ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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飛行訓練

 

 ダリア視点

 

臭い対策を模索してから数日。朝ダフネと共に談話室に降りてみると、談話室においてある掲示板に人だかりができていた。

 

「なんだろうね?」

 

そう首をかしげるダフネに肩をすくめながら掲示板に近づくと、さっきまでできていた人だかりが割れる。

まるでマグル界でも有名なモーゼにでもなった気分だ。

私とダフネは『聖28一族』であるため、同級生、上級生問わず、スリザリンにおいてそれなりの地位にある。加えて私の場合、これまた何故か同級生、上級生問わず恐怖されている雰囲気があるので尚更だろう。

突然割れた人混みの中、ダフネと共に掲示板の前に行くと、そこには、

 

『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンの合同授業です』

 

と書かれていた。

食事のために大広間に集まった後も、この話題でスリザリンは盛り上がり続ける。

 

「まったく、なんであんな箒の存在すら最近知ったかもしれない連中と、仲良く箒に乗らないといけないんだ!」

 

お兄様が隣で不機嫌そうにわめいている。

ちなみに今の私もそこまで機嫌が良いわけではない。

朝、もしかして同じ木曜日にある『闇の魔術に対する防衛術』がなくなる、もしくは短くなるのでは!?

と、冷静に考えればあるわけない期待に胸を弾ませていたのだ。

尤も結論から言えば……スネイプ先生に聞いてみたところ、時間帯が違うといわれ、私のはかない希望はあえなく散ったのだった。

そんな不機嫌な私をしり目に、お兄様達の会話は続く。

 

「ねえ、ドラコ。でもこれってチャンスよ! グリフィンドールに、特にあの穢れた血のグレンジャーに、純血がいかにあいつらより優れているか教えてやるのよ!」

 

授業で稼ぐ寮の点数は、今のところ私がぶっちぎりに一位を独占している。ならばスリザリンがグリフィンドールに勝っているかと言われればそういうわけでもない。

グレンジャーも私に及ばずながら結構な点数を叩きだしており、そしてそれに勝てる生徒が私以外にスリザリンにはいない。ダフネが時々勝ってはいるが、それも微々たるものだ。

それがスリザリン一年生には面白くないのだ。ただのマグル生まれなら無視するだけだったのだろうが、自分たちより優秀なマグル生まれとくると、話が違ってくる。

まさに目の上のたんこぶ。本来自分達より劣っていると思っていたものが、点数という最も分かりやすい指標において自分たちを打ちのめしてくる。邪魔で仕方がないと思っていることだろう。

パーキンソンの言葉に気をよくしたお兄様は、

 

「そうだな! ははっ!そうだ! 僕が箒であんな奴らに負けるわけがないんだ! あいつらに純血の格の違いを教えてやる!」

 

そんな捕らぬ狸の皮算用をしていた。

それからほぼ毎日、お兄様の箒自慢を取り巻きたちは聞く羽目になっていた。

最初の頃はまだまともだった。

私が見たところ、お兄様の箒の技術はそれなりに高い。そんなお兄様が語る話は、お兄様が今まで経験して得た技術、そして研究してきた戦術など、一年生を魅了するには十分な話だった。

……だが、それから先がおかしくなった。

事実に基づいていた話にだんだんと事実ではない話が混ざりだし、最後には完全にありもしない話になっていた。

 

今日もお兄様の与太話が始まる。

 

「僕は幼い頃から箒に乗っていてね。よく近所の皆と一緒にクィディッチをしたものさ。勿論僕はいつでもエースでシーカーさ。スニッチを見付けるのはいつも僕が最初だったし、ブラッジャーに当たった事だって一度もない」

 

ここまではまあいい。問題はここからだ。

 

「あれは去年の事だったかな。僕が箒に乗って空高く飛び上がるとそこに偶然マグルのヘリコプターが迫ってきたんだ。マグルってのはあんなでかい鉄の箱を用意しないと空を飛べない不自由な生き物らしいね。僕はそのヘリコプターを咄嗟に避けた! まさにぶつかる寸前、ギリギリってやつさ。ぶつかるかと思ったかだって? ははっ、まさか。動きが止まって見えたね」

 

そもそもヘリコプターとやらがマグル対策万全の我が家の上を飛んでいたことなどない。

お兄様はいったい何を咄嗟によけたのだろうか?

 

おそらくこの辺を突っ込んでしまったら、お兄様に一生癒えない心の傷を残してしまうだろうから言わない。が、何故事実関係を知る私のすぐそばでそんな嘘吐くのだろうか。

 

そんな風に楽しそうにお話になるお兄様を、若干の呆れも含みながら微笑ましく見守る。

私が魔法について語り合える友達が欲しかったように、お兄様はお兄様で、クィディッチについて話せる友達が欲しかったのだろう。

だからと言って嘘をつくのはどうかと思うが。

 

そして飛行訓練の行われる木曜日。

午前中にあったニンニク授業が終わり、私は少しやつれながら昼食を食べる。

結局、臭い対策はあまり効果を発揮しなかった。確かに授業中の臭いはある程度感じなくはなったが、あまりに臭いが強烈すぎるためか私の魔法を突破してくる上に、授業後も服に臭いがしみついてしまうのだ。そのため一度寮に帰って服を着替える必要があることには変化はなかった。しかも周りの生徒の服にも同様に染みついているので、終わった後一日中、私を匂いが苛むのだ。

 

「ダリア、大丈夫か? 父上に連絡したんだがな……」

 

お兄様はお父様にこの件を連絡したみたいなのだが、結果はやはり芳しくなかった。

お父様に教師をどうこうする権限はない上、抗議しようにも『ニンニクの臭いが苦手です』なんて私のことが露見するリスクのあることを言えないのだ。

どうも吸血鬼に対するトラウマのあるクィレル先生は、精神安定上ニンニクターバンを手放せない様子なため、無理にターバンを引きはがすのはおそらく無理だろう。

お父様に迷惑をお掛けするわけにはいかない。だから私の方から対策を練ったから大丈夫だと知らせたのだ。

 

「いいのです。こんなことでお父様を煩わせるわけにはいきませんから」

 

それでもなお心配そうに私を見つめるお兄様に話題転換を図る。

 

「そんなことより、この後お兄様が楽しみにされていた飛行訓練ですよ」

 

「ああ、そうだな。これでグリフィンドールの奴らに一泡吹かせてやれるぞ! ポッターも今まで箒に乗ったことなんてないんだ、さぞかし無様な姿になるだろうな!」

 

そう意気込むお兄様。本当にこういう時は子供っぽくイキイキしておられますね。

 

「では、私は飛行訓練の準備をしてきますね」

 

飛行訓練は屋外でするものだ。必然的に私は日傘をはじめとした入念な準備を必要とする。常時それを持ち歩いているわけではないので、それを寮までまた取りに帰る必要があるのだ。

 

「わかった。授業自体は三時半からだ。その少し前に大広間で落ち合おう。僕がチェックするから」

 

「ええ、ではまた後程」

 

「ああ、僕もこれからちょっとグリフィンドールの連中に挨拶してくるよ」

 

「喧嘩もいいですが、ほどほどにお願いしますよお兄様」

 

そう言ってお兄様は、ちょうどフクロウに何か運ばれてきたロングボトムの元に歩いて行かれたのだった。

 

日傘を持ち、鏡の前で入念に顔以外の皮膚の露出がないか確認する。といっても、ホグワーツの制服自体がそもそも露出の少ないものであり、さらにいつも手袋をしている私には最初から露出部分などない。

不備がないことを確認すると大広間で待っているであろうお兄様の元に向かう。

大広間に行くと、スリザリンの一年生達がかたまっていた。おそらく全員で授業にむかうつもりなのだろう。確かに一人で行ってしまった場合、先に行ったグリフィンドール生の中に一人たたずむという、彼らにとっては悪夢だろう状況になりかねない。

 

「お待たせしました」

 

「いや、全員今集まったところだ。それより……」

 

そう言ってお兄様が私の頭からつま先までを入念にチェックする。

 

「大丈夫そうだな。では行くか」

 

私の露出がないことを確認し、お兄様がスリザリン一年生を引き連れて歩き始める。

 

「ねえ、マルフォイ。その日傘は?」

 

日傘を持つ私を訝しんでパーキンソンが尋ねてくる。

 

「これは日光対策です。私はこの白すぎる肌のせいか、非常に日光に弱いのです。だから外に行く時はこれが欠かせなくて。入学する前に申請して許可されたんですよ」

 

「そう、大変なのね」

 

口とは裏腹にそこまで心配していなさそうなパーキンソン。

その横には、本当に心配そうなダフネがいた。

 

スリザリンが到着すると、やはりもうグリフィンドールのメンバーが全員待機していた。さっそくいつもの化学反応を起こしている一年生達。

そこから少し離れた場所で、日傘をさした私とダフネは話していた。

 

「それにしても、日傘をさした状態で箒に乗るなんて大丈夫なの?」

 

「ええ、おそらく普通の乗り方にはならない上、あまり激しい動きはできませんが、乗るだけの分には問題ありません」

 

「そう。何かあればすぐ言うんだよ。ダリアはなんだかすぐ我慢しちゃうところがありそうだし」

 

ダフネとそんなやりとりをしていると、時間になったのか飛行訓練の担当であるマダム・フーチ先生がやってくる。

 

「何をボヤボヤしているんですか! みんな箒の傍に立って! さあ早く!!」

 

中々厳しい先生だと思ったのか、先ほどまで仲良く喧嘩していた生徒たちは急いで箒の横に立つ。

 

「右手を箒の上に突き出して! そして、『上がれ』と言う!」

 

皆一斉に「上がれ」という中、私も日傘片手に言ってみる。

 

「上がれ」

 

箒はすぐに私の掌に収まった。

箒に日中乗れないというのに、これだけは昔からできる。……箒がどこか怖がっているように、手の中で震えてはいるのが気になるが。

周りを見渡すと、できているのは片手で数えれるくらいしかいなかった。

お兄様は勿論、ダフネ、そして驚いたことにポッターも成功させていた。

いつもは優等生であろうあのグレンジャーですら手こずっている様子だ。ロングボトムに至っては、箒がどこかに転がって逃げようとしている。

 

例年そうなのか、この状況に特に驚きもせずマダム・フーチ先生は、生徒に箒を直に手に取るように指示する。 全員が箒を手にした後、フーチ先生は箒の正しい乗り方をレクチャーし、生徒達の列を回って握り方のチェックをしていく。

お兄様の握りかたはどうやら間違っていたらしく注意されていた。それがうれしかったのか、ポッターとウィーズリーは終始ニヤニヤしていた。

お前たちはそれ以下だろうに。

そんな光景をイライラしながら見ていると、私の番がきたらしい。

 

「あなたの肌のことは聞いてます。あなたは日傘をさした状態ですから、横座りで構いません。それと初めての飛行訓練の授業だからといって、あまり無茶はしないのですよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

実はさっきから近くにいたグリフィンドール生が、

なんでお前は日傘なんて持ってるんだ?

とでもいうような非難の視線を送ってきていたのだが、面倒なので無視していたのだ。

説明が面倒なため、先生さえ事情を知っていればいい。

なんだか非常に親身に話してくれたあと、フーチ先生は次の生徒のチェックに行く。厳しそうだが、その実非常に優しい先生なのだろう。

そんなやり取りを聞いていたお兄様、ダフネ、そして近くにいたグレンジャーが気づかわし気な視線を投げてよこしていた。

 

チェックが終わり、いよいよ飛ぶ段階となった。

 

「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴るんですよ。箒はしっかり持って、数メートル浮上して、前かがみになってすぐ下りてきなさい。笛を吹いたらですよ? 1、2、」

 

「うわあああああっ!」

 

フーチ先生が笛を吹く前に、物凄い速度で浮上するロングボトムが私の視界の端に映った。どうやら焦って合図より先に地面を蹴ってしまったらしい。

 

「こら!ロングボトム! 戻ってきなさいっ!」

 

そう先生が制止をかけるが、みるみる内にロングボトムは上がっていく。

そして20メートルを超えただろうかというあたりで、暴れだした箒に振り落とされたのか、ロングボトムが自由落下を開始する。

 

あの高さなら即死ですね。

 

私は冷静にそう考えながら、同級生を一瞬みやる。

やはりというべきか、ロングボトムと同じグリフィンドールは勿論、スリザリン生も青ざめた顔をしている。

口ではなんとでも言うが、やはり誰であれ、人が目の前で死ぬということに耐えられないのだろう。お兄様も青ざめた顔をしている。

 

やはりお兄様は優しいな。ロングボトムがどうなろうとどうでもよいが、そんな優しいお兄様にトラウマを植え付けるわけにはいかない。

 

そう自分に助ける()()()()()()、私は懐から杖を引き抜くと、無言で呪文を唱える。

 

『ウィン・ガー・ディアム・レヴィ・オー・サ』

 

すると先ほどまですさまじい速度で落下していたロングボトムが、後地面まで10メートルというあたりで急にゆっくりとした速度になる。

 

驚いている同級生をしり目にゆっくりとロングボトムを地面に下すのだが、ロングボトムはすでに気を失っていた。

まあ、20メートルくらいから落下したら気も失うか。

 

「よ、よくやってくれましたマルフォイ! スリザリンに5点! 私は念のためロングボトムを医務室に連れていきます! あなたたちは箒に乗らずに待機するように! さもないとクィディッチの「ク」を言う前に、ホグワーツから出て行ってもらいますからね!」

 

そう言い残し、フーチ先生はロングボトムを連れていってしまった。

 

「ダリア!よくやったよ!これでグリフィンドールに貸しをつくったぞ!」

 

点数をもらえたこともあるのだろう。なんだかんだ言って後で助けたことを何か言われるかなとも思ったが、スリザリンが私を非難することはなさそうだった。

かわりにグリフィンドール生が複雑そうな顔をしている。どうやら私がロングボトムを助けたことが不思議な様子だ。

グレンジャーだけはキラキラした目でこちらを見ている。

 

「それに見たかあの間抜け面!死ななかったのが奇跡だね!ダリアがいなかったらどうなっていたか!」

 

そんなお兄様の言葉にスリザリンはさらに盛り上がっている。

 

「やめてよマルフォイ」

 

グリフィンドールの女子生徒が止めようとするが、

 

「へぇ、ロングボトムの肩を持つの? パーバティったら、まさか貴方があんなチビデブに気があるなんて知らなかったわ」

 

パーキンソンがその女子生徒に冷やかしを入れる。

 

「ご覧よ! ロングボトムのばあさんが送ってきた馬鹿玉だ!」

 

そう言って、お兄様が草むらの中に落ちていた何かを拾い上げた。

それはガラス玉のような見た目で、太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 

あれは確か、思いだし玉だったはず。

昔たまたまダイアゴン横丁に行ったときに見たものを思い出す。

忘れたものがあると赤くなるらしいのだが、そもそも赤くなっても忘れたもの自体を思い出させてくれるわけではないので、あまりの間抜けな作品に少し笑ったことを思い出した。

 

「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」

 

昔見た間抜けな道具を思い出して少し笑っていると、話も盛り上がってきたのかポッターが声を上げる。

その様子を見て、その場の生徒のほとんどがお兄様とポッターに注目した。

 

「嫌だね、ロングボトム自身に見つけさせる」

 

そういってお兄様が箒に跨り、ひらりと飛び上がろうとした。

が、

 

「お兄様。危ないことはやめてください」

 

私が話しかけると、一瞬きまりが悪そうな顔をされていた。しかし、私とダフネ以外のはやし立てる声に負けたのか、もう後戻りはできないと箒に乗り行ってしまった。

あまり危ないことをしてほしくないのだが、まあ、あれくらいなら大丈夫だろう。

いざとなれば先ほどと同じように、お兄様を助けることもできる。

 

「ここまで取りに来いよポッター!」

 

お兄様の挑発に乗ったのか、ポッターも箒にまたがる。

 

「ダメよ! フーチ先生が言ってたでしょ。動いちゃいけないわ。私たちみんなが迷惑するのよ!」

 

グレンジャーが叫ぶが、ポッターは忠告を無視して箒に跨り地面を強く蹴り、お兄様の元に行ってしまった。

 

「もう!本当に自分勝手なんだから!」

 

グレンジャーはそう憤慨してから、くるっと私の方に振り返り、

 

「マルフォイさん! あなたもお兄さんを止めてよ! ばれたらあなたのお兄さんも退学になってしまうかもしれないのよ!」

 

「おい、ハーマイオニー! そんな奴にかまうな! そいつもそいつの兄貴と同じように、ネビルのことをからかおうと思っているに違いない! こいつはスリザリンだぞ! 助けたのも、きっと気まぐれだ! そうでなきゃ、こんな冷たい表情でネビルが落ちるのを見てたはずがない!」

 

そう、私がグレンジャーに何か言う前に、ウィーズリーが何かわめき散らしてグレンジャーを連れていく。

 

私も一応止めようとしたのだが……。それにおそらく退学にはならないだろう。そうでなければ噂に聞くウィーズリー兄弟などとっくの昔に退学になっている。

 

そう言って安心させてあげようと思っていたのですが、まあいいか。

それにロングボトムのことは正解ではないが、間違ってもいない。何故なら私は彼がどうなろうが本当にどうでもよかったのだから。

 

横にいたダフネがウィーズリーの妄言に一瞬怒ったような顔をしていたが、言われた当の本人がどうでもよさそうな顔をしているので、自分も気にするのをやめたらしい。私に呑気な声音で話しかけてくる。

 

「それにしても、ポッター、初めてにしては上手に飛んでるね」

 

「ええ、そうですね。お兄様は昔からクィディッチがお好きだったので上手ですが、それと比較しても遜色ないのはすごいですね」

 

二人で感心しながら眺める。ぐんぐんポッターは上昇し、ついにお兄様と同じくらいの高さに並ぶ。

 

「こっちへそれを渡せ、マルフォイ!でないと箒から突き落とすぞ!」

 

ただの脅しでやらないとは思いますが、それをやった瞬間、貴方の人生も終わらせます。

そう無感動に見つめていると、お兄様はその言葉とポッターの見せた技術に焦ったのか、

 

「取れるものなら取ってみろよ!」

 

そう叫んで思いだし玉を投げた。

それをポッターは急加速して追いかける。

まさか、あれを掴むつもりなんですか? 初めて箒に乗ったのに?

だがポッターは私の疑問を覆し、空中でその玉を掴んでみせた。

 

驚いて口を開けているスリザリンを置き去りにして、グリフィンドールは思いだし玉を持って着陸したポッターを歓声をもって出迎えている。

しかしその盛り上がりは長くは続かなかった。

 

「ハリー・ポッターァ!!」

 

どこからともなくマクゴナガル先生が走ってきたのだ。

ポッターの前で足を止め、乱れた呼吸を整えようとしながらも、動揺は隠しきれていない様子だった。

 

「こんなことは今まで一度も……! ポッター私についてきなさい!」

 

グレンジャーやウィーズリーが抗議していたが、それに耳を貸すことはなかった。

そして動揺しながらも強い口調でポッターに宣告し、マクゴナガルはポッターを引きずるようにして城内へ歩きだす。

 

スリザリンのメンバーは横で笑いながらそれを眺めている。

でも、退学にするにしてはあの表情は……。

 

「ねえ、彼、退学になると思う?」

 

ダフネが私と同じように疑問を持ったのか、私にそう尋ねてくる。

 

「いえ、退学は罰としては大きすぎますし、それに退学でないとしても罰を与えるならお兄様も同様のはずです。それに……」

 

「それに?」

 

「それにマクゴナガル先生は、どこか喜んでいる表情をしていましたから」

 

上を飛んでいたお兄様が私の横に降りてくる。

他のスリザリン生はよくやったとはやし立てており、お兄様もポッターが退学になるとでも思ったのかにやけていたが……じっと見つめる私を見て青ざめた顔をする。

 

「……すまない」

 

「はぁ……朝も言いましたが、あまり品のないことはなされないように」

 

周りの人間もお兄様に駄目とは言わない連中だが、自分もお兄様に相当甘いなと思った。

 








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