ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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ハロウィーン(前編)

 ダリア視点

 

結局飛行訓練の後、ポッターが退学になることはなかった。

それどころか一年生でクィディッチ選手になるという快挙まで成し遂げていた。

スネイプ先生はスリザリン贔屓で有名だが、マクゴナガル先生も相当のものらしい。先生の言いつけを守らなかったポッターに対し、クィディッチ選手にするばかりか、最新型のニンバス2000をプレゼントするという暴挙まで行っていたのだ。

そのためスリザリンはここ最近殺気立っており、より一層グリフィンドールに当たり散らすようになっている。お兄様もその筆頭で、どうやらポッターを夜中に決闘で呼び出し、自分は行かないというアクロバティックな罠を仕掛けたとのことだった。

……狡猾が売りのスリザリンとはいえ、流石に狡猾すぎるのでは?

尤も、その次の日も平然とポッターが学校にいた上に、グリフィンドールの点数が減ってるということもなかったので、罠自体は不発に終わったみたいだ。

 

そんな多少の衝突はあれども、なんの変哲もない平穏な毎日が過ぎ、ホグワーツ生活初めてのハロウィーンの日を迎えた。

マルフォイ家においてのハロウィーンは、ただ家族で少し豪華な食事をし、いつもより多いデザートが出てくるだけの日だった。別に不満はないのだが、庶民の、ちょっと浮かれたお祭りといった風情のハロウィーンというものにも私は興味があった。

だが、どうやら『トリック・オア・トリート』といった庶民のイベントはホグワーツにもないらしい。純血の多いスリザリンはこういった庶民的イベントをやらないのは予想していたが、他の寮においてもどうやらやらないようだった。例外はグリフィンドールで、グリフィンドールの中のさらにウィーズリー家の双子のみが、このイベントを実際に実行していた。といっても、ほとんどの生徒はお菓子など用意していないので、どちらかというと彼らの悪戯の餌食になっていたが。

 

「ホグワーツのハロウィーンは盛大に行われると聞いていましたのに。私は盛大というからには、何か変わったイベントなどを行うのだとばかり思っていたのですが……どうやらそうでもないみたいですね。まあ、朝からパンプキンの匂いだけは盛大にしていますが」

 

「そうだね。でも、夜のごちそうだけはすごいって聞いたよ。カボチャ尽くしらしいよ」

 

不満そうな私の言葉にダフネが苦笑しながら返す。

 

「ああ、だからこんなにカボチャの匂いがしているのですね。朝食には全くカボチャの類は出ていなかったのに、何故こんなにカボチャの匂いがするのか不思議に思っていたのですよ」

 

どうやらこの盛大に香るパンプキン臭は夜のごちそうのためのものらしい。でもこれなら夜はそこそこ期待してもよさそうだ。

 

午前の魔法史の授業も終わり、残すは妖精の魔法の授業のみとなる。

これが終われば今日の授業は全て終わり、後は大広間でハロウィーンのごちそうにありつくことができる。

そう思いながらお兄様達と歩いていたところ、前からグリフィンドールの集団が歩いてきた。

私たちの前に妖精の魔法の授業があったのだろう。ちょうど向こうも授業が終わったのか、妖精の魔法の教室から出てきたばかりの様子だった。

普段であればスリザリンとグリフィンドールが出会うとすぐに喧嘩が始まるのだが、如何せん次の授業がお互いあるので余計なことをしている暇がない。

そのため、道の両極端を歩くことで、お互いの仲の悪さを表現することにしたらしい。

 

そんな中、比較的真ん中の方を歩いていた私の耳に大きな声が入ってくる。

 

「誰だってアイツには我慢できないっていうんだ! 全く、悪夢のようなヤツさ。だから友達がいないんだよ!」

 

誰のことを言っているのか知らないが、そんなロナルド・ウィーズリーの声があたりに響いている。いつもなら目の前にいるスリザリンに喧嘩を吹っかけてくるのだが、どうやら今は目の前のスリザリンのことなど気にならないほど、違うものに対して腹を立てているらしい。スリザリンのことでないとすると、おそらく先ほどあった妖精の魔法の授業で何かあったのだろう。それもおそらく同じグリフィンドール生と。

ウィーズリーの人間関係など興味は全くないが、あれでは件の同寮生にも聞こえてしまうだろうなとぼんやり考えていると、前から女の子が足早に歩いてきた。

私もダフネと話していた上に、向こうも前を全く見ていなかったので、私はまっすぐにこちらに走ってくる女の子を避けることが出来なかった。

 

「っ」

 

「きゃあ!」

 

ちょっとした衝撃に、私もその子も尻もちをついてしまう。私は尻もちをついただけであったが、その子は手に持っていた大量の教科書類が散乱してしまっていた。

 

「ダリア! 大丈夫!?」

 

「ええ。それより……」

 

教科書を床にまき散らしている相手をみると、どうやらぶつかった相手はグレンジャーだった。

成程。大体の状況はわかった。

おそらくウィーズリーが言っていた子はグレンジャーのことだったのだろう。大方授業で彼ができなかったことを平然とやってのけた彼女に自尊心を傷つけられ、それに怒ってあのような暴言を吐いていたというところだろうか。そしてその暴言が見事に彼女の地雷を踏み抜いてしまったことで、このような事故が起きてしまったと予想する。

私の少し前を歩いていたお兄様もことの成り行きをみていたのか、私にぶつかったグレンジャーに罵声を浴びせようとしていた。

 

「おい!グレンジャー!お前……!」

 

「お兄様、いいのです。私も前を向いていなかったのですから。それより、大丈夫ですか?」

 

私はお兄様を諫めながらグレンジャーに話しかけるも、彼女は小さく頷くものの、下を向いたままこちらを見ようとしなかった。どうやら今の衝撃で我慢していたものが折れてしまったらしい。

周りにいたスリザリンはそんな彼女に眉根を寄せている上、グリフィンドールはグリフィンドールで悪口を言っていた手前、おいそれと近づけないといった風にこちらを見ているだけだ。

 

「……はあ。とにかく教科書を拾いましょう」

 

「私も手伝うよ」

 

とにかく、いつまでもこんな格好をしているわけにはいかない。この状況を早々に終わらせるため、教科書を拾いだすと、私の横にいたダフネも手伝ってくれる。

教科書を拾い終わり、未だ少し弱弱しいグレンジャーに渡すと、彼女は少し会釈をしてからフラフラとどこかに歩き去っていった。

 

「あいつ……せっかくダリアが拾ってやったのに」

 

「いいのですよ。そんなことより早く授業に行きましょう」

 

歩き出した私に、お兄様達は渋々といった風に再び授業に向かって歩き出す。

私はそんなお兄様に僅かに苦笑した後、隣を歩いていたダフネに先程から気になっていたことを尋ねた。

 

「ダフネはどうして彼女を手伝ったのですか? 彼女はマグル生まれですよ?」

 

なんとなく小声で尋ねる私に、

 

「確かにスリザリンとしては失格だよね……」

 

苦笑しながら答えるダフネが、でも、と続ける。

 

「私は純血貴族であることを誇りに思っているけど、別に彼女のようなマグル生まれを蔑んでいるわけじゃないんだよね。グリーングラス家も純血主義だけど、別にマグルを淘汰しろとまでは言ってないし。だから彼女のように困ってる状況だったら、それは貴族として助けてあげるべきだと思うわけ」

 

成程。排他的なスリザリンらしくないと思っていたら、彼女にとって純血主義とはノブレス・オブリージュのような考えなのだろう。排除を前提とした純血主義を持つ他のスリザリン生の中で、明るい性格が目立つのは、そんな考え方からきているのだろう。

 

「成程。でも何故それを私に? 私がマグルは排除されるべきと考えていたらどうするのです?」

 

「……この何か月か一緒にいて、ダリアはそんなそぶり一度も見せなかったからね。その証拠に、さっきもグレンジャーの教科書拾ってたじゃない」

 

「あれはただ単にあのままでは通行の邪魔だと思っただけですよ」

 

そう言ったものの、私の中にちょっとした引っ掛かりが残っていた。

 

何故だろう。いつもなら他人を特に気にすることなどない。

いや、()()()()()()()()

他人と仲良くしても、決してそれがお互いにとっていい方向に行くことがないのだから、いっそ興味すら持つ必要性すらない。

 

なのに、何故だろう。

何故あんな風に傷ついた彼女を見ると、心がざわつくのだろう。

そんな自分の行動に対する違和感が、どうしてもぬぐい切れなかった。

 

だから、

 

「だって、ダリアは本当はすっごく優しいもの。ずっと()()()……」

 

物思いにふける私の横で、本当に小さな声でつぶやくダフネに、私は気づくことはなかった。

 

妖精の魔法の授業も終わり、いよいよハロウィーンパーティーの時間となった。

噂になるだけのことはあり、かぼちゃが使われた豪華な料理が所狭しと並べられている。そんな料理を興奮しながら食べる生徒の中、私はまだ少しもやもやした気分でいた。

パーティーが始まる前、なんとはなしにグリフィンドールの机を見たのだが……グレンジャーの姿がどこにも見当たらなかったのだ。

彼女がどうなろうがどうでもいいはずなのに、やはり何故か気になってしまう。

どうしても、グレンジャーが俯いている姿が頭から離れなかった。

 

「どうした、ダリア? 浮かない顔をしているぞ」

 

私の表情を読んだのか、お兄様が心配そうに話しかけてくる。

 

「いいえ。お兄様。なんでもありませんよ。ただ、あまりにパンプキンばかりなので、飽きてきただけですよ」

 

実際、あまりにも単調な味付けに飽きてきたところだ。

私の返事に納得してないのか、お兄様がさらに尋ねようとしたその時

 

「トロールが!! 地下にトロールが!!」

 

突然大広間の扉が開き、クィレル先生が全速力で部屋へ駆け込んできた。

息も絶え絶えに、ダンブルドア校長の席まで駆け寄ると、

 

「お知らせせねばと思って……」

 

そう言って気絶してしまったのか倒れてしまった。

 

トロールのような低能な生き物が何故ホグワーツに?

 

と私は冷静に思考を巡らせていたが、どうやら他の生徒はそういうわけにはいかなかったらしい。

突然の事態に大広間は大混乱に陥る。皆恐怖で叫びながら席から立ちあがり右往左往している。

勿論お兄様もその中の例外ではない。

 

「ダ、ダリア! ト、トロールが!! ホグワーツの中に!!」

 

「お兄様、落ち着いてください」

 

私は冷めた思考の中、お兄様を落ち着かせるように努めて冷静な声を出す。

 

「侵入の真偽もまだ不明です。それにたとえ侵入していたとしても、トロールは非常に頭の弱い生物です。あるのはその巨大な肉体のみです」

 

その肉体すら、手袋を外した私よりは弱いだろう。それに私には闇の魔術がある。

 

「何も恐れる必要はありません。お兄様には私がついています。私がお兄様を必ず守って見せます」

 

そう冷静に話かけると、お兄様、そして私の周りにいた生徒達は冷静さを取り戻していた。

だが、私の周りが冷静になったとしても、この状況ではただの焼け石に水だ。どうしようかと考えていると

 

「静まれぇ!」

 

校長が爆音を出しながら叫ぶ。

その音を聞いてようやく冷静になってきた生徒に校長は、監督生に従って自分の寮に戻ることを指示する。

 

あの校長はお忘れのようだが、私たちスリザリンの寮は地下にあるのですが……。

 

そう思うのだが、もうすでに監督生が引率を開始しており、スリザリン生が続々と足早に大広間を出ていく。

せめて寮監が着いてきてくれるのかなと思ったのだが、どうも先ほどからスネイプ先生のお姿を見えない。

これは本格的にお兄様についていないといけませんね。

この時の私の頭の中には、お兄様を守ることしかなく、グレンジャーのことを気にする余裕などなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーマイオニー視点

 

トイレに引きこもりながら、ずっとロンの言葉が頭の中を走り回っていた。

 

『誰だってアイツには我慢できないっていうんだ! 全く、悪夢のようなヤツさ。だから友達がいないんだよ!』

 

その通りだ。私はホグワーツに来て、ずっと友達ができていない。

私はいつも感情的にみんなを叱るばかり。勉強ばかりして、周りのことなどこれぽっちも見ていなかった。自分がやっているのだから周りもやれなんて、そんなちっぽけな考えに囚われるばかり。周りの人間を子供っぽいと蔑んで、でも一番子供っぽかったのは自分自身だったのだ。

ああ、なんて馬鹿な私。勉強をいくらやったってこんなことさえ分かってなかったのだ。

 

それに……

 

あの時ダリア・マルフォイに思いっきりぶつかってしまった。それどころか教科書を拾ってくれた彼女に何も言わずに行ってしまった。

きっと嫌われてしまっただろうな……。

 

私は昔から勉強がよくできた。いつも一番だったといっていい。

別に一番になることを目的に勉強しているわけではなかった。ただ、学ぶことが、何かを知ることが面白くてしょうがなかったのだ。そのため私はよく勉強した。そのためかいつの間にかクラスで一番勉強ができる子になっていたが、私にはそんなことはどっちでもよかった。

でも、あの頃から私は何も変わっていない。

私は昔も周りに勉強を強要した。皆もこんなに面白いことなのだから、勉強をやるべきよ!

当然、皆からは嫌われた。当たり前の話だ。だって皆にとって勉強は勉強でしかなく、私のように楽しくて仕方がないものではなかったのだ。

そんな風に孤立してしまいがちな私の元に転機が訪れた。

 

ホグワーツの手紙だ。

 

私は喜んだ。今まで知らなかったことを、魔法なんて存在を学ぶことができる!

思えば知識欲から選んだ道であったけど、その中に、当時の孤立した空間から逃げ出したいという気持ちがなかったと言えばうそになる。

 

幸いにも両親は私のホグワーツ行きを了承してくれた。両親は孤立しがちだった私にいつも味方でいてくれた。ホグワーツ行きだって、私の当時の環境が変わってくれるならと思ってくれていた部分もあったのだろう。

 

でも、結局変わらなかった。環境、勉強するもの、それらが変わっても、私は少しも変わっていなかったのだ。

 

そんな中、唯一自分の中に変わったものがあった。

目標だ。

 

ダリア・マルフォイ。

 

彼女はいつも私の遥か前を歩いていた。ホグワーツに来るまではいつも私が一番だったのが、ここにきていつも彼女の後ろを歩くことになっていた。

それは人生初めての経験だった。

私よりはるかに多くのことを知っている同年代。

私にとっていつの間にかそんな彼女が目標になっていたのだ。

彼女に追いつきたい。彼女の知っていることをもっともっと知りたい!

私は、彼女をライバルとして、追いつきたい存在として尊敬していたのだ。

 

でも、彼女に嫌われてしまったかもしれない。

図書館で、彼女が純血主義でないと知り、もしかして嫌われてないのではと思っていたのに!

 

そんな風に考えていると、どんどん悪い方向に思考が流れていくのだった。

 

一体どれほど時間がたっただろう。

もう涙も出尽くしたのか、未だ悲しみでいっぱいなのに、目が渇いている。

そろそろ寮に戻らないといけない時間だろうか。もし夜外にいたら怒られてしまう。

そう思い、憂鬱ながら外に出ようとするが、ふと、ひどい異臭がすることに気付いた。

 

 

 

 

訝しみながら個室から出てみると……そこにはこんな所に絶対にいるはずのない、棍棒をもった巨大なトロールがたっていた。

 


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