ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス 作:オリゴデンドロサイト
ダリア視点
私にとってホグワーツで受けたい授業のナンバーワンが『闇の魔術に対する防衛術』であったのならば、ホグワーツで一番行きたい場所は『図書室』だった。この一週間はまだホグワーツの環境になれず、図書館に来ることができなかったのだが、ようやくその暇と余裕ができた。
一緒に来ていたお兄様、セオドール、そしてダフネと共に辺りを見回す。
辺りは見渡す限りの本棚。遠い昔に書かれたと思われる本、もはや絶版になったであろう本、そして最近出たばかりの本など、古今東西のありとあらゆる
お父様も、ここの図書室の蔵書の量だけは褒め称えていた。無論闇の魔法について本を探そうと思ったら、禁書の棚に行くしかない。しかも禁書の棚を閲覧するのには先生方の許可証が必要で、一年生にはその許可が下りない。
今年一年はお預けとなるだろう。もしくは夜にでもこっそり忍び込むか。
そう思いながら、私は今回の目当ての本棚を探す。
禁書の本が見れない以上、今優先するべきは
匂いを感じなくなるような呪文、いわゆる悪戯くらいにしか使用しないような呪文を私はあまり知らない。私の知識の源は主にマルフォイ家の書庫にある本だが、その手の本はあまり置いていなかった。
今後ニンニクと同じように、何かひどい匂いを発するものを扱わないといけない時に必要になるかもしれませんし……これも勉強ですね。
そう考えながら、私は隣でキョロキョロしているダフネに尋ねる。
「ダフネはなんの本を探しているのですか?」
魔法薬学の授業が終わり、私がかねてから行きたいと思っていた図書室に行く旨をお兄様に話したところ、私が行くなら行くというお兄様とセオドール、そしてブレーズ、残りは最初から勉強という可能性すらない男二匹、女子二匹といった具合に、ちょうどグループが二つに分かれた。最初はダフネも戻るのかなと思ったのだが、ダフネもダフネで探したい本があるとのことだったのだ。
「私は闇の魔術に対する防衛術の本を探すよ。あの授業、先生が何言ってるか時々わからないから、宿題するのに自分できちんと調べておこうと思って」
やはり口呼吸に忙しい私だけでなく、皆にとっても聞き取りにくい授業らしい。
「そういうダリアは何を探しているの?」
「私は匂いを感じなくする呪文でも探そうかと」
「ああ、ダリアあの授業中ずっと顔しかめてたもんね。本当に大丈夫なの?」
そう心配そうに聞いてくれるダフネ。その横でお兄様も心配そうな顔をしている。
やはりこの子はいい子だ。
お兄様も授業の後さんざん私を心配してくださった上、私の制止も聞かずお父様に手紙を送ったみたいなのだが……それは私とお兄様が家族だからだ。
そんな中、家族でもないのに私を心から心配している様子だったのはダフネだけだった。
それに、最初の頭のゆるそうな印象とは裏腹に、ダフネは意外に真面目な子であった。予習復習は欠かさない上、今回のように図書室に来るほどやる気に満ちている。
純血貴族の子供はある程度ホグワーツに来る前に勉強しているためか、知識面においては他寮より頭一つ分飛び出している。しかし逆にそれにあぐらをかいて最初の頃は勉強をしなくなってしまう。そのうち他寮に追いつかれだすと根は真面目なためか、あるいはその純血思想のためか勉強し始めるのが常だ。
そんな中、ダフネだけは最初からしっかり勉強している。授業でも飛びぬけているわけではないが、しっかり努力に裏打ちされた結果をだしている。
そのためか、彼女とは非常に話があう。
今まで勉強好きの友達がいなかったことから、私は同い年の、自分と話があう子に内心憧れていた。おそらくダフネも同じなのだろう。
だが、それ故に残念で仕方がない。
私とダフネが
私には大きな秘密がある。絶対に家族以外に露見してはいけない秘密が。
もし知られれば、おそらく彼女は離れて行ってしまうだろう。それどころか、私の何より大切な家族に迷惑がかかってしまう。
だから私は彼女とこれ以上仲良くなるわけにはいかない。
これ以上親しくなってしまったら、きっとこの先つらいだけだから。
「つらかったらいつでも言ってね」
それにしても、何故こんないい子がスリザリンに入ったのだろうか?
自分で言うのもなんだが、スリザリンは狡猾さを重んじる子が入るはず。この様子ならばハッフルパフのように優しさを重んじる寮にも適性が、
「いつでもあのターバン燃やすから。大丈夫。ばれてもパパが権力で何とかしてくれると思うから」
……前言撤回ですね。この子はやはりスリザリンです。
「……ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですから。対策も今から立てますし」
そういい子だが、同時に狡猾な同級生に返すのだった。
ダフネとは目的の本が全然違うので、一旦別れることとなった。お兄様たち男組も、今週の復習をするということで別のコーナーだ。
私もダフネと同じ系統の本を読みたいのだが、今は我慢するしかない。
僅かな不満を胸に秘めながら歩いていると、『いたずらに使える呪文集』という、お父様が見たらそのまま暖炉に放り込むようなカラフルな色をした表紙の本を見つけた。
あまり読んでいるところを知り合いに見られたくないような類の本であるが、背に腹は代えられないと読み進めていく。
ほどなく目的の呪文を見つけたので、そこを詳しく読んでいると……ふと視線を感じた。
ダフネが帰ってきたのかな、と思い顔を上げると、そこにはダフネではなく、茶色い縮れ毛の女の子、ハーマイオニー・グレンジャーがこっちを見ていた。彼女は私が立ち読みをしている本棚の隣におり、どうやら隣の変身術の本を探している最中に私と出くわした様子だった。
私が視線を向けると慌てて目をそらすのだが、私のことが気にかかるのか再びこちらにチラチラと視線を送ってくる。
正直無視してもよかった。しかし、このまま見られるのもうっとうしいので、こちらから声をかけてみることにする。
「私がどうかなさいましたか?」
「え!? あ! ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて!」
彼女はしどろもどろした後、
「わ、私、ハーマイオニー・グレンジャー」
唐突に自己紹介を始めた。
「ええ、存じ上げています。私はダリア・マルフォイです」
「私のこと知ってたの?」
「ええ、組み分けの時に横で呪文を口に出していたのを見ていましたから。非常に優秀な子だなと思っていたので、名前を呼ばれているのを聞いて覚えました」
「ゆ、優秀だなんて。あなたの方こそ優秀だって、先生たちの間でも有名よ。よく授業であなたの話をするもの」
「私は魔法族の出身です。昔から魔法を学ぶことができました。ですが、あなたは最近魔法界のことを知ったのでしょう? それなのに今の時点でそこまで学べている。これを優秀と言わずになんといいましょう」
そう言って彼女の方を見ると、彼女はなんだかとても驚いた表情でこちらを見つめていた。
「わたし、あなたにもっと冷たくされると思ってた。私がマグル出身だって知ってるのに……」
ああ、そういえばスリザリンは純血主義ということで知られているのだったなと思いだす。
「私にとって貴女がマグル生まれだろうと純血だろうと、どちらでもかまいません」
そう、私にとって重要なのはマグル生まれか純血かではなく……
純血であろうとなかろうと、マルフォイ家ではなければ私にとっては
「そろそろ行きますね。人を待たせているので。それに、あまりおしゃべりをしていると、先ほどからこちらを見ているマダム・ピンスにつまみ出されますよ」
一瞬こっちをじっと見ている司書を見やり、お兄様たちとの待ち合わせの場所に向かう。
これ以上待たせてしまうのは忍びない。はやく向かわねば。
後ろにいるグレンジャーも、つまみ出されたくないのか、慌てたように自分の目的の本探しに戻っていた。
ハーマイオニー視点
スリザリン生の元に歩いていくダリア・マルフォイの後姿を見やる。
彼女はスリザリン生なのに、私を無視したり、ましてや嫌がらせをするようなことはなかった。
相変わらず表情と目は冷たかったけど、言葉は汽車で会った時と変わらず、冷たくないばかりか、私を優秀だと言ってくれる時は温かみすら感じた。
彼女は皆が言っているように、純血主義でもなければ、冷たい人間でもないのではないか
私は彼女の後ろ姿を見ながら、そう疑問に思うのだった。
次回飛行訓練