ハリー・ポッターと帝王のホムンクルス   作:オリゴデンドロサイト

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クィディッチ(後編)

 

 ダリア視点

 

試合は170対60でグリフィンドールの勝利となった。あの後ポッターがスニッチを取った、いや飲み込んだのだ。

 

私が解呪に加わった後、突然スネイプ教授の方から火の手があがった。教授は慌てて目をそらしてしまったため、私一人で対処しなければならない事態に陥ったのだが、幸いなことになぜか火の手が上がると同時に呪いも消えてしまっていた。

私がほっとしているうちに、先程まで箒から落ちそうになっていたポッターが、あれよあれよといううちにスニッチを見つけ急降下を開始した。そのまま彼はなぜかスニッチを飲み込み、試合終了となった。飲み込んだとはいえ、スニッチを掴んだということに変わりはないと判断されたのだろう。結局スリザリンはポッターに逆転されるという結果になってしまった。

 

試合に負けてしまったのだ。私としては勝敗などどちらでもよかったのだが、お兄様はさぞ落ち込んでしまっていることだろう。私はすぐにお兄様のもとに行こうと思い立ち上がったが、今回スネイプ教授には大変お世話になったのだ。一言お礼を言ってから向かおうと思い直し、教授のもとに歩いていく。

しかし、

 

「スネイプ教授。今回は、」

 

「ミス・マルフォイ。吾輩についてきたまえ」

 

私の言葉を不機嫌そうに遮り、教授はさっさと歩きだしてしまう。一体どうしたのだろうかと訝しむが、私は無視するわけにもいかず、教授の後を追って歩き出す。

競技場の入り口を過ぎてもなお教授の足は止まらない。ホグワーツ城玄関を過ぎ地下に降りる、そして教授の事務室の前まで来て、ようやく教授の足は止まった。

 

「入りなさい」

 

ここまで連れてきたのは、おそらくこれからする話を誰にも聞かれたくなかったのだろう。

促されるまま中に入ると、そこはシンプルというより生活感が無いといった方がしっくりくる部屋だった。黒皮のソファとテーブル。それらの向こう側にもこれまたデスク。壁際には背の高い本棚がずらりと並んでおり、中には様々な分野の本が詰まっていた。

 

「そこに座りなさい」

 

示されたソファーに座ると、教授はさっと杖を振るいテーブルに紅茶を出して下さる。

 

「それを飲みなさい」

 

そう言って先生自身も私の対面に座るのだが、紅茶を飲む私を見るばかりで一向に話しだそうとされない。

そろそろ一向に見つからない私にお兄様も心配されている頃だろう。私から話しかけようかと思っていると、教授はようやく重い口を開いた。

 

「先程解呪に加担したのは……ミス・マルフォイ、君だな?」

 

ハロウィーンの時と違い、今回は解呪の呪文だ。別に隠す理由もない。

 

「はい。そうです」

 

即答した私に教授は一瞬目を見開き、ふぅとため息をつかれると再び口を開く。

 

「何故、我輩を手伝ったのかね?」

 

「今回教授には大変お世話になりましたので。それに教授はお父様の御友人ですから」

 

「……別に君の父親と親しいというわけではない」

 

そう否定される教授の姿は、どこかお父様に似ている気がした。お父様もどこか素直ではないところがあるのだ。

 

「それよりミス・マルフォイ。君はもう少し考えて行動するべきではないかね? もし今回の行動で、呪いをかけていたものに君が私に加担していたと露見すれば……君が狙われるのではないかね?」

 

私は教授の話を聞いて、自分が軽率な行動をとってしまったことを悟った。確かに、今回もし犯人に知られたとしたら、きっと私のことを探ろうとするかもしれない。そうなれば私の体のことが図らずも露見してしまう可能性がある。そうなればお父様達に迷惑をかけてしまう。とっさに行動してしまったが、それが大変軽率なことだったと今気づいた。

 

「……申し訳ありません。その可能性を失念しておりました」

 

「以後気をつけたまえ。まあ、今回は大丈夫であろうが。呪いをかけるには、解呪と同じく対象を見つめ続ける必要がある。君のことを確認することはできなかっただろう」

 

「はい。……教授は今回の犯人に心当たりはおありなのですか?」

 

可能性は低いとはいえ、万が一ということもある。もしもの時のために一応教授に尋ねるも、教授の応えはにべもないものだった。

 

「……いや、ない」

 

「そうですか」

 

別に念のためで聞いた質問だ。おそらく教授は知っているのだろうが、これ以上私に首を突っ込ませる気はないのだろう。私も別にそこまで興味があるわけではない。今回のことで私のことが露見する可能性は限りなく低いのだ。これ以上突っ込んで藪蛇になる可能性も考慮すると、ここは引き下がった方が賢明だろう。

 

紅茶も調度飲み終えたタイミングで、話はこれで終わりだと教授は手を振り退出を促す。私は紅茶のお礼をし、事務室を出ようとする直前、

 

「今後は気をつけなさい。だが、先程の呪文は見事だった。あれ程のことが出来る生徒はまず上級生にもいないだろう。スリザリンに10点与える」

 

「ありがとうございます」

 

そう言って今度こそ部屋から出る。私が見つからずお兄様も心配している頃だろう。私は急いで寮に向かって歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハリー視点

 

試合が終わった後、僕とロンとハーマイオニー、三人はグリフィンドールで行われている騒ぎに参加せず、今ハグリッドの小屋で濃い紅茶を入れてもらっていた。

ひとしきり4人で勝利を喜んでいたのだが、ふと気になっていたことを皆に尋ねた。

 

「そういえば、あの時箒が暴れだしたのはどうしてなんだろう?」

 

先程の試合、箒が突然いうことを聞かなくなり、僕を振り落とそうと暴れだしたのだ。

今までこんなことは一度もなかった。

僕の疑問に重要なことを忘れていたという顔をしたハーマイオニーが話し始める前に、

 

「スネイプとダリア・マルフォイだったんだよ!」

 

そうロンが叫んだ。

何か言おうとしていたハーマイオニーは驚いたようにロンに叫び返す。

 

「何を言っているのロン! マルフォイさんがそんなことするわけないでしょ!」

 

「ハーマイオニー、僕は見たんだ! スネイプがハリーの箒にブツブツ呪いをかけているのを君も見ただろう! それで君がスネイプに何かしに行ったあと、僕はスネイプの方を見ていたんだ! それでふと気になって教員席の端をみたら、マルフォイ妹もスネイプと同じように呪いをかけていたんだ!」

 

「そんなのあなたの見間違いよ! 私はスネイプにしか火をつけていないわ! それで呪いは止まったのよ! それに彼女には呪いをかける理由がないわ!」

 

「おいおいハーマイオニー! あいつはスリザリンだぜ! 呪いをかける理由なんていくらでもあるさ! さっきグリフィンドールと試合をしていた寮がどこかお忘れかい?」

 

そう口論を始めた二人に、先程から黙っていたハグリッドが話しかける。

 

「ダリア・マルフォイはともかく、スネイプがなんでそんなことする必要があるんだ?」

 

「ちょっとハグリッド!」

 

ダリア・マルフォイのことを庇わなかったことで噛みつくハーマイオニーを軽くいなしながら、ハグリッドは続ける

 

「スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことするわけなかろう」

 

そう疑問を投げかけるハグリッドに、僕らは顔を見合わせ、彼になんて話すか悩む。でも、僕は彼には本当のことを言うことを決心した。

 

「僕、スネイプについて知っていることがあるんだ。あいつ、ハロウィーンの日、三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだ。何か知らないけど、あの犬が守ろうとしているものを盗もうとしているんだ」

 

まだハーマイオニーと仲良くなっていなかった頃、マルフォイの罠にはまり夜先生に見つかりそうになってしまい、慌てて4階の廊下に迷い込んでしまったことがあった。そこにいた三頭犬に危うく殺されかけたけど、その場にいたハーマイオニーは、三頭犬の足元にあった扉に気付いていたのだ。そしてハロウィーンの後、スネイプが足を怪我をして、しかもそれが三頭犬に噛まれたものだと話しているのを聞いたのだ。

 

「なんでフラッフィーのことを知っているんだ?」

 

ひどく驚いた様子のハグリッドに尋ねる。

 

「フラッフィー?」

 

「あいつの名前だ。去年パブで買ったんだ。それをダンブルドアに貸したんだ。守るために……」

 

「何を?」

 

「これ以上は重要秘密なんだ。きかんでくれ」

 

「でも、スネイプが盗もうとしているんだよ。それに、僕に呪いをかけようとしていたなら、ダリア・マルフォイも……」

 

「ちょっとハリー!」

 

再び噛みつこうとしたハーマイオニーを無視して、ハグリッドは話す。

 

「何度も言うが、スネイプがそんなことするわけねえ」

 

「でもハグリッド。私はスネイプが呪いをかけているのをみたのよ! たくさん本を読んだから知ってるわ! あれは間違いなく呪いをかけていたわ!」

 

「ダリア・マルフォイもね」

 

「ロンは黙ってて!」

 

再び口論を始めそうな二人にハグリッドも叫ぶ。

 

「お前さんは間違っとる! 断言してもいい! スネイプはやっとらん! ダリア・マルフォイについては何とも言えんが……」

 

「ちょっと!」

 

「いいか、ハーマイオニー。なんでお前さんがそんなに彼女を庇うか知らんが、スネイプがやっとらん以上、彼女がやった可能性が高いと俺は思うちょる。あの子の家はマルフォイ家だ。純血主義筆頭のな! 根っこからくさっちょる連中だ。それにダンブルドアもあの子を警戒している様子だった」

 

「ダンブルドアが?」

 

僕は思わず尋ねる。

 

「ああ。昔いた闇の魔法使いににちょるんだ。俺もあの子を見ているとなぜか思い出す。昔見ていたあいつを……」

 

『あいつ』というのが誰のことなのかは分からないけど、どうやらダンブルドアが彼女のことを警戒しているのは間違いなさそうだ。

そこまで言ったハグリッドは、今度はハーマイオニーだけじゃなく、僕ら全員の顔を見ながら話す。

 

「いいか。俺はなんでハリーの箒があんな動きをしたのか分からん。正直ダリア・マルフォイがやったという証拠もねえ。だが、これだけは言える! お前さん方は関係のない危険なことに首を突っ込んどる! あの犬も、犬の守っているものも忘れるんだ! あれはニコラス・フラメルの、」

 

「ニコラス・フラメル?」

 

そう聞き返す僕に、ハグリッドは口が滑ったことをさとり、猛烈に自分自身に怒り出した。

 

「もう帰るんだ! これ以上おれがしゃべることはねえ!」

 

そう僕らを追い出すと、小屋の扉を固く閉じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリア視点

 

寮に戻ってみると、試合に負けたということもあり、談話室の中はまるで葬式のような雰囲気を醸し出している。そんな中、お兄様、そしてダフネが心配そうな顔をしてソファーに座っていたが、私の顔を見ると安心したように近づいてくる。

 

「ずいぶん遅かったな」

 

「ええ、試合の後、スネイプ先生にお茶に誘われまして」

 

「なんだ、そうだったのか」

 

「ねえ、ダリア! 教員席の臭いは大丈夫だった!?」

 

そう心配そうに尋ねてくるダフネに、私は少しだけ無表情を崩しながら応えた。

 

「ええ、屋外ということもあったので、比較的ましでした。席も離れていましたしね」

 

「そう、よかった」

 

その後、私たちは夜遅くまで談話室で話し込んだ。

負けたとはいえ、やはり初めての寮対抗試合ということもあり、皆興奮して寝れなかったのだろう。同じ一年生達と今日の試合について話すお兄様の横で、私も時々相槌を打つ。皆興奮したように今日の試合の反省点といった真面目な話から、いかに相手を潰すかといった不真面目な話まで、色々な話を興奮したように話していた。

私は別にそこまで試合に熱中していなかったのだが、お兄様が皆と楽しそうに話す姿を見るのが楽しくて、皆が疲れてベットに行くまでそこにいた。

純血貴族が多いスリザリン。いつもはよく言えば誇り高い、悪く言えばお高く留まった子が多い。だがそこにはそんなことを感じさせない、年相応の、純真無垢な少年少女の姿が確かにあった。

 

「今日は楽しかったね!」

 

「ええ。皆であんな風に夜遅くまでお話しするのは初めてなので、とても新鮮でした」

 

「そっかそっか」

 

お兄様も疲れたのかベットに戻って行かれたタイミングで、私たちも寝室に戻ってきていた。

 

「じゃあ、ダリア、おやすみ」

 

「ええ、おやすみなさい、ダフネ」

 

そう挨拶をし、ダフネも疲れていたのかベットにすぐに潜っていく。

 

私も今日はいろいろあったため、もう寝ようとベットを見るのだが……ふと、枕の横に手紙が置いてあることに気が付いた。

 

一体誰からの手紙だろうと思い、裏を見るとそこには、

 

『差出人 アルバス・ダンブルドア』

 

と書いてあった。

訝しみながら手紙を開く。校長が私に一体何の用だろうか? しかもこんな方法で知らせるなど……。

 

手紙には

 

『クリスマス休暇で帰省する前日の夜。聞きたいことがあるので、わしの部屋を訪ねてほしい。追伸 最近わしはカエルチョコレートが好きじゃ』

 

そう、書かれていた。

 


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