、『服従の呪文』にかかっていたと分かれば、彼女が罪に問われることはないだろう。
だから、僕はただ成功するか否かを観察していればいい。どうせダンブルドアに辿り着く前に、おそらく他の教員に見つかるなりして失敗するのだろう。が、その原因からまた次の計画を練ればいい。
僕はそう考えていたのだ。
結果、ケイティ・ベルは死にかけた。
僕が全く予想していなかった、本人が誤ってネックレスに触れるという結果で。
……その時から、手が震えて止まらない。勝手に呼吸が早くなり、ケイティ・ベルの安否以外の何も考えられない。名前以外知りもしなかった、ただ一人のグリフィンドール生のことを。
ダリアとダフネに連れられ、大広間で食事こそ摂ったが、何を食べたかすら全く覚えていない。こちらを見るグレンジャーと……
そこに僕が呪いをかけた生徒の姿があることを祈りながら。死にかけたと聞いたが、実は無事であったと、元気にそこで食事を摂っているのだと、何とかそう信じたかった。
だが、結局ケイティ・ベルの姿はどこにもなく、大広間全体が突然の事件に噂話を交わしているだけだった。僕のしでかした現実は、決して変わることがなかった。
何人かが僕のことを心配して声をかけてきた気がするが、僕は誰が声をかけてきたのかも覚えていない。返事も碌に返せなかった。ダフネは大広間から寮には帰らず、僕を連れて帰ったダリアも、僕に何か言葉をかけたりはしなかった。ただ僕を支えながら寮に連れ帰ってくれた。その間も、僕にかける言葉は無かった。そして皆が寝室に戻った後、ただ談話室のソファーで蹲る僕の傍に、やはりダリアは黙っていてくれている。
ダリアは分かっているのだ。今の僕に必要なのは、あのグリフィンドール生がどうなったか。その情報しか、今の僕を救うことが出来ない。
そして無言の中、ダリアは言外にこうも言っているのだ。
お前は人を殺しかけたのだ。……殺人とは、こういうものなのだ、と。
その行為を簡単に考えているつもりは無かった。
それを軽々しく為すことは、ダリアの苦悩を軽んじることに繋がる。ダリアは常に悩んでいた。殺人とは何か。殺人を為せば人はどうなるか。その殺人を目的に作られた自身が、一体どういう存在なのかを。この僕がその疑問を蔑ろにしていいはずがない。まだ答えはない。そもそも答えなど無いのでは……そんなことも最近考えてしまっている。だが、決してこの殺人という行為を軽々しく考えてはいけない。それだけは分かっていた。いや、分かっているつもりだったのだ。
そしてそんな僕の浅はかさを、僕は今身をもって味わう羽目になっている。それは結局、ダフネから最終的にケイティ・ベルの生還を聞いても変わらない事実だった。
「僕にも分からない……。あの時は、これが最善だと思っていたんだ。だが……全く僕はとんだ大馬鹿者だ」
ケイティ・ベルは生きていた。その事実を聞いた瞬間、僕は溢れる涙を抑えることが出来なかった。涙を流しながら、震える手を押さえつける。だが、安堵を感じる自分に更に絶望する。現実は何一つ変わっていない。確かにケイティは生きていた。だが、僕がそもそもこんなことをしでかす原因となった現実は、少しも変わっていない。僕は結局、成し遂げならないのだ。ダンブルドアを殺す。その過程に何が起ころうとも、誰が犠牲になろうとも、僕は成し遂げねばならない。家族のため、そして……愛するダリアのために。その現実は何も変わっていない。
ただ一人の女生徒を殺しかけた。
だから、
「お兄様。これでお判りになったはずです。お兄様には……人を殺すことなど出来ない」
ようやく声をかけてきたダリアに、僕は咄嗟に反論することが出来なかった。
「これはお兄様を責めているわけではありません。人を殺すことが出来ない。それは人として優れた資質です。お兄様は直感的に分かっている。人を殺すことの恐ろしさを。その恐ろしさを知らず、考えることも出来ない『死喰い人』や……それを楽しむことが出来る
ダリアの言葉を、僕は黙って聞いていた。ダリアは話しながら、僕の震える手をそっと撫でてくれている。黒い手袋越しに、ダリアの体温を感じる。それが愛しく、それだけのことに安心感を覚える自分に……やはり僕は深く絶望した。
「だからお兄様……お母様の仰る通りです。
ダリアは僕を優しいと言ってくれている。だが、その優しさとやらが何の役に立つというのだろう。僕はこんなことで立ち止まっていいはずがない。ケイティの安否に、本来なら一喜一憂していいはずがない。僕はやらなくてはならないのだ。殺さなくては……僕などよりもっと優しい、ダリアがその罪を代わりに背負ってしまう。
ダリアは隠しているつもりだろうが、ダリアは今……ダンブルドアへの感情を変化させつつある。以前はただ奴への殺意を漲らせていたが、
その証拠に……ダリアは今、とても苦しそうな表情を浮かべていた。まるで殺すことを躊躇うように。
だが、そんな心情の変化に関係なく、ダリアはダンブルドアを結局は殺すだろう。殺せてしまうだろう。
ただ僕を守る。ただそれだけの理由で。ダリアは殺人への恐怖を乗り越えてしまう。敵としてではなく、おそらくダンブルドアを一人の人間として認めながら。
そんなことが許されていいはずがない。これは僕が負うべき罪なのだ。なのにこんな……こんな所で蹲っている僕が、優しい人間であるはずがない。僕はただの臆病者で、大馬鹿者だ。
それが分かっているのに、やはり僕は安堵感に涙を止めることすら出来なかった。
ハリー視点
「マルフォイだ。マルフォイがケイティにネックレスを渡したんだ。それ以外に考えられない」
大広間で夕食を摂りながら、僕は確信を持って言う。あまりに衝撃的な事件に出くわしたせいで、ロンを含めて気まずい空気は僕達三人の間から消え去っていた。
ケイティは偶々通りかかったハグリッドによって、医務室にそのまま送られた。少しでも遅ければ助からなかったらしいが、ケイティは九死に一生を得た。ハグリッドから聞いた話では、マダム・ポンフリーも命に別状はないと言っていたそうだ。ただ後遺症もあるため、『聖マンゴ魔法疾患障害病院』に移されると。本当にケイティが助かって良かったと思う。でも、この事件の犯人は、まだ捕まっていない。
「何故マクゴナガル先生は、マルフォイを捕まえてくれないんだ? 僕達は見たんだ。ドラコがボージン・バークスであのネックレスを購入するのを。それだけで十分な証拠のはずだ! 何故それなのに……」
この事件の犯人は、ドラコ・マルフォイだ。それを僕は確信していた。根拠は奴こそが、今回ケイティを呪ったネックレスを買っていたこと。僕は以前、ボージン・バークスに迷い込んだ際、あのネックレスを実際に見ている。包みから覗いていたオパールのネックレスは、あの時見た物と全く同じだった。そして今年、僕等はあいつがあのネックレスを購入しているのも見ている。これであいつを疑わない方がどうかしている。
なのに、それをマクゴナガル先生に伝えても、あまり芳しい反応は無かったのだ。何故なら、
「……でも、マクゴナガル先生の仰ることも一理あるわ。確かに私達はドラコがアレを買っているのを知っている。でも、実際にそれをドラコが持って行ったところを見ているわけではない。買うと言って、実際には買っていないかもしれない。私達の証言だけで、ドラコを犯人と先生達は断言出来ない。それは間違っていないわ。何より、先生は確認してくれたわ。ドラコは今日、ホグズミードに行った記録がなかった」
ハーマイオニーの言う通り、僕等の証言だけでは証拠不十分と言われたから。尚且つ、ドラコがホグズミードに行っているのはあり得ないと判断されたからだ。結果、ドラコは今も野放しになっている。こんな馬鹿な話があっていいのだろうか。
そして腹立たしいことがもう一つ。ドラコのことをマクゴナガル先生だけではなく、
「生徒の出入りは今、かなり厳格に管理されているわ。今はホグワーツの外はとても危険だから。ホグズミードの記録も確認してくれた上、一応先生もドラコを警戒して下さる。今はそれで充分のはずよ」
ハーマイオニーまで庇っているのだ。ハーマイオニーもドラコをボージン・バークスで見た。それどころか、ハーマイオニーはあの店に足を踏み入れもしたというのに。
「……ハーマイオニー。君もドラコが犯人で間違いない。そう思っているのだろう? なら、」
「勿論、私もハリーの意見に同感だわ。でも、マクゴナガル先生の意見も間違っていないと、そう思っているだけよ。……今はハリー、
別にハーマイオニーも、僕のドラコ犯人説を否定しているわけではない。でも、何故か言葉の端々で、ドラコを放置するよう僕に言うのだ。理解不能だった。
いや、原因……というより、元凶自体はハッキリしている。ハーマイオニーがこのような行動する時、いつだって大本にいるのは、今回の犯人であるドラコの妹……ダリア・マルフォイが関わっている。ハーマイオニーはドラコを庇うことで、間接的にダリア・マルフォイを庇っている。僕はそう思えて仕方がなかった。
「しかし、結局ケイティは誰にネックレスをやる予定だったんだろう? 一緒にいた友達も知らなかったみたいだし」
憮然とする僕を他所に、ロンが違う疑問を口にする。ロンの疑問は、僕とハーマイオニーの議論とは別のモノであったが、確かに気になる点ではあった。
でもやはり、ハーマイオニーはただ、
「……さぁ、誰なのかしらね。今のご時世、対象になる人は大勢よ。ケイティが帰ってくるまで、とても分からないと思うわ」
そう、何かを誤魔化すように話すだけだった。
スリザリンのテーブルを見ると、ドラコと視線が合った。それなのにあいつは僕に反応することはなく、ただ黙ってグリフィンドールのテーブルを見渡している。ケイティを自分が傷つけたというのに、彼女の姿でも探しているのだろうか。あいつの傍には、ダリア・マルフォイが付き添っている。やはりあの兄妹は、また何か良からぬことを企てている。
ノクターン横丁でのドラコの行動。何かを庇うハーマイオニー。
そういえば、ハーマイオニーはホグワーツ行き汽車の中でも、ノクターン横丁で見たドラコについて言及を避けていた。そしてその後、僕の『透明マント』を持ち出した。その時、彼女が何を見聞きしたのか、結局最後まで教えてくれていない。彼女は何か知っている。その上で、何かを僕に隠している。
……ハーマイオニーにこそ言っていないが、僕はもう一つの可能性も考えていた。確かにネックレスを買ったのはドラコだ。だが、それをダリア・マルフォイが使った可能性もある。ボージン・バークスに入ったのはドラコだけ。いつも兄と共にいるダリア・マルフォイの姿は無かった。それそのものに違和感を持ったからこそ、僕等はあの時ドラコを尾行した。
まさか本当に……もしやドラコもただ操られているだけで、本当の黒幕はダリア・マルフォイなのだろうか。ドラコの不可解な行動から感じていた疑い。その疑いが、ハーマイオニーの態度でより一層深まる。ドラコが『死喰い人』になったかは、まだ分からない。だが、ダリア・マルフォイは既に『死喰い人』どころか、既に奴らの中で一定の地位にいる。。ダリア・マルフォイこそが黒幕と考える方が自然なのではないか。
いずれにしろ、僕は必ずドラコ達の企みを暴かなくてはいけない。それこそが、未だにダリア・マルフォイに頑なな考えを持つハーマイオニーを守ることに繋がる。
まず僕に出来ることは、ドラコの尻尾を掴むことだ。ダリア・マルフォイはダンブルドアでも手に負えない相手だが、ドラコは僕にでも対処できるはずだ。あいつが何を企んでいるかが分かれば、ダリア・マルフォイの企みも自ずとわかるはず。
そう、僕は決意を新たに、スリザリンの方を睨みつけるのだった。
ハーマイオニー視点
予想していなかったわけではない。
私は確かに、ドラコはいづれ行動を起こす。そう予想はしていた。
でも、同時に油断しきっていたのも事実だった。
ドラコはダンブルドアを殺そうとしている。しかしそれが分かっていても、私に出来ることは、精々ドラコを多少監視することくらいのものだった。そして何より、ドラコにダンブルドアを殺すことなど出来るはずがない。それを行うだけの実力が、彼には備わっていない。相手は今世紀最高の魔法使い。ドラコでなくとも無理な事だった。それが出来るのならば、『例のあの人』はダンブルドアを恐れていない。
そして……正直、
……いいえ、これはただの言い訳。今ならば分かる。本当は……勉学に集中することを免罪符に、ドラコや……そしてダリアの問題から目を逸らそうとしたのだ。
ドラコのダンブルドア暗殺計画。そしてダリアはそれを阻止しようとしつつ……実際は自分自身でダンブルドアを殺そうとしている。
ドラコの言葉が脳裏に過る。
『ダリアは僕の代わりに……僕の背負うべき罪を被るつもりなんだ』
否定したかった。ダリアはそんなことしない。ダリアは優しい子だ。人殺しなんて大それたこと、彼女がするはずがない。
そう思いたかった。でも、結局自分自身を誤魔化すことなど出来なかった。考えれば考える程、ドラコの言葉は正しいと考えてしまう。ダリアは優しいが……彼女は同時に、目的のためならどんなことも出来てしまう子だ。
だから、
『よく考えることだな。お前が守りたいものは僕か……それともダリアか。ダリアを本当の意味で助けるには、一体誰を見捨てるべきか』
ドラコの言葉が、考えれば考える程、私の心に突き刺さった。
あの言葉に、未だに私は答えを出せていない。
そもそも前提が間違っている。そう言えればどれ程良かったか。ダンブルドアだけではなく、誰かを殺そうとすることそのものが間違っている。ドラコであろうと、それがダリアであろうと、そんなことをしようとすること自体が間違っている。だからそんなことを考えず、ただ学生らしく勉学に励んでいればいい。
そう何も考えずに言えれば、どれ程良かっただろう。でも、私は知っているのだ。ダリアが……そして今年からドラコも巻き込まれた非情な現実を。あんなに優しい子が、『例のあの人』に従わざるを得ない現実。私はその現実を、ただありのままの事実として受け入れた。受け入れなければ、ダリアを取り戻すことも出来ないと思い知ったから。
『待っていて。私は必ず貴女を助けるわ。たとえ時間がかかろうとも貴女を私は諦めない。貴女は……どんなことがあろうとも、私の友人だから』
夜の医務室で、嘗て私は彼女に言った。今もあの時の決意は変わらない。彼女はもう後戻り出来ない。彼女が私の味方になることは、『あの人』がいる限りあり得ない。
今はそれでいい。そんなことを悩んでいても仕方がない。今私が悩むべきは、もっと他のことだ。
そう決意していたのに、現実は私を待ってはくれなかった。
ダリアを救うためには、一体私はどうすれば良いのだろう。ドラコの言う通り、私はドラコを見捨てるべきなのだろうか。でも、そんなことをして、私はダリアに顔向けできるのだろうか。一方、ダリアのことも放置はできない。ダリアにもダンブルドアを殺すことは困難だろう。でも、少なくともドラコよりは僅かに可能性がある。彼女に人殺しをさせるわけにはいかない。でも、それを安易に防いだところで、今度はドラコ達が『例のあの人』に罰を受ける可能性がある。
誰かを助ければ、必ずもう一方が犠牲になる。そんなどうしようもない状況に、私は思考することすら出来ず……挙句の果てに勉強を免罪符に現実逃避したのだ。
しかし、私が現実逃避している間に、遂にドラコは行動を起こした。彼の行動は失敗に終わったけど、その過程でケイティが危うく命を失いかけた。ハリーはドラコがやったと確信している。私もそれは間違っていないと断言できる。ネックレスのこともそうだけど、あの事件の直後、ドラコはただでさえ白い顔を、更に土気色にしてグリフィンドールのテーブルを見ていた。まるでケイティが無事であることを祈る様に。ケイティと全くと言っていい程交流の無いドラコが、噂話程度でそんなことをするはずがない。そしてただケイティの安否を私に尋ねに来たダフネ。彼女もケイティ同様DAに参加していたとはいえ、その中で交流を持っていたのは私とルーナ、そしてネビルのみだった。隠れて私にケイティの安否のみを尋ねたダフネも、ドラコが今回の事件に関与していることを確信している。
今はドラコもショックを受けているけど、彼を取り巻く現実が変わらない以上、いずれまた行動を起こす。その時、また誰かが傷つき……次は本当に誰かが命を落とす可能性もある。
私はどうすれば良いのだろう。必死に考えても、いい答えが出てこない。ホグワーツの先生方に相談しても、それがいい結果になるとは思えない。
唯一相談できるとすれば、
「……
この状況を、もしかしたら
ダンブルドアはスネイプ先生をスパイにして、『例のあの人』の動向を把握している。ならば、ダンブルドアもドラコのことも実は知っているのではないか。ハリーはスネイプ先生のことを疑っているみたいだけど、ダンブルドアが間違った人を信頼するとも思えない。たとえダンブルドア自身が間違うことがあるとしても、この判断を疑えば、そもそも『不死鳥の騎士団』の情報自体が『例のあの人』に筒抜けであったことになる。その前提を今更疑っても仕方がない。
ならばダンブルドアは、ドラコのことを知った上で放置しているのだろうか。無論、スネイプ先生の情報が完璧とも限らない。ダンブルドアが知らない可能性も充分にある。でも、もし知っているならば、私は校長に相談したかった。校長しか、もう私が頼れる人はいない。
ドラコを……そしてダリアを救うには、どうすればいいのか。
ダンブルドアはダリアのことを誤解している。それを知りながら、私はずっとダンブルドアのその誤解を解けずにいた。でも、先生ならば、きっと話せば分かってくれるはず。そして誤解を解いた上で、先生にも考えて欲しい。私だけではもうどうにもならない問題を。自分だけで答えを探そうなんて、それは傲慢な考えだった。今こそ私は我武者羅に、この事態を打開するために行動を起こさなくてはならない。
そしてその足掛かりは、
『グレンジャーさん。突然の手紙、申し訳なく思う。じゃが、どうか驚かずに聞いて欲しい。ハリーを含め、内密にワシはお主の話を聞きたいと思うておる』
今私の手の中にある。枕元にあった一枚の手紙。そこには書かれていた差出人は、件のダンブルドアだった。
『レディーを夜分に一人で呼び出すのは心苦しい限りじゃ。実に不躾な事をしていると、ワシでも恥じ入るばかりじゃ。が、ワシは向き合わねばならぬ。どうか、ワシに聞かせてもらえぬじゃろうか。ワシが目を背け、そしてお主が見続けておった、ダリア・マルフォイのことを』
何もなくても、私はダンブルドアの下を訪ねようと思っていた。でも、向こうからの誘いであれば、その手間も省ける。今までダンブルドアは、私にとって雲の上の人物だった。あの人と直接話すなんて、発想すら無かった上に、そもそも機会すら無かった。私がダンブルドアと話したのは、年度末の数回のみ。いずれもハリーやロンが共におり、ハリーがメインにダンブルドアと話していた。でも、今回は違う。私自身、一人でダンブルドアと向き合わなくてはならない。
ダリアと、そしてドラコを救うために。私はもう立ち止まっているわけにはいかないのだから。